連載小説
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後編
「か、カナンさん……それは……!」

 自宅の台所。何の変哲もない小さな台所で、俺は信じられない光景を目の当たりにしていた。

「……母上はいつも、この格好で料理していた」

 頬を赤らめながらも、カナンさんは堂々とその姿を晒していた。これもまた男のロマンか、むしろ欲望と言うべきか。
 前から見れば綺麗な曲線美を描く肩や鎖骨のラインを楽しめる。母性的なエプロンの裾から覗く生足は鍛えられながらも、無駄な筋肉がない。胸の素晴らしさは言うまでもないだろう。たゆんたゆんだ。後ろから見ればうなじの美しさもさることながら、背骨のラインが走ったスベスベの背中が絶景だ。目線を下にやれば、蜥蜴の尻尾が映えたお尻が存在を主張している。つるりとした桃のような曲線と、くねくねと艶めかしく動く尻尾。その上で蝶結びにされたエプロンの紐が、プレゼントの包装のような可愛らしさを演出していた。

 裸エプロン。
 この目で拝める日が来ようとは。

「素晴らしいお母様ですね」
「う、うむ。この格好は若干恥ずかしいが、母上は立派な方だぞ」

 言いながら、カナンさんは魚を捌く。普段剣を使っているだけに刃物がよく似合う。裸エプロン姿で包丁を握る彼女はかなり色っぽい。しかも彼女が持参した包丁はジパング製の物で、刃の美しさがカナンさんの手さばきを引き立てる。

「何かお手伝いすることは?」
「いや、お前は待っていてくれればいい。お礼なのだし……」

 魚を見たまま言うカナンさんの姿を、後ろからじっと眺める。この状況で視線を外せるわけがない。

 さてみなさん(誰のことだ)、俺様が今カナンさんの裸エプロンを前にして、一番興奮していることは何か分かるだろうか?
 たゆんたゆんの双峰もぷりぷりのお尻も、鱗に覆われた手も全てが神々しいまでに素晴らしい。だが思い出して欲しいことがある。俺様はニオイフェチだ。
 ぴっちりした戦闘服に覆われていた体が、今前面の布一枚を除いて解き放たれている。当然、服の中に溜め込まれていた彼女の体香も発散される。俺は自分用にも気付け薬を作っておくべきだったかもしれない。鼻から侵入して脳を犯すニオイに、もう抑えが効かなくなりそうなのだ。カナンさんも裸体を見られ興奮しているせいもあるだろう、まさしく男を虜にし、発情させるためのニオイが放たれている。魔物に詳しい奴に「リザードマンにそんな能力は無い」と言われても、俺は信じない。

「おっと」

 魚の骨を足下に落としてしまい、カナンさんは前屈みになって拾う。その際拾いやすいように足を開いたせいで、魅惑的なお尻が一層強調された。すぼまったお尻の穴がよく見え、俺も姿勢を低くすれば『割れ目』も見えそう……

 そんな光景を前にしては正気は保てない。気づいたときには、彼女と数十センチという距離にまで近づいていた。以前店に来たジャイアントアントのフェロモンに釣られ、ふらふらと着いて行きかけた時を思い出す。そのジャイアントアントは既婚者だったため、俺をでこぴん一発(めっちゃ痛かった)で正気に戻してくれたが、今回はそうはいかない。カナンさんは俺を惹きつけている自覚がないのだ。
 俺の鼻に、彼女の髪のニオイが入ってくる。気品のあるニオイに、石鹸の香り。思わず顔を近づけ、しっかり嗅いで確かめた。

「んっ……おい、息がくすぐったい……」
「ご、ごめんなさい」

 謝りつつも、俺は止めることができなかった。髪のニオイを堪能した後、首筋の辺りに顔を移す。無我夢中で呼吸すると、甘くも爽やかな汗のニオイを感じることができた。この白いうなじに触ってみたいという欲望を辛うじて抑える。

「お、おい……何を……」
「こ、香水がカナンさんに合っているか確かめなくてはなりません! 義務なんです!」

 苦し紛れの言い訳だが、半分は本当だ。今カナンさんが身に纏っている香りはラストノート、つまり最後に表れる香りだ。これが彼女の体香りとマッチしていることを確かめたい。というか味わいたい。

