読切小説
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セカンドコンタクト


長い人生、時にはあらゆる業界を騒がせるような事件に出くわすこともあるが、表沙汰にならないこともまた多い。



というのもあまりにあまりな内容だった場合はパニックになる可能性があるからだ。




例えば24時間後に日本は核攻撃を受ける、という情報が流布されたとしよう。




仮にこの情報が誤りであったとしても大多数の人が信じれば、それはもう真実と遜色はなくなる。


こうなればもう国中パニックである。


あらゆる空港が人で埋まるだろうし、自棄を起こした国民が暴徒となって暴れるというのも十分考えられる。


故に政府は、このような情報は、ギリギリまで伏せて、事態収束につとめるだろう。


さて、そんな事件に偶然出くわしてしまった場合、どうなるのだろうか。


どうということはない、もしそのまま解決したならば、捨ておかれるのだ。





広島県広島市、私はとある用事があり市内の田舎に来ていた。


季節は夏、蝉の声が騒がしいような季節であった。


「しかし、暑いな・・・」


山道を歩きながら私は額に浮いた汗を拭った。

山道はずんずん上に続いており、どこまで道が続いているのかわからなかった。




そんな人里離れた山道ではあるが、道沿いに小さなバス停があった。

質素ながらベンチと屋根もある、ありがたい少し休憩させてもらおう。


私はバス停のベンチに腰掛けると、ゆっくりと息を吐いた。

バス停の裏側には渓谷があり、ゆるやかに川が流れていた。

ぼんやり渓谷を眺めていて、私は胸元で何かが震えるのを感じた。


「勾玉が、反応している?」

とある大切な人物から贈られた紅の勾玉が、私の胸元で震えていたのだ。


これはこの世界のものではなく、別の世界で作られたものだが、このように反応することなど今まで一度もなかった。


じっと、目を凝らしていると、渓谷の向こう岸に一人の少女が立っていた。

手にしているのは刀か、何やら怪しげな動作で彼女は手に持っていた刀を抜いた。


刀はよく見えないが、諸刃の直刀のようで、シンプルな造りだった。


彼女はそれを渓谷の一部に突き刺しては抜くという動作を数回繰り返したのち、刀を鞘に収めて去っていった。



「何だ?」

気付くと勾玉は反応をなくし、元の静かな状態に戻っていた。

夢でも見ていたのか?、私はゆっくりと立ち上がると、バス停を後にした。




「まあ、キョウくん、久しぶりねー」

山の中にある私の母の実家にたどり着くと、祖母が私を出迎えてくれた。


「どうも、ご無沙汰しています」

頭を下げて、私は家に上がると、仏間で手を合わせた。



私を随分可愛がってくれた祖父が亡くなり、もうすぐ十年になる。

未だに実感はないが、仏壇に飾られた遺影を見ると現実を感じる。



友もなく、家族も信じられない孤独な日々の中で、ただ祖父母だけは私の味方になってくれた。

私の会得した剣術も、祖父が伝授してくれたもの、私は祖父から色々なものを貰った。




居間に入ると、既に祖母は昼食を用意してくれていた。

「食べていきんさいな、キョウくんの好物を用意しとったよ?」

食卓には焼いたホッケの他に山菜の雑炊、酢蛸が並んでいた。

「ありがとうございます、ちょうど空腹だったところです」

久しぶりの好物に、私は目を細めながら食卓についた。



食事を終えると、私は実家を後にしてまた長い山道を歩き始めた。



時刻はすでに昼の二時、急がずとも新幹線には十分間に合う。


山道をのんびり歩いていると、またしても勾玉が震えだすのを感じた。

「っ!」

そこはさっきのバス停の前。


ズンっ、と突き上げるような振動の後に、何かが崩れるような音が響いた。

「なん、ですか?」

バス停越しに渓谷が崩れ、そこから人ならざるものが現れるのが見えた。

赤い身体に炎のような気運、全裸と見まごうばかりの扇情的な姿、間違いなく人間ではない。


「おっ、なかなかの匂いだな」

そしてその少女は明確に私に狙いをつけた。


「はっ?」

「とうっ!」

ひとっ飛びで私の近くにまで来ると、その少女はジロジロ私を眺めた。

「ふーん、何だかよくわかんねーけど、目が覚めたなら仕方ない」


少女はどこからともなく巨大な炎の剣を取り出した。

「イグニスのデメゴール、貴様の貞操を頂くぜっ!」





広島の山を急いで走り降りながら、私は後ろを振り向く。


「待ちやがれー、動くと斬るぜっ!」

無茶苦茶なことを叫びながらイグニスが追いかけてくる。


「ちっ!、こういう不思議なこともあるのですかっ!」

今は彼女の正体や何故こんなことになったか考えているかの余裕はない。

すぐさまなんとかしないと貞操の危機であると、私の第六感はそう告げていた。


「どうする、刀がない以上まともにやりあっても勝ち目はない」


しかしいつまでも逃げ切れるわけではない、どうしたものか。


「どりゃあっ!」

いきなりイグニス少女は私に踊りかかった。

「うわっ」

「へー、やっぱ近くで見ると中々の男じゃねーか」

彼女の顔が近づく、覚悟を決めたその刹那。




「んなっ!」

いきなり勾玉が光を発し、すぐ近くの岩を捉えた。

「とりゃあー!」

岩の中から今度は両腕が翼の少女が現れた。

「シルフのリアス参上っ、久しぶりね、デメゴール」


「リアスっ!」

どうやら両者は知り合いのようだが、和やかな仲ではないようだ。


「うるあっ!」

デメゴールの放った一撃をリアスは軽くかわした。


「今なら・・・」

二人とも戦いに夢中のようだ、私は急いでその場を後にした。





「・・・はあ」

危ういこともあったが、何とか私は広島駅にまでたどり着いていた。


プラットホームで新幹線を待っていると、反対側に見知った人物がいることに気づいた。

「っ!」

諸刃の直刀を手に持った少女、間違いない、渓谷にいた少女だ。


直後、勾玉が反応した。

少女は手に刀を持っているという出で立ちにも関わらず、周りからは視線を向けらていない。

どうやら彼女はただの人間ではないようだ。


「・・・私の姿を見てしまった以上、貴方は消えねばならない」

少女がこちらに右手を向けた。


「っ!」

殺られる、そう思ったが足が動かない。

「その勾玉・・・」

少女はじっと私の胸元を見ていた。

「そう、それが邪魔をしているのか」

瞬間新幹線が駅に入ってきた。

「え?」

いつの間にか足が動くようになっており、反対側にいた少女も消えていた。

あまりに不吉な気配、私は帰ってはいけない気がした。

私は急ぎプラットホームを後にすると、近くの漫画喫茶で一夜を明かした。






朝になると、私は実家の山に行ってみた。

デメゴールとリアスが戦っていた場所に行っても、そこには誰もいなかった。


「誰もいないか・・・」

ふと、私の胸元で微かに勾玉が反応した。


続いて鈴のような音が聞こえ、森の中に誰かが入ってきた。


「・・・久しぶりね」

入ってきたのは、およそ人間離れした美しい 美人だった。

流れるような銀髪に女性らしい肢体、険しくも不思議な色気のある美貌、傾国の美女とはこういう人物を言うのではないだろうか?


