連載小説
[TOP][目次]
後編


『さーて、始まりました、『第一回、最強竜騎士決定戦』! 会場のアナウンス及び実況担当の魔女っ子で僕っ子の、モイガナがお送りするよー!!ちなみに解説役はホテルのオーナー兼、この大会の発起人であるこのお方』
『数筋の白銀髪を持つサキュバス。本名は旦那様以外には秘密よ♪』
『という二人でお送りしマース!』

 バンバンと花火代わりの弱体化させた炸裂魔法が空に木霊するのは、開催地であるヴォルカ・フリュードの中でも一番の大きさを誇る――前魔王時代の過去から今に至るまで竜騎士の試合を行ってきたという、由緒正しき闘技場。
 そこに魔法で拡声された魔女の声が木霊している。

『さて本名不詳のサキュバスさん。何故この大会を開こうと思ったかお尋ねしてもー?』
『この街は昔から名だたる竜騎士を輩出してきた街なの。だけど、最近はこの辺り平和でしょ。だから『竜騎士って何やってんの?飛んでるの見た事な無いんだけど』って声も多くてね。この際だから、竜騎士の凄さとかを見せつけようって、この大会を企画したのよ』
『ホウホウ。で、本音は?』
『ぶっちゃけて言っちゃうと、街興しよ。最近は各地の魔界化が進んで、温泉が各地に作られてきたから、温泉街もテコ入れが必要なのよ。それで街興しの面倒な役目を、私が押し付けられちゃったって訳』
『うわーい。世の中のしがらみと、世知辛さが見えちゃったゾ』
『良いのよ私の事は。今回の主役はホラ』
『そうですよー!今回の主役は、ワイバーンおよびドラゴンの背に跨って、雄姿を披露する竜騎士の皆さんです。では会場の皆様、壇上に居らっしゃる竜騎士様たちに盛大な拍手をー!!』

 会場の二人の会話を聞いて苦笑顔だった観客から、ぱちぱちとの拍手が闘技場内に木霊する。

『はい。ストーップ、煩いですよー!あんまり大きな拍手だから、耳塞いじゃったじゃないですか。僕が』
『でね、選手の紹介なんだけど――』
『ボケ殺しとは恐ろしいですね!でも、めげませんよー僕は。後でお兄ちゃんの膝の上で泣きますけどね!!』
『ねぇ、話続けても良いかしら?』
『一度ならず二度までも!今回は「めげてるじゃないの」と「座位でするのかしら」の、二つの突っ込みが出来るのを用意したのに、見事にスルーですか!!あ、どうぞお話続けてください。あと、睨むと皺増えますよ?』
『自分が一生ロリだからって、皺の話を出すなんて――あ、褒めて無いから、無い胸張らなくていいのよ?』
『ふふーん。無い胸こそ、サバトの誇りですから。それで僕を貶そうと思っても無駄ですよー!』
『……で、選手の紹介なんだけど、面倒だから試合の前の入場で出てきたときにするわ。隣の魔女がね』
『おおーっと、ここで行き成りのキラーパス!――って本当に聞いてませんよ。原稿はありますよね。え、その場で考えろって、プロフィールとか貰ってないんですけど。あ、あの……無茶振りキター!!』
『ホラホラ、あんまりはしゃいでいるから、闘技場の竜騎士様たちが困惑顔よ。それに会場のお客さんに手を振り続けて、疲れてないかしら?』
『半分は貴女の所為ですからねー!あ、竜騎士様たちはスタッフの指示に従って一度お下がりを。会場の準備が済んだら、係りがお呼びに参りますので〜。ソレまでは暫しの、愛しい奥様との語らいを、きゃ♪』
『ハメを外し過ぎて、大会に影響しなければ許可します』
『会場のお客様たちは、是非ともこの間におトイレを済ませたり、おつまみ飲み物を買って置いて下さいね。ちなみに僕のお勧めは、まかいもフリッターとエールです。フリッターの塩気とエールが最高。さらにケチャップつけて食べるとなお良し!』
『見た目に反して、好みはオヤジね』
『ハッ、うっかり本音が!あわわ、バフォ様に怒られる〜……』

 などと喧しい会話が続く中、騎士たちは割り当てられた控え室へ、観戦客は闘技場内に設置された売店へと向かって行った。






 闘技場の中央でガギリと金属と金属が噛み合わさる音が響き、古の姿に戻ったワイバーンが咆哮を上げ、周りの観客が熱狂の声を上げている。
 その闘技場の観客席の一番上の段に、シュラーキとウィードが居た。
 二人とも何時も任務をこなす時に身につけるものを着て立っている。つまりは、シュラーキはウィードの足が掴む取っ手が肩に付いたハーネスと航空用防寒着を、ウィードは薄いビキニ状の布だ。
 シュラーキの手の中には、朝食時に気に入ったのかまかいもフリッターがあり、ウィードは彼に後ろから手を回して抱きついた格好で、竜騎士の戦いを観戦している。

「古の姿のオオトカゲが二匹居たら、流石に大した迫力よね〜。あのサキュバスも良い所に目を付けたと思わない?」
「うーん。僕としては、普通に温泉の効能とか種類とかを宣伝したり、何処に出しても恥ずかしくない名物を作った方が、街興しには良い様な気もするんだけどね」
「夫持ちの魔物娘に取ったら、そっちの方が魅力的だけど。未婚の魔物娘のために男の人を呼び込むには、派手さと迫力でこっちでしょう」

 そういう考え方もあるのかと呟いて、シュラーキはフリッターを一つ摘んで妻の口へと差し出す。
 ぱくっとウィードがそれに食いつくと、じっくりねっとりとシュラーキの指をしゃぶって、フリッターにシュラーキの味を染み込ませる。

「もぐもぐ。それにしても、あのサキュバスの言った通りね。全然空を飛んでないじゃない。あんな地べたに浮かんで、体当たりしたり槍で小突き合ったりして、何が面白いんだか。もっと上空を気持ち良く飛べば良いのに」
「まあ、体格を生かしたワイバーンの突撃を主体にして。それを騎士がフォローをするための長槍と、防御のための盾と重装甲の鎧って訳だからね。上空を飛ぶのには適さないね」

 確かにシュラーキが言った通り、地面から少し浮いた古の姿のワイバーンが翼で空を打って前方に突撃し、もう片方が避けるなり突撃し返すなりすると、近づいた間合いから騎士が槍の応酬を繰り返し、相手の防御の隙間を狙っていく。その間に騎竜は騎士の邪魔にならない程度に競り合う。
 決着が着かないと判った騎士が、手綱を引いて相手との距離を離すと、ワイバーンが威嚇と威圧を繰り返しつつ、闘技場内を移動しつつ突撃のタイミングを図る。
 そして何かの合図があったかのように、二匹のワイバーンがお互いに相手に向かって突撃していく。

「これが一番最初の試合だから良いけど。こんな調子なのが二試合三試合って続いたら、観客は確かに飽きるわね」
「まあ、ドラゴン乗りの騎士様も居るから、この戦いがずーっと続くとは一概には言えないけどね」
「そうすると『竜の吐息』とか使っても大丈夫なのかしらね。この闘技場が焼けたりしないかしら?」
「観客への被害を抑えるために、至る所に立っている魔女が障壁張ってるから、大丈夫なんじゃないかな」
「しかし、この実況は本当に実況をする気があるのかしら?」

 そう言いつつ、視線は試合を見たままで耳を虚空の音へと傾ける二人。
 すると、闘技場からのワイバーンが衝突する音の後に、例の魔女モイガナの声が聞こえてくる。

『きゃー、凄い音です!コレで五度目の衝突ですが、両者一歩も引きません。そして騎士の槍の応酬と、ワイバーンの咆哮による威嚇が始まりましたー!しかし一体何て叫んでいるんでしょうか?「このやろー」とか「おまえのかーちゃんでべそー」とか言ってるんでしょうか?』
『あれよ。「アンタの旦那より、私の旦那の方がカッコイイ」とか「私の旦那は夜凄いんだから」と言ってるんだと思うわ』
『もしかして、ワイバーンの言葉がお分かりで?』
『判らないわよ。ただ、咆哮するとかなり両者怒るわ。魔物娘が怒るとしたら、大体が旦那の事だって相場は決まっているものよ』
『確かに。僕もお兄ちゃんを貶されたら、例え相手がバフォ様でも許しませんね。ええ。でもウチのバフォ様は情と懐が深く、大抵の事を笑って済ますお方なので、そんな心配まったく無いですけどねー。そんなバフォ様のご尊顔を拝したい、ロリっ子の魅力を確かめたいなど、ウチのサバトに入信希望の方は、近場の魔女に気軽にお声掛け下さい。パンフレットを差し上げますので〜』
『ほら、貴女が変な勧誘している内に決着しちゃったじゃない。観客の方たち見逃してなければ良いけど』
『おーっと、しまったー気が付かなかった!あ、魔女に声掛けるのは良いですけど、了承無しにお触りするのは駄目ですよ〜。はいそこ、注意!』