「そ、そうか……分かった」

 義務という言葉が効いたのか、カナンさんは納得してくれたようだ。彼女の生真面目な性格を逆手にとったようで罪悪感を覚えたが、これで心おきなく嗅ぐことができる。
 肩、そして脇の下辺りのニオイを確かめる。汗の溜まりやすい部位なだけに濃厚な体香が感じられた。ゆっくりと深呼吸し、ニオイを胸一杯に吸い込む。多幸感が広がった。

 続いて肘の辺り。鱗に覆われたこの箇所からは、香水の香りが特にする。領主にでも教わったのだろう、正しい位置に香水をつけているようだ。肘や膝の内側など、脈打つ箇所に少量ずつつけるのである。香水とはふとした仕草のときにふわりと匂うのが粋なのであり、プンプン漂うほどつけてはそもそもマナー違反だ。
 とまあ、そんな講釈は置いておくとして。樹木系の爽やかな香りは、リザードマンという野性的ながらも女性的な種族によく似合うようだ。鱗から発せられるニオイともまたよく合っている。

 続いて背中。背骨のラインに沿って、ゆっくり下へ向かいながら呼吸する。

「ん……」

 やはりくすぐったいのか、カナンさんはもぞもぞと体を動かした。
 そしていよいよ下半身。まずは尻尾の辺りを嗅いでみる。膝裏から立ち上ってくる香水の香りと相まって、しなやかな尻尾が妙に艶やかに見えた。魔物の異形のパーツもまた、男を虜にする武器なのかもしれない。

 俺は夢中になって嗅ぎ続け……

「っ!」

 カナンさんの体香で幸せ一杯の嗅覚に、突如刺激臭が感じられた。何か、香辛料のニオイだ。反射的に立ち上がる。

「カナンさん、このニオイは……?」
「ん? ああ、これか?」

 カナンさんは振り向き、刺激臭の発生源を俺の眼前に差し出した。

「ーーーーーーッ!?」

 小皿の上に乗せられた、ねっとりとした緑色の物体。鼻先に突きつけられるような体勢だったため、俺はそれのニオイをまともに吸い込んでしまった。

「ワサビだ。ジパングの食べ物で、魚によく……」

 カナンさんの声が、遠のいていく。刺激臭が脳まで突き抜けてしまった。
 やばい、これ、死ぬかも知れない。

 あ、俺倒れた?

 うわ、カナンさんが大あわてで助け起こそうとしてくれてる。腕の感触が気持ちいい。こういうのは普通、女の子が男の子にされるものだろうに。

 何やってんだ、俺は……














…………








………





……



 ……なあヒューイー、知ってるか? 隊長は『あいつ』に気があるって噂……

 ……だろうな……

 ……へえ、お前本当だと思うのか? まああの人のことだから、本人に聞いても否定するだろうけどな……







 ……空が黒く染まってる……あれが今のレスカティエか……

 ……元より捨てた国だ。どうなろうと知るか……

 ……オーギュ、お前な……

 ……これで心おきなく、俺は技術だけを追える。ヒューイー、お前はあそこに戻るのか?……

 ……みっともねぇよ、今になって……




 ……どうだ? そなたらのような職人がいれば、町も活気づくだろう……

 ……リライアさん。城を建てられる額で俺らの腕を買い上げたいって権力者、一杯いるんですよ?……

 ……俺たちは全て断ってきた。それ以上の見返りが無くては受ける気はないな……

 ……ほう。私がそなたに与えられる物は、そうだな……





 ……思う存分に腕を振るえる場所と、その価値のある客だ……











…………








………





……








「う……」

 目を開けると、見慣れた天井が視界に広がっていた。体を包み込む布の感触が気持ちいい。我が家の寝慣れたベッドだ。嗅覚もはっきりしてきて、近くにカナンさんの甘い体香をを感じる。

「あ、ヒューイー」

 視界にカナンさんの顔が現れた。相変わらず綺麗だが、心配そうな面持ちだ。そりゃそうか、俺がいきなり失神したんだから。鼻が利くのも良いことばかりではない。普段から刺激臭のするものには注意を払っているが、カナンさんのニオイに夢中になるあまり、隙ができていたようだ。

「大丈夫か、ヒューイー?」
「平気です。すみません、驚かせて」

 どうやらカナンさんが、俺を寝室まで運んでくれたらしい。いやはや、情けない限り。
 しかも走馬燈っぽいものまで見てしまった。祖国では俺のことを覚えている奴なんていないだろうが、俺はあの国を忘れることはできない。あそこでの出来事が無ければ、今の自分も無かったのだから。

