連載小説
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26.白髪姫 vs 黒戦鬼
私とブレイブはドルチャイの街をデートしていました。
初めブレイブはちゃんとカーラを探そうとしていたのですが、私に振り回されてだんだんとデートを楽しんでいてくれるようでした。何より、ドルチャイには目を惹かれるものが多くあり、行われていたアトラクションは私たちを飽きさせることはありませんでした。
しかし、氷の女王率いる劇団主宰のミュージカルを鑑賞して出てきた私たちはとうとう捕まってしまいます。
もうちょっとグラキエスたちのラインダンスやホワイトホーンの独唱の余韻に浸っていたかったのですが……。

仲睦まじくーー残念ながら、主に私がですがーー、デートしている二人のを見つけるとカーラのボルテージはギュィィィンと最高潮に達したようでした。
「貴ィっ、様ぁぁぁ! 今度という今度は許っ、さぁぁぁぁぁぁぁンンンンっ!」
ロリ形態カーラ・マルタン・the・カースドソード ver.フルアーマー 激昂モード。まるで金色のオーラでも背負っているかのようです。
ヤサイマシマシ、ニンニクマシマシ、アブラオオメ、メンカタメ激盛りさながらのマシマシモード。いえ、私はらぁめんなるものは食べたことありませんよ。
「皆から聞いたぞゥオ!! 全てが演技だったのだとオ!!」
カーラの叫びにブレイブが反応します。
「ヴィヴィアン、……それ、本当? カーラちゃん」
ああ、ブレイブ。その目もっとぉ………、……、アレ? いつもはキュンとするのになぜか今はちょっとチクっしました。さっきまでの劇がとても悲しく美しいものだったからでしょうかーー。
でも、私は気にせずに先ほどの劇団員さながらに演技を続けます。
「わ、わかりません。私は何も……」
「……、ヴィヴィアン。なんか、街に出てから僕の股間をワザと見ないようにしてない?」
ギクッ!? リリムだったら記憶をなくしていても好きな相手の股間を見ていた方が正解だったのでしょうか? バレないように、この時間が楽しくて、むしろ見ないようにしていたのがアダとなったのでしょうか? いえ、これは私の反応を見ることが目……的…。
……しまった? ハメられた? そして、元々の股間の視線に気がついていたとは、主人公に必須である鈍感スキルを持っていないとでも言うのですかブレイブ!?
驚いて白目を剥く私にブレイブは、
「その顔は……やっぱりそうなんだね」
……ガハッ!? コチラもやはりで、言いように操られた感も……ブレイブの成長速度がマッハのまま、私たちの処女膜だけではなく精巣、ーーじゃない、成層圏までもブッチぎった!?
いけませんね。私は知恵がウリのはずだったのに驚いてばかりです。落ち着かなくては、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
でも、好きな人の前で……いつもと勝手が違う感情が湧いたりしたら、ドジを踏んだって仕方がないではないですか……。

「……あ」
私の腕からブレイブの腕がスルリと抜けてしまいました。
離れて行く彼の腕、温もりが寂しくてーー。
「ヴィヴィアン、なんか。最近、変じゃない? えっと、ルチアの………時から」
「…………」
私は急に思いもしなかった言葉をかけられて返すことができず、私たちの間に沈黙が流れました。
カーラの怒気オーラだけがシュウシュウ言っているーー気がします。
「いいえ、そんなことはありません」
私はなんでもないことのように答えますが、沈黙は破れません。
「確かに、そうですね。ヴィヴィアンさん、いつもよりも変にはしゃいでいるようなーー」
「…………」
白衣がかぶせてきた肯定を、私は次は否定しきることができなくて沈黙します。
「ほう、すると、お前は……」
「そんなことはありません!!」
私は私自身がどう思っているのかわからないのに、勝手に決めつけられたくなくて。私は私にあるまじきことにーー。
……カーラに向かって魔力弾を撃ち出しました。これは、魔術ではなく………私自身の魔法。
魔力弾はカーラの顔面にモロに当たりました。周りから、ウワァ、と言う声も聞こえます。
それでも、カーラは不敵で獰猛な笑みを浮かべて、
「ふははは、やっとお前と語り合える気がするぞ。私はコッチの方が好みだ!!」
私はこんな脳筋ではないはずなのに、止めることができません。
私はそのまま続けざまに魔力弾を射出してーー。



