連載小説
[TOP][目次]
24.子供による、子供のための子供の街
やっと、やぁぁぁっと!
到着しましたドルチャイに!!
バーダンを出発してからもうどれほどの期間が過ぎたのかわかりません。4、5日くらいだった気もするし、4、5ヶ月くらいポーンと飛んでいる気がします。
ここまで来るのに長かった……。
いえ、実際私たちの旅は4、5日なのですが、こん、っの駄馬イコーンが加わってからというもの、上位の魔物娘がいるというのにブレイブに向かってアプローチしてくる娘が多いもの、多いもの。
いえ、いいんですよ。……それが私の望みだったワケですし。ブレイブ育成計画にキチッと予定されているものですから。

だが、私は駄馬のSAGAをナメていた。コイツが加われば計画も加速度的に早まって?、もはや舐めプでーーブレイブを舐めナメする舐めプでいいと考えていた時期が私にもありました。ルチアも………倒しましたし……。………………、ごめんなさい置いておきましょう…。

気を取り直して!
ーーーふ、ふふふ。
しかし、もうブレイブをナメていればそびえたーー育つと思っていたのは………それはただの夢でした(遠い目)。

なんですか!? この変態との遭遇率の高さは、無限にPOPするゲームのモンスターのごとく来るわ来るわ、変っ態が!!
私のような素敵な常識人には耐えられません。
オークのケツの菊道を馬車で走破したと思えば……今でも踏まれて悦ぶ豚どもの嬌声が耳から離れません……、付きまとってきたバブルスライムとデビルバグとベルゼブブは見事な連携でブレイブの……を狙ってきていて。お上品な私には何を狙っていたのか口にすることはできません。そこに加わるケプリちゃん……。あんな清楚な感じの子の口か何度もなんども、……あああああ!?、スカラベのスカはス◯トロのスカだったというのですか!?

申し訳ありません。取り乱しました。高貴なリリムとしてはその様なお下品な嗜好は持ち合わせておりませんため、初めて触れた世界に………惹かれてなんていませんよ。ホントですよ。ホント、ホント………まだ……。
ゴホンッ。

そんなわけで、私たちは迫り来る変態どもをちぎっては投げ、ーー契ってはいませんーー契らせてはいませんーー大事なことなので二回言いました。あんなん加わらせるかよォっ! ゲフン。
ダメですね。あまりにも悲惨な戦いだったので疲れている様です。あのカーラですら疲れ切ってグッタリしています。
ちょっと、大股開きで椅子に身を投げ出すのはやめなさい。ブレイブもどうして、チラチラ見ているのですか?
幼女の顔でそんなドヤ顔で……うっすらと笑わないでください。疲れていても、強がるその様子が計算され尽くしたものだとしたら、ーーこの幼女どうしてくれよう。
ぐぬぬっ、ドルチャイに着いたら子供になる薬でも買いましょうか……。

アンちゃんはブレイブに装備されて彼を守って、白衣は自分の体の繊維を解いて索敵結界を張っています。ーー何この臨戦態勢。珍しく白衣の目も血走っています。流石の彼女でも変態ジェットストリームアタックにはこたえたようです。


そんな中、グロッキーな私たちのパーティの中で唯一元気な駄馬イコーンのビクトリアが声を上げたのでした。
「ご主人様がた、街が見えてきましたわ。ああーー、どんな素晴らしいご褒美をいただけるのでしょうか。もうすでに馬車馬として使役されていること自体がご褒美なのですが、興奮せずにはいられません。道具とか興味あります。サバトの街と言うのならば、素敵なお薬も!? ああ、待ちきれなくて私はすでにグショグショです。嘘だと思うのなら、確かめて見ますかーー、ァッヒヒィぃん♡」
「ちょっと君、黙ろうか?」
ダメ言語をまくし立て発情し、自らのスカートを捲り上げようとした彼女のお尻をケルンが容赦なく鞭で叩きました。ケルンの目はすわっています。度重なる試練の連続で鍛えられた彼女には馬の扱いが身についてしまったようです。ーー彼女の鞭さばきには何度も助けられました。
「もっとォ♡」
あふあふと喘ぐ馬を無視してケルンは私たちに声をかけます。
「やっと……、着いたよ。長……かった。あたし、この街に着いたらもう抜けていいかな……?」
彼女の目尻には涙が浮かんでいます。お疲れ様です。私は彼女に労いの声をかけます。
「ヌいてもいいけど、抜けるのは却下だゾ☆」
口の端から舌を出すテヘペロの表情で私はケルンに言いました。ーーアレ? 反応が悪いですね。カーラを真似してあざとい路線に挑戦してみたのですが……。
ナズェ、皆さんそんな目で私を見ているのでしょう。そんな、今まで立ちはだかってきた変態どもを見るかの様な。私は変態ではありませんよ?
そんな目で見られると興奮してしまうではありませんか。馬車の車輪の音、ビクトリアの蹄の音を抑えて、私とビクトリアの呼吸の音が重なって聞こえます。

