読切小説
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黒百合の伝道
親魔物領との境界付近の、とある反魔物領の街の教会。

多くの住民たちが、教義に耳を傾けている。
ただしその内何割かは、教義の内容より、それを語る人物に意識を向けていた。

「…………ゆえに、人は自らをより善くすべく努めていかなければなりません」


聴衆たちに語りかけているのは、黒い服のシスター・クロエ。
ブロンドの長髪に、スタイルの良い身体、息を呑むほど端正な顔立ち。透き通った声。
多くの者が一目で心奪われる、美しい女性だった。

クロエは数か月前にこの街にやって来た、街の唯一のシスターである。
以来、クロエの姿を見たいが為、外で遊びたい盛りである少年たちも足繁く教会に通う。
気品ある佇まいの彼女は、少年や青年たちの憧れの的になっていた。


そんな聴衆たちの中に、赤毛の少女―ロジータもいた。
十代半ば。おさげ髪やそばかすから、田舎の純朴そうな子、といった印象を受ける。

ロジータは教義を真面目に聞いてはいたが、また同時にクロエ自身にも見とれていた。
女性の中にも、クロエの美しさに憧れる者は少なくない。
ただしロジータの場合は、少しだけ事情が異なっていた。

(クロエ様…やっぱり、何度見ても綺麗な人…♥)

ロジータ自身も、この感情が何であるかは薄々勘付いていた。
単なる同性への憧れ、といったものではない。


数か月前、初めてクロエを見た時から。

心を奪われた。
その美しさに、気品に。
来る日も来る日も、クロエのことを考えた。

愛されたい。お近づきになりたい。仲良くなりたい。
そして、そして、もしも、叶うなら。

胸が締め付けられるように感じてきた。
この感情が恋なのだと理解するのに、時間はかからなかった。



クロエによる教義が終わっても、何人かはそのまま教会内に残っている。
大半は、より長く彼女の姿を見たいという層だ。
ロジータも、そういった何人かのうちに含まれていた。

(まだ…出たくない…もう少しだけ…)

男性を愛せず女性しか愛せない、そういうタイプかどうかは自分でも分からない。
男女を合わせて数えても、ロジータにとってはクロエが初恋の人だったからだ。

しかし少なくともこの領国において、女性が女性を好きになるのは普通ではない。
健やかなる男女交際を経て家庭を得ることを是とする教会領にあってはむしろ禁忌だ。
ロジータも、その事は理解していた。
だからこそ、この想いを打ち明けることもできず、思い悩んでいるのである。


クロエが、残っている人々に声をかける。

「皆さま、もう正午は過ぎていますよ? それとも何か、ご質問がおありですか?」

敬虔な教徒よりも、「何故か」居座っている人々が多いと見越しての発言だ。
その言葉で、幾人かは名残惜しそうに教会を後にする。
すると、敬虔な教徒の一人である女性がクロエに向かって口を開いた。

「クロエ様、お聞きしたいことがございます」
「はい、なんでしょう?」
「少し前までは、ここは反魔物領との境目よりも遠かったはずですが、今では…」
「はい。境目はすぐ近く…この街で堰き止めている形です」
「そうなんです。その…大丈夫なのでしょうか?」
「ご安心ください。きっとこの街は、在るべき姿を後世に遺すことでしょう」
「しかし…隣の街も、魔物に侵食されて…」
「大丈夫です。私を信じてください」
「…はい。我々は、主とともに…」

クロエの言葉で安心したのか、女性は教会を後にした。



(魔物…………)

多くの住民たちは、魔物と聞けば人食いの怪物を想像している。
親魔物領という言葉でも、そんな怪物たちが闊歩する光景を思い描いているのだ。
しかし、ロジータはある程度、魔物の真実を把握していた。

二か月程前、ロジータは魔物を目撃していたのだ。










ロジータは、隣の街との間にある野原に花を摘みに出かけていた。


バスケットにいくらか花を集めたとき、丘の向こう側から何やら声が聞こえてきた。
どことなく悲鳴のようにも聞こえる。

誰かが助けを求めているのだとしたら、放っておくわけにはいかない。
ロジータは声の方向へと足を進めた。


丘を登ったロジータは、目の前の光景に凍り付いた。


「あっ♥ あぁっ、いいよぉっ♥」
「ダーリン、気持ち、いっ、んぁぁぁ♥」

下半身を露出した女性が、全裸の少年の上に跨り、腰を振っていた。
女性の股間に、少年の勃起したモノが挿入されている。
生で見たのは初めてだが、これが男女の交わりというものであることは分かった。
悲鳴に聞こえたのは、二人の嬌声だったのだ。

(な、なに…を…!?)

ロジータも、性的な経験が全くないわけではない。
密かに、クロエを想って自慰に耽ってしまったことはある。
それですら、言いようのない罪悪感に包まれたというのに。

こんな白昼の、野原の中で。
ロジータより一回り年下の、適齢期には明らかに早いような少年と。
声を押し殺すでもなく、隠れるでもなく。

あんなに淫らな姿。
もちろん、教会においては絶対厳禁。
冒涜的な行動に他ならなかった。

しかし。
ロジータは、目を背けられなかった。逃げることもしなかった。
あまりに冒涜的で、今まで見たことのない光景に興味を惹かれてしまったのか。
それとも、脳の処理が追い付かずに凍り付いているのか。
彼女自身、その理由は分からなかった。

行動に視線が向かっていて気付くのが遅れたが、女性には翼と尾がある。
作り物の雰囲気ではない。もちろん、普通の人間にあんなものはない。
つまりあの女性は、人間ではない。ということは…

(ま…魔物…? あれが…魔物…?)

