連載小説
[TOP][目次]
今まで当たり前に感じていた感覚が崩壊する時ってこんな感じなのか?
「・・・むにゃむにゃ・・・」

ここはハーリストクが退治に来たドラゴンことサラナ・ドラグーンの寝室。
あどけない寝顔でベットに横たわっているのは紛れもなく、先ほど気絶したばかりのサラナである。
ようやく気絶から回復したのか自然と声が出始め、目を開けようとする。

「・・・う〜ん・・・ううん・・・はれっ・・・ん〜〜???ここは・・・あっ!そういえば私!たしか気絶して・・・って!イテテテテ!!!!!顔がイタ〜イ!!!」

起き上がると同時に顔を抑え痛みに耐えるサラナ。

「・・・・・・なんだやっと目を覚ましたか?」

するとその声に対して室内の壁側から声が掛けられる。

「へっ?・・・あっ!・・・・・・こほん!・・・なんだ貴様まだ居たのか!我が気絶しているうちに逃げ出せば良いものをここから生きて出られるとはよもや思ってはいまいな!」
「・・・・・・」

壁にもたれていたハーリストクは思いっきり冷めた目付きでドラゴンを見つめていた。
何故なら今のサラナはベットに上半身を起こしてタオルケットを下半身に掛け、その状態で先ほどの可愛らしい表情から一転して、キリッと王者の眼光に早代わりし、腕を組んで睨み付けてくるのだ。
しかも先ほどの女の子らしい発言を無かったかのようにする態度が余計にハーリストクの目を冷めさせていた。

「いろいろ言いたいことはあるが・・・一つだけ聞きたいことがある」
「ほう・・・この我に聞きたいことがあるのか?いいだろう冥土の土産に教えてやらんでもないぞ!」

繰り返すが今のサラナはベッドの上で足を伸ばし、タオルケットを下半身に掛け、腕組みをしながら尊大な態度でそこにいるのだ。はっきりいってシュールな光景でしかない。
ハーリストクはもはや冷めた目を通り越して、哀れなものを見る目つきに変化していた。

「・・・聞きたいことというのは『お前は本当に魔物なのか』ということだ」
「貴様は馬鹿なのか?見れば分かるであろうが・・・我は正真正銘の魔物であり偉大なドラゴンであるぞ!」
「くっ!まさか・・・こんなドジな奴に馬鹿と言われる日がこようとは」
「むっ!今の言葉は聞き捨てならんぞ!ドジな奴とはなんだ!失礼だぞ貴様!」
「うるさい!ドジにドジと言って何が悪い!」
「我の何処がドジだと言うんだ!」
「全部だ!全部!お前の行動全てがあまりにもドジ過ぎるんだよ!」
「うっ!そこまでドジと言わなくてもいいじゃないか・・・」
「・・・・・・話を戻すぞ、お前は俺が知っている『魔物』とはぜんぜん違うんだ」
「どういうことだ?」
「俺が知っている『魔物』っていうのは人間に対してあらゆる限りの破壊や殺戮などと言った罪を平気で犯す存在だ。決してお前のようなドジな奴のことじゃない」
「貴様!また我のことをドジと言ったな!・・・・・・とりあえず一つ言わせてもらうが、何を勘違いしているのか知らないが我の知る限りでは魔物が人間に対してそのような罪を犯していたというのは魔王の代替わり以前の話のことだ。今の魔王の代ではむしろ人間と友好な関係を築こうとしている者ばかりだぞ」
「ふざけるな!!!」