 モイガナの声に合わせ、観客席の片隅で爆発音が木霊した。視線を向けると、半泣きになっている魔女の足元に、やや焦げた男がつぶれた蛙のように伸びていた。魔女がお尻に手を当てていることから、どうやら尻を撫でる等の痴漢行為をしたのだろう。

『今のは伴侶無しの子だったので気絶程度で済みましたけど、夫持ちの子だとかなり容赦ないですよ。観客の方々は、そこのところ注意して下さいね。いかに魔女のロリ尻が魅力的でも、ちゃんと了承を取ってください。YESが無ければ、NOタッチの精神ですよー』
『気を付けなさいね。夫持ちの子は、夫以外の男性に体を触られるのが我慢ならないから、蛸殴りにされるかも知れないわよ?』
『ちょっと、おっかない事言わないで下さい。魔物娘は基本的に、人を傷つけるのを嫌うんですからね。そんな酷い事しませんよ!』
『じゃあ貴女は夫以外の男に触られても泣き寝入りするのね?』
『はぁ!?そんなヤツ、魔法で麻痺らせて腹に蹴り入れますよ。当然じゃないですか!』
『立派な暴行じゃないの、それ』
『蛸殴りなんて、酷い事しないって話しです。それに蹴るのは、僕のか弱いあんよで、お腹に一発だけですよ。それこそ人間の女性なら、痴漢の股間に容赦ない打撃を与えたりしますので。それを考えたら魔物娘は十分に優しいでしょ』

 どっちもどっちだと思ってしまうのはしょうがない事だろうか。
 そんな実況を聞いていたシュラーキは、途端に苦笑した。

「これはあれだね。あのサキュバスの作戦だね」
「作戦?ただ煩い小娘にしか思えないけど」

 あむっと、シュラーキの手からフリッターを食べたウィードは小首を傾げる。
 そんな可愛らしい仕草のウィードの頭を撫でつつ、シュラーキは説明するように喋り始める。

「僕らはこの実況を聞いていたわけだけど。試合の内容思い出せる?」
「あー、そういえば、目で試合見ていたハズなのに、決着の場面が印象に残ってないわね」
「似たような試合が続くんなら、実況とかで印象を操作する。そうして前後の試合の相似性を気付き難くさせるわけだね。まあ、あの魔女は仕込みの無い素の状態なんだろうけど」
「ふーん。あ、そういえば私たちの試合って何時なのかしら?」
「確か予定表だと、真ん中よりやや後ろぐらいだね。丁度、あの魔女の話術の魔法が解ける頃だね」
「未だ時間あるわね。じゃあ闘技場内の出店で、美味しいもの食べつつ過ごしましょう」
「あんまり食べ過ぎると、試合に影響するんじゃない?」
「大丈夫よ。それに、飲食娯楽お土産タダの、選手用フリーパスを使わないと勿体無いじゃない」
「しょうがないなぁ。あ、でもお酒類は飲んだら駄目だよ」
「大丈夫。ちゃんとお土産用のを買って、後で飲めば良いんだから」

 もう試合の興味が無くなったのか、ウィードはシュラーキの手を取って出店のある方へと歩き始めた。
 その道すがら、ワイバーンであるウィードの姿を見た観客は、二人を選手の一組かと注目したが、シュラーキの着ている物が騎士らしくなかったためか、ただの観客と判断したのだろう。興味を闘技場の中で始まった第二試合へと移して視線を向けつつ、始まった魔女のモイガナの実況に耳を傾けていった。




『余りに迫力ある竜騎士同士の戦闘の観戦を続けて、疲れたご様子のお客様方に小休憩を挟んだ所で、第一回戦も残すところ三つとなりました。皆様、ちゃんとトイレには行きましたかー?ちゃんと手にはおつまみとエールを握ってますかー?』
『そんなことは良いから、さっさと次に行きなさい』
『はい。大会の発起人様から注意されましたので、では次の試合に参りましょう!』

 魔女モイガナの実況を受けて、係りの者がワイバーンを伴った竜騎士を、闘技場の中央へと進むように促す。

『出てきましたのは、おーっと、この地元では知らないものが居ないというほどの名家。カラノキー家の三男坊、トニッセル・カラノキー様だー!』
『ああ、あの子沢山の家系の子ね』
『はい、サキュバスさんの仰った通り、カラノキー家は多産の家系です。家を存続させるために長男長女は人間とお見合い結婚しますが、彼と彼女は大体十人程の子供を生むのです。そしてその特性が魔物娘にも効くのか、その他の子供たちが結婚した魔物娘に、子供を孕み難いはずなのに、ポンポン子供を産ませるという脅威な家系です』
『ポンポンって言うのは誇張しすぎね。でも本当に孕みやすいのよねカラノキー家って。だから希少種や力の強い魔界の魔物娘が、お見合いを希望するぐらいなのよ』
『よ、この孕ませ上手!あ、奥さんのワイバーンさん、これは侮辱じゃなくて褒めてるんで、睨まないで下さいね〜。さて対するは、経歴や生い立ち等、一切資料が無い、地方の反魔物領と接する町と砦を警備する竜騎士とのことですが――サキュバスさん?』
『ええ、彼は私がたっての要望で連れてきたのよ。今までの正統派騎士の戦いじゃない、反魔物領にいる教団兵たちと戦っている、いわば最前線で働く騎士の戦い方を見てもらおうと思ってね』

 そんなサキュバスの拡声された声に後押しされる様に、シュラーキとウィードの二人が闘技場の中央へ歩き始める。

『おーっと、今から戦うというのに、まったくそれを感じさせないほどにラブラブですよ、このお二方!』

 魔女モイガナの言葉通り、ウィードはシュラーキの肩にあるハーネスの取っ手に顎を乗せ、後ろから抱きついてべったりとくっ付いていた。シュラーキはそんな彼女の頭を優しく撫でている。
 そしてモイガナの実況で観客の視線が集中しているのを分かった上で、ウィードは顔を突き出してキスのおねだりをする。シュラーキはしょうがないなという表情を浮かべた後、ウィードの頬に手を当てて引き寄せると、じっくりと深い口付けを交わした。

『きゃ〜〜!!なんと、観客の目の前でキスしやがりましたよ、あの二人!!羨ましい!!!』
『驚愕しているのか羨望しているのか、どちらか一方にしなさいよ。まあ確かに見せ付けてくれるわよね』
『長い。長すぎる!まだキスを続けてます!!あ、ちょ、舌がうねっている様が遠目に見える程のキスは遠慮してくださいよ!ああぁ!余りの情熱的なキスで、魔物娘を伴侶に持つ観客も当てられたのか、至る所でチュッチュし始めましたよ!!チクショウ、僕のお兄ちゃん呼んできてよ、僕もチュッチュするぅ!!!』
『こらこら、そんなことしたら貴女のキャラが死ぬわよ。いいから実況を続けなさい。あとそこの二人、もう十分でしょ試合に集中しなさい』

 サキュバスのそんな注意に、ウィードは仕様が無いと口を離すと、にっこり微笑んでサキュバスに手を振る。あたかも盛り上がったでしょと言いたいばかりである。
 思わず確かに観客を盛り上げろと言ったが、そういう事ではないといった感じに、頭を抱えてしまうサキュバスだった。

『お兄ちゃんから、これで我慢してね、と飴玉を貰いましたー。わーい!』
『飴玉って……安い女ね、貴女』
『ころころ。いいのれふ。お兄ちゃんから貰えたということが、重要なのれふ』
『はぁ〜〜……あっちもこっちも。良いから、試合始めちゃって頂戴』

 手をひらひらと振って、サキュバスは闘技場に居る審判役のアヌビスへと指示を送る。それを受けて、審判役のアヌビスは二組の竜騎士へ戦う準備を促す。
 するとシュラーキたちの対戦相手である竜騎士のワイバーンが、体から噴出した魔力で全身を覆わせると次の瞬間には魔力が弾け飛ぶ。するとワイバーンは既に古の姿へと変わり、シュラーキたちを威嚇する様に咆哮した。