否、それよりも私は彼女の瞳を見たことがあった。

まるで宝石のような真紅の瞳、ずいぶん昔、幼かった頃に・・・。


「君は、デルエラ、なのですか?」

私の言葉に、彼女は首肯した。

「ええ、久しぶりね、逢いたかったわよ?、キョウ・・・」






「リアスとデメゴールは一旦大人しくしてもらったわ」

小さな切り株に腰かけながら、私は何十年かぶりに話し合っていた。


互いに随分変わってしまったが、彼女の背中には白い翼が生えており、人間ではないことを示していた。


「個人的にはあの二人も何者なのか知りたいのですが・・・」

二人ともデルエラから幼い日に貰った勾玉に反応して現れた、関係ないとは思えないようなことだ。


「彼女らは随分昔にこちらの世界に来たけれども封印されていた魔物娘よ?」

デルエラによると、昔こちらに魔物が自在に出入りできた時代にやってきたが、人間の術者に封印されたのだという。


「けれど、あいつが、『戦慄の怪忍』ネオ・バルタザールが復活させたみたいね」

「ネオ・バルタザール?」

私の問いかけにデルエラは頷いた。

「ネオ・バルタザールは人間にもかかわらず魔物を遥かに上回る実力の持ち主、自在に霧を操るばかりか、分身や瞬間回復といったとんでもない力を持っているわ」


元はデルエラの世界にいたらしいが、どういうわけだかこちらに現れたのだと言う。

「超越者相手に立ち回るなら強い魔物でないといけない、それで私が来たわけだけど、貴方ネオに目をつけられたみたいね」

やはりそうか、広島駅まで追いかけてきて、私を監視していたのは亡き者にする腹積もりだったわけか。

「とにかく貴方は私の大切な、お、幼馴染、しっかり守ってあげるわ?」

にっこりとデルエラは頬を染めながら微笑んだが、私は何だか嫌な予感がしていた。





広島の街を歩きながらデルエラは周囲に気を走らせる。

ちなみに幼馴染の姿は一瞬にして現代風の姿に変わってしまっており、銀髪は黒く染まり、白い翼も消えている。

ただし紅の瞳だけはそのままで、そこだけが彼女の正体の名残を残していた。


「今はネオの気配は感じられないわ、どうやら離れているようね」


しばらくして、デルエラはそう結論づけた。


「とりあえず今日はどこかに身を隠したほうがよさそうね・・・」


ちらりとデルエラは私の方を眺めると、右手をこちらに差し出した。

「エスコート、して下さる?」




「魔界の皇女さまをこのようなところにつれてくるのはなんとも・・・」

現在私とデルエラがいるのは七軒茶屋にある古びた家屋だ。

壁は土で造られ、屋根はトタンというような質素を通り越して粗末な家だ。


ここはもともと祖父が商家をしていたときに使っていた場所だが、今は使われなくなり、貸し物置になっているのだ。


「ふうん、なかなか面白い場所ね?」

しげしげとデルエラは何が珍しいのか土の壁や光が外から漏れている天井を見ていた。


「まさかネオも貴方がこんな場所にいるとは思わないでしょうね、隠れるにはうってつけの場所ね」


「こんなところで申し訳ありません」

私は電気を繋ぐと、瞬間湯沸かし器を使って湯を沸かした。


「あら?、魔法も使わずにお湯が沸いたわ、それは魔道具なの?」

興味津々と言った様相でデルエラは瞬間湯沸かし器を見ている。

「否、電気で作動するものです、魔道具ではなくティファールの湯沸かし器です」


「てぃふぁーる、という魔道具なのね?」

「否、そうではなくて・・・」

何だか説明するのが面倒になってきた。


とりあえず湯が沸くと、私は近くで買ってきたカップラーメンを開け、湯を注いだ。


「何だかいい匂いね・・・」

「カップラーメン、早くできます」

三分たち、私が蓋を開けると、白い蒸気が狭い部屋に広がった。


「これがかっぷらーめんとやら?、美味しそうね・・・」

「うーん、お口に合うかどうか・・・」

しかしまあデルエラはわざわざ私のためにここまで付き合ってくれたのだ、私はカップラーメンを彼女に差し出した。


「・・・違うわ」

「え?」


デルエラは明らかに機嫌を悪くしたようで、むすっとしている。






「・・・食べさせて?」


あまりのことに私はずっこけそうになってしまった。


「はあ、わかりました、ではどうぞ・・・」

「あーん・・・」

割り箸でラーメンを掴むと、私はデルエラの口に持っていく。


「・・・うん、熱いけどなかなかの味ね?、うちのシェフには敵わないけど」