「ブレイブ、このメンバー、本気で編成し直さないか? バーダンで生まれたキューピッドやデーモンを加える方がよっぽど気苦労がなくなると思うが」
おお、幼女の口から珍しく理知的な声があがりました。え、真逆カーラはパーティから抜けるつもりなのですか!?
「そうですね。カーラさんの言う通りです」
白衣が同意しました。ブレイブも、ーーいえ、アンちゃんでしょうか、リビングアーマーを装備したままブレイブが頷いています。
「僕もそう思う」
おや、ブレイブまで……。便利だとはいえ、この駄馬の酷さにみんな耐えられなかったのでしょうね。しかし、仲間思いの私はこう言い放ちます。
「せっかく仲間になれたのだから、今更放り出すのは可哀想じゃない。ブレイブもヤッちゃったのだから、責任持たなきゃダメだゾ」
きゃる〜んという擬音が聞こえる様に精一杯可愛らしいポーズをとって見ました。みんなが私を見ています。ーーよし、掴んだっ!
『…………………………………』
馬車の中に沈黙が満ちました。シィン、という音が聞こえてきそうです。私のあまりの可愛らしさにみんな言葉も出ない様です。

「ねぇ、ヴィヴィアン? ………どうしてヴィヴィアンはそんな服を着ているの?」
ブレイブが突然、全然関係のないことを言い出しました。
「どうして、って。何がですか?」
私の答えにみんなまた黙ってしまいました。似合いませんかね、………この服。
カーラが幼女になってブレイブの心が動かされてしまった様なので、負けずに私もーー形から、子供服を着てみたのです。
もちろんキツいですよ。胸とかお尻とかもうギュウギュウに締め付けられて弾けてしまいそうです。動くたびにミチミチとなって、緊縛プレイのようで捗ります。私は自分の体を抱きしめてくクネクネしてしまいます。

「………、ヴィヴィアン。それ、いい加減脱ごうか」
「ェっ、ブレイブが脱げだなんて……、ここでするつもり!?」
私の様子にとうとうブレイブも発情してしまったのですね。作戦、だいっ、ダイ、大性行ーーじゃない、大成功です!! 間違ってはいないですし、順番が逆なだけですけどね。テヘッ。
あれ、なんでカーラは剣を展開しているのでしょう。まさか私たちの性行を盛り上げてくれるのでしょうか? でも、そんなブッとい剣で突き立てられてしまったら、大性行どころかDIE性行になってしまいます。刺激が強すぎて昇天してしまいます。
そんなことを口に出していたら、私の目の前すれすれをカーラの剣が横切りに抜けて行きました。ハラリと何本か前髪が落ちてしまいました。
「……なんか殺気篭ってないですか、カーラ?」
なんかカーラの目が怖いです。その剣の持ち方はおかしくないですか? その振りかぶり方は棍棒でやるような……。
なんか身の危険を感じさせるカーラの様子に私は逃げようとしますが、
「動けない!?」
白衣の繊維によって体の動きが封じられてしまっています。
「カーラさん、その諸悪の権化を跡形もなく消し去ってしまってください」
「ちょっと白衣ぇ!? 何を物騒なことを言っているのですか。助けてください、ブレイブ!」
「カーラちゃん、白衣さん、……ちょっと待って」
流石ブレイブ、じゃじゃ馬どもの手綱をしっかりと握ってくれています。彼女たちは馬ではないですが(笑)
私はすがるような目でブレイブを見ます。
「僕がやるーー」
「へぇっ!?」
私の口から変な声が出るのにも関わらず、ブレイブはカーラに手を当て「よし来た」ーーカーラがブレイブ用の刀剣に変化しますーー、「心得ております」ーーカーラを持ったブレイブの右手を保護するように白衣が巻きつきます。
「覚悟しろヴィヴィアン」
それ、私に使う言葉じゃありませんよね!? キリッとしたその眼差しを私に向けないでください、お股がドシャ降りになちゃぅうう♡
「あふぅぅうううん♡」
ブレイブが解き放った黒の奔流に私の意識は押し流されてしまったのでした。
後に残ったのは、ボロボロになった無様な子供服をきた半裸のリリムーー。