『おおっと、先ほどのあのラブラブな二人の余裕綽々な態度が気に入らなかったのか、もう此方は既に戦闘準備完了といった叫び声が放たれました』
『もしくは見せ付けられて行き場の無い欲情が、叫び声になって現れたって感じね』
『そうだとしたら身も蓋もないですね〜。さて一方の羨ま恥ずかしいバカップルの方は、おや、竜変化はしないのか、ワイバーンがそのままの姿で飛び上がると、竜騎士の肩にある変な取っ手を足で掴みましたよ。これはどういうことでしょうか?』
『だから正統派では無いって言ったでしょ。まぁ、じっくり如何するのか見ましょう』
『ほぅ。これが彼らの戦い方だと?』
『さぁ?私も実際見るのは初めてだし』
『へ?あの、あの二人、だいぶ軽装なんですけど。本当に大丈夫なんですか?』
『さぁ?相手が怪我しないようにって、魔界銀製の剣を受け取ってくれたけど。鎧とかは邪魔だからって受け取ってくれなかったのよね〜。本当に大丈夫なのかしら??』
『……不安が募りますが、試合開始です。ファィ!!』



 魔女モイガナの掛け声と共に、対戦相手である重装甲で身を包み長槍と盾を装備した竜騎士トニッセルを背に乗せて、ワイバーンが叫び声を上げた。
 観客席でもビリビリと体を振るわせるそれを食らったウィードは、しかしその顔に獰猛な笑みを浮かべる。

「へぇ。私を威嚇するなんて、命知らずなワイバーンも居たものね」
「ちょっとウィード。だめだからね、あんまり凶悪な手を使うのは。観客引いちゃうからね」
「分かってるわよ。でもちょっと灸を据える位はしても良いでしょ?」

 自分の上に浮かぶウィードに注意したシュラーキだったが、それが意味の無い事だと判ると、はーっと溜息を吐いた。

「僕は弱いんだから、ウィードに頑張って貰わないといけないって所は覚えておいてよ?」
「大丈夫よ。いつも教団兵を相手している様な事をすれば良いんでしょ?」
「うっかり勝たないでよ。ココで僕は負ける心算なんだから」
『ちょっとー、お二人さん!試合始まってるんですよー!イチャイチャ余所見しないで下さい!!』

 魔女モイガナの叫び声が耳に入り、二人が視線を対戦相手に戻すと、古姿のワイバーンが翼を打ち払って突進を仕掛けていた。
 それは瞬く間に二人の居た場所を通過し、やや過ぎた場所で着地すると、一際大きな叫び声を上げた。

『ぎゃー!大事故、大事故ですよ!救護班、救護班ー!!至急現場に――』
『ちょっと落ち着きなさいよ。ほら、上を見て見なさい』
『へ?上??』

 サキュバスの言葉を受けて、魔女モイガナと目を伏せていた観客も視線を闘技場の地面からやや上に向ける。すると中空にウィードとその足に掴まれたシュラーキの姿が、何事も無かったかの様に、最初からそこに居たかのようにそこにあった。
 観客がホッと息を吐いた一瞬後、無事だった安堵と何時移動したのかという驚きによる歓声が、闘技場に木霊した。
 そんな観客の声の中、人知れずウィードは怒り心頭であった。

「あんの小娘。シュラーキに怪我させる心算だったわね。これは教育が必要よね。そうは思わない、シュラーキ?」
「あ、あのねウィード。口から炎が漏れているよ。あと怪我してないんだから、そんな怒らないでよ」
「あの小娘の肩を持つ心算?」
「そうじゃなくて、程ほどによろしくねって事だよ。あの子も、あの竜騎士の奥さんなんだから」
「もぅ、シュラーキってば本当に甘いんだから。じゃぁ強めに蹴るぐらいで許して上げようかしら」

 そう言葉を交わすと、ぱっとウィードは足で掴んでいたシュラーキを離した。シュラーキは腰から魔界銀製の剣を抜き放ちつつ、竜騎士トニッセルへと向かって墜落していく。
 人間ならば骨折間違いなしの場所から、剣を上段に構えて急降下してくるシュラーキに、大慌てで竜騎士トニッセルは盾を構え、騎竜であるワイバーンは退避しようと翼を振るおうとする。
 しかしそのワイバーンの横っ面に、唐突に影が現れる。それは翼で加速して落ちてきたウィードだった。
 そしてウィードがワイバーンの顔を強く蹴りつけるくぐもった打撃音と、竜騎士の盾をシュラーキの剣が噛んで引っ掻く甲高い音が闘技場に木霊する。
 二箇所別々の同時攻撃を受けて、竜騎士トニッセルは騎竜と共にぐらりと体勢を崩す中、地面に降り立ったシュラーキはインキュバスの肉体で衝撃を受け止めると、すぐさまその場を走って逃げ出して距離を開ける。直ぐにその横にウィードが追いすがってきたかと思えば、シュラーキの肩の取っ手を掴んで上空へと飛び上がって退避した。
 そんな攻防から一瞬間を置いて、『わぁぁ〜〜〜!!』っと観客から歓声が上がった。

『す、すごーーーー!な、何ですかアレ。曲芸ですか!!』
『ふふっ。ね、正統派じゃないっていうのも、面白いでしょう』

 そして上空へと飛び立ったウィードとシュラーキに、ワイバーンの咆哮が向けられる。それは竜変化してない相手から顔に一発入れられた悔しさと、防いだとはいえ背の竜騎士へ一撃を入れられた事による怒りだった。

「あらあら、あんなに怒っちゃって。ふふっ、可愛らしいわ」
「さっき激怒していた人が、僕の肩を掴んでいる訳だけど?」
「あれは自分が不甲斐なくて怒ったんじゃないわ。愛しい人を傷つけられそうになったら、魔物娘なら誰でもそうなるっていう、当然のモノよ」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」

 竜騎士トニッセルの槍も彼のワイバーンの爪も届かない場所で語り合う二人だが、一向にワイバーンが追って来ない事にちょっと不思議そうに首を傾げた。

「如何したのかしら。てっきり怒りに任せて追いかけてくるって思ったんだけど」
「僕もその予定だったんだけど。竜騎士の方が抑えているのかな」
「もう一回、ちょっかい掛けてみる?」
「そうしてみようか。でもなにか罠があるかもしれないから、慎重にね」

 今度もまた同じく上空からシュラーキが飛び掛り、ウィードも翼で急降下しながら襲い掛かる。
 同じ手は二度食うかと意思表示するかのように、竜騎士トニッセルは盾で身を守りつつ、自分に向かってくるであろうシュラーキへと魔界銀製の穂先の槍を突き出す。こうすれば自然とシュラーキが自分で刺さりに来るはずと考えていそうだ。
 しかし襲い掛かってくるシュラーキの落下地点が違う。シュラーキの落ちる位置は竜騎士トニッセルの後方、彼の体に剣が届かない位置。
 竜騎士トニッセルがその事実に気を緩めた次の瞬間、彼の盾に大鉄槌で殴られたかの様な衝撃と、彼の跨るワイバーンからの悲鳴が合わさった。
 何事かと竜騎士トニッセルだけでなく観客全てが注視すると、竜騎士トニッセルの直ぐ目の前には盾へ蹴りを放った姿のウィード。騎竜であるワイバーンの尾へと、剣を振り下ろしたシュラーキの姿があった。
 そう今度は攻撃する相手を交換してきたのだ。
 竜騎士トニッセルはやられたとばかりに槍を振り回し、騎竜のワイバーンも手痛い打撃のお返しと尾を振るうが、その攻撃が始まる一瞬前にウィードがシュラーキを地面から掻っ攫って、上空へと退避していた。
 もう一度曲芸じみた攻撃を見れた観客からは再度の歓声が、悔しそうに怒声含みの咆哮を上げるのはワイバーンで、その上に跨り今度こそ油断は無いと身構えるのは竜騎士トニッセル。
 しかしそんな二人を見て、シュラーキとウィードはより深く困惑する。

「ねぇ。本当に何で飛び掛って来ないのかしら。あんなにぎゃーぎゃー鳴いて、騎士もあんなに攻撃する気満々なのに」
「もしかして、飛ぶのが苦手とか?」
「まっさかー。飛べないワイバーンなんて、リザードマン以下な存在よ。ありえないわ」
「いや。今のウィードの様な、半分人間の様な体では飛べるかもしれないけど、あの古い姿だとあまり高く飛べないんじゃないのかな。ワイバーンってほら、飛ぶのに魔力消費するでしょ。あんなに大きい体だと、魔力が追い付かないんじゃないの?」
「まさかそんな……やーい、悔しかったらここまで飛んでみろ!!」