「イヤですねぇ脳筋は。ささ、ブレイブさん私たちはこちらに避難しておきましょう」
二人の戦闘にまきこまれないように、白衣が他のパーティメンバーを促した。
「でも、こんなところであの二人が暴れたら街は……」
「大丈夫ですよ。周りをみてください、いつの間にか皆さん避難しています……。何か、……慣れているみたいに。それに、被害が及ばないように私自身で結界を張っておきますから、心配はありませんよ」
白衣は笑顔でブレイブに伝えたが、……気にはなった。

「でも、ヴィヴィアン、こんな街中で戦い出すなんて……普段はそんなことしないはずなのに」
「そうですね。……まぁ、それはそれだけ……、いいえ、感情の解放はカーラにまかせましょう。私よりもカーラの方が適任です。ちゃんと後始末は出来るようにしておかないと……」
うーん、と布の頭を傾げながら、白衣は呟いていた。





街中に突如として現れたバトルフィールドに向かう幼女の一団がいた。

「む、アレか? 不審な人物とは。………ハァ、嫌な予感が当たったようじゃの。スゴイの。街に入って早速騒ぎをおこすとは……」
「キョニューちゃん、わたしがイこうか?」
「いや、アレはまずはワシが止めよう。ーー他の奴らはお主らで、やってしまって良い。街に被害が出ないように念のため、魔女とファミリアの結界班を回しておくのじゃ」
「大丈夫ですよ。もう連絡してあります」
「……フ、流石じゃな。では、ーー行くゾイ」



人的被害はないのだが、すでに物的被害は惨憺たる有様であった。
石畳は無残にも砕かれ、めくれている。幸いにも広場が大きかったからだろう。建物への被害は軽微で済んでいた。
「カーラの馬鹿ぁぁぁぁ!!」
「馬鹿はドッチだァァァ!!」
ヴィヴィアンから連続して打ち出される魔力弾をカーラの大剣が切り落とす。
姿形は幼女同士の戦い、白髪の姫君と漆黒の鎧をまとった小柄な剣士。しかし、その戦闘はそこらの大人では入り込めないほどに苛烈であった。

”ダークウィップ”
ヴィヴィアンは左手から魔力を鞭のように形成して生み出した。鞭は蛇のようにうねりながらカーラに向かう。
「フッ」
気合とともにカーラは鞭を弾くが、空中を滑るようにーー変幻自在の軌道を描きながら、蛇は踊る。
「フン、ただでさえ鬱陶しいのに、威力がないのがさらに鬱陶しい!!」
カーラが跳躍した。浮遊のできない身で空中に飛び上がるなど愚策、宙を泳ぐ蛇の格好の餌だ。ヴィヴィアンの魔力によって自在の機動を許されている鞭は先端のふくらみをーー本当に蛇の様に口を開けてカーラに襲いかかった。
だが、カーラは涼しい顔をして、それを凶悪な蛇の強襲を、
「……ハッハ」
蹴りで切り裂いた。幼くとも獰猛な笑みはヘルムに隠されていて見ることはできないーーー彼女はすでにフルアーマー状態。
彼女の血で形作られている鎧は好きな時に好きな様に変形することが可能である。蛇のアギトを切り裂いたのは彼女の右脛に形成されたブレード。漆黒の刃を振った勢いはそのままーー横に回転してーー腹部まで畳み込まれて力を溜めた左の踵を放つ。ソバットと呼ばれる蹴りである。
幼い体格ではもちろん間合いの外、だからーー撃ち出す様に放たれた蹴り足からは竜の鱗を重ねた様な形状の鋼の鞭が飛んだ。竜の尾は一直線に、カーラの魔力を込めた膂力から生み出された勢いそのままに、一直線にヴィヴィアンに届き彼女を貫いた。
彼女を貫いた竜の尾は石畳の道を穿ち、地面に突き刺さる。

