読切小説
[TOP]
魔犬の山
 男は、岩と木で覆われた坂を走っていた。道らしきものは無く、石の転がる荒れた地面が道代わりだ。歩く事すら辛い坂を、男は駆け上がっている。岩と木で日は遮られ、辺りは昼にもかかわらず暗い。その影の多い場所で、男は荒い息をつきながら走っていた。
 男は石に躓き、荒れた地面に叩き付けられた。男は、よろよろと立ち上がる。男の手足は擦り剥け、血が滲んでいる。岩の影から日が差し、土埃と汗、血で汚れた男の姿が露わとなる。男は、口から唾を吐きながら再び走り始めた。
 男の胸と手脚は激痛を訴えている。だが、それでも男は走らねばならない。捕まれば、嬲り殺しにされるのだから。

 ギディオンは憶病な男だ。農奴として虐げられてきて、暴力に怯える日々を送ってきたためだ。激しい収奪をされても、死なずに済むのならば反抗したりはしない。
 だが、死がギディオンに迫って来た。領主とその臣下達の虐待と収奪は、激しさを増して来た。既に領内では、虐殺される者や餓死する者は珍しくなくなった。そして一つの噂が広まっている。働きの悪い農奴は、領主の手で秘密の場所で強制労働をさせられて死ぬのだと。現に、領主の臣下によって多くの領民が連れ去られていた。
 この暴虐の嵐を、ギディオンは身を縮めてやり過ごそうとした。だが、農奴の中でも立場の弱いギディオンは、のがれる事が出来ない。領主の臣下が、ギディオンの住む掘立小屋に迫って来た。
 ギディオンは逃げ出し、領主の臣下に追い立てられた。ギディオンの無様な逃走を、領主の臣下は笑いながら追いかけ、他の農奴は噴き出しながら眺める。ギディオンは嬲られながら逃げ回った。
 その喜劇めいた逃走は、ギディオンの行為によって凶暴なものと変わった。からかいながら領主の臣下がギディオンの前に立ちふさがり、ギディオンを捕まえようとした。その時ギディオンは、以前盗んだ短剣でその領主の臣下を刺したのだ。ギディオンの反撃を予測していなかったその男は、心臓に短剣を突き立てられ血を噴出しながら倒れた。
 その光景を見て、領主の臣下は憎悪と殺意をむき出しにして追い回し始めた。ギディオンの側に偶然いた農奴は、領主の臣下によって槍で突き刺された。その男から噴き出した血が、ギディオンにかかる。その血を浴びて、ギディオンは小便を漏らした。ギディオンは弱い男であり、ギディオン自身訳も分からない状態で領主の臣下を刺してしまったのだ。反抗心から刺したのではない。
 恐怖と錯乱から、ギディオンは滅茶苦茶に逃げ回る。そして「魔の山」へと逃げ出した。

 ギディオンが住んでいる所には、「魔の山」と呼ばれる所が有る。岩と木、そして霧により昼でも薄暗く荒れた山だ。この山には魔犬が住むと言われ、夜になると犬とも狼とも知れぬ遠吠えが聞こえる。この山に入った者の中には、行方不明になる者も多い。その為、地元の者で魔の山に入る者はほとんどいない。
 臆病者のギディオンは、一度も魔の山に入った事は無い。だが、魔の山以外に領主の臣下から逃げる事が出来る場所は無い。村の中は敵だらけだし、街道へ出る道も先回りされた。農奴達が動員されて、林や平原も捜索されている。農奴達は、ギディオンを見つけたら喜んで領主の臣下に差し出すだろう。ギディオンは、魔の山に入る以外の選択肢は無いのだ。
 ギディオンは、汗と血、土埃そして小便で汚れながら逃げ回った。領主の臣下は、槍や剣を振りかざし、矢を射て彼を殺そうとしている。ギディオンのすぐ横の木や足元の土に矢が刺さる。ギディオンは飛び跳ねたり転がったりする。小便が出尽くしてなければ、再び小便を漏らしただろう。辛うじて大便は洩らさなかった。
 ギディオンは、涙と鼻水と涎で顔を汚しながら、槍と剣、矢から逃げ続けた。ギディオンは、魔の山の奥へと入り込んでいく。立ち止まり方向を変える余裕などない。ただ、憎悪と殺意をむき出しにして自分を追う者から逃げ続ける。
 気が付くと、追手は消えていた。そして自分が来た道を見失い、自分が今どこにいるのか分からない。木と岩がギディオンを囲み、影多い場所は不自然なまでの静けさが支配していた。