 ウィードのそんな安すぎる挑発に、そんなので相手が乗ってくるかと、がっくりとするシュラーキ。しかし相手からの反応は、シュラーキたちが降りて来いと言わんばかりの一際大きな咆哮だった。
 ビリビリと空気を震わしたそれに、観客たちは恐怖心から一瞬息を呑んでしまったが、しかしシュラーキもウィードもそれが負け惜しみにしか過ぎない事を分かっていた。

「本当に飛べないのね。同じワイバーンとして、情けないわ」
「まあまあ。あの騎士と一緒に育てられたとしたら、君にしてみたらまだ赤ちゃんみたいなものじゃないか。だから怒らない怒らない」
「なにそれ。私が老けてるって言いたいの?」
「心外だよ。僕が愛しい妻にそんな酷い事言う男だと思う?」
「もぅ。直ぐそうやって、愛しているとか言ってはぐらかすんだから。でも、私も愛してるわ」

 空中でイチャついていて、何時までたっても降りてこないシュラーキたちに業を煮やしたのか、ワイバーンの口から二人に向かって炎が吐き出される。
 それを危なげなく上空で回避しつつ、ウィードはキッとワイバーンを睨みつけた。

「ちょっと、夫婦のイチャイチャタイムを邪魔しないでくれる!あとシュラーキの私への愛の甘い囁き声が、貴女がぎゃーぎゃー喚いて五月蝿いから聞こえないじゃないのよ。少しは遠慮ってモノを知りなさいよ、空を飛べもしないヒナの分際で!!」
「だめだよウィード。あんまり乱暴な言葉遣いしちゃ」
『あのー、お二人の仲が良い事は十分分かりましたから、試合してくれませんかね〜』
「うっさいわよ、そこの魔女!ちゃんと試合はしてやるから、黙ってなさい!!」
『うっわ、僕の実況という存在全否定ですよ。……こっそり相手に強化魔法掛けちゃおうかな』
『拡声魔法掛けたままで呟くって、意味無いわよ?』

 行き成り始まった実況席を交えた漫才に、観客の顔が思わず綻んでしまう。
 そんな中で、ウィードに雛と虚仮にされたワイバーンは、その大きな翼をはためかせつつ魔法を用いて、二人のいる場所へと飛ぼうとしていた。
 しかし魔法の使い方が危ういのか、少し高く浮きはするものの、そこから先は上手く飛べずにガクリと体勢を崩して、最初に逆戻りしてしまっている。
 そんな様子をハラハラと見つめているのは、なぜか挑発していたウィードだった。

「ああもう。そんな風に力任せに飛ぶんじゃないわよ。最初はちょっと助走するようにして風を溜めてから、ああもう、違うって言ってるのに」
「そんなにボソボソ言ってないで、ちゃんとアドバイスすれば良いんじゃないかな?」
「ワイバーンって種族的に負けず嫌いだから、助言とかあんまり聞き入れないのよ。ああん、もう、まどろっこしいわ……」
「……何だかんだといって、ウィードって世話焼きだよね。将来はいい母親になるよ」
「確かにもうそろそろ子供が欲しいわ。親子三人で空を飛べたら、さぞ気持ち良いでしょうし。って、ああんもう、何度も同じ失敗繰り返して……」

 対戦相手だというのに、今直ぐにでも手を差し伸ばしそうな勢いのウィードに、思わずシュラーキは微笑を強くしてしまう。

「ならさ、お手本にウィードが飛んで見せれば良いんじゃない?」
「それは私も考えたけど。あんまり昔の姿って、好きじゃ無いのよね。ゴツいから可愛くないし」
「僕は昔の姿のウィードも好きだよ。カッコイイし。すべすべの鱗の面積広くて、手触り良いから」
「格好良いって、女性に対して使うものじゃないわよ。でも、有難う。ちょっと不安だったのよ。シュラーキがあの姿嫌ってないかって」
「とんでもない。僕はどんな姿ウィードでも、愛してるよ」
「じゃぁ、私が昔の姿でも、ハメハメしてくれる?」
「もちろん喜んで。でも体格差でウィードがあんまり気持ち良くないかもよ?」
「そんな事はいいのよ。私はシュラーキが気持ち良くなってくれればそれで良いの」
『あのー、イチャイチャしてないで、試合してくれませんかねー』
「チッ……分かったわよ。試合すればいいんでしょ」
『舌打ちしましたねぇ!そっちがそんな態度取るなら、僕にも考えがありますよ!!』

 上空の安全圏へ退避しているように見えるシュラーキとウィードへ、飛ぼうと頑張っているワイバーンを嗾けるためか、魔女モイガナが魔法で風を巻き起こすと、ワイバーンを二人が居る地点まで押し上げられた。
 行き成り高所に置かれてパニックに陥るかと思いきや、ワイバーンは必死に風を掴んで、体を安定させようとする。

「あら、良かった。手を引いてもらえれば、立っちは出来るのね」

 馬鹿にしたようなウィードの物言いに、ワイバーンが怒りの声を上げるが、体を浮かせるのに必死なのか、いささか声に強さが見られない。

「じゃあ、立っちが出来たところで、こんどはよちよち歩きに挑戦ね。大丈夫、優しく教えてあげるわ」

 そんなワイバーンを尻目に、ウィードは更に上空へ――闘技場の観客からでは良く見えなくなるような場所まで飛び上がると、ぱっとシュラーキを離して彼を自由落下させる。
 こんどはどんな曲芸攻撃を仕掛けるのかと、竜騎士トニッセルが身構える。しかしシュラーキが落ちるのを並走するようにウィードが並ぶと、彼女の体が魔力の光を帯びる。そしてその光が爆発したかのように撒き散らされると、そこには背にシュラーキを乗せて古の姿に戻ったワイバーンが顕現していた。
 その身の大きさは竜騎士トニッセルの跨るワイバーンの一回りは大きく、威圧感も今まで出てきたワイバーンとは違う並々ならないモノを発している。
 そしてそのウィードが変じたワイバーンの口がゆっくりと開かれる。

「きゅぁあぁああぁアアあァあーーーー!!!」

 空気が咆哮でビリビリと震える。否、そんな生易しいものではない。叫びを受けた空気が恐怖で悲鳴を上げて逃げ出しているかのような、その叫びを身に受けたものが体が独りでに震い出して地震かと勘違いするほどの、言い知れぬ生命の危機を感じさせるものだった。
 それが過去、ドラゴンと勘違いされたと自称するウィードの、威圧や恐怖心を煽る威嚇ではなく、自分がここに居ると表現するためだけに放った雄叫び。確かにその姿は過去から現在まで、教団側の御伽噺に魔竜として出てくる存在といった感じだ。
 さて叫んだ場所からやや離れた観客席でさえ、失神する者が現れるほどのその叫びをまともに受けて、対していたワイバーンと竜騎士も一瞬気が遠くなりかけたのか、ぐらりと身が揺れたものの持ち直した。
 それを見た古の姿のウィードは、嬉しそうに喉をクルクルと鳴らす。

「ああもう、ウィードったら悪戯心発揮しちゃって。観客が失神しちゃったじゃないか。あとで怒られるよ、あのサキュバスに」

 そんな一気に状況が変化した中で、相変わらずシュラーキだけは暢気な口調でウィードに話しかけている。
 さっきの咆哮が何でも無いかのように自然と話しているシュラーキを見て、竜騎士トニッセルはシュラーキも只者ではないと思ったのか、彼の体に闘志が漲って行く。
 彼のそんな様子を察して、シュラーキは盛大に溜息を吐きたくなった。

「警戒されてるよ。ウィードが驚かすから」
「くるるぅ?」
「はいはい、分かりました。よちよち歩きのお相手するのね。僕は君に任せるだけだから、ご自由にどうぞ」
「ぐるる」
「御免。意地悪な言い方だったね。ほら首のここ撫でるから、機嫌直してよ」

 本当に言葉が通じ合っているかのように、シュラーキとウィードは先ほどまでと変わらない、イチャイチャとした会話を交わしている。
 シュラーキがウィードの喉元に手を伸ばして撫でて、対戦相手から視線を外している今が好機と思ったのか、竜騎士トニッセルとそのワイバーンが攻撃しようとオタオタと空中を進もうとする。
 それを見ていたのか、ウィードが翼を大きく羽ばたかせて魔力で風を撒き散らすと、竜騎士トニッセルのワイバーンが風の掴み方を忘れたかの様にすとんと真下に落ちた。大慌てで風を魔法で掴み直して体勢を整えるワイバーン。

「くるるる……」

 ふふんと蔑んだ様に笑うウィードに、ギリギリと鋸状の歯を噛み鳴らす騎竜のワイバーン。
 そして体を預けるようにウィードの背に鞍無しで乗るシュラーキと、ワイバーンの背の鞍に乗って何時でも戦闘に取り掛かれると言いたげな竜騎士トニッセル。

