連載小説
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No.13 融合
「ふん・・・剣に頼る餓鬼ならこの程度しか戯れぬか」
「ぐぅ・・・っ!」

 傷だらけとなった少年を見下す女。レグアはもてる限りの力で相手に挑むも、全て返り討ちにされる。すでに少年の身体は立っているのがやっとだった。

「はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・・・・ん?」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・
「「!?」」

 突如、辺り一帯へ撒き散らされた魔力の重圧に女だけでなく、レグアも身体を震わせる。

「なっ、なんだ!? 何が起きた!?」
「この力は! もしや・・・っ!?」

 女はリリムと青年がいる方向へ視線を向けた。その光景を見た瞬間、彼女は言葉を失う。



 レンジェの身体がまばゆいピンク色の光を放っていた。


 それはまるで光が彼女の身体を創り上げているかのようである。


 髪と同じ純白の翼もその色に染まり、通常より一回り大きくなっていた。


 足元にはピンク色に輝く五芒星の魔法陣が大きく展開されている。


 瞳もピンク色の輝きを放ち、その視線は女に向けられていた。



(な、何故だ!?・・・何故、我が震えなければならない!・・・)

 レンジェの姿を見るだけで、女は心と身体を震わせてしまう。まるで彼女を見て怯えるかのような震えである。しかし、女は闘気を奮い立たせ、対抗して怒気を撒き散らした。

「否・・・否、否! 否ぁぁぁ!!・・・我は震えてなどおらぬ!」

 そう叫ぶ彼女は多数の触手を背中から出して、レンジェとレグアへ光線の雨を降らそうとする。

「くっ・・・」
ヒュン!
「!」

 光線が放たれる前に、レンジェは一瞬で少年の元へ辿り着き、ピンク色に輝く四角錐型の障壁を展開した。その光の壁によって、二人は降らされた光の雨から守られる。

「大丈夫ですか?」
「お前・・・」
『小僧、よくやった』
「!?」

 目の前で立つレンジェの口から、シンヤのような男の口調が響いた。

『後は任せろ。それとシンヤの身体を頼むぞ』
「か、身体って・・・一体・・・」

 少年が問い掛けるも、レンジェは無言で女に目を向ける。障壁を維持しながら彼女は左手を上げ、上空にいくつもの炎の球を出現させた。それはやがて鷲のような形となり、女の触手に向かって飛んで行く。

ゴオオオオオ!!
「!?」

 炎の鷲によって体当たりされた触手は次々と焼け焦げていった。

「この・・・集りおって!」

 残る触手で撃ち落とそうとするが、複数による連携攻撃で触手のほとんどが焼かれてしまう。業を煮やした女は足もとに魔法陣を展開させて、辺りに衝撃波を撒き散らした。

ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 衝撃波によって、上空を飛び回っていた炎の鷲は消し飛んだ。障壁すら貫通する強力な衝撃。それを受けたレンジェは動じずに立っていた。女の表情に焦りが出始める。

「何故だ・・・何故平然としてられる!?」
「魂を震動させるあなたの衝撃・・・確かに障壁でも防げないですが・・・」
『今のレンジェの魂は俺が守っているからな』
「くっ・・・ならばぁぁぁ!」

 女は刃髪を逆立てて飛び掛かった。対するレンジェは左手に魔刀が納められた鞘を手にする。彼女は居合の構えで女を待ち構えた。

シュピイイイイイイン!!
「!?」

 飛び向かう女は回避のため、上空へ高く飛び上がる。レンジェは居合の斬撃を一瞬で2撃放った。ピンク色の残像を残す斬撃は×字に描かれ、避けきれなかった女の右側にある刃髪を切り落とす。

