読切小説
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クリスタル・シンドローム
私は蓮花、白鐸と言う魔物でこの学校の講師をしている。今日は歴史と国語の複合授業でディベートを行う。

蓮花『みんな集まっているわね』

選択の授業のためそこまで人数は多くないが、みんなやる気は十分ならしい

蓮花『なら、始めるわね』

生徒達は頷く

蓮花『まず、これを見てもらうわ』

今日の授業は資料としてDVDを使う

蓮花『行けるわね…』



















このDVDは、主神が亡んだ後に生まれた奇病、結晶化症候群に挑み続けた男の話…

???「それはまた、随分と都合の良い話だな…」

彼はこの話の主人公、持田誠。

誠「俺の家族を助けずに見殺しにした奴らを助けろと?」

魔物『貴方は結晶化症候群の研究を医学界から追放されてもずっと研究していて治療法を見つけた、力を貸して…』

誠「断る、何せ俺は「人殺し」だからな」

魔物『??』

誠「奴らからなにも聞いていないのか…どれだけ頭のなかお花畑なんだ?」

魔物『貴方にも言い分は大いにありそうね…聞かせてくれるかしら?』

誠「信じるのか?」

魔物『内容次第よ…』

誠「まあ、それはそうか…」

彼は自分がかつて結晶化症候群に挑み実践前の治療法を使い患者を死なせてしまい医学界から責任を取る形で離れたことをまず聞いた

誠「ここまではお前達も知っているだろう」

魔物『ええ…貴方はただ未開の奇病を切り開こうとしただけなのに』

誠「ここからは、どうせ奴らは都合の良いことしか語らんから信じるかはあんた達次第だ」

魔物『えぇ…』

誠「俺が医学界から離れて半年ほどして、俺の家族は妻は流行病にかかった。幸い薬さえあれば治せた」

魔物『…』

誠「しかし、薬が切れてしまいおれは薬を買いに出掛けたが「人殺しに売るものはない」とあしらわれた」

魔物『まさか…』

誠「ああ、お前達の思う最悪のかたちになった。妻はそのまま死んでしまった」

魔物『…なるほど』

誠「だから俺は奴らを見殺しにする、かつて彼らがしたようにな」

魔物『確かに、そうね…貴方はただ妻を助けたかった。でもそれは叶わず見殺しにした彼らを助けろなんて虫の良い話よね…』

誠「ああ、ましてや今そいつらを呼べば…」

魔物『貴方も「医者である前に人である」ということよね…』

誠「わかっているならお引き取りを…」

魔物『ごめんなさい…』

誠「??」

魔物『私たちがもっと早く気づいていれば…!!』

魔物の方は涙を流し頭を下げている

誠「魔物も万能というわけではない。そういうことだろう?」

魔物『貴方が見殺しにするのは確かに医者としてより人間としてを優先した、割りきれなかったのはわかるわ…でも…』

誠「…」

魔物『貴方が全ての感染者を見殺しにしたら、貴方に危害を加えていない人たちに同じ想いをさせるのよ…?』

誠「恨むなら、俺の家族を見殺しにした奴らを恨め」

魔物『…』

そして彼のそばにいる大型犬は私達を威嚇している…

誠「そう伝えてもらえるか?」

魔物『…』

誠「???」

魔物『貴方の奥さんがそれを望んでいないと言っても貴方は怒りを見せるだけとね…』

誠「ああ、そうだな」

彼の決意は硬かった、第一幕のテロップには表示されて一幕は終わった

蓮花『…』

生徒達はやりきれない顔や悲しみに染まった顔をしている

蓮花『第二幕、行けるかしら?』

顔とは裏腹に誰も無理とは言わなかった





















そして、第二幕が始まる

誠「何度こられても変わらん」

魔物『もう少しなのよ』

誠「???」

魔物『つまり、貴方は奥さんが見殺しにされたからその報復として彼らを見殺しにするのよね?』

誠「少なくとも見殺しにした奴らに文句を言う権利はない」

魔物『貴方の奥さんの魂は、私達のところにいるわ』

誠「お前達、どこまで傲慢なんだ?目的のためならそんなことまでやるのか」

