読切小説
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奴隷と踊り子
 男は、月明かりの下で走り続けた。男が走っているのは森の中であり、朧な月明かりでは走ると危ない。だが、グズグズしていると男は嬲り殺しにされる。男は、小刀を握り締めながら走り続けた。
 月明かりの下に、男の体が薄っすらと浮かび上がる。男の体には、所々黒い染みの様な物が有る。明るければ血による染みだと分かるだろう。男の体からは、血独特の臭いが漂っている。
 男は、微かな月の光の下で笑った。男は、心の底からの笑い声を上げた。彼は、生まれてから今ほどうれしい事は無いのだ。自分を虐げた者を殺し、自分を縛り付けた場所から逃げて来たのだから。血の感触と臭いは、男に快楽を与えているのだ。
 男は、血の臭いをまき散らしながら笑い続けた。

 アパラージタは、生まれた時から奴隷だ。母が奴隷である為、アパラージタもまた奴隷なのだ。アパラージタの国では、奴隷から生まれた者は生涯奴隷である。その子孫達も未来永劫奴隷なのだ。
 アパラージタは、生まれた時から虐げられてきた。生みの母ですら彼を嫌った。凌辱の結果生まれた子なのだから、当たり前かもしれない。アパラージタは、嫌悪と憎悪、暴力の中で育った。アパラージタの体は、こん棒や鞭で殴られた痕、犬にかまれた痕、火傷の跡が数えきれないほど付いている。
 アパラージタにとっての支えも憎悪と暴力だ。奴隷である彼は、それ以外のものを手にする事は出来なかった。自分を虐げる者達、自分を虐げる世界を破壊する妄想だけを支えに生きて来た。
 だが、それも限界を迎えた。奴隷に対する虐待は激しさを増し、奴隷の中でも弱い立場にあるアパラージタには死の影が付きまとい始める。アパラージタよりマシな立場の奴隷達は、もうすぐお前は死ぬと嘲り笑った。
 俺は殺される。だったら、俺を虐げる奴らを殺すしかない。アパラージタは、盗んだ小刀を手に思い詰めていた。
 だが奴隷が反抗すれば、待ち受けるのは嬲り殺しにされる結末だ。暴力を叩き付けられてきた為に、アパラージタは怯えていた。我慢しておとなしくすれば、生き延びる事が出来るのではないかと考える。
 アパラージタは自分を笑った。どうせ死んだ方がマシな人生だ。だったら、憎い奴を殺して死のう。俺は憎しみを支えに生きて来た。糞どもを殺してさっさと死のう。
 アパラージタは、隠し持っている小刀を手に笑った。

 アパラージタを支配している貴族の家で宴があった。王から恩賞を貰った事を祝うためだ。貴族の家は浮かれ騒ぎ、酔い痴れた者で溢れた。
 アパラージタを虐げて来た奴隷の監督官もその一人だ。散々酒を飲んだ監督官は、奴隷小屋の近くをふらつきながら歩いていた。この監督官は、こん棒や鞭で奴隷を殴る事が飯以上に好きな男だ。加えて、奴隷を火で炙る事に快楽を感じる男でもある。アパラージタの股間と尻には、この監督官に炙られた痕がある。
 アパラージタは音を立てないように後ろから忍び寄り、監督官に飛びつく。監督官が声を上げる前に喉を小刀で掻き切る。濁った音と共に、監督官の喉と口からおびただしいほどの血があふれる。血の臭いがふりまかれ、アパラージタを興奮させた。アパラージタは、執拗に喉を切り裂き続ける。血が吹き出し、アパラージタの体を汚す。
 アパラージタが手を離すと、監督官は木偶のように倒れた。雲間から出た月の光が、二人を照らし出す。血で汚れた男二人が、月明かりの下で輝く。月明かりと血の感触、臭いは、アパラージタを酔い痴れさせる。
 だが、恐怖がアパラージタを我に返らせた。早く逃げないと、自分は嬲り殺しにされる。アパラージタは、両手両足を切断されて芋虫のように蠢きながら死んでいった奴隷を思い出す。アパラージタは、館の塀に向かって走る。塀の一カ所に抜けやすい所が有る。そこへ向って走った。
