連載小説
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乳牛母親が現れた!
「はぁ!、、、はぁ!、、、はぁ!、、、」


とある街、某月某日、時刻は昼の2時過ぎ。
細身で小柄の青年がひとり、街の裏路地を息を切らしながら走り抜けていた。
彼はこの街にあるそれなりに大きな雑貨屋「ビレバン」に勤める店員で、周囲に注意深く気を配り、耳目を働かせ人目を避けるように逃げながら走っていた。
いや、正確に言うと彼が避けていたのは「人の目」では無かった。


「でてこーい!にんげーん!おーい!にんげーん!」

「怖くないですよー!むしろとーっても気持ち良いですよー!」


彼が進もうとしていた路地の先から、高音で綺麗な女性の声が大きく明るく元気よく聞こえてきた。
その声は、純粋で無邪気な幼い少女のような、それでいてどこか色っぽく官能的で欲情しきっている大人の女のような、そんな不思議と男の性欲を掻き立てる魔性の籠った声だった。


「!!、、、まずい!」


その声を聞いた瞬間、青年は転びそうになりながらなんとか止まり、方向変換をして進んでいた道を少し戻り別の路地へ入って行った。


「くんくんくんくん、、、こっち!こっちから男の臭いがするわ!」

「キャハ!おっとこのこー!まてまてまてー!」


青年が逃げ込もうとしていた路地から、3人の女性が騒がしく走り込んできた。
見た目15歳ほどの美しい少女3人組だった。
しかし
その少女達は普通の少女達ではなかった。
一般的な人間には決して見受けられることのない身体の一部をその身に有していた。頭から角や口から牙が生えていたり、本来腕があるべき部分に美しく艶のある鳥の羽根を持っていたり、下半身そのものが毛で覆われた犬のものやたくましい馬のものになっている異形の身体を持っていたのだ。

そう、青年が逃げまわっていたものの正体は魔物娘だったのだ。

それは本日の昼前だった。
誰もがいつもと変わらぬ日常を過ごし、今日も1日をいつもと同じように過ごすんだと思っていた。
仕事や勉強に励むのがめんどくさい、そろそろお腹が空いてきたな、そんなことをこの街の誰もが考えていた。そんな時刻だった。
青年が住む街が突如魔物娘の大群に襲われてたのだ。

青年が住む街はそれなりに大きな街ではあるものの、有名な特産品や観光名所も無ければ世界的に名を馳せるような有名人が産まれたわけでもない。
人工はそれなりに多いがゆえ労働者が不足することもなく、かといって多すぎて民の生活を圧迫するような事もなく、希に一部の住人が犯罪等は起きてしまうも、基本的に住人の大多数が最低限の労働を行いそれなりに豊かな生活を送っている。
そんなどこにでもあるような、だからこそ平和で争いとは無縁の街だった。
そんな街が魔物娘の大群に襲われ、平和すぎたこの街はものの数分で色欲の熱に当てられ発情した男女の喘ぎ声と性器同士が激しくぶつかり合う淫らな水音が響く魔の歓楽街へと姿を変えたのだ。







「はぁ!はぁ!はぁ!、、、くそっ!何で!?何でこんなことに!」


青年は路地を走りながらそんなことを呟いた。


「ウガ!見つけたぞ!人間だ!オスの人間だ!!」

「うわ!しまった!」


青年の後方、約100メートルほど離れた先から元気で楽しそうな魔物娘の声を聞いた。
思わず振り返ると、そこには茶色いモフモフの毛を全身に纏い少女のような可愛らしい見た目をした狼型の魔物娘がいて、こちらを指さして舌をベロりと出していた。

モフモフでさわり心地の良さそうな尻尾をバタバタと振り回し、まるで大好物のハンバーグを前にした子供のようにその大きな目を輝かせてこちらを見ていた。


「ハッハッハ!ウガ!まて!まてまてまて!!!」
バビュン!!!

「ひぃ!助けて!助けてくれ!!!」
バッ!!

「ウガ!ウガ!逃がさないぞ!おとなしく捕まれ!」

「ひぃいいい!」


猫に追いかけられる鼠のように脇目も振らずに全力疾走で走り出すも、追いかける狼魔物娘の足は非常に速く青年との距離をどんどんと縮めて行った。
あとものの数秒で青年が捕まってしまう、あとほんの少しで狼魔物娘のモフモフの毛で覆われた逞しくも肉球が気持ち良さそうな狼の手が彼に届く、そんな絶体絶命のときだった。



バフゥゥゥン!!!



