読切小説
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私のライバル
『久しぶりだなファラオ。今度こそお前を屈服してやるから覚悟しろ』

「あら、久しぶりねアポピス。その手に持っているのは?」

『よくぞ聞いた。これは私がひと月間ずっと湯浴みし続けたお湯を発酵させたもの、いわゆる”蛇酒”だ!めちゃくちゃウマイぞ、多分』

「いらない」

『湯浴み中におしっこもしてるからイイ感じのブレンド具合だぞ』

「もっといらない」

『これでお前を酔い潰して寝込みを襲うという作戦だ。どうだアタマいいだろぅ?さ、呑もうではないか』

「はぁ……しょうがないわね、受けて立とうじゃない。どうせ今回もまた私の勝ちなのだから」

『余裕ブッコいていられるもの今のうちだ。今日こそは、お前を犯して暗黒魔界にしてやるんだから』

「そっちこそ、先に酔い潰れて私にアナルほじくられる未来が見えるわよ?」

『残念だったな。そう来るだろうと思ってすでに対策済みさ』

「なんですって?」

『アタシのアナルはもうダーリンに開発されている』

「あぁ、そう……」

『雑談はここまでにしてそろそろ呑もうぜ。久しぶりなんだし積もる話もあるだろうよ』

「そうね。最後に会ったのは……いつ以来だったかしら」

『んー5年?10年?ぐらい前じゃなかったか?』

「そんなに前だったっけ」

『あたしもそんなに覚えてねぇーや!アッハッハ!!』

「あんたもう呑んでるの?呑んでるでしょ」

『シラフだシラフ!いやーホント久しぶりでさぁ、あたしが唯一認めた永遠のライバルとこうして呑み合うってのもなんかいいだろ?』

「私はあんたのことライバルだなんて思ってないけれど?」

『そういうこと言うなよ〜!ホラ、注いでおいたから、かんぱ〜い』

「んじゃ、まぁ乾杯ー」

『んぐっ、んぐっ……』

「んっ、こくっ……」



『…………』

「…………」








『「マッズ!!!」』



『ヴォエッッ!!アタシの蛇酒クソマズゥ!!』

「オロロロロロロ!!!!!」

『ワーッハッハ!!吐いてやがる!お、まさかこれはアタシの勝ちか、そうなのか!?』

「ぶふぇ……ま、まさかァ。こんなところで引き下がる私じゃないわよ。それに……ゴクッッ!!」

『オ、オイ、そんな一気に飲んだら』

「うぷっ!……フゥー、フゥー……どうよ、一気に飲んでやったわ。というかアレね、最初の一口は超絶クソマズだけど慣れると意外とイケるかもしれないわ」

『マジか?ふっふっふ、やっぱアタシの蛇酒はアタシみたいなコクと深みのある大人のレディーのような酒に仕上がっていたみたいだな』

「あ、いや美味しいか美味しくないかと聞かれたら全力で美味しくないのだけれど」

『ウーン本音が痛い』





※※※





「いやぁ、しかしまさかアンタとサシで呑むなんて思いもしなかったわ」

『アタシもファラオ相手なんかと呑み交わすわけないと思ってたんだけどよ。なーんか無性に呑みたくなってな』

「言っておくけどアンタに私の国をあげる予定なんてこれっぽちもないからね?」

『あたしもお前の国を諦める気なんてこれっぽっちもないから』

「せいぜい頑張りなさい。アンタは私に一度も勝ったことがないんだし、これからもアンタが勝つ未来は無いわ」

『それがもしかしたら今日になるかもしれないだろ?その日までアタシは挑戦し続けるだけだ』

「ほんと蛇って執念深いわね。あーやだやだ」

『伊達に長いことアポピスやってないからな』

「アポピスやるってなによそれ。アンタ生まれた時からアポピスじゃない」

『……実は今まで黙ってたんだけどアタシ実は人間からアポピスに魔物化してたんだ…………』

「ウソつくならもう少しマシな嘘つきなさいよまったく」

『即バレかよ。こりゃ手厳しい』

「……はい、もう一杯。アンタ注ぎなさい」

『おっ、社長今日はペース早いッスねぇ〜どーぞどーぞ』

「伊達に長いこと王やってないからね」

『長いことといえば……アタシら初遭遇したのもだいぶ前だったよなぁ』

「ゴクッ……そうねえ。あれは150年前くらい前だったかしら」





※※※





【ファラオ様、地の果てより悪しき蛇が災いをもたらしに侵略しています】

「通達ご苦労アヌビス」

【スフィンクスの守護防衛は突破され、ケプリ連合、マミーのトラップ群も壊滅状態です。ファラオ様、ここはどうか早急にご決断を……】

「知ってるわ。でも覚えておきなさいアヌビス。私はファラオ、王たる者。たとえこの身穢されたとしても玉座だけは渡したりしません。いざとなればこの身を犠牲にしてアポピスもろとも冥府の向こう側へと道連れ致しましょう」