「本当にすまないことをした。私はワサビが好きなのだが、お前の鼻には強すぎたか」
「鼻が利きすぎるのも考え物だって、自分でも……」

 そのとき、俺は不思議なニオイを感じた。カナンさんの体香に混じって何かが匂ってくる。不快なものではないが、嗅いだことのないニオイだ。
 鼻をひくつかせてそのニオイを辿り、視線を動かす。行き着いたのはカナンさんの下半身……相変わらず裸エプロン姿の、彼女の股間の部分だった。俺の視線に、カナンさんは慌ててそこを手で隠したが、もう遅い。

「カナンさん、まさか……?」

 俺は見てしまったのだ。フリルのついた純白のエプロン……その股間部分に、艶のある染みができているのを。

「か、勘違いするな!」

 カナンさんは腰を引き、顔を真っ赤にして叫んだ。ああ、そんな姿も可愛い。たゆんたゆんだし。

「勘違いするなよ、おしっこじゃないぞ!

 そこかい。

「お、お前があんな、ケダモノのような息づかいで……あ、あんなことをされれば、魔物ならこうなる!」
「ご、ごめんなさい」

 物凄い罪悪感に襲われたが、それ以上に自分がカナンさんを発情させてしまったことに興奮を覚えた。最初仏頂面で店を訪れた彼女が俺のセクハラ行為で発情したのである。その事実を噛みしめつつ、羞恥に赤面するカナンさんの姿を鑑賞する。愛液のニオイが鼻をつき、ムスコが膨らんでしまう。そう言えば最近香水作りに夢中になって抜いていなかったっけ。

「謝ることはないが……むしろ……。ま、まあとりあえず、もう少し横になっていろ」
「いや、大丈夫ですよ、このくらい」

 そう言って起き上がろうとし、毛布を取ったら勃起がバレてしまうことに気づいた。だがいつまでも寝ているわけにはいかない。深呼吸をしてムスコを鎮めようとするが、かえって彼女の体香を大量に吸い込み、興奮する一方だ。もうガチガチになっている。
 カナンさんはそんな俺の胸を毛布越しに押さえた。

「まだ寝ていろ。何があるか分からないだろう」

 こんな状態なのに俺を気遣ってくれる。狂戦士の血を引いていても、今の魔物達は大抵優しさを持っているようだ。とはいえ、あまりいつまでも情けない姿を見せていたくはないし……。

「大丈夫大丈夫、ちょっとクラッときただけですって」

 俺は開き直ることにした。勃起がバレてもいいかという気分になったのだ。カナンさんもアソコが濡れているんだし、今ならお互い様ということで済ませてくれそうな気がする。

「大事な鼻をやられたのだろう。大人しく様子を見ろ」
「平気ですって、鼻もなんともないですよ」
「しかしだな……」

 カナンさんは結構頑固に食い下がってくる。それだけ俺のことを想ってくれているのだろうか。そう考えると滅茶苦茶嬉しい。
 だがいつまでも寝ていてはカナンさんの手料理が食べられない。こうなったら少しからかってみよう。

「カナンさんが添い寝してくれるなら、寝てますけどね」

 さて、どんな反応が返ってくるか。顔をさらに赤くして怒るか、慌て始めるか。不謹慎な期待をしつつ見ていると、カナンさんはむっと黙った。そして手を体の後ろにやり、エプロンの紐をしゅるりとほどき……そのまま脱ぎ捨てる。彼女の股間から粘液が糸を引くのが見えた。
 愕然とする俺の目に飛び込んでくるのは、一糸まとわぬ姿となったカナンさんの体。生のおっぱいがぷるんと揺れ、ピンク色の乳首がツンと勃っていた。滑らかな腹部のおへそも可愛い。その下に目をやれば濡れた割れ目が……

「うおっぷ!?」

 ……見えるはずだったが、その前にカナンさんがベッドの中に潜り込んできた。いやむしろ、強襲と言った方が正確か。俺に体当たりするかのように、荒々しく毛布の中に入り込んできたのだ。一瞬、彼女の胸が俺の肩に当たる。めっちゃたゆんたゆんだ。血圧上がりっぱなしだ。心拍数がヤバイ。
 カナンさんは俺から目を逸らし、そのまますぐ側に寝そべっている。髪のいいニオイがした。

