読切小説
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忌壺『貪りの九十九』
【我が親はかの王の愚策で戦死した。
その亡骸を粘土に込めて、無念を込める。

我が妹はかの王に嬲られ自死した。
その亡骸を薪と燃やし、怒りを込める。

我が妻子はかの王の戯れで圧死した。
その亡骸を塗料として、絶望を込める。

我が怨念はかの王を呪殺した。
国は滅び何もかもが消え去ったが、壺だけは残り続ける】




「いらっしゃいませ……ようこそ"ぬけがら屋"へ。どうぞごゆっくり御覧くださいませ。
 オヤ……何か苛立っているご様子……それではこちらへどうぞ……
 身近な日用品から禁じられた遺物まで数多く取り揃えておりますゆえ、お気に召されるものがございましたらいつでもご相談ください。
 そうですね……その苛立ちを解消させる素敵な道具に心当たりがあります。この壺が『貪りの九十九』と呼ばれる古代霧の大陸の出土品の一つです。古代のまじない師が作り出した壺にてございまして……エエ、ハイ……
 歴史的価値はさほどありませんが、この壺には強いまじないがかけられておりまして……中に蟲を入れて念じるだけで相手を呪うことができます。より詳しい情報は説明書を貼付しておりますので……目を通しておいてください。……ですので当店では一切の対応は受け付けておりませんので、そこのところはご了承いただきます。
 どうぞお持ち帰りくださいませ……どのように使用するかは貴女次第です。
 それでは吉報をお待ちしております……」





―――――





 ああ腹が立つ。
 先日クラスに転校してきたアイツ。九条、とか言ったっけ。とにかく腹が立つ。
 今まで私が成績一位で優雅に暮らしてきたというのに進学校からの転校生だとかなんとかで、私の順位を脅かしている。
 今日の小テストだって私と同じ満点出しやがって。だのに得意げな顔一つせず、取れて当たり前、それどころか他のクラスメイトに教え始めてさ。さぞ優越感に浸っていたでしょうね。あの清潔感ある顔の裏側ではどんなことを考えているのやら。ああ、想像するだけで虫唾が走る。
 おまけに運動まで完璧ときたものだ。体育の授業中、クラス女子の視線がアイツに釘付けになっていて心底気味が悪かった。なによ、あんたらちょっと前までイケメンアイドルの話題でキャーキャー言ってたばかりじゃないのよ。それが少し顔が良くて運動も勉強もできる転校生が来たからって……ホント呆れるわ。単純すぎて同じ学生として恥よ、恥。
 放課後も放課後よ。色んな部活から引っ張りだこに勧誘されて嫌な顔一つせず見学しに行ってさ。どーせ元いた学校に比べて低レベルだな……とか思っているに違いない。

 ここ数か月、私の苛立ちは常に過去最高を更新し続けている。それもこれも全て九条のせいだ。
 トップを歩き続けていた私の栄光ある成績がヤツの出現によって揺らぎ、先生からの期待、周囲の目がそちらに引きつけられているのがとにかく気に入らない。その場はもともと私がいた場所なのに。私だけがぬくぬくと居座り席を温め続けていた場所なのに、突然やってきたお前に奪われかけている意味がわからない。
 しかも、しかもだ。あまつさえ忌み嫌っているというのに神の悪戯か悪魔の意図か、ヤツの席は私の隣なのだ。おお、なんと許し難い。いったい私が何をしたというのだろうか。
 二人で作業をする授業になれば必然的にヤツとペアを組まなければならなくなり、それは私が思うつく上で最大限の唾棄すべき行為だろう。
 いかに完璧な私と言えど、人間誰しも忘れ物はする。以前私が教科書を家に忘れ、それに気づかないまま鞄の中を探していると徐にヤツは自らの教科書を見せびらかせながら机を寄せてきたことがあった。実に愉悦だっただろうさ。教科書を探す私を内心あざ笑いながら施しのように教科書を見せびらかしてきたのだからヤツの下卑た精神がよくわかったよ。





 あまりに苛立ちすぎていたのでついついいつもの帰宅ルートを逸れてしまった私は、見覚えのある道を探そうとフラフラ歩いていた。
 ……おかしい。
 毎日無意識にでも通っている通学路なのにどうしてこうも見覚えのない道ばかり続くのだろう。町並みは何もおかしくないのに何か決定的なところでいつもとは違う通りを歩いているような、そんな錯覚に陥った。
 だからなのだろうか。普段なら入る気にもならない骨董屋にまるで吸い寄せられるように入店してしまったのは。骨董屋なんてただのマニアしか出入りのしないジジくさい店という偏見をもっていた私なのだけれど、私自身入店してしまったので考えを改めなければならない。
 それから先のことはなぜかあまり覚えていない。おぼろげな記憶をたどると、私よりもやや小さめな女の子が店番をしていて、他愛のない話をして、気がつくといつもの見覚えのある通学路に戻っていて、帰巣本能のように実家へと帰っていたのだから。
 唯一違う点といえば、私の両手には大きな壺が抱きかかえられていた。

 夕食を終え、自室へと戻る私は依然続く苛立ちと妙な高揚感に支配されていた。
 苛立ちはもちろんヤツへの苛立ち。じゃあ高揚感は何なのか、そう自分に自問したところで、答えは眼前にある”コレ”への興味だったのだろうと気がついた。
 部屋のど真ん中にでかでかと鎮座している”コレ”は想像以上に大きく、狭い私の部屋の大半を占領していた。黄色く変色した古紙が蓋に添えられている。崩れないようゆっくりと手に取り折り目を開くと今にも消えそうなほど風化した文字でこう書かれてあった。



忌壺【貪りの九十九】
 -取扱説明書-
  甲:当品ハ、他者ヲ巫蠱ニヨツテ呪ヒ祟ル呪物デアル事ヲ確認サレタシ
  乙:呪フ対象ヲ念ジ、壺ノ中ニ毒蟲ヲ投入セシ
  丙:蠍、蜘蛛、蜈蚣、蛇、蛙、蜂、蜥蜴、蛾、蝨、蚰蜒等ガ良好
  丁:投入毒蟲数ニヨリ呪詛悍マシク 畏ルルナカレ 
  戊:中断ハ禁忌
  己:九十九ノ毒蟲ヲ投入セシ壺、浄化スベシ
  庚:百ノ毒蟲ヲ投入シタナラバ……(これ以上は損傷が激しく読むことができない)



 ???????
 なにこれ?むさぼり……つくも……って読むのだろうか。
 古臭い仮名遣い、おどろおどろしい書体で文章が綴られている。書いてある内容を要約すると、コレは誰かを呪うことができる道具ということでいいのだろうか?
 ふぅん……へェー……そうなんだ、誰でもね……
 少しだけ、ほんのちょっとだけ興味が沸いたけどそれはそれで置いといて。よく読むとその方法がすさまじくエグかった。なによコレ、虫とか爬虫類とか壺に入れるって……うわうわうわ気持ち悪い無理無理。ただでさえ時たま家に出るGとか見ただけで卒倒モノなのにクモとかサソリとか……うぇ、きもちわるっ。

 どうしてこんなものを持ってきてしまったのか全然わかんないけど、はっきり言って邪魔でしかない。あまりにも苛立っていたから正気じゃなかったのかな。今度返品してこよう。