【ファラオ……それはあまりに苦しき道にございます。ここは生き延び、国を再建してみては】

「なりません。王は太陽に等しく、全ての上に立つ者。侵略者に敗れた王の作る国など名ばかりの虚城の他なりません。私はこの地で天寿を全うすると決めたのです。さあ、貴女たちだけでもお行きなさい。貴女方国民が生きていれさえいれば私の国は滅ぶことがないのですから」

【いえ、その心配は無用です。私一人を除いて、生存者は皆すでに撤退させておりますので】

「アヌビス、貴女……」

【我が主はファラオ様ひとりにございます。たとえこの身尽きようとも、魔へ堕ちようとも、我はファラオ様の側近として側にいます。従者として矜持があるのです】

「そう……なら好きになさい。私はこれ以上貴女を止めようとはしません」

【感謝いたしますファラオ様。さて、そろそろアポピスめがこちらにやってきてもよい頃合いかと思われますが……遅いですね】

「いいえ、もう”居る”わ。その柱の後ろ、居るんでしょう?姿を現しなさい悪しき蛇」

『……チ、チィ〜ッス』

「…………」

【…………】

『あ、あのな、まさかそこまでシリアスな感じになってるとは思わなくてよ、ちょっとテンション下がっちゃった的な〜……』

【ファラオ様気をつけてください。こやつは油断させて我々を穢そうとしているに違いありません】

『いや、その、だからそのマジな感じのやつ?やめてもらえないかな〜って……アタシとしてももっとフランクに侵略したいわけでさ』

「……アヌビス、やつが何を言っているかわかる?」

【申し訳ありません。我も理解が追い付きませんゆえ、説明ができません】

『だ、だからさ…………いや、うーーーん……』

「何か考えているようですが」

『よし!気が乗らないからまた今度にするわ!!それまでには侵略される雰囲気づくり作っておいてなー』

「え、ええ…………」





※※※





「って感じだったわよね」

『あーそうそう思い出したわ。懐かしいなあ』

「何よアンタ”気が乗らないから”って。こちとら一国を担ってんのよ?それを気分で左右されちゃたまったもんじゃないっての」

『いや、アタシだって国盗り初デビューで知らないコトだらけだったから大目に見てくれって!もっとこう快く譲渡してくれるモンだと思ってたわけよ』

「ンなわけあるわけないでしょこのタコ!」

『お前酔ってくると口悪くなるよな……ってかアタシタコじゃなくてヘビだし』

「あれから大変だったんだからね?アンタが荒らした遺跡群やらトラップの復旧したり、逃亡した国民を引き戻したり云々……」

『それがアポピスの性だし、しょーがないだろー?悪かった、だなんて言った日にゃそれこそアポピスの面汚しってもんだ』

「あっっったり前よ。アポピスに謝られるファラオがいてたまるもんですか。アンタは侵略して私たちはそれを防衛する。昔っからそういう関係は変わらないのよ。暗黙の了解ってやつ」

『そういえば、侵略するたびにお前の家臣、毎回数人程度堕落させちまってるがそいつらってどうしてるんだ?』

「パンデモニウム送りにしてるわ」

『うっわえげつな……』

「いやねセックスして子供つくるのは大いに賛成だけども、堕落した子たちって仕事放棄してセックス三昧になっちゃうのよ。放っておくと魔力濃度がどんどん増えちゃって暗黒魔界になっちゃうから、そうならないための処置よ」