唐突にハーリストクは声を荒げてサラナの言葉を遮る。

「人間と友好な関係を築こうとする者ばかりだと?よくもそんな白々しいことが言えるな!ならば!俺が住んでいた村を破壊しつくし、村人を一人残らず血祭りにあげたこともお前が言う友好な関係を築くっていうのに当てはまるのか!?」
「なっ!?破壊しつくし、血祭りにあげた・・・だと?そんなはずはない!我々魔物は人間に対してそんなことをするわけが無い!」
「語るに落ちるっていうのはまさにこのことか・・・ついさっきのことももう忘れたのか?お前は俺を殺そうとしたんだぞ?それでもありえないって言う気なのか?どうなんだよ、はっきり言ってみろよ!!!」
「い、いや!それは違う!さっきのは・・・えーと・・・」
「それにここの洞窟もそうだ!明らかに人の手が加えられている!お前があそこの村人を脅してこの洞窟を改築させたのだろう!?」
「そ、そんな!べ、べつに脅してなど・・・」
「ならば何か?初めっからこの洞窟はこういう作りで村人は無関係だって言いたいのか?その言い分は通らないぞ!明らかに村人はお前のことを知っていた。そして何故か俺にお前のことを隠していた!最初は反逆かと疑ったがお前が村人を脅迫していたなら話は別だ!さあ!どういうことなのか説明してみろよ!」
「い、いや、だから・・・その・・・・・・う〜・・・うわ〜ん!!!!!」

あまりにも苛烈な言葉に耐え切れずに泣き始めるサラナにハーリストクは我に返り、自分が言った言葉を思い返し少しバツが悪そうな顔をする。

「・・・・・・その、泣くなよ・・・調子が狂うじゃねえか・・・」
「だって・・・だって〜!!!!!」

もはやサラナに威厳さはどこにも無く、そこにいるのは一人のか弱い少女が泣き崩れている姿しかなかった。
あまりにも突然にサラナの弱さを見せ付けられ、さすがにハーリストクもこれ以上怒りを持続することができなかった。

「・・・あ〜、その悪かった、少し言い過ぎた。謝るから泣き止んでくれないか?」
「ひっく・・・ひっく・・・う〜、本当に・・・?」
「ああ、すまなかった」
「・・・ぐすん・・・うん・・・いきなり泣いたりしてごめんなさい・・・」
「・・・いや、別に謝らなくてもいいさ。さて泣き止んだのなら教えてくれ、お前は本当に『魔物』なのかどうか?」
「・・・私は魔物よ。でもあなたが話したような『魔物』ではないわ・・・」
「・・・・・・」
「皆が皆、善人かと言われたらそうじゃなかもしれないけど、それでも私が知っている魔物というのは人間を殺そうとしたりしないわ。お互いに愛しあい、新たな命を育み、幸せを築こうとするの」
「ならばさっきは何故俺を殺そうとした?」
「ち、違うの・・・殺そうとしたんじゃなくて、押さえ込んでしまおうとしたの・・・ちょっと力加減を間違えて気絶しちゃったけど・・・」
「それじゃ・・・この人の手が加えられた洞窟は?」
「ううう・・・その言わないと駄目ですか?」
「・・・・・・」
「ううう・・・言いますから睨まないでくださいよ〜」
「ならさっさと言え」
「その・・・最初は村人は私のことを恐れていたのですが・・・何度か私のドジな光景を見られてしまって・・・その・・・『こんな尖った岩がむき出しの洞窟に住んでいたら、いつ転んでもおかしくない!尖ってる部分に当たって怪我でもしたら大変だ!』って言ってほとんど強引に改築されたんです・・・おかげさまで転んで怪我をすることは少なくなりました。それとよっぽど心配だったのかほとんど毎日のように村人が交代で来ては食事を作ってくれるんです」

サラナが話終えるとハーリストクはあまりの内容についため息を吐いていた。
内容がまったくと言っていいほどに害は感じられず、また自分が今まで感じていた魔物は悪だという概念が目の前の少女のために崩れようとしていることに・・・。

『本当にこの命令を実行する意味はあるのか?魔物は滅ぼすべき存在・・・この考えは間違ってはいないはずだ、間違っていないのなら迷う必要は無いはず。だが、俺はそのチャンスがあったにも関わらずこうしてこのドラゴンを介抱して話をしている・・・何を迷っているんだ!こいつは人間の敵!排除するべき存在なんだ!今までだってそうしてきたんだ!今更迷う必要がどこにある!迷うな!俺の剣でこいつの心臓を貫けばそれで終わりだろうが!』