 あーーーーーーーーーームカつく。ムカつくムカつく、ほんっっっとうにありえない。
 隣のクラスの斎藤とかいうテニス部の女子。昼休み、少し席をはずしていたらいつの間にか私の椅子に座って九条のヤツとなんだか楽しそうに話をしていた。私の席に勝手に座るなよそこは私の席だ無断で許可なく座るな。腹が立つ。イライラする、よりにもよってあの九条と話をするためだけにわざわざ私の椅子を使用するその精神が本当にあり得ない、意味不明。永遠に分かり合えない。
 昨日放送してたバラエティ番組の内容を楽しそうに喋っていた。くだらなさすぎて反吐が出る。あんなのただネットから引っ張ってきたおもしろ動画を編集してワイプで芸人の顔を映しているだけの虚無でしかないでしょ。時間の無駄、電気代の無駄、だから斎藤と九条が楽しそうに話しているのも無駄。そんな無駄な時間を費やすために私の椅子が使われていると思うだけで怒りがこみあげてくる。

 ………………そうだ。

 例の壺を試しちゃおう。
 この怒りを強い呪いに変えて斎藤にぶつけてやろう。ザマアミロ、私の椅子を勝手に使って九条と楽しそうに話していたから罰が当たったんだ。恨むなら自分がした所業を恨むといいさ。そう、コレは私の怒りであり、私の椅子の憤慨でもあるのだから正当な報復だ。
 となれば早速中に入れるものを用意しなきゃ。ネットで調べてみたところどうやらこれは【蠱毒】というものらしく、中に毒蟲を入れ呪詛の力を貯め、その呪いを対象にぶつけるらしい。まぁ要するに虫をたくさん入れて、相手を念じればいいとのこと。
 私はそもそも虫は嫌いだ。見るのすら嫌だし、触るのなんてもってのほか。だけどそれ以上に苛立って心の平穏が乱されるのはもっと嫌だ。そう思うと虫を捕獲するのが案外気楽になっている自分がいた。
 庭の石をどかしてワラジムシとミミズ、その辺を飛んでいたトンボ、チョウチョ、ミツバチ、スズメバチ、クマバチ、家の中にいたGをとりあえず投入してみる。合計20匹くらい入れただろうか、我ながら頑張ったものだ。すかさず蓋をして憎き斎藤を思い浮かべてみる。
 壺の内部ではスズメバチの羽音らしき音がブブブと鳴り響いている。夏場はこの羽音を聞くだけで身構えてしまうほど特徴的な音で、刺された経験はないけれどどうしても恐ろしさが先行してしまう。実際に刺された経験のある人ならばさぞ凶悪な音に聞こえることだろう。
 とりあえずこのまま一晩置いてみようか。まぁこんなのただのおまじない。気休め程度だし?オカルト的なものなんて信じてないけど、こうやって「呪ってみた!」という行為をしただけでも少しは気持ちが和らいだ気がする。

 朝になって壺が静かになっていたので恐る恐る中を覗いてみると、昨日投げ入れた虫が全ていなくなっていた。完全に密封してたから逃げるはずがない。ぞっと冷や汗を流し、部屋の中を見回してみる。もちろん虫の姿なんて跡形もない。
 いいや、アレコレ考えてもどうしようもないのでとりあえず一旦忘れようそうしよう。問題なのは呪いがちゃんと成功していたかってコト。学校に向かう足取りはいつもより軽快だ。
 学校に到着し、さりげなく隣の教室をチラ見してみると、斎藤の姿がなかった。どうやら体調不良で欠席しているらしい。
 ……これはまさか本当に?い、いやいやもう少し様子を見る必要がある。生理が重くて休んでいるだけかもしれないしただの風邪かもしれない。まだ、まだだ。確信してはいけない。

 次の日も、明後日も、その次の日も欠席していた。
 結論から言うと呪いは成功していた。風の噂によるとどうやら斎藤は鬱病をだったらしい。特にいじめられていたというわけではなく、悩みがあった素振りもない。突発的な鬱病だとか。復帰できる目途は立ってないんだとか。
 そんな唐突な鬱病なんてある?都合が良すぎ。そう思うとやはり原因は私にあるのではないかという結論に至ったワケだ。
 だけど……そうだな。もう一人、もう一人くらい実験してみないとやはり確証が得られない。本当に偶然と偶然が重なって私の呪いが成功したかのように見せかけているだけかもしれないしぬか喜びしちゃだめだ。これは私が有意義に学生生活を過ごすためには仕方のないこと。そう、これは正しいことなの。
 次の標的はもう決めてある。国語教師の澤田だ。
私の小論文よりも九条の小論文を評価しやがって、許してはおけない。数学のように答えが一つと決まってない教科なだけに評価のされようも先生のさじ加減で決まってしまうのはいかがなものかと前々から思っていたんだ。端的に言えば気に食わない。
 独身の女教師風情が……ちょっとさわやか系イケメンの男子がいるからって調子こいてんじゃねえぞ。授業中はクソ真面目なのに九条のヤツと会話するときだけメスの顔になってんの、超ウケる。生き遅れてんだよアラフォーババアが。

 あ〜そうそうこれこれ、苛立ってきた。胃がムカムカしてきて爪齧っちゃう。無差別に物殴りたくなってきた。この鬱憤を全部壺の中にブチ込んじまえ。
 今回はもう一つの実験として、本格的な毒蟲を中に入れようと思う。もしかすると毒の強さによって呪いも強力になるかもしれないからだ。
 山で捕まえたマムシ、ヤマカガシ、近所にたまたまいたチャドクガ、カバキコマチグモ、オオスズメバチ、イラガ、虫じゃないけどオマケにトリカブト。
 ふふふ、やっぱり蛇は強いね。クモとハチはあっという間に食べられちゃった。あぁ、けどのたうち回ってる、やっぱり毒が苦しいのかな。トリカブトはなんというかアクセントで入れてみたけど不要だったかな。まぁいいや。
 結構捕まえるの苦労したんだからそれなりの成果を出してくれないと困るよ?

 翌朝。
 やっぱり壺の中は空になっていた。けど、よくよく目を凝らして中を探ってみると底に少しだけ液体のようなものが溜まっているのが確認できた。コップ一杯程のごく微量で紫色の……なんだろうこれ?流石に素手で触るのは怖いのでスプーンで触れてみると僅かにとろみがあるのがわかる。それ以上はさっぱりだ。
 いや、重要な点はそこではない。呪いだ。私の願いは成就されたのだろうか。
 登校して早速職員室を覗いてみると、なにやら先生たちが騒々しいような気がする。その中に澤田の姿はない。内心ガッツポーズだ。しかしそれを表情に出してはいけない……いけないのだけどつい笑みがこぼれてしまいそうになる。口元を硬くこわばらせ何があったのか他の先生に聞いてみると、どうやら澤田は人身事故で入院したらしい。全治三か月の大けがだとか。

 ……ぷっ、ふふふふふふっっ、あー最ッ高!なんて清々しいのかしら。これであの忌々しい澤田の顔を見なくて済む。まさかこんなに気持ちいいとは思いもよらなかったよ。ふぅ、ふぅ、少し熱い、興奮しすぎちゃった。なんだろう、他者を陥れることがここまで快感に浸れるだなんて、もしかして開いちゃいけないトビラ開いちゃった感がある。下腹部がじわりと熱くなっちゃう。
 だけどこれで確信した。あの壺は毒蟲を入れれば入れるほど強い力で相手を呪うことができるんだ。気に食わないやつらを私が処罰できる。私が私の思うがままに呪い葬ることができる。歯向かう者は皆呪われてしまえばいいのだ。
 ああ、キモチイイ。実に愉快。



