連載小説
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旅38 森の魔物にご用心
「まてぇ〜♪男だけ待てぇ〜♪」

「誰が待つかあああっ!!」
「ユウロは渡さない!!」
「おとといきやがれ!」

現在16時。
私達は魔物が多く棲む森に入って……今全力で走っていた。

「あ〜ん男の子〜!」
「アメリちゃん!」
「ごめんねワーラビットのお姉ちゃん!『メドゥーサグレア』!!」
「あうっ!?」

アメリちゃんの魔法を受けた私達を……正確にはユウロを追っていたワーラビットは痺れて倒れた。

「はぁ……はぁ……なんだよこれいったい……」
「む、無法地帯にも……はぁ……程がある……」
「俺……はぁ……貞操護れる自信が無い……」
「あきらめたら……はぁ……ダメだよユウロお兄ちゃん……」

ナーラさんやフランちゃんと別れた後、お昼ご飯を食べてから森に入ったが……それからずっとこんな感じに何かしらの魔物に追われていた。
森に入って少ししたらハニービーの群れに襲われたがスズの糸に引っ掛けて何とかやり過ごし、その後しばらくしたらグリズリーが草むらから飛び出してきたが私のもこもこホールドで眠らせ、木の上から話しかけてくるドリアードは無視した。
そして少し開けた場所にいたワーラビットに追われ現在に至ると言う事である。

「くっそ…今どこら辺だ?」
「さあ…闇雲に逃げてたからもうさっぱりだよ……」
「地図はあっても意味無いってのはこの事だったんだね……」
「そうだね……けっきょく大きな道からもはずれちゃったもんね」

町で地図を購入した際、そのお店の人に「少しだけ広い道をずっと通って行けば森を抜けられるだろうけどおそらく不可能だと思うよ」と言われ、その時何の事かわからなかったが……どうやら多くの魔物があの道の傍に待機しているらしく入ってすぐに襲われたので道の無い森の中に逃げ込む事になってしまった。
更には「まあその地図も気休めにしかならないと思うよ。なんせ同じような景色ばかりなんだからね」と言われた通り、地図を見ても現在地がどこかすらわからない。

そう……今現在私達は完全に迷子になっているのである。

「まあ…全く日光が当たらない程生い茂っている森ってわけじゃないから大体の進行方向がわかるのが救いだな」
「だね……あとは魔物対策か……私達が居るのにユウロがフリーだってわかるものなんだね」
「ユウロお兄ちゃんにアメリたちの魔力が付いてるって言っても気休めていどだもん。それにユウロお兄ちゃんの精のにおいがアメリたちからしないから……」
「バレるって事か……」

迷子なのはまあ問題無いとしても、やっぱり魔物の追跡や罠をどう避けるかが問題だ。
この森の至る所にいるから、完璧に避けて通る事は不可能だろう。
唯一の救いはユウロ自身が誘惑や魅了に屈しないので、自ら私達と離れる心配が無い事か……

「……ねえみんな……もう動ける?」
「……まさか近くに何か居るのアメリちゃん?」
「うん……この森いろんな魔力がただよってるから魔物の場所はわからないけど……ほらあれ」
「あれ…………あーあれかぁ……」

こんな感じで森の中を全力で彷徨ってるわけで、体力的にちょっと辛いけど……そうゆっくりしていられはしないようだ。
今は周りに魔物がいなさそうだったから休んでいたのだが……どうやら近くでこっそり隠れていたようだ。

「アラクネが近くにいるのかな……」
「たぶん……さっきまでなかったし」
「仕方ない……本人には悪いけど破って行くか……アタイもアラクネの一種だからどうすればいいかぐらいわかるっつーの」

いつの間にか近くの木々の間に白い糸が張り巡らされていた。
ここはジパングでは無いのでおそらくアラクネがいるのだろう……
足止めのつもりか罠のつもりかわからないが、みすみす引っ掛かるわけがない。

「ていっ!」
「よし行くか」

という事で少し悪い気もするが、張り巡らされていた糸を切り裂き正面突破させてもらう。
スズの爪で引っ掛かる事も無く糸は無残にも散っていく……

「ひど〜い!!折角張ったのに〜!!」

と、木の上から思った通りアラクネが姿を現した。
予想外だったのは、そのアラクネが思ったより若かった事だ。たぶん私より3つくらいは下なんじゃないかな?