彼の眼が冷たい怒りを顕にする

魔物『勘違いしないで』

誠「??」

魔物『人間としての蘇生は無理だけど、不死者の国でもうすぐ蘇るわ』

誠「勝手なことをするな…」

魔物『貴方の奥さんも、こんな状態では成仏出来なかったみたいよ』

誠「真っ直ぐの次は情と泣き落としか?」

魔物『…』

誠「それに、ここで助ければ奴らはなにも理解しない。死を以て理解させた方がいい…」

魔物『確かに、そうね…』

誠「金で済む問題でもなし」

魔物『替えの利くものではないしね…』

誠「それとも実験素材なら引き受けてもいいが。尤も奴らはさらに苦しんで死ぬことになるかもしれんが」

魔物『確かに、貴方が生殺与奪を持つ以上…』

誠「伝えておいてくれるか?お前達のしたことはこう言うことだ、残された時間をそれを考えながら過ごせ。と」

魔物『とりあえず、彼女が復活したらまた来るわね…』

誠「…」

第二幕が終わった、生徒達は一幕を見たときよりさらにやりきれない顔や悲しみに染まった顔をしている…

蓮花『最終幕、行けるかしら?』

しかし、今回も生徒達は頷く。

蓮花『なら、最終幕よ。』






















それから彼の奥さんが魔物として転生したことを報告しに行くと、彼の家から見知らぬ人が出てきた


誠「お大事に」

魔物『どういう…風の吹きまわし?』

誠「これで借りは返し始めたからな」

魔物『…?』

誠「奴らとは無関係のもの達だけは治療してやると言っているんだ」

魔物『本当に?』

誠「ああ、どうやら本当に蘇らせてくれるらしいからな、それくらいはしてやるべきと考えた」

魔物『ありがとう…』

誠「まあ、見殺しにした奴らはそのまま死ね」

魔物『…』

誠「お前達を少しだけ誤解していた」

魔物『???』

誠「てっきり力付くで俺の持つ治療法を奪っていくかと思ったからな」

魔物『それをやれば、貴方は世界を憎むでしょう?』

誠「ああ、そうだな…そして」

魔物『??』

誠「いや、まだ起きていないことを言う必要はないだろう」

魔物『まあ、そうね…』

誠「今日は後3人、それで全て終わりだ」

魔物『かなりいたはずよね…?』

誠「ああ、一日に数人は治療したからな」

魔物『感染がそこまで多くないことが却って…』

誠「そういうことだな」

魔物『本当に、ありがとう…』

誠「それは、俺の妻に言え。魔物になってでもこの世界に留まることを選んだのだから」

魔物『わかったわ…』

誠「用はそれだけか?それなら次の患者の治療に移りたいが」

魔物『えぇ、邪魔をしたわね…』

それから数日して、無関係の人々の治療が終わった

誠「お大事に」

魔物『最後のグループの患者?』

誠「これで終わりだ」

魔物『…』

誠「?」

魔物『私たちが、関係者も治療しないと貴方の奥さんには会わせないと言ったら、どうするかしら?』

誠「それならこちらは全ての研究結果を燃やしつくすまでのこと」

魔物『そう来ることも想定済みなわけね、安心して。その気はないから』

誠「そうか」

魔物『…』

すると、彼女達の後ろから体から結晶が生えてきている男とそいつの親らしき人物が出てきた

誠「よく顔を出せたものだ」

魔物『…』

???「お願いします…息子を…」

誠「俺がそう頼んだときにお前達はどうした?」

???「死にたく…ない…助け…」

息子の方は結晶により身体が満足に動かないのに頭を下げようとしている

誠「勝手なことばかり抜かすな…」

そのまま彼は背を向けて家に入っていく

魔物『…』

誠「…」

そして彼はそのまま窓から私達を見ている

魔物『!!』

さらに結晶化症候群が進行してもう顔以外は全て結晶化してしまっている…

誠「そろそろ、頃合いか…」

家から出てきて彼はそう言う

魔物『??』

誠「…」

そのまま彼はその息子を担いで家に入っていった

魔物『!!』

それから数時間して彼は出てきた

誠「奴には個々で入院してもらう」

魔物『助けてくれたの?』

誠「奴には生き地獄を味わってもらう」