困惑していると、女性は人の気配を感じたのか、辺りを見回した。
その一瞬後に、女性はロジータと目が合った。

「あら?」
「あ…っ!」

視線を向けられたロジータは、その場に固まってしまう。

「…どうしたのかしら、人のセックスなんて覗き見て♪」
「こ、こっちのセリフですよ! こんなところで、その、こんな、こと…っ」
「えー? だってセックスて人間の精液を得るのが魔物よ? 当然でしょ?」
「…えっ?」
「あー、やっぱり分かってないんだ、魔物のコト? 今の魔物は、こうなのよっ♪」

女性は、少年に跨ったまま、一気に腰を沈めた。

「あひぃぃっ♥」
「んぅっ…♥」
「ひっ…!?」

同時に少年が腰を浮かせ、二人同時に身体を震わせる。
結合部から、白濁した液体が流れ出るのが見えた。

「ふぅ…♪ こうやって精液をゴハンにするオンナノコが、今の魔物♪ おわかり?」
「そ、そんな、の…」

今までの認識が崩れる。
それどころか、冒涜的すぎて理解が追い付かない。
そんロジータに、いやらしい笑みを浮かべて女性―サキュバスは話しかける。

「うふふ…教えてあげよっか?」
「え…」
「魔物に気持ちよくされたら、女の子はみんな堕落して、魔物になっちゃうの…♪」

サキュバスはロジータを見据えたまま立ち上がった。
その目は、嗜虐的な光が宿っている。

(魔物に…される…っ!?)
「さぁ…おいで…♪」
「や…やだ…やだあああああっ!」



ロジータは一目散に逃げだした。
後ろを振り返ることもせず、バスケットからいくらか花が零れるのも厭わず。

ちょうどその日に隣の街が魔物の手に落ちたことを知ったのは、帰宅した後だった。











教会は魔物の真実を隠していた。
本当の魔物は、堕落を振り撒く、淫乱で冒涜的な存在なのだ。

真実を隠した理由も、ロジータには理解できた。
意志の弱い人間なら、真実を知れば進んで堕落してしまう危険性があるからだろう。
ロジータは、野原で見たことを誰にも話すことはなかった。


もし、この街も魔物の手に落ちたら。
自分も、魔物に変えられて、あんな淫らな姿を晒してしまうのだろうか。
あのサキュバスのようになった自分を一瞬想像しただけで寒気がした。

そして、クロエまで、そうなってしまったら。
あの上品で美しい彼女まで、男との交わりを求めるように堕落してしまったら。

それはロジータにとって最悪の可能性。
そんな姿は見たくない。望まない。あってほしくない。想像したくもない。
だからせめて、クロエだけは堕ちてしまいませんように。

神へと願いを乞うていると、聞き覚えのある声がした。

「どうしましたか?」

顔を上げると、クロエの碧い瞳と目が合った。

クロエが、私だけを見ていてくれている。
それだけで、先程の暗い感情がすっと晴れていくような気がした。

「えっと、その…この街を守ってください、と、お祈りを…」
「そうでしたか。他の方はもうお帰りになられたので…」
「え…?」

見回すと、教会にはクロエとロジータ以外、誰もいなかった。
二か月前のことを思い出して考えごとをしている間に、皆帰ってしまったのか。


クロエと、二人きり。
それを認識した瞬間、ロジータは胸が高鳴るのを感じた。


(…いけない…………いけないわ…)

ロジータは、それを必死に抑える。

自分がクロエに情欲を抱くなど、許されてはならない。
こんなことでは、自分があの魔物のように堕落してしまう。
そうすれば、自分のせいで、クロエが汚されてしまうのではないか。

煩悩を振り払わなければ。
懺悔を。

「…………っ」
「どうかなさいましたか?」
「懺悔を…しなければ、なりません」
「…深刻なお悩みのようですね。よろしければ、相談に乗りましょうか」
「え…」
「さあ、遠慮なくどうぞ」

クロエへの情欲を懺悔するのに、クロエに相談するわけにはいかない。
しかし、クロエの折角の厚意を無下に断ることもできない。

「…そ、その…愛しては、いけない、相手に、恋を、して、しまって…」
「…………なるほど」

具体的に誰とは言わず、悩みを打ち明ける。
声が段々小さくなっていくのを見て取り、クロエは口を挟んだ。

「してはいけない想い…に関するお悩み、懺悔、そういうことですね」
「は…はい…」
「…誰かに聞かれるのも気恥ずかしいでしょう」
「その、それは」
「よろしければ、場所を移しましょうか? 個別に、相談をお受けします」
「…えっ?」

場所を移しての、個別の相談。
恐らくはここよりも狭い、二人きりの空間になる。

益々煩悩が膨らんでいってしまいそうだ。
だが、こんな機会をみすみす逃したくはない。
核心を伏せて話すだけでも、ここで悶々としているよりは楽になるかもしれない。

「は…はい、是非」
「それでは、私の後についてきてください」



ロジータは、クロエの後について、教会の奥へと進んでいった。

裏口を抜けると、小ぶりな建物がある。
教会を囲む高い塀の内側にあり、外からは見えない。
少なくとも教会の敷地内ではあるようだ。

全身を鎧で覆った守衛が、建物を警備していた。
二人がその建物に近付くと、声をかけてくる。

「クロエ様、後ろのお嬢さんは?」
「少し、お話を。この方も通していただけますか?」
「かしこまりました」

守衛は、声からして女性。
鎧に覆われているため、それ以外のことはさっぱりわからない。


守衛の横を通り抜け、建物の入口に立つ。
ロジータはクロエに問いかけた。

「クロエ様、この建物は…?」
「シスターたちの宿舎です。とはいっても、私しかおりませんけれども」
「宿舎…!?」

クロエは普段、ここで寝泊まりしているということだ。
つまりこれは、実質的には彼女の家に招待されたということになる。

この状況で煩悩を払える自信はなかった。



二人は、いくつかある部屋の一つに入る。
少し広い部屋だが、机やソファだけでなくベッドもある。
宿舎というだけあり、あくまでアパートの一室のようだ。
それでも、内装は洗練されており、安っぽい雰囲気は全くない。