「小娘がああああああ!!」

 相手の背後に周り、両手の鉤爪と残る刃髪で襲い掛かる女。レンジェは素早く回避して、刀と鞘で応戦する。突き刺そうとする刃髪は鞘で受け流し、鉤爪は剣で弾き返された。

「ええい! 小賢しい!!」

 再度上空へ高く上がった女は、両手を切り裂くように振り被り、赤い三日月型の刃を多数飛ばす。その攻撃にレンジェが少し焦ってしまう。

『落ち着いて、斬り落とせ』
「は、はい!」

 シンヤの呼び掛けで、冷静になった彼女は鞘を消失させ、魔刀を両手で構える。素早い太刀筋で彼女は飛来する刃を斬り壊した。

「小娘ぇぇぇ!!」
「!」

 瞬時に接近した女はレンジェに掴み掛かり、相手を床へ押し倒す。押さえ付けられた状態で、剣すら振れないレンジェに女の刃髪が襲い掛かった。

「串刺しに・・・」
「・・・っ!」
ヒュン!
「!?」

 突如、女の右側から何者かが剣で斬り掛かる。いち早く気付いた彼女は真ん中の刃髪で受け止め、襲撃者に目を向けた。

「なっ!?」

 それは黄色に輝く女騎士で、身体以外に鎧や剣すらバチバチと電気が走っている。その風体に女は見覚えがあった。数日前、レンジェの屋敷外で操人にした女騎士と姿が似ている。

ヒュン!
「ちぃ!」

 さらに左側からも斬撃が襲い、女は組み付いたレンジェから素早く離れた。新たな黄色の女騎士が現れ、それも彼女に攻撃したのだ。そちらも同じ姿をした存在である。レンジェが起き上がると同時に、二体の女騎士が女に走り向かった。

「あの女子の! それにこの術は!」
「ええ・・・察しの通り、雷のデュラハンです」

 レンジェの魔力で構成された式神とも言える分身。シンヤの能力と彼女の魔術を合体させた術である。雷の塊である二体は電撃の剣で相手に斬り掛かった。女は刃髪で防ぐも、電撃によって感電してしまう。

バチィ、バチィィィィ!!
「ぎぃぃぃ!! 首無しがぁぁぁ!!」

 苦痛の声を洩らす彼女は、両手に光球を出現させて、それぞれ二体の雷体へ放った。光球による爆発で二体は消し飛ばされる。続けてレンジェにも赤い光球を複数飛ばした。

ドゴォ! ドゴオオ! ドゴォ! ドゴオオオオオオン!

 連続の爆発による大きな煙でレンジェの姿が見えなくなる。女は力の波動で相手を感じ取っているのか、苦い顔をし続けていた。

「・・・・・・また術か!」

 煙が晴れると、そこにはレンジェ以外の4体が存在した。

 コウモリのような羽のマントを持つ女性。身体の全てが冷気を放つ、氷塊で出来た貴族のような魔物ヴァンパイア。それらはレンジェを守るかのように、自身の羽で女の光球を防いでいた。

「ヴィーラ!」

 レンジェの掛け声で、氷の吸血鬼たちは自身より長身な三又槍を創り上げる。それらは片手で槍投げの構えをし、女に向かって投げ付けた。

「くっ! 蔓よ!!」

 女の周りに多数の魔法陣が出来上がり、そこから赤い触手が大量に伸び出る。飛んで来た氷槍は触手に掴み捕られ、絞め壊されてしまう。大量の触手はレンジェに狙いを定め、一気に伸び向かった。

「喰らい尽くせ!!」

 レンジェは落ち着いた表情で詠唱すると、全ての氷の吸血鬼が砕け散る。それから数秒も経たない内に、彼女の周りに炎の塊が5つ出現した。

 それは立派な翼とトカゲのような尻尾と手足をした女性へと形作る。それはドラゴンと言われる最高位の魔物。並みの魔物とは違う圧倒的な魔力をもった種族。炎の竜たちは口元から強烈な炎の息吹を吐いた。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「!?」

 その息吹は触手全てを包み込み、一瞬にして黒く焦がした。残った触手で身を守った女は、焦げた触手を鉤爪から飛ばした光刃で薙ぎ払う。

「おのれえええええええ!!」

 女は鉤爪をさらに長く伸ばし、レンジェに斬り掛かった。レンジェも魔刀を両手で持ち構え、炎の竜たちも待ち構える。

「邪魔だてするなぁぁぁ!!」

 女は鉤爪と刃髪で次々と竜たちを切り裂いていった。同じようにレンジェにも斬り掛かり、お互いの刃同士で弾き合う。素早い対応で相手の刃を防いでいくレンジェ。まるで女の攻撃が全て見えるかのような動きである。

「何故、我の速さに付いて来られる!?」
『力任せに放出するお前と・・・』
「一緒にしないでください!」

 流れるように動くレンジェは女の左肩を浅く切り裂いた。小さな切り傷から赤い血液が垂れていく。憤りを覚える女は相手すら巻き込む程の魔法陣を足元に展開させた。

「!」
「死ねぇぇぇ!!」

 只ならぬ術だと判断したレンジェは、その場から宙返りするかのように飛び上がった。その直後、女の赤い魔法陣から槍のような先端をもつ無数の赤い触手が飛び出る。それらは不規則に曲がりながら天に向かって伸び続けた。

