連載小説
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そのさんじゅういち
「不思議の国というだけのことはあるな」
子供の非現実的な空想と大人のえげつない性欲を詰めてシェイクした
箱の中身をひっくり返したような光景が歩いてるだけで目に飛び込んでくる。
「素晴らしいでしょう?常識に囚われないエロスと悪戯心こそが
この世界のモットーにして真理なのです。むふん」
と言って、世界の主であるハートの女王がない胸を張って偉そうに自慢してきた。
「自制というものが失われた世界とはこういうものなのかもしれんな」
「解放に満ちていると言ってほしいのです。
まったく、魔へと堕とした女勇者を何人も妻にしている魔物男のくせに
つまらない普通の人間のような感想を言うんですね。そっちのほうが不思議なのです」
またその話か。
「堕としてない。逆にあいつらが総出で俺を奈落に引きずり込んだ」
「立場も生まれも主義も違う個性的な女性達が
偶然にもあなた一人を性的にロックオンしたというんですか?
恋愛小説の主人公じゃあるまいし、都合よすぎですよ?
……あ、ここがそのお店なのです」
どうやら目的地についたようだ。反論するのは店内に持ち越すとしよう。

「い、いらっしゃひませぇ〜」
間の抜けた女性の声が俺達をお出迎えしてきた。
ウェイトレスの格好をした半人半馬の魔物――ケンタウロスが
後ろからウェイター姿の男性に犯されながら、とろけた笑みを浮かべて近づいてきた。
好色まっしぐらな魔物にしては珍しく厳格な種族らしいのだが
俺の目の前にいるタイプはそういったイメージとはかけ離れている。まるでバイコーンだ。
「こ、これは女王様ぁ、ようこそ、いらっ…ひぃい!
あ、あつっ、熱いのドピュドピュってえええぇ、今は接客中ぅうっ、んうぅ…!」
どうやら中に射精されたらしい。腰を震わせながら
荒く息をついているウェイターの様子からして間違いないだろう。
「案内は不要なのです。私達は勝手にスーパーゴールデンルームに行ってるので
後からおすすめメニューを適当に持ってくるのです。あ、あと、チーズケーキもです」
「お、おおせのままにぃ、いたひますぅ……」

「ところで、疑問なんだが」
「はぃ?」
店があるということは支払いも当然あるということになる。なら、このふざけた世界にも
取引の一定の指標となる物質、つまり、通貨があるということなのだろうか。
「答えは…………」
「答えは?」
「こ、た、え、は〜〜〜〜〜〜〜〜」
「さっさと言え。なんだその無駄な溜めは」
「ノリのわるい男ですね、まったく。
…なんかあんまり言いたくなくなったですけど、まあ簡単に言うと、ないです。
暇つぶしにお店ごっこをしながら接客プレイを楽しんでるだけです。
たまに、何かしらの品物を要求したり、身体で払ってもらうこともあるようですが
それは客側と店側の話し合いで決まったり決まらなかったりです。要はどうでもいいのです」
ここは不思議の国じゃなくて大雑把の国だったようだな。

「ここが私専用の個室、スーパーゴールデンルームなのです!
光栄に思うがいいのです。ここに足を踏み入れた男性は貴方が一人目なのです」
「それはわかったがそろそろコレ取っていいか?」
俺は自分の股間からぶら下がるモノに吸い付いている物体を指差した。
実はこれまでに二度も射精してしまっている。一回目は街の入口で執行されていた
ヴァンパイアへの拷問に興奮して。二回目はさっきのウェイトレスについ興奮してだ。
マリナ達が知ったら嫉妬のあまり鬼と化しそうなので絶対に言えない。
「それは認められないです。諦めるです。
気持ちいいのを素直に受け止めて楽しむがいいのです。ふふふ」
「いや、気持ちいいのは確かだが」
だがおかしな話である。魔物娘と交わった男は自慰や人間との交わりでは満足できなくなり
身も心も魔物娘に陶酔するというのが定説だ。なのにこのピンクロは
手コキとフェラの中間のような程よい快感をペニスにもたらしてくれている。
「それは、ここが不思議の国だからなのです」
「この世界でのみ効果があるということか」
「流石に外界でまで作用するものを造りだすのは私でも無理なのです。
お母様なら創造できるかもしれないですが、『作り物のおまんこなど邪道!手淫以下だ!』と
キッパリ切り捨てられるのがはっきりわかるです」
魔王にそんな発言されたら嫌だなぁ。
「ですが、ただの偽おまんこというわけでもないのです。それに溜め込まれた精は
加工されて、この国の、番を持たない魔物にとって貴重な栄養になるのです」
「……なんだ、案外いろいろと考えてるんだな。意外だったよ」
「失敬です。私は仮にもこの国を収める――」