 ギディオンは寒気を感じた。汗で濡れた体は、まだ冷えておらず火照っている。それにもかかわらず全身に悪寒が走るのだ。
 雰囲気がまともではないのだ。人間とは全く異質な存在が、この場所を支配している。突き刺すような雰囲気に、ギディオンは体を震わせる。
 ギディオンは、魔の山の伝説を思い出す。人間以上の巨体を持つ黒い犬が、眼から炎を出して徘徊しているという。その魔犬には剣や槍、矢は通じない。その魔犬に捕まった者は、全身を食い裂かれ骨までしゃぶられるそうだ。その魔犬は地獄の支配者の配下であり、犠牲者の魂を食らうという。
 ギディオンは立ち止まり動けなくなった。逃げ出したいがどこへ逃げればいいか分からない。山から出れば、領主の臣下達に嬲り殺しにされる。山にいれば魔犬に食い殺される。そもそも、自分が今どこにいるのか分からない。山を出ようにも道は分からないのだ。自分がどこへ行けば良いのか分からない。
 ギディオンは、突き刺す様な雰囲気に動けないまま震え続ける。汗で濡れた体は脂汗でさらに汚れていく。何者かが自分を見据えている事が分かる。右手に握っている短剣を強く握り締める。血に汚れた短剣だけが、自分の正気を保たせている様な気がする。
「いつまで突っ立ったまま、震えているつもりだ?」
 低い女の声が背後から聞こえた。ギディオンは、掠れた悲鳴を上げながら跳ね上がった。ぎくしゃくした動きで後ろを振り返る。
 岩と岩の間に、黒い獣が立っていた。黒い肌と黒い獣毛で覆われた、人間と獣が合わさったような魔物が、赤く光る目でギディオンを見据えている。熱を持っているかの様な強い視線は、ギディオンの存在そのものを突き刺してくる様だ。ギディオンは、赤い目が自分の視界を覆う様な気がした。ギディオンの体は、自身には制御できない物となり、不規則な痙攣が全身を走る。
 黒い魔物は、ギディオンに飛び掛かって来た。力強く無駄のない動きだ。ギディオンは、反射的に短剣を前へ突き出す。腕に強い衝撃が走り、短剣が弾き飛ばされる。ギディオンは地に倒され、魔物に覆いかぶされる。
 赤い眼を持つ黒い魔物は、ギディオンを見下ろした。地獄の業火のような目が、ギディオンに視線を突き刺している。笑みを浮かべる口からは犬歯が見え、口には涎がたまっている。赤い舌で舌なめずりをしながら、ギディオンを見つめている。
 魔物は、ギディオンに顔を寄せた。ギディオンの体は、弾かれた様に震える。喉笛を噛み裂かれると思い、ギディオンは固く目を瞑る。
 ギディオンの頬に温かく濡れた感触がした。頬を繰り返し濡らし、柔らかい感触を与える。
「そう怯えるな。あたしは、お前にとって害のある存在ではないぞ」
 魔物は、笑みを含んだ女の声で語りかける。ギディオンは、恐る恐る目を開ける。彼は、ようやく魔物が自分の頬を舐めている事に気が付いた。

 ギディオンは、怯えながらも黒い魔物の後を歩いていった。魔物は、ギディオンを殺す気は無いらしい。魔物は、彼を山の奥へと導いていく。
 木や岩の影からさす光で、魔物の姿は分かって来た。黒灰色の肌をして、手脚に黒い獣毛を生やしている黒髪の女だ。耳は犬の耳のような形をしており、尻には黒い獣毛を生やした尾が付いている。口からは鋭い犬歯が覗き、手足には尖った紫色の爪が生えている。犬と人間が合わさった様な姿だ。
 その魔物はヒルダと言う名であり、ヘルハウンドと言う種族であるそうだ。ヘルハウンドは、「冥界の神の番犬」「黒妖犬」とギディオンの国では言われている。罪人を捕え、処刑する犬とも言われている。ヒルダは、「冥界の神の番犬」と言われる通り赤く燃えるような目をしていた。
 だがヒルダは、ギディオンに危害を加えるそぶりは見せなかった。短剣を奪うと、自分に付いて来るように命じただけだ。別の場所で殺すつもりかと怯えるギディオンを、苦笑しながら手を引いて導いた。
 岩の多い荒れた山道を進むうちに、泉が見えて来た。ヒルダは、その泉を指し示す。
「その泉で体を洗え。血と小便を洗い流せ。服を持って来てやるから待っていろ」
 そう言うと、唇の端を釣り上げて笑う。
「逃げようとしても無駄だ。お前の臭いを辿るくらい容易い事だ。体を洗ったくらいでお前の臭いは消えない」
 そう言い放つと、ヒルダは岩の間を走り去った。残されたギディオンは、汚れた服を脱いで泉で体を洗い始める。逃げようにもここが何処なのか分からない。何処へ逃げれば良いのか分からない。ギディオンは、震えながら泉で体を洗う。
 あの魔物は俺をどうするつもりだ?ギディオンには、魔物が何を考えているのか分からない。殺すつもりならとっくに殺しているはずだ。それなのに山の中を引きまわしている。目的が分からない。
 ふとギディオンは、ヒルダの姿を思い浮かべた。怪物じみた姿だが、整った顔立ちの若い女だ。目鼻立ちがはっきりしており、引き締まった表情といたずらっぽい表情が同居している。胸と股間を紫色の鉄の服で少しだけ覆った、露出度の高い格好をしている。その恰好は、豊かな胸や締まった腰、筋肉質の腕や腹筋、太腿を強調していた。
 ギディオンは、頭を振りながら水をかぶる。下半身に力が入り、ペニスが勃ちかけたのだ。魔物に欲情してどうするのだと、ギディオンは体に冷たい水をかけ続けた。

 体を洗い終える頃に、ヒルダは服を持ってきた。ギディオンは、ヒルダから渡された布で体を拭き、服を着る。服は毛織物の上着とシャツ、ズボンであり、質が良い物だ。ギディオンの様な農奴は、着る事が出来ない物だ。
 ギディオンは、ヒルダに導かれてさらに山奥へと入る。山の中に少し開けた所が有り、そこに石造りの家が立ち並んでいた。その集落には、ヒルダと同じヘルハウンドの女達と人間の男達が居る。彼らは、ヒルダが連れて来たギディオンを面白がる様に見ている。
「ここがあたし達の村だ。取りあえずお前にはここに居てもらう。おとなしくしていたら危害は加えない」
 ヒルダは、一軒の家にギディオンを引き込む。しっかりした造りの家であり、頑丈そうな寝台が部屋の奥にある。
「まあ、喰っちまうけどな」
 ヒルダの言葉に、ギディオンの体は跳ね上がる。
「お漏らしはするなよ。せっかく体を洗って服を変えたのだからな」
 ヒルダは苦笑しながら言う。ヒルダはギディオンを抱きしめると、頬を舐め回し始めた。鼻を鳴らしてギディオンの臭いを嗅ぎ、犬の様な手で股間を撫で回す。
「ここまでやれば『喰う』の意味は分かるだろ?」
 ヒルダは、犬歯をむき出しにして笑った。