 空中で飛び続けるレンジェは翼で回避するか、魔刀で触手を切り刻んでいく。触手による攻撃で、彼女は相手を見失ってしまう。

「妖は!?」
『上だ!!』
「っ!?」

 シンヤの指示でレンジェは上を向く。彼女よりもさらに上空へ飛んでいる女。高く挙げられたその右手には巨大な光球が浮かんでいた。

「消え去れええええええ!!」
『まずい!!』
「障壁!」

 レンジェは瞬時にピンク色のひし形障壁を展開。すると、女は地上へ線を描くかのように巨大な光線を薙ぎ払った。その射線上にいたレンジェは障壁で光線を防ぐ。

ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!
「くっ!」

 光線の衝撃で周りにある城の外壁がさらに崩れていく。攻撃が治まり、レンジェの視線が相手のいる場所へ向けられた。

「・・・えっ!?」

 しかし、そこに女の姿は無く、赤黒い空しか見えなかった。

「どこに!?」
『上に飛べ!!』
「!?」

 彼の指示通り、レンジェがさらに高く飛び上がった途端、彼女の後方から鋭い刃が左横から2連続で襲い掛かる。

「ちぃ!!」

 女は魔法陣による瞬間移動でレンジェの背後から強襲したのだ。だが、気配に気付いたシンヤによって、彼女の刃髪は虚空を切り裂く。

『それで意表を突いたつもりか?』
「貴様かぁぁぁ!!」

 再度、接近して斬り掛かる女。レンジェは魔刀を両手に持ち構えた。

「双鏡、斬悦!!」
バキィィン!!

 手にしていた魔刀が二つに分かれ、両手にそれぞれ同じ形をした刀が出来上がる。二刀を手にした彼女はその双剣で女に挑んだ。空を舞うように動く彼女は相手の攻撃を受け流し、素早い斬撃を繰り出す。

「くっ! このぉぉ!」
「はっ!」

 鉤爪の後に来た真ん中の刃髪を右手の刀で横へ逸らし、その間に左手の刀で切り落とした。またも切り落とされたことに腹を立てた女は、最後に残った左の刃髪から赤い光球を放とうとする。

「甘いです」
「っ!?」

 レンジェはそう言うと、左手に持っていた魔刀を刃髪へ投げ付けた。それは光球に直撃し、小規模な爆発を起こす。

ドォォォォン!!
「ぐぅぅぅぅ!」

 思わぬ攻撃に女は間を取るため、転移魔法陣で相手から離れた。左の刃髪は先程の爆発で消し飛ばされてしまう。思うように攻撃できない彼女はレンジェに問い掛けた。

「貴様は・・・貴様らは一体なんなのだ!?」
「あなたに仇なす者です!」『おまえに仇なす者だよ!』
「こんな奴に、何故我が震えなければならない!!」
『震える・・・だと?』
「我がこれだけ震えたのは、あの時以来よ!! そう! 妖狐だったとき、あの小僧の決死の一撃! あれさえなければ・・・」

 話す途中で、彼女はあるものから目が離せなくなる。

「妖さん・・・今すぐ降伏し、奪った力を戻すなら命は・・・」
「・・・その目だ・・・・・・」
「?」
「その目・・・あやつと似ている・・・・・・我を震え上がらせた・・・」
『目・・・だと?』
「我の顔ではなく・・・我自身である魂を傷付けた・・・そなたさえ・・・」

 女は形相を変えて、両手を前にかざした。髪がざわめくように浮かび、両手の前に紅い光が集束され始める。

「そなたさえいなければ!!」
「!」
『消し飛ばすつもりか!?』
「その目を持つそなたが気に食わぬ!!」


 レンジェにも相手が何をするかが解った。

 それは持てる力を全て放出し、強力な光線で自分たちを消滅させるつもりだ。

 止めようにも距離があり過ぎて、とてもじゃないが間に合わない。

 どうしようか思考を巡らそうとした時、シンヤの声が響いた。


『レンジェ』
「は、はい?」
『俺がお前の全てを守る』
「え・・・」
『その間に魔刀で奴を突き刺せ』
「で、でも・・・」
『決着をつける。信じろ』
「・・・はい!」