 塀の前まで来ると、建物の陰に隠れる。見回りの者がふらつきながら歩いている。彼も酔っぱらっていた。アパラージタの体には、この男がけしかけた犬にかまれた痕が残っている。アパラージタは建物の影から飛び出し、男の腹に小刀を突き出しながら飛び込む。不明瞭な声を上げる男の腹を、繰り返し抉る。小刀を抜くと、血と臓物が溢れ出して地面を汚した。
 アパラージタは塀をよじ登り、向こう側へと飛び降りる。凶行を眺めていた月は隠れ、闇の中をアパラージタは逃げ出した。

 アパラージタは、麦畑を抜けると森に逃げ込んだ。夜の森は危険だが、追手のかがり火が後ろに迫っている。追手が連れている犬の鳴き声もする。宴があった為に逃げる事が出来たが、それでも追っ手を撒く事は出来ない。やむを得ずに森に逃げ込んだのだ。
 再び月が出始めたが、それでも夜の森は危険だ。アパラージタは、木の枝や鋭い草により体中に傷が付いていく。石や窪みにつまずき、体を地面に叩き付けられる。それでも走り続けなければならない。追手に捕まれば、全身を切り刻まれるだろう。
 ふと、アパラージタは奇妙な気配を感じる。アパラージタは全身に鳥肌が立つ。野獣が俺に迫って来ているのか!虎か狼か、あるいはもっと恐ろしいものか!アパラージタは、叫び声を抑えながら走り続ける。
 アパラージタの中の恐怖は、野獣以外のものを形作り始めた。もしかしてこの森には、悪鬼が住んでいるのではないか?俺はこの森から出る事は出来ずに、悪鬼に追われ続けるのではないか?
 石につまずき、アパラージタは地面に叩き付けられた。アパラージタは跳ね上がって、再び走り始める。口からは恐怖の呻き声を漏らしている。
 呻き声は、笑い声に変わり始めた。恐怖に狂っているアパラージタの表情に、別の狂気が宿り始める。悪鬼は俺だ!俺は、人を殺す事が出来たのだ。俺は、人を殺す事を夢見て生きて来たのだ。俺は成し遂げたのだ。俺は奴らに勝ったのだ。俺は野獣と同じ、いや悪鬼と同じものに成れたのだ!
 アパラージタを支配していた恐怖は、狂おしい喜びへと変わっていく。次第に快楽がアパラージタを支配していく。人殺しを成し遂げた喜びは快楽を与え、アパラージタの男根を怒張させる。
 アパラージタは、堪える事が出来ずに哄笑し始めた。甲高い狂笑を暗い森に響かせ始める。走りながら、涎を飛ばして笑い続ける。
 木々の枝から差し込む月明かりが、血で汚れながら笑う男を照らしていた。

 暗い森から出ると、川が流れていた。ゆっくりと流れる川が月明かりを反射している。森の中で感じられた悪鬼の世界の雰囲気が消え去り、穏やかな情景が広がっている。
 アパラージタは、困惑しながら辺りを見回す。状況の変化に戸惑いを隠せない。俺は、今まで異界にいたのだろうか?それとも今いる所の方が異界なのだろうか?アパラージタは、落ち着きなく辺りを見回した。
 アパラージタは、取りあえず体を洗う事にする。血を浴びた体で人に見つかれば、追い立てられるだろう。獣を呼び寄せてしまうかもしれない。アパラージタは川岸により、川を覗き込む。危険はなさそうだと判断すると、服ごと体を洗い始める。
 清冽な水の感触が、熱に浮かされたようなアパラージタの感覚を冷ます。汗と血で汚れた体が清められていく感触に、アパラージタは思わず呻き声を上げる。
 やっと冷めた感覚を取り戻し、アパラージタは辺りを見回した。月明かりが川の流れと森の木々、遠くにそびえる山を静かに照らしている。穏やかな光景を見渡している内に、溜息をもらしてしまう。
 その時、アパラージタの眼に人の姿が映った。アパラージタの右斜め前方の川岸に、月明かりに照らされた人の姿が映ったのだ。アパラージタの体は瞬時に硬直する。
 月明かりの下で女が踊っていた。優美な曲線を描く肢体を、ゆっくりとくねらせる様に動かしている。豊かな胸と引き締まった腰、胸に劣らず豊かな尻が蛇を思わせる動きをする。温かさを感じる月の光の下で、人の姿をした者が嫣然とした踊りをしていた。