「どうぞ、お座りください」
「は、はい、失礼します」

ここが、クロエの部屋。
香水とは違った、鼻腔をくすぐる甘い香り。
黒を基調とし、落ち着いた色彩の内装。
感動と緊張で目を泳がせながら、ロジータはテーブルにつく。
クロエはその正面に座った。

「クッキーがございます。紅茶も一緒に、お出ししますね」
「は、はい…」

これは夢ではなかろうか。
憧れのクロエの家に呼ばれた挙句、二人きりで、クッキーと紅茶までご馳走になるとは。

溢れる想いが止まらなくなってしまう。
だが、自分はそれを何とかするために相談したのだ。

だからこそ。


(打ち明けよう…慕っている相手が、クロエ様であることも)

これだけの厚意をしてもらったのだ。
誤魔化してなんとか解消しようとするより、思い切って話してしまおう。
叱られれば、頭も冷えるだろう。
拒絶されてしまっても、それによって想いを断ち切れてしまうなら…


「クッキーと紅茶です。さあ、どうぞ遠慮なさらず」
「は、はい、いただきます…………あ…とっても、美味しい、です」
「それは何よりですね。さて…では、ご相談の続きをお聞きしましょう」

「…こんな気持ちになるの、初めてなんです。

 その人のことを想うと、胸があったかくなって、でも、締め付けられるみたいで。

 もっと近づきたくて、お話したくて、でもなかなか話せなくて。

 ずっと、胸の内にしまいこんだまんまで。

 でも、いけないことなんです。

 だから、ここでちゃんと、気持ちの整理を付けなきゃ、だめなんです」

ロジータは、俯きながら語りだす。
クロエは落ち着いた様子で、耳を傾けていた。

「…もし、よろしければ。どういった方なのか、お教えできませんか?」
「はい…………告白いたします。クロエ様」

ロジータは目を閉じ、そしてゆっくりと開いて、まっすぐクロエの顔を見た。



「私は、クロエ様のことをずっとお慕いしています。初めて出会った日から、ずっと」
「…………私の、ことを?」
「はい…いけない、ことです。女性が、女性を、好きに、なってしまうなんて…」
「…………」

クロエからの返答はない。
ロジータは再び俯いた。

どのような答えが返ってくるのか。
待ち遠しくもあり、しかし同時に恐ろしくもあった。



「ロジータさん」
「…はい」

直接名前を呼ばれるのは初めてだ。
クロエは自分の名前を把握していた、覚えてくれていた。
それだけで、瞳が潤み始めるのがわかった。

「よく、話してくださいましたね」
「どこかで、ちゃんと、話さないと、って、思って…」
「では…私からも、お伝えしなければならないことがございます」
「え…?」

ロジータは顔を上げる。
クロエの方が伝えたいこととは?
断りだろうか、説教だろうか、もしくは、まさか、許容だろうか?


そう思っていると、クロエのシスター服の一部が持ち上がった。
その隙間から出てきたのは。






黒い、尻尾だった。

「…………私は、人間ではありません。ダークプリーストという、魔物です」






その綺麗な声が、耳に届く。
耳から、脳へと伝えられる。
何という言葉が発せられたかを理解する。
しかし、その意味を理解するのには、心が追い付かなかった。

(ま…もの…? クロエ…さま…が…?)

まさか。
いつも、クロエから教義を聞いているのに。
この気品は、あのときのサキュバスとは似ても似つかない。

でも、尻尾がある。
作り物じゃない。
人間にあんな尻尾なんてない。
じゃあ、クロエは人間ではない?

(…………)

ロジータの思考は状況に追い付かず、身体も固まっていた。
そんなロジータに、クロエは言葉を続ける。

「私たち魔物は、この街で…」
「ま…って、ください、クロエ様…クロエ様は、教会で、教義を…」
「教義は、主神教団のものにも聞こえるような言葉ですが、魔物にも当てはまります」

ロジータは、クロエの教義をいくつか思い出していた。
自らをより善くすべく努めよ。
人を愛せ。
信じるべきものを信じよ。
この街は、あるべき姿を後世に遺すだろう。

主神教団の側からではなく、魔物に与する側からの言葉。
そう捉えても、意味自体は通ずる。
考えてみれば、クロエは一度も主神の名を口にしなかった。
魔物を悪し様に表現していた覚えもない。
自分達が主神教団の一員だからと、勝手に解釈していただけだったのだ。

「あ…っ、でも、どう…して…」
「この街には、既に私のような、魔物であることを隠して潜む者が何人もいます」
「…………!?」
「先程の守衛の方もリザードマンですし、先日新しくできた商店の方も」
「そ…んな…で、でも、中には男性だって…」
「男性の方は、その伴侶です。インキュバスという、半分魔物になった方々」