 ヒルダは、ギディオンの服を脱がしながら体の臭いを嗅ぎ回した。黒灰色の顔を摺り寄せ、形の良い鼻を押し付けながら臭いを嗅ぐ。ギディオンの首筋や、むき出しになった胸板に鼻を擦り付ける。
「あたしは少し汚れていた方が好みだ。臭いを楽しむ事が出来るからな。出来ればお前の体を洗わせたくは無かった。だが、さすがに小便を漏らした後は勘弁してくれ」
 ヒルダは、喉を鳴らしながら笑う。笑いながらギディオンの臭いを嗅ぎ回し、体に舌を這わせていく。腋に鼻を押し付けて、わざとらしく音を立てて嗅ぐ。
「洗ってもここの臭いは残るんだな。男臭いじゃないか」
 ギディオンは、くすぐったさと恥ずかしさに身をよじる。ヒルダは、ギディオンを抑え付けて鼻と舌で責め立てる。そのまま顔を下ろしていき、ギディオンの敏感な部分へと鼻と舌を移していく。同時に、ギディオンのズボンを脱がしていく。
 ヒルダは、むき出しになったペニスを見ると舌なめずりをした。ギディオンの赤黒い肉棒は、すでにそそり立って震えている。ヒルダはペニスの赤く染まった先端に鼻を押し付け、深呼吸するように臭いを吸い込む。
「臭いな、本当に洗ったのかよ?まあ、皮被りだから臭いのは仕方ないか」
 ヒルダは、臭いと言いながら鼻を押し付けて繰り返し臭いを嗅ぐ。美貌の持ち主が、自分の汚い部分に鼻を押し付けて臭いを嗅いでいる。ギディオンは、興奮を抑えられない。たちまち先走り汁があふれて来て、魔物女の鼻を滑り光らせる。
 ヒルダは、男の震えるペニスに顔を擦り付けた。右の頬を摺り寄せ、左の頬で愛撫する。唇をくびれや竿に這わせ、鼻先でペニスの先端をくすぐる。袋に頬ずりを繰り返し、玉を鼻で突っつく。肉感的な美貌が男の欲望の液で濡れ光り、臭いが付いていく。
 ヒルダは、皮が被っている部分に唾液を塗り付けて舐め回した。唇で皮の先を咥えると、ゆっくりと引き下ろしていく。ギディオンは、強い刺激に腰を震わせる。
「こんなに汚しておくとは恥ずかしい奴だな。お前は皮をむいて洗わないのか?ガキじゃあるまいし」
 鼻を鳴らして臭いを嗅ぎ、皮がむけて露わになったくびれに舌を這わせ始めた。目の前の淫猥な光景と絶え間なく走る快楽に、ギディオンは腰と背を震わせる。ペニスの先端からは絶え間なく液が漏れる。
 ヒルダはペニスを口に含み、亀頭とくびれを舌で舐め回す。舌で汚れをこそぎ落とし、唾液と先走り汁を混ぜ合わせながら吸い上げる。強い水音が部屋の中に響き渡る。
 ギディオンは、耐えられずに魔物女の口の中に精液をぶちまけた。腰と背に快楽の奔流が駆け上がり、絶え間なく欲望の液を放ち続ける。ギディオンのペニスは、壊れたかのように液を止める事が出来ない。
 ヒルダは、頬を膨らましながら精液を受け止めていた。喉を鳴らしながら、ギディオンの欲望の液を飲み下していく。繰り返し音を立てて飲み干すと、先端に吸い付き管の中の物も飲み込んでいく。
 ギディオンは、快楽の奔流の中で翻弄されていた。光の明滅が収まって、やっと目の前の者を見る事が出来るようになる。ヒルダは、ギディオンのペニスを口に含みながら笑っていた。ヒルダはペニスを口から吐き出し、大きく息を吐く。ギディオンの鼻に、精液の刺激臭が襲い掛かった。
「震えている割には、濃い物をたっぷりと出すじゃないか。しかも臭いもきつくて、あたし好みだ。だが、少し早すぎるぞ」
 魔物女は、欲情を露わにした顔で笑った。肉感的な美貌を上気させている。官能的な獣が存在するとすれば、ヒルダはそれに当てはまるだろう。
 ヒルダは胸の覆いを外し、豊かな双丘を露わにした。大きな胸だが、形が良くて張りがある。胸の谷間は汗で濡れており、匂い立つような官能がある。ヒルダは胸の谷間にギディオンのペニスを挟み、両手で胸を抑えながら上下に動かし始めた。
 ギディオンのペニスは、柔らかい感触に包まれた。豊かな胸は汗で滑っており、加えてペニスは唾液で濡れている。たぎり立ったペニスの先端からは、先走り汁が次々と溢れ出して来る。ヒルダは、ペニスの先端を舌でくすぐりながら唾液を垂らす。胸とペニスの滑りが良くなり、ギディオンに与えられる快楽は増していく。
 ヒルダは、濡れたペニスの先端に鼻を押し付けて臭いを嗅ぎ始めた。鼻を執拗に擦り付けてペニスを刺激する。ペニスから鼻が離れると、ペニスと鼻の間に透明な液の橋が出来た。
 野生の魅力のある美女が、自分の汚い物に鼻を擦り付けて汚れている。その淫猥な光景に我慢できなくなり、ギディオンは白濁液を放った。二度目なのに勢い良く飛ぶ白濁液は、野生の美貌の真ん中にぶち当たった。艶やかな黒い肌に、白濁液が飛び散っていく。黒い双丘に愛撫されている赤黒い肉棒は、白い臭液を繰り返し放つ。
 ギディオンは、荒い息をつきながら目の前の女を見つめていた。肉感的な美貌が、自分の汚液で汚れている。鼻は白濁液で覆われ、額と瞼にも飛び散っている。黒い胸は、所々に白い模様が出来ている。白濁液はきつい臭いを放っているにもかかわらず、ヒルダは微笑んでいた。
「やっぱり早すぎるな。せっかく濃い物を出せるのだから、もっと我慢しろよ。まあ、これから鍛えればいいか」
 ヒルダは、鼻から口へ垂れて来た重たげな精液を舌で舐め取った。そしてギディオンに笑いかける。
 ヒルダは立ち上がると、自分の股間を覆っている鉄の覆いを外した。外したとたんに、熱気と共に濃密な匂いが漂い始める。濃い獣毛に覆われた股は、ヴァギナから溢れている液で濡れそぼっていた。
「さあ、今度はお前が舐めろ。隅から隅まで丁寧に舌を這わせるんだぞ」
 ヒルダは、ギディオンの顔にヴァギナを押し付けて来た。濡れた感触と共に、古いチーズの様な匂いが顔を覆う。ギディオンはむせ返るが、ヒルダは押し付け続ける。
 ギディオンは、ゆっくりと舌を這わせ始めた。匂いが鼻を犯し、口の中に濃い味が広がる。むせ返りながら舌で濃い獣毛をかき分け、肉襞を舐めていく。肉襞の外側を舐めると、次第に中へと舌を潜り込ませて襞と襞の間を舐める。奥へ進むに従い、匂いと味は濃くなる。
 ヒルダは、陶然とした顔で喘いでいた。薄目を開けて自分に奉仕をする男を見下ろし、小刻みに震えながら悦楽に浸る。犬の様な尾が、張りのある尻と共に震える。全身から汗が浮かび上がって来て、火照る体を薄っすらと光らせていく。
 ヒルダは、ギディオンの顔を離して押し倒した。ギディオンに跨ると、熱を放ちながら愛液を溢れさせるヴァギナにペニスを飲み込んだ。固いペニスを奥まで銜え込み肉襞で締めあげると、引き締まった腰を動かし始める。円を描く様に腰を動かしながら、濡れそぼった肉襞で繰り返し締め上げる。
 ヒルダは、ギディオンに顔を寄せた。白濁液で汚れた黒い麗貌は、濃い臭いを放っている。ヒルダはギディオンの口に吸い付き、舌を口の中に潜り込ませる。女は男の唾液を貪りながら、自分の唾液を流し込む。
 二度精液を放ったにもかかわらず、ペニスは強い快楽を伝えてくる。渦を巻く肉の泉が、ペニスを抱きしめ、愛撫する。子を孕む器官が亀頭の先にぶつかり、子種を出せと強く催促する。
 ギディオンは、三度目の射精をした。三度目とは思えぬ激しい放出だ。ペニスと睾丸が溶けて精液となり、放出しているようだ。男は痙攣しながら声を上げ、精を放ち続ける。子種の激流が子宮を打ち抜く。
 子宮を撃ち抜かれた女は、男と同様に痙攣しながら声を上げた。汗を飛ばして体を震わせ、口から涎を垂らしながら獣じみた声を上げる。男と女の、雄と雌の声は重なり、部屋の中に響き渡る。雄と雌は、共に痙攣しながら汗と涎を飛ばし続ける。
 二人は動きを止めた。汗で濡れた体が重なり合い、小刻みに震えている。雄と雌の激しい息遣いが部屋の中に響く。重なり合った雄雌からは、熱が放散され続けている。
 雌が再び腰を動かし始めた。ゆっくりと、次第に早く動かし始める。雌の口からは、獣じみた喘ぎ声が上がり始める。雄も、喘ぎ声を上げながら腰を動かし始めた。