ハーリストクは迷いに迷ったがついに覚悟を決めて腰の剣に手をかける。

「あの・・・大丈夫ですか?凄い汗ですけど?」
「あっ、いや・・・その・・・大丈夫だ」

突然顔を覗き込んできたサラナについドキッとしてしまい口ごもるハーリストク。

「そうですか・・・・・・あっ、そうだ!さっきはすいませんでした」
「さっきっていうと?」
「さっき介抱していただいたのにあんな無礼なことを口走ってしまったことです。私すごくドジ
だっていうのは自覚していたんです。だから、少しでもドジを減らそうとドラゴンらしい尊厳な態度を取ってたんです。本当にごめんなさい!!!」
「いや・・・いいんだ別に」

ハーリストクは戸惑った。
今からサラナを殺そうと決意したのにまさか謝られるとは思っていなかったからだ。
さらにやりづらさが増し、ハーリストクはサラナを直視することが出来なくなっていた。

「それと・・・介抱してくれてありがとうございます!」

さらにとびっきりの満面の笑みで感謝の言葉まで聞いたハーリストクは得体の知れない罪悪感に襲われ、もはや何がなんだか分からなくなり気がつけばサラナに背を向けて飛び出し駆け出していた。

「あっ!待ってハーリストクさん!」

サラナの呼びかけもむなしく、ハーリストクは止まることなくサラナから逃げるように寝室から出て行ってしまった。


  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


走り続けたハーリストクは洞窟の外に飛び出し近くにあった大木の元まで行き、背中を預けて深呼吸をする。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・す〜、はぁ〜・・・・・・・・・俺は何故逃げてしまったんだ。魔物を滅ぼすのは当然の事のはずなのに、必ず成し遂げなくてはいけない任務のはずなのに、俺はいったいどうしてしまったんだ?わからない、胸が張り裂けそうなこの思い・・・どうすればいいんだ!?」

思わず拳を大木に叩きつけてしまうハーリストク、衝撃で何枚か木の葉が舞い落ちてくる。
ハーリストクの問いに答えてくれるものはおらず、夜に活動する羽虫たちの鳴き声が木霊するのみだった。

「・・・・・・ここでこうしていても何も始まらないな、ともかく一旦支部に引き返し神官長に報告しなければ」

ハーリストクは一旦事の詳細を伝えるべく支部に引き返すことを決め、支部のある方向をへと歩き出した。
ハーリストクは気づいていなかった。
この行動が自分の運命を大きく変えてしまう行動だと言うことに・・・



続く
12/07/20 21:46更新 / ミズチェチェ
戻る 次へ

■作者メッセージ
というわけで第2話でした。
本来はもう少し早めに書き上げるつもりでしたが妹からぷよぷよのカップリングを書いてくれと頼まれ、交換条件として和風ポニテドラコちゃんを描いてと頼みかえしたら本当に描いてくれたので、断ることも出来ず、仕事が休みの日を使って3話分も書いていたために遅れてしまいました。本当に申し訳ありませんでした!ちなみにその絵も小説もpixivに出ていますので暇と興味があればどうぞ探してみてください。

さて今回から感想はこちらで返信していきたいと思いますのでよろしくお願いします!
それではさっそく返信です。

>カーシ&偽ノワール様へ
感想ありがとうございます!
ふふふ、ドジっ娘ドラゴンはなかなか見ないジャンルだと気づいたんですよ。
そしてこれはイケル!と感じたんですよ。
今回もそのドジなシーンのあとに通常のドラゴンではありえないほどの気弱な少女、俺的にはかなりドストライクなんですが今回もストライクに入りましたかね?

>名無し様へ
感想ありがとうございます。
はいその通りです!このドラゴン村人にメッチャクチャ愛されています!
微笑ましく見守られるどころか住居にドカドカと押しかけ、食事のお世話までするくらいですからその愛はもはや異常です(笑)

>沈黙の天使様へ
感想ありがとうございます。
楽しんでいただけて何よりです。
ドジなドラゴンに主人公の過去に神官長の陰謀これらの見所をどんどん出していきますから楽しみにしててください!
PS 大丈夫ですよ!メールはしっかり届いています!

以上感想返信でした!
次回を楽しみにしていただければ幸いです!
ではでは〜

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33