兜の下でカーラの整った眉がピクリと動く。
おかしい。手応えがない……。
それを確かめるべく、地面に突き刺さった尾の先端を碇の様に変化させ、今度は竜の尾を体に戻しつつヴィヴィアンに向かって己を引き寄せさせた。宙を引かれてカーラが近づいていくとヴィヴィアンの姿が朧に揺らいで……黒い霧になってーーカーラを飲み込もうと広がった。
ーーまるで夜闇の布によって包み込まれるようだ。ガバッと開いたソレはーーカーラをーー飲み込むことはなく、カーラはその靄を突破した。
「なんだ、コレは……」
手応えがなくただの霧の様であったソレに拍子抜けしそうになった時ーー、それは来た。
(ドクン)「…カッ!」
膝を落とすことはなかったが、自らの身に生じた違和感がキモチワルイ。
「グッ……、これは、毒かーー」
「正解、でも、安心していいですよ。それはただの淫毒。命に別状はありません。ただーーどうしようもなく身を焦がすだけ!」
姿を見せずに石畳の上を走るヴィヴィアンの声。カーラの内部にジクジクとした粘つく様な熱が蠢いている。
「う、おおおっ!」
カーラは自らの体を回転させ魔力を発散させて、靄を払った。
しかし、無残に踏み砕かれた石畳の隙間から、さらに靄は溢れ出てくる。触手の様に蠢いて……、ぬらぬらと鎌首をもたげる。
「思ったよりも……やるじゃア、ないか」
心底楽しそうにカーラは笑った。
「それがお前の本当の魔法か?」
「ええ」
静かにヴィヴィアンの声が響く。しかし、カーラには彼女の姿は見当たらなかった。
「ーーそれを使えば……、いいや、みなまでは言うまい。今は私とお前の戦闘中なのだからなァ!」「ァ」「ァ…」「…」
今までよりも一層声高にカーラは叫んだ。声が止むと、
「……そこだ」
ヴィヴィアンに向けて正確にダガーが投げられた。
「!」
驚き目を見張るが、ヴィヴィアンは咄嗟にそのダガーを弾く。ーーしかし、まごついている暇はない。なぜならーー。
ダガーが飛んだ射線を通って、カーラ自身が飛びかかって来たから。
「くっ」
ヴィヴィアンは急いで凶剣を避け、再び身を隠そうとするが、「アッ!」カーラは再び発声すると正確にヴィヴィアンめがけて剣を振るう。

音の反響で位置を探るとか、なんなのですか、もう。
ヴィヴィアンは心の中で悪態を吐くが、カーラの剣は御構い無しに振るわれる。
ヴィヴィアンが使用している魔法とは淫毒を含ませた魔力を霧状にして操るもの。その濃度や性質を調整することで、毒を受けたものに異常を引き起こす。カーラにはヴィヴィアンの姿を認識できないようになっていた。そして、その毒は、体の内に異質な熱を感じたが最後、それは蛇の様にとぐろを巻いて居座り、受けたものをイくまで狂わす。
本当は視界全てどころか、五感全ても奪うつもりであった。しかし、カーラはその中で動いている。量が足りない、ーーそれもあるだろう。効いていないわけではない。相性が悪かった。
カーラの鎧も剣も全て血液で構成されている。カーラの能力は血液を操るもの、だからーー血中の毒物を体内に回さず、剣に運び隔離していた。
それならば、どんな効果でも発動していないハズではあるのだが……、その理由はヴィヴィアン自身も知らなかった理由にあるーー。

なんて、デタラメ。リリムの私よりもよほどのバケモノ。
ヴィヴィアンの心中ではカーラへの思いが渦巻く、彼女の剣戟をなんとか避けていなすーーその度にカーラから迸るのはただただ激烈な歓喜。剣を振るう、戦う、専心の炎に焼べられているものは闘争に対する歓喜だけ。そんなカーラに抱くのは、驚愕、恐れ、焦燥、そして、ーー賞賛。
ヴィヴィアンは彼女を素直にスゴイと思った。さらに、負けたくないーーとも。
単純な戦闘技術においてはカーラに勝つすべはない。ヴィヴィアンにできることはやはり淫毒の霧を使った搦め手。
実際にはそれだけでもないのだがーーカーラの準備はすでに整っている。

一方、カーラはヴィヴィアンと戦いながらワクワクしていた。こいつに腕力で負ける気はさらさらなく、実際に戦闘技術においてはカーラの方が明らかに上である。それは相手もわかっている。ならば、どんな手を打つ。毒かーー罠かーー。より強力な毒を使ったところで血液を操る自分には相性は悪い、それならば、なんだ。
戦闘のための思考をしているのではあるが、自分の知らなかった彼女をだんだんと知っていけるようで……、カーラはそれが嬉しかった。
相手が本当の敵であるならば、このレベルであればカーラはすでに倒している。手っ取り早いものならば、全身をおおう鎧を全て武器に変えてありとあらゆる方向から一斉に襲い掛からせればいい。一見無防備になる様ではあるが、すでにこの身自体が血液にて構成された写し身。毒力を高めようが、威力の弱い攻撃しか持たないのであれば、カーラを倒すことはできない。
そこまで思考して、ーーー瞬間、カーラの背筋が煮え立った。