 部屋の中には性臭が充満していた。精臭と共に熱気の名残がある。寝台に横たわっている二人は、繰り返し体を交えたのだ。精力と体力がなくなると眠りにつき、目覚めると手早く食事を取って再び交わりを行う。そうして三日間交わり続けたのだ。
 寝台に横たわっている女の体中に、生渇きの精液がこびりついていた。黒灰色の体は、精液と愛液、唾液、汗で滑り光っている。黒髪や黒い獣毛は、汗で濡れている上に所々が精液で固まっている。体の至る所に濃厚な臭いが染み付いていた。
 ヒルダは、自分の左腋を見ていた。濡れて光っており、熱気と共に匂いを放っている。ギディオンの顔に押し付けて舐めさせたのだ。ヒルダの右腋は、左腋以上に滑り光って刺激臭を放っている。ギディオンのペニスを挟んで扱き、精液を搾り取ったのだ。
 ギディオンは、汚れきった女をぼんやりと見つめていた。自分が何故こんな事をしているのか分からない。領主の農奴狩りから逃れて魔の山に逃げ込んだら、伝説の魔犬に囚われて交わりを強要される。状況を理解出来無いまま、快楽に溺れている。自分がどうなっているのかさえ、ギディオンには分からないのだ。
 ヒルダは、ギディオンの力の抜けた体を見つめた。値踏みするようでありながら、どこか面白がる様な目付きと表情だ。
「体は弱いが、まあ戦う事は出来るだろう。あとは訓練次第か。時間が無い事がきついな」
 ギディオンは、力の抜けた表情でヒルダを見た。ヒルダが何を言っているのか分からない。
「お前に逃げる所は無いという事だ。戦うしかないんだよ」
 ヒルダは、ギディオンの眼を見つめながら言い放つ。
「領主がお前達をどれだけ締め上げているかは分かっている。あたし達の集落には、お前と同じ農奴だった者もいる。今までは、ここへ逃げ込めば領主から逃げる事が出来た。だが、これからは違う」
 ヒルダは傍らにある台の上のゴブレットを掴み、壺から葡萄酒を注ぐ。葡萄酒を一気に飲み干すと、集落と山の現状を説明し始めた。
 この魔の山は、元々はヘルハウンド達の縄張りだった。集落は、ヘルハンド達の住処だ。だが山の麓に人間達がやって来て、開拓を始めたのだ。ヘルハウンド達は、山に入り込む男を夫にする為にさらい、山からは出さなかった。女が入った場合は、脅して追い払った。そうしている内に、この山は魔の山と見なされるようになった。
 人間達は、近年まで山に入ろうとはしなかった。たまに逃亡した農奴や罪人が入り込むくらいだ。彼らはヘルハウンドのものにして、山からは出さない。それでうまくいっていた。
 だが、状況が変わってしまった。領主がこの山に銀鉱がある事に気付き、臣下と山師を派遣して採掘をしようとしているのだ。銀鉱が見つかったらこの山は荒らされ、ヘルハウンド達の縄張りが犯される。その為に、ヘルハウンドとその夫である人間達は、領主の臣下達と戦おうとしているのだ。
「逃げる事が出来るのならば、逃げるのもいい。だが、お前は逃げる事が出来ない状況にあるんだよ」
 ヒルダはギディオンに体を寄せ、顔を近づけながら話す。ヒルダの赤い目は、炎を思わせる。
 ヒルダの言う通り、逃げる事は難しい。この地方一帯は領主の支配地であり、領主の監視の目が張り巡らされている。そしてこの国は、農奴制を敷いている国だ。領主から逃げても、国中で逃亡農奴を狩っている。
「あたし達と共に戦え。そうすればお前を守ってやる。戦い方は教えてやる」
 ヒルダの熱を孕んだ言葉に、ギディオンは体を震わせる。ギディオンは虐げられて来たのだ。怯えているギディオンには、戦う事は簡単に出来ない。
「領主とその臣下に復讐したくはないのか?」
 ヒルダは、怒号する様に言葉を放つ。
「奴らはお前を殴り、こき使い、馬鹿にし続けた。お前が作った作物を奪い取って贅沢をしていた。お前が飢えている時に、飯をたらふく食っていたんだ。お前が寒さに震えている時に、温かい部屋で上等の服を着ていたんだ」
 ヒルダは、ギディオンの耳に口を寄せる。
「お前は、あたしとやるまでは童貞だったんだろ。臭いで分かる」
 ヒルダは、一言ずつ区切るように言う。
「お前が一人で慰めている時に、奴らは女を抱いていたんだ」
 ギディオンは、苦痛と屈辱の人生を思い出していた。ヒルダの言った事は正しい。ギディオンは奪い取られ続け、満たされる事は無かった。他人が自分の労働の成果で贅沢する事を、指を咥えて見ている事を強要された。他人が女とやるのを見せ付けられ、自分は女を相手に性欲を満たす事は決して出来なかった。
「あたしが復讐を助けてやる。戦い方を教えてやる」
 ヒルダは、ギディオンの肩を抱き撫でまわす。
 ギディオンは、領主の臣下を刺殺した時の事を思い出していた。あの時は訳の分からない状態だったが、今思い返すと人生で一番の快挙だ。ギディオンの体に力が入っていき、快楽がゆっくりと広がり始める。そうだ、快楽だ!復讐は快楽だ!ギディオンは心の中で叫ぶ。ギディオンのペニスが怒張し始める。
 ヒルダは、ギディオンを見つめながら股間を愛撫する。ヒルダの顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。