 ◆



 先日とんでもない光景を目の当たりにしてしまった。
 放課後、掃除のゴミを捨てに学校の裏にある廃棄場に向かっているときのことだ。
 九条と1コ下の学年の女子が学校裏にある倉庫のさらに裏で、二人向き合って何かを話し合っていた。あの九条が……何をしている?
 物陰に隠れながら様子を伺ってるとビックリ、女子が何やら手紙のようなものを九条に渡しててさ。視た瞬間私は察した、あれはラブレターだ。今の時代、あんな古典的な方法で愛の告白をするなんて夢見がちな女子だこと。
 それを受け取った九条はラブレターの中身を読んで……くくくっ、顔真っ赤にしてさ。慌てふためいているのが遠目でもわかった。
 それからしばらくして、九条が申し訳なさそうな表情で女子に謝っていた。恐らく告白は失敗したのだろう。あーあ、かわいそうに。涙目になって走って行っちゃった。
 一人ぽつんのと残された九条の無様さといったらもう思い出すだけでも笑えてくる。はは、最高だったよ。

 ……でも。それはそれとして。私は私で納得がいかない。九条のヤツを苦悩させていいのは私だけの特権のはず。一番である私がどうしてただ物陰から見ているだけしかできないのか、それが不思議で仕方なかった。
 1コ下の女子ごときが不遜でしょ。アンタが九条に告白していい権利なんてない。私を差し置いて随分と好き勝手してくれたじゃないか。ああ、腹が立つ。
 そう、私はこういう女だからね。獲物を横取りされたような気がしてとにかくアンタみたいなやつが気に食わないんだ。ごめんね。
 思いっきり祟ってやるから二度と九条には近づくなよクソが。



 ◆



 ここ最近クラスの、というか学校全体の雰囲気が変わってきた気がする。ワルぶっていた一部の男子は突然イキるのをやめ、ウザったい女子の一部は学校に来なくなった。そしてそれを恐れてか以前のように過激な行動をとろうとする者はいなくなった。初めの頃はまだ少数いたが、それも日にちが進むにつれ徐々に減り今ではほぼ見かけなくなったといってもいい。
 もちろんその原因は私にある。そしてそれに気がついている人は誰一人としていない。私は私なりの苛立ちと秩序をもって気に食わないやつを処分していったのだ。
 真面目に授業を聞かないヤツらはことごとく祟って。
 私の意見と食い違うものはより強く呪詛をかけて。
 カツアゲしてる不良数人を退学に追わせて。
 援助交際してる女子を無理やり妊娠させて。
 嫌な先生を退職させて。
 呪われたヤツらがその後どうしたかなんてそんなのいちいち知る由もない。知る必要もない。私の邪魔をするからいけないのだ。

 けれどひとつだけイレギュラーがあった。九条だ。
 九条のヤツだけは、何度呪っても全く呪いの成果が表れてこないのだ。もうかれこれ5回は呪っているはずなんだけど不気味なほどピンピンしている。どうしてヤツだけが平気なのか私にはわからない。わからないからまた今日も呪おう。気に食わない、すんなりいつも通り呪われない九条が気に入らない。
 どうして、どうしてどうしてどうしてどうして。
 この憤りを、怒りを、苛立ちを、妬ましさを、歯痒さをのせてもっともっと強く呪いを込めよう。

 授業が終わり一目散に帰宅した私は早速準備しておいたケージを開ける。
 多種多様の毒蟲が私を出迎え、今にも私を食い殺さんとする勢いで暴れまわっている。その殺意は壺の中で呪詛へと昇華させ素敵な呪いへ進化してもらうか。私はまるで中世の錬金術師にでもなった気分でひょいひょいと毒蟲たちを壺へと放り込んでゆくのであった。
 セアカゴケグモ、ヒョウモンダコ、ハブ、アンボイナ貝、ヒキガエル……多種多様の毒蟲たちを慣れた手つきで入れていく。投入の際噛まれることがあるが、今の私にはなぜかむしろ心地いいぐらいの甘噛みにしか感じられなかった。問答無用で投入投入!
 これから中で壮絶な殺し合いが始まると思うと若干の哀れみを感じ得ないがこれも全て私のためだ、存分に殺し合ってほしい。より良質な呪いのためならば多少毒を貰ったぐらいでへこたれちゃいけないのさ。ハブに噛まれたけど逆にかみつき返してやったら大人しくなったのでそのまま壺へ放り投げたよ、まったく暴れん坊なやつめ。

 翌朝、壺の中身を見てみるとやはり毒蟲はどこにもいなくなっている。けれど残された謎のスープは前よりも格段に量を増し、今やバケツ一杯になるほど蓄積されていた。そのニオイがまた凄くて、鼻の奥に蜂蜜を塗りたくったような甘ったるさがあった。もしこれを飲んでしまったならどうなってしまうのか、恐ろしくもあり少しだけ気にもなったがやっぱり得体が知れなさすぎるので忘れることにする。



 ◆



 九条への呪いが一向に成功しない。
 何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も呪ってやったのに一度たりとて成功したためしがない。どうして。なぜ。許せない。許してなるものか。
 毒蟲を仕入れるため日に日に私の財布は寂しくなってゆく。だけど何の成果も見いだせないのが悔しくて、虚しくて、忌々しい。ああ、全てはアイツのせいだというのに。素直に呪われて私に支配されていればいいものを。
 なぜ呪われない?なぜうまくいかない??ああああああああああああああもうダメだ、イライラで我を忘れそうになる。私が私じゃなくなりそうになる。なぜ、なぜなぜなぜなぜどうして!!!!!!!!!!!
 腕を掻きむしり血が流れてもなお私は自傷をやめることができなかった。今できる唯一の苛立ち解消法だ。このままでは本当に頭がおかしくなってしまう。

 おい。やめろ。やめろって言ってるだろ……は?ふざ……ふざけんな。そんな目で私を見るな。
 絆創膏…………?ははあ、なるほどそういうことか。お前はそういう男なんだな。私を憐れんでいるんだろう。惨めで愚かで薄汚い女だと思っているんでしょ、その目で私を見るなよ……見るなッッ!!!!!!!!
 絆創膏なんていらない、お前の施しなんてもっといらない。私はね、九条アンタが大っ嫌いなんだよ視るだけで吐き気がする喋るな耳が腐る同じ空気を吸いたくない。ああそう、じゃ私がいなくなればいいんでしょほらさようならバイバイくたばれ。

 ははは、言ってやった。大嫌いだと言った九条の顔といったらもうこの世の終わりみたいな顔しちゃって最高だった。はは、ははは…………
 でもどうしてスッキリしないんだろう。どうしてアイツはあんな顔をしていたんだろう。私がこれほどまで嫌っているならアイツだって私のことを嫌っているのは当然だ。嫌いな相手から大嫌いだと言われても特に心には響かないはずだ。なのに、どうして。
 ムカムカが爛れてまた下腹部が熱くなる。ジュクジュクに熟れて溶けたトマトのように濡れて滴っているのがわかった。
 邪魔で、大嫌いで、忌々しいのに。それとは別に大嫌いだからこそ気にしてしまう部分もあった。
 ダメだ。やっぱり呪わないと。呪いこそが正義。蠱毒こそが私。



 ◆



 おかしいどうしてなんで成功しない呪え呪えよ呪いたいだろ呪ってくれ呪えばいい呪って呪って呪いまくれどうして成功しないの成功して性行したいよキモチワルいんだよおかしい苦しいタスケテ呪おうよ呪うよおかしい頭が痛い。
 もう何度目の呪いだろうか。
 資金は尽きた。毒蟲を仕入れられない。
 だから私は盗んできた。隣町の動物園から爬虫類やら昆虫やら魚やら、いろいろ。もう後には戻れない。だって成功しないんだものしょうがないでしょ。全部アイツが悪いんだ私は何も悪くないアイツのせいだアイツのアイツが。
 憎くて恨めしいのに九条のヤツを思い浮かべるだけで動悸が苦しくなる。これほどまでに忌み嫌っているのにどうして呪われてくれないのか。どうして私の方が苦しくならなきゃならないの。ワカラナイ。

