読切小説
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華味狐色
陽気麗らかな昼下がり。今日もお店は閑古鳥。

「アイヤー、暇アルなぁ…」

そうぼやきながら、中華包丁をリズム良く鳴らしているのが、
当店『華味 狐色』の店長、妖狐の魔物、ヨーコさんである。

店長の言うとおり、もう日も沈んで夕食時だというのに、
30人ほども入るお店の中にいるのは、お得意さんの2人だけ。
それを含めて本日の来客、驚くなかれ、たったの7人。
店としてやっていけているのが、不思議なくらいの人数だ。

「ほっ、と。はい、ソラ、8番テーブルに青椒ネ」

チンジャオロースの盛られたお皿を、ふさふさの尻尾が僕の前まで運んでくる。

お客さんが来ない理由の一つは、これ。
店長のお尻に生えた、5本の尻尾。見ての通り、毛がふっさふさに生えている。
毛というものは抜け落ちるもので。店長の場合、特に毛が多いから余計に。
抜けた毛は、床に落ちたり、テーブルに飛んでいったり、料理に入ったり…。
そう、料理に毛が入ってしまうのだ。それを食べたお客さんは、大抵が、もう…。

「ソラーッ。それ運んだら、そこの人参皮剥いてネー」

いや、店長のために言わせてもらうと…弟子入りした僕の面子も含めて言うと…
料理の味自体は、すごく美味しい。もっと大きなお店を構えてもいいくらい。
だからこそ、少ないけれど常連もいるし、味に文句をいうお客さんはいない。
…常連に関しては、店長見たさに来る人がほとんどではあるけれど…。

とにかく、味は問題ないのだ。
問題なのは、毛と…店長のやる気。悲しいまでに危機感が無い。
ビラなんて作ったこともないし、日々の売上も碌に見ていない。
赤字続きということは知っているけれど、なんとかなるなる精神。
これでは、お客さんが来るどころか、遠のくばかりである。

どうにかしないといけない。僕が、どうにかしないと…。

「おっ、きたきた。おいしそーっ!」

運ばれてきた料理を見て、常連さんが嬉しそうな声を上げる。
この町では結構有名な、元勇者の奥さんである、ドラゴンのドーラさん。

「たまには馬鹿な旦那を放っといてのディナーもいいね。いただきますっ」

ぱんっ、と手を合わせて一礼。行儀良い。
ディナーというほど豪華な料理ではないとは思うけれど。

食べ始めるドーラさんの、向かいにある席を引いて、腰を下ろす僕。
ドーラさん含め、常連さんはみんなおしゃべりが大好き。大半が愚痴。
話し相手が僕しかいないためか、いつも常連さん達から呼び止められるので、
今ではこうして自分から着席して、話を聞く状態で待つことにしている。
もちろん、店長には許可を貰い済。曰く「暇だし、いいヨ」。

「でさ、ソラちゃん聞いて。うちのがさ、またワッフルさんの店で迷惑掛けてさ…」

やんなるね、ホント…と続くのが、いつものパターン。
今回は何をやってしまったのだろう。この前は粗相をしたらしいけれど…。

「まったくねぇ…ソラちゃんみたいな真面目な男と結婚したかったよ」

鬱憤を吐き出しながらも、次々と口に運ばれていくチャンジャオロース。
時折、思い出したように、満足気に頷くドーラさん。おいしい、と呟きながら。

僕がお客さんとおしゃべりをする中での、一番の楽しみ。
店長の料理を、心から美味しそうに食べてくれるお客さん。
毛が入っていなかったら、もっと喜んでくれるのかな…なんて考えながら。
こういうところは、根っからの料理人気質なのかなって、自分で思ったりする。
いつか自分も、店長の様に美味しい料理を作って、食べた人の笑顔が見たい。