 ギディオンは、次の日からヒルダの手で兵士としての訓練を受けた。剣を渡され、戦いの基本を叩き込まれる。痩せて力の無いギディオンは、直ぐに倒れてしまう。ヒルダは繰り返し休憩を取りながら、手取り足取り戦い方を教えて行った。
 兵士としての適性はあまりないが、ギディオンには長所があった。意外と我慢強い事だ。農奴として酷使されてきた為に、兵士としての訓練の辛さも当たり前の事として受け入れた。自分を虐げた者に対する憎しみもある。その為、ヒルダの訓練を懸命に受けていた。
 ただ、時間が無さ過ぎた。領主の臣下達は、すでに採掘を始めている。農奴達を使って坑道で銀を取っているのだ。領地で行われていた農奴狩りは、銀の採掘のための人員を手に入れる為に行われていたのだ。これ以上山を荒らさせない為にも、一月後には襲撃を行わなくてはならない。それまでに、ギディオンに兵士としての基本を叩き込まなくてはならないのだ。無茶と言うしかないが、集落の人員が不足しているのだから、仕方の無い事だ。
 ギディオンとヒルダは、夜になると交わり合った。快楽を貪るためという事もあったが、ギディオンをインキュバスにする為にやっていた。魔物の女と交わり合った人間の男は、男の淫魔であるインキュバスとなる。そうなれば体の機能は上がる。
 ただ、これも時間が無さ過ぎた。女の淫魔たるサキュバスならば、人間の男をインキュバスにする事は容易いだろう。だが、ヘルハウンドの様な普通の魔物は、簡単にインキュバスにする事は出来ない。時間をかけて交わりを重ねる必要がある。
 結局、兵士としての基本を身につける事もインキュバスになる事も出来ずに、ギディオンは戦いに参加する事となった。