 ゆっくりと体をくねらせていた肢体は、次第に動きを速めていく。獲物に飛び掛かる蛇の様な、力があふれた虎の様な激しい動きだ。優美だった肢体は、獣じみた力強いものへと変わる。
 アパラージタは思わず目をこすった。女の体を幕の様な物が取り巻いている様に見えたのだ。初めは薄物の服だと思ったのだが、それは水の様な物だと分かる。水の膜が、月の光を反射しながら女と共に踊っているのだ。
 アパラージタは、息をつく事を忘れて目の前の光景を見つめていた。人間とも魔物ともつかない美しい女が、官能的で美しい踊りを踊っているのだ。水の膜が生き物の様に女と共に踊り、川と森の木々、そびえる山は女の踊りを映えさせる舞台装置となっている。月の光が照明となり、女の妖艶な踊りを輝かせる。アパラージタは、夢幻としか思えない光景をただ見つめ続けていた。
 女は、次第に踊りをゆっくりとしたものに変えていく。宥めるような、愛撫するような踊りを踊る。柔らかさを感じさせる踊りは次第に収まっていき、女は完全に動きを止める。
 女は顔を上げると、アパラージタに向かって微笑みかけた。

 アパラージタは我に返り、小刀を抜いて構えた。鉄の刃が月明かりの下で鈍く光る。アパラージタは、いつでも飛びかかれる様に腰を落として足に力を入れる。
 女は、アパラージタの小刀を気に留めないそぶりでゆっくりと近づいて来る。そしてアパラージタの前で止まった。
「私の踊りはどうだったかしら?悪い出来では無いと思うけれど」
 女の声は、甘く音楽的だ。アパラージタの耳を愛撫する様な話し方をする。女からは乳のような甘い臭いが漂って来て、アパラージタの鼻をくすぐる。
 アパラージタは一瞬気が抜けそうになるが、気を引き締めて無言のまま小刀を突き出す。小刀は女の豊かな胸先で止まる。
「それ以上近づくな。お前は何者だ?」
 アパラージタは、低音で誰何する。
「私の名はカウサリヤー。愛の神に踊りを捧げるアプサラスよ」
 アパラージタの顔は憎悪で歪む。アプサラスとは、愛の女神に仕える水の精霊だ。アパラージタは小刀を強く握り締める。よりによって愛の女神の僕か、忌々しい。これ以上何も聞かずに刺そうかと考える。
「ねえ、踊ったからお腹がすいちゃった。荷物の中にある食べ物を取っていいかしら?良かったらあなたも食べない?」
 カウサリヤーは穏やかな調子で話す。アパラージタの剣呑な表情に気が付いていないかの様に食事の事を話した。
 アパラージタは、怪訝そうな顔でカウサリヤーを見る。少しの間沈黙した後、無言でうなずく。
 カウサリヤーは微笑みを浮かべると、しゃがみ込んで荷物から食料を取り出す。取り出した物は、パンに肉や野菜を挟んだものだ。カウサリヤーは半分に千切ると、片方をアパラージタに渡す。そして残りの方を口に運ぶ。
 アパラージタは毒でも入っているかと警戒したが、片方をカウサリヤーが食べた事で残りの片方を口にする。奴隷としてろくな物を食う事が出来ずに腹をすかしていた為、アパラージタは貪り喰らう。派手に音を立て、獣じみた喰らい方をする。
 カウサリヤーは皮袋の中の物を飲むと、それをアパラージタに渡す。カウサリヤーが口にした事で安心したアパラージタは、革袋の中の物を飲む。乳のような味だが、すっきりとしており喉の渇きを収める。
 しばらくの間、二人は無言のまま食事を続ける。食事が終わった後、やっとアパラージタは人心地付く事が出来た。
「ねえ、良かったら名前を教えてくれない?」
 カウサリヤーは、愛撫するような調子で話す。
 アパラージタは、口を引き締めながらカウサリヤーを睨み付ける。しばらく沈黙した後で、ぶっきらぼうな調子で吐き捨てた。
「アパラージタ」
 それだけ言うと、無言のまま睨み付ける。
「私と一緒に旅をする気は無いかしら?あなたにとって都合が良いかもしれないわ。それとも他に行く当てが有るの?」
 カウサリヤーは、穏やかな話し方で提案をしてくる。
 アパラージタは、警戒を露わにした顔でカウサリヤーを睨み付ける。この女は、何を考えているのだ?