そんなことを考えていると…ふと、顔を近付けるドーラさん。

「そういえば、さ。ソラちゃん」

ちら…と、厨房の方…ネギを切っている店長を見て…視線を僕へと戻す。

「ヨーコとさ…なんにもないの?」

……………。

いや…うん、別段、驚かない。
この手の質問は、茶化しも含めて、男性客の常連さんには毎度訊かれる。

はっきり言って、ない。なんにもない。
僕は、そういう下心を持って店長に弟子入りしたワケじゃあないし、
店長だって、僕に対してその手のアプローチをしてきたことはない。
確かに、店長は魔物だし、美人な女性。まったく意識してないワケじゃない。
でも、それはそれ、これはこれ。ただの、店長とバイト、師匠と弟子の関係。

その関係を差し引いたって、僕自身が、店長と釣り合わない。
身長もそうだし、年齢もそう。料理の腕は言うまでもない。色々と不足気味。
むしろ、身長と年齢だけでも駄目そうなのは、誰が見ても明らかなのに。
なんでみんな、こう同じ質問をするんだろう。分かっていて言っているんだろうか。
ドーラさんだって、僕がそう見えるからこそ、「ソラちゃん」って呼ぶんだろうし。

「ないの? ホントに? へぇ〜…意外」

キョトンとした表情で、口をもぐもぐ動かすドーラさん。

意外…というのは、どういうことだろう。
もしかして、店長…僕の知らないところで結構…?

「ヨーコさ、ソラちゃんのこと、好きって言ってたよ」

……………。

………え?

「あの子、ショタコンなの。ソラちゃん、ぴったりだって」

最後の一掬いを飲み込んで、ドーラさんが話す。

…店長が、僕のことを……好き?
いや、でも、そんな…。しかも店長が、ショタコン…?
もしかして、ドーラさん、僕をからかって冗談を言ってる…?

「ふぅっ…ごちそうさま。じゃ、頑張ってね、ソラちゃん」

馬鹿旦那のところに帰るかー…と、毎度の台詞と代金を残して、
店長に挨拶を交わしながら、ドーラさんが店の暖簾をくぐって出ていく。

その背中を、呆然と見送る僕…。

「ソラ〜、人参、早くハヤクーッ」

僕を呼ぶ店長の声に、ハッと我に返って、お皿を持ち急いで厨房に戻る。
洗い場に食器を置いて、皮剥きを手に取り、並べられた人参の前へ。
深呼吸をひとつ…その中の一本を拾い上げ、しょりしょりと剥いていく…。

剥いている間…僕の頭の中に渦巻くのは、ドーラさんの言葉。
本当なのか、冗談なのか。彼女が帰ってしまった今はもう、確認の術がない。

冗談だとは思う。思うけれど…気になってしまう。
皮を向きながら、店長を横目で見る。いつもの店長の後ろ姿。
尻尾を振って、御機嫌そうにネギを切っている。お客は少ないのに、山盛りに。

「ネーギ ネーギ ネギ 薬味だヨ〜♪ 遠い国から〜 やってきた〜♪」

相変わらず、よく分からない歌を口ずさみながら。

一見すごく適当に見えるけれど、店長の凄いところのひとつは、
下拵えから調理に至るまで、何一つ秤を使わずに正確なところだ。
それは、ただ単に一個辺りの量というだけでなく、仕込みの数まで。
つまり…店長があれだけ山盛りにネギを切ったということは、
明日はあれがぴったり無くなるくらいのお客さんが来る…ということなのだ。
預言者もびっくりである。店長は超能力でも持っているのかもしれない。

「あ、ソラー」

と、急にこちらに振り返る店長。
目が合い、ドキッとして…裏声で返事をしてしまう僕。

「プフッ! ちょっとソラ、笑わせないでヨー!」

笑われ、怒られてしまった。泣きたい。

「えっとネー、今日仕込みの後、ちょっと残ってもらっていいアルか?」

仕込みの後…つまり、掃除以外の仕事が全部終わった後。

残る、といっても、今は僕も店長と一緒に、この店の二階に住んでいるから、
この場合の残るというのは、何かしら仕事がある…ということだろう。
断る理由はないし、二つ返事で引き受ける。

「アイアイ、ありがとネ。あ、いらっしゃいませーっ!」

店長の掛け声に、見ると、入口に常連さんの姿。
僕も店長に続いて声を掛けながら、接客の為に厨房を出る。

…仕込みの後、かぁ…。いったい、なんだろう…?

