連載小説
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EX〜未来あるべき少年の救済〜
「今日も食べない気か?」

その声に、ボクは無言を貫く
―――魔物が作ったものなんて、誰が食べるか

ボクはそう思いながら相手を睨む

「…そんなやせ細って睨んでも、全く私は怖くないぞ」

そう言って、食事を横においてボクの前に座る

「いい加減食べないか?このままだと死んでしまうぞ?」

「…そうやって心配する『フリ』して、ボクら人間を『物』にしたいんだろ!お前ら魔物なんてみんなそうだ!」

ボクは目の前のデュラハンに言う
こいつだってホントはボクを嫌ってる

当然だ、こいつの主を痛めつけたんだから

でも、全く後悔してない

だって…どうせみんな上辺だけしか見てないんだから

・・・

ボクには生まれつき、不思議な力があった

相手を見るだけで、相手を操る力だ

最初はわからなかったが、考えればそんな兆しはあった

例えば、ボクが鬼ごっこで鬼だったら相手は走るのが遅くなるし、ボクを捕まえられる奴は居なかった

ボクより足が速い奴らなんてたくさん居たのに、だ

それを自覚したのは、街で悪い事をしてる奴を見たとき

女の人にいたずらをしてる奴が居て、近くに治安警備の人がいた

―――あの人たちに教えないと!
そう思った時、その男は自分から手を上げた

そうして、悪い事をしてるのがきちんと発覚したのだ
その事をみんなに教えて、実演した


そしたら、みんなこぞって気持ち悪いと言い始めた


親友と言ってくれた連中も、優しかったおじさんも、みんなボクを気持ち悪がった
気持ち悪がって、ボクと会わないようにし始めた

―――それは両親もだった
ボクの眼が昔から周りと違うのを知っていたが、それが周知の事実になると、ボクをより気味悪がった

ボクが何をしたんだ?
ボクは人を助けたのに?

なんでボクをみて怖がるの?

