連載小説
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平穏を望む人
「あ!はぁ……あん!」
暗い森の奥で、私の身体に無数の触手が絡みつく。
触手は私の腕、足を拘束し、身動きが取れない。
「……いやぁ、止め……はぁあ‼」
触手は、私の感じる所を網羅したかの様に愛撫する。その度に時に電気の様に、時に加熱されるようにじわじわと快感を与えられていた。
耳も首も脇も胸も、乳首もヘソも尻も、女のアソコまで。身体の全てを触手は愛撫する。
そして一本の触手が、丸い先端をグリグリと押し付ける。
「ダメ!そこは止めーー!」
触手は私の言葉を無視して、私の膣を突き上げた。
「や、ァァァァァアアアアアアアアアア!!!!」
この時、頭にあったのは自分の人生に対する恨みだった。

何故こんな事に……。私はただ、平穏に暮らしたかっただけなのに。


火薬と血の臭いが混ざり、砂埃も舞う戦場に私は居た。
私は物陰に隠れ、攻撃の隙を伺う男を、バレないように遠くから狙い、ライフルで狙撃する。
その近くに居た男たちも同様に撃ち殺した。
私は傭兵のシェリア・シュワルツェネッガー。小さい頃に親に人身売買で売られ、以来戦場で生きてきた。
最初はただの奴隷の様な生活だった。重労働は必至でこき使われて、時には汚い男どもの慰み物になったり。幼いながら散々な日常を送ってきた。
成長するに連れて自立し傭兵までこぎ着けたが、実際、一女性が傭兵など馬鹿馬鹿しい限りだ。男と違って非力だと思われるし、娼婦として働いた方がまだ平穏無事な生活を送れるだろう。
だが、それでも傭兵として働いているのは、金を貯めて、海外へ行って平穏に暮らすため。
目標額にももうすぐ手が届く。そしたらこんな何時死ぬとも分からない生活から脱け出してやる。
引き金を引いて暫くして銃声が止んだ。
どうやら味方が拠点を制圧したらしい。
他の傭兵は喜び、緊張から開放される。
私も一息吐き、味方陣営に戻ろうと歩みを進めた。
これでやっと呪われた人生から開放される。商人からパスポートと飛行機のチケットを買って、静かに、平穏に人生を謳歌できる。
ーー筈だった。
カチリ、と足下から音がするまでは。
「……え?」
それは、以前何度か耳にした事のある、寒気を催す音。
「……!地雷!?」
私は慌てて動きを止めた。しかし、それがかえって震動を生んでしまったらしい。
私は戦慄した。
「や、やだ、いやーー!」
もうすぐ金が手に入るのに、やっと自由になれるのに。やっとこの汚れきった生活からおさらばできるのに!
何でこんな所で!
その時、私は強烈な熱を感じると同時に、意識が途切れた。


…………寒い。


眼を覚ますと、暗い森の中で倒れていた。
「……ここは?」
私は身を起こし、辺りを見渡す。
「何だこれ、何の木だ?」
見たこともない木がそこら中に生えている。風でも吹いているのか木々が揺れている様だ。
空気は若干湿っていて、気温は暑くも寒くもない筈だが、何となく寒かった。
そして、その原因は私が下を向いたときに気付いた。
「な、裸!?服は!?」
武器も服も下着もない、全くの全裸だった。
服を探しても見当たらない。
「……仕方ない。とにかくここから出ないと」
私は立ち上がって歩き出す。
「何でこんな所に……」
私はさっきまで戦場に居た筈だった。
そこで地雷を踏んで……。
……それで何故ここに?
考えても答えは見付からない。
「……何だ、さっきから変な音がする」
今まで何度か聞いたことのある、粘液質と言うか、まるでローションで音を立てたような……卑猥な音だ。
「………ぁ…………ん……」
「……!人の声!?」
誰か居る。
「誰か居るのか!」
叫んで呼ぶが、返事がない。
私は恐る恐る声のする方へ向かう。
「あ、あぁ、はぁん♥」
「何?」
女性の声はまるで、いや矯声その物だった。
男にでも犯されているのだろうか。だがどうも受け入れているらしい。娼婦だろうか?
どうやら木の陰に隠れて居るらしい。
丸腰なので心許ないが仕方ない。捕まらない様用心せねば。
私は木の陰を覗き見た。
だがそこで、信じられないものを見た。
「……え?」

「あぁん♥そこ、もっとぉ♥!」

眼にしたのは予想通り女性が犯されている姿。
だが、その女性と、犯している相手が予想外だった。
女性には角、羽、尻尾が生え、まるで悪魔や夢魔を連想させる格好で、手足を拘束され、甘んじて身体を愛撫されていた。
一方、犯している相手。正直こちらの方が衝撃的だった。
「何、あれ……!?」
女性を犯していたのは、『触手』だった。
植物の様な触手はうねり、動く度ににちゃにちゃと音を立てていた。女性を拘束し、胸を、秘部をいやらしくまさぐり、女性を喘がせる。
「……あらぁ?」
女性は覗き込んでいた私に気付き、紅葉した顔を歪ませた。
「あなたも、…ぁ……触手プレイしに来たのぉ?」
私は隠れる事も忘れ、目の前の光景に呆然としていた。
「あなた、人間ね?しかも、ん、裸でここにぃ、……来るなんて、余程欲求不満、なのかしらぁ?」
震えながらも余裕をもった声。
「あなたも、一緒にぃ……どう……?……あん♥」
女性は誘うように笑いかける。
「……ぁ、ぁあ……」
だが、返答する余裕が私にはなかった。
私は目の前の見たこともないものに恐怖を覚えた。
そして、ふと気付く。
……あの触手、この辺りの木と同じ種類ではないか?
私は先程身を隠していた木に眼を向けた。