……………

………



「さぁっ、そろそろ始めようカナ!」

餃子の具の作り置きが終わったところで、店長が声を上げる。
尻尾を巧みに動かして、ガチャガチャと用意しているのは…調理の準備。
柚子塩に、豚バラ肉、料理酒、柚子皮、黒胡椒、ブロッコリー…。
材料を見るからには、柚子豚丼のそれだけど…今から作るのかな…?

「ソラ、おいで〜っ」

手招きして、僕を呼ぶ店長。

…もしかして…。
とある期待が脳裏を過ぎって、高鳴る胸を押さえながら…歩み寄る。

「コホン…」

改まった咳払いをして、店長が僕の方へと向き直る。
ドキドキしながら、僕も姿勢を正して、店長の言葉を待つ。

「…ソラ。そろそろ、アナタも厨房に立ってもらうネ」

きた…! とうとうこの日が来た!
厨房に立つ…つまり、僕も料理人になる! 店長と同じ、料理人に!
この日をどれだけ待ち侘びただろう…! とうとう、とうとう来たんだっ!

「だから、うちのメニュー…まずは、柚子豚丼の作り方から覚えてもらうヨ」

そう言って、並べられた材料を指差す。

柚子豚丼。うちの看板料理のひとつで、一番売上が高い。
豚の脂っぽさを柚子の爽やかさで打ち消した、老若男女と食べやすい丼物。

作り方自体は、店長のそれを見ていたからある程度は分かるけれど…
問題は、量である。店長は秤を使わない。でも、黄金比率は絶対にある。
僕はそれをしっかりと覚えなければいけない。あの味を損なわないためにも。
幸い、秤が用意されているところをみると、店長もそれを分かってくれているみたいだ。

「じゃあ、作っていくアル。ソラ、包丁持ってネ」

促されるまま、包丁を持って…まな板の前に立つ。

えっと、まずは…そう、豚肉だ。
豚肉をだいたい中指の長さに切って、それを確か…。

「よいしょ、っと」

と…不意に、背中と、手に、感触。

驚いて、振り返る。

「まずはー、豚肉を丁度良い長さに…」

店長が、身体をぴったりくっつけて…僕の手に、柔らかい手を添えている。
そう、店長は…文字通り、手とり足とり、僕に教えるつもりなのだ。

慌てる僕に気付かぬまま、バラの豚肉をまな板に何枚か重ね置いて、
包丁を握った手を持ち…器用に、トン、トンと切っていく店長。

「こーんくらい、こーんくらいっ♪」

コンコン言ってる場合じゃない。この体勢、すごく恥ずかしい。

きっと、店長は素でやっている。
教えやすいからと思ってのことなんだろうけれど、だめだ、とても耐えられない。
身体は離して教えてもらおう。好意を無碍にするようで申し訳ないけれど…。

「で〜、次は料理酒と柚子塩をネー…んっしょ」

と…声を掛けようとしたところで…むぎゅうっ、と…押し付けられるもの。

胸。店長の、あの、細い身体に不釣り合いな、大きな胸。
ぎゅう…って…背中いっぱいに、その感触が…。

「柚子塩を先、料理酒を後に、ボウルに入れて〜…」

…あ。うそ…。ちょっ…ちょっと待ってっ…!

「お肉がこの量だから…お塩とお酒は、こーんくらい?」

……………。

うぅ…、どうしよう…。
今止めたら、これ…バレちゃうかもしれない…。

「秤、秤…。よいしょっ」

もうこうなったら…我慢しよう。
店長はこっちを見ていないみたいだし、1個分の調理が終われば、
次からは僕だけで作らせるために、一旦身体を離す…ハズ。
大きくなってるのさえ気付かれなければ、この場はそれで…。

「んーと…お肉が100グラムで…お酒8グラム、お塩1グラム…」

うぐぐ…。早く終わらないかな…。

「100:8:1だネ。分かった? ソラ」

えっ?