そういえば、最近になって、この街はいくらか住民が増えた。
クロエがこの街に赴任したのも、時期は重なる。
確か、魔物に侵略された街からの移住者であると。

元々の住人は、彼女らを魔物の侵略から逃げ延びた人々だと思っていた。
違ったのだ。
魔物に侵略され、魔物側についた人々が、この街にその手を伸ばしていたのだ。

「この街も、近く魔物の側に与することでしょう」
「ッ…そん、な…」

じわりじわりと、認識が脳内に染み込んでいった。

クロエは、この街を親魔物領とするために派遣された魔物。
この街は、既に多くの魔物が入り込んでいた。

ロジータにとって、それは絶望的な真実だった。



「…………真実をお話ししました。幻滅なさいましたか?」
「そんな…………こと…」

初恋の相手は、憎んできた魔物だった。
なんて、残酷な。
青い顔で俯くロジータに、クロエはなおも語りかけた。

「ロジータさん。あなたには、秘めた想いがありました」
「…はい」
「人が誰かを好きになる。自然なことなのです」
「…でも、わたしは」
「誰を好きになるか、決めるのはあなた自身なのですよ?」
「え…」
「誰を愛するかを、他に指図される謂れはありません。あなたの心は、あなたのもの」
「私の心は…私の、もの…」
「あなたの想いは、純粋です。あなたは純粋に、他者を…私を、愛しただけ」
「純粋に…クロエ様を…愛した、だけ…」
「どうしてそれが、咎められなければならないのでしょう? 人を愛することを」
「それは…」
「想いを抑えなければならないせいで、あなたは苦しんだのでしょう?」
「そう、です…けど…」

クロエは立ち上がると、ロジータの側に回り込んだ。
そして、ロジータの両肩に手を置き、口を耳元に寄せる。

(クロエ様に…触れられて、る…)
「愛することは自由なのに、それを咎められ、苦しむのは理不尽でしょう?」
(吐息が…香りが…こんなに…近くに…)
「もう…我慢しなくてもいいんですよ…? ここまで、よく耐えてきましたね…」

クロエは、ロジータに囁きかけながら、髪を優しく撫でる。

(あ、頭を…私の頭を、クロエ様が…撫で、て…)
「それとも…魔物だと知って、その想いは色褪せてしまいましたか…?」
「私…は…」

クロエは魔物だった。
ロジータは今まで、魔物の邪悪さを身に染みて知り、拒絶してきた。



しかし。
それでも。

クロエは、それでも美しい。
その気品は、その事実を聞いてなお、少しも損なわれることはない。
想いが、色褪せることなんて、ない。

ただし、一つの懸念があった。

「…………クロエ様は…魔物…なんです…よね…?」
「ええ」
「じゃあ…クロエ様も、その…男性、と…?」

あのサキュバスは、魔物は男性と交わることがその定義であるように話した。
クロエも男性と関係を持ったのだろうか。
魔物にされたとすれば、魔物に犯されたということでもあるはずだ。

もし、そうだとしたら。
もしも、その答えが肯定だったなら。
それによって態度が変わるのは身勝手なのかもしれない。
それでも、もしも、そうなら、この想いをそのままに留めておけるだろうか。

答えを聞くのは、怖かった。



少しの沈黙の後、クロエが口を開く。

「いいえ」
「…え?」
「私は、男性と関係を持ったことは一度もありません」
「…本当…ですか…?」
「ええ。嘘ではありません」

クロエの顔を見る。
その美しい顔が、目と鼻の先に。
その笑みは、嘘をついているようには見えなかった。

「で、でも…魔物に、された、なら…」
「私は、魔物の子として生まれた、純粋な魔物です」
「あ…」
「魔物としても若いですし…まだ私は、人とも魔物とも、関係を結んではいません」

クロエは、男性と関係を結んではいない。
魔物化されるために、犯されてもいない。

魔物であっても、彼女は純潔のままだった。
ロジータの懸念が、すっと晴れていく。

「で…も、どうして…魔物、なのに…」
「…それは、ダークプリーストという種族の特徴からお話ししましょう。

 我々ダークプリーストは、『堕落した神の教団』に属します。
 教団員は、魔王が統べる魔物とは、協力しながらも独立した勢力。
 その教義は、快楽を与え、求めることを美徳とするもの。
 ダークプリーストは、その布教を役割とするのです。

 もちろん大抵の者は、男性を主な対象とし、またそれを伴侶とします。
 しかし、女性もその対象となり得ます。
 教義を広め、教え込むことで、ダークプリーストとするために。

 私は…珍しいことでしょうが、むしろ後者にこそ価値を見出すのです。
 直接的に仲間を増やすことができるのですから、教義に背いてはいません。

 私はそれを『伝道』と呼びます。
 私はその『伝道』にこそ価値を見出し、それを目標としているのです。
 ですから私は、今は男性と関係を持つことはしておりません」

女性への布教―すなわち魔物化を専門とする嗜好の派閥。
男性との関係を主としない点で非常に珍しい性質だが、クロエはそれに属していた。

「じゃあ…クロエ様は、他の女性と…?」
「いえ…先程申し上げた通り、魔物としては新米で。伝道の経験も、まだないのですよ」

様々な懸念が晴れていく。
彼女は魔物でありながら、その嗜好ゆえにまだ純潔なのだ。

「…………ロジータさん」
「は、はい」
「もう一度お聞きしましょう。あなたの思いは、色褪せてはいませんか?」
「え…」
「…いえ、もっと直接的な質問の方がいいですね」

クロエはロジータに目線を合わせる。
ロジータも、真横にいるクロエに身体ごと正面を向けた。


「魔物を…私を、受け入れてくれますか?」
「クロエ…様…」

クロエへの想いを妨げる懸念はほとんど晴れた。
あとは一点、ロジータ自身が、魔物であるクロエを受け入れるかどうか。


ずっと、いけないことだと信じてきた。
この想いは異端で、禁忌で、表に出してはいけないものだと思ってきた。

―あなたの心は、あなたのもの。

―あなたは純粋に、私を愛しただけ。

―どうして、それが咎められなければならないのでしょう?