 彼女は威勢よく返事をし、両手に持つ魔刀を構える。自身の右側へ両手を引くように持っていき、左手だけ添えるかのように指を拡げた。剣の切っ先は女の方へ向けられた。

「塵一つ残さず滅ぼしてくれる!!」
キイイイイイイイイイイ・・・・・・
「はあああああああ・・・」
キイイイイイイイイイイ・・・・・・

 女は紅いオーラを纏い、レンジェはピンク色の光を纏い始める。それぞれが周囲の空気すら揺るがすほどの力を放出し、ただ一人近くにいたレグアが呆然と見ていた。

「なんて力だ・・・」

 空気が張りつめる、その刹那、女の両手から巨大な赤い光が放たれる。

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 それはまっすぐレンジェに向かって放出された。

『行けぇぇぇ!!』

 光が放たれた際、遅れてレンジェも動いた。彼女はピンク色の光だけを纏い、構えた魔刀を前へ付き出すように飛び出す。赤い光に飲み込まれた彼女の姿は誰からも見えなくなった。

(愚かな・・・我のこれに耐え切る輩なぞ・・・ぬ!?)

 彼女の目には信じがたいものが映っていた。あらゆるものを消し去る赤い光。その中を突き進む一つの影があった。ピンク色の光を纏う異形の女性。彼女は輝く剣を突き出すようにこちらへ向かって来る。

「な、何故・・・」
「はあああああああああああああああああ!!」
ズブシュ!!

 特攻してきたリリムの魔刀が女の胸の中心に突き刺さった。その切っ先は彼女の身体を貫き、背中から剣が生えるように突き出ている。

「がぁ! が・・・ぎ、ざま・・・」

 女は剣で突き刺すレンジェを鉤爪で掴もうとするが、まるで急所に入ったかのようで思うように力が入らなかった。一方のレンジェは女の身に何が起きているのか解らなかった。

『苦しいか? それもそうだ。貴様の魂そのものを貫いているからな』
「え? 魂そのもの!?」
『何故かは解らないが・・・レンジェ、君には妖を傷付ける要因がある。だからこそ、こいつはお前に怯えたのだろう』
「要因・・・」
『簡単に言えば、君は妖にとって弱点となる存在だ』
「私が・・・弱点?」

 彼の言うことが正しければ、レンジェ自身納得のいくことがある。


 以前の襲撃時に、女の吸収から抜け出せただけでなく、相手を弱体化させた。

 あの時に負わせた傷は思った以上の苦痛だったと女は発言していた。

 そして、妖は自身に反し、レンジェの存在に脅威を感じ取っていた。

 リリムである彼女は妖に対する何かを秘めていたのだ。


 口元から血を流す女は、歪んだ笑顔をしながら口を開いた。

「あ゛の、どきど・・・おな、じが・・・・・・」
『ああ・・・』
「じょぜん、な゛まみのにぐ、だいに・・・ずぎん・・・」
「何が言いたいのですか?」
「・・・ふふふ・・・ぶっ・・・づぎは・・・我ではなぐ・・・貴様らを滅ぼす・・・」
『そうはさせん』
「えっ?」
「はっ?」

 シンヤの宣言に女とレンジェが呆れた声を出す。

『今まで俺が何も考えずに貴様を倒していたとでも?』
「・・・!」
『俺はこの機会を待っていた・・・貴様の魂に触れられる瞬間を・・・』
「ぎ、きざま・・・なにを・・・!?」
『俺自身も何故“転生”を繰り返すのか・・・疑問に思っていた。だからこそ、貴様を倒すときや、自身の魂がなんなのか、それらを調べ続けた』
「シンヤさん、それってもしかして・・・」
『・・・・・・俺とお前には転生するための術式が刻まれている』
「「!?」」

 その告白に驚愕する彼女達。続けてシンヤはレンジェにあることを伝えた。

『レンジェ、俺の術式を糧にして、奴の術式を壊す方法を教える』
「!」
『それで奴を滅ぼせ』
「で、でも・・・それだとあなたが!」
『死ぬわけではない・・・だが、奴を消滅させるには安い代償だ』
「シンヤさん・・・」
『今やらなければ、奴を後世に逃がしてしまう・・・また、あの娘たちのような犠牲がでるぞ!』
「・・・」