喜んでくれたようで、私は少しだけホッとした。



二人でカップラーメンを平らげると、もう時刻は夜の六時だった。


「・・・結局ネオは仕掛けてきませんでしたね」

デルエラがいる以上慎重にならざるを得ないのかもしれず、私はようやく一息ついた。


「もしかしたら夜間に攻撃してくるかもしれないわ、気を抜かないでね?」

デルエラは窓の外に広がる街を眺めては何事もないことを確認している。


しばらくデルエラは目を細めていたが、その瞳が突如開かれた。

「来たっ」

いきなり家屋が揺れ、私とデルエラは外に飛び出した。




「・・・・・ワタシ、アナタ、コロス」

大地のような素肌におとなしそうな少女だが、その瞳からは光彩が失せ、一点を見ているようで見ていない。

「土の精霊ノーム、洗脳されてるわね、ネオ、厄介な真似を」



忌々しげにデルエラはそう呟くと、白い翼を広げた。


「デルエラっ!」

「貴方は下がっていなさい」

ノームはデルエラではなくこちらに狙いを定めたようで、巨大な岩を私に放ってきた。


「やらせないっ!」

すぐさまデルエラはノームの岩を弾くと、上空に飛び上がり、闇の波動を放った。


ただし傷つけるような類のものではなく、動きを停止させるもののようだ。


地面に当たるとその波動からは闇色の触腕が無数に生成され、ノームめがけて一直線に伸びていく。


「・・・とりあえず動きを止めて、洗脳を解かないと」

「・・・ハイジョ、スル」

アラクネはデルエラの触腕を素早くかわすと、またしても巨大な岩を吐き出した。

「・・・ちっ」

片手でデルエラは岩を弾いたが、捌いたいくつかの石が私にめがけて飛来した。

「くっ!」

私はすぐさま後ろに下がり攻撃をかわしたが、ノームはこちらに視線を移した。

「・・・ターゲット、ヘンコウ・・・」

素早くアラクネは私めがけて赤熱した岩を放つ。


「キョウっ!」

デルエラはただちに私の前に立ち、岩を弾いたがタイミングがずれたのか、右手に微かながら傷を受けてしまった。

「・・・くっ!」

「デルエラっ!」

続いて隙をついてノームは粘着質な粘度を大量に放ち、デルエラを拘束してしまった。

「・・・この程度の拘束、ものの数秒で」


だがノームの本来の目的はデルエラではない。

「キョウっ!」


「くっ・・・」




ノームは最初から私を狙っていた、大きく飛び上がるとそのまま、私にのしかかってきた。


「やられるっ!」

ノームの足が私を押さえつけ、先端が巨大な岩の槌と化した右腕がこちらの急所を狙う。


腕の角度から確実に私の首を狙っている、身体は動かない、さらにはノームを説得出来そうにない、万事休す。



「・・・(死ぬ、のか?、私は、ここで・・・)」


どくんと、私の中で何かが蠢いた。


さらには胸元の勾玉が鳴動し、身体の内から不思議な力が湧きあがってきた。


死に直面して、私の中の生存本能が刺激され、それが勾玉の魔力に反応したのだろうか。




どういうわけかさっぱりわからないが、振り上げたノームの右腕に、植物の蔓のようなものが巻きつき、動きを止めていた。


「その力・・・」


拘束を破ると、デルエラはノームの頭に一撃手刀を与えて気絶させた。





一旦部屋に入ると、私とデルエラはノームを拘束し、部屋の隅にくくりつけた。

「あまり手荒なことはしたくないけど、洗脳が解けるまでは仕方ないわね・・・」


ふう、とデルエラは息を吐くと、部屋の中央に腰掛けた。


「どうやらネオはこちらの世界で眠ってた精霊を復活させて手駒に使っているようね」


デルエラは静かに怒りを爆発させた。


「精霊を洗脳して操るなんて、外道以外の何者でもないわね、なんとしてもネオを討滅するわ」

ふと、私は気になっていた質問を投げかけてみることにした。

「この世界にいる精霊は多いのですか?」

私の言葉に、すぐさまデルエラは頷いた。

「それなりにいるわ、けどネオが狙うような強力な娘は中々いないでしょうね」

とにかくまずはネオを探し出さなければこちらの身も危ない、私は静かに頷くと心を定めた。



「・・・ところで貴方、仙術の修行をしたことがあるの?」


「え?」


「いえ、なんでもないわ」


よく聞き取れなかったが、彼女は何の修行をと言ったのだろうか。


剣術修行ならばいじめっ子に復讐するために随分やったが、それと関係あるのだろうか?