P.S.この馬車は結構広いのですよ。




「思わずやっちゃったけど……大丈夫だよね、ヴィヴィアン」
「大丈夫に決まっているだろう、ブレイブくん。見てみろこの幸せそうな顔を。信じられらるか? これ、罰を受けたんだぞ」
「このまま簀巻きにしてビクトリアさんに括り付けて放ちましょう」
(コクコク……。)
「そのような大役を私に!? 恐悦至極っ!!」
「そのまま帰ってこないでくれると助かるな……。いや、まぁホントにヴェルさん、お疲れ様でした」
「今だったらヴェルメリオさんに迷惑をかけないように慎みを持てる気がします……」
「惜しい竜を無くしたものだ」
「しゅぎょうに行っただけだよ!?」

ヒクヒクと幸せそうに痙攣するリリムを放っておいて、ブレイブたち一行はドルチャイの街の門にたどり着いた。
門の前には行列ができており、様々な種族であふれていた。
「中々、賑わっているようだな」
「そうですね。この街に来たことがある方は誰かおりますか?」
一同は同様に首を振った。
「唯一、来たことがある痴女はこの様子ですし……」
白衣はそう言ったが、誰もその汚物には視線を向けなかった。

「ん、アレは何だ?」
カーラが街の上空に向かって指をさした。
「風船……かな?」
ブレイブたちもカーラの指差した方に目をやった。
街からはいくつもバルーンが上がり、門に並ぶ人々の雰囲気と合わせてまるでお祭りかテーマパークの行列のようだ。

「あんたらこの街は初めてニャン?」
キョロキョロしていたブレイブたちは見回りと思われるケット・シーに声をかけられた。
「は、はい」
獣と人が混じった姿の魔物娘はーーサテュロスもバイコーンもそうだがーー見慣れて来たブレイブだったが、獣の顔をしている魔物娘に出会うのは初めてで、少しビックリするブレイブ。そのケット・シーは耳が後ろ側に向かって反り返っていた。

「じゃあ、ちょっと教えてやるニャ」
得意げに話しを始める猫人妖精。この街が好きなのだろう。モフモフのお手手を広げて宣言した。
「にゃふふ、聞いて驚け見て慄け、この街は子供による子供のための子供の街、その名もドルチャイニャ」
「ドルチャイニャ」
「そこを取らないで欲しいニャ。ドルチャイ、だけでいいニャ」
ケット・シーはフンと鼻を鳴らす。ヒゲがピクピクと動いている。
「ドルチャイはいい街ニャー。子供たちを楽しませるために、色んにゃ催しものを毎日やってるニャ。にゃから、テーマパークにでも来たつもりでいてくれればいいニャ」
「テーマパーク……」
「要するに楽しいことがいーっぱいある街ニャ」
「ほう……」
「新しい領主さまの方針でこの街は生まれ変わったんニャ。前の街もよかったんニャが、警備兵とかはみーんにゃムッキムキのマッチョで固められていて暑苦しいことこの上にゃかったニャ。今の警備兵はウチのようニャ、プリティーな子猫ちゃんやアッチにいるようニャ、可愛いおんにゃの子たちになったのニャ。ほら、見るといいニャ」
小麦色の毛並みの猫が指さした先には、これで警備兵が務まるのだろうかと思うようなホブゴブリンの少女、チョットだけ膨らんだ胸を張るミノタウロスの少女、ツリ目のリザードマンの少女、少女。なぜか、ケット・シーに教えてもらった相手は全て年端もいかないような少女たちばかりであった。
「みんな……女の子?」
ブレイブの疑問が口をついて出る。
ケット・シーはそれを待っていましたとばかりに、
「その通りニャ。さっきウチは言ったニャ。この街は子供による子供のための子供の街。この街にいるのはみぃんにゃ、子供だけなのニャ」
「えっ、大人の人は?」
「いないニャ」
「じゃあ、どうやってお店とか……」
驚くブレイブを見てケット・シーは嬉しそうに口に手を当てて笑う。にゃっふふふ。
「ウチらを誰だと思っているニャ。魔物娘ニャ。そして、ここはサバトの街でもあるニャ」
パンパカパーンとばかりに両手を空に向かって大きく広げたケット・シー。
「そういうことか」
ケルンが口を挟む。
「サバトには子供になる薬があるという。それを使っているんだな」
「せーいかい、ニャ」
ケット・シーは両手を上げて、頭の上で丸を作る。子供っぽい愛らしい仕草に周りの行列の人々もほっこりとしていた。
「にゃふふ。にゃから、この行列ニャ。ここの門を通るのに時間がかかっているのは警備の理由だけじゃにゃくて、大人のままで入れないようにするためニャ」
「そう……なのか」
ケルンの目が泳いでいる。
「そうニャ。お姉さんはもちろん、そっちの馬車馬さんや一反木綿さん、転がってヒクヒクしている変態さんもニャ」
その言葉を聞いて、彼らは急いで変態を隠して、一斉に人差し指を口に当ててシーッと言った。
「そうか、恥部なのかニャ……」
その言葉に返事をするように変態の腰がヒクヒクと動いた。