「悪いけど、だからってわざわざ引っ掛かるわけないよ」
「あんた達のじゃないならいーじゃんか〜!!」
「本人が拒否してるのでお断りさせていただきます」
「ばーかばーか!」

罵声を浴びせられつつも私達はその場から急ぎ足で立ち去った。

森にいる間ずっとこの調子かなぁ……疲れるなぁ……




…………



………



……








「ふぅ……やっとこさ一息つける……」
「本当に大丈夫なんだよねアメリちゃん?」
「うん!テント立ててるとこを見られてないなら大丈夫だよ!!魔物にも人よけのこうかあるからね!」
「そりゃあよかった……」

現在18時。
夜の森は危ないどころでは無いし、走ったり集中しながら歩いたりして疲れたので、日が落ちきる前に『テント』で休む事にした私達。
少しだけ広い所で周りに誰も居ないか警戒しながら『テント』を立て中に入ったので、アメリちゃんの説明通りならば明日外に出るまでは気を休める事が出来る。

「しっかしまあ想像以上に危なっかしいなこの森……魔界より酷いってのがまた…」
「ホントだよね……魔物除けの何かがあれば良かったけど……」
「まあそう親魔物領には置いてないだろ。むしろあの町に住んでる魔物の一部はこの森出身らしいし、同郷の奴の為にもそんなのは売らないだろ」
「それもそうだよね……」

今まで大人しい魔物にばかり会ってきたせいで気付いていなかったが、魔物は男に対してはその手中に収める為にもある程度本気で襲いかかってくる。
私自身魔物ではあるがその気持ちは全然理解できない……まだ人間らしい考え方でも残っているのだろうか。

「はぁ……明日もこんななのか……」
「仕方ねえだろ……この森自体かなり広くて一日じゃ抜けられなそうだったしな。地道に行くしかねえよ」
「だよな……」




ぐうぅぅぅぅ……




「……でもまあクヨクヨ言う前に夕飯だな」
「まあ今日の午後は動きまわったし、腹が減っても仕方ないよね」
「だね。じゃあ今から夜ご飯の準備しよう」
「頼むわ。俺は明日も無事生き残る為にちょっと荷物の整理してるから」

まあ束の間ではあるが安全になったわけだし、アメリちゃんのお腹がいつもよりちょっとだけ早く空腹を訴えてきたので夜ご飯の準備に取り掛かる事にした。


「……おなか空いたー……」


ボソッと言わなくても最近はハッキリ言ってたのに……やっぱり自分で言う前にお腹の音が鳴っちゃうと恥ずかしいんだろうな……



……………………



『ごちそうさま!!』
「ふ〜、アメリおなかいっぱい!」

いつもより少しだけ早めの夜ご飯を食べ終わり、皆でゆっくりとしていた時の事だ。

「あ、そうだアメリちゃん」
「ん?何ユウロお兄ちゃん?」
「いや、さっき荷物を整理してた時に見つけて思い出したんだけどさ……」

突然ユウロが何かを思い出した様で、アメリちゃんを呼びつつズボンのポケットを探り始めた。

「何かアメリちゃんに渡す物でも?」
「ああ……ラインに行った時の事だけどさ…俺だけ喫茶店に残ってたじゃんか」
「あーそういえばそうだったね……それがどうしたの?」
「いや、その時に空理さんに渡されたものがあったんだけど……」

そう言いながらユウロがポケットから取り出した物は……

「これなんだけどさ…」

無色透明の小さな結晶が付いたネックレスだった。

「ん?何これ?」
「さあ…なんでも『魔術を使う人に持たせてあげればいいことあるかもよ?』って言われて渡されただけだから……多分魔力に

反応して何か起こるか、とりあえず魔術を媒体にして何か起きる結晶だと思う」
「ふ〜ん……」

どうやらラインで私達と別行動している時に空理さんに渡されていたものらしい。
魔術を使う人に渡すといい事があるかもか……何かは良くわからないが、綺麗なネックレスである事には変わりは無い。

「ま、そういう事だからアメリちゃんにあげるよ。フランちゃん帰ったし今俺達で魔術使えるのはアメリちゃんだけだしね」
「わかった。ありがとうユウロお兄ちゃん!あとでつけてみよっと!」

という事でアメリちゃんはユウロからそのネックレスを貰って、首に掛けずにそのまま机の上に置いた。
何故首に掛けず机の上に置いたかというと、今からアメリちゃんとスズはお風呂に入るからである。

「それじゃあお風呂入ろう!」
「うん!行こうサマリお姉ちゃん!!」
「あ、ゴメン。今日は私ユウロと一緒に入るから」
「えっ?」
「へっ?」
「はっ?」

でも私は今日はアメリちゃん達と一緒に入らずにユウロと一緒に入る事にした。
もちろん今の今まで誰にも言ってない…というか、思い付いたのが夜ご飯を食べている時だったから…私以外全員がかなり驚いていた。

「え……まさかサマリ……」
「とうとうユウロお兄ちゃんと……きゃっ!」
「そ、そうか……なんかやたらとユウロの事を気にかけてる事が多いなと思ってたけど……やっぱそういう事だったのか……」
「……あのさあ……いやまあ勘違いするなってほうが無理な程ややこしい言い方をしたのは謝るけど、別にそういうつもりじゃないからね?」