「!?ウガガガ!くっさい!!!なんだウガ!いったい何が起こったウガ!?」

「うわ!くさっ!なんだこれ!?」


突如脳髄を貫通し吐き気を起こすほどの物凄い刺激臭が、青年と狼魔物娘の周囲を襲った。
あまりの刺激臭に青年と狼魔物娘は耐えられず、目を閉じ鼻を抑えて地面に倒れこんでしまう。


「そこのキミ!大丈夫か!」


刺激臭に悶えていると、青年は今度は別の男性に声をかけられた。
この街の兵士の服を着た、青い髪に青い瞳、スマートながらもしっかりと鍛えられた身体をしており、若いながらも頼もしく見える兵士だった。
どこからともなく突然現れた兵士に手を取られ引っ張り起こされた青年は、そのまま兵士に連れていかれる形で魔物娘に捕まる窮地を脱したのだった。








「ふぅ、ここまで来れば大丈夫だ。」


数分ほど兵士に導かれ、その後は一才の魔物娘に見つかることもなく別の路地に兵士と青年は行き着いた。
周囲の安全を確認すると、兵士は青年に向かって柔らかく微笑んだ。
落ち着いてよく見てみると俺より年下に見えるな、と助けられた青年は思った。


「あ、、、はい!助かりました!兵士さん!ありがとうございます!」

「僕はゴウマって言うんだ。よろしくな。」


青い髪をした兵士は自らをゴウマと名乗った。


「あ、、、ゴウマさん!ありがとうございます!それにしても、すごい臭いでしたね、、、なんですか?あれ?」

「臭い玉だ。さっきみたいな獣系の魔物娘は基本人間より鼻が良いからな。逆に言うと鼻が良い分人間より刺激臭に弱いんだ。流石に獣系以外の魔物娘には効果は薄いけどね。」


ゴウマは自身のベルトにくくりつけられ腰から下がっていた革袋から、野球ボールほどの大きさの玉を取り出し、青年に軽く見せながら説明した。
その後、優しく微笑んでいた顔を鋭く少し怖い顔にして道の先を指差し口を開いた。


「この道をまっすぐに進むと逃走用の馬車が待機してるからそれに乗せてもらうんだ。あと10分ほどで出発する。まだ間に合うから急ぐんだ。」

「あ、、、ありがとうございます!あ、ゴウマさん!貴方は?」

「僕はもう少しここにいるよ。まだ助けられそうな人がいるかもしれないからね。」

「そんな!いくらなんでも、、、」

「僕はこの街の兵士だ。この街の住人を助けるのが僕の仕事なんだ。わかったら早く行ってくれ。馬車が行ってしまう前にね。」

「、、、ありがとうございます、、、ゴウマさん!」


青年はゴウマに示された道の先に走り去っていった。









「ここにはもう、人間は誰もいないか、、、」


ゴウマは雑貨屋の青年と別れた後、魔物娘に襲われそうになっていた人間をさらに10人ほど助けていた。
そして隠れる場所が多くて出入りもしやすい建物に身を隠しながらもう助けられる人間がいないことを確認して悲しがる半面、できる限りの人間を助けられたことに安心をしていた。
ふぅ、、、とため息をひとつつくと、水を一口分含みくちゅくちゅと口の中で弄んだあとその水をゆっくりと飲み込んだ。
そんなほんの少しの休憩の後に、改めて魔物娘に占拠されてしまった街を見て物思いに更けていた。

この街は僕の故郷だ。
僕の生まれ育った街だ。
良いことばかりでは無かった。
苦しいことも辛いこともいっぱいあった。
でも楽しいことも嬉しいこともいっぱいあった。
真っ黒でドロドロしたもう思い出したくもない思い出がたくさんあった。
でもキラキラ輝く宝石のような思い出もたくさんあった。
そんないろんなものがぎっちり詰め込まれた僕にとってたったひとつの唯一無二の街だった。
ゴウマはそんなことをぼんやりと考えていた。