 ヤドクガエルを1匹壺に放り投げる。もう一匹を飴玉のように舐めながら飲み込んだ。おいしい。
 ナイリクタイパン。とっても毒が強いヘビらしいけど、全然効かない。この雑魚。
 シドニージョウゴグモ。オブトサソリ。唐揚げにして食べてみたけどあんまりって感じ。残りも投入。
 ハマダラカ。毒というよりマラリア持ち。数匹逃げちゃったけどまぁいいや。投入。
 カツオノエボシ。海岸に打ち上げられていたのでついでに。
 ギンピギンピ。肌に擦り付けてみたけどこそばゆいだけだった。投入。
 そしてとっておきがコレ。
 ペルビアンジャイアントオオムカデ。
 見てこの30cmはあろう大きさ。とにかくでかい。そして顎がめちゃくちゃ鋭い!素敵。ちょっと噛まれてみたけど普通に痛かった。近所の昆虫ショップから盗んできたんだよね。力強く黒光りする体躯にうっとりしちゃう。
 これでもかという毒蟲オールスターをかき集め、壺の中に入れてった。そうしたらしっかりと蓋を閉め強く、強く念じる。
 九条が気に食わない。
 私の思い通りにならない。
 私は常に一番じゃなければならない。
 九条は二番手でいい。
 永遠に私より優れてはならない。
 一番の私と二番の九条をかけ合わせればより良いものが産まれる。
 優秀な子孫が継がれる。
 洗練された血統が出来上がる。
 子種を貰わなければならない。
 どうやって貰っていいかワカラナイ。
 だからイライラする。
 本当に腹が立つ。
 誰にでも優しくて平等で色目つかわなくて。
 一番の私を見ろ。
 二番のお前は常に一番を見上げていなければならない。
 他の女を見てはならない。
 私はお前を独占したい。
 孤独の私を一人にするな。
 蠱毒の私を見つめてくれ。
 だから私は願う。
 呪う。
 呪う。
 呪う。

 ――
 ――
 ――
 ――
 ――

 この世に神がいるならば私は胸倉をつかんで叫びたい。
 奇跡というものを作り出した責任をとってくれ、と。
 
 失敗した。
 
 あれほど強力な毒蟲をつぎ込んだのに呪いはまたしても成功しなかった。もう打つ手がない。どうしてだ……なぜ九条にだけは呪いが効かないというのか。パサパサになった髪の毛を掻きむしる。鏡を見ると私の顔は青く痩せこけ今にも倒れてしまいかねないほど不気味な顔つきへと変貌していた。
 
 机の上で突っ伏しながら苦悩する私。そんな私を神妙な顔つきで見つめ返してくる者がいた。九条だ。
 ヤツは私を見るや、私の腕をつかみ廊下へと引きずり出す。やめろ、その薄汚い手で私に触れるな…………やめて。熱湯を腕にかけ流しているみたいに熱くなる。また下腹部が火照ってくる。
 ヤツはポケットから一枚の紙きれを出して私の眼前へと突き出した。なんだ、これ……
 ボロボロに朽ちた和紙によくわからない模様と文字が描かれている。お札みたいだ。
 ………………は?????い、いやそんなこと……知らない、し……
 実家が神社?呪い避けが毎晩発動してる……???
 は、はははは……へーえ、そうナンダァ…………はは……
 心当たり?い、いやないよ、うん……本当に。ちょ、ちょっと手ぇ離してよ。

 失敗した。

 まさか九条の実家が由緒正しい退魔の家系だったなんて。そういう耐性があるだなんて思ってもみなかった。というかそんなの予想できるわけないし。
 一族総出で代々追い続けてきた【魔】がこの街に現れる予言があって、九条はそのために転校してきたとか……なにそれ。どっかの漫画みたいな展開じゃん。ギャグだとしたら実に下等なギャグ。
 最初から無駄だった。それどころか九条の呪い避けが私に還ってきているみたいだ。九条本人は私が呪いをかけているということまでは気がつかなかったみたいだけどそれも時間の問題だろう。何しろ私の身体がもう限界なのだから。
 服を捲るとわき腹から脚にかけて黒いミミズ腫れのような跡が這っている。首筋にできているものは化粧パウダーでどうにかごまかしている程度だ。常に頭が張り裂けそうな頭痛が襲っている。
 ああ、忌々しい九条。これが憎悪なのか支配欲なのかそれ以外の感情なのかすらおぼろげになってきた。
 私は……一番なんだ。一番であり続ければ……きっと私を置いて出て行ったパパもママも返ってくるはずなんだ……絶対に譲れない。一番の私の呪いが二番目の九条の呪い避けを貫けないはずがない。そうだ、そうに決まっている。
 許せない。私の居場所を脅かすな。

 もう何度呪ったことだろう。何匹の毒蟲を入れたことだろう。50を超えたあたりからもう数えていない。とにかくたくさんの蟲を投げ入れてきた。けれどもう入れられるモノが何もない。仕入れるお金もない。壺の中には半分以上にまで溜まった謎の液体だけが取り残されている。もう何もできることがない、詰みだ。

 ……いや、そっか。まだひとつだけ残っていたよ。全身全霊をかけて呪わなきゃ九条には通用しないのなら、文字通り命をかけて呪ってやる。使えるのもは全部使ってやる。私自身を触媒にしてやる。
 服なんていらない。純度100%の呪いを作るには邪魔でしかない。ハダカになって、壺の蓋を開けて、片足を漬け込む。もう片足も漬け込み、腰を下ろしてしゃがみ、半身浴みたいなかたちになる。そうしたら内側から蓋をして完成だ。
 完全な闇がそこにあった。些細な光すら漏れてこないようしっかりと封された蓋を見上げながら私はぼんやりと、だけど呪っている。下半身は完全に液体の中に浸かっているのだけど、冷たくも熱くもなく人肌と同じ温度でまるで液に浸かっていることを忘れてしまう変な感覚。温水プールとはまた違う……これは、何だろう?とても懐かしい記憶……まるで羊水のような……

 人ひとりがすっぽり入ってしまう程の大きさの壺の中で私は小一時間、ひたすらに念じ、願い、呪っていた。もう頭の中は九条へのことしか考えていなかった。あの顔を見るだけで胸焼けがしてくる。あの声を聞くだけで心臓が締め付けられる。あの匂いを嗅ぐだけで身体が熱くなる。
 嫌いなのに、嫌いだからこそ気になってしまう。好きの反対は無関心と聞いた。だったら無視すればいいだけなのにどうしても忘れられない。なぜ、なぜ、何故何故どうして。
考えれば呪うほどに自分で自分が苦しくなる。自分が自分で自分の自分はなくなりつつ自分を見失えば。故に私は我は一番になりたくて、二番を従えたくて、合わさりたくもあり排除したくもあり。頭のナカがグチャグチャになりりりりりり。り、り、リンリンと鐘が鳴る。錫杖の音を鳴らして蟲の行列が田舎の光景を思い出す。ママと一緒に縁日のたこ焼きは美味しかった。何故何故どうして私は孤独。孤独で蠱毒。あんなに幸せだったのに置いていかないでごめんなさい、許して。許すな。二番目を許すな。私の邪魔をするな視界に映るな私の先を行くな置いていかないで、ずっとここにいろ。ムカデの如く締め付けて身も心も雁字搦めにすれば毒はきっと叶えてくれる。常に私を目立たさせてくれる、そうすればいつの日か必ずまた会えるから。戻ってきてくれるからだからだからお願いします叶えてください呪ってください。六道輪廻を通り過ぎ餓鬼畜生を乗り越えて人間すらも解脱して。黒曜の炎を浴びて蔭りを増し、天の扉を壊し屠る。魂を焦がし激情に身を委ねて、夢幻の足で駆けぬけよう。二度と追い抜かれないように一人にならないように。