クロエの言葉を回想するロジータに、クロエはもう一言、語りかけた。


「私も、あなたを愛しています」
「…………ッ!」


憧れていた、クロエが。
クロエが、自分のことを愛していた?

相談に乗るのに、自宅まで招待してくれた。
名前も、覚えてもらっていた。
魔物であることを、わざわざ打ち明けた。
そしてその後も、自分の想いを優先してくれる。

クロエも自分を愛していた。
ならば、どうして自分がクロエを愛してはいけない?

どうして咎められなくてはならない?
どうして秘めておかなければならない?
どうしてそれを苦しまなければならない?

そんな、理由なんて。


もう、どこにもない。



「…はい、クロエ様。私は、今もあなたを愛しています」
「ロジータさん…!」
「私は、クロエ様を受け入れます。もう、迷いはありません」

その言葉を聞き、クロエは嬉しそうにロジータの手を握った。
滑らかな肌の感触と温もりを感じる。

「ありがとうございます、ロジータさん…!」
「その…それで、なんですけど…」
「はい?」

次の言葉を紡ぐには、少しの勇気が必要だった。



「私に…『伝道』をしてください」
「…よろしいのですか、ロジータさん…?」
「…………はい」

伝道が何を意味するかは分かっている。
人間を止めて魔物になるということ。
クロエと交わるということ。

先程まで、禁忌としてきたこと。
しかし、もう迷うことはなかった。



「それでは…今からでも、構いませんか?」
「はい。私も…クロエ様と同じになりたいです」

先程クロエは、まだ「伝道」の経験がないと話した。
ならば、自分がクロエの初めての相手になる。
その地位は、響きは、とても甘美だった。

「ありがとうございます…ロジータさん」

クロエが、ロジータを抱きしめた。
しなやかな髪が、ロジータの肩をくすぐる。
華奢な腕が、背中を撫でる。
豊満な胸が、鎖骨から首元にかけてを包み込む。
嗅いだことのないような首元の香りが、鼻腔をくすぐる。

なんて、幸福。

「クロエ…様…♥」
「ロジータさん…♥」

目線を合わせると、クロエはロジータの唇に、唇を重ねた。

柔らかな唇が。
色めいた吐息が。
碧く輝く瞳が。

視覚が、嗅覚が、聴覚が、触覚が、クロエで埋め尽くされる。

全身の力が抜けていくのを感じた。
もしも夢なら、永遠に覚めないで。


「…………ベッドに、行きましょうか」
「はい…クロエ様…♥」

ロジータは、ベッドに仰向けで寝かされる。
クロエの寝ていたベッドから、良い香りが漂ってくる。

「さて…まずは、服を…」
「あ…っ♥」

クロエは、ロジータのブラウスのボタンを1つずつ外していく。
下着のシャツを捲りあげると、膨らみかけの小ぶりな胸が露わになった。

(み、見られ、て…)
「うふふ…♪ では…こちらも…♪」

クロエは、胸を見られて真っ赤になるロジータの下半身へと手を伸ばす。
ゆったりとした緑色のロングスカートが、少しずつ下ろされていく。
そして、その下の白いドロワーズにも手をかけた。

「クロエ…様…っ」
「…恥ずかしいですか?」
「は、ひゃい…」
「大丈夫です…私を信じてください。これはただの堕落ではなく…開放なのですから」

ドロワーズがゆっくりと下ろされる。
他の誰にも見せたことのない、毛の生えていないロジータの秘所が露わになる。

「あら…♪」
「わ…私…生えて、ないん、です」
「とても…綺麗ですよ…ロジータさん…♥」
「ク…クロエ様…♥」

ロジータは恥ずかしさのあまり、林檎のように紅くなった顔を両手で覆う。

「では…私も…♥」
「…………あ…っ♥」

気付けば、クロエはいつの間にか服を脱いでいた。
滑らかな肌、豊満な胸、毛並みが綺麗に整えられた秘所が、ロジータの瞳に写る。

「クロエ…様っ…♥ クロエ様の身体…全部…とっても…綺麗、です…♥」
「ありがとうございます…ロジータさん♥ それでは…♥」

ベッドの横から、クロエはロジータの顔を覗き込む。
横に垂れたクロエの金髪が、ロジータの腹部をくすぐった。

「ひぅ…♥」
「教えて差し上げます…ロジータさん。魔物の、快楽を…♥」

クロエの両手が、綺麗なピンク色をしたロジータの乳首に伸びる。
その指先が、そっと両乳首をつまんだ。

「ひゃうっ…♥」
「うふふ…可愛い声が出ましたね…♥」

クロエはロジータの乳首をコリコリと弄りながら、掌全体で乳房を揉みほぐしていく。
ピンク色の乳首が興奮と快楽で勃起すると、片方に唇を寄せ、吸い付いた。

「ちゅぅっ…♥」
「ひゃああっ!? ク、クロエ様っ…あ、それ、は…っ♥」
「むちゅ…気持ちいいですか…?」
「は…ひゃいっ…きもち…いいです…っ♥」

あのクロエが、自分の乳首を弄り、吸い付き、弄んでいる。
興奮と快楽で、ロジータは時折肩をピクピクと震わせた。

「ちゅっ…♥ロジータさん…♥ 真っ赤になって…とっても、可愛い顔をしてますよ…♥」
「かわ…いい…? あ…ありがとう…ございます…クロエ様ぁ♥」

そばかすのある顔は、ロジータにとって少しコンプレックスだった。
しかし、その顔を、クロエに可愛いと褒められた。
ロジータはもう、コンプレックスを感じることはなくなるだろう。