思考がストップした。

壁にかけられた、一枚の絵画――。
それが目に入った瞬間、俺は思わず二度見して、絶句した。
女王の話など聞いてる場合ではない。


素肌の上からマントだけを羽織った、ほとんど裸同然の男が
どっかりと玉座に深く腰を降ろしている。男の顔は影が差していて見えない。
男の足元には、俺の知り合いが昔着ていたのと
よく似た衣服をまとった女がひざまづいて、顔を男の股間にうずめている。
全体的には、その様子を、女の背後、尻のあたりから見上げるような構図になっている。
性的な知識が少しでもある者ならこれが何をしている描写なのか一目瞭然だ。
しかも、神聖さを表現したかったのか、女の衣服それ自体が
光を放っているかのごとく明るい色彩で描かれている――にもかかわらず、
下着をはいていないその股間からは白濁した粘り気のある液体が
ボトボトとこぼれ、愛液とおぼしき半透明の液体と共に床に水溜りを作っている。
敬虔な主神教徒ならこれが目に入った瞬間、驚愕の後に破り捨てて
侮蔑の言葉を吐きつつ燃え盛る火にくべてから聖水で目を洗い清めるだろう。
信心がさほどない者でも、驚いたり嫌悪したり廃棄したりと
だいたい似たようなリアクションをとるはずだ。
しかし、魔物や魔物と親しい人間などによって作られた美術品は
その多くが愛欲や劣情を刺激する類だというのは俺も知っているし、レスカティエの
王城に飾られるようになったいくつもの作品もその例に漏れなかったりする。
だからこの手の絵画には慣れてるので
驚きの原因はそこではない。そもそも魔物たちの夫である俺が
いまさらお掃除フェラの絵を見て動揺するはずもない。つい興奮してピンクロにまた射精したが。


「あれですか?
インキュバスの新鋭画家、レイ・エバンスの傑作『女勇者の忠誠』です。
精液の描写にこだわりのあるレイだけあって、流石なのです。見ているだけで
絵から濃厚な精が臭ってきそうなのです」
うっとりとした口調で女王が説明してきた。だが聞きたいのはそれじゃない。
「いやそうじゃなくて」
「なんです?」
「あれ、俺とマリナだよね?」
「それっぽいですね。本人から言質をとった訳ではないので真偽は不明ですが」
だとしたら設定ミスである。確かにああいうことをしてもらった事は
一度や二度ではない。数人同時にしてもらった事も珍しくない。
だがそれは嫁達が人間をやめた後であって、前ではないのだ。
なので絵の中で俺に奉仕してるのは
勇者だった頃のマリナな訳がないのに、どうしてこうなった……。
「しかもさ…俺に角が生えてるように見えるんだが」
「インキュバスじゃなくて古株の魔物ですからね。角くらいはあっても
不思議じゃないと判断して描いたんですよ、きっと」
その新鋭画家、訴えてもいいんじゃないかな俺。
「なんというか、今の魔物にはない、オスの猛々しさが
これでもかといわんばかりに絵から溢れてるです。こんな存在に犯されたりしたら
勇者や聖女でも肉欲の虜になっても仕方ないと納得してしまうです。
……当の本人はなんだか活力なさげですけど……」
「ほっとけ」
レスカティエに戻ったらこの絵の作者に釘を刺しておかねばならないだろう。
新作で俺と嫁達の絡みを続出されたらたまったものではない。
魔界や親魔物国家なら新婚夫婦の営みとして喜んで受け入れてもらえるだろうが
それ以外の地域では芸術的とか退廃的とか以前の話、つまり論外だ。
ジパングに滞在していた頃、春画というものをいくつか見たことがあるが
あれらと比べ、やはり『魔』に浸かりきった者の生み出す作品は生々しさが段違いすぎる。
まるで今そこで濡れ場が行われているような錯覚をもたらすのだ。
(といっても教団の信徒から見ればどちらも似たり寄ったりだろうが)
「男女ともに顔が見えない構図ではあるが……」
それでも知ってる者が見れば俺とマリナが描かれているのははっきりわかるだろう。
ましてや、俺はともかく、マリナは人間であった時から
既に有名人だ。人気も評判も他の名だたる勇者達の追随を許さない状態だった。
そんな彼女が魔物の男性のペニスをくわえこむシーンを切り取った
絵画など、教団に対する挑戦、主神に対する冒涜に等しい。
『君達の清純アイドルをハメてハメてハメまくってくっさいザーメン漬けにして
チンポ大好きっ娘にしちゃってゴメンネ☆テヘ☆』って言うのと大差ない。
そりゃ誰だって怒る。俺だって怒る。
「次作も見ましたけど、これに勝るとも劣らぬ肉の悦びが表された
背徳的な作品だったのです」

なに?

「次作ってどういうことだ。この他にもまさか…?」
「えっと……『無垢な者達の祈り』という題名の作品だと思ったのです。
玉座に座る男性に背を向けて腰を降ろし、露出した大きな胸にたっぷり精液をかけられた
豊満な女性が神に祈りを捧げる姿が描かれてるのです。
女性が目隠しをしてるのですけれど、それは愛欲に溺れて
何も見えなくなってることの暗喩だそうです。あと、男性に股間をいじられながら
お祈りしてる幼い姉妹が左右にいるのも微笑ましいですね」
既に二作目が完成しているだと……。
「その女たちだが、神官の衣をまとってなかったか?」
ハートの女王が驚いて軽くのけぞった。
「なんでわかったですか!?勘ですか!?
さすが古代の魔物は勘もレベルが違うですね!」
「勘じゃない。確認なんだ。そう、確認なんだよ…………ちくしょう」
などと毒づいてはみたものの、その絵を想像してまた一発出してしまった俺だった。

その後、巨大なパフェをがっつきながら女王が、
「さあ食べるがいいのです。舌鼓を打つがいいのです」
と言って俺の内心のざわめきなどどこ吹く風で
チーズケーキを差し出してきたので、食べる気分ではなかったのだが、これが食べてみると
甘さ控えめでしっとり柔らかで実にうまかったので三個食べた。食ってる場合じゃないんだが。
14/02/15 14:43更新 / だれか
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■作者メッセージ
その頃、レスカティエでは。

ウィルマリナ「……酒場という酒場を一通り探したけど
どこにもいません!」
プリメーラ「わふっ、臭いも急に途切れてて、追跡できないよ……!」
メルセ「下水道や国境にも手を回してるけど音沙汰なしだ」
フランツィスカ「どこに姿をくらましたのでしょうね…」

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