「あ。あんたらの順番が来たようニャ」
ケット・シーと話しているうちにどうやらブレイブたちの順番が回って来たようだ。
「では、ウチはもう行くニャ。楽しんで来て欲しいにゃー」
可愛らしくお辞儀をして去っていくケット・シーにお礼を言ってブレイブたちは進んだ。


”この門をくぐる者は一切の憂いを捨てよ”
と書かれたタペストリーが飾られた門の脇には双子のようなレッドキャップが左右で鉈を持って門番をしていた。
「はーい。順番に押さないで進んでくださいねー。もしも言うこと守らなかったら、アッチの子に引き渡しまーす」
「ぐるるるる………」
白い帽子で朗らかに声を上げる左手の子が指し示したのは真っ赤な帽子で唸り声を上げている同じ顔をした少女。
「昨日はレフトちゃんがお楽しみかー、あの子達交互に赤と白が入れ替わるんだよね」
どうやら職務のためか、お互い交互にお預けの日があるようだ。血走った目で行列の人々を見回すその姿はいるだけで十分に威圧的だ。
しかし、身にやましいところがない者たちは平然とした顔をしていた。
ーーそれもそのはず。
「ダーリンはどこだ……」
彼女のブツブツと呟く声が聞こえて、探している獲物は自分たちではないことを知っていたからだ。人々は彼女の夫に心の中で合掌しつつ白い帽子のレッドキャップに従っていった。


「これを……飲むのか」
「そうですよ。この街に入るならば、これを飲んで子供の姿になっていただかなければいけません」
可愛らしく微笑む白い帽子のレッドキャップの前でピンク色の液体の入った小瓶を手にしてケルンは固まっていた。
(どうしようか。……流石にこれを飲んでも、このまま小さくなるだけ……だよな……)
躊躇うケルンの周りでは既に小さくなったビクトリアや白衣がハシャいでブレイブにまとわりつき、「私のアドバンテージが……」と嘆いているカーラがいた。馬車の中のヴィヴィアンはまだ気絶していたが、その口に無理矢理薬を突っ込まれてすでに彼女も子供の姿になっていた。
子供の姿になって眠っているヴィヴィアンはただの絶世の可憐な超絶美少女で、ボロボロの安っぽい子供服に身を包まされ艶やかな髪を散らして、床に倒れているその姿は神々しく背徳的で美しく艶かしく、………犯罪だった。幼気な美少女が呼吸のたびに薄い胸を揺りうごかすのを見たパーティの面々はーー相手の本性も性別も忘れて生唾を飲み込んだ。その変身はもしものことを考えて、ブレイブを馬車の外に出して行われたのだが、「正解だったな」と彼女たちは顔を見合わせる。起きていつもの調子で接してくれればヴィヴィアンに色々持っていかれることもないだろうと思いながら馬車から降りる面々。ーーその後ろ姿を見て少女がニヤリと笑ったのには誰も気がつくはずもなかった。