「………お?」

あ…。

「………」

……………。

「…ワオ、マツタケ生えてきたネ♥」

あああぁぁ…バレたぁぁぁ…。
しかも変な返しされたぁぁぁ…。

「ナニナニー? ソラ、エッチなこと考えてたアルか〜?♥」

首に手を絡め、頭に顎を乗せて、うりうりとやってくる店長。
取り繕いたくとも、この状況…何を言っても言い訳にしか聞こえない。
恥ずかしさと絶望の混じる複雑な感情に、げんなりとうなだれる僕。

「もー、スケベだネ〜、ソラ♥ うり、うり♥」

店長が、僕を責めながら…指先で、テントの先っぽを、つんつんと弾く。
不意にそこへ触れられたことで、勝手に漏れてしまう…切ない声。
それを聞いて、ますます嬉しそうに…意地悪に笑う、店長。

「ニャハ♥ うり、うり、うりぃ〜♥」

先程よりも少し激しく、先端を弄る指先。
それに反応するように、びくん…びくん…と跳ねる、それ…。

むずむずして…でも、腰を引こうにも…店長の身体が邪魔をして、
むず痒さが逃がせず……耐え切れずに、お尻を擦り付けてしまう…。
その行動が、更に店長を刺激してしまったらしく、僕の動きに合わせて、
豊満な胸を始めとしたその身体を、悩ましげに擦り付けてきて…。

状況が、どんどん僕の望まない方へ進んでいく…。

「ね、ソラ…♥」

頭の上から、囁く声。

「エッチなこと…したいアルか?♥」

どきん…と響く鼓動。咽を通る、硬い唾。背筋に汗。

「おねえサンが、キモチよーくしてあげるヨ…?♥」

店長が…僕に……キモチいいこと……。

その一言に、色々な想像が過ぎっては…鼓動を速めていく…。
ダメだという気持ちに傾いていた天秤が、ぐらんぐらんと揺れて…
ドーラさんの言葉が思い出されて…頭の中がぐちゃぐちゃになって…。

…イエスとも、ノーとも返せない…優柔不断な僕…。

「…もぅ♥ 恥ずかしがり屋サン♥」

するりと、尻尾の一本が、僕の手に持った包丁を取って…
空いた両手を、店長の両手が、後ろから指を絡めて…引き寄せる。

小さなバンザイ状態の僕。
その無防備な僕の身体を…5本の尻尾が這い撫でる。
首筋を…胸を…お腹を…あそこを…足を…。探る様に、艶めかしく…。
地肌に触れる度に、その細かな毛がくすぐって、妙な気分を起こしていく。

「ソラが、ちゃあんとお願いできたら、してあげるけれど…」

首筋を撫でる尻尾が、その先端で、僕の頬をさする。

「それまで…ずぅっと、焦らしちゃうヨ…♥」

甘い吐息を…耳元に、ふぅっ…と吹き掛ける店長。
ぞわぞわする感触と共に…湧き立つ、我慢できない気持ち…。

「ふふ…♥ あーん……カプッ♥ はむ…♥」

犬歯を立てて…僕の耳に、店長が甘く噛み付く。
女の子みたいな声をあげてしまう僕。店長に弄ばれるがまま。
御機嫌そうに、耳をピコピコ振りながら、噛んだり、舐めたり…。

身体を弄る尻尾達は、動きを変え…僕が敏感に反応する部分を、重点的に攻めてくる。
服の中にまでもぐりこんで、直接触れながら…その心地良い毛並みを…。

「わはっ♥ ビンビンだネ…♥」

あそこを弄っていた尻尾が、しゅるりと蛇のように絡み付く。
僕の大きくなったそれは、より大きな尻尾の中に、すっぽりと埋まってしまった。

「ほーら、小龍包♥ なんちゃって♥」

尻尾の中…。あたたかい…。それに…なんだか、きもちいい…。
どことなく蒸されているような感じで…こもった熱さが、芯まで、
ジンジンと響いて…ますます、大きく、硬くなっていくのを感じる。

