読切小説
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淫魔になって考えてみた
愛とは何なのだろうか。

私は淫魔となった身体で幼なじみに抱かれ快楽に堕ちながら考えてみた。


肉欲に溺れ、白濁に汚れ、生まれたままの姿でまぐわう事を是とするこの身体は嫌いじゃない。
いや、性欲には以前から否定的ではなかった。意見としては肯定的ではあった。


でも、愛という言葉の意味に答えを出せないまま彼とまぐわっている事に疑問を抱いてしまった。


愛しあう、その関係に疑問を持っているのだ。
私は以前は人間で、後天的に淫魔となった存在だ。
淫魔の身体になって溢れる性欲に敗北したのだ。いや、抵抗した記憶すら無い。
気がついたら彼を求めていて、気がついたら彼に求められていた。

肉欲と性欲さえあれば良い都合の良い身体。

淫魔にとってセックスは食事なのだという。
三大欲求の二つが組み合えば、人間の理性なんかは簡単に剥がれ落ちてしまうだろう。

ご飯を食べずに生きていける人間なんか居ない。
だけどご飯を人間の本質として捉えていいのかという疑問を胸に抱いてしまっただけだ。

何も考えず彼に抱かれていろ、と子宮は叫ぶ。
理性が吹っ飛ぶ程の快楽を生み出してくれる行為をし続ければいいと身体は訴える。

欲情を貪り遭う交尾を目的としたイキモノになってしまったのは幸か不幸か。
以前は知らぬ無垢な小娘であった私を快楽の天国に誘ってくれた。
キモチイイのだ。
まるでこれが唯一にして絶対の真理、とでも言わんばかりの狂うほどの快感。
女にとっての喜びは雌として雄を受け入れ交尾し子を孕む事が正義だ。

いや、そんなことは以前から知っている。

溢れ出る程の本能に勝てる人なんて居ない。
むしろ本能を否定しきってしまったら生物として終わりを迎えると思う。
だが、本能のままに動いてしまったら果たしてそれは人間なのか、と疑問がつきまとう。

淫魔に堕ちたとしても、元人間としての矜持くらい残しておかなきゃ、以前の私に面目が無い。

最初から淫魔として産まれず、途中で偶然にも淫魔になってしまった私は強くそう思う。



例えば。
性欲と肉欲に敗北したという事実を元にすれば。

彼以外の男に抱かれていたIFがあったのではないかと思う。
淫魔になって直ぐに、身体を許してしまったらその人の事を好きになっていたのだろうか。
一番近くに居た男性が彼でなくて他の人だったならばその人を好きになっていたのだろうか。

その"もしも"への答えは出ない。

今となってはわからない。淫魔となったこの身体は彼以外の男を受け入れる気はない。
無意識に尻尾で彼の腕を縛ったり、背中の羽根は彼の事を考えるとぱたぱたと動き出す。
本能は、たいへんわかりやすく彼への無償の愛を提供し続けている。

でも、これが真実の愛かと問われたら私は言い淀む。

身体は今が全てだと答えを出している。
人が作り上げた幻想だ、とも理解している。
運命の人という言葉に憧れているわけでもない。
間違いなく、以前から好意を持っていた相手ではある。
彼と交尾を繰り返し、いつか子を成す未来を私は望んでいる。


少しの、疑問なのだ。

しかし、純白に染まった私の心に穢れのように残っているソレは私に常に問い続ける。

愛って、何?


性欲への言い訳。
精神的な繋がりへの一つの回答。
一夫一妻制というシステムの為の答え。


こんな無機質な言葉が私の中で氾濫していく。


幼なじみだったし、ずっと好きなんだと思ってた。と、周りの人はこう私を評す。


一緒に居た事は時間の積み重ねではあるのだが、そんな自信は無い。
時間の積み重ねが愛への答えではない。

余計な事を考えずに快楽に身を委ねろと身体は叫ぶ。
そう、考えないほうが良い。ここに至って考える必要は無いのだ。
快楽に堕ちながら、ゆっくりと自分の身体に洗脳されていくのが、楽だ。
そう私は彼に溺れていくくらいがちょうどいいのかも知れない。
だから彼に答えをせがむとする。
弱い女だ。



そんなの俺もわからないよ。俺も他の女性に靡かないと言い切れる保証はない。



なんだきみはほかのおんなにめをむけるというのか。
嫉妬心で膨れ上がった私は彼の身体に私の気持ちよさを教えなければいけないと思った。
性欲に完全に敗北している思考である。まるで淫魔だ。
淫魔だけどさ。



でもあれじゃないかな、否定するわけじゃないんだけど、愛を最上位に置いた考えだよね。
愛による関係が絶対と見てるから、その絶対を探しだしてるんだよね。
絶対、なんてないよ。
俺も君を愛しているけど、この愛が今の愛で未来はどう変わってるか解らない。
今の愛も絶対のものじゃない。君と比べて俺は単純だから、多分増えてると思うけどね。



するっと納得した。人が良すぎる彼はにこやかに笑って私を肯定してくれる。
この笑顔で嘘をつかれたりしたら私は見抜ける自信が無い。
その笑顔を愛おしいと思うし、その笑顔に愛を捧げたいとも思う。
愛は増減するものだと思えば、今は少なくてもどんどん増やしていけばいいのかもしれない。
なら私はどんどんと彼への愛を膨らませて、重みを持たせて、それを全て捧げていこう。


そう決意して、私は彼に全てを捧げて沈んでいった。
15/11/21 17:55更新 / うぃすきー

■作者メッセージ
監禁生活100日目くらいのお話

投稿後ほんの少し推敲。

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