「一人旅だと何かと都合が悪いの。特に、私の様に神殿に仕える者はね。だからあなたに一緒に来てほしいの。私の持っている愛の女神の聖具は、通行手形代わりにもなるのよ。私の従者だと言えば、あなたは何処でも通る事が出来るわよ。あなたにとっても悪い話ではないと思うけど」
 アパラージタは無言のまま考え込む。この女は、俺が逃亡者だと分かっているのだろう。へたをすれば俺に襲われると考えている。だから、自分の身の安全を図るために取引を持ち掛けているのだ。この女の言う通り、愛の女神の聖具は通行手形代わりになるだろう。この女と一緒に行けば、追手から逃れられるかもしれない。だが、この女は町や村に入ったら、俺の事を通報するかもしれない。
 何も言わずに考え込むアパラージタに、甘い匂いが入り込んでくる。カウサリヤーの体から放たれる乳と汗が混じった様な匂いだ。アパラージタの体から、ゆっくりと緊張が解けていく。
 よし、いいだろう。この女に賭けてみよう。このままだと、俺は追手に狩られて嬲り殺しにされる。追手に殺されるのも、役人に殺されるのも同じだ。
「分かった、お前と旅をしよう。だが、俺は金を持っていない。お前には金は有るのか?」
 アパラージタは、微笑みながら金の音がする袋を掲げる。これで話しは決まった。二人は共に川岸を歩き始めた。
 アパラージタは、同行する事になった女を見る。月明かりの下で、胸と下腹部をわずかに覆った扇情的な姿が浮かぶ。アパラージタは、先ほどの官能を刺激する踊りを思い出す。アパラージタは、股間に血が集まる事を意識しながら歩いた。

 アパラージタとカウサリヤーは、船着き場で役人の検問を受けていた。ここから先は船で下っていく事になる。船で出る事さえすれば、アパラージタを支配していた貴族の勢力下から逃れる事が出来るのだ。ただ船着き場は、犯罪者や逃亡奴隷を摘発する為に役人の監視下に置かれている。
 アパラージタは服を入手し、カウサリヤーの従者のようにふるまっている。カウサリヤーが持っている愛の女神の聖具と、カウサリヤーの口添えが有れば役人は通すはずだ。
 アパラージタは、日の光の下でカウサリヤーの姿を見た。月の光の下では、はっきりとは分からなかった扇情的な姿が良く見える。褐色の健康的な肌のほとんどを露出し、わずかに胸や下腹部を覆っている服は女の官能的な魅力を増す形の物だ。首から胸にかかっている金製の首飾りは、豊かな胸へと人の視線を誘導する。腰から足にかけて纏わり付いている金の鎖で結ばれた桃色の装身具は、悦楽を約束する下半身を強調している。
 船着き場にいる男達は、カウサリヤーの体に目を注いでいた。アパラージタ自身が、気が付くとカウサリヤーの官能を掻き立てる姿に目を注いでしまう。当のカウサリヤーは、微笑みを浮かべながら男達の視線を受け流している。
 アパラージタは、カウサリヤーの笑みを浮かべている顔を見た。柔和な顔は整っており、肉感的な褐色の肌と微妙な組み合わせとなっている。人を穏やかに受け入れながら、同時に男を掻き立てる顔立ちなのだ。青みがかった柔らかい銀髪は、女の微妙な魅力を増していた。
 アパラージタは、カウサリヤーから目を逸らして気を引き締める。今、最優先すべき事は関門を越える事だ。役人達は、警戒心をあらわに船着き場の人々を調べている。
 カウサリヤーは、役人に対して愛の女神の聖具を差し出す。役人はカウサリヤーの体に目を取られていたが、表情を引き締めて聖具を調べる。聖具から目を離すと、胡散臭げにアパラージタの全身を見回す。アパラージタは、胃がせり上がりそうになる。