 ……私は何をしている?暗闇の中誰にも聞こえない呟きを漏らして我に返る。きっと今回もダメなのだろう。神社生まれの神聖な人間にこんな陰険なコトをしたって無駄だってことはわかりきっていた。心の何処かで諦めたくなかったんだと思う。一番に固執するのは諦めきれないけど、九条のヤツはイレギュラーだったんだ。私にはないものを持っている、それだけで私を脅かすには十分だった。
 はぁー、いろいろ考えるともうどうでもよくなってきちゃった。もういいや、やめよ。こんな壺いらない。もう出ちゃおう。

 
あれ。おかしい。私は腰に力を入れて立ち上がったつもりだった。腕を伸ばし蓋を外そうとしたはずだった。
 何も起きない。そもそも身体を動かしたという感覚がない……
 嘘だ。冗談でしょ。
 脚の感覚がない。腕が動かない。いや、そもそも脚も腕も胴も頭もそこにあるという感覚がない。でも暗闇だからどうなっているか確認ができない。まるで闇の中に消えてしまったかのような……
 うそ、嫌だ。怖い、怖い!!!!
 脚があったということすらわからなくなっていく。私の脚はどうなっているの?お腹は?頭は?本当にあったんだっけ????ぜんぶぜーんぶなくなった?そもそも液に浸かっているという感覚すらない。何も見えない。何もわからない。
 こわい。嫌だ、だれか、だれか……
 唐突な恐怖が襲いかかってくる。少し手を伸ばせばすぐに出られるはずなのに、その少しが果てしなく遠く感じられる。壺の中で私はバシャバシャと波を立てる。ユラユラ揺れてやがて壺の中一杯に私が満たされた。壺を叩き壊そうとして、脚を伸ばそうとして、何もかもが無意味となる。私はどうしてしまったの?
 私は私というカタチがわからなくなりもう自分のカラダがどんなだったのか思い出せなくなった。髪の毛はどれくらいあったか、胸はどれくらいあったか、痩せてたか太ってたか、足は長いか短いか、もうわからない。ドロドロに溶けて液と同じになってしまった。
 意識だけがスープの中で揺蕩って私を成している。
 私は……なんだっけ。そもそも私とは何を指していたんだろう。私。ワタシ。わたし。わたしって何だ?



 ◆



 はっ。
 虚ろな意識で暗闇を浮いている。たった一人広大な宇宙に放り投げだされたかのような気分だ。カラダは腕も足も元に戻っている。何があったのだろうか?
 ふと、突然視界に映るものがあった。蟲だ。スズメバチ、マムシ、ヤドクガエル、その他諸々。今まで私が投げ入れてきた毒蟲たちが私を取り囲むようにして次々と現れた。ひい、ふう、みい……数にして99匹の毒蟲。そのどれもが私を恨むかのようなおぞましい視線で見つめ続けている。歯をキリキリと鳴らし、翅を羽ばたかせ今にも襲いかかってきそうなほどだった。私は逃げられない。
 い、いやだ。気持ち悪い……そんなことって……
 呪いだ。
 今まで私がかけてきた全ての呪いがこうして還ってきた。99の毒蟲らが己の怒りと無念を私に返還するためこうして舞い戻ってきたのだ。気が狂いそうになるほどのグロテスクな光景に思わず吐き気を覚えてしまう。
 やめて、やめて、キモチワル、ああっ、やめ……
 毒蟲が私のカラダを取り囲み、這いずり回る。ヤスデが足に絡まり、クモが頭を覆い、ヒルが皮膚に潜り込む。私はなすすべもなく呪いに蹂躙されるがままもがき苦しみ、のたうち回る。ヘビが腕に巻きつき、ゲジが口の中に入り、カエルが目玉を舐めて、サソリが臍を掘り進む。

 発狂。狂う。理性が擦り切れる。発狂。発狂。発狂。発狂。発狂。発狂。発狂。発狂。

 オコゼの針が心臓を突きさし、トリカブトの根が脳に蔓延る。いやだ、やめて、やめて、こわい、きもちいいいいいいいいやだいやだ。たすけ
 Gが骨をかじり、クラゲが神経を撫でて、ハチが腹を貫く。あは、あはあ、気持ち悪い、はははっはは、キモチイイ、どろどろ、崩れてゆく。
 ミミズが血管を埋め尽くし、ワラジムシが肉をつまむ。地獄のように気持ち悪くて天国みたいにキモチイイ。
 
 呪いだ。
 この光景を呪いと言わずして何と言うか。理性はとうに消え果て、叫び声を上げたくても次々に入り込む毒蟲らがそれを許さない。穴という穴に潜り込み内側から私を蹂躙する。犯す。造り替えてゆく。
 両足は既に貪られ、胴から下はがらんどうの空間と一体化していた。かろうじて残された胴には紫色の亀裂が所々にできて血を垂れ流している。
 
 毒蟲らは次々と私を貪り、私の中に入ってゆき、ひとつまたひとつと数を減らしていった。そうして最後の1匹だけになり私はソイツと対峙する。
 オオムカデ。以前投入した時よりもなぜか異常に大きくなっている。この毒蟲だけは最後まで微動だにせずずっと佇んでいるだけだった。そうして全ての毒蟲が居なくなるのを待っていたのか、やっと動き始めた。
 貪られてなくなった私の下半身をまるで確認するかのようにグルグル回り、そうしてソイツは私の胴体の断面に齧り付いた。大きな顎でがっちりと固定され頭部を私の胴体に潜り進める。ぐじゅ、ぶちぶちと音を立てて、あぁ、きもちがいい、けど気持ち悪い。
 しばらくするとオオムカデはピクリとも動かなくなり、死んでしまったかのように静まり返る。同時に私は失ったはずの足の感覚が戻っているのに気がついた。それも右脚左脚の二本だけじゃない、無数の感覚が脚としてはっきりとして、だ。
 オオムカデとの接合部を見てみると、齧り付いていた部分は私の胴体と癒着、接合してくっつき始めていた。
 これが――私の新しい脚?
 いやだ、嬉しい、気持ち悪い、素敵、ありえない、奇跡、呪い、祝福。
 様々な感情が私を駆け巡る。髪の毛の数本が毛束となり、硬質化する。カラダに走る刺青のような模様はより数を増やし全身に張り巡らされる。牙の先端から唾液とは違った液が出るようになる。
 触角だ。毒腺だ。毒液だ。本能でわかるようになっていた。私は呪い返しによって100匹目の毒蟲となってしまったのだろう。そういえば今になって壺の注意書きを思い出したけれど、もう今となっては全て手遅れだった。脚は完全に新しく生え変わり無数の脚部をそれぞれ動かせるようになった。自分で自分の毒液のゴクリと飲むだけでじわりと下腹部が熱を持ち、子宮が疼く。
 それもこれも全て、やっぱりアイツのせいだ。九条。
 素直に呪われてくれれば私がこうなることもなかったのに。アイツがいなければ私はここまで追い詰められなかったのに。
 責任をとってもらわなきゃだめだ。ここまで悪意を抱かれたという自覚がない能天気な九条のヤツが悪いんだ。セキニン、そう、端的に言えば子種を貰わないと気が済まない。
 …………?どうして子種が欲しいんだろう?何であんな奴の精液が?不潔で汚い。でも本能がそう望んじゃってる。あれはきっと素晴らしくおいしくて幸せなものだということをなぜか知っている。
 じゃあきっと間違いないんだろう。うん、そういうことにしよう。成績トップの私がそう望んでいるなら何もおかしいことじゃない。むしろ正しくもある。私のナカに注ぎ込めばきっと素晴らしいことが起こると予感して心がときめく。