私の言い方が拙かったのは認めるが……だからと言って「うわぁ…」って顔しながら後ずさったり顔を赤らめて興奮気味になったり驚愕の顔をして口を開きっぱなしにしたりしてほしくない。
たしかにまあユウロの事が全く気にならないわけではないけど、訳ありでわざわざ魅了に掛からないようにしてる相手に性的に襲ったりとかすると思ってほしくない。
というか魔物陣、「やっぱ」とか「とうとう」とかってなんだ。私はユウロをそういった風に見た事は無いはずだ。

「ほら、ここで私達がお風呂に行ってる間に何かの間違いで魔物がテントに気付いてユウロを攫ってくかもしれないじゃん?逆にユウロがお風呂に入っている間にこっそり入って防音なお風呂に現れたら助けにも行けないじゃん?」
「ん〜……まあたしかにアメリのテント、すごく魔力が高い魔物なら気付いちゃう可能性もあるよ。それにテント出してるとこ見られてたら人よけのこうかはでないしね」
「でしょ?だからユウロを一人にしないように見張っておこうと思ってね。私なら大事な場所はこの毛皮で隠れてるし、ユウロのほうもタオルか何かで隠せば問題無いでしょ」
「なるほどな…サマリの言う事も一理あるな……」
「そ、そうか?サマリお前それで襲ってきたりするなよ?」
「しないしない。私魔物になってからそんな気分になった事無いもん」
「な、ならまあ……」

私がきちんと説明したら一応皆納得してくれたようだ。
ユウロ一人やたらと渋っているが…意識しなければどうって事無いのに……

「という事でまずは二人で入ってきなよ。私はその間にユウロと夜ご飯の片づけしてるからさ」
「わかった。じゃあいっしょに入ろうよスズお姉ちゃん!」
「そうだな。じゃあ先にお風呂に行くか!」

という事でお風呂に行く二人を見送って、私はユウロと二人で後片づけをする事にした。



……………………



「ふっふふんふ〜ん♪」
「……」

夜ご飯の片づけを始めてから数十分。
皿洗いを全部済ませ、テーブルの上を拭いて……

「はい、終わりっと」
「……」

スズとアメリちゃんがお風呂から出てくる前に、後片づけが全部終わった。

「ねえユウロ……さっきから一言も喋ってないような気がするんだけど……」
「そりゃお前……ねえ……」

しかし後片付けの間、ユウロは一言も言葉を発していなかった気がする。
ちょっと寂しさを覚えたので、何故か聞いてみたが……

「何?もしかして私とお風呂入る事に緊張してるの?」
「そりゃあまあ……異性と風呂なんかそう入った事ねえし……」
「まあ仕方ないと言えば仕方ないかもしれないけどさ……そんなに気にする事無いのに……前も一緒に温泉入ったでしょ?」
「あの時はまだ見ないように出来たけど…今回は構造上無理だろ……」

やっぱり私とお風呂に入る事に抵抗があるらしい。
そんなに意識しなければ問題無いと思うけどなぁ……

「というかさ、小さい頃は流石にお母さんと一緒に入ったりしたでしょ?その時は別に気にしてなかったんだから問題ないでしょ?」
「いやそんな小さいときに意識して見てるやつはいないだろ……それに俺は母さんと風呂入った記憶なんてねえよ……」
「ふ〜ん……そんなに小さい頃から一人でお風呂入れたんだ……それともお父さんと入ってたの?」
「……さあな……どうでもいいだろそんな事……」

なんだか喋っているうちに何かが気に食わなかったのかかなり不機嫌になってしまったユウロ。
私何かマズイ事言ったかな?


「おーいサマリ、ユウロ、お風呂出たぞー」
「つかれもふきとぶよー!!」
「ん。じゃあ入りに行こうかユウロ!」
「……マジでか……とうとう来たか……」
「もう…ほら行くよ!」

と、ちょうど気まずくなったところで二人が出てきて気まずい雰囲気が吹き飛んでくれた。
なので早速私達は一緒にお風呂に入る……ユウロはまだ渋っているが入るったら入る。
という事で私はユウロを脱衣所まで引っ張って行った……


「……なあアメリ、あのサマリのはしゃぎ様ってやっぱり……」
「どうなんだろうね?サマリお姉ちゃんじしんはよくわからないけど、ユウロお兄ちゃんとだったらおにあいだよね!」
「だな。アタイ本当に早まらなくて良かったよ……アタイもユウロに負けないいい男の人見つけられたらいいな……って言ってもまずは記憶からだけどな」
「だね。がんばろうねスズお姉ちゃん!」
「おう!」