 役人は、二人に通って良いと告げた。アパラージタは険しい表情で、カウサリヤーは微笑みながら通る。アパラージタは早足になりそうになる事をこらえ、ゆっくりと歩くカウサリヤーの歩調に合わせる。
 二人が乗った船は、船着き場を離れた。川はゆっくりと流れており、船は下流に向かって進み始める。ここから先は、アパラージタにとっては未知の領域だ。見た事はもちろんの事、聞いた事もほとんどない。アパラージタの鼓動は収まらず、体は強張っている。
 隣にいるカウサリヤーの匂いが、アパラージタの鼻に届く。乳の様な匂いだ。アパラージタの鼓動はゆっくりと収まっていき、体からは緊張が解けていった。

 農家の一室で、カウサリヤーは踊っていた。そばでアパラージタが笛を吹いており、その笛の音に合わせて踊っているのだ。農家の主人一家が、踊りを見つめている。
 カウサリヤーは、旅先で愛の女神の信徒達を頼っていた。この農家も信徒であり、二人は泊めてもらっている。礼代わりに、こうしてアプサラスの踊りを披露しているのだ。
 カウサリヤーの体は、汗と香油代わりに塗った乳液で濡れ光っている。滑るカウサリヤーの体は、灯火によって光り輝く。体の周りには乳液が作る幕が現れ、カウサリヤーの動きにつれて共に踊る。カウサリヤーの体は乳液を出して操る事が出来、踊りの時はこうして披露するのだ。室内には、カウサリヤーの汗と乳液の混ざった甘い匂いが充満していた。匂いは、扇情的な踊りと共に人々の官能を高める。農家の若夫婦は、顔を赤らめながら手を取り合い、踊りを食い入るように見つめている。
 笛を吹くアパラージタも、官能の疼きに突き上げられていた。滑り光る胸が、激しく振られる腰が目を奪う。そしてわざとのように見せ付けられる濡れた腋が、熱気と官能を振りまく。アパラージタは、股間に血が集まりたぎり立ちそうになる。欲情を必死に抑えながら、笛を吹き続ける。
 アパラージタは、我流だが笛を吹く事が出来る。主人の下から逃亡した時に、隠し持っていた笛も持ち出して来た。以来、捨てる事が出来ずに笛を持ち続けている。カウサリヤーは、アパラージタに笛の才が有ると分かると、踊る時に笛を吹く事を頼み込んだ。アパラージタは人前で吹きたくは無かったが、カウサリヤーの従者を演じる為には都合が良いという事で笛を吹いている。
 アパラージタは、利害の為にカウサリヤーと共に旅をしている。その為にカウサリヤーに協力するようにはなっていた。円滑に逃げる為には協力した方が良いと、アパラージタは自分を納得させようとしている。
 だが、それでも愛の女神に対する嫌悪はぬぐえなかった。

 農家から借りた部屋で、二人は口を貪りあっていた。舌を絡ませながら、相手の口の中から唾液を吸い出している。口の間からは、透明な液が漏れている。
 アパラージタは、顔を下げてカウサリヤーの胸に顔を埋めた。踊りの後で汗を掻いており、胸の谷間には汗と乳液が混じり合って溜まっていた。胸からは濃密な匂いが漂い、滑らかな感触と共にアパラージタを酔わせる。濡れた肌の上に舌を這わせ、胸の味を堪能する。
 アパラージタは顔を左へと動かし、濡れ光る腋に舌を這わせ始める。カウサリヤーは、踊っている最中に腋を見せ付けて官能を刺激したのだ。腋は胸以上に濃密な匂いがこもっており、味と共にアパラージタを激しく欲情させる。
 カウサリヤーは、アパラージタの頭を撫でながら顔を引き離す。そしてアパラージタの前に跪き、ズボンをゆっくりと脱がす。下穿きも丁寧に脱がして、怒張した男根を露わにする。
「汗で蒸れているわね。すごく濃い臭いがする」