いけない…。このまま、店長のペースに呑まれちゃ…。
やっと、僕が料理人になれるかの瀬戸際なのに。その第一歩なのに。
一時の感情に流されて、こんなことをしちゃ…。店長と…こんなこと…。

「アイヤー? この感じ…。ソラ、出ちゃうアル?♥」

店長の言葉に、必死に首を振って否定する。
でも、そんなことでは誤魔化し切れず…ニンマリと微笑む顔。

尻尾達の、激しかった動きが…非常にゆったりとした動きへと変化する。

「ダーメ…♥ 我慢ヨ、ソラ♥」

あそこを包んでいた尻尾も離れて…ズボンを下げながら、表に出てくる。

もう一度、耳たぶを軽く噛んでから、口を離し…店長が、囁く。

「ソラ…♥ そこに手を付いて、身体をこっちに向けて…♥」

震える身体を…促す手に支えられながら動かして…
調理台に手を付き、あそこを隠さぬまま…店長の方へ身体を向ける。

もう、身体が、僕自身の意思と、そうでないものの、ごちゃまぜの動きをしてしまう。
こうしてはダメだと頭では分かっているのに、店長の言葉に逆らえず、
恥ずかしい部分をさらけ出したまま…こうやって、その言葉通りに…。

「カワイイ…♥ 立派ヨ、ソラ♥ おっきい、おっきい♥」

膝を付いて、僕のそれの前に顔をやり、うっとりと見つめる店長。

恥ずかしいのに、その光景から目を背けられない僕を横目に…
店長は腕に巻いた鈴飾りを外して…その紐を、僕のあそこに掛ける。

嫌な予感を告げる、本能。

「間違えて、出ないようにしないとネ〜♥」

鼻歌交じりに…あそこに掛けた紐を、きゅっきゅと結んでいく。
最後の蝶々縛りで、僅かな痛みが走り、腰を引くと…リン…と奏でる、鈴の音。

「ウン、似合ってるネ♥ ネコちゃんみたい♥」

店長がそれの先端を撫でると、リン…と鈴が鳴り。
僕がその刺激に反応すると、また、リン…と鈴が鳴り。
その音が響く度に、僕の胸を焦がす…例えようのない恥ずかしさ。

気に入ったのか、店長は何度か先端を指先で撫でながら、僕の反応を見、
鈴の音に耳を立て、尻尾で僕の足をやんわりと擦って…愉しんでいる。
そのどれもが、僕の恥辱と…快感を、呼び起こしているのを、知ってか、知らずか。

「んー……ちゅっ♥ ぺろっ…♥ ぺろ、ぺろ…♥ ちゅるっ…♥」

不意に…その刺激が、目が眩むほど強烈なものに変わる。

舌。店長の舌が、先っぽを…ミルクを飲む子猫みたいに、チロチロと舐めている。
時折、溢れる愛液に吸い付きながら…エッチな音を立てて…。

もう、限界だった。
僕は腰を震わせて…我慢していたものを、解き放った。

「あっ…♥ …ふふ♥ イッてるネ…♥ ぺろ…♥ ちゅ…♥」

…が……出ない…。空しく、あそこが震えるだけで…。
リンリンと鈴が鳴るだけで…一滴も、精液が出てこない…。

紐だ。紐のところで、全部せき止まってしまっている。
痙攣し、出ないことに苦しむ僕のあそこを、容赦なく刺激する小さな舌。
裏筋を舐めたり、雁首をくすぐったり、鈴口を弄ったり…。
その度に、破裂しそうなあそこが、射精の動作を繰り返している。

「…ソラ♥ 出したいアルか…?♥」

上目遣いで僕を見ながら…惑わすような問い掛け。

…出したい。紐を解いてもらいたい。
でも…そうしたら、今までの僕とは変わってしまいそうで…
店長と、今までと同じ様に過ごせなくなりそうで…それが怖くて…。

霞む思考の中、答えに躊躇する僕を…いやらしく見つめる、妖しい瞳。
ゆっくりと立ち上がって…そっと、震える頬に手を添え、耳打ち。

「ソラ…♥ 私、知ってるヨ…♥」

…?