「さて…では、ここも…♥」
「あ…っ♥」

クロエの空いている手が、下へ下へと伸びていく。
毛の生えていない秘所に、その指先が触れた。

「ここからが…本番ですよ…♥」
「はい、クロエ様…♥」

ロジータは、自身の秘所が既に濡れていることに気付いていた。
憧れの女性に、胸を責められただけで、かつてないほどの興奮と快楽が押し寄せるのだ。


指先が、愛液の滴る膣口をなぞる。
別の指が、クリトリスをコリコリと弄ぶ。

「あ…あぁぁっ…♥」
「さあ…力を抜いてくださいね…♥」

言われなくとも、快楽のあまり力など入らない。
自分でも拙い自慰で少し触れたぐらいの場所に、憧れのクロエの指が。
決して叶うことなどないと思っていたことが、今実現している。

くちゅり。

しなかやかな二本の指が、膣口に挿入された。
それだけで二人の耳に、水音がはっきりと聞こえる。

(クロエ様の…っ、クロエ様の指が…♥ 私の、私のあそこに…っ♥)
「では…奥に、挿れていきますね…♥」

指が、小さく水音を立てながらロジータの膣内に入っていく。
少しすると、クロエの指は根元まで膣内に呑み込まれてしまった。

ただ指を挿れているだけなのに、今までの自慰とは比べ物にならない快楽が降り注ぐ。
今まで感じたことのない快楽に、ロジータの溢れる愛液が止まらない。

「クロエ様の…っ、ゆびがっ、私のナカに…♥ あうぅ…♥」
「さあ…ここからは、少し、激しくなりますよ…♥」


くちゅ。

クロエの指が、膣内で蠢いた。
ゆっくりと、ロジータの膣内を掻き回していく。

くちゅ。くちゅ。くちゅ。

そして、少しずつその動きを早めていく。
深くまで、また浅い所に戻って、膣内全体をなぞっていく。

くちゅ。くちゅ。くちゅくちゅくちゅ。


「あっあぁぁっ♥ クロエ様、これ、だめです、きもちっ、よすぎてっ♥」
「もっと気持ちよくなりますよ…♥ 」

クロエの指の動きがさらに激しくなった。
膣内を素早く出し入れし、絶え間なく掻き回し続ける。

くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ。


「あぁぁぁぁっあぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥ クロエ様っ、クロエ様ぁぁぁぁ♥」
「さぁ…登り詰めましょう…♥」

クロエは再び乳首に吸い付き、片方の手で乳首を弄りだす。
もう片方の手は激しく膣を掻き回し、親指ではクリトリスまでなぞり続けた。

ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ。

ロジータは全身を震えさせ、腰をガクガクと浮かせながら快楽に身を委ねる。
一気に敏感なところを責められた彼女が、絶頂するのに時間はかからなかった。


「あああ♥ あああああああああああああああ♥」

叫びにも似た嬌声を上げ、ロジータは腰を浮かせて激しく絶頂した。
膣からは愛液が噴き出し、ベッドに染みを作る。


「うふふ…♥ 素敵な声…♥ 気持ちよかったですか…?」
「あ…あぁ…は、ひゃい、とっても、気持ち、よかったです、クロエ様…♥」

かつてない快楽で、ロジータの思考は真っ白になってしまった。

「でも…まだ、終わりじゃないですよ…ロジータさん♥」
「え…?」

これ以上。
ここから先は、いよいよ戻れなくなる。

しかし今のロジータに、後戻りするつもりなど、もはやなかった。

「…どこまでも…クロエ様の、望むままになります…♥」
「良い子ですね…♥」

そう言うとクロエは、寝かされているロジータの足元に移った。
まだ快楽で腰を痙攣させるロジータの膣が、クロエに丸見えになる。

「綺麗な桃色…とっても、可愛いですよ…♥」
「あ…ありがとう…ございます…クロエ様…♥」

クロエはそのまま、快楽の余韻でヒクヒクと痙攣するロジータの膣口に顔を寄せた。

「ク、クロエ様…っ!?」
「さあ…いきますよ…♥」

そしてそのまま、膣口に舌を這わせた。

「はうぅっ♥ そ、そんなっ、クロエ、様っ、あぁぁ♥」
「ちろっ、くちゅっ、ちゅぷっ、むちゅぅっ…♥ うふふ…気持ちいいですか…?」
「はいっ♥ おかしく、なりそうな、ぐらい、にっ…♥」