「……これでいいのだな」

 そっぽを向きながら言うカナンさん。やべぇ、可愛い。滅茶苦茶可愛い!
 そして何よりも、この至近距離で彼女のニオイを味わえるのが最高だ。先ほどは背後からニオイを楽しんだが、今の状況なら前の方も楽しめる。特に胸とか。谷間とか。なんというか、今のカナンさんならそれくらいしても怒らないような気がしてきた。いくらなんもそこまで都合のいいことなんてあるわけないと思いつつも、俺は自分の願望を馬鹿正直に口にしてしまう。

「胸の谷間のニオイ嗅いでいいですか?」

 我ながらストレートすぎだ。これじゃ本当の馬鹿じゃないかよ。

「す、好きにしろ!」

 しかし、返事もストレートに返ってきた。それどころか彼女はしっかり俺の方を向き、目と鼻の先に双峰を突きつけてくる。存分に嗅げ、と言うように。
 いやいや、これはおかしいだろ。カナンさんがここまでエロいってどういうことだ? いや、魔物はみんなエロいはずだが、リザードマンはもう少し抑えてるものじゃないか?
 ……などと考えつつも、俺は彼女の谷間に顔を近づけてニオイを確かめてしまった。もう彼女に嫌がられずに嗅げるなら何だっていい。

 その汗ばんだ谷間は、まさに楽園だった。母性の象徴である乳房が、『女の子のニオイ』をより一層強調する。彼女の体香りは何度も繰り返すように甘く爽やかで、凛々しい女性に相応しいニオイだ。だがこの部位からは濃厚ないやらしいニオイも感じられ、それらのギャップがたまらない。クンカクンカと小刻みにかぎ続けると、脳内がどんどんピンク色になっていく。ちらりとカナンさんの顔を見上げてみると、彼女は微笑を浮かべていた。俺の息がくすぐったいのだろうか、とにかく嫌そうではなかった。
 思い切って、谷間に顔を埋めてみる。柔らかく温かいおっぱいに顔を挟まれる。このまま眠ってしまいたいくらいに気持ちいい。何よりもカナンさんがこれを受け入れてくれているという事実が、たまらなく幸せだった。今度はゆっくり、深呼吸する。おっぱいによる安心感からか、脈拍は落ち着き始めた。だが性欲は衰えることなく、このニオイを貪るのは止められない。

 その時。ふいに俺のムスコが、ズボン越しに掴まれた。

「!?」

 ベッドの中には俺とカナンさんしかいない。つまり彼女が俺のナニを手で触っている……?
 顔を胸から離してカナンさんの顔を見ると、彼女もハッと気づいたように手を離した。

「な、何こんなに大きくしているんだ!?」
「何で触るんですか!?」

 互いにツッコミを入れた後、沈黙する。何となく気まずい空気が流れてしまった。というか散々セクハラ行為しておいて、今のツッコミはおかしいだろ、俺。

「……なあ、ヒューイー」

 先に沈黙を破ったのはカナンさんの方だった。今更ながら、俺を名前で呼んでくれるようになったことに気づく。なんだか良い気分だ。

「訊きたいのだが……お前は何故、あんなに香水作りに拘っているのだ?」
「……それは」

 突然といえば突然の質問だったが、過去を隠す理由なんてない。語ることにしよう。むしろカナンさんには聞いて欲しい。何故俺のような人間が出来上がったのかを、洗いざらいぶちまけたい。

「故郷の軍隊にいた頃、初恋の人と出会ったんです。所属部隊の隊長でした」


 ……かつて教団の重要拠点だった祖国は多数の勇者を保有し、また貧民から搾り取った金で新たな勇者を育成していた。隊長も勇者の一人であり、勇猛果敢な隻眼の女戦士として知られる存在だった。本当に美しい人だった。やはり良い匂いがしたし、厳しいようでしっかり部下を気遣ってくれた。女のいない場所を探して軍に入隊したのに、俺は彼女に一目惚れしてしまったのである。
 そしてストレートに告白し、ストレートにフラれた。自分は女を捨てた、というのが彼女の答えだった。彼女の母は俺の母以上の腐れ女だったらしく、彼女は母親の虐待によって片眼を失ったという。それと同じ『女』であることが嫌になったのである。

 だが女を捨てたなどと言っても、男になれるわけじゃない。俺は彼女が女として『ある男』を愛していること、そして彼女本人がそれに気づいていないことを知ってしまったのだ。
 ある日、部隊の飲み会でのことだ。戦友の一人が酔っぱらった隊長に羽交い締めにされ、胸を押しつけられて顔を真っ赤にしていた。隊長は女としての羞恥心は持ち合わせていなかったため、それ自体はよくある光景だった。だが俺の鼻は、そのとき彼女から恋をしているニオイを感じたのである。