『ほーん、なるほどなぁ』

「アンタ他人事だと思って呑気に聴いてるでしょ」

『ああ、だって他人事だし。アタシ的にはみんなで堕落!ハッピーセックス!!子沢山!!!でいいと思うんだけどなぁ暗黒魔界』

「やっぱ分かり合えないわアンタとは。ま、そりゃそうよねえ」

『そりゃそうだ。ファラオとアポピスが意気投合とかフツーにないだろ』

「ふふっ……そう思うと私がアンタの酒を呑んでるのもなんだか変な感じね」

『んん?あぁ、そういえばそうなのか?気にしてなかったわ!!アッハッハ!』

【……オヤ、ファラオ様晩酌ですか】

「アヌビス、こんな時間まで仕事?」

『よっ、犬っち!お邪魔してるぜ』

【仕事のノルマを達成してないスフィンクスどもをシバいてたらこんな時間になってしまいまして。今から湯浴みに行くところです】

「お疲れさま。ゆっくり休んでおいで」

【ファラオ様もあまり飲み過ぎないように。若干呂律が回らなくなっておりますよ】

「いいのいいの。今日はちょっと深酒したい気分でね」

『ホラホラもう一杯いくぜ〜』

「ま、そういうわけだから気にしなくていいわ」

【……どうぞごゆるりと】

『あの犬っち、昔っからお前にべったりだよな』

「そうよ〜〜私の家臣の中でも一番有能なんだから」

『……あんまりこうは言いたくないが、他の家臣が無能すぎるんじゃないか?』

「私が気にしていることズバッと言うわね」

『だってそりゃ、お前のとこの家臣っていったらアヌビスだろ?それにスフィンクスに、マミー、ケプリって感じだろ』

「アヌビス達は有能よ。むしろアヌビスが国政の8割を担っているといっても過言じゃないくらい有能。それに引き換え……」

『スフィンクスなんてアタシが侵略するたびに居眠りしてるしな』

「ケプリは基本玉こねてるか夫とまぐわってるかだし、マミーはあんまり難しい内容命令すると頭ショートしちゃうし」

『よくこんなんで国政安定してるな……』

「他の国だって多少異なりはすれど基本アヌビスが主軸なのは変わらないと思うわ。というかアヌビスがいなかったら大半の国は今頃滅亡してるか暗黒魔界と化しているはずよ」

『アヌビス有能すぎ問題』

「ホントそれ。やっぱりあの娘らには休暇を増やしてあげるべきかなぁ」

『その点暗黒魔界ならいつでも休暇だから安心安全に仕事を任せられるぜ!』

「仕事の概念が壊れるわ」

『セックスするのが仕事みたいなものだからな』





※※※





「は〜〜〜ちょっと酔ってきたかしら〜〜」

『ちょっとってなんだよベロンベロンじゃねぇか』

「そーいうアンタはヤケにピンピンしてるわね。何?何かズルでもしてんの?」

『なーんか今日は特別酔わないんだ。……あ、そうか』

「??」

『アタシから作られた酒だからアタシ本人は酔わないんだわコレ』

「なにその謎理論」

『そうとしか考えられない!』

「あーはいはいそれじゃそういうことに…………おっと」

『ハハッ!だらしねーなー、もうまともに歩けてねぇじゃねぇか』

「う〜〜るさいわね〜〜ちょっと躓いただけよ」

『…………アレ、これってもしかしてチャンス?そうなのか?』

「あ〜?やっば……そういえばアンタ襲いに来てたんだっけ」

『アタシはピンピンしてるし、お前は泥酔ベロベロ。これはもしかして、もしかしなくても千載一遇大チャンス的な?』

「アヌビスーーアーヌビスぅーー!!あーそっか、湯浴みしてるんだっけ……ちょっとアンタ、飲ませすぎよ。おかげで酔っ払っちゃたじゃない」

『お前が勝手に飲んでたんだろうが』

「ちょっとこれは本格的にまずい……視界ぼやけるし力も入らない……」

『ついに…………ついに我が宿願を果たせり!!くぅ〜ここまで長かったぜ』

「何勝手に勝ち誇ってるのよ。まだ私は酔っぱらっただけで負けてなんか」

『ふんぬっ』

「あぐっ」

『ほら、デコピンしたって避けすらしない。もうお前の負けなんだよ!アッハッハ!!』


「こんな……こんなフザけた勝負で私が負けただなんて……くっ」

『さぁて、どうやって堕としてやろうかなぁ〜〜〜』

「悔しいけれど、私の負けだわ。はぁ、初めてアンタに負けた」

『ついに己の敗北を認めたな!それでいい、実にいい!』

「………………」

『ん?どうしたよ、もしやあまりの恐ろしさに言葉すら出ないか?』

「……アンタで良かったわ」

『は?』

「もし私が誰かの手によって国を落とされるとしたらって考えてさ。見ず知らずの他人にそうされたのなら悔しくて悔しくてたまらないのだけれど、アンタにならそうは思わないかもって」

『……ンだよそれ』

「アンタにならこの国を任せてもいいんじゃないかって、いつの間にか思うようになっててさ。家臣のことも把握してるし、地形だって詳しい、国政だって知ってるし」

『オイオイオイ久しぶりに会ったと思えば随分と腑抜けになったもんだなお前は。アタシとお前は宿敵だ、相容れぬ存在なんだ。国を任せる?バッカお前、そりゃファラオのお前が一番言っちゃいけねえ言葉だろうがよ』