 ヘルハウンドの集落から北に、さらに山奥へ入り込んだ所に坑道がある。ヒルダ達ヘルハウンドの大半は、坑道の襲撃に参加していた。彼女達の夫達も同行している。ギディオンは、ヒルダの指揮する部隊の一員として参加していた。
 坑道には複数の人間が出入りしていた。銀の在りかを突き留める山師と、銀を掘り出す農奴、農奴を監視する領主の臣下だ。一番多いのは農奴であり、彼らは破れた服を着て痩せこけている。ろくに食料も与えられずに酷使されている様だ。古代帝国の鉱山で働いていたという奴隷と似た様な状態かもしれない。
 襲撃計画は、いたって単純だ。領主の臣下達を倒し、農奴達を開放する。領主の臣下達はヘルハウンドが倒し、農奴の開放はヘルハウンドの夫達がやる。ヘルハウンド達は、領主の臣下達を倒す際に派手に暴れて人を引き付ける。手薄になった農奴の監視の者を夫達が倒し、農奴を開放するのだ。
 岩や木の陰に隠れながら、ヘルハウンド達は坑道に迫る。いつでも襲撃できるように待機する。その背後に、ヘルハウンド達が襲撃した後に坑道に入り、農奴を開放する者達が待機した。合図が始まる時を待ち構える。
 轟音が山に響き渡った。領主の臣下や農奴が夜に寝泊まりする宿舎が、火薬により吹き飛ばされたのだ。領主の臣下達が、剣や槍を手に燃え上がる宿舎に向かって走り出す。待機していたヘルハウンド達が、領主の臣下達へ背後や横から飛びかかる。たちまち怒号と悲鳴が山の中に響き渡る。
 坑道からは、領主の臣下達が次々と出てきた。その者達にも、ヘルハウンド達は襲い掛かる。ヘルハウンドの黒い体は激しく動き回り、剣や槍を振り回す者達を打ち倒し、掻き回す。
 ギディオンや男達は、ヒルダの指揮に従い岩陰や木の影から飛び出す。騒動でがら空きの坑道の中へと走った。

 坑道の中はわずかな灯火しかなく、闇が大半を覆っていた。道は曲がりくねり、分かれている。幸い一定間隔に灯火が置いて有る為、迷わずに済む。それにヒルダの嗅覚が頼りとなった。
 坑道の所々では農奴達が働いていた。元々農奴は、大した食事を取る事が出来ずに痩せている。だが、彼らの痩せ方は異常だった。骨と皮ばかりと言っても言い過ぎでは無い。襤褸をまとった体は汚れきっており、強烈な臭気を坑道内に充満させている。やつれた垢だらけの顔は、眼だけがぎらついていた。
 ギディオンは、農奴達の有様に震えあがった。もし、逃げ出さずに領主の臣下に捕まれば、ギディオンもこうなっていたのだ。剣を持つ手は、堪える事が出来ずに震え続ける。
「この先に酷い臭いがする」
 ヒルダは、嫌悪の滲む声で呟く。ヒルダは、農奴にこの先に何があるのか質問する。農奴は無表情にヒルダを見つめると、死んだ者達が運ばれると答える。
 ヒルダとギディオンは、臭気が放たれる奥の道へと進む。先に進むにつれて、ギディオンの鼻にもおぞましい臭いがはっきりと分かるようになった。坑道の先に少し開けた所が有る。二人はそこに入り込む。
 ヒルダは手をギディオンの方へ出し、ギディオンを止める。二人の前には黒い穴が開いていた。穴の中から腐った臭いが二人に叩き付けられる。ギディオンは、穴に向かって灯火を突き出した。
 穴の中には、腐乱した死体が詰まっていた。何十と言う死体が詰め込まれ、腐った肉が溶けて重なり合っている。腐った肉の間から骨が露出し、複数の者の骨が重なり合っている。その腐敗物は動いていた。虫か、あるいは動物が腐肉の間を蠢いているのだ。
 ギディオンは、身を屈めて嘔吐した。胃の中が裏返るような感触と共に、吐瀉物が口から噴き出す。止めようとしても止まらず、口からは汚物が噴き出し続ける。
 ヒルダは、ギディオンの方を見ない。穴の中の腐敗物を引きつった表情で見つめ続けていた。