「・・・ん?」

どうやら目覚めたようで、ゆっくりとノームが目を開いた。

「あ、れ?、わたし・・・」


「洗脳が解けたのかな?」

私の言葉にデルエラは微かに首を傾げた。

「さあ、わからないわ、けど正気に戻ってると信じたいわね」

「わたしは、ガルリエ、あなたは、だれ?」

ノーム少女、ガルリエは私とデルエラを交互に眺めた。


「とりあえず、貴方は私が責任持って元の世界に戻してあげるわ」


さすがはデルエラ、異世界への扉も自在に開くことが出来るのか。


「・・・ありがと」

デルエラが空中に魔法陣を描くと、ガルリエは光の中に消えていった。


「・・・なんとかなって良かったわ」


ほっと一息、デルエラは息を吐いたが、刺客が来てしまった以上、ここはもうネオに知られてしまっているのだろう。


「どうすれば、ネオを止められるのでしょうか?」

私の言葉にデルエラは目を閉じ、首を振るって見せた。

「説得しようとしているなら無理よ?、私たちも試したけど、聞く耳持たずだったもの」


なるほど、デルエラも説得を試みてはいたわけか。


「とにかくまずは場所を移しましょう、急ぎ七軒茶屋から離れなければ・・・」


終電も過ぎ、電車は使えない、ならば歩いていくほかないだろう。

私とデルエラは急ぎ民家を出ると、密かに暗い道を選んで東へと向かった。


しばらく進み、大きな河が現れた辺りで、少し休憩することにした。



「・・・ネオは何のためにこの世界に来たのでしょうか?」

川辺に腰掛けながら、私はデルエラに尋ねてみた。

「それがよくわからないのよ、怪しげな船を用意してたみたいだけど、魔界の軍隊と荒そったあと、いきなりこっちに来たみたいだから」


普通に考えれば侵略かもしれないが、ネオの場合それ以外の何かがあるような気がしてならない。


世界の境界をこえるような力があるならば、もっとスマートに侵略攻撃が出来るはずだ。


「っ!」

突然私の胸元の勾玉が警告を発した。

「来るわよっ!」

デルエラの言葉とともに、河から水の触手が大量に伸びてきた。


「・・・中々の力ね」

水面の上には広島駅にいた少女、ネオ・バルタザールがいた。

「けれどこのウンディーネ、ラージならばどうかな?」


ネオの隣にはガルリエ同様瞳の光彩が失せた青い肌の精霊がいた。


「魔界皇女デルエラ、貴様はここで終わりだ」

「さあ、それはどうかしら?」


デルエラは闇の中から黒刃の禍々しい剣を二本引き摺り出す。


「我等二人、その男を庇いながら戦えるかな?」



「魔界皇女をなめないでもらいたいわね?」

デルエラは剣を構え、二人を睨み据える。

「キョウっ!、あなたは下がっていなさい」


私は何だか妙な胸騒ぎに、デルエラに手を向けていた。

「デルエラっ!、何だか嫌な予感がします、すぐに逃げましょうっ」


私の言葉に、デルエラは微笑んだ。

「ふふっ、心配いらないわ、少しは貴方の幼馴染を信じなさいな」


デルエラは川から伸びてきた水の触手を双剣で軽くいなす。


「さすがはレスカティエを一夜で陥落させたリリム、一筋縄ではいかないか」

ネオはにやりと笑うと、デルエラに殴りかかる。

「ふんっ!」

しかしデルエラも慣れたもので、片方の剣でネオの攻撃を弾き、もう片方で水の触手をいなして見せた。


「ふふん、貴女の実力はこの程度?」

「愚かな、貴様はもう動けない」

「っ!」

いつの間にか、私は川から伸びてきた触手に絡め取られていた。

「デルエラよ、この者の命が惜しければこちらに下れ」


「っ!、デルエラ、私のことは忘れてくださいっ!、ネオを・・・くっ!」

私は身体を締め付ける触手に息を漏らしてしまった。

ぎりぎりと少しずつ締め上げてくる触手に、私は歯を噛み締める。


「・・・本当に、彼を離してくれるの?」


「っ!、デルエラ・・・」

ネオは口元を歪めた。

「ええ、彼を離してあげる」

デルエラはしばらくうつむくと、武器を収めてネオの前に立った。


「さて、行こうか」

「駄目ですっ!、デルエラ、行っては・・・」

私の言葉も虚しく、一度だけデルエラは私の方を向くと、そのままネオとともに闇に消えた。





「くっ!」

しゅるり、と音がして、水の触手が私から離れた。


『欲しいの?、彼女を助ける力が・・・』


どこからか声がした、周囲を見渡したものの、人影はない。

気を抜いた瞬間、水の触手が私に襲いかかってきた。


「なっ!」


失念していた、ネオは私を離すとは言っていたが、命を助けるとは言っていなかった。


最初から私の命を奪うつもりだったのか。



『力が欲しいなら願いなさい?、貴方に力をあげる』


迷っている暇はない。


「欲しいっ!、私は力を願いますっ!」

声高に叫んだその直後、私の左手に五つの光が集まった。

「っ!」


その光はやがて物質となり、五つの虹色の宝石が五角形にはめ込まれた腕輪に姿を変えた。


「これは・・・?」


『契約成立、さあ、私たちの力を存分に振るってみせて?』


この声、どこかで聞いたことがある。


「まさか、君はリアス、なのですか?」

『リアスだけじゃねぇぜ?』


『私たちも、いる・・・』

デメゴールに、ガルリエ、精霊が揃い踏みということか。


『さあ、早く、使い方は知っているはずよ?」


これは知らない声だ、だが私はすぐさま頷くと腕輪の宝石を作動させた。


「ガルリエっ!」

宝石が土色に変わり、私の身体に大地の力が宿る。


「はあああああああああ・・・」

迫り来る水の触手を手刀で叩き切ると、そのまま私はラージに近づき、掌打を与えた。


「っ!」