そんな事があってから少したって、母さんが魔物に襲われれ、サキュバスになってしまった
ボクの住んでる街は反魔物領だから、母さんは殺される

それが理由で、ボクら一家は旅に出た

けど、旅に出ても、父さんも母さんも自分たちの事だけで、ボクは除け者にされていた
―――そんなある時だった

父さんと母さんが、ボクを教団に引き渡して逃げようとしてるのを聞いたのは…
よく聞こえなかったけど、ボクを教団に渡して逃げる算段を立ててたらしい

その時、ボクはわかった

魔物は、敵
人間も、ボクを理解しない

ボクは、一人ぼっちで、誰にも必要とされてない

教団の兵士たちに、父さんと母さんを引き渡して、ボクは自分の安全を手に入れた

・・・

「…どうしたら食事をしてくれる?」

「お前ら魔物が居なくなったらしてやるよ」

ボクとあいつの攻防は続く

―――魔物から施しを受けてはいけません、奴らは内から蝕むのです

司教様がボクに教えてくれた事を、忠実に守る
あの人自体は好きでも嫌いでもないけど、ボクの力を認めてくれたのは、あの人だけだ

そして、ボクに居場所をくれたのも教団だけだ


「はぁ…」

「溜息つくなら来なきゃ良いじゃん。ボクの事大嫌いなんだろ」

「…確かにそうかもな」

そう言いながらも、あいつは出て行かない
ボクをみて、なにか考えてるような顔をして、俯く
そんな事を何回か繰り返す

「余りしたくなかったが…」

そう言って、パンを持ちボクに近づこうとする

「今度は実力行使?説得するとか言いながら結局それなんでしょおまえらは?」

黙ってパンを持ってボクに近づくデュラハン
ボクは動かない

隙を作る訳にいかないし、下手に動いて体力を消耗したくない

それに、目隠しをされて力も封じられている今、ボクはどうやっても敵わない
―――目隠しといっても、どういう原理か、能力を使えない以外は問題なく見る事はできるけど

「とりあえず、お前を死なせたくないからな…無理やりでも食事を取らせる」

「嘘なんかつくなよ。ボクに死んでほしいくせに」

その言葉に、また溜息を付いてる
―――そやって心配するフリをいくらしてもボクは騙されない

「死んでほしいなら、とっくに殺している。なんでわかろうとしないんだ?」

その言葉を真に受けるほど馬鹿じゃない
ボクは無言を貫く

「…やめだ」

そう言って、あいつはまた座り、僕に渡す予定だったゴハンを食べ始める

「…く…たのに」

何かぶつぶつ言いながら悲しそうに食べているのには、多少罪悪感を覚えなくは無いけど、相手は魔物だ
油断したら、父さんみたいにされる

それに―――魔物だってボクを受け入れない筈だ
人間が受け入れないのに、あいつらがボクを受け入れるわけ無い

ボクは、それを知ってる

〜〜〜

「はぁ…」

リリスから命を受けてもう1週間になるだろうか
いまだにあの子は心を開いてはくれない

―――最も、私自身開けているかと言われたら開けてないとも思う

確かにあの子は非常に憎い

私にとって家族であり姉妹であり―――大切な君主たるリリスを傷つけたのだ
許せるわけが無い

が、それも含めてあの子の事が心配になり始めていた

はじめは、ただの食事拒否だと思った
が、そんな事は教団兵なら良くある事だし、誰だって空腹には勝てない筈なのだ

そして、拒否をするなら食事を蹴飛ばすなどするだろう

が、あの子はそれをしない
ただ、只管食べないで置いておくだけなのだ

それこそ、見かねてこちらが食べてもそのままだ

「どうすれば…」

仮に他の人間に持っていってもらっても、親魔物領の人間も信用しない

衰弱するばかりのあの子をどうにかして救いたい
が、その方法がわからない

剣で脅して食べさせる?
―――それではあの子が昔しようとした事を繰り返すだけだ

どうにか諭す?
―――話もまともに出来てないのに?

私には、どうしたら良いのかお手上げになりかけていた

〜〜〜


意識が朦朧としてきた

流石に食べないでこれ以上は持たないかもしれない
けど―――食べたら中から

「おい、大丈夫か?」

またあいつが来た

「しつ…こいぞ…ぼ、クは…」

「これ以上は本当に死んでしまうぞ!?頼むから食べてくれ!」

そう言って、柔らかそうなパンを持って僕に近寄る

「魔物なんて…「そんなこと言ってる場合か!死んだら元も子もないんだぞ!?」

なんで、こいつ泣いてるんだ?
ボクなんか、誰もいらないんだろ?

なんで…

そう思いながら、意識がなくなってく中―――
あったかい味だけは、いやな位印象的だった

・・・

眼が覚めたら、今まで居た部屋とは違う部屋にいた

「気が付いたか…」

横には、またあいつがいた

「極度の飢餓状態による衰弱…だ、そうだ…」

ボクは何も喋らない

「すまない…」

「…ボクが勝手に倒れただけなのに、なんで謝るんだよ」

悲しそうに、それこそ泣きそうになるのを見て、僕は困惑する

―――ボクが死ぬだけだろ?なんで悲しいの?
―――敵が居なくなるだけだろ?
―――ボクなんて誰も要らないだろ?

なんで?

そんな思いが、ボクを支配する

「お前が倒れたのは私が原因だ、すまない」

何度も、すまないと謝ってる

「…別に敵が死ぬだけだろ!なんでそんなに謝るんだよ!?ボクが死んでも関係ないだろ!!」

「そんな訳あるか!お前が死ぬかもと思ったときどれだけ辛かったと思ってるんだ!?」

「知るかよ!知りたくも無いよ!!どうせ上っ面だけの癖に!!」

その言葉に、あいつは止まる

「どうせそうやってボクをだますんだろ!?誰もボクなんて見ないくせに!」

―――パァァン!

気が付いたら、ボクは叩かれていた

〜〜〜

気が付いたら、手が出てしまっていた

「いい加減にしろ…」

私の沸点も、同時に上がりきっていた

「死んでほしい?だったらとっくに見捨ててる!」

私の涙は止まらない

「上っ面しか見てない?お前だってそうだろ!?私たちの事を端から見ていない…」

「…なんで泣くんだよ」

聞かれてもわからない
だが、私の涙は止まらない

「私は…お前と話をしたい」

私は正直に言う

「お前がどんなことが好きで、どんなことが出来て…そんな風にしたいのか知りたい」

「…どうせ嘘、なんでしょ」

震えながら、私に言う

「ボクの事なんて、最後はみんな見捨てるんだ…何したって、見捨てるんだ!父さんも母さんも!ボクを見捨てたんだもん!お前なんかがボクを見捨てない訳ない「絶対、見捨てない」

泣きそうになるこの子を抱きしめて私は伝える

「両親に捨てられて、辛かったよな…苦しかったよな…。私は、見捨てないから。必ず約束するから…」

「う…うぅ…」

「泣きたくても、泣けなかったんだよな…大丈夫だから…泣いても、誰も怒らないから…」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」