「恋をしているニオイ?」
「人の感情が、ある程度ニオイで判るっていったでしょ」

 彼女は間違いなく、あの戦友に恋をしていたのだ。そいつは元々良家の使用人だったらしく気の利く奴だったが、時々何か思い詰めているようでもあった。隊長は奴がそうしている所を見つけては、渇を入れたり励ましたりしていた気がする。彼女は単に隊長としての務めだと思っていたのだろうが、本当はそいつに恋情を抱いていたことに気づかなかったのだろう。
 自分に初恋を味わわせてくれた女性が、自分の本心に気づかずに自分を騙し続けている……ガキだった俺はそれが許せなかった。そしてやはりガキだった俺は、彼女に自分が女であることを気づかせてやろうと思った。そしてその方法は……かつて拒否した調香師の道に戻ること。
 丁度、オーギュが国を出て仕立ての修行をすると言っていたので、それに同行させてもらった。あいつは俺以外に友達がいなかったから快諾してくれた。軍の方は事実上、脱走したことになる。

「国の外から運んだ香りを、彼女に届けたかったんです。あの国の勇者達は内心、国にうんざりしてましたから」

 思えばかなり無謀だったが、あの頃の俺は自分が作る香水で隊長を、そして祖国を変えられると信じていた。そのためならどんな苦難も乗り越える気でいた。
 しかし、運命というのは皮肉なものだ。俺たちが国を出て一ヶ月後、祖国はたった一人のリリムによって魔界化させられてしまった。隊長もあっけなく魔物に変えられ、聞いた話ではあの戦友と幸せに暮らしているという……

「魔界化……教団の重要拠点……もしかして」

 俺の話をじっと聞いていたカナンさんが、何か気づいたように呟いた。レミィナ姫の親衛隊もやっていた人だ、あの国のことを知らないはずがないだろう。

「お前の初恋の人というのは、まさかあの……」
「人違いです」

 俺は彼女の言葉を遮った。

「人違いです。カナンさんの知っている人とは」

 昼間レミィナ姫に言われたとおり、男には女の気持ちが分からない。俺も隊長に、自分の理想の女性像を重ねていただけかもしれない。隊長を幸せにしたのは、純粋な女とも言える魔物だったのだ。

「その後はまあ、どうすればいいのか分からないまま、オーギュと一緒にあっちこっち駆け回って修行しましてね」

 オーギュは俺と違って、完全に祖国を捨てるつもりでいた。だから親魔物国家にも平気で足を踏み入れたし、俺も一緒に旅しているうちに魔物たちの真実を知った。その中で思ったのだ。
 俺も祖国を堕とした魔物の姫君と、同じ立場になりたい、と。

「同じ立場?」

 カナンさんは目を見開いた。こんなことを言う人間なんて初めて見たのだろう。

「世界にはまだ、悩める女性が沢山いるんだと感じました。俺の作る香水でも、そんな人たちを幸せにできるはずです」
「そうやって、あの方と同じ立場になると?」

 俺ははっきりと頷いてみせる。それが俺の信念だから。

「魔物のやり方より遙かに回りくどいですが、それでもできることがあるはずです。俺なら上手くやれます。そう信じて生きています」

 そこまで話し終え、俺は言葉を句切った。自分の過去をここまで語ったことなど初めてだ。改めて振り返ってみると、不思議と清々しい。カナンさんが隣で聞いてくれているからだろうか、気分がすっきりしたような気がする。

「長くなりましたけど、今のが理由で……」

 俺が締めくくろうとしたとき。カナンさんが突然、毛布をはね除けた。一糸纏わぬリザードマンの裸体が、俺の隣にさらけ出される。

「か、カナンさん……?」
「昼間、お前に気付け薬をもらったときから感じていた」

 言いながら、カナンさんは俺の下半身に手を伸ばす。鋭い爪のついた手で、俺のズボンを脱がせにかかった。
 ま、まさかこれは……?