魔物『???』

誠「安心しろ、息の根は止めん」

魔物『なら、必要なものがあったら言ってほしいわ』

彼はポケットから紙を出してメモをしていく

誠「ならこれを頼む」

そのままメモを渡していき彼は家に戻っていった

魔物『用意が出来たら届けに来るわね』

誠「わかった」

それから数日後、彼ら親子は出てきたが明らかにやつれている…

魔物『何をしたの?』

誠「いや、質問をしただけだ」

魔物『質問?』

誠「俺の妻は生きたかった。魔物の庇護で生きられたお前と違ってな。見殺しにしたお前達だけがなぜ助かったのだろうな?と聞いた」

魔物『!!』

誠「後は嫌味で「魔物の力で生き延びて生き恥をさらしてでも生きたかったのか?何で見殺しにしたお前が生きていて見殺しにされた俺の妻は死んだのか教えほしいものだが」と言ったりした」

魔物『本当は殺したかった…ってところかしら?』

誠「ここで殺せば奴ら以下だからな、それはしなかった」

魔物『変わりに心をズタズタにしたと』

誠「これでも四分の三ほどに抑えた」

魔物『とりあえず、本当にありがとう…』

誠「他の奴らにも聞きたいから連れてきてくれ」

魔物『…』

背に腹はかえられないから連れてきたようだ

魔物『本当は見殺しに出来る選択肢を取れたのにとらなかっただけまだ…そう割り切るしかないわね…』

最終幕が終わった

蓮花『さあ、ディベートの始まりよ』

生徒達は真っ先に満場一致の反省点を出した

生徒『多少強引にでも介入していればこうはならなかったのかなと思います』

蓮花『それは私達魔物がまず思うことね、他には?』

他の生徒が口を開く

生徒『それでも彼の心を変えられたのは、何度も説得したからかなと思います』

蓮花『確かに、そうかもしれないわね』

他の生徒はというと

生徒『彼が頑なに治療をしなかったのは、彼の唯一の財産を奪われまいとした行動?』

蓮花『では、そろそろ本日のスペシャルゲストを呼ぼうかしらね』

生徒達『!?』

パソコンの画面には、持田誠本人が写っていた

誠「おお、驚いてる驚いてる」

蓮花『では、質問をどうぞ』

生徒達がならんで質問を始めていく

生徒『なぜ全てを捨てるところから切り替えたんですか?』

誠「見殺しにした奴ら以外からしたら「なんのことだ…」と冷静になった頭で考えられるようになった時に感じたからだな」

生徒『なるほど…』

次の生徒が来る

生徒『奥さんには会えた?』

誠「ああ、と言うより俺は今不死者の国に居るからな」

生徒『良かった…』

次の生徒が質問をする

生徒『あれから治療法を独占できたはずなのになぜ売ってくれたの?』

誠「いちいち来られるのが面倒だった、それに魔界のお偉いさんが高値で買ってくれたからな」

生徒『なるほど…』

それからしばらく質問が続き最後の生徒の番になった

生徒『どうやって治療法を見つけたんですか?』

誠「細かい説明は省くが、偶然だ。偶然見つけた法則に当てはまるようにやってみたら治せることがわかった」

生徒『天啓みたいな感じだったんですね』

誠「まあ、誰かしらが見つけていないと今頃さらに感染者が増えていただろうな」

生徒『もしかして…』

誠「ほう」

生徒『貴方が感染者だったから…』

誠「ああ、自分の身体で治せることを証明した。これなら治療される側も文句は言えんだろ?」

生徒『なるほど…』

誠「もう、いいか?」

蓮花『えぇ、ありがとう』

誠「二度とこんなことが起こらんように、してほしい。」

蓮花『えぇ…』

そのまま通信は切れた

蓮花『想定、以上ね…』

生徒達に与えた影響は想像以上だ、この授業をして良かった…私はそう教員日誌に書くのだった

おわり
21/09/11 10:16更新 / サボテン

■作者メッセージ
どうも、サボテンです。

今回はまたリクエストで書いてみました

ご意見、ご感想などありましたらよろしくお願いします

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