―――リリスはここまで見れていたのかもしれない
この子の本心を

本当は、誰かに甘えたかったんだろう
みんなと友達でいたかったのだろう
誰かに、褒められたかったのだろう

そんな当たり前すら放棄させられ、ただ異能に眼を付けられて、それ以外を見てもらえなくて…

精一杯強がって粋がっていないと、自分自身が保てなかったのだろう

「私が付いてるから、な…」

私の腕の中で泣きじゃくるこの子の頭を撫でながら、私はそんな事を考えていた

〜〜〜

あれから、ボクはリートに引き取られた
初めこそ色々警戒していた

また裏切られるんじゃないかとか、またボクを捨てるんじゃないかとか…
けど、彼女の生活をみて、全く必要ないことがわかった

―――リート、家事能力無さ過ぎるよ…

彼女は基本的に家はベットで寝るだけの為に帰ってたらしく、こざっぱりしてる部屋だった
そこにボクが住み始めて、それから家事をし始めてるわけだから…

「結果、ボクが部屋の片付けとかしたほうが良いよね?」

「うぅ…なんでお前のほうが料理まで出来るんだ…」

恨めしそうにボクに言うリート

「仕方ないじゃん。両親交わってばっかでボクのゴハン自分で作んなきゃならないんだし」

リートのゴハンは美味しいけど、時間が掛かりすぎてしまう
ボクの心を開く任務を終えたリートに、そんな時間はなくなってしまった

「大体これくらいなら簡単に作れるし、本のまんまきっかりの分量になんてしなくて良いんだから」

「でも、その方が美味しかったろ!?」

「美味しいけど時間掛かりすぎ。家事ではボクの方が優秀だね!」

また落ち込むリート
見ていてどっちが保護者かわからなくなる位だ

「そういえば…学校はどうなんだコルト?」

「んー…別に普通だよ。授業がつまんないけど」

コルトとは、彼女がボクに送ってくれた名前
意味は良くわからないけど、名前がないとこれから不便だし、あのNo.12すら名前があるのにボクに名前がないのは不満だったから丁度良いと思ってる

「きちんと受けないとだめだぞ。それに友達とかに前みたいな態度取ったら…」

「だって白勇者の時に教わった事ばっかだもん。それに他のみんなもボクがこれかけてるからってなんか勝手に頭良いみたいに言うし…」

そういって、ボクはかけてるもの―――メガネとかって言ったかな?―――に手をやる
これは特別製だかで、ボクの力も軽減されるらしい

学校では、前の街とか教団みたいに怖がられる事も、気持ち悪がられる事もない

ボクが白勇者だと告げた後でも、それは変わらない
―――と、言うか、そんな事気にしてられるかみたいな空気があるのは何なんだろう、一体…

「そういえばさリート」

「ん?」

「ボクの名前って、あれ意味とかあるの?」

「ふむ…言ってなかったな」

そう言って、腰につけている自分の剣をボクに見せる

「私の剣を打ってくださった鍛冶師のサマエル=コルト氏からもらったんだ」

「サマエル=コルト…ってそれ伝説の鍛冶師のコルト!?あの『対魔の聖剣鍛冶』の!?」

「人間からはそう言われてるな、確か…。彼はあくまで自分の剣が誰かを守る為に使われる事を願ってるだけだがな…」

そう言いながら笑うリート

「彼は今の勇者には剣を打つ価値がないと思って、それからは魔界でドワーフの奥さんとサイクロプスの奥さんと仲良くしてるとかよく言われてるよ」

「リートは会ってないの?」

「私は直接はお会いする機会が無くてな…剣も母様が頼んでくれたんだ」

そう言いながら、ボクを後ろから抱きしめる

「り、リート!?」

「いつかお前がまた道を踏み外さないように、お前が誰かを守れますように、そんな思いを込めたんだ…」

リートの髪の良い匂いが、ボクの鼻を擽る

「だから、コルト…焦らず、頑張って生きていこうな」

悔しいけど、ボクは素直になれない
リートに負けたって思いたくないし、まだ魔物を完全には信じてないから

「…ふん!ボクは大丈夫だからリートは早く相手をみつけなよ!」

「…お前は!」

そう言いながら頭をワシャワシャ撫でられる

そんなちょっとした事だけど、なんか嬉しかった


12/10/23 00:26更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
どうも、ネームレスです

てなわけでNo.11ことコルト君の救済でした

なんだかんだ言って、まだまだ子供な彼
だけどリートに会うまで、子供らしく出来なかった事があの性格の原因でした

ちなみに学校では悪ガキしながら真っ直ぐ成長してくれるでしょう…

さて、最後に…

次の設定集で白黒勇者自体は完結とさせて頂きます

し・か・し!

新たにこの白黒の外伝を連載していくので皆様ご心配なく!

そちらでは新しい白勇者やホープたちのドタバタコメディなども展開する予定ですのでお楽しみに!

ホープ「え?僕のドタバタとか聞いてないよ!?」

今はじめて言ったからね

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