がくりとラージが倒れるや否や、私は彼女を抱えて、近くの鉄橋の下に潜り込んだ。




『始めまして、親愛なるマスター』


ぽうっと腕輪の宝石が光、中からリアス、デメゴール、ガルリエに加え、黒い太陽のような球体が現れた。


しばらくすると球体から人間の姿の少女が現れ、球体に腰掛けた。

『私はダークマターのレダエ・オスカー、デルエラの友人よ』


レダエは三精霊を眺めながら、顛末を話し始めた。


『精霊の腕輪は精霊と契約していなくても力が振るえる魔道具、デルエラは何かあった時のために私にこれを託していたの』

なるほど、デルエラが精霊たちをどこにやっていたかは不明だったが、こんな道具があったのか。


『けれども精霊の腕輪は最大五回しか使えない、精霊一人につき一回しか扱えないわ』


今一度使ってしまったため、デルエラ救出までに使えるのは後四回、慣れない技であるため十分とは言えないが、何とかやるしかない。


なるほど、よく見ると五つある宝石の内一つ宝石の光が消えていた。


「・・・うっ」

橋の下に寝かせていたラージがうっすらと瞳を開いた。


「気がつきましたか・・・」

「わたくしは?、どうしてここに・・・」


私は少しばかり口ごもり、何も言えなくなってしまった。


『ネオに洗脳され、貴女はそこにいる彼を攻撃、今ようやく洗脳が解けたところよ?」

レダエの言葉に、ラージはうっと詰まってしまった。

「レダエ、そんなに追い詰めなくても・・・」


私の抗議にもレダエは軽く首を振った。


『マスターさん?、今どんな状況かわかっていないわけではないでしょう?』


レダエはそう告げると、俯くラージに対して再び声をかける。

『今からこの人は奪われた恋人を助けにいくわ、貴女も協力してくれるわね?』


「こいっ・・・」

「わかりました、それで罪を償えるならば、わたくしは旦那様に従いますっ」

私が動揺して何も言えない状態で、外に出ていた精霊たちに加えてラージは、精霊の腕輪の宝石の中に戻ってしまった。


『さあ、デルエラを助けにいくわよ?』

レダエの声に私は頷いたが、どこにネオはいるのか皆目見当もつかなかった。



『問題ない、奴のいる場所なら、知ってる』

ガルリエの言葉に私は驚いた、彼女によると元々彼女がいた場所にネオは巨大な戦艦を不時着させていたのだと言う。

「よし、じゃあ案内してください」

『了解、マスター』






ネオの戦艦がある場所は市内の山の中だった。

「これが・・・」

その戦艦がある場所には一見何もないように見え、私もガルリエに言われなければ気づかなかったかもしれない。

『不可視魔法障壁、で隠されてる、まずはこれを破らないと、ならない』

ガルリエの言葉に私は微かに頷いた。


『破壊なら俺の出番だぜ?、旦那っ!』

宝石が紅に染まり、私の身体に炎の力が宿る。

「ああ、行きますよ、デメゴールっ!」


デメゴールの力か、私の右手に赤い巨大な弓が現れた。

「火群弓(ほむらのゆみ)、行きますよ・・・」

弦を引くと、真っ赤な炎の矢が現れ、赤々と周りの闇を照らした。

「行けっ!」

気合いとともに弦を離すと、炎の矢は凄まじい速度で闇を走り、一撃で戦艦の障壁を貫いてしまった。


『よっしゃっ!』

『急いで進入するわよ?』

デメゴールとレダエの言葉に頷くと、すぐに私は戦艦内部に足を踏み入れた。



戦艦内部はかなり広いようで、移民船も兼ねているのか、プラントのような区画も見受けられた。


『魔界の技術も使われているけど、こちらの世界の技術もある、二つの世界のハイブリッドと言えるかもしれないわ』

レダエはそう推測した。

『来るよ、ご主人っ!』

リアスの声、警備のロボットなのか、廊下に凄まじい量の機械兵士が現れた。

「ラージっ!」


『はいっ!、旦那さまっ』


私の身体を今度は水の力が巡り、右手に水属性の諸刃の剣が現れる。

「水鏡剣(みかがみのつるぎ)っ!、いざっ」

迫り来る警備ロボットを剣で切り裂いていくが、あまりに斬れ味が鋭い。

「はあっ!」

刀身に水の力を集めて振るうと、水の斬撃が廊下に広がり、警備ロボットを破壊する。


『旦那さま、キリがありませんっ!』


ラージの言葉通り廊下のあちこちから警備ロボットが現れている、これではいずれ力尽きてしまうだろう。


『マスターさん、上よっ!』


レダエの叫びに上を見ると、そこには空気の出入り口か、巨大な穴があった。

「リアスっ!」

『はいはーいっ!』

風の力を身に宿すと、私は大きく飛び上がり、天井の穴に入っていった。





「・・・ここは」

たどり着いた先は壁沿いに無数のカプセルが並んだ巨大な部屋だった。


カプセル一つ一つには、獣の耳の少女や、角の生えた少女など、魔物の少女がおり、安らかな表情で眠っていた。



『眠ってる・・・』

ガルリエは微かにそう漏らしたが、何故こんな場所があるのかさっぱりわからなかった。



「・・・その娘たちは行くあてなき捨て子」

振り返ると、出入り口からネオがゆっくりと入ってくるところだった。


「ネオっ!」

「ようこそ、我が城、戦艦『現月』へ」

私はネオの一挙一動を注意深く見守りながら、隙を伺っていた。


「この娘たちは?」


「先ほど答えた通りだ、彼女らは捨て子、反魔物と親魔物の戦乱の中孤児になった子らだ」


そんな孤児を、ネオは拾い、育てているのだろうか。

「左様、私は行き場のないこの娘らのために、なんとしてもこの世界を貰わねばならない」



「馬鹿なっ!、他に手はいくらでもあるはず、こんな手段に出なくても・・・」


「愚かな、下等な人間と話す舌など持ち合わせてはいない」

ネオが指を鳴らすと、奥からデルエラが現れ