………



……







「ほら、私もう脱いだけど問題無いでしょ?ちゃんと見えてないしさ」
「ま、まあ……つーかそんな堂々とされても俺の方が恥ずかしいんだけど……せめて前みたいにタオルで隠せよ……」
「いやあの時と違って今は毛の量も多いしいいかなと…まあ仕方ないから下は隠してあげる」
「仕方ないってか普通に隠せよ…」

現在21時。
今から私はユウロと一緒にお風呂に入るわけだが……

「それとも何?この胸の毛の中見たいの?変な事しないなら見せてあげようか?」
「んなわけねーだろ!!つーか変な事してんのはそっちだからな!!」

ここまで来てまだ渋るユウロであった。
見知らぬ魔物に襲われるのと比べたらよっぽどましだと思うのだが……いったい何が恥ずかしいのか……

「はいはい、早く脱いで早く入るわよ。そうすればすぐ終わるんだからさ」
「わかったよ……」

そして、とうとう観念したようで着ていた服を脱ぎ始めたユウロ。

「……なんだよ?そんなにじろじろと見るなよ……」
「いや……案外がっしりした身体つきだなと思って…」

ユウロの生身の上半身を見たのは初めてでは無いが……前ジパングで温泉に入った時はじっくり見ていたわけではない為気付かなかったが元勇者の男の子なだけあって筋肉が付いてる…それでいてムキムキじゃなく引き締まった身体をしている……

「おし……これでいいか?」
「そだね。じゃあ入ろうか」

ユウロの上半身に見惚れていたら、いつの間にか下半身も全部脱ぎ去って腰にタオルを巻いていたユウロ。
準備が出来たので早速入る事にした。





シャアアアアア……



「身体洗ってあげようか?」
「はあっ!?何言ってんだサマリ!!やっぱりお前俺を……」
「人の善意を変な意味に取らないでよ……」

ユウロとお風呂だなんて滅多にないし、いい機会だから身体を洗ってあげようと思ったのだが、変な意味に取られてしまった。

「というかそんな事思いつくって事はそうならないか考えてるってことじゃないの?」
「最悪の場合を常に想定してるだけだ!」
「なに?そんなに私の事信用できないの?」
「うぐっ……そういう事じゃないけどさぁ……」

構えるのもわからなくも無いけど…少しは信用してもらいたいものだ。
私は無理矢理襲うなんて事はしない。たとえ魔物の本能が出てきてもそれだけは譲る気は無い。

「じゃあいいよね?」
「……わかったよ。でも背中だけな!!前は自分でやるからな!!」
「おっけー。じゃあ早速洗うからそこに背を向けて座ってね」

とりあえずユウロが折れてくれたので、早速ユウロの背中を手に持っていたスポンジで洗う事にした。



「どう?ちゃんと洗えてる?」
「多分…なんか気持ち良いわ……」
「まあたまにアメリちゃんの背中を洗ってたりしてるからね。ちょっとは背中洗うの上手だって自分では思ってるよ」
「なるほどな……」

背中を傷付けないように柔らかく、それでいてきちんと汚れや垢が落ちる絶妙な強さでユウロの背中をスポンジで洗う私。
実際に触れてみて、見た目通りにがっしりしている事がわかる。
それに意外と広い……洗いがいがあると言うものだ。

「……あれ?ねえユウロ、背中に傷跡みたいなのが……」
「お、よくわかったな。もうよく見てもわかり辛い程ほとんど痕なんか残って無いのに…」

そして洗っている時に気付いたが、本当にわかり辛い程度に傷跡が脇腹辺りに付いていた。

「どうしたのこれ?」
「えーっと……勇者やってた時っつーか、修行中にちょっとな」
「あーなるほどね。不注意か不慮の事故で脇腹をバッサリ斬られたわけね」
「そういう事。前から剣道やってたけど、真剣使ったのは教団にお世話になってからだからな…不慣れだったもんで苦労したもんだ……」
「へぇ……」

どうやら勇者時代…というか勇者見習いみたいな時代に出来た傷らしい。

「痛くないの?」
「まあすぐに治療してもらったから痛くは無い。この通り微妙に痕は残ってるけど、治癒魔法なんてものもあるから結構深く切れたはずなのにこれだけしか痕も残って無いしな」
「ふーん……」

そして何気に過去話をしてくれたのは初めてな気がする……と言ってもそれほど昔ではなさそうだが。

「あ、背中洗い終わったけど正面は?」
「あ、もうちょっと待って。あと大事な所だけだから」
「ん。そうだ、何なら私が洗って……冗談だからそんな怖い顔して振り向かないでよ」
「……ったく……」

と、そうこうしているうちに背中を洗い終わってしまったので、正面も終わってたらお湯を掛けて泡を洗い流そうと思ったのだが…どうやらおちんちん周辺がまだらしい。
軽く冗談で洗ってあげようかと言おうとしたその瞬間に怖い顔しながら振り向いたユウロ……
これじゃあ性的な冗談もそうそう言えない……というか、話したがらない過去に何か性的な物でもあったのだろうか?