「ソラが毎晩、布団の中で…エッチしてるの…♥」

っ…!?

「バレバレだヨ♥ 音も…匂いも…ぜーんぶ♥」

あそこをやさしく撫でられながら…紡がれる、暴露の囁き…。

「…私のこと…好き、って…言ってたネ?♥」

5本の尻尾が、僕の身体にするりと絡まり…。

「ふふっ…♥」

抱き寄せるように…店長との距離が、縮まって…。

「…私も、好きヨ♥ ソラのコト…♥」

ゼロ距離で伝えられた…告白。

「…♥」

……………。

……店、長…。
ぼく……。

「…ね、ソラ…♥」

ぼく…店長と……っ。

「エッチなこと…したいアルか…?♥」

したい…、いっぱい、いっぱいしたい…っ!

店長とエッチなこと…したいっ!

「ニャハハッ♥ 言っちゃったぁ〜♥ ソラ、えっちぃ〜♥」

真っ赤になった僕の頬を、してやったりの表情で、ぷにぷにとつつく店長。

僕は、もう、その一言で気力を使い果たして…ただただ、お腹の奥で蠢く…
気持ち悪さとも欲望ともいえるものに、必死に耐えるしかできなかった…。

「…♥ …いっぱいしてあげるネ♥ ソラ…♥」

そう言って、少し僕から身体を離し…真っ赤なチャイナドレスが、するりと脱げ落ちる。
ぽよんとこぼれおちるのは、肉まんみたいに大きなお胸。先端はぷっくり、ピンク色。
その魅力に心奪われている内に、刺繍の入った下着もスポンッと脱ぎ払って。

気付けば…僕の目の前には、店長の…師匠の…最愛の人の、あられもない……。

「それじゃあ…紐、解こうカナ♥」

出しちゃダメだヨ、と付け加えて…綺麗な手が、あそこを縛る紐を摘まむ。
下唇を軽く噛んで、襲い来るであろう刺激に備える僕。

…するすると…鈴を鳴らしながら…戒めが解かれていく。
その僅かな感触…でも、今の僕には、ワサビを食べた時以上に涙が溢れるくらい、
耐え難い快感で…何度も、何度も、店長を呼んでは…腰をがくがくと震わせた。

「ン…、ほいっ♥ 解けたよ、ソラ♥ 我慢できたネ♥」

いつもみたいに、優しく声を掛けながら、頭を撫でてくれる店長。
嬉しい。すごく嬉しい。けれど、それ以上に…辛い。すごく、辛い。

イきたいっ…。はやく、出してしまいたい…っ。
店長…はやくっ…、はやく……いいって、言ってっ…!
精液、出してもいいって……店長っ……お願い…っ…!

「ソラ…♥」

店長が、背を向け、僕の向かいの調理台へ手を付き…お尻を上げる。
尻尾の生え際…その下で、恥ずかしげもなく晒されている…ふたつの穴…。
濡れそぼっていて…ヒクヒクって、僕を誘うように動きながら…。

「おいで…♥」

催眠術に掛かったかのように…僕はふらふらと歩み寄り…
背中…尻尾の絨毯へ、ぼふんっ、と倒れ込む。全身を包む、やわらかな感触。
小さな喘ぎ声を聞きながら…腰を動かして、店長のあそこを探る…。

「焦っちゃダメネ♥ ほら、もうちょっと下……うん…♥」

なかなか見つからず、やきもきしながら先端をあてがって…。

…不意に、湿った…やわらかい場所に、あそこが触れた。

「やんっ♥ ぁ…そう、ソコだヨ…♥ ソコに、ソラのを…♥」

ここが…。ここが……店長の…。

「…挿れて…♥」

…ぁっ……あっ、あっ…! あぁっ!