たが、状態は見るからに怪しい。


瞳の光彩は失せ、言葉は一言も発さず、その両手にも力は宿っていない。

「まさかデルエラを・・・」

「洗脳してやったわ、さあ、死にたくなければデルエラを殺してみせろ」


デルエラは黙ったまま闇から剣を召喚すると、片手で構えた。


「そんな、デルエラ・・・」



『ご主人っ』


すさまじい殺気、その気迫はまさに魔界第四皇女と呼ぶに相応しいものだ。


「デルエラっ!、本気で・・・」


飛来した衝撃波、これをなんとかかわすと、私は奥歯を噛み締めた。


「くっ、やるしかない・・・」

私は風の力を転用し、風の刀を右手に現出させる。

「風鳴刀(かざなりのかたな)っ!」


すぐさま私の刀とデルエラの剣が交差する。

実力は天と地ほどに離れているかもしれないが、今私は風の力を纏っている、ある程度ならば無茶が効くはずだ。


「デルエラっ!」


「・・・・・・・・」

私の言葉にもデルエラは何も言わずに淡々と剣撃を放つのみ。


「・・・(ガルリエやラージ同様一度倒せば洗脳は解けるはず、しかし私にデルエラを倒すことが出来るのか?)」


そんなことを考えている間にもデルエラは連続攻撃を仕掛けてくる、このままではやられてしまうだろう。


「デルエラ・・・」

静かにデルエラは剣に闇をまとう、どうやらこれで決めるつもりのようだ。

「風霊剣術・・・」

風の力と闇の剣圧が、交差した。

「疾風怒濤っ!」




「ぐあああああああっ!」


私の一撃は軽くいなされ、私は額に鋭い熱を感じた。

ぽたりぽたりと額から血が下に落ち、床の血だまりにはバツ印に斬られた額が映っていた。


『マスターさん、心を力に変えて?』


レダエの声が聞こえた。

「心、を?」

『そう、貴方の心が、人間の無限の可能性が、貴方に力を与えてくれるはずよ?』


額の血を乱暴に拭うと、私は心を静かに鎮めて祈りを捧げる。


『願いなさい、デルエラを、彼女を助けることを』


私の身体から形容し難い優しい力が溢れ、右手に集う。

「これは・・・」

『それこそが人間の心の技、仙気、それならデルエラを救えるわ』


私は右手の仙気を、ゆっくりとデルエラに向けて放った。


「・・・!!」

ぴくり、と一瞬だけデルエラは震えると、やがて瞳を閉じ、がくりと片膝をついた。


「・・あ、れ?、私、どうして・・・」

良かった、どうやら正気に戻ったようだ。

「デルエラ、良かった・・・」











「おのれ、よもやこのようなことになろうとは・・・」

ネオは凄まじい表情で私とデルエラを睨みつける。


「もうやめろネオっ!、こんなことをしてもこの娘たちは喜びはしないっ!」


「黙れぇっ!」

瞬間ネオは私の胸ぐらを掴むと、そのまま床に叩きつけた。


「ぐあっ・・・」

そればかりかそのまま持ち上げると、部屋の外に放り投げた。



「くっ、ネオっ!」

放り投げられた先はいくつもの機械が並ぶ艦橋のような場所、私は何とか立ち上がると両拳を構えた。

しかし背中は痛み、すでにどこかの血管が切れているのか、口の中には血がこみ上げてきていた。


「キョウっ!」

先ほどの部屋からデルエラがあわてて出てきた。

「デルエラ、なんとかこの艦をこの世界から追放出来ないですか?」

私の言葉にデルエラは目を見開いた。

ネオがこの世界を侵略するつもりならば、艦そのものを元の世界にまで戻してやればいい。


「やってみるわ、けど・・・」

「もちろん・・・」

ゆらりと艦橋に現れたネオを見て、私は頷いた。

「その間奴はなんとかする」






「覚悟はいいな?、小僧・・・」

ネオは諸刃の剣を手に出現させると、凄まじい速度でこちらに近づいた。

「雨燕・・・」

「早いっ!」

瞬間、剣の柄が私の腹に打ち込まれていた。

「っ!」

「桜幕っ!」

凄まじいまでの衝撃が全身を貫き、私は天井を突き破り、甲板にまで弾き飛ばされた。


「松鶴・・・」

天井に空いた穴から飛び出すと、ネオは軽く空中を浮遊して見せてから、甲板に着地した。


「我が必殺体技『五光』、その威力、思い知ったか?」

「ぐっ、五光・・・?」

口から血を吐き出すと、私は気合いを持ち直して何とか立ち上がる。

「レダエっ!」

『これで最後、しっかり決めなさい』

精霊の腕輪の宝石が全て光をなくし、同時に私の身体に闇の気運がまとわれる。


「はあっ!」

私は左手から闇の波動を放ったが、ネオは右手の掌で攻撃を止めて見せた。

「っ!」

「無駄な真似を、反射技芒月・・・」

そのままネオは私の攻撃をそっくりそのまま跳ね返して見せた。


「くっ!」

身体を回転させてなんとかかわすと、死角から素早く闇の弾丸を打ち出す。


「桐鳳・・・」

ネオは両眼を閉じたまま私の攻撃を正確にかわし、またしても素早く近づくと蹴りの一撃で私を跳ね飛ばした。

「これでわかっただろう?、いかなる技を使おうがこの私を倒すことは不可能であることが・・・」


「・・・まだ」

私はゆらりと立ち上がると、身構えた。


「ほう、まだやるか、ならばその息の根、ここで止めてくれよう」


風を切るかのような音とともにまたしてもネオの姿が消える。

「っ!、このっ・・・」

「無駄だ、五光奥義・・・」

気づくとすぐ近くまで迫ってきていたネオの肘が私の腹部に当てられていた。


「五光精華っ!」

瞬間、全身を電流のような力が走り、私は意識を手放してしまった。




胸元で、勾玉が反応している。

意識はあるように感じるのに、身体がまったく動かない。

まるで金縛りのようだ。

あれから、どれだけ経ったろうか?