「まあユウロが全面を洗ってるうちに私も洗うか……どうせユウロは洗ってくれないだろうしね」
「流石に男が女の背中洗うとか無理だから。恥ずかしくなって死にたくなる」
「死んじゃうのは嫌だから仕方ない…自分で洗うか……」

もちろん死ぬと言うのは冗談だろうが、顔を真っ赤にしてこっちを見ずに言うユウロはたしかに恥ずかしそうなので仕方なく自分で洗う。
ちょっと洗ってほしかった気はする……一緒に旅する仲間だし、ユウロにならおっぱいを触られてもいいぐらいだ……



「ふぅ…それじゃあ浴槽に入ろうか……」
「だな……」

そして事件は起こった。
それは、身体に付いた泡を互いに洗い流し浴槽に入ろうとした時である。

「う〜ん……ルーンの効果のおかげでいつ入ってもいい湯加減なんだよね〜」

先に私がお湯に浸かり、ユウロの方を見ていたのだが……

「それはまあいつも最後に入ってる俺がよく知ってる……よいしょっと……」

ユウロも私の後に続いて、浴槽に入ってきたのだが……

「あ……」
「ん?……あっ……」


浴槽に入る時に、タオルをお湯の中に入れないように外してから座ろうとしたユウロだったのだが……



ユウロのおちんちんが、その時丸出しになったので私にはっきりと見えてしまったのだった。



「……」
「へぇ……おちんちんってそんな形してるんだ……リンゴに聞いたのより小さい気がする」
「うるせぇ……感想言うな……マジで恥ずかしくて死にたくなる……」

前にリンゴに聞いた話ではもっと大きい感じのを想像してたのだが、案外可愛らしいサイズだった。
それとも興奮してなくて全く勃起してない状態だったからだろうか?
男の子の身体についてはサッパリだからそこのところはよくわからないや……

「ツバキより小さくて悪かったな……」
「いやそこまで言ってないっていうかツバキはもっと大きいんだね」
「……」

あ、落ち込んでしまった。
どうやら大きさの話はあまり触れないほうがよさそうだ。

「まあユウロの見ちゃったし、私のも見る?」
「……いいです。遠慮しておきます。そのままサマリに襲われる可能性も無いとは言い切れないのでお断りさせていただきます」
「だから私は無理矢理襲わないって。多分……」
「多分って……もうこの話はやめようぜ……付き合ってない男女がする話じゃねえよ」
「だね……魔物的にはいい気もするけどやめようか……」


そしてそれからは特に何も起こる事無く二人一緒にお風呂から出て、そのままアメリちゃんが眠たそうにしていたので寝る事にした。

明日も日中大変なんだろうなぁ……



====================



「痛いっ!ちょっと!蔓を引き千切ろうとしないでよ!!」
「じゃあ大人しくこの蔓引っ込めろ」

現在10時10分。
『テント』から出発して10分もしないうちに『アルラウネ』という花の魔物に襲われた。
いきなり森の奥から蔓が伸びてきてユウロの身体に巻き付き始め、完全に巻き付く前にスズが無理矢理外し危機を回避したところだ。

「くそ…出発早々これかよ……」
「とにかく進もう!立ち止まってたらまた何か来るかも……」



ガササッ!!



「うわっ!?」
「な……!?」

なんとかアルラウネを撃退し、とにかく早く森を脱出出来るように進もうとした瞬間、近くの茂みから新たな魔物が現れた。
その魔物は腕に鋭い刃物を持っていて、頭に触覚が付いてるカマキリみたいな魔物だった。


「……」
「……」

じーっと無表情でこちらを見てきて……


「……」
「……あれ?」

そのまま特に何も言う事無く過ぎ去っていった。

「い、今の何だったんだろ……」
「あーあれはマンティスさんだよ。魔物の中でも人間にきょうみがないめずらしいしゅぞくだよ」
「へぇ……それで子孫を残す事出来るの?」
「発情期だと子を成すために感情一切抜きで男を襲って、その交わりの中で愛情を知る種族だって聞いた事はあるけど……」
「うん、そうだよ。今のマンティスさんははつじょうしてなかったからおそってこなかったんだよ」
「へぇ〜……そんな魔物も居るんだね……」

ずっと無表情の顔が腕の大きな鎌と合わさってかなり怖かったけど、とにかく『マンティス』という魔物は発情期でなければ問題は無いらしい。
ホッとしながら先に進もうとした、その時であった。