「じゃあ行こうかウィード。赤ちゃんに空の飛び方を教えてあげよう」
「くるるぅ!」

 ポンポンとシュラーキがウィードの首を叩き、ウィードが了解の泣き声を上げると、ばさりと翼を振るって上空を駆け始める。
 それを追いかけようと、竜騎士トニッセルは手綱を引きワイバーンへ指示を送る。
 しかし上空を常に駆け回ってきたウィードに、よちよち飛行すらまともに出来ないワイバーンが追い縋れるわけも無い。
 それでも必死に食らい付こうとするワイバーンが微笑ましいのか、大人が手を叩いてよちよち歩きの子供を呼ぶかのように、時折飛ぶ速さを緩めてどう飛ぶのかを見せ付けるかのように、ウィードは気持ち良さそうに闘技場の観客が見える範囲の空を飛ぶ。

『ほへぇ〜〜。上空大決戦が始まりましたよ〜』
『ええ。でもカラノキー家の坊やの方のワイバーンは、必死に追いつこうとしてるけど、経験の差が在り過ぎて話しになってないわ』

 実況席と観客にアヌビスの審判までも、自分の生活とはかけ離れすぎた光景でどう反応して良いのか戸惑っているのか、ぽかーんと上空を見つめながら両者が空中を飛ぶ様を見ている。
 それでも上空ではウィードとワイバーンの追い駆けっこは続く。
 ウィードはひらひらと蝶が舞うような気軽さで羽根を振るい、鷲が優雅に飛ぶように空を駆け、燕のような急旋回すら見せる。
 竜騎士トニッセルのワイバーンも、巣から飛び立ったばかりの雛鳥の様に羽根をバタつかせ、水中で溺れそうな泳者のように足掻きながら、急旋回する相手を見失わないようにと必死に追う。
 ウィードの背に乗るシュラーキは、彼女の背にべったりとくっ付いて空気の抵抗を受けないようにしている。
 一方のワイバーンの背にある竜騎士トニッセルは、初めてこんな上空を飛び回るのだろう、如何したら良いのか判らない様子で、ぎゅっと手綱を握り締めている。
 そんな中、ふとワイバーンがあまりの追いつかなさに苛立ち炎を吐こうとすると、それを咎めるようにウィードが空気を風でかき乱して、ワイバーンの翼を空振りさて墜落させようとする。
 ひっと竜騎士トニッセルが墜落の恐怖から悲鳴を上げると、大慌てでワイバーンは体勢を立て直し、背中の伴侶にいらぬ不安を与えないように勤める。
 そんな様子を後ろに顔を向けて見ていたシュラーキは、べったりとウィードの背中に張り付いたまま彼女へと話しかける。

「あの子も結構良い子だね。ちょっと怒りっぽ過ぎるのが玉に瑕だけど」
「ぐるぅ」
「それでも君ほどじゃないから安心して。僕が大好きなのは君だけだよ」
「くるるぅ♪」

 歌うように喉を鳴らしたウィードは、チラリと後ろを付いてくるワイバーンの様子を見る。
 確かにまだ危なさは残るものの、確りと翼で風と空気を捕らえて羽ばたくその姿は、もう『よちよち歩き』とは呼べない確りしたものだった。
 ならもう大丈夫かなと言いたげに喉を乗らしたウィードは、今度はワイバーンという種族の可能性を見せるために、大きく翼を羽ばたかせた。
 一瞬で目の前から消えたウィードに戸惑うワイバーン。しかし何処からか風を切る音が聞こえる。
 それは前でも後ろでも左右でも下でも無く、そう上からだった。
 その音に訓練を積んだ身が危険を感じたのか、ワイバーンの背に乗る竜騎士トニッセルが大慌てで上空へと盾を身構える。
 空を駆ける流星のように一直線に飛び掛ってきたのは、さっきまで前にいたウィード。そしてその背から煌くのは、一本の魔界銀製の剣。
 それを竜騎士トニッセルが視認した瞬間、ガラスを爪で引っ掻いた音を何十倍にも大きくした音が響く。それはウィードとワイバーンが交差した瞬間でもあった。

『にょわ〜〜。僕、この音、苦手ですぅ〜〜!』
『ひゃぅ。ああ、鳥肌たったわ……』

 闘技場内全員が同じ感想を抱いた中、落ちてきたウィードは存在を示すかのように大きな翼を広げ、闘技場の中を一周りゆっくり飛ぶと、大きく一回翼を羽ばたかせた。
 ぶわぁっと闘技場の土や砂が舞い上がると、もうすでにウィードの姿は闘技場には無く、上空からはさっきと同じ音が発せられる。

『にょぅ〜〜。見ごたえのある凄い戦いですが、この音は止めてくり〜〜!』
『このままだと、本当にゾクゾク死しちゃいそうね』

 審判役のアヌビス等の耳の良い種族は、もはや死にそうな顔になっている。
 しかしそんな事はお構い無しに、縦横無尽に空を飛びまわり、翼を一つ羽ばたかせるだけでまったく別の場所に出現するウィードのその姿は、ワイバーンに驚愕と羨望を与えた事だろう。これが自分と同じワイバーンが行えるということは、将来自分が出来るのだという指針になるのだから。
 そして今までの正面きってのぶつかり合いとは違う、上空を飛び回り擦れ違い様に斬り付けて来るシュラーキの戦い方は、それを防御し続ける竜騎士トニッセルに驚愕と怒りを与えたことだろう。なぜならば、一方的に蹂躙するこの戦い方は見事で、職業騎士ならば受け入れて取り入れられるだろうが、家柄で騎士である彼の場合は、教えられてきた騎士道に反するからだ。
 だがその騎士道に反するこの戦い方を止めるためには、何度もの剣撃を受け止めてきたために震えてきた手では心もとない。そして時間が経てば経つほどに、負ける可能性も上がると分かっているため、どうにか一発逆転を狙う目で飛び回るウィードとシュラーキの姿を追っている。
 そうして何度か、甲高い悲鳴のような音が木霊し、観客が悶絶する中、一点の好機を見つけたようだ。
 それは真上からの攻撃。真上からの一直線の攻撃だけは、なぜか闘技場まで降りてしまっている。他の場合は、翼を羽ばたかせて直ぐに攻撃態勢に入るのにも関わらず。
 それに気が付き、恐らく一回実行したら二度目はないだろうと考えたのか、ガッチリと盾と重装甲の鎧で防御して機会を待っている。
 そんな竜騎士の思惑が通じたのか、ワイバーンも逃げ回ろうと無闇に羽ばたかせるのではなく、ゆっくりと大きく左右に振る回避で、竜騎士がタイミングを取りやすい様にする。
 ワイバーンの心遣いが通じたのか、竜騎士トニッセルは足でトントンと感謝するように優しく叩いた。

『にょわぅ〜〜〜。早く決着付けてください、死んでしまいます!』

 そんな実況の魔女の声が通じたのか、後ろから前への擦れ違い攻撃を行って、前を飛んでいたウィードが大きく羽ばたく。それは何度と無く見た、上へと昇る動き。
 はっと竜騎士トニッセルが上空を見ると、流星の様に真下へと突き進んでくるウィードの姿が目に入った。
 この時しかないと心に決めたのか、竜騎士トニッセルは盾を虚空へと投げ捨て、長槍を両手で掴む。盾を持っていた方の手は震えていたが、かまわず握りこんだ。騎竜のワイバーンも左右に体を振るのを止めた。
 突き進んで来るウィードの背に、あの剣の煌き見える。
 あの剣の根元に槍を叩き込もうと、より強く握り込んだその時、あの剣が光る場所が変わる。見るとシュラーキが上半身を起こして、剣を大上段に構えていた。
 あちらもこの一撃で決着を付ける気だと知り、竜騎士トニッセルは無謀にも手綱を操って、落ちてくるウィードへと愛竜のワイバーンの頭を向けさせた。
 そうして顔を天へと向けてゆっくりと自由落下を始めたワイバーンにより、一瞬にしか過ぎない時間だろうが、確実にシュラーキへと竜騎士トニッセルの狙いが付く時間が稼げた。
 竜騎士トニッセルが繰り出した槍と、シュラーキの振り下ろした剣の軌道が重なる。
 今までの引っ掻くような音とは違う、金属同士を打ちつけたかのような軽い音が闘技場に木霊する。
 やがてまず竜騎士トニッセルが捨てた盾が地面に落ち、そしてシュラーキを背に乗せたウィードが再度闘技場の中を巡るっていると、上空から飛来してきたのは一つの金属。
 回転しながら闘技場の中央に突き刺さったのは、銀色に鈍く光る、所々が刃零れした魔界銀製の剣だった。
 そうして闘技場を周るウィードの背中のシュラーキに視線を向けると、彼の腕には刃物で切り裂かれた防寒着の袖があった。
 まだ自分の勝利が信じられないのか、呆然とした様子でワイバーンと闘技場に降りてきた竜騎士トニッセルを尻目に、ウィードは古の姿から今の姿へと戻り、シュラーキは地面に耳を覆って伏せっていた審判のアヌビスを起こして、袖口を指差して「自分の負けだ」と告げた。
 そうしてアヌビスは勝利者を宣言する。