目の前にネオがいることから、大して時間は経っていないのだろう。

身体は横たわり、もう動くことすらできなさそうだ。


「これで最後、だ・・・」

ゆっくりとネオが近づいてくる、その手には諸刃の剣が握られており、とどめをさすつもりなのは明白だ。


どうすればいい、否、考えるまでもない、もうどうにもできない。

「・・・(デルエラ・・・)」

最後に思うはデルエラのこと、大して話しが出来なかったな。



否、駄目だ、私はまだデルエラに、何も話せてはいない。






私はまだデルエラに、何一つ恩義を返せてはいない。




私はまだデルエラの、約束を果たしてはいない。



その心が、想いが、力となって私の身体を駆け巡る。

太古の昔よりヒトの身体に宿り、受け継がれてきた力が、死の間際に生存本能を刺激されて目覚めたのか。



「これで、終わりだ・・・」


ネオが剣を振り上げたその刹那、彼女の腕に植物の蔓が巻き付いていた。

「何っ!」

「はあああああああ・・・」


続いて、山の中の植物の生命力が、少しずつ私に集まり、体力と怪我を完全に回復させた。


「馬鹿な、先ほどまで死に体だったものが、こうまで・・・」


「自然の力が、私に力を・・・」

直後、艦船が傾いた。


「何っ!」

慄くネオ、どうやらデルエラがうまくやってくれたみたいだ。


周囲の景色が歪み、異界の姿が見え始める。


「おのれ、リリムごときが・・・」

甲板の穴から艦橋に戻るネオだが、私はその一瞬の隙を突いて、ネオを艦橋の床に押さえつけた。


「させませんっ!」


「貴様っ!」


ネオは振りほどこうとするが、命に代えても話すわけにはいかない。

デルエラは私の信用に答えてくれたのだ、ならば私も答えるのみ。

「待たせたわね、今からこの艦はポローヴェめがけて出航するわ」


艦船がゆっくりと動き、一瞬光が煌めいた。








「・・・うっ」

気付くと私は草原に倒れていた。

あれからどうなったのだろうか、デルエラは成功したのだろうか。


少し遠くにネオの戦艦が見える、どうやら無事に異世界まで追放出来たようだ。


「・・・許さない」

肩で息をしながらネオは諸刃の剣を構えた。


「貴様、我が希望を、よくも・・・」


ネオは全身に光をまとうと、その身を鎧甲冑のような禍々しい姿に変えた。


「ネオっ!」


呼びかける私の声はもう届きそうにない、ネオはゆっくりと手にした剣を構えた。


精霊の力を使おうとして、私は腕輪の宝石が光を失っていることに気づいた。


「っ!、しまった・・・」



「終わりだっ!」


ネオは左手に現れたハサミのような籠手から赤い霧を放った。


「霧遁仙術石霧硬化」


霧を浴びた箇所から、私の身体は動きを失い、固まっていく。


「う、く・・・」


「貴様はただ殺さない、そのまま固まり、ゆっくり死ぬがいい・・・」


徐々に私の感覚は失われ、やがて全ては、完全に闇の中へ消えた。





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「・・・くっ」

ワンテンポ遅れてデルエラは戦艦から外に出てきた。

「どうやら無事ポローヴェについたみたいね」


戦艦から離れた場所に見知った影を見つけて、デルエラは急いで現場に向かった。




「っ!」


「遅かったな・・・」

そこにいたのはネオと、緑の彫像と化した幼馴染だった。


「キョウっ!」


「まだ死んではいない、もっとも、完全に生きているとも言えない」


彫像のように固められ、身動きが取れなくても意識はあり、生きている、下手に死ぬよりも悲惨ではないのか?