ゴウマは10歳のころに親に捨てられた。
身寄りのなかったゴウマは使い古されたボロ雑巾のように路地裏に倒れていたところを、この街の兵士に助けられた。そしてそのまま兵士たちの寝泊りする寮に連れてこられた過去があった。
そこで寮の管理人であったデックさん
そのデックさんの娘で妹のように仲の良かったナッツちゃん
助けてくれたタニさん
鬼教官のダルニアンさん
その他にも訓練兵のころからずっと気が合ったリンクリードやエヴァン
全く気が合わなかったフアドやイーゴ
明るく楽しい街の人々
様々な人との出会いがあった僕にとってこの一生涯決して忘れることの無い特別な街だった。
そんなことをぼんやりと考えていた。


「ふぅ、この街とも今日でお別れだな、、、今までありがとう。
、、、さようなら。」


そう一言呟くと、ゴウマは身を隠していた建物から出て街の外れのところに隠してある愛馬の元へ走った。










「、、、馬がいない!?やられたか、、、」

街の外れ
馬を隠していたボロ小屋と大きな木が数本生えているだけの閑静な広場にやって来たゴウマは驚いていた。
隠していたはずの愛馬がいなくなっていたのだ。

街外れのこの広場はゴウマにとって少し特別な場所だった。
幼少期に秘密基地を作って妹のような存在であったナッツちゃんとふたり遊んでいた場所
訓練兵のころに仲間たちと腕立て伏せの数や徒競走を競い合うなどして己の能力を高めたりしあった場所
母親代わりだったデックさんに怒られたときにいじけてここに逃げてきては遅くまで寮に帰らないことでまたまた怒られたりした場所
そんなゴウマにとって兵士寮の次に多くの時間を過ごした場所だった。

この広場は、街の外れの少々分かりづらい場所にあるためここに隠しておけば大丈夫とゴウマは考えていたのだが、それでも馬は姿を消していた。


「魔物娘の仕業か?、、、いや、希望的な観測を持とう。きっと逃げてきた生存者が僕の馬で逃げたと、、、!
、、、そこにいるのは誰だ!!!」


大木の陰に隠れている何者かがいることに気が付いたゴウマは、後ろへ跳び下がって短剣を抜き、戦闘態勢をとって大声を上げた。


「あらあら〜、うふふっ♥
あ〜やっぱりばれちゃった♥流石ねぇ立派になったわねぇゴウマちゃん♥」


「!?、、、そ、そんな、、、まさか!?デック母さん!?」


木の陰に隠れていた者は、ゴウマの声に反応してゆっくりとその姿を現した。
隠れていた者の正体は、なんとデックだった。

この街の兵士たちが寝泊りする兵士寮の管理人であり、兵士たちからは「お母さん」と親しまれてきたデックだった。
親に捨てられたゴウマにとって、実の母よりも愛すべき存在である育ての親であったデックだった。
ゴウマがこの街の住人で一番最初に助けた住人のデックだった。
そこにいたのは確かにデックではあった。だがゴウマがよく知っている敬愛するデックではなかった。

こめかみのあたりから黄色い角を生やしていた。
耳が白地に黒い模様の大きく垂れ下がったものに変わっていた。
下半身が大きくてたくましく力強い牛の下半身になっていた。
シワやシミに悩んでいた40歳の肌が、美しくハリと艶のある10代の頃のような綺麗な肌に戻っていた。

そして何より、胸が異常なほど大きくなっていた。
元々結構大きいほうであったデックのその胸は、ゴウマが知っているものよりもずっとずっと大きくなっていた。
胸が大きくなりすぎていつも身に着けていたエプロンが、まるではち切れそうなほどにパンパンになっていた。
デックが少し身体を動かすだけで、ばいんばいんと元気よく零れ落ちそうなほどに、爆乳がエプロンの中で暴れていた。

デックは魔物娘になっていた。
牛の魔物娘であるホルスタウロスの魔物娘になっていた。
ゴウマが実の母親よりも愛している育ての親が魔物娘になっていた。


「はぁ〜い!デックお母さんでぇ〜す♥
牛さんになっちゃったけどデックお母さんでぇ〜す♥もぉ〜もぉ〜♥♥♥」

18/01/14 06:04更新 / J2
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■作者メッセージ
2018年一発目の作品はホルスタウロスさんです。
今回はホルスタウロスとなった親しい親子にいじめられ犯させる、そんなお話です。

・デック
兵士寮の管理人の女性で、兵士たちからはデックのお母さんと呼ばれ親しまれている。
40歳でゴウマが10歳のころから母親代わりに彼のことを育ててきた。
12歳の娘のナッツがいるがなぜか旦那はいない
なぜか旦那はいない
不思議なことではあるが旦那はいない。

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