「勝者。竜騎士トニッセル・カラノキー!!」

 するとワッっと会場が湧いた。
 あの激戦を制した勝者である竜騎士トニッセルへと、大歓声が送られた。
 そして今まで見たことのない戦いを披露してくれた敗者のシュラーキへも、異例な事に賞賛の拍手が降り注がれた。
 そんな拍手の中、シュラーキはウィードを伴って、竜騎士トニッセルはまだ信じられないような顔つきで、闘技場から舞台裏へと去っていった。
 両者が去ってからも、あの戦いを見た観客からの拍手は留まることを知らなかった。



 さて選手の控え室へと戻ってきたシュラーキは、長椅子の上に座ると、防寒着を脱ぎ捨てて薄着になってから、その上に寝転んだ。

「あー。疲れたー。もう二度と試合なんかしないよ」
「何言っているのよ。シュラーキは大半ただ私の背中に乗っかっていただけじゃないの。頑張った妻にご褒美、はッ!」
「ぐえぅ。ちょっと、行き成りお腹の上に乗らないでよ」
「ふふーん。乗られるの好きなくせに」
「そりゃね。行き成りじゃなきゃ、愛しい妻の尻に敷かれるのは大歓迎だよ」

 そう言いながら、ぺろりとウィードの形の良い尻を下から上へと撫でるシュラーキ。ついでに尻尾も半ばほどまで撫でる。

「ひゃ!……もう、エッチなんだから」
「さってと、竜変化してお腹空いたでしょ。何か食べに行こうか」
「大丈夫よ。係の人に聞いたら、食べ物届けてくれるんだって。どんなものでもオッケーらしいわ」
「流石は僕には勿体無い程の奥さんだ、抜かりがないよ。じゃあ何か頼もうよ」
「じゃあ頑張った私に、食べる料理は任せてよ。ええっと、係の人は……あ、チョットいいかしら。食べ物頼みたいんだけど――あ、私たち試合に負けたんだけど、でももちろん食べ物はタダよね。うん、それを聞いて安心したわ。じゃぁ、魔界豚のチャーシューをマルッと二本に、まかいもフリッター山盛り一皿、ホルスタインミルクをピッチャーで一つ。あとは、ローストビーフって一塊のままで持って来れる?来れないの?持ってきなさいよ。あ、大丈夫ね。じゃあそれで一先ずオッケー。足りなかったらまた呼ぶから」
「こらこら。何気に脅すのはだめだからね。ローストビーフはあの一塊で何人前か分かる?三十人前ぐらい?じゃあその人数伝えて、料理人がえーって顔したら、じゃあ塊のまま持って言って切って貰いますって言って強奪すればいいから。お願いね」

 廊下に待機していた係のレッサーサキュバスへ、色々と注文を押し通して、シュラーキとウィードは長椅子の上に仲良く隣り合って座った。

「でも本当に疲れたよ。剣を握っていただけだって言っても、あれだけ斬りつけ続けたから、腕が筋肉疲労でプルプル震えてるよ」
「あら、私は楽しかったし、まだまだ暴れ足りないわ。それに折角歩き方を覚えたあの子に、もうちょっと色々教えたかったわ」
「本当に?僕の上だと直ぐ腰砕けになって、あんまり暴れないのに」
「それはシュラーキのココが、私限定で凶悪すぎるの。悪い子になって暴れようと思っても、直ぐに躾けられちゃうんだもの」

 圧し掛かって胸を押し付けつつ、ウィードはシュラーキの股間に手を伸ばし、そこを撫で回していく。

「こら。まったく僕の奥さんは手癖が悪いんだから」
「じゃあそんな悪い子に、私の夫は何をするのかしら?」
「それはもちろん、愛の鞭って所だね」

 何かを期待するようなウィードの瞳を受けて、シュラーキは彼女の顎の下を掴むと、ぐっと引っ張りつつ口付けする。
 何時もの様に優しく導かれての熱い口付けとは違い、無理矢理されて唇と口内に舌をも陵辱されるそれは、意外性もあってかウィードに好意的に受け止められた。
 もっともっととせがむ様に、ウィードの翼と一体化した手がシュラーキの服の胸の部分を掴んで皺を作る。それに応えるように、シュラーキの舌がウィードの喉の奥へと攻め込むように捻り入れられる。
 そこに多数の料理が乗ったワゴンを押して入ってきた、空気の読めないレッサーサキュバスは、そんな二人の熱い情事を見てしまい、驚きのあまり固まってしまう。うっとりと口付けを味わっているウィードは気付いていないようだが、シュラーキは視線でレッサーサキュバスの姿を見ると、優しく扉の外へと出るように手で指示をした。
 レッサーサキュバスはその手で固まったのが直ったのか、ぎくしゃくとぎこちなく扉から外に出ると、音を立てないように気をつけて扉を閉めてくれた。
 それを視線で確認した後で、シュラーキはウィードの喉の奥へと入れていた舌を引き戻しつつ、しかし彼女の舌と絡めて今度は自分の口の中へと引きずっていく。
 あまり抵抗も無く引きずられ出されたウィードの舌を、その割れた先端をシュラーキ自信の舌で舐めながら、中ほどからその先までを歯で優しく扱いていく。
 歯がウィードの舌を挟んで削るように移動すると、ウィードの背中がビクビクと反応を返し、その鱗の生えた手はもっともっととシュラーキの衣服の胸の部分をより強く握りこむ。
 しかしシュラーキは、ウィードが満足するその少し前で口付けを止める。しかし二人の口が離れても、二人をつなぐ橋の様にウィードの舌を唇の肉で愛撫し、ウィードの目に自分の舌がどんな風に苛められているかを見せ付けた後で、漸く離した。

「さてウィード。一先ずエッチなことはお預けして、ご飯を食べようよ。美味しそうだよ」
「ああん、意地悪。もうお股ぐちょぐちょなのに、我慢しろって言うなんて、本当にシュラーキって意地悪」
「ふーん、そんな可愛くない事言うんだ。膝に乗せて食べさせてあげようと思ったけど、止めちゃおうかなー」
「嘘、嘘。シュラーキが意地悪って言うのは嘘よ。シュラーキ愛してる。大好き。だから膝の上に乗らせて。私に食べさせながら、優しく甘い言葉囁いて」
「本当に、僕の愛する妻はチョロ可愛いんだから」

 ワゴンを長いすの側に持ってきてから、シュラーキはウィードを膝の上に乗せて、食事を始めた。

「はい、魔界豚のチャーシューだよ。あーんして」
「あー。んー、美味しい!」
「チャーシューのそんな塊を丸まる咥えて食べられるなんて、ほんとウィードは凄いよね。でも本当は別のものが食べたいんでしょ?」
「あむん。もぐもぐ、んッ。そうよ、シュラーキのおちんぽを味見したいの」
「はい、分厚く切ったローストビーフだよ。ほら、あーんして。僕に使って欲しい、喉まんこを全部見せて」
「ああーん」
「ほらもっと大きく開けないと、食事の後でちんこ突っ込んであげないよ」
「ああぁぁーんぅ」

 シュラーキが料理を一口大に切ってウィードに差し出しながら、しかしその口では彼女の耳元で甘い声で淫靡な言葉攻めを吐き出し続ける。
 それを鱗状の耳で受けてつつ、ウィードはシュラーキの言葉で脳が犯される錯覚を覚えながら、彼から差し出される料理を口に含み、それを彼の一部を投影しているかのように舌で優しく舐めながら、優しく噛みつつ食べていく。

「良く出来ました。ではご褒美に。あむッ」
「ひひゃぅ!み、耳は、耳は弱いから、あまり強くしちゃ、あッん!」
「ほら、口が止まってるよ。まだまだ沢山あるんだから、ちゃんと食べないと」
「う、うん。あーん。もぐ、あむっ。んゥ!」
「大丈夫だよ、耳をハミハミするのは続けるから。安心して食事続けて」
「もぐ、んぅぁ。も、ぐ、んふぇぅ!」
「こらこら。口からお肉が漏れちゃっているよ。仕方ないから舐め取ってあげる」
「んうぅうぅう!!」