ヒュッ……

「……ん?なんか飛んできた……?」
「これって……弓矢?」

突然横から弓矢が飛んできた。
当たりこそしてはいないが、結構近くに飛んできてそのまま私達を横切り、近くにあった木に突き刺さっていた。
危ないなぁと思い、いったい誰が飛ばしたのか確認する為に飛んできたほうを見てみると……

「立ち去れ人間と魔物共!」
「ここは我ら誇り高きエルフの集落の近くだ。去らなければこの矢で身体を射抜くぞ」

なんか耳が尖って身体中に葉っぱで出来たような服を着た女性……もとい『エルフ』が二人弓矢を構えながら立っていた。

「あ、魔物になってないエルフさんだ」
「あーそりゃあまた魔物とは別の意味で面倒なのに会っちまったな……」
「聞こえてるぞ!!失礼な奴らめ!!」
「ふん…これだから欲深い種族は……」

どうやら魔物では無いエルフらしい……そのエルフが近くに自分達の集落があるから立ちされって言ってきた……
でも……

「あなた達がそっちにいるって事は、エルフの集落はそっちにあるんでしょ?」
「そうだ。なんだ、そんな簡単な事もわからないのか?」
「いや……そもそも私達が進んでいた方角は90度違うから。エルフの集落に行くわけないじゃん。そんな事もわからないの?」
「なっ!?」

そもそも私達はシャインローズを目指し森を抜けようとしているのであって、エルフの集落に行く気は全く無いのだ。
なのに絡んでくるとは……ユウロの言う通り、かなり面倒な相手だ……

「貴様……誇り高き私達エルフをバカにするか……」
「許さんぞ!!」
「私別にエルフ全体をバカにしてるわけじゃなくてあなた達二人をバカにしてるだけだけど?」
「「……」」

しかも真実を伝えたら余計怒ったのか顔を真っ赤にして黙ってしまった……

「つーか近くを通ったから集落に向かっているって考えが自意識過剰だよな」
「「……」」
「魔物になってないエルフさんって魔物になったエルフさんよりあたまかたいってお姉ちゃんに聞いたことあったけど本当だね……」
「「……」」
「つーか何弓矢撃ってきてるの?アタイ達何もしてないじゃんか。人や魔物を問答無用で殺すとか誇りもクソも無いよね」
「「……」」
「何?言い返せないからって黙ってるの?じゃあそのままそこで突っ立っていて。私達勝手にどこか行くから」
「「……」」

私以外の皆もいきなりわけのわからない理由で弓矢で狙われたからかちょっと怒っていたようで、全員でエルフを言葉攻めした結果……


「死ね貴様ら!!」
「生きたままこの森を抜けられると思うなよ……」
「うわあっ!?逆切れかよ!!」


顔を真っ赤にし、少し涙目になりながら弓矢を私達に向けて乱れ撃ちしてきた。

「わわっ!?」
「走るぞ!!」
「逃げろー!!」

その場にいたら確実に死ぬので、今まで出した事無いんじゃないかってほど速く走って逃げる事にした。

「逃さん!!」
「我等を侮辱した罪、その命をもって償え…」
「しつこいぞテメエら!!」
「もう集落も何も関係ないじゃん!!」

しかし本気で私達の命を狙っているのか、一向にどこかに行ってくれないエルフ達……
いい加減全速力は疲れるし…ここに住むエルフ達の方が地の利は明らかにあるのでいずれ追い付かれてしまう。
殺されはしなくてもすごく嫌な事はされそうだからなんとかして振り払いたいが……

「逃さんと言っているだrきゃっ!」
「うわっ!?な、何だ?」
「……ん?」
「あれ?あいつらどこ行ったんだ?」

なんて思っていたら、突然エルフ達の姿がパッと消えてしまった。
声は聞こえるので居なくなったわけではないうえに、どこか驚いているようである。
いったいどうしてしまったのだろう、そしてどこにいるのだろうと辺りを見渡してみたら……

「きゃはははっ!!落とし穴に引っ掛かってやんの!」
「エルフさんが落ちたー!!落とし穴だいせーこー!!」

「くそっ悪戯フェアリー共め!!」
「くっ……落とし穴の底に何かネバついているものがあるせいで身動きが思うように取れない……」

羽が生えた手のひらサイズの女の子……『フェアリー』が2人、私達のすぐ近く…より正確にはさっきまでエルフが二人いた場所の上空を飛んでいた。
一人は蝶の様な羽を生やした緑色の髪と緑色の服を着た妖精で、もう一人はちょっと細めの羽に空色の髪と青色の服を着た妖精だ。

「さああんた達!今のうちに逃げるよ!」
「早く早く〜!!」
「え、うん……」

どうやら私達の事を助けてくれるらしいが……付いて行って大丈夫だろうか?
今は他に当てが無いので走って付いて行くが……気がついたら妖精の国だなんて事が起きなければいいけど……

「大丈夫だよみんな」

と、ここでアメリちゃんが走りながら……

「このフェアリーのお姉ちゃんとピクシーのお姉ちゃんはだんなさんいると思う」
「うんそうだよ!」
「というかこのサキュバスの女の子以外誰も気付かなかったの?」

そう言ってきた。なら安心だ……
ってちょっと待て、今アメリちゃんフェアリーとピクシーって言ったよね?

