読切小説
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四人一組プラス俺
唐突だけど、俺は四人の彼女と付き合っている。
おっと誤解するなよ、あくまで俺は「四つの人格を持つ一人の女の子」と付き合ってるんだ、まぁ、四人と付き合ってるのは変わりないか。

「おい忠志! なんでチョコケーキなんだ!?」
「あ、ごめん朱美だったか」
「チョコケーキでいいんですがねぇー」
「うぉーい! 唐突に鈴になるのかーい!」

例えばジキル博士とハイド氏みたいに顔つきが変わったり、二十四人のビリー・ミリガンみたいな超多いわけでもないし、十面相みたいな互いの人格を知らないとかもない。
彼女の体にはあくまで、四つの人格があるだけだから。
そう、彼女は……。

「やー! 埜々香、チョコケーキ嫌い〜!」
「埜々香か……。なら、ショートケーキか?」
「モンブランがいいッス!」
「久美か……」
「いや、チョコケーキ! ……いや、ショートケーキ! ……ふざけるな、羊羹だ! ……いや、そこでそのチョイスはおかしくないッスか!」

そう、キマイラだ。
キマイラである、彼女自身には名前がないけど、人格四つにはそれぞれ名前がある。

「大体買い物したのは私だぞ」

真面目で俺にも他の人格にも厳しいドラゴンの人格、朱美(あけみ)。
基本的には朱美が出ていて、多分四人の中で俺との付き合いは一番長い。

「いやー、でもどうせ食べるし体一つしかないからチェンジしあえばー」

おっとりした口調だが暴れると手の付けられない獅子の人格、鈴(れい)。
引っ込み思案?というヤツで、人前ではあまり出ないけれど、四人の中では勉強が一番出きるらしい、成績表見たことないからなんとも言えないけど。

「でも埜々香、他の食べてからショートケーキ食べたくない〜、絶対に不味い〜」

子供っぽいと言うかぶりっ子で一番嫉妬深い蛇の人格、埜々香(ののか)。
多分朱美の次に出ていて、学生時代は埜々香としても、朱美としても人気があったらしいけど。

「もうモンブランから食べるッスー」

四人の中で一番元気があるけれど、暑苦しくて一番出てこない山羊の人格、久美(くみ)。
考えてることが分かりやすいけれど、朱美とかと比べると付き合いは短いからまだよくわからないところもある。

「とりあえずさ、朱美から食べたらどうだ? 買ってきたの朱美だし、本当は皆の選んだのも朱美だしな」
「む、それなら埜々香、朱美ちゃんに譲る。……ウチもそれでいいッス。……うん、自分もそれでオーケーかなぁー。……なら、お言葉に甘えて」

端から見たら一人で会話してるから危ない人にも見える、実際大学の食堂で最初に見かけた時は俺もそう思った。
……彼女が一人でぶつぶつ呟いて、ラーメンがいい、いやハンバーグが等と言っていたのを見て耐えかねた俺が、「なら俺この二つ頼んで、君が二つ頼んで半分ずつ分けない?」と、話しかけた所から交流が始まった。
それから四つの物を分けたりしていたのを疑問に思って質問したら、キマイラだったことがわかって、俺はいつの間にかこの個性的な四人の人格を持つキマイラの彼女と、いつも一緒になっていた。

「美味い……」
「朱美、ほっぺにクリーム」
「あ、埜々香もらっちゃおーっと!。……ちょっとー、折角朱美が食べてるのに急に出るのはダメですよ。……クリームはウチがもら。……おい出てくるな!! ゆっくり食えないだろうが!!」
「ほらほら喧嘩しないで」

それから半年経って、突然四人に、四つの人格に告白された。
朱美は俺が初めて変な魔物だと思わず話しかけてくれた優しいところ、埜々香は他の女の子に靡かずにいつも一緒にいてくれる一途なところ、
鈴は自分のペースや知識に合わせてくれる熱心なところ、そして意外と久美は外見。

「忠志がそう言うなら。……忠志君が言うなら埜々香、喧嘩やめる。……そーですね、仕方ないです。……ッスねー」

四人それぞれ俺を好きになった理由はバラバラで、俺も四人全員いいところがあるから、みんな好きだ――誰か一人を選んで、と言われても困ってしまう位には。

「五人で足並み揃えないとな。俺、朱美、埜々香、鈴、久美で」
『だね』

四人の声が、同時に聞こえた。
これから先はどうなるかはわからないけど、やることは今も未来もきっと変わらない。


五人一組、俺と……四人の彼女達と足並み揃えて頑張る、それだけだ。


「そうだ、今日の晩御飯外食に行くけどどうする?」
「やはり和食だろう。……え〜、埜々香はパスタとかがいい〜。……自分はラーメンがいいです。……いやここは焼き肉ッス! ……久美、山羊なのにか?」
「ははは……」

でも完全に揃えられそうなのは、まだ先らしい。
14/10/19 05:20更新 / 二酸化O2

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