「今確信した。お前は私より強い男だ」
「な……!」

 リザードマンは自分を負かした、強い男と結婚する……そのくらいは俺でも知っている。だが俺は武芸などほとんどできず、嗅覚と逃げ足の速さで斥候が務まっていただけだ。それなのにカナンさんは、何の迷いもなく俺を「強い」と断言した。

「母上がよく言っていた。ギュネの戦士は戦いに魅入られたが故に滅んだ、と」

 目を微かに細め、懐かしむ表情をしながら、カナンさんは作業を続ける。俺がろくに抵抗もできないまま、ついに勃起したムスコが露出してしまった。カナンさんが「うわ……」と声を漏らす。見るのは初めてだったのだろうか。

「そ、それでな。これからの時代を作っていくのは戦いの力ではなく、心の強さだ……そう、私に言っていたのだ」
「心の……」

 戦いを愛するあまりに敵を増やしすぎ、部族としてはほぼ滅んでしまったギュネ族。カナンさんのお母さんはそれを知り、同じ歴史を繰り返さないようカナンさんに言って聞かせたのかもしれない。俺は分かる気がした。祖国があっけなく魔物に敗れたのも、魔物を倒すという目的に取り憑かれすぎ、内側に闇を抱えてしまったせいなのだ。

「私はずっと悩んでいた……心の強さとは何なのかと。そしてギュネ族の生き残りである私は、本当に一族の未来を背負えるのかと」

 言いながら、カナンさんは俺のムスコをゆっくりと手ですき始める。その瞬間、俺の体はびくんと震えてしまった。リザードマンの爬虫類の掌は以外と滑らかで、それでいて細かな鱗が亀頭に引っかかって絶妙な快感を与えてくる。労るように優しく、時には強くペニスを握りしめられ、俺の脈拍が再び高まっていった。

「だがお前のくれた気付け薬のおかげで……勇気を持てた気がする」

 空いた手で俺の顔を掴み、自分の方を向かせるカナンさん。この状況で目が合うと、例えようもない興奮が湧き上がってくる。

「私の先祖はただ野蛮なだけの部族ではなかった。相手に敬意を持って接することを大事にしていた。ミントで体を清め、安らぎも感じていた」

 互いの息がかかる距離。彼女も息が荒くなっており、完全に発情しているのが分かる。

「私は一族の誇りを、過ちを、後の世へ伝えていきたい。そのために……」

 体がぴったりと寄せられる。
 彼女の胸が。
 二の腕が。
 腹が。
 太ももが。
 俺の体と密着する。

「お前の子を産ませてくれ、ヒューイー」
「……!」

 真っ赤な頬をしながらそんなことを言うカナンさんは、とても可愛くて。漂ってくるメスのニオイが、とても淫らで。
 確信した。俺はこの時のために生きてきたのだ。

「……名前は?」
「え?」
「その子の名前、何にしましょうか?」

 俺の返答に、カナンさんは楽しげに笑った。そして急に身を起こし、体を反転させる。彼女の頭が俺の下半身へ、彼女の下半身が俺の頭に。シックスナインというやつだ。

「まずは、作ってから決めよう。だから、その……」

 カナンさんは俺の顔を跨ぎ、ゆっくりと腰を下ろしてくる。目と鼻の先に彼女の割れ目が迫って来た。ねっとりとした蜜と、淫らなニオイを垂れ流しにしながら。

「く、臭いまんこだったら、挿れたくないだろうし……私のまんこのニオイ、確かめてくれ!」

 むにっと、柔らかな股間部が俺の顔面に押しつけられる。反射的に、無我夢中でニオイを嗅いだ。

「ふぁ、ひゃぁ……ァン……♥」

 カナンさんが甘ったるい声で鳴いた。ただ息がくすぐったいわけでは無さそうだ。
 ふと、以前聞いた話を思い出す。女性、特に魔物は好きな相手から同じ行為を続けられると、それが快感になることがあるらしい。勿論誰もがそうなるわけではないし、限度もあるだろう。だがカナンさんはもしかしたら、俺にニオイを嗅がれることに快感を覚えてしまったのではないだろうか。

「んぅ……イイぞ……はぅ……もっと……♥」

 耳に流れ込んでくるカナンさんの声からは、明らかにそう言った類の興奮が感じ取れた。同時に鼻に流れ込んでくるおマンコのニオイは、女のニオイというよりメスのニオイだ。本能をさらけ出し、オスをいやらしく待ち望んでいる、魔物のメス……!
 俺は思い切り息を吸い、半開きの割れ目に吹き付けてみた。