 頭上に一筋の光が垂れ下がっている。もしこれが芥川龍之介の蜘蛛の糸だとしたら私は真っ逆さまに落ちて永遠に暗闇に囚われたままなのだろう。だけどこれは違う。後ろから這い上がってくる亡者どもはいない。全ての亡者は私と一つになったのだから、突き落とす相手なんて誰もいなかった。
 光を掴み、上へ上へとよじ登っていく。暗がりを背に私は光の中へと戻ってゆく。



 ◆



 壺の蓋を弾け飛ばし私は再び産まれ出づる。ゴボゴボと排水溝の詰まったような音を立てながらその身を乗り出し、ずるずると長い長い脚を引きずり抜く。私の狭い部屋が更に狭くなったように感じられたのは気のせいじゃなくて実際に私の体積が広くなったから当たり前だった。
 息を吸い、脚を動かし、触角を揺らし、毒液を垂らし、新しく生まれ変わったカラダを再度実感している。こう言ってはなんだけど、ニンゲンってもしかして生物として不出来なのかもしれない。よく哲学者や意識高い系の自己啓発本ではそんなことを書かれていることがあるけれど、そもそもその文章を書いている人もニンゲンなわけだし全然説得力がないわけで。だから生まれ変わった私がニンゲンに関してあれこれ語るのは至極真っ当と言える。そうでしょう?

 私はそうやって目の前の獲物に語り掛けた。

 実を言うと壺から出る前から私の部屋に私以外の何物かが入り込んでいることは触角で感じ取れていた。ただ、やっぱりまだ完全に感じ取れていなかったので誰かはわからなかったんだけど、今こうして目の前に対峙してああやっぱり、となったわけだ。
 九条。
 部屋に散らばるプリントの数々を見る。恐らくは……数日分は溜まっているだろうか。私は思った以上に長い時間壺の中にいたようだった。
 眼前で狼狽えながらもしっかりと私を見据え、その手にはお札らしきものを握っている九条。さすが実家が神社なだけはある、こんな姿の私を見ても多少の動揺で済んでいるのだからある程度は予想していたんだろう。
 おおかた、不登校だと判断した学校は様子見という体でプリントを九条に託し、家に着いたものの九条は九条で嫌な気配を察し退魔用の札を構えた……って感じかな?なにせ私は学年一位だからこれくらいは予想できる。ホラ、九条の顔を見たら御明察って言っているようなものだ。
 本当にあの学校の先生どもは揃いも揃って無能すぎる。なぜ先生自ら保護者へ連絡しないのか、なぜ生徒を遣わせるのか、溜め息が出るわ。
 姿かたちは変わっても中身は変わっていないと察した九条は半分安堵して半分は依然として緊迫していた。まぁ、そりゃそうだ。私だって九条の立場になったとしたら意味不明すぎて困惑するだろうさ。でもそれはそれ。
 部屋を見回してみると窓やドア、壁の至る所に札が張り巡らされていた。用意周到というやつだね。


 で?


 私は99の呪いを取り込み、100の呪いの塊と化した化物だ。そんな紙切れごときで私の怒りが、憎しみが、止められると思っているならば九条を更に更に重ねて更に見下さなければならない。こんなもので止められると思ったその浅はかさを嘲笑ってやろう。
 私は脚部を部屋前面に這わせ、嵐のように身を回すと一斉に札を剥がし呪い燃やした。多少の痺れを感じたがこれくらいなんてことはない。たちまち燃え散る札を見て私は自慢げに笑うのだ。
 青ざめた九条の表情がこれほどまでに愉悦で心地よいとは思わなかった……いけない。嗜虐的になればなるほど下半身が湿り気を増す。ゾクゾクと許しがたい感情がこみ上げてくるのがわかる。あの忌々しい九条が、焦っている。ああ、これはいけないまずいまずい。

 九条のヤツが私に直接札を投げてきた。腕で払いのけると焼け付くような痛みが腕に走る。理科の授業でたまたまこぼしてしまった塩酸のような痛みだ。ムカツク。痛い、熱い、熱い、ああ熱い。この熱さは熱のせいなのか、私の内側で燃え盛る激情なのかわからないほどに熱い。文字通り身を焦がし、黒い焔で札を燃やし尽くすと九条に問いかける。
 こんなものなのかと。もっと私を昂ぶらせてみせろと、私の次に秀でているお前ならもっと私を不快にできるはずだと猛る。

 まるで私は平安の時代に生きる化生のようだ、と自分で自分を客観的に見ていた。呪いが燃え盛りながらも冷静でいられるのはこれから起こるであろうことを夢想して期待しているからだろうか。
 私の挑発に感化された九条は懐から更に無数の札を取り出す。そうして何か言霊のようなことを呟きながら私目がけて投げ――
 投げる仕草をしたまま膝から崩れ落ちた。
 あは、はははは。やっとだ。
 九条は滝のような汗を流しながら、自身の身体に何が起きているかわからない様子で困惑していた。さて、あまりにも面白いから種明かしだ。私は自分の首をトントンと指で叩きジェスチャーしてみる。九条は自分の首を指で擦りハッと気がついた表情をした瞬間私は舌なめずりをした。
 九条の首元には大きな歯形が刻まれていたのだから。もちろん噛みついたのは私。いつ噛みついたって?私が九条の姿を視認したその瞬間にはもう噛みつき終わっていたよ。オオムカデの素早さを侮ってはいけないよ、捕まえるのにも苦労したものさ。
 体中にタップリと毒を行き渡らせ呼吸が荒くなる九条。右胸を抑えとても苦しそうにしている。ああ苦しそう。窮屈な制服の下で自己主張し始めている下半身は見ているだけで私も息が荒くなってしまう。

 私は長い下半身で九条を包み、その衣服を破り捨てた。隠し持っていた札も全て燃やし九条は完全に丸腰丸裸。あの忌々しい九条が何もできない状態で私に支配されかけていると思うと、この光景が夢じゃないかと一度頬をつねりそして現実だと再実感する。大嫌いで絶対に口をききたくないけれどそれは一個人としての感情であり、目の前に勃起するペニスは雄としての雄々しさがあり私を満足させるには十分だった。私の中の雌が奮起してしまう。
 必死で拘束から抜けようとしているその姿が滑稽で、まるで小動物みたいに見えてきた。そうだ、私は大百足。九条は野ネズミとかそこらへんの被食者。だったら食べちゃいたくなるのも自然の摂理というものだ。
 私は獲物を弱らせるために何度も何度も、鞭打つように毒液を注入していった。その度に男とは思えないほどなよなよしい声で叫びもがくものだからつい楽しくなっちゃって……もっと毒液漬けにしていく。体中の血液を毒液に変えかねない勢いで噛みつき体中に歯形を残していく。私の所有物であるという証を刻み込む。この素晴らしい餌を他の女に取られてなるものか、私だけの餌だ。
 徐々に弱っていく九条の身体だけど、唯一ペニスだけがその真逆で勇敢にも臨戦状態を解いていなかった。だったら私も学年一位のプライドをかけて闘わなければならないよね?
 私はキャベツ畑とかコウノトリとかそんなものを信じているほど馬鹿ではないので、当然それなりに知識というものも備えている。だから勃起したペニスが眼前に聳えていたならばどうすればいいかなんて考えるよりも先に行動できるほど理解している。
 そう、