 ウィードの口の端から涎と共に豊満な胸の上に落ちた肉を、シュラーキは彼女の耳を食んでいた口を離し、その肉を口で咥えて口内に入れつつ、落ちた場所の乳房を強く吸った。
 ビクリとウィードの体が反応するが、シュラーキは知らない振りをしながら、上乳房から肩甲骨を唇で吸いながら通り、首筋の頚動脈の上から彼女の唇の端まで舌を這わせて移動させる。
 胸から首筋にかけてまでを舐め上げられて、ウィードはもう我慢の限界なのか、シュラーキの差し出す料理を首を振って拒否する。

「どうしたのウィード。イヤイヤするほど、まだ食べてないでしょ?」
「わ、分かって、分かってる癖に。意地悪しないで、食べさせて」
「仕様が無いな。じゃあ、何を、何処に食べさせて欲しいのか、具体的に言ってみて?」
「ウィードの、おちんぽを。私の、おまんこに……」
「僕はさっき見せてもらった、ウィードの喉まんこ使いたいな〜」
「喉まんこでも、尻まんこでもいいから。ウィードの凶悪なおちんぽ、突っ込んでよぉ……」

 先ほどまでの試合であんなにも雄姿を見せたというのに、もうウィードはシュラーキの言葉とちょっとの愛撫で、涙を浮かべつつ夫の情けを貰おうと必死になる雌トカゲへと落とされてしまっていた。
 そんな妻の様子に、ちょっと意地悪しすぎたかと反省した様子のシュラーキは、まず謝罪のための優しいキスを唇にして。そして耳元で再度尋ねた。

「本当は、どこのおまんこに、突っ込んで欲しい?」
「こ、ここのおまんこ。ここを使って、シュラーキに気持ちよくなって欲しいの。赤ちゃん孕むための小部屋に、どぴゅどぴゅ射精して欲しいの」

 何処の事かを知らせるためにか、ウィードは爪と鱗ばかりの手で自分の股間を撫で始めた。
 もう既に濡れすぎて、股間の布がぐちょりと湿って粘ついた音を鳴らした。
 そんな必死なウィードに応えるべく、そっと優しく彼女の手をどかしてから、シュラーキは彼女が弄っていたのと同じ場所を、少し力を込めて揉む様に弄り回す。

「料理冷めちゃうけど、先ずはここが先ってことで良いのかな?」
「イイ、イイの!そこがイイの!!」
「結構辛そうだから、指で先ずイッちゃう?」
「もう愛撫は十分だから、ちんぽ、おちんぽ突っ込んで。お願いしますぅ!」

 ぐりぐりと腰をシュラーキへと押し付けて懇願するウィードの様子を見て、これはもう意地悪している場合じゃないと悟った様で、シュラーキはそっとウィードを持ち上げると、壁に手を付かせた。

「じゃあ今回は、後ろから獣の様に犯すけど、不満はある?」
「無い。無いです。無いですから、早く、早くぅ……」

 もう本当に我慢の限界なのか、壁に手を付きながら目を閉じ歯を食いしばって、シュラーキの陰茎を打ち込まれるのを今か今かと待ちわびている。
 そんなに必死にお願いされたらと、シュラーキは自分のズボンを下ろして、ウィードの痴態を見ていて勃起した陰茎を取り出して、彼女の割れ目にくっ付けた。

「あはッぅ!」

 くっ付けた途端にくちゅりと粘ついた音がして、ウィードの口から声が漏れる。そしてもう待てないという意思表示の変わりに、どろどろと割れ目から透明で粘ついた液体が流れ出てくる。
 それで満遍なく陰茎を濡らしてから、シュラーキは軽く膣口へ濡れたそれを当てる。

「挿入れる、よッ!」
「うひぃぅいいいいい!!」

 滑るに任せて一気に奥へと突き入れると、奥深くの子宮の口をシュラーキの亀頭が直撃した。
 身に襲い掛かる快楽でビクビクと背中を震わせてガクガクと膝が笑う中、何かを堪えきれない様子で石造りの壁を、ウィードの硬質の爪がガリガリと削っていく。

「はひぃ、はひぅ……」
「ウィード。大丈夫?辛過ぎるんなら、しばらくこのままで、先に胸とかお豆で逝かせて落ち着かせてから、続きって手もあるけど?」

 愛撫と焦らしで高めすぎて降りてこない体を持て余している様子のウィードに、思わずといった感じでシュラーキが尋ねると、蕩けきって涙と涎が流れるウィードの顔が向けられた。

「イイの。最高だから。シュラーキは構わず突いて」
「本当に良いの?ほら、こんなに軽く突くだけで」
「おこぉおぉおお!」

 本当に軽く腰を引き、そして押し入れただけで、ウィードはこの世のもっとも高いところへ登ったかのような声を漏らした。
 
「だから本当に良いの。思いっきり突いちゃって。これだと気絶したくでも、衝撃で起きちゃって落ちれないよ?」
「イイの。それでいいから。おちんぽみるく、子宮に頂戴……」
「ウィードが良いんなら、良いけどさ」

 それならば早めに欲しいものを上げようと、シュラーキは本当に遠慮無しに腰を降り始める。
 すると陰茎が引き抜かれる時は、寂しいと駄々を捏ねるように膣肉が絡み付き、押し入れる時は、嬉しさを爆発させて寄り奥へと導こうとウィードの膣が蠢く。
 そして当のウィードはというと。

「イイの。イク、ヒク、ひくぅぅうぅ。ひってる、ひってるぅぅううぅう!!」

 体の各場所に電撃が落ちているのかと疑うほどに、体中をビクビクと跳ね回らせ、壁を爪でガリガリと削りつつ、しかし意識は確実に自分の穴を穿っているシュラーキの陰茎へと向けられていた。

「もっと、ひぅぁ、もっと、おくの、おぉおぁ、おくを、おおぃぁ、潰す、うぅううぅうぃぃ!!!」
「奥をもっと強く、押しつぶすような感じで突き入れればいいのね?」

 ガクガクと操り人形のように頷いたウィードを見て、シュラーキは要望通りに奥――子宮を押しつぶすような腰使いで、ウィードに陰茎を捻り入れた。

「きぃぅうううぅうううぅう!!!」

 途端にぷしゃっと水が弾ける様にして、ウィードの股間が潮を吹いた。
 そしてシュラーキの亀頭には、今までの淫液とは違う液体が感じられた。それはいわゆる本気汁といわれる、どろりと絡み付く液体が子宮の奥から流れ出して、彼の陰茎を膣肉を使って満遍なく覆っていく。
 どんな感じになっているのかと気になったのか、シュラーキがゆっくりと陰茎を引き抜いていくと、精液の様に白く粘り気の強い液体がそこを覆っていた。突き入れてみると、やはり粘度の違いからか、先ほどまでとはすべり方が違い、こっちの方がより強く快感を得られている。
 そして陰茎の快楽が強いということは、擦られる方の膣にも快楽は多く走るという事。

「うひぃぃぅ。ひひゃぁぁぅ。ふうぅくぅううぅうぅ!!」

 本気汁まみれの陰茎だと、もう何処を擦られても引っかかれても気持ちいいのか、ウィードは嬌声を上げ続ける。
 そしてあまりの快楽で四肢が麻痺したのか、がくっとその場で崩れ落ちるようにして座り込んでしまった。しかし長年と付き合いで、まだウィードが満足していない事を察したシュラーキは、尻を上げた土下座のような格好のウィードを犯し続ける。

「ひぅぅあぅ、ふんひゅぅうぅ、はあぁぁぁぅぅふぅうぅ――」

 額を床に押し付けつつも、そんな様子を見せたくないかのように、震える腕を頭に回して皮膜付きの翼で覆う。
 長年連れ添っていて、もっと変態的な行為でもっと酷い痴態も見ているウィードは、痴態を見せたくない乙女心を持っているのかのような行為に、ちょっとだけ笑みを漏らしてしまう。
 普段ならばそれを聞き咎めて軽く睨んでくるウィードなのだが、本当に良い所まで極まっているのか、ひたすらに喘ぐだけだ。
 ずりずりと陰茎を引き抜き、お互いの体がパンと鳴るまで一気に押し込んで、また引き抜き、パンと鳴るまで突き入れる。そんなただ単純な行為を繰り返しつつ、ウィードの弱点も時折攻めるという、ウィードが望んだ通りに遠慮無い腰使いで、シュラーキは自分が射精に至るまでを堪能する。
 しかしそれもウィードという魔物娘の極上の膣肉で愛撫されると、果ては直ぐ来てしまうもの。