舐め取り、吸い付き、舌先でなぞり、ねぶり、咥え込むように唇で挟み。
絶頂したばかりの膣が、今度は舌と唇で丁寧に愛撫されていく。

クロエが、自分の膣を舐めている。吸い付いている。
夢にすら思わなかったほどの快楽が、ロジータを更なる興奮へと引き込む。

「くちゅっ、ちゅぷぷっ、ちゅるるっ、じゅるぅ…っ♥」
「あっ♥ あぁぁっ♥ やっ、んぅっ♥ ひぃぃっ♥」

ロジータは身をよじらせ、両手でシーツを掴みながら快楽に浸された。
もはや言語らしい言語が出せず、甘ったるい嬌声だけが漏れ出てくる。

ロジータが二度目の絶頂を迎えるのに、そう時間はかからなかった。


「あっ、イ…ッ♥ あっ…ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁ♥」

腰をガクガクと震わせ、愛液を迸らせる。
クロエの顔に、ロジータの愛液がぴちゃぴちゃと浴びせられる。

「ん…♥ うふふ…どうですか、気持ちよかったですか…?」
「は…ひゃひ…とっても…っ♥」

ロジータは二度の絶頂ですっかり腰砕けになっており、動けそうにない。


「では…次は、ロジータさんの番ですよ…♥」
「へ…?」
「このままでは動けないでしょうから…こう、しますね♥」

クロエはロジータに覆いかぶさるように抱きつくと、転がって上下を逆転させた。

「あ…っ♥」
「さあ…私がしたように、ロジータさんが私にしてください♥」
「は…はい…クロエ様…♥」

クロエに覆い被さる体勢になったロジータは、クロエの肢体を見回す。
肌も、プロポーションも、すべてが芸術的なまでに美しい。
今から自分が、この身体を…

その豊満な胸に、恐る恐る手を伸ばした。

柔らかな感触が、手に伝わる。
指がその双丘に容易く沈み、それはゴム毬のように自在に形を変える。

「とっても、柔らかくて…気持ちいいです、クロエ様…♥」
「そう言って頂けると、嬉しいですね…♥」

薄い桃色の乳首を、そっとつまむ。
先程からの行為で既に固くなったそれは、プニプニと指先で形を変えた。

思い切って、それに吸い付く。
もちろんまだ母乳など出ないが、あのクロエの胸に吸い付いているというだけで。
ロジータはとめどなく興奮し、赤子に戻ったかのように夢中で吸い続けた。

「ちゅぅ…ちゅぅっ…♥」
「ん…♥ あらあら…♥」

そんなロジータの様子を見て、クロエは笑みを浮かべながら頭を撫でる。
ロジータはもう、クロエから再び産まれたいとまで思い始めた。

「ここだけじゃ…ないですよ…♥ 大事なトコロも、ちゃぁんと…ね♥」
「あ…は、はい…すみません、クロエ様…」

正気に戻ったロジータは、名残惜しそうにクロエの身体を離れる。
クロエの足元に移動すると、シーツがビショビショに濡れていることに気付いた。

「あ…これ…もしかして、私の…? ご、ごめんなさい、クロエ様のベッドを…」
「いいんですよ♥ 私が愛した人が、気持ちよくなった証ですもの…♥」

その言葉に安堵したロジータは、クロエの秘所に目を移した。
そこには、まだ誰にも汚されていない、ピンク色の綺麗な膣口があった。
尻尾が伸びていることを除けば、ロジータのそれにも匹敵する、無垢な秘所。
既に愛液が滴り、艶めいて光っている。

「綺麗、です、クロエ様…♥ クロエ様の身体、全部、綺麗です…♥」
「そこまで褒められると…照れて、しまいますね…♥」

これを、今から自分が弄る。
クロエの初めての人になる。

「で、では、失礼します、クロエ様…♥」
「はい…どうぞ…♥」

膣口に、指が触れる。
微かな水音とともに、二本指が膣内へと、ゆっくりと挿入されていく。

「ん…っ♥」
「クロエ…様…♥」

クロエが、はっきりと、感じている。
自分の指で、膣内を弄られて、感じている。

その事実だけでも十二分に興奮させるのに、それだけではない。
指に吸い付く膣肉の感触が、尋常ではない。
指が全方位から甘い口付けをされているかのような感覚。
挿入している側が、それが指であってすら、絶頂してしまいそうなほどの快楽。
これが、魔物の性器。

クロエは、「伝道」の経験がないという。
それなのに、先程自分が受けた快楽は並大抵の技巧では成し得ない。
生来の技巧。生来の性に特化した肉体。
これが、魔物。

もちろん、今のロジータの指遣いは、その技術には遠く及ばない。
根元まで挿入し、指先を少し動かすのが精一杯である。

「んっ…♥ んぅっ…♥」
「どう、ですか…クロエ様…? 気持ち、いいですか…?」
「ええ…気持ちいい、ですよ…♥」

自身の技術が拙いことは、ロジータ本人が一番理解している。
しかし、クロエが感じているのが偽りでないこともまた、感じられる。
この感度も、魔物ゆえなのだろうか。

ロジータは、クロエの膣口から指を抜くと、そっと唇を寄せる。
膣から放たれる匂いすら、甘く、淫靡な、心地よい香り。

「ちゅ…♥」
「ロジータさ…んぅぅ♥」

ロジータは、その膣口に吸い付いた。
舌を膣内に挿入し、膣壁を舐め、舌先でなぞり、溢れる愛液を口で受ける。
愛液すら、甘く感じられた。

「ちゅ…ちろっ♥ ちゅっ…ちゅっ♥ ちゅるぅっ…♥」
「ロジータさっ…♥ それっ、とってもっ♥ いい、です…っ♥」

クロエも、腰を細かく震わせて感じ出す。

先程の二本の指ですら、クロエの膣内の全方位接吻レベルの感触で感じさせられたのに。
今度は舌ともなれば、もはや本物の口付けに等しい。
注ぎ込まれる純粋な肉体的快楽だけなら、むしろ超えてしまうかもしれない。

舌ごと溶けてしまいそうな膣肉と愛液の波状攻撃。
ロジータの方が「持って行かれて」しまいそうになる。
そして、快楽に呑み込まれる寸前のロジータは、夢中で舌を、唇を動かした。