 カウサリヤーは微笑みながら囁くと、たぎり立つ男根に口付ける。亀頭へ、くびれへ、竿へと繰り返し口付け、愛おしげに頬ずりをする。両の頬で男根を愛撫すると、再び口付けを繰り返す。
 カウサリヤーは桃色の舌を出すと、ゆっくりと男根に這わせ始めた。亀頭を愛撫し、くびれを掃除し、竿に唾液を塗り込んでいく。竿に顔を擦り付けながら、皺だらけの陰嚢を口に含んで愛撫する。
「この中に濃いものが入っているのね。丁寧に愛してあげなくちゃ」
 カウサリヤーは、陰嚢を唇と舌で撫でまわす。いたずらっぽい表情を浮かべると、玉を甘噛みする。
 アパラージタは、官能を司る精霊の性技に翻弄されて呻き声を上げる。アパラージタの下半身は、すでにカウサリヤーの支配下だ。男根の先端から洩れる透明な液は、アパラージタには止める事が出来ない。
 カウサリヤーは、胸を辛うじて隠す服を横にずらして胸を露出させた。濡れた褐色の肌と赤い乳首が灯りに照らされる。カウサリヤーは、滑り光る胸の谷間に唾液で濡れた赤黒い男根を挟み込む。そのままゆっくりと、次第に激しく上下に動かし始める。
 アパラージタは、踊りの時に最も目を引いた双丘が自分の欲望の塊を愛撫しているのを見た。腰の奥から熱と力がこみ上げてくる。堪えられずに性を司る肉棒を突き上げる。肉棒の先端が、美女の形の良い鼻を突いてしまう。
 カウサリヤーは、胸の谷間から突き出される亀頭を宥める様に頬ずりをした。そして優しく舌を這わせて快楽を染み込ませていく。唾液と腺液が混ざり合い、胸の谷間をすべり良くする。固くとがった胸の先端が、男根を巧みに刺激する。
 白濁した塊が、男根の先端から放出された。液体と言うよりは固体に近い精子が、官能を司る精霊の顔に叩き付けられる。滑り光る褐色の顔を、白濁した物がぶつかり、飛び散り、滴っていく。男の理想を具現化したような豊かな胸も、醜い肉棒から放たれる性欲の塊で白く汚れていく。
 アパラージタは、激しい快楽と淫猥な光景に酔い痴れていた。股間は絶え間なく、執拗に快楽を伝えてくる。そして男の欲望を掻き立てずにはいられない褐色の女が、自分の欲望の塊を浴びて白く汚れているのだ。白濁液特有の刺激臭が、女の汗と乳液の匂いと混ざり合って雄を酔わせる。
「すごい臭いね。あなたの精臭で酔ってしまいそうよ」
 カウサリヤーは、胸の谷間を使い男根に白濁液を塗り付けた。男根を十分滑らせると、滑り光る自分の右腋に擦り付けさせる。男根に付いた液と腋に付いた液が混ざり合い、男根と腋を滑らせる。カウサリヤーはそのまま腋で男根を挟み込み、アパラージタに見せ付けながら愛撫し始めた。
「あなたは腋が好きでしょ。腋で愛してあげる」
 欲望を放出したばかりのアパラージタの男根は、再び硬く怒張し始める。滑る腋が与える快楽に加えて、目の前の光景がアパラージタを興奮させるのだ。カウサリヤーは、踊りの最中に胸と共に腋を執拗に見せ付けた。熱気を放つ腋は、アパラージタの欲望を繰り返し刺激してきたのだ。その腋で自分の精欲の塊が愛撫されているのだ。
 アパラージタは、再び白濁した欲望をぶちまけた。一度目に劣らぬ量を保つ性欲の塊は、褐色の窪みで弾けて飛び散る。窪みを中心に、白い欲望が褐色の肌を汚していく。飛び散った白い精子は、腋のみならず胸や肩、二の腕を汚す。
 カウサリヤーは、腕を上げて腋から男根を開放した。窪みは白濁した塊がねっとりと覆い、少しばかり露出した褐色の部分と強い対比をしている。精子の臭いが腋の匂いと混ざり合って、熱気と共に立ち上る。
「ねえ、私の腋は気持ち良かったでしょ。こんなに濃い精を出したのだから」