……ええい、ままよ。とケルンは小瓶の中身を一気に飲み干した。ケルンが瓶から口を離すとすぐに彼女の体に変化が訪れた。手足が縮み、背丈が見る見るうちに低くなっていく。が、そこまで胸は萎まなかった。
そして、流石は魔法の薬である。なんと、ご丁寧に服装まで変わった。ヴィヴィアンがそのままだったのは元から子供服を着ていたからだろう……、という事にしておこう。
「なん、……だと」
目を見開くカーラの前でフリフリの服を着たロリ巨乳が抗議の声をあげた。
「うわぁぁぁぁ、なんだコレ! なんで服まで昔の服にっ!?」
「ケルンさん……」
「わぁ、可愛らしい」
「み、見るなぁぁぁぁ!」
可愛らしい叫び声をあげてケルンは馬車の中に逃げ込んで行ってしまった。
「ここにきて伏兵の登場、……か」
悔しそうに歯を食いしばり手を握りしめるカーラに、ドギマギしているブレイブ。短くなった体でふよふよ漂いつつ微笑みを浮かべる白衣。
ブレイブの体に合わせて縮んでいるので薬を飲むことを免除され、ロリヴァージョンを披露できなくて内心残念がっているアンーーしかし、どうやって飲むつもりだったのか。この体だとどんなプレイを………と妄想の世界にトリップして危ない涎を垂らしているバイコーンの幼駒。
それぞれのリアクションを取るパーティの面々だが、なにはともあれドルチャイの街に入ったのだった。





「メイにゃん。……アレらに頼って本当に大丈夫かニャ?」
「大丈夫、と自信を持って言えんのが、残念じゃな」
古びた書物や魔術道具がそこ狭しと置いてある自室で、ケット・シーからの報告を受けてバフォメットのメイは溜め息をついた。
しかし、いくら変態であろうとも、腐ってもリリムであるヴィヴィアンの力は借りたい。さらには、パーティの他のメンバーも一癖も二癖もあるようだ。
「ーー奴らが宿を取り次第、ワシのところに連れてきてもらえるか?」
「わかったニャ、お安い御用ニャ。でも、メイにゃんに協力する代わりにーー」
「わかっとるわ。これじゃろう?」
バフォメットはケット・シーに猫缶を投げてよこした。
「にゃっふー。さっすがメイにゃん。話がわかるニャー。マッチョの趣味はいただけないけどニャー」
ケット・シーは嬉しそうに猫缶をキャッチした。
「ーーイイじゃろう。筋肉が好きで何が悪い」
「べっつにメイにゃんが好きな分は構わないニャ。でも、警備兵をムッキムキに固めるのは正直ヤだった、ニャ。にゃから、魔女に付け入られる隙もできたんニャ」
「ぐぬぅ」
ケット・シーの言い分にメイは呻くだけで口を噤んでしまう。
「正直、ウチは今のこの街も好きニャ。もしもメイにゃんが街をもと通りのガッチムッチにするというのであれば、魔女の方に付いていたかも知れないニャ……」
彼女はそこで意味ありげにメイを見た。
「ーーでも。魔女の裏の手段も、目的も気に入らにゃいニャ。にゃから、ウチはメイにゃんにつくニャ。メイにゃんも自重するっていってるしニャ」
メイはそこで素直に頷いた。ケット・シーはそれを見て満足そうな笑みを浮かべると、
「んにゃ、お仕事頑張るニャ」
尻尾で挨拶をすると、踵を返して部屋を出ていった。

「……筋肉に罪はないじゃろう」
ボソッとメイは呟いた。全くーー、彼女はいつも歯に絹着せぬ物言いだ。だが、それで助かっている部分もある。魔女のクーデターの際にももし彼女がいてくれたのならば、ここまで好きにさせることもなかっただろう。
「チッ、筋肉を盾に取るは卑怯な……」
幼女の容姿に見合わない舌打ちが聞こえた。彼女が何を言っているのかわからないが……大丈夫、私もわからない。


ーーーファン、ファン、ファン。
メイがヴィヴィアン達を待っていると、部屋に備え付けられた出動要請のサイレンがなった。ある一定の波長の魔力信号を送られたときに反応する魔術道具。メイの発明品の一つだ。
チッ、こんな時に……。メイは憤り、可愛らしい容姿ーーいや、バフォメットとしてはいささか凛々しい容姿の中、唯一彼女が恐ろしい魔物であったことを示す名残ーー、横に伸びる瞳孔をシュッと細めて立ち上がった。
「しかし、この街で悪さをするなどという不届き者はほっておけんしな」
独りごちつつ愛用の禍々しい形状の鎌を担ぐと、窓から外に飛び出して言った。
………まさか、あやつらではなかろうな、と一抹の不安を掲げつつ。
16/10/11 11:35更新 / ルピナス
戻る 次へ

■作者メッセージ
第3部開始です。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33