「ひゃうぅぅぅ♥」

 信じられないくらい可愛い声を出して、カナンさんは身を震わせた。やべぇ、滅茶苦茶エロい。

「ふふ、そうだ……んっ、私はお前の好きなおっぱいで、ひゃん……ちんぽ、気持ちよく、してやるからな……」

 普段キリッとした彼女の口から、「おっぱい」「ちんぽ」などという単語が飛び出すのは得体の知れない興奮を感じる。だがその感覚もつかの間、俺のペニスが温かい物に挟み込まれた。

「んむっ!?」

 口がおマンコで塞がれ、俺はくぐもった声を出すしかなかった。その柔らかい物、つまり彼女のたゆんたゆんのおっぱいはペニスをしっかり挟み込み、むにむにと激しく刺激してくる。

「ふぃ……お前のちんぽ、凄く良いニオイ……ヒューイー、ひゃう……♥」

 愛液で俺の顔をびしょびしょにしながら、カナンさんはパイズリを続ける。鼻にも愛液が入りそうだったが、俺は彼女のお尻を抱き締め、夢中になってニオイを嗅いだ。凄くいやらしい、メスらしいニオイ。女というのはこんなニオイを放つものなのか。
 そしてむにむにの谷間に挟み込まれたペニスは、もう限界に近づいていた。短時間とはいえ手コキを受け、しかも彼女のニオイは性感まで高めているようだ。カナンさんのお尻が、楽しげに揺れた。

「……ふふっ。遠慮しないで出せ。私のおっぱいをベトベトにしてしまえ。お前のことだ、それでも足りないだろう?」

 カナンさんの言葉が、引き金になった。口が塞がれていて声は出せないが、代わりにペニスが絶叫した。派手な水音を立て、谷間の中でたまらなく気持ちいい射精を初めてしまう。その光景は見えないが、滑らかな肌に精液を付着させていくのを感じた。自分でやるのとは比べものにならない、圧倒的な快感。百人の美女に囲まれて同じ事をされても、カナンさんと一対一でヤル快楽には勝てないだろうとさえ思える。

 一頻り射精を終えると、俺は清々しい虚脱感に襲われた。

「……カナンさん、こっち向いて」

 カナンさんがおマンコを口から離してくれたので、そう言うことができた。カナンさんは身を起こして振り向き、にっこりと笑いながら白濁まみれのおっぱいを見せてくれた。たまらなく美しく、たまらなくエロいその笑顔。これが、彼女が俺の信念を心の強さと認めてくれた証なのだろう。そう考えるととても嬉しい。
 だがしかし、俺は彼女が言ったようにこれでも出し足りなかった。嗅覚は生殖能力と密接にリンクしているという説があるらしいが、少なくとも俺の場合は性欲が嗅覚に比例しているようだ。むせ返るようなメスのニオイに釣られ、ペニスは再び怒張する。

「カナンさん……。カナンさんのおマンコ、凄く良いニオイでした。俺も、子供を産んで欲しいです……挿れさせてください。」
「……うん……♥」

 快楽に蕩けたせいか、普通の女の子のような返事が返ってきた。
 カナンさんはごろりと寝転がる。仰向けになって、無防備に裸体を晒した。そのまま、大きな期待とちょっとの不安を浮かべた瞳で、息づかいも荒く俺を見つめてくる。夫になる男を立てているのだろうか、俺の方から挿入するのを待ち望んでいるのだ。

 すぐさま彼女の上に多い被さり、割れ目にペニスの先端を当てがう。

「あっ……♥」

 鈴口で割れ目にキスをされ、彼女は喜びに目を潤ませた。本当に可愛い。
 もっと蕩けた顔にしてやりたくて、俺はぐっと腰を押し込んだ。

「ああああーーっ♥」
「うっ……す、すげぇ……締まるッ!」

 処女膜を突き破ったペニスは、彼女の最奥をこつんと突いた。
 肉の壁が、一斉にペニスを歓迎する。もう抜けないのではないかと思うほど、ペニスが締め付けられるのだ。それでいてとても温かく、ゆっくりと脈動して子種を吸い出そうとしている。
 そこはまさしく人間のオスを料理するための、魔物の大釜だった。ここに放り込まれた以上、彼女にオスのスープをご馳走するしかないのだ……