「ちろっちろっ、ちゅっ…ちゅっ…♥ ちゅるっ、ちゅちゅぅっ…♥」
「あぅぅ♥ ロジータさんっ…私も、もう、イッて、しまい…んぅ♥」

技術は拙くとも、魔物から与えられる快楽に突き動かされた舌遣い。
それがクロエを絶頂に導くのにも、そう長い時間はかからなかった。


「あぁっ…♥ …あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…っ♥」

ロジータほど激しくはないが、確かな絶頂。
膣肉をヒクヒクと痙攣させ、愛液をロジータの顔に迸らせる。

「んぁっ…♥ クロエ…様、どうでしたか…? 気持ちよくなって頂けましたか…?」
「えぇ…それは、もう…っ♥」
「よかった、です…♥ クロエ様♥」

ロジータは、自らクロエに再び覆い被さる。
既に、魔物を嫌っていた先程までの彼女とは別人だ。
魔物の思考に、在り様に、確実に近づいていた。


「さぁ…ロジータさん…最後の仕上げですよ…♥」
「はい、クロエ様…♥」
「私と同じように、してくださいね…♥」

クロエはロジータに口付けをすると、舌を絡めてくる。
そして片手でロジータの胸を、もう片方の手でロジータの秘所を、それぞれ弄りだす。

「んちゅ…ちゅっ…♥」
「んっ♥ んむ…ちゅぅぅ…♥」

ロジータもそれに従い、クロエの胸と秘所をそれぞれ弄りだした。
互いが互いを責めあい、絡み合い、愛し合う。


「ちゅぅ…んっ♥ じゅぷぅ…♥ んぅぅ…♥」
「んぅ♥ ちゅぷぅ…♥ じゅぷるぅっ…♥」

言語はいらない。敢えて言の葉で名前を呼びあわなくてもいい。
互いの快楽を共有しあうだけで、愛し合うだけで、言葉以上の全てが伝わる。

ロジータの指遣いが、膣肉の感触が、徐々に洗練されていく。
伴ってクロエの快楽も高まり、それがより責めを激しくさせた。



愛してる。
  
              愛してる。

  愛してる。
  
             愛してる。


   愛してる。
   
            愛してる。

     愛してる。

           愛してる。


      『愛してる。』




舌と舌が、指先と胸が、膣が、絡み合い、責めあい、愛し合い。

二人は一つになって。

そして同時に、絶頂に達した。


「「んぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ♥♥」」

愛液を迸らせ。
腰を震わせ。
それでも、舌は絡み合わせたままで。


「ん…うぅ…♥」
「んむ…ふぅぅ…♥」


裸で抱き合う二人は、その快楽の余韻に浸りながら、眠りに誘われる。

その間に、ロジータの身体が、少しずつ、少しずつ、変化していった。











一ヶ月後。

クロエの宣言したとおり、街は親魔物領へと寝返っていた。
敬虔だった信徒たちは、大半はそれを受け入れ、僅かなものは逃れた。


街の教会も、その役割を少し変えていた。
人間のための教会だったころに比べれば、聴衆の姿は少ない。
集まっているのは、魔物、あるいは魔物になりかけの少女たちだ。

「快楽を与えあい、愛し合うことに、男女の違いはありません」

彼女たちの前で教義を語るのは、変わらぬ―否、更に磨きをかけた美しさのクロエ。
そしてその傍らには、背の低い、赤毛でそばかすのダークプリースト。

「お集まり頂いた方々も、その心を尊んでくださるものと信じております」
「多くの魔物には異端と映るでしょう。しかし、本質は変わりません」

晴れてクロエと同じ舞台に上がった彼女…ロジータも、教義を語っている。

「さぁ、私たちと共に、愛し合いましょう」
「望むなら、私たちと同じ高みへ。『伝道』を、広げていきましょう!」

教会は拍手に包まれる。

そして一人の少女が、二人の前に進み出る。

「私にも、『伝道』をしてください…♥」
「…ええ♥」
「では、三人で…奥に、参りましょうか…♥」

クロエとロジータは笑みを浮かべながら、少女の手を引いていった。












「伝道」は夜ごとに少しずつ広がり、新たなダークプリーストが生まれていった。
いつしか彼女たちは「黒百合」と称されるようになり、街で一目置かれ始める。

そして今夜も、「黒百合の伝道」が行われる。
二人のダークプリーストから始まった、愛の形。

ベッドの上で、また、甘く、淫靡な声が響く。
17/04/06 22:00更新 / 第四アルカ騎士団

■作者メッセージ
おねショタかと思ったか!? 百合だよ!
でもちょっぴりおねショタシーンがあるのが第四アルカ騎士団クオリティ。

ふたなりを除く純粋な百合系読切の第二弾になります。
第一作目がロリレズ輪姦モノという王道とは言い難い作風だったので、今回は王道。
純愛系の「お姉さまとそれに憧れる少女」の百合にしてみました。
「お姉さま」は姐さん系でもよかったのですが、シチュを考えて清楚(?)系に。

純愛百合はそこに至るまでの過程をじっくりと。
レズシーンもねっとりと丁寧に。
その結果、16407文字とかいう私の読切中で最長のSSが出来上がってしまいました。
反省はしている。後悔はしていない。

魔物娘もいっぱいいるので、たまには百合百合な魔物がいてもいい!
個体差という便利な言葉を盾に書き進めました。
書いてみるとレズシーンって結構難しいです。
今回のシチュだと双頭ディルド的な道具は邪道に感じたのでカットした都合も。

物語以降の展開はご想像にお任せしますが、
1:やっぱり魔物なので男性を求める本能には抗えなかったEND
2:永遠の百合百合世界は男子禁制となりましたEND
3:黒百合まとめて俺の嫁にしてやるよ!こいよ!END
4:その他
お好きなものをどうぞ。

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