 レンジェは躊躇うように目を瞑るが、すぐに見開いて答える。

「教えて・・・ください!!」
「よ、よぜえええええええええええええ!!」

 戦慄の叫びを上げる女を余所に、レンジェの身体がさらに輝きだした。ピンク色がさらに輝きを増し、魔刀が突き刺さる女の身体にピンク色の亀裂が入り始める。もがく女はレンジェを引き剥がそうとするが、彼女に触れる事すら出来なかった。

「やめろおおおおおおおお!!」
『心配するな。俺も出来たらお前と同じように生まれ変わってやる』
「お゛のれええええええええええええええ!!」
「はあああああああああああああああああああああああああ!!」

 彼から送られた術式を元に、レンジェは術式破壊の魔力を剣に送り続ける。次第に女の身体全体に無数の亀裂が入り、彼女が纏っていた紅いオーラがピンク色へと変わった。

「ご、こんな・・・こどがぁ! あっで! たま・・る・・・」
『前にも言ったはずだ。俺に会った時点でお前は終わっていると!!』
「術式解放!・・・終わりです」
キィィィィ、バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

 彼女達の足元の空中に、巨大なピンク色の五芒星の魔法陣が出来上がる。それは彼女達を包み込む程の光を放ち、女の身体を徐々に四散させていった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 この世のものとは思えない悲痛の叫びを上げ、彼女の身体は天を貫くほどの光の柱へ流されるかのように消失していく。光の柱には見たこともない術式と思われる呪文のような文字がいくつも浮かび上がっていた。





「あれは・・・一体・・・」
「姫様・・・」

 森林の中、多数の兵士達を引き連れたセシウと夢乃。彼女らはスリップス領の城から放たれたピンク色の光の柱に見惚れていた。

「・・・」

 同じように見ていたヴィーラは無言で眺めながら、手にしていた小さな水晶玉を握り締める。





 スリップス領の城下街で戦っていたリトラとマニウスも光の柱を目撃した。それを機に周りにいた大勢の敵に変化が現れる。

 操人と化した女性は紫色の球を吐き出し、背中から生えた触手も抜け落ちていく。

 落とし子らは煙を上げて、まるで腐っていくかのように溶けていった。

「自滅している?」
「レンジェ様とシンヤ君がやってくれたのか?」
「・・・ふぅ・・・」
「リトラ!」

 ふらつく彼女をマニウスは駆け寄り、その身体を両手で支える。大勢との戦闘で疲労したリトラは緊張が切れたかのように力が抜けたのだ。

「大丈夫か?」
「ええ、少し疲れただけ・・・・・・マニウス・・・」
「な、なんだい?」
「久々にあの子と遊びに行きたい・・・」
「・・・そうだな。今度行こうか」





 光の柱が消失し、残ったのは薄いピンク色の光を纏うリリムのみ。彼女は徐々に晴れていく空を見上げながら飛んでいた。妖によって変えられた赤黒い空が、満月が浮かぶ星空へと変わっていく。

「・・・・・・せめて、来世で良い生まれ変わりを・・・」
『・・・』
「シンヤさん?」
『・・・』
「シンヤさん! どうしたのですか!? シンヤさん!!」

 レンジェは胸に手を当てて、シンヤの魂へ呼び掛けた。今まで聞こえていた青年の声はなく、魂そのものが健在であることは確認できる。

「!」

 彼女は急いでシンヤの肉体のある地上へ飛び向かった。近くに居たレグアを無視し、青年の傍へ両膝をつけて座る。

「な、何を・・・」

 レンジェは空っぽである青年の顔に近付き、迷うことなく彼に口付けをした。それを見ていたレグアは赤面しながらそっぽを向く。そんな中、彼女の喉元から何かが蠢き、青年の口へと入っていった。

(お願い! 戻って!)

 彼女が青年に送り込んだもの。それは“陽なる存在”である魂である。彼女はそれを慌てて肉体へ戻し、口付けを止めてから青年の顔を見た。

「シンヤさん!」
「・・・」
「起きてください! シンヤさん! シンヤさん!!」
「・・・」
「どうして?・・・魂は戻したはずなのに・・・」

 レンジェは彼の右肩に手を置き、揺さぶり起こそうとする。未だに反応がない青年に、彼女は涙目になりながら揺さぶる手を止めた。



「シンヤさん・・・・・・起きて・・・お願い・・・・・・」
12/07/15 10:46更新 / 『エックス』
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