「ねぇウィード。もうそろそろ射精すけど、心の準備は良い?」
「ああぅ、ああぅぃ!」
「じゃあ望み通り、子宮の中にぶっ掛ける様に射精するよ!」
「あああぁひぃうぁああぁぁぁぁ!!」

 子種を飲もうと降りてきた子宮に、シュラーキは陰茎で押しつぶすようにしながら鈴口をぴったりと押し付けると、一気に溜まっていたものを吐き出した。
 陰茎が精液を吐き出すのに合わせて、膣肉が促すようにきゅっきゅっと収縮し、子宮は出てきた子種を逃すまいとちゅうちゅうと吸っていく。
 シュラーキはそんないじらしい行いを労うかのように、絶頂でピンと伸びている尻尾を抱きかかえると、その根元を両手で指圧してあげる。
 すると膣肉の動きがより活発になり、もっと気持ちよく射精する事が出来た。
 やがて射精が終わり、陰茎の力が抜けようとすると、もっともっとと催促するように膣肉が陰茎を揉み始め、まだ足りないと言いたげに子宮の口が鈴口を吸って愛撫する。
 どれだけ下の口も大食なのかと、長年連れ添っている妻の底知れなさに恐怖しつつ、顔を翼で隠したままの妻の顔を見ようと、シュラーキはウィードの手をどかしていく。
 すると子宮へと精液を受け入れた影響なのか、涙と汗に涎という液体で顔中をぐしゃぐしゃにし、ぐるりと白目をむいて舌をだらしなく出すという、いわゆるアヘ顔で失神して伸びていた。
 普通の人間の感覚なら引いてしまいそうなその表情も、酷く愛した結果であるからシュラーキには愛しいのか、ウィードの液体塗れの顔を舐めて彼女を覚醒しようとする。
 顔の大半を舐め終えて唾液濡れにした後、ウィードの口にキスをすると、気を取り戻したかのようにウィードが小さく身じろぎした。

「んぅ……しゅらーき?」
「おはようウィード。ご機嫌はいかが?」
「うん。物凄く気持ち良い。遠慮なく犯してくれて有難う、シュラーキ」

 言葉を掛け合い、シュラーキは覆いかぶさったままでウィードに優しくキスをし、ウィードは静かにそれを受け入れた。

「んちゅ。じゃあ今度は普通にご飯を食べましょう」
「ちょっと冷めちゃっているから、味は落ちるだろうけどね。でもその前に……」
「あんッ!はーい。綺麗にしますよぉ〜」

 ずるりとウィードの膣から陰茎を引き抜き、ウィードにお掃除フェラをさせる。付いていたシュラーキの精液とウィードの本気汁を拭い去ってからズボンを穿き直すと、控え室の扉を開けて外を見た。
 するとそこには、二人の情事を聞いていたらしいオナニー中のレッサーサキュバスと、その横で超然とした態度で立っている銀髪交じりのサキュバスがいた。

「えーっと、何か御用ですか?」
「ひゃわぁ!」

 シュラーキが声を掛けると、レッサーサキュバスは我に帰り、大慌てで自分の体を両手で抱きしめると、涙目になって廊下の先へと走っていった。
 ちょっと可哀想なことしたかなと考えつつ、シュラーキは視線をサキュバスに向ける。
 するとサキュバスはふっと笑った後で、走り去ったレッサーサキュバスの方へと視線を向けた。

「ホント、ああいうのを見ると、若いって思うわよね〜」
「それって遠まわしに自分が若いって言ってますよね。……魔法で乾かした様ですけど、濡れてますよ、太もも」
「きゃぁ!……目ざといわね」

 シュラーキの言葉通りに、サキュバスが悲鳴と共に手で隠した太ももがテラテラと幾筋か濡れて光っていた。
 どうやらこのサキュバスもオナニーをしていたか、もしくはオナニーはしなくても股間を濡らして我慢していたかのどっちかのようだ。

「で、何か用ですか。僕、試合に負けたんですけど?」

 さっさと用件を言えと言いたげに、シュラーキの態度は硬い。
 まあ自分と愛する奥さんの情事を聞かれていたら、誰だって気まずくてこんな態度になってしまうだろう。

「えっと、こほん。ねぇ、お願いがあるんだけど、聞いて」
「否です」

 気まずさから咳を一つ入れて仕切り直したサキュバスの言葉を、最後まで聞かずに拒否で両断するシュラーキ。そんな彼の取り付く島の無い様子に、サキュバスはぷくっと膨れた。

「別に良いじゃない、お願いくらい聞いてくれたって」
「これから僕たちは、散々美味しいものを食べて、家に帰るんです。邪魔しないで下さい」
「ねぇ、その予定、一日延ばせない?」
「否です。帰ります」
「お願い。本当にお願い。貴方たちの試合をもう一回見たいって言う人たちが多いの。だから明日の決勝戦と三位決定戦の前座として、リザーバーとの特別試合を!」
「否ですって。疲れたので帰って、妻とイチャイチャしながら寝たいんですよ」
「ねぇシュラーキ。困っているんだから、出てあげましょうよ」

 予想外のところから、サキュバスの援軍が来たと言いたげに、シュラーキは背後に居るはずのウィードへと視線を向ける。
 胸の布は取れかかり、下の布は穿いていない状態のウィードがそこにいた。

「こらこら。下を穿きましょうね、ウィード」
「いいじゃない、夫婦の営みを邪魔しているのはサキュバスの方なんだから。それに言ったでしょ。旦那様との愛の証は誇るべきものだって」
「だからって……」
「あーん。やっぱり持つべきものは、同じ魔物娘ね。話が早くて助かるわ。じゃあ早速、特別試合のビラを刷るよう指示しないと!」

 そう言い残して逃げようとするサキュバスの方を、ウィードはその翼と一体化した手で掴むと、ぐいっと引っ張って彼女の顔が自分の目の前に来るようにした。

「まさか、私たちを客寄せに使うのに、タダって訳じゃないわよね?」
「ちゃんと、ホテルの部屋は用意するし、極上の料理だって――」
「それって、前と同じでしょ。前の私たちはただの招待選手。けど今の私たちは、観客が観たいと望んでいる騎士なのよ。特別な待遇で扱ってくれても良いんじゃないかしら?」
「じゃ、じゃあ。ホテルの部屋を、最高級のスイートに」
「部屋なんて何処でも良いわよ。シュラーキが居れば、私にとってそこが天国なんだしね」
「じゃ、じゃあ、採算度外視の超高級フルコース料理と、夜の営みに華をを添える各種魔法薬で、手を打ってもらえない?」
「それだけ?魔物娘にとって夫との時間が一番大事なのよ。その大事な一時を代償にするんだから、もうちょっと色つけても良いんじゃないの?」

 そんな調子で次々と譲歩の条件を出してくるサキュバスに、ウィードはのらりくらりとやり過ごしつつ、もっともっとと譲歩の条件の提示を求めていく。
 段々とサキュバスも自棄になってきたのか、それとも大会を成功で収めたいからか、提示するものが段々とそんな事まで条件に出して良いのかといいたくなるものを上げていく。
 やがてもうこれ以上は案が出ないとサキュバスが音を上げたとき、ウィードはただ一言だけ言った。

「じゃあそれ全部なら良いわ」

 条件に出した案のどれか一つを選んでもらう心算だったはずのサキュバスは、がっつりと青い顔をしながらウィードの顔を見てそれが本気だと知ると、大慌てで「あの条件はどうか無しに」とウィードに半泣きで頼み込み始めた。
 それを如何しようかなと不敵な笑みを浮かべつつ、のらりくらりと引き伸ばしてサキュバスの顔色を見て遊ぶウィード。
 シュラーキは自分の妻ながら良い性格をしていると溜息を吐くと、まぁどれが無茶な条件かは分かっているはずだしと、ウィードの気が済むまで放っておくことにした。
 無論次の日に、無事に特別試合が組まれて、大盛況の内に引き分けで終わった。
 その試合の代償に、一体何をサキュバスがウィードに要求されたのかは、当事者の三人だけの秘密である。

12/10/13 20:01更新 / 中文字
戻る 次へ

■作者メッセージ



そんなこんなでワイバーンさんのSSで御座いましたがいかがだったでしょうか。

長い、長すぎる?
そう、このSSは長いのです。
なんたって、コンセプトは、気の向くままにテンコ盛りなのですから!

いやでもホント長いですよね。
五万と五千字に迫る長さですものね。短編の長さじゃないですよね。

でも楽しんでくれたかナーと思いつつ。


それではまた次のSSでお逢いしましょう。
中文字でしたー ノシ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33