【陰茎と睾丸が破裂しそうになるほど毒液を注入してパンパンに増大したイチモツをしごいて射精してもしごき続ける】

 こんなの誰でも知っている常識だ。小学校低学年、いや生物として産まれたからには産まれた瞬間から知識として備わっている当たり前のことだ。止めてと懇願されてもそんなものは無視。相手があの九条ならなおさらいじめたくなってしまうのは当然だよね。
 ビキビキと青筋を走らせそそり立つペニスがそこにある。
 だから私は噛みつき毒液を流す。
 睾丸に牙を突き立て直接流す。
 指先に毒を塗り、肛門から前立腺に塗り込む。
 これくらい常識でしょう?だから私はやった。相手がどういう反応をしようと知ったこっちゃない。というか気持ちよさそうに痙攣してたのでむしろ正しいんじゃないかな。
 あとはペニスを掴んで上下にしごくだけ。
 あはは、まるで玩具みたい。上下に一度擦るだけでビュビュっと精液が溢れ出てくるじゃん。

 一回、ビュッ。
 二回、ビュビュッ。
 三回、ビュビュビュッッ。

 一度の射精で100mlくらいは射出されてるんじゃないかな?もちろん尽きることはない。あーこれどっかで既視感あると思ったらアレだ、ショットガンのポンプアクションだわ。上下するだけで射出されるのだから間違いない。
 センズリという言葉があるので私も文字通り千回しごいてあげた。結論から言うと私の部屋が精液まみれになって大変なことになった。床は精液浸しになって、壁や天井には所狭しと飛び散っている。私は床に溜まった精液を吸い舐め、この世にこれほど美味しいものがあったのかと思うとこれまでの人生がひどく損をしていたのだと思い知らされることになった。
 九条もきっと、人生で最上の快感を味わってしまったからにはもう普通の生活には戻れないだろう。性は人を堕落させる。うん、間違ってはいないかった。まぁ、私はもう人ではないのだけれど。
 あれだけ精液を射出させたのに未だ剛直を保ち続けているペニスを見てさすがの私もとうとう我慢が出来なくなりつつあった。口で舐めるだけであんなにおいしいのだから……直接胎内に注がれたらどうなってしまうのか、想像もつかなかった。
 部屋中に散らばる精液全てが子どもの元となるモノだ。こんなにたくさんあるのにこれらは決して本来の役目を全うすることができない。要するに無駄打ち。なんというか無情を感じる。

 生命は皆すべからく子孫を残すべし。動物も、植物も、微生物だって次の世代へ繋ぐために今を生きている。だったら私もそうあるべきだ。たとえ相手が最も忌々しくて憎たらしくて大嫌いな九条だったとしてもだ。九条は雄で私は雌、だったらもう交わるしかないよねえ?
 決してこのチンポが気持ちよさそうとか美味しそうとかまぁ学年二位の九条ならそれなりの資格があるんじゃないかとか私と九条の子ならさぞ優秀な子が生まれるんじゃないかとか大嫌いだけど九条以外に親しい男子いないとか学力はあるから将来ちゃんと養ってくれる職業には付けそうとか実家が太いから産後も安心とか九条って苗字はそれなりに響きが良いとか……そんな理由ではない。決して、ない。

 はち切れんばかりに膨れ上がったペニスにまたがり、その先端を私の割れ目にあてがう。あっ、これだけでなんかもうヤバい。ドロッドロにふやけた私の秘部がまだかまだかと待ち望んでいるみたいだ。九条はと言うともうほぼ意識がなくなっているみたいだった。気失うほど射精って気持ちいいんだ……ふーん、私より先に気持ちよくなってなんかずるい。私が九条を支配しているのに先にイクなんてだらしないったらありゃしない。あーそうか私がイカせたのか。
 そんなことを考えつつ私は先端を奥へと進めた。まるで腕みたいに大きくなったペニスを自重で少しずつ潜り込ませる。
 ……やば。語彙力がなくなる。なにこれ?私の下腹部は宇宙になった。未知の快感がカラダの内側から脳髄まで一直線に伝わりふわりとした浮遊感と稲妻の如き電撃が全身を駆け巡る。頭の中で星空がギラギラに輝き急接近して爆発を繰り返す。肉ヒダがペニスを覆い、隆起する血管の一つ一つまで形を覚え九条のモノ専用になろうとしていた。これがセックス。性行。交尾。交配。それらしいワードが次々と思い浮かぶ。授業を受けていた頃はこんなこと遠い未来の出来事なのだろうと思っていたけれど、実際は近い未来の出来事だったわけで。なんとなく私は勝利を得ていた。
 そうして、もう我慢できなくなり私は全体重を重力に載せて腰を下ろす。
 バチュン、という音が鳴りペニスの全てが私の内部に入り込む。


 ビュグッッッッッ!!!!!!!!!


 えっ――?
 一瞬の出来事だった。たった一度腰を落としただけでペニスは決壊を起こし、私の方に流れ込んできたのだ。膣を通り抜け、子宮口をこじ開けた亀頭の先端から勢いよく精液が注がれるのがわかる。お腹の中が灼熱地獄のような熱を持ちそれらを受け入れているのが見えなくともわかりきっていた。
 呪いは祝いへと変わり私を祝福していた。満たされる精液、そして多幸感。
 そうして少しの時差の後で快感が襲ってええええあああああああああッッ♥♥♥♥
 なにこれ♥なにこれなにこれっ♥こんなの知らない!!!!はじめて♥♥♥♥♥
 バカになるっ♥♥あっ、うんっっ♥止まらな、止まらないよぉっ!♥
 もう一回♥もうっ…………あああまた出て♥♥♥♥♥♥♥♥♥もっと、もっとぉ♥
 くそっ、こんなに♥キモチイイなんてっ、許さない♥呪ってやる、殺してやる♥♥イキ死ね♥死ぬぅっ♥♥♥♥♥♥九条のクセにっ♥もっと出せ♥出せっ♥♥♥んっ、はぁっ♥
 んんんんんんんっっっ♥♥♥♥噛んでやるっ♥ほら、もっと出るでしょぉ♥♥♥噛めっ、私も噛めェ♥♥♥♥♥♥
 ああああああああそこだめ♥♥♥♥♥♥♥♥♥毒腺噛むなっ♥♥♥♥♥
 あっ、受精しろっ♥♥♥♥♥♥着床しろよ♥♥♥♥♥♥♥責任とれよっ、ほらほらほらほら♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
 ……
 …………
 ………………



 三日三晩、私は餌を貪り続けた。いくら疲弊しても精液を啜ればたちまち命がみなぎり無限の活力が湧いてきた。これがセックス。命を作り出す行為であり命を補給する行為でもある。ああ、むべなるかな。
 九条のヤツは……まぁ大嫌いから小嫌い程度にしておいてやろうかな。九条はもう永遠に私に逆らうことができないように魂の隅まで私を刻み込んでやった。私なしでは生きていけないし私も九条なしでは生きていけなくなったけれど、もう孤独じゃなくなるならそれはそれでいいや。一蓮托生というやつだ。
 あー悔しそう!せっかく化物の私を討つつもりだったのに逆に呪われちゃってアハハ惨め惨め!!今どんな気持ち?悔しくてまた勃起させちゃってる、くふ、くふふ、いじめらると勃起しちゃうカラダになっちゃったねぇ♥
 もう逃げられない。逃がさない。




 ◆



 それでも私は学校に通い続けた。
 以前と変わらず私は常に一番だ。成績も、注目も、脚光でさえ。世界は私を中心に回ってい。それが世のルールであり私の生きる意味でもあるから。
 そして二番目には九条がいる。私の特例で二番を許している。同時にヤツは私の餌でもある。少しでも九条のヤツに好意を持つ女がいるならば私は全力で排除するだろう。呪いと祝福の力で末代まで惨たらしく永遠に祟られることになる。九条は渋い顔をするのだが餌ごときが捕食者である私に盾突こうものなら毒漬けの搾精をお見舞いしてやらなければならない。ヤツは私に逆らうことができない、もっと言えばヤツの一族全てが私に支配されている。呪いを跳ね返されていたのだから再び正しく呪いをかけてやったのだ、正当防衛でしょ?
 普段は擬態してこの市立骨倉高校に通い続けている。文武両道、才色兼備、王道楽土、傲岸不遜、それが私。必要以上には呪ったりはしないけど、邪魔なら容赦なく燃やしてあげる。だってそうでないと私が一番に輝けないからね。