「か、カナンさん……大丈夫ですか……?」
「んっ、へい、き……気持ちいいぞ……♥」

 心底うっとりした顔で、カナンさんは言う。痛くはなさそうだ。

「じゃあ……動きますよ、カナンさん!」
「ばか……♥ もうお客じゃ、ないぞっ……」

 彼女は俺の頬を軽く叩いた。どうやら俺も、本当の自分をさらけ出すべきらしい。

「分かった……動くぜ、カナン!」

 叫びざま、勢いよく腰を引き、打ち付ける。

「あひゃあぁ♥」

 引いては打ち付け、引いては打ち付け。腰がぶつかり合ってパンパンと音を立てる。
 締め付けの強いつゆだくマンコは、絶妙にペニスを摩擦した。ペニスが彼女の味を覚えてしまいそうだ。

「あんっ、あんッ、ひぎっ、イイ、いいぞ、きゃぅん♥ ヒューイー、もっと、もっと……やんっ♥」

 身を捩らせ、カナンは激しく乱れた。そこにいるのは凛とした女戦士ではなく、俺のメストカゲ。
 しかしカナンはそれを喜ぶかのように、さらなる快楽をおねだりしてくる。

「もっとぉ……お前の誇り……強さ……オスのニオイ……ぜんぶ、私の中に刻み込んでぇ♥」
「そうだよなっ……カナンは俺のモノだもんな!」

 彼女の胸に手を伸ばし、おっぱいを揉みながら突いてやる。俺の精液がべっとり着いているが、知ったことか。
 無我夢中で、ぐにゃぐにゃと揉み潰し、乳首を摘む。カナンの体が打ち震え、それがマンコに伝わってペニスに快感をもたらす。
 先ほどおマンコのニオイを嗅いだとき大分感じていたから、彼女の絶頂はすぐではないか。

「カナン、イきたくなったらイっちゃえよ……!」
「い、嫌、あん♥ お前と一緒が、一緒にイきたいんだっ♥」

 嬉しいことを言ってくれる。
 俺はあまりにも愛おしいメストカゲの唇を、強引に奪った。突然のキスに息が苦しくなったのか、彼女はじたばたと暴れ出す。だが魔物娘の本能か、口の中では決して俺の舌に噛みつくことはせず、激しく舌を絡めてくれた。
 そして暴れる彼女の体が、ペニスを射精寸前に追い詰め……そのままトドメを刺した。

「ッ! 出るぜ、カナン! イっちまえ!」
「あっ、ああ、あっ♥ 来た、ヒューイーの熱いのが、いっぱい入って……ひ、あ、ああああああああっ♥」

 互いの体を強く抱き締めながら、俺たちは絶頂を迎えた。カナンの奥に子種汁をありったけ注ぎ込み、その余韻に浸る。彼女もまた蕩けた顔をして、俺と見つめ合った。

 だが部屋に充満したメスのニオイは、俺にとってどんな媚薬よりも強力だった。

「……ちょっと長い夜になるかも」
「いいぞ……私もまだまだ楽しみたいのだ……♥」

 どちらからともなく再びキスをしたとき、眠れない夜を過ごすことが決定した。








 ……結果的に、その後何度も彼女に中出しした。マンコで果てた次はお尻の穴に一回、彼女は魔物に性病の心配は無いというのでそのままおマンコにもう一回という具合に、どんどん欲望の深みにはまっていった。
 互いに疲れ切った頃、俺はカナンを、カナンは俺を抱き枕にして眠りについた。明日の朝に目が覚めれば、また俺は調香師として香水作りに励むだろう。

 だが、俺の人生はここから多少なりとも変わっていくことになるのだろう。いずれはカナンさんと、そして生まれてくる娘と一緒に暮らしていくことになるはずだ。彼女たちのニオイを味わいながら、調香師としての信念も全うしていく。


 そんな未来を夢見て、俺の意識はまどろみの中に沈んでいった……





 〜fin〜
19/08/04 19:56更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ
お読みいただき、誠にありがとうございます。

……後編、今までにない長さになってしまった(汗
ともあれ、とりあえず魔物娘図鑑1を購入した時からずっと書きたかった「リザードマンの裸エプロン」を書けて良かったです。
後は皆様に楽しんでいただければ幸いです。

さて、次回作ですが……
間に短編を挟むかもしれませんが、とうとうレミィナ姫のターンです。
思えば「ちびっ子リリム レミィナ」を書いてから結構経ちました。
成長した彼女の紡ぐ物語は、今までとはちょっと違う感じになります。
図鑑世界に迷い込んだ『鳥人』と、奔放に世界を渡り歩くリリムの物語。
宜しければ、お楽しみに。

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