「ピクシー?」
「なんだよ!あたしはピクシーだよ!!間違えるなよ!!ちゃんと角もあるだろ!?」
「あ、ゴメン……」

どうやら水色の髪の子はピクシーという魔物だったらしい。
本人が言う通り、たしかに小さな角が額から生えている。

「いやまあたしかに似てるし、最初はこの子もあたしを同族だって思って仲良くなったわけだけど、旦那も居る今になって間違えられるのは嫌というか……というかフェアリーとピクシーって結構違うんだけど」
「へぇ…私魔物の事詳しくないから全然わからないや…角生えてる事以外で何か違うの?」
「そりゃあ……」

フェアリーとピクシーの違いって何だろうかと聞いてみたら…

「ほらよっと」
「うええっ!?」
「うおっ!?大きくなった!!」

手のひらサイズだったピクシーが、一瞬のうちにアメリちゃんサイズになっていた。

「自分のサイズを変えられるって事?」
「へへーん!そういう事だ!まあ自分だけじゃなくて他の人も変えられるけどね。旦那とこの子以外する気ないけど」
「へぇ〜……他にそういった特徴を持ってる魔物っているの?」
「さあ?あたしが知っている中では少なくとも自分の魔力だけで自由に身体の大きさを変えられるのはあたし達ピクシーだけた」

それは凄いが……今アメリちゃんとピクシーさんを見比べた時に気付いた事がある。


「む〜〜〜〜!!」
「ん?どうしたんだ?」

いつの間にかアメリちゃんがすごく不機嫌になっていた。

「今ピクシーのお姉ちゃんアメリのことサキュバスって言った!!」
「お、おう……それがどうかしたの?」
「アメリはリリム!!まちがえないで!!」
「あ、ゴメン……あたしとした事がまさか他人の種族を間違えるだなんて……」
「わたしも間違えてた……言われてみたらリリムかも……」

たしかにさっきこのピクシーさんはアメリちゃんの事を「サキュバスの女の子」と言った。
アメリちゃんも自分の種族をサキュバスやアークインプやアリスと言われる度に怒るのでかなり気にしているのだろう。

「大体アメリだってお母さんと同じ色白のはだに真っ白なかみのけ、それに赤い目をしてるし、魔力も多いんだよ!アークインプさんならまだわかるけど他とまちがえてほしくない!」
「ご、ゴメンね……あたしも間違えられるとムカっとくるからその気持ちはわかるよ……」
「むぅ……まあ仕方ないけど……もうまちがえないでよね!!」
「お、おう!」
「うん♪」

種族としてのプライドでもあるのかな……アメリちゃんの場合は何と言っても魔王様の娘だしね。


「あ、そうだ。なあ、この森を安全に抜けられるルートって知らないか?」
「無いよそんなの」
「ですよね〜……」

とまあここでずっとジッとしてても危ないだけなので、フェアリーとピクシーの二人に安全な場所は無いか聞いてみたけど……やっぱりないらしい。

「でもこの先に進むと川があるけど、そこはそんなに魔物も居ないし、見晴らしもいいから森の中よりはいいかも」
「なるほど……ありがとう!じゃあそっちに行く事にするよ」
「頑張ってね〜!!」

ただこの先にある川沿いならばある程度見晴らしもいいし魔物も少ないらしいので、そこを目指す事にした。




………



……







「たしかに見晴らしは良いな」
「魔物もそんなにいなさそうだし、たしかにさっきまでよりは安全かも」
「だね…明らかにマンドラゴラさんがいるけど、ぬかなければもんだいないもんね」

現在11時。
私達はピクシーさんに言われた通りに、少しだけ森よりは視界が広い川沿いを進んでいた。

「まあそれでも多いもんは多いけどな」
「だな……さっきもホーネットが襲ってきたし……まあ視界が広くてアタイの糸で絡み取りやすかったから大事には至ってないけどね」
「だねー……森は魔物も多いから仕方ないよ」

たしかに安全とまでは言えないが、相手の位置がわかりやすいので対処はし易い。
その分こっちもわかりやすい位置にいるので見つかる可能性はあるけど…まあなんとかなるかな。

「そういえば……川に魔物っていないの?」

そういえば川沿いに来てから森ばかり警戒して川は無警戒だったのだが、今のところ何も現れていない。
なのでアメリちゃんに、川に棲む魔物がいないのか聞いてみたところ……

「うーん……ぱっと思いつくのだけ言うと……河童さんとサハギンさんかな」

どうやら河童とサハギンぐらいしか居ないらしい。

「なるほど…河童はジパングじゃないからいないとして、いるとしたら……」









っばあああああああああああああああああああああああああああああああああん!!









