連載小説
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入部早々
二人が決闘をした、次の日

とある休み時間で一人の魔物は悩んでいた


 「……あのとき大佐殿を襲っておけばよかったのであります」


 「敗北したときのペナルティについても特に話してこないし……」


 「………『小管の肉便器になれ』とか言われたらいいなぁ」


 「それで乱暴に初めてを奪われた後に、優しく抱いてもらったり………」


一人ぶつぶつ呟いている詩織を尻目に、甲は護と楽しそうに会話をしていた

彼らはこの数日でかなり仲良くなり、傍から見れば旧知の仲と言われても違和感が無さそうなレベルだった


 「魔物出現以前、つまり旧世代の兵器の方が人気は高いが、最近の技術力の発達については目を見張るものがあると思うのだ」


 「まぁ、人魔大戦があったから停滞気味になっていた技術の発達に勢いが付いたんだろうね」


 「……あれは主神教のクソ共がこの世界に来なければおきなかったはずのものだな、それはさておき最近の兵器が登場するFPSを知らないか?」


 「旧世代の兵器が出てくるのは多いけど、最近のやつがでてくるのは少ないね、僕が知っているのはVVVぐらいだよ」


 「ふむ、あれは確かに楽しいな、新旧両世代の兵器がでてくるのがなかなか良い」


 「へぇ、甲もやってるんだ、あとはミリタリー部が自作したやつも結構面白いから、詩織に頼んで放課後にでもしにいったら?」


 「ふむ、では詩織よ、別に良いか?」


 「ふぇ!?」


自分の思考(妄想)の海に沈んでいた詩織は唐突に話の流れを自分に向けられたことで、思わず変な声を出してしまった


 「な、な、な、何の話でありますか!?、私は別に変なことなんか考えて無いのでありますよ」


詩織は顔を真っ赤にしてものすごい勢いで顔を横に振っているが、残りの二人は不思議そうに彼女のことを眺めていた


 「貴官のミリタリー部で作ったFPSが中々面白いらしいという事なのだが、放課後やりに行ってもよいか?」


 「は、はい、大丈夫なのであります(私は大佐殿とヤりたいのであります)」


 「……僕は帰って洗濯物を取り込まないといけないから遠慮しておくね(二人の邪魔をしたら悪いしね)」


護の気遣いに感謝しつつ、詩織は二人の会話に混ざるのであった













放課後、ミリタリー部と書かれた札が貼ってあるドアの前に詩織と甲は立っていた


 「なぁ、詩織よ」


 「なんでありますか?」


 「昨日の決闘の勝利報酬はこの部への入部で構わないか?」


 「大丈夫でありますよ!むしろ凄く嬉しいのであります!」


甲の申し出に詩織は大いに喜び、勢い余って甲に抱きついた

5秒ほど経った後に自分のした行動に気が付き、バッと離れて顔を真っ赤にしていたが


 「す、すすすすすいませんのであります///」


 「別に構わん」


よく見ると甲の顔も少し赤くなっていた


 「ま、まぁ、とりあえず入るのであります」


詩織は顔が赤いままドアを開け、甲と共に中に入る

教室の中は、外とはまったく違う空間が広がっていた

天井には様々な国の国旗や軍事会社のシンボルで埋め尽くされ

壁にはFN SCAR(アサルトライフル)、レミントンM870(ショットガン)、M79(グレネードランチャー)等が掛けられていた

教室の中心辺りにいくつかの机が並べられ、その上には何台かのデスクトップ型のPCが置いてあり

何人かの人と魔物が仲良く会話をしていた

その内の一人が二人に気づき、近づいて行った

見た目は詩織に近いのだが、鱗や甲殻が赤く尻尾からはゆらゆらとした炎が見えるので、おそらくサラマンダーだろう


 「我らが同士詩織は分かるが……そっちの眼帯は誰だ?」


彼女は背中に背負っていたM16(アサルトライフル)に手を掛けて、甲を睨んだ


 「この人が昨日言ってた大佐殿なのであります」


 「新しく入部する事になった愛河 甲だ、よろしくな」


甲はそんな彼女の様子に一切怯むことなくそう言い放った

彼女は彼の身なりを確かめるように見た後に


 「すまん、無礼なことを言ってしまったな、私の名前は紅 星(くれない せい)だ、この部の副部長をやらせてもらっている」


 「我らは新しい同士を歓迎するよ」


そう言って彼女は三度ほど手を叩くと他の部員は甲に向かってあいさつをした


 「おっ、ついに軍曹にも春が来たか」


 「眼帯が似合うとか結構シブイね」


 「あーあ、私も早くかっこいい兵士に捕虜にされたい」


 「独眼竜さんよろしくっす」


口々に甲に言いたい事を言った後に、それぞれもとの場所に戻った

唖然としている甲を尻目に、詩織は彼に


 「一応この部は私が部長なのでありますが、実質は紅殿が部長みたいな感じなのでありますよ」


 「私は人の上に立つのは苦手なのであります」


と耳打ちをした

甲はもう一度部室を見回した時、一つの疑問が浮かんできた


 「これだけ改造しても大丈夫なのか?」


いくら部室といえどもここまで改装しても良いのか?ということだ

その疑問に対し、紅が答えた


 「総司令官殿(校長のエキドナ)が面白いからよし、と許可はもらっているから大丈夫だ」


彼女の言葉に納得したようで、甲は「なるほどな」と呟き、天井のシンボルなどを眺め始めた

部員の一人が言い忘れた事があったのか、詩織と甲のそばに近寄ってきた


 「そういえば昨日の決闘ってどっちが勝ったの?」


昨日は、詩織が決闘の内容についてからかわれたりするのが嫌だったので予め観戦に来ないように部活は休みになっていたのだ


 「大佐殿の圧勝なのであります」


詩織は負けたのにもかかわらず、さも当然のように当然のように言い放った