 ああ腹が立つ。
 今日は登校途中、隣に走っていた車のせいで水たまりの泥が跳ねてびしょ濡れになってしまった。車は呪いでねじ切ってやったからいいものの、イライラが収まらない。
 だから鬱憤を晴らそう。1コマ授業を聞き逃したからといって優秀な私ならさほど影響はない。屋上へ九条を呼びつけ今日もストレス解消をしよう。もちろん九条に拒否権はない。
 屋上の鍵を閉め、二本の脚を無数の体節へと変化させる。もうその姿を見ただけで九条のペニスは準備ができてしまうほどで、ヤツはヤツなりに優秀な餌になっている。餌のくせに生意気でまたイライラが溜まってしまう。溜まりすぎると理性を保てなくなっちゃうから早く解消しないと。
 だからまた溜まっているものを出しちゃおう。そして射精しちゃおう。ホラ、早く私を孕ませてみせろよ、このクソザコ精子♥いつものように突いて、出して、キモチよくさせろよ♥
 


――私は常に一番。
 それが私の生きる意味であり、この世の決まりである。
 だからこそ餌は一番じゃない。順位なんてつけられないのだから――





―――――





「人を呪わば穴二つという諺があります。
他者の呪い殺すのならば、自らも呪われ殺されるので墓穴を二つ用意しなければならないという、先人の教訓です。
 呪いというものは本来、相応の覚悟と対価を用意して行わなければなりません……そしてそれを支払えない場合呪いは自らに帰ってくることになるでしょう。
 故に彼女は呪われたのです……エエ、それはそれは罪深い呪いをその身に宿してしまった。結果としてそれが良かったのか、悪かったのかは彼女にしかわかりません、しかして彼女は呪われ、ヒトでなくなり、呪いを体現したかのような姿へ変わました。
 彼女は孤独に飢え、蠱毒に頼り、そして自ら毒そのものと化した。ヒトも、魔物でさえも孤独というものは辛いものです……他人の温もりを忘れ、なにものにも混ざらずに孤立して生きていくというのは何よりも耐え難く苦しいことでしょう……それが肉親となればなおさらです。
 ですが彼女はもう……大丈夫でしょう。生涯の餌を手に入れた彼女は二つの穴を埋め尽くされ今日も活き活きと擬態しながら生活していくことでしょう。孤独という穴と肉壺という穴、二つを。
 他人を気付つけるという行為はいとも容易く行えてしまいます。それを我々はゆめゆめ忘れることなきよう、日々を生きてゆかねばなりません……
 さて……それでは私はそろそろ去るとしましょうか。この世界線は恐らくもう……いえ、これはまた別のお話になることでしょうか。
 ではまたいずれどこかで会いましょう。道具を求める声がそこにあるかぎり、私という存在は。この店はいつ、どこでも現れます。過去、現在、未来、別の世界線。いつでもどこでも駆けつけます。
 さてさて、次の舞台はどこになるでしょうか…………」
19/08/21 00:21更新 / ゆず胡椒

■作者メッセージ
およそ1年半ぶりとなる魔物化シリーズでした。
リハビリ感覚なので単発読み切りです。
気がつけばシリーズ自体はもう9も出してたんですねぇ……早いものです。
もっと書きたい魔物は数多くいますが現状執筆が追い付いていないので気長に書きます。自分のペースでゆっくりと……


例の蛇足タイム

【私】
性別:女
種族:人間→大百足
職業:女子高生
性格:真面目、頑固、自己中心的、正義感(偽)
特技:勉強
好きなもの:調律、均衡、出世、平穏
嫌いなもの:虫、邪魔者、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条、九条

・市立骨倉高校に通う成績トップの優秀な生徒。頭脳明晰、才色兼備は自論であるがその実態は天上天下唯我独尊を地で行く自惚れの極めている性格である。本人は猫被っているとのことだが最近は周囲にばれつつあるようだ。自分に絶対的な自信があり、なおかつそれを言えるだけの実力が伴っているだけにタチが悪い。
・極めて悪に近いが悪ではなく、かといって決して善にはなり得ない。いわゆる俗物。
・その性格ゆえに、自身の邪魔になるものには容赦なく排除しにかかるだろう。
・かつては両親と共に何不自由ない生活を送っていたが、ある日唐突に両親は彼女を置いて蒸発。以後親戚の仕送りで一人暮らしをしている。
・大百足と化してからも彼女の本質は変わりない。常に一番であり続け、邪魔者は祟り除外していく。その姿はまるで手のつけようのない怪物であり、ただの我儘な女子高生でもあるのだ。



【九条】
性別:男
種族:人間→インキュバス
職業:男子高校生兼退魔師
性格:温和、正義、呑気
特技:言霊、達筆、運動、勉強
好きなもの:お茶と和菓子、【私】は好きかどうかまだわからないが運命共同体として魂に刻み込まれている
嫌いなもの:一族で追い続けている「魔」と呼ばれるもの

・由緒正しき退魔の家系の人間であり、西の方から転校してきた男子高校生。退魔の力がある以外は他の男子高校生と何ら変わりない普通の人間である。
・【私】に対しては何かと突っかかってくる女子だなあ……程度にしか思っていなかったが次第に気になっていた様子。好きかどうかハッキリする前に【私】に襲われてしまい、ちゃんとした気持ちの整理がついていない状態で性行してしまったのを若干後悔しているとのこと。
・彼の一族は古くから神出鬼没で人間に災いを齎す「魔」を追い続けている。曰く、『「魔」に関わった者は人間を逸脱し異形と化してしまう』とのこと。気配を察知してもすぐに消えてしまうので未だに正体を捕らえられていないという。
・なお彼の一族はこの代で終わりを迎える。【私】により強い怨念をかけられた結果、女性血族は皆虫系魔物と化し、一族内で交わり始めたからである。



【貪りの九十九】
危険度:D
希少度:D
魔力:C
司るは「呪い」、「毒」、「進化」
古代のまじない師が天帝暗殺のため自らの家族を贄に作成したと言われる呪われた壺である。言わずもがな魔器でありそれそのものに強い魔力が込められている。
仕様書の通り、使い方を誤なければさほど危険な道具ではない。自分の都合よく対象を呪うことができるので悪しき者の手に渡れば悪事に、善人の手に渡れば善事に使われるだろう。
しかし壺に投入する毒蟲の数は最大99匹に留める、一度かけた呪いは決して中断してはならないという制約を守らなければならない。さもなくば呪いの全ては自身に降りかかり自分で自分を呪うことになる。
作られた時代が遥か古代だったので、当初は誓約を守らなかったものは尽く呪い殺されていたが魔王が代替わりしてからは壺に宿る魔力も変質し今の魔物娘に近いものになっている。故に呪いの効果も対象を呪い殺すまで強力なものではなくなりせいぜい怪我や病気を指せるといったところまでにとどまっている。なおその怪我や病気は対象の精気を放出させるという面もあるので放置すれば魔物化してしまうのは言うまでもない。
壺の内部はまるで子宮のようになっており、誓約を守らなかったものは吸い込まれるように中に浸かり、一度完全に液状に溶けた後、魔物として完全変態する。人によってはこれを『蛹』と称する者もいるだろう。

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