「……ン? あっ…。あ〜…♥」

ぁ……っ…ぁ……。

「…出ちゃったネ…♥ 熱いの、ピュッ、ピュッて…お尻にかかってる…♥」

………ぁ…、ぅ……。

「気にしちゃダメヨ、ソラ…♥ そんな泣きそな顔しちゃダメネ♥」

情けなさと恥ずかしさで気を落とす僕を、明るく慰める声。

「ほら…♥ まだお稲荷サン、元気元気ヨ♥」

細い腕が股下から伸びて…僕の睾丸を掴み、くにくにと転がす。
慣れない刺激に、萎えかけていたあそこが…またむくむくと膨らみだして…。

「今度はナカで…いっぱい出そうネ♥」

くるりと、腰に巻き付く尻尾。
そのまま…誘うように……引き寄せられ………。

…つぷり、と…小さな水音が響いた…。

「あっ…♥ ソラの…っ…♥」

少しずつ……少しずつ……僕のものが、店長のナカに包まれていく…。

「元気いっぱい…♥ ビクビクして……ンンッ♥」

尻尾に包まれたのと、同じくらいあたたかくて…
なのに、それとは比較にならないくらいきもちよくて…。

根元まで…全部店長の中に入る頃には…腰が抜けてしまうほどの快感が…。

「…くすっ♥ なぁに、ソラ?♥ そんなにキモチいいアルか?♥」

僕の呻きに耳澄ますかのように、尖った耳が振り返る。

きもちいい…。例えようのないくらい…。
入る時はすんなりだったのに…今ではきゅうきゅう締め付けて、
少し動かすにも力を込めなきゃいけないくらい、僕のに吸い付いてきてる。
その動きは、どんどん奥へと導くようで…もう全部入っているのに、
まだ…まだ奥へと引き寄せられているような…不思議な感触と、刺激。
とろとろなうねりは、動けない僕を、容赦無い快楽へ叩き落として…
すぐにまた…お腹の奥…渦巻くものを出したい欲求を、呼び起こす。

「私もネ…♥ ソラの、アツいオチンチン…キモチいい…♥」

巻かれた尻尾が、硬直する腰を引き上げる。
ぬるり、ぬるりと…あそこに絡む、襞と愛液。

「ソラのスープ…たくさん飲ませてほしいネ…♥ あんっ♥」

中ほどまで抜けたところで、また、つぷつぷと飲み込まれ…。

大きな店長の背中の上で、ただ喘ぐしかできない、小さな僕。
繋がった部分からは、どちらのものとも分からない愛液が、
糸を引いて…ぽたり…ぽたりと垂れ…床に水溜まりを作っている。

「ソラッ…♥ ソラァ…♥ もっと…もっとぉ…っ♥」

大きくなる水音と共に、次第と速くなっていく腰の動き。
どうしてこうなっているかもとうに忘れ、快感を貪り狂う2匹の獣。

声も掠れ、息さえも碌に吐けない僕の身体は、限界を超えて。
もういつ射精してもおかしくないのに、強過ぎる刺激が、それを許さない。
絶頂が絶え間なく繰り返されて、出したいのに…出したいのにっ…。

おかしくなりそうな自分を堪えて、必死に店長の身体にしがみつく。

「やぁんっ!?♥ むねっ…ぁ、ソラ…ッ♥ そんな強く掴んじゃっ…♥」

てんちょ…っ…! てんちょおっ…!

「ぁ……おっき…っ♥ 出して、ソラッ…♥ ナカ…ナカにっ…♥」

はぁっ…はっ……ぅぁっ…あっ…!

「はっ♥ はっ♥ ソラッ♥ はぁっ♥ やっ♥ やぁっ…♥」

でるっ……はっ…ぁ…でっ……あっ…てっ……てんちょおっ!!

「きゃううぅぅぅんっ♥♥♥」

はぁっ…! あっ…! うあっ…ぁっ…! くぅっ…!