そして彼女は部員全員に聞こえるように少し声を大きな声で自分の意思を伝える事にした


 「みんなに言いたいことがあるのであります」


 「私は彼、愛河 甲殿に部長の座を譲ろうと思っているのであります」


彼女の言葉に部室中がざわめいた

当然であろう、新しく入部する得体も知れない男に部長の座を譲る、というのだから

「やることが変わるわけでもないから別に良いよー」、と気楽に答えるラージマウスもいれば

「いやいやおかしいだろう常識的に考えて……」、と頭を抱えるホーネットもいる

男子たちは「面白そうだから別にかまわんよ」と手を振っている

甲本人については「人の上に立つのは嫌いじゃない、というよりも前の学校では部長をしてたからな」と別に気にしてなさそうな様子だ

しかし、彼の目の前に立っている紅は不満そうなに尻尾をピーンと伸ばし、その炎も少し勢いが強くなっている


 「私も良いとは思うが、一つ条件がある」


彼女は視線を甲へと真っ直ぐに向け


 「私を倒してみろ」


甲はやれやれといった感じで軽く首を振る


 「………昨日軍曹と決闘したばかりだというのにな」


 「まぁちょうどいいか、新兵器の実践をしてみたいしな」


そう言って彼は自分の袖の辺りから何かのスイッチのようなものを取り出した


 「とりあえず、危険だから軍曹と他の部員殿は少し離れていてくれ」


 「これで小官はいつでも大丈夫だ、さぁかかって来い」


甲の余裕そうな態度が気にくわなかったのか、紅は更に不機嫌そうな表情をした


 「………ならばやってやろうじゃないか!」


そう言って背中のM16に手を掛け、構えようとしたとき


    ズドン


彼女が部室の床に叩きつけられていた

おそらく、甲が何かをしたのであろうが、他の部員はワケが分からず唖然としている

甲はというと、紅が行動を起こそうとしたときに取り出したスイッチを押しただけでそれ以外の行動はしていない

そして紅の側に立ち、先ほどと変わらない表情で


 「倒してみたが」


当然だ、と言わんばかりに言い放った

この言葉を引き金に紅は立ち上がろうとしたが


    ズドン


更に叩きつけられる

流石にもう敵わないと思ったのか、うつ伏せの状態で両手を頭に乗せ降参の意味を彼に伝える


 「………ここまで一瞬でやられてしまったら負けを認めるしかないだろう」


あまりに圧倒的だと思ったのか、彼女の声色と同じように尻尾の炎もかなり小さくなってしまっていた

唖然としていた周りの部員たちだったが、とりあえず、詩織が彼に質問をした


 「………大佐殿、そのスイッチで何をしたのでありますか?」


その質問に甲は、先ほどと同じように天井を眺めながら


 「軍曹、この地球上で全ての物体が常に受けている力は何かわかるか?」


詩織はしばらく考えた後、答えた


 「………重力…でありますか?」


彼は視線を詩織の方に向け、真っ直ぐ彼女の目を見る


 「その通りだ」


 「こちらに向かってくる敵兵だろうが、自分の命を奪おうと放たれた弾丸も平等にその力は受ける」


 「これは小官が作った射程範囲内の全ての敵、攻撃を重力で叩き潰す兵器」


 「それの試作品を起動させるためのスイッチだ、これは」


 「本来ならアーマーに取り付けて本人の意思のみで起動するようにするつもりなのだが、まぁプロトタイプのようなものだ」


 「昨日の決闘には間に合わなかったが、昨日の内にここまでできたのでな、一応持ってきた」


その説明が終わった途端、部員たちが騒ぎ出した


 「流石大佐殿なのであります、そんなものを作るなんてすごいであります!!」


 「うぉぉぉ、マジすげぇえ、新世代の兵器を自作するなんてマジすげぇぇぇ!!!」


 「………軍曹どころか少佐も倒したのなら私達の上に立っても大丈夫か」


彼のことを評価する者から


 「そんなものを作る資金なんてどこからでてきているんだ…?」


それ以外のことを考えている者もいる

そんな部員達を見た甲は軽い笑みを浮かべながら頭を掻いて気恥ずかしそうにしている


 「……なんだか前の学校の部下達(部活の部員)を思い出すな」


 「この際だから小官が作った兵器を色々見せてやろう」


そう言って彼は懐から様々な機器を取り出し、部員達の前に置く


 「これは指向性の爆薬だ、昨日の決闘でも使ったから軍曹は知ってるかもしれないが」


 「こっちは、見た目こそは小さいが狙撃が出来る暗殺用のハンドガンだ、弾丸も専用の物を作った」


部員達は彼の開発した兵器を眺めたり説明を聞いたりするたびに感嘆の声をあげている




結局彼は本来の目的であるミリタリー部自作のFPSをするのを忘れ、部員達との交流を楽しんでいた
11/07/14 09:04更新 / 錆鐚鎌足
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■作者メッセージ
紅と打とうとすると何故か必ずくれニアとミスタイプしてしまう、どういうことなの………
そして段々甲が厨二臭くなってきましたw

バ「それは最初からじゃないのかの?」

サ「私は執筆前に作成した設定からそんな気はしていましたよ」

………次回作では作中で甲と護の会話に出てきた人魔大戦、つまり第三次世界大戦について書きたいと思っていたりします

とりあえず今回の作品でもそれに関係する話をちょこちょこ入れたりしたりしますので、楽しみにしていただけたら幸いです

バ「とりあえずはこれを完結させんと先には進めんぞ」

サ「まだまだ完結も遠いのに作品を書いている途中で別の作品について考えるのはご主人様の悪い癖ですね」

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