 ギディオンとヒルダは、穴から引き返した。ギディオンの体は震えている。暗い坑道は恐怖を掻き立てる場所だ。その奥に、腐り果てた死の場所があったのだ。ギディオンは、子供時代に闇へ恐怖を感じた。その闇が、よりおぞましい姿をして大人になった自分の前に現れた気がする。
 ギディオンは、早足で歩きながらヒルダの顔を見た。ヒルダの顔からは感情が欠落している。ただ、赤い眼が闇の中で光っていた。ギディオンは、ヒルダから目を逸らす。
 ギディオンは走りながら震えていた。恐ろしいのだ。自分は死が支配する場所で、殺し合いをしなくてはならない。あの腐り果てた者達と同じ姿になるかもしれない。いや、奴らに生きたままあの腐乱物で埋まった穴に放り込まれるかもしれない。剣と灯火を持つ手は、抑える事が出来ずに震える。
 突然、ギディオンはヒルダに突き飛ばされる。ギディオンは岩に叩き付けられ、苦痛に呻く。ギディオンの居た場所に、闇の中から剣が付き出される。剣は、地面に転がった灯火の明かりを反射してぎらつく。複数の剣が、闇の中から突き出される。
 わずかな灯りと闇の中で、ヒルダは複数の者と戦っていた。鈍く光る剣が次々と繰り出される中、黒犬の魔物女は剣を掻い潜って敵を打ち倒そうとする。狭い空間に怒号と獣声がこだまし、剣のぶつかる音と打撃音が響き渡る。
 闇の中で、ギディオンは震えていた。立ち上がろうにも、足が震えて腰に力が入らない。病にかかったように手は震え、剣を落しそうになる。口からは、掠れた奇声が漏れる。
 俺には無理なんだ。俺は、ただの臆病な農奴だ。戦いなんて出来ないんだ。ちょっと訓練した程度で、敵と戦う事は無理なんだ。歯の根が合わないほど震えながら、ギディオンは無理だ無理だと呟き続ける。
 その時、ギディオンの中に自分の人生が目まぐるしくよみがえってきた。他人に這い蹲らされてきた人生、殴られながら謝り続ける人生、馬鹿にされながら卑屈な笑みを浮かべる人生。俺は、何も手に入れる事は出来ずに奪われ続けて来た。この先も奪われ続けるだろう。這い蹲り、馬鹿みたいに謝り続け、馬鹿にされているのにヘラヘラ笑う人生。そんな人生に何の意味があるのだ?
 意味なんてどうでもいい。俺は怖いんだ。身を縮めながら嵐が過ぎる事を願うしかないんだ。怖いから這い蹲り、謝り、卑屈な笑みを浮かべるんだ。弱い奴はそうするしかないんだ。
 ふと、領主の臣下を刺し殺した時の事を思い出した。あの時は、訳も分からず突き出した短剣が、偶然心臓に突き刺さった。だが、あの時の感触は良く覚えている。短剣が肉の間に埋まり、手ごたえがあった。自分の手に他人の命が感じられた。自分の手で他人の命を破壊したのだ。
 ギディオンのペニスに力が入り始めた。人を殺した時の感触が、ギディオンに力を与えていく。力は腰に広がり、足へと広がる。足の震えは止まり、立ち上がる力が湧いて来る。手にも力が入っていき、剣を握り持ち上げる力が湧き上がってくる。
 ギディオンは、訓練の時の事を思い出した。どう体を動かせばよいか思い出した。体がしっかりと覚えている。
 ギディオンは立ち上がり、腰と足に力を込めた。ヒルダを後ろから刺そうとする者に目を据える。手には力を入れ過ぎず、腰に力を入れる。そのまま敵の背に剣を突き立てようと飛び出し走った。剣は敵の背に突き刺さる。剣をそのまま埋め込み、力を込めて引き抜く。再び突き刺し、手をひねって抉る。
 剣を抜くと、敵は音を立てて倒れた。敵を倒す興奮に、ギディオンのペニスは怒張する。ギディオンは素早く辺りを見回す。敵はまだおり、ヒルダは戦い続けている。腰に力を入れ直すと、別の敵に突きかかっていった。

 銀鉱は、ヘルハウンド達が制圧した。ヘルハウンド達には死者は出なかったが、重傷者が何人か出た。領主の臣下達にも死者はいない。ヒルダやギディオン達が使った武器は、魔界銀製だ。衝撃を与えるが、致命傷は与えない。
 問題なのは、強制労働をさせられていた農奴達だ。極端な栄養不良な上に、ひどい過労で全身を責め苛まれている。加えて、領主の臣下達から激しい暴行を受けていた者もいる。ヘルハウンド達は治療に当たっているが、命の危機にある者が数多くいた。
 ヘルハウンド達は、領主の臣下達を引き出した。ヒルダは、無表情のまま彼らの前に立つ。彼らの首謀者格の男の前に立つと、何も言わず地面に突き倒して服を引きはがした。男の口中に布を突っ込む。
「お前達に地獄を味あわせてやろう」
 ヒルダは、平板な声で言い放つ。
「あたし達は殺しをやらない。だが、糞野郎に優しくするつもりも無い」
 ヒルダは男の前にしゃがみ込み、左手でペニスを掴む。右手には短剣を持っている。魔界銀製の短剣では無く、鉄製の物だ。
「男の物は、あたし達にも大事な物だ。だが、お前たち糞野郎の物には何の価値も無い」
 ヒルダの右手が素早く動き、銀色の光が男の股間に吸い込まれる。男の口から濁った声が漏れた。男は股間から血を噴出しながら、狂ったように身悶える。ヒルダの左手には、赤く染まった肉が握られている。
「お前は、自分の股間を見るたびに今日の事を思い出すだろう。そのたびに、自分が何故こうなったのか考えてみるがいい」
 ヒルダに顔には、声と同様に感情は無かった。
 ギディオンは、血で汚れた男の股間とヒルダが持つ血で濡れた短剣を見つめていた。