「ふぁっ…♥ セーシ…どくん、どくんってしてるネ…♥ ソラ…♥」

わかる…。のみこまれていく…。
ぜんぶ…ぜんぶ店長のナカに……僕自身も…。

「ンンッ…♥」

勢いよく大量の精液を放っているあそこに、腰を振り、更に射精を促してくる店長。
そんな欲張りな店長の動きに、ひんっ、と情けない声を上げてしまう僕。

「…ンー…」

……ゆったりと…射精の勢いが、落ち着いてくる…。

「…ちょっと、物足りないネ♥」

と…。

「えいっ♥」

大人しかった5本の尻尾が、急に大きく翻った。

「もうちょっと出してくれれば、私もイけるヨ、ソラ♥ こーんくらいっ♥」

親指と人差し指で、小さな丸を作りながら、ウインク。
そんな可愛い行動とは裏腹に、動き出した尻尾達は、僕の身体を這い廻り…
全身を包みながら…その先端で、敏感な部分をこちょこちょとくすぐってくる。

くすぐったいという感覚よりも先に来る…あの、切ない快感。

「んふふ…♥ オトコのコだって、こういうトコロは感じちゃうよネ?♥」

耳…乳首…おへそ…お尻の穴…睾丸の裏…。
艶やかな金毛が、未発達の性感を呼び起こすようにねぶり狂う。

鎮まってきたあそこが、また思い出したかのように鼓動する。

「ニャハ♥ ソラ、オンナのコみたいだヨ♥ カワイイネー♥」

店長の言葉が、まばらにしか聞こえない。
目の前に散る火花。真っ白になっていく世界。研ぎ澄まされていく神経。

分かるのは、快感だけ。5つの点を這う快感だけ。

「あっ…♥ すぐ出そうだネ、ソラ♥ イイコ…♥」

店長…。

僕、店長のこと…、店長のことがっ…。

「こーんくらい…♥ はっ……ん…♥ こーんくらい…っ♥」

店長のことが…っ!

「こーんくら……ふぁっ♥ あっ♥ あぁっ♥」

ぼく……っ!!

「きゅうううぅぅぅぅぅんっっっ♥♥♥♥♥♥♥」

……………

………



「ソラー! 柚子豚丼3杯に、餃子2枚ネ!」

姿の見えない店長に返事をしつつ、炒飯の入った鍋を振るう。
パラパラと綺麗なアーチを描いて舞うそれは、店長自慢の技のひとつ。

あの日以降、店長からレシピと技をどんどん引き継いでいった僕は、
今ではこうして厨房に立って、お客さんへと自慢の料理を出している。
店長はといえば、僕と交代して、接客専門。男性客からのセクハラが絶えない。

「2番テーブル、お愛想アルー! ありがとうございましたーっ!」

不思議なことに、役割を交代して以降、それこそ休憩する暇もないくらい、
この小さな店へ溢れんばかりのお客さんが入ってくる。昼夜問わず、満員御礼。
とても喜ばしいことだけれど、別に料理の味を変えたワケじゃないし、
毛の対策もしていない…本当に、原因が分からない…不思議なことなのだ。

とはいえ、店長も嬉しそうなので…深くは気にしないようにしている。

「こんにちはー…って、うわっ!? なに、この賑わい!?」

「あっ、ドーラ! いらっしゃいネ!」

常連さんの来店に、幸せそうな声を上げる店長。
僕も心からの感謝を込めて、大きな声で出迎える。

「ちょっとヨーコ、どうし……ん? あら? あなた、尻尾…」

「んっふっふ〜♥ 愛のア・カ・シ♥ だヨ♥」

話し込む二人の後ろから、また新しいお客さん。
それに気付いた店長が、6本の尻尾をふりふり応える。

幸せな日常。幸せな毎日。以前よりも、ずっと、ずっと。
店長とバイト、師匠と弟子の関係に、ひとつ新しいのが加わって。
変わっていく僕。変わらない店長。それが僕達の関係。
それでも、僕の中には一つだけ、ずっと変わらないものあって。
ずっと、ずっと…それだけは変えずに、僕はこの日々を送りたい。

「いらっしゃいませーっ! 『華味 狐色』へようこそアル!」

陽気麗らかな昼下がり。今日もお店は大繁盛。
12/05/25 22:47更新 / コジコジ

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33