ーーヴィヴィアンが何かをしようとしている。
カーラには見えなかった。自身を囲うように魔法円が描かれていたことを。
カーラは感じなかった。その円が折り重なって陣を織っていたことを。
魔法陣には古代の呪文が浮かび上がり、脈動とともに鍵が開けられ中から全てを塗り潰す闇そのものがーーー。

とてつもない何かが吹き出して、ーー負ける。と確信してーー。
カーラが危惧した何かが、鋭い鎌によって切り裂かれた。


ーー目を見開いて驚くヴィヴィアンとカーラに向かって鎌の持ち主が口を開いた。
「双方、矛を収めよ。続けるのであれば、ワシが直々に相手をしてやろう」
ヴィヴィアンの発動させようとした何かを鎌で切り裂いたのはバフォメットであった。
小さく幼い体に不釣り合いな鎌を担ぎ、細く横に狭まった瞳孔を向けて睨みつけていた。

「メイ、ちゃん」
ヴィヴィアンが彼女に対して言葉を投げかけた。
「おう、ワシじゃ」
バフォメットはメイと呼ばれて気前よくニカッと笑った。
「久しぶりじゃな。ヴィヴィアン。ーーまさか、犯罪者となったお主と再開しようとは夢にも思わなんだ」
「犯罪者って……」
と言いかけて、あたりの惨状に気がついた。
「………あ」
「うむ、気づいたのならば。大人しく従うのじゃ。そこのお主も一緒じゃぞ」
メイはカーラにも声をかけた。しかし、カーラからは返事はなく、カーラは肩をプルプルと震わせていた。

「お前、何者だ?」
「何者……とは。ワシはバフォメットじゃ」
「それは見ればわかる。私が言っているのはそういう事じゃない」
「おや、新しい香水が気になったの、かの?」
とぼける様に自分の服の匂いを嗅ぐバフォメット。
「とぼけるな! 先ほどのアレを切り裂くとは……お前は何だ」
メイはカーラの言葉を受けて口元に手を当てると、吟味する様な仕草をした。
「フム。お主はそれが気にかかっておるのか。見たところ、……ああ、そういう手合か。戦の神に愛されておるようじゃな。。じゃから、ワシがナニカをした事だけがわかった、と。善哉善哉」
カカカと笑いながら、バフォメットは勝手に納得した様子だ。
「おい」
言葉を続けようとしたカーラの元にブレイブたちが駆け寄ってきた。
「離れて様子を見守っていたのですが、私の魔法が急に途切れてしまったので……」
珍しく白衣が焦っている様だ。メイに気がついてはいるものの、戦いをするような雰囲気ではなかったので近づいてきたのだった。

「ああ、そこらにあったのはお主の探査魔法か。ーーー残念じゃが、それらは全て凍結済みじゃ」
「え、……あなたが。でも、アレだけの範囲を……」
「そうじゃ、潰させてもらった。相手がわからんのにそんな蜘蛛の巣のような所に飛び込むのは危険じゃろう?」
「それは、そうですが……」
自分の繊維を使った探査魔法を根こそぎ潰された白衣は、相手がそれを成したものだと知って警戒レベルをあげた。
「ま、お主らも一緒に来てもらって、話を聞かせてもらおう」
皆を連行しようとするバフォメットだが、モヤモヤしている様子のカーラを見て再び口を開いた。
「お主は言いたいことがまだあるようじゃな。良いぞ。言ってみろ」
「……私と戦ってくれ」
カーラが絞り出した言葉はそれだった、彼女を知りたい。
驚く一堂ををよそに、
「ウム」
バフォメットは多くを語らず快く応えた。

「じゃが、その前に少し待ってはくれぬか?」
この街の決まりでな、とバフォメットはさも面倒臭そうに鎌の石突で石畳を打った。
すると、なんと無残に破壊されていたはずの石畳は全てもと通りの綺麗な状態になった。
そうして仕上げとばかりにメイがパンと手を鳴らすと、一斉に歓声が上がった。

「さすがキョニューちゃんだー」
「さぁ、あいつら全員やっちまってくれー」
「ずっとついていくぜー」

「え、この人たち今まで一体どこに……」
「キョニュー?」
疑問の声を聞こえなかったふりをして、メイは口を開いた。
「何、この街はお主らが思っておるよりも、深く、至る所に魔術が刻まれておるということじゃ」
では、とバフメットがカーラに向かって拳を突きつけて、
「観客も舞台も整ったそれでは、始めようではないか、のう?」
シャフ角で挑発的に笑った。
16/10/15 22:46更新 / ルピナス
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