「サハg……ってなに!?」
「うわあっ!?な、なんだ!?」

「あーこれは……」
「なんか久々だね……」

だからいるとしたらサハギンか…って言おうとしたら、いきなり川の私達からそう離れていない場所に大きな水柱が立った。目測で約40メートル。
そしてその水柱から青い何かが出てきて……って前にもこんな事があったし、まさか……


すたっ!

「…………」じーっ
「あの……もしかして以前お会いした事って……」
「………?」
「ほら……テトラスト近くとヘプタリア近くで……」
「………!」コクン

やはりそのまさか……以前に何度か会った事あるサハギンさんだった。

「へっ?何?知り合い?」
「うん。前に何度か会ったことあってね。私がまだ人間だった時に命を救われた事もあるしね」
「へぇ……そうなの?」
「…………」コクン

そういえばスズはまだいなかったなぁと思いながらも紹介してて、気付いた事がある。

名前、知らないや……

「そういえば…あなたの名前は?こう何度も会ってるし、また会う気もするから教えてほしいんだけど……」
「…………レ二」
「わあっ!?喋った!?」
「…………」じーっ

どうやらこのサハギンさん……レ二という名前らしい。
そしてスズが、レ二さんが喋った事に驚いていた。
まあ私も最初は全く喋らないと思っていたし、本人には悪いけど驚いても仕方ないと思う。

「ところでレ二さん……」
「………?」
「なんでこんな所にいるのですか?」
「…記録…」
「……更新って事ですか?」
「…………」ドヤァ
「……」

相変わらずずっと無表情なのに何故か感情が伝わってくる……ホント何故だろうか?
でもたしかに前は約30メートルだったから…およそ10メートルは更新した事になるな……



こんな感じに、魔物が多い森だって事を忘れてレ二さんといたから、私達は完全に油断していた。



だから……



ガササッ!!


「ん?何のおtうおわっ!?」
「え……ユウ…ロ?ユウロ!?」

突然現れた、茶色の長髪に褐色の肌に不思議な模様が刻まれた女性…生えている翼や尻尾からすると『アマゾネス』の女性が、あっという間にユウロを抱えて連れ去って行ったのだ。

「ちょっ!?待て!!」
「ゴメンレニさん!私達急いであのアマゾネスを追い掛けるのでこれで!!」
「またあったらよろしくねレニお姉ちゃん!!」
「…………」シュッ!


突然の事で一瞬動きが止まってしまったが、私達はレニさんと別れユウロを連れ去ったアマゾネスを急いで追い掛ける事にした。


「テメェ……俺をどうするつも……え?」
「……」

ユウロを連れ去ったアマゾネスを追い掛けていたのだが…捕まっているユウロの様子が変だ。
スズに捕まった時も必死に暴れて抵抗してたのに、今は何かに驚いた顔をして一切抵抗していない。

「待ちやがれー!!」
「こらー!ユウロを連れ去るなー!!」
「まってアマゾネスのお姉ちゃん!!」

「…………」

私達が叫びながら追い掛けていたからか、ユウロを連れ去ったアマゾネスは走りながら振り向いた。

「…………え?」
「うそ…………」
「……どういう……事?」

その瞬間、ユウロが驚いていた理由がわかった……

「……」
「あ……待て!!」

それと同時に、私達も全員驚きのあまりつい足を止めてしまった……
そのせいでそのアマゾネスは木々を跳び移りながら、あっという間に見えなくなってしまった。



「くそっ!急いで追い掛けないと!!」
「でも……あのアマゾネスのお姉ちゃん……いったい何だろうねサマリお姉ちゃん……」
「私が聞きたいよ……」



ユウロを連れ去ったアマゾネスの少女は……



「なんで……」



私と同じ翠色の瞳を持っていて……



「私と同じ顔をしてたんだろ……」



どころか、まるで鏡でも見ているかのように、私とそっくりな顔をしていた……
12/10/21 22:49更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
結論…無表情の奴は怖くないw

そんな今回は魔物の棲む森を旅するという、これといったイベントがなさそうで山ほどいろんな事があった回でした。
レニはどうしようか迷いましたが、悩んだ挙句出しました……って前出たの旅16だったから忘れてしまった人もいるかも……

そして次回は、今回のラストで出てきたサマリそっくりなアマゾネスの少女とのお話。
連れ去られたユウロの運命は…そしてサマリと顔がそっくりなのはただの偶然なのか……の予定。

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