すると、目の前に二、三本の触手が迫っていた。

その内一本の太い触手が口を開ける様に裂け、粘液を滴らせた。
その中はまるで植物ではなく動物だと言われても納得してしまう様な程肉体的で、噛みつかれたら骨の随までしゃぶり尽くされそうな感覚に陥った。
「ーーヒッ!?」
私は今度こそ恐怖した。

このままだと、あの女性の様にこの触手の餌食になる。

「やだ、嫌だ、嫌だ嫌だ!来るなぁ‼」
私はパニックを起こし、全力で走った。
「ちょっ、そっちは危ないわよ!」
女性の声も耳に入らず離れていく。
出ないと、ここから出ないと!
頭の中はそれで一杯だった。
だが私は知らなかった。その方角が、危険な森の深部に行き着く事に。
「ーーわッ!」
足が何かに引っ掛かり、私は転んだ。
「……痛っ」
私は半ば起き上がって足下を見る。
「……え?」
そこには地面から生えた蔦がわっかを作っていた。触手と同じ質感の蔦が。
まさか、引っ掛けられた!?
「嫌だ、何で私なんだ!?何で私がこんな目に遭うんだ!」
木の上から伸びた無数の触手が私の手足に巻き付いた。
触手は意図も容易く私を持ち上げ、滑った蔦で私を犯し始めた。


「あ、あぁ……♥」
あれから何時間経っただろう。
いや、何分だっただろうか?
自分がどれ程の間犯されていたのかすら覚えていない。
快感と火照りが思考を奪う。時間の感覚も忘れ、ただただ快楽を与える触手に身を委ねた。
否、委ねるしかなかった。
荒んだ人生の中で唯一の希望だった海外への切符も断たれた。
今の私には絶望しかない。
思い出せば涙が出る。
せっかく傭兵として働いたと言うのに、金を貯めたと言うのに、結果がこれか。
「私は……幸せになりたかっただけなのに……」
喘ぎながらも小さく溢した一言。
同時に嗚咽が漏れた。矯声とは明らかに異なった声が森に響く。
「……ひぐっ、ぅ、うぁあ……」
箍が外れたように涙が溢れ出た。声も矯声と嗚咽がごっちゃになり泣いているのか喘いでいるのか分からない状態だった。
何処で何を間違えた?
私の何がいけなかった?
だらしなく泣き出した時、触手の動きに変化が起きた。
「うぅ、……ぁあ♥……ひっ、……ぁ?」
ふと、触手の動きが弱まった。そして、地面にそっと降ろされる。
「……なん、で?」
疑問が頭に浮かんだ時、一つの触手が近付いてきた。

『ナ……テル……ノ?』

それは言葉を喋った。いや、正確には鳴らしていた。
身体をすり合わせ、器用に音を出している。
『ナイ、……テ……ルノ?』
擬似的に喋ってはいるが、その声は明らかに『心配』している。
「……ぅ、ん……」
私は頷いた。
『カナ……シ、ノ……?』
「……うん……」
その触手は異様だった。他の触手とは違い、姿形がやや人間に近く明らかに知性がある。
だが不完全なのだろうか、形が歪で、変化途中の様な状態だった。
『キモ、……チ、ワ……ルイ?』
それはまるで子供の様に無垢だった。
「……気持ち、いい……」
触手の愛撫は、不思議と不快ではなかった。むしろ気持ち良かった。
「でも、……私は、ぐすっ……」
快楽に溺れる人生も、ありかもしれない。
だが、私は、ただ静かで、平穏な人生を送りたい。
「幸せに……、なりたい……………………!」
触手は、人の手を象った触手で、私をそっと、そして優しく抱き締めた。

『シ……アワセ…ィ…スル……!』

そこから先は気を失ったのか覚えていない。


気が付けば、上品な模様の天上を眺めていた。
「……ん」
「……あ、眼を覚ましたわ‼」
最初に聴いたのは、女性の声。
顔を傾けると、白い髪の見覚えのある顔をしていた。
「大丈夫?」
「触手の森で気を失ってたのよ。かなり深くまで行ってたから心配したのよ?」
「……あの時の」
そうだ、思い出した。あの時触手に犯されていた女性だ。
「貴女、自分がどうなったか覚えてる?」
「私は……」
自分が触手に犯された事は鮮明に覚えている。
だが、そのあとの記憶がない。
「……?」
そう言えば、身体の調子がおかしい。
何故だろう、『慣れない』。
私は被さった毛布をどかし、起き上がった。
直後に鼓動が早まった。
「な、何だこれ……!?」
見慣れていた筈の腕が、足が、変色し、変形していた。
いや、変形なんてものじゃない。
自分の四肢が、森で見たような触手と化していた。
「はっ、はっ、はっ……!」
呼吸が早まる。心臓が爆音を上げる。
「い、いやーー!」
「……!落ち着いて!深呼吸して!深呼吸!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
女性が落ち着くよう声をかけるが聞こえない。
私はパニックを起こしていた。
「どうしたのじゃ!?」
悲鳴を聞き駆け付けたのか少女が一人駆け付けた。
「自分の姿を見た途端にパニックを起こしてーー!」
「いかん!すぐに落ち着かせるのじゃ!」
女性が暴れる私を抑え、少女は私の頭に手をかざした。
一瞬その手が光った気がした。

だが、そう認識した時には、目の前が真っ暗になり、眠りに落ちていた。
16/07/01 18:07更新 / アスク
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■作者メッセージ
えっと、いきなり暗くてすんません。
取り敢えずヒーロー出すつもりですけどまだ当分出ません。

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