 捕虜にした領主の臣下は、全てペニスを切り落とした。切り落とした後、焼けた鉄の棒を当てて血を止めた。そして薬を塗り、布を巻きつける。これで死ぬ事は無い。だが激痛と衝撃で、領主の臣下達は痙攣しながら身悶えしている。
 そのまま領主の臣下達を放置すると、解放した農奴達を引き連れて集落へと引き上げ始めた。農奴達の中には、歩けないほど弱っている者もいる。彼らはヘルハウンド達が背負い、あるいは肩を貸して運んでいる。治療の甲斐なく息を引き取った農奴達もいた。死者は、坑道から離れた草原に埋葬して墓を作った。坑道の中の腐乱死体の詰まった穴は、油をまいて火を付けた。
 引き上げの最中も困難は続いた。領主の臣下の別働隊がおり、引き上げる道中で襲い掛かって来たのだ。戦闘力ではヘルハウンド達の方が上だが、弱っている農奴達を守りながら戦わねばならず、苦戦を強いられる。
 そんな中で、ギディオンは積極的に戦った。前へ出て剣を振るって勇戦した。ギディオンの顔には、歓喜の表情がむき出しとなっている。そんなギディオンの表情を、ヒルダはもの思わしげに見ていた。
 ヒルダ達と領主の臣下との攻防戦は、ヒルダ達の勝利に終わった。ヘルハウンドの一人が集落へ行き、そこを防衛している部隊を呼び寄せたのだ。領主の臣下達は挟み撃ちとなり、大半が捕虜となった。
 捕えた領主の臣下達は、ペニスを切り落とされる事は無かった。だが、ヘルハウンドの爪の痕を背に付けられた。命に別条はないが、生涯消える事の無い痕だ。それを付けた後に裸に剥き、領主の領地の広場にある木に逆さ吊りにして曝した。

 ギディオンは、剣を持って麦畑に潜んでいた。領主に対する反乱を起こすためだ。麦畑にはヘルハウンドと農奴達が潜んでいる。領主の城を襲撃しようというのだ。
 ヘルハウンドの山から領主の臣下を追い払う事は出来た。だが、銀鉱があると分かった以上、領主は何度でも山に侵略してくるだろう。ヘルハウンド達は、領主と全面戦争する覚悟を決めた。彼女達は、領内にいる農奴の反乱勢力と手を組んだ。農奴達は領主の圧政を憎悪し、反乱を起こそうとしていた。
 ヘルハウンドは、反乱勢力をまとめ上げた。農奴達の反乱勢力は各地に分散している。ヘルハンドは、その勢力間の連絡に努めて結びつけ、まとめあげた。ヘルハウンドを恐れる者もいたが、ヘルハウンドの夫達が説得した。人間だけでは反乱は失敗に終わるだろうが、ヘルハウンド達のおかげで反乱勢力は力を結集できている。
 ギディオンは、剣を硬く握り締めて城を見つめ続ける。肩が震えているが、怯えているのではない。歓喜に震えているのだ。ギディオンは、戦いには歓喜が、悦楽があるのだと分かったのだ。敵を暴力で倒す快感、これに勝る快感は無い。性の交わりをしのぐ快楽だ。ギディオンのペニスは怒張していた。
 ギディオンは、自分から大切な物が奪い取られていた事を知った。金や食料を奪われていた事では無い。尊厳を奪われていた事でもない。暴力を振るう権利を奪われていたのだ。領主とその臣下は、ギディオンに対し一方的に暴力を振るい続けた。暴力の快楽を自分達だけで味わっていた。ギディオンが暴力を振るう事を許さなかった。
 俺は、暴力を奪い返すのだ!奴らに暴力を振るうのだ!俺は、暴力の快楽を取り戻さなければならないのだ!ギディオンは無言で叫ぶ。
 ギディオンは、領主の臣下を殺した時の事を思い出した。領主の臣下と戦い、剣で突き刺した時の事を思い出していた。その時の快楽を思い返していた。
 ギディオンは、城を見つめ続けている。これから味わう快楽を思い浮かべ、さかっている。犬のように荒い息をつき、ペニスを怒張させていた。

 ヒルダは、ギディオンを見つめていた。その顔には苦悩が浮かんでいる。ギディオンの中の呼び覚ましてはいけない物を、自分は呼び覚ましてしまったと分かっているのだ。
 だが、ギディオンを戦わせる必要があった。戦う事を拒否し続ければ、ギディオンはいつまでも虐げられる。虐げられる者はいつまでも虐げられ続け、虐げる者はいつまでも虐げ続ける。その醜悪な関係を打破するために、ギディオン達に戦わせたかった。戦う事の尊さを教えたかった。
 ギディオンに渡した物は、人を殺さぬ魔界銀製の剣だ。いずれギディオンはインキュバスとなり、人を殺す事を嫌悪するようになるだろう。ヒルダは、ギディオンが暴走しないように監視するつもりだ。
 だがギディオンの中に、暴力を振るう快楽と陶酔は残るだろう。それは、ヒルダにもどうする事も出来ないかもしれない。
 ヒルダは、魔王の事を思い浮かべた。自分達魔物を、人を愛する存在とした魔物だ。彼女は、ヒルダのやった事を間違っていると見なすかもしれない。
 あたしは人間を、ギディオンを愛している。でも…。
 ヒルダは、沈んだ表情でギディオンを見つめ続けた。
15/03/10 23:04更新 / 鬼畜軍曹

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33