「ファラオとして、ならそうだろうさ。けれど私は、宿敵であり親友でもあるアンタに言っているのよ」

『ファラオがアポピスに向かって親友とかおま……酔いすぎだろ』

「マジよ」

『マジか……』

「…………」

『…………言いたいことはそれだけか』

「私はもう覚悟できている」

『……ハァーーーー!!!!もういいや、興がそがれた。やめだやめ』

「私にここまで言っておかせながらまた気分が乗らないって言うの?アンタふざけるのも大概に……」

『アタシは抵抗するお前を無理やり屈服させたかったんだ。だのにお前はやれ親友だのやれ任せるだの、こっちがフザけんなって言いたいぐらいだわ』

「ア、アンタねぇ」

『ま、でもお前の言いたいコトが聞けて良かった。これだけでもいい収穫ってモンだ。それに今のアタシがお前を襲えるわけないからな』

「まさかアンタ最初からそれが目的で」

『アッハッハ!蛇の二枚舌には気をつけろよ?なんちて』

「アンタにしてはやるじゃないの。というかアタシを襲えない?なんか不具合でもあんの?」

『あーー…………お前まだ酔ってるだろ。そろそろ目ェ覚ませよ』

「??それってどういう」

『夢を見る時間は終わりだ。アタシもそろそろ時間だ、行かなきゃならねぇからな』

「なによそれ、全然意味わかんない。待ちなさいよ、私の酒が呑めないっての?」

『元はと言えばアタシの酒だぞそれ。まぁでも気に入ってくれたのならよかった。お前のために作った酒だからさ』

「不味いけど妙に気にっちゃったわ。また今度作って持ってきて頂戴」

『今度か…………悪いがそりゃ無理だ』

「なんでよ」

『なんでってそりゃ……お前酔いすぎだわやっぱ』

「あ、ちょ待ちなさいよ!!まだ話したいことが山ほど」

『お前と久しぶりに会えて楽しかったぜ。聞きたいことも聞けた』

「次はいつ襲ってくるのかしら?その時にでもまた語り合いましょう」

『それも無理だ。ほれ、あの犬っちが呼んでるぜ。そろそろ目覚ましやがれ』

「私はもう酔ってな……あれ、急に眠気が…………」

『じゃあな。実を言うとアタシもお前のこと、そこまで嫌いじゃなかった。いつかまた、何百年後かわからねぇが会ったときにでも飲み明かそうか』

「や、くそくよ…………おぼえて、なさ…………」

「ぐぅ…………」

『おやすみ。んじゃ、サヨナラだ。国づくりがんばれよ』














※※※





【……さま】

【ファ……オ様】

【ファラオ様】

「ん……むぅ。あぁ、アヌビス」

【ファラオ様。ひとり晩酌するのも良いですが酔い潰れるのは感心しませんね】

「ひとりじゃないわよ、ほらそこにアイツが」

「あっ……」

【お言葉ですが、ファラオ様は先ほどからずっとひとりでしたが】

「そう、よね……ううん、いいの、気にしないで」

【しかしこの酒、とてつもないニオイですね。いったいどのような……あっ】

「アイツ、今日が命日だったのよね」

【これはまことに申し訳ありませんファラオ様】

「いいのいいの。たまたま倉庫漁ってたら見つかったものだからそこまで思い入れはないわ。あ、一口飲んでみる?」

【ではお言葉に甘えて】

【……!!!これは、なかなか、コクと深みのある……お酒で】

「アヌビス。無理しなくてもいいのよ。こんなクソマズな酒にお世辞なんていらないわ」

【すみません】

「コップよこしな。それで最後なんだから全部呑んであげる」

【今日はあやつが亡くなられてちょうど10年ですね】

「やっぱり10年だったのね。アイツ、自分の命日すら曖昧なんだから」

【ファラオ様にはあやつの幻影が見えていたのですか?】

「んー?さあね、どうだろ。私だけの秘密にしておくわ」

【左様ですか】

「そ。アヌビス、ちょっと酒付き合いなさいよ」

【我で良ければお付き合いいたします】

「今夜は寝かせないわよ」

【ファラオ様の命ならなんなりと】

「ちょっと新しい酒探してくるわ。待ってて」

【いえ、ここは我が調達してまいります。ファラオ様はどうぞお休みなられてください】

「あ、ちょ……あいつはあいつでクソマジメなのが玉に瑕ね」

「けど、口直しに別の酒呑みたかったから呑み相手見つかって丁度よかった」






「こんな酒もう二度とゴメンだわ。そう、二度と……」

「もう二度と呑めないのよね」
17/04/11 15:02更新 / ゆず胡椒

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