「よくもそんな真似を・・・」


「心配しなくてもすぐに貴様も同じようにしてやる」


ネオはデルエラに左手を向ける。

「我が仙術、とくと味わうがいい・・・」


一瞬の油断、デルエラはネオの放った霧の針を喰らい、足から血を流した。


互いに身構えたその刹那、デルエラの目の前にあった彫像が、いきなり爆発した。



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「・・・さん、マスターさんっ!」

暗闇の中で誰かの声が聞こえた。


この声は、たしか・・・。

「レダエ?」

「マスターさん、どうやら意識はあるみたいね」

レダエの声には元気がなく、姿は見えないが、もし見えるなら俯いているのではないかと言う声音だ。


「本当にごめんなさい、私のせいでマスターさんをこんな目に・・・」


「・・・レダエ」

私は静かに口を開いた。


「何を言うのです、君がいなければ私はデルエラを助けることが出来なかった、こうなったのは私の結果、君を恨んだりはしませんよ」


ただ心残りがあるとすれば、ネオをどうにも出来ず、デルエラに丸投げするような結果になってしまったことか。

「デルエラ、私は・・・」


闇の中、一筋の光が走った。


「まだ、戦える、まだ動ける・・・」


その光は少しずつ強くなり、やがて光の玉となって私の前で止まった。


「これ、は?」

光の発生源、そこにはあの日にデルエラからもらった紅い勾玉があった。


眩く光が輝き、私は白い光に包まれ、身体が少しずつ自由になっていくような感覚を覚えた。


「デルエラ、まだ私は、君と一緒に、戦いたいっ!」



勾玉を掴むとともに、腕にはめられていた精霊の腕輪が形を変えた。

五つの宝石は一つの虹色の玉となり、より洗練されたデザインの新しい腕輪となった。



そして私は彫像にヒビが入るような音を聞いた。



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「・・・な、に?」

ネオは私が出てきたことを見て、信じられないように目を見開いた。

「貴様、どうやって・・・」


「デルエラ、奴にやられたのですか?」

私はデルエラの足から流れる地に目を留めた。

「・・・このくらい、貴方の受けた痛みに比べたら大したことないわ」

はかなげに微笑むデルエラだが、私は生まれて以来といっても過言ではないほどの怒りを感じた。


「・・・ネオっ!」

激した瞬間、左手の腕輪から光が漏れ、光はやがて一振りの直刀に姿を変えた。

鍔がなく、拵えも装飾がないシンプルなデザインの刀だが、柄頭の部分に虹色の宝石がはめ込まれている。


『霊皇剣、守りたいというマスターさんの心より出でし剣よ?』

レダエの声、私はすぐさま霊皇剣を引き抜き、正面に構えた。



「そんなもので、この私が倒せるか・・・」

ネオは剣を構えてこちらに接近する。


「リアスっ!」

腕輪の宝石を軽く撫でると、虹色の光が翠に変わった。

「風霊術・・・」

「雨燕っ!」

またしてもネオは超高速でこちらに迫るが、今回私は大気中の風から動きを完璧に見切れていた。


「デメゴールっ!」

もう一度宝石をなぞると、今度は紅に染まり、私の左手に火群弓が現れた。

「なにっ!」

「はあっ!」

超至近距離から私は炎の一撃をネオに放ち、弾き飛ばす。

「ぐお・・・、おのれ・・・」

今度はネオは肩のアーマーをたくさんの微細な針に変えてこちらに発射した。

「ラージっ!」

宝石を水色に帰ると、私は大気中の水分を水の壁に変えた。

「なっ・・・」


「返しますよ・・・」

軽く手を上げて水の壁を揺らし、壁に刺さっていた針を全て弾き返した。


「調子にのるなあっ!」

ネオは空を舞い、上空から光弾を無数に放つ。




「ガルリエっ!」


なんとか光弾をかわしながら叫ぶと、宝石の色が褐色に変わり、私の身体を大地の力が駆け巡る。

次いで霊皇剣の宝石を腕輪の宝石の上にかざすと、剣の宝石も褐色に色を変えた。


「これで最後だっ!」

ネオは上空から巨大な光の弾を放つ。

「地霊剣術、龍脈斬破っ!」

下段から振るった一撃は剣を通して大地のエネルギーを放出し、ネオの光弾をかき消した。


「馬鹿なああああああああっ!」

ネオは龍脈のエネルギーをまともにくらい、遥か後方に吹き飛ばされた。





「おの、れ・・・」

ネオはゆっくりと立ち上がると、私を睨みつけた。

「とどめを刺す・・・」

私は霊皇剣を振り上げた。


「やめてっ!」

だが私は後ろから抱きすくめられ、剣を振り下ろすことが出来なかった。




「デルエラ・・・」





「もう、勝負はついたわ・・・」


デルエラの言葉に、私はしばし瞑目すると、剣を鞘に収めた。


「ネオ、もう一度言います、あの娘たちとともに、この世界で生きてはどうですか?」

私の言葉にネオは一瞬目を細めたが、急に咳き込み、やがて血を吐いた。

「・・・え?」


呆然とデルエラはネオの血を見ている、どう考えても私の攻撃が原因のような血ではなく、どす黒い毒々しい病に犯された血だ。


「もう、時間はない、私は死ぬ宿命だったのだ・・・」


「ネオ、まさか病を・・・」


そうか、ネオが何故あれほどまでに焦っていたのかよくわかった、死の病で彼女には時間がなかったのだ。



「若い精霊剣士、そしてデルエラ、勝手な願いではあるが、あの娘たちを、頼む・・・」


ネオはゆっくりと立ち上がると、胸に手を当てた。

「っ!、ネオっ!」




「けじめはつける、頼む、ぞ?」


ネオは手から光の弾を放ち、自ら心臓を撃ち抜いてしまった。

「ネオ・・・」


ぐらりと倒れるネオ、私は右手から仙気を放った。

その仙気はやがてネオを包むと、彼女の姿を元に戻した。



「・・・ネオ、こんな結末しかなかったのですか?」


「・・・キョウ」

静かに、日が傾き、私とデルエラの影を染めていた。






ネオの遺体を現月の真下に埋め、軽く祈りを捧げると、デルエラは目を閉じた。

「あの娘たちはレスカティエで引き取るわ、サーシャなら上手くやってくれるはず」


「・・・ええ、お願いします」

私は息を吐くと、近くの切り株に腰かけた。

「貴方が気に病む必要はないわ、確かにネオは追い込まるていたかもしれない、けどだからと言って他の世界を侵略する理由にはならない、そうでしょう?」

デルエラの言葉に、私は頷いた。

「そうかもしれません、しかしあの娘たちにとって、ネオは確かに親代わりでした、私は彼女らの親を殺めてしまいました・・・」


「なら、その責任は半分私も持つわ」

「デルエラ?」


にっこりと微笑み、デルエラは私の額と自分の額を合わせた。

額に暖かな熱を感じ、私は心臓が破裂するような感覚を覚えた。

「彼女を倒すことが私の役目だったのだもの、それくらいはいいでしょう?」

「・・・ありがとう、デルエラ」


少しだけ、私は心が軽くなった。




「・・・貴方は、どうするの?」


デルエラの言葉に私は頷き、左手にある精霊の腕輪を眺めた。


「高名な精霊使いに師事して、彼女らとの道を学びます」

私の言葉に、デルエラはにっこりと微笑んだ。

「そう、けれど私に逢いたくなったら、いつでもレスカティエに来て?、ずっと、待っているから」

上目遣いにそんなことを言うデルエラ、私は微かに頷いた。

「はいっ!、また、お逢いしましょう」

「約束よ?」



デルエラは最後に一度だけ私を見つめると、翼を広げて立ち去って行った。


「ポローヴェか、たしかサプリエート・スピリカさん、だったかな?」


『マスターさん、別れの挨拶は良かったの?』


レダエの言葉に私は頷いた。


「また、すぐ会うことになりますよ・・・」


私はレダエにそう返すと、ポローヴェに向かって歩き始めた。



そう、この別れは一瞬のこと、私とデルエラの道は、もう交わったのだから。






to be continue・・・
15/11/27 20:16更新 / 水無月花鏡

■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月花鏡です。

今回のお話しはかなりバタバタした展開になっている他、いつもにも増して大変突っ込みどころ満載だったと思われます。

さて、このお話しはウルトラマンコスモスなパロディーが多分にあります、お気付きの方はお気付きかと思われます。

また、今回も好き勝手やってしまったため、読む方に多大な迷惑をおかけしたかもしれません、この場を借りて謝罪申し上げます。

では、今回はこの辺りで・・・。

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