 カウサリヤーは再び腋に男根を挟み込み、ゆっくりと愛撫し始める。汗と乳液、そして精液で滑る腋は、男根に力をよみがえらせていく。アパラージタは、自分の欲望が体の奥底から湧き上がってくる事を自覚する。
 カウサリヤーは男根を腋から離し、股を広げ始めた。女の深奥を辛うじて隠す服をずらし、銀色の茂みから覗く薄赤いひだを露わにする。その場所はすでに濡れそぼり、茂みと襞は灯火を反射して輝いている。甘酸っぱい匂いが、アパラージタの鼻をくすぐった。
「今度は私を気持ち良くして。私の中を掻き回して」
 アパラージタは、尽きる事が無い力がこみ上げてくる肉棒を襞へと埋めていく。厚く豊かな感触を持つ肉襞が、ねっとりと肉棒を包み奥へと誘い込む。熱を持つ肉襞に覆われた泉の奥へと、男の欲望は渦を巻いて引き込まれて行く。
 アパラージタは、欲情を掻き立てる精霊を見つめた。褐色の肉感的な顔は、白濁した欲望で汚れきっている。踊りの際にひけらかされた双丘も、白い欲望で汚れている。胸と共に官能を刺激した右腋は、白い精で滑り光っている。官能の精霊は体中が欲望の塊で汚れ、強い臭いが染み付いていた。
 アパラージタは、唸り声を上げながら腰を突き動かした。目の前の光景が、臭いが獣性を掻き立ててくる。腰から、体の奥底から力が付き上げてくる。まだ足りない。もっとこの女を汚したい。欲望をぶちまけて、自分の臭いを染み付けたい。
 アパラージタは、白濁で汚れていない左腋を見つめた。汗と乳液で光り、アパラージタを誘っている。アパラージタは左腋に顔を埋める。熱気と共に濃厚な匂いが顔を覆う。アパラージタは、窪みに激しく舌を這わせて汁を味わう。匂いと味は腰の力を強め、雄は腰の動きを激しくする。
 女の奥底で、三度目の欲望をぶちまけた。ぶちまけながら女の子を孕む袋を突き上げ、精を注ぎ込んでいく。欲望を放つたびに雄は声を漏らす。女精霊も喘ぎ声を上げて雄に応える。雄獣と官能の精霊は、悦楽の歌を共に歌う。
 二人は、痙攣しながら抱き合っていた。激しい震えは次第に収まっていく。やがて二人は動きを止めた。そのまま身動きせずに抱きしめ合い続ける。
 男の腰が再び動き始めた。女の腰も男に合わせて動き始める。男と女は、次第に激しく体を突き動かしながら、何時尽きるとも知れぬ肉欲を貪り続けた。

 アパラージタは、カウサリヤーと共に寝台に横たわっていた。二人の体は、肉欲の宴の跡がはっきりと残っている。室内は、むせ返るほどの性臭が立ち込めていた。
 カウサリヤーは、アパラージタの左腕を枕にして穏やかな寝息をついている。柔和な顔は、寝ていると子供っぽく見える。先ほどまで官能に酔い痴れていた事が嘘のようだ。
 二人は、共に旅を続けるうちに体を交えるようになった。アパラージタは、繰り返し見せ付けられるカウサリヤーの官能の踊りに欲望を抑える事が出来なくなった。驚いた事に、カウサリヤーはアパラージタの欲望に積極的に応えて来た。カウサリヤーはアパラージタに乳液を飲ませて来たが、その乳液は精力を増す作用が有るらしい。カウサリヤーは、アパラージタを欲情させて交わりを求めて来たのだ。
 アパラージタには理解出来無い事だ。アパラージタは奴隷だ。奴隷と交わろうとする者などいない。アパラージタの国は、残酷な階級が確立されている。奴隷を犯す者はいても、奴隷と情交を交えようとする者はいない。アパラージタの背にある奴隷の焼印を、カウサリヤーは見ている。にもかかわらず、カウサリヤーはアパラージタと交わり続けていた。
 愛の神に仕える者は、奴隷とも情交を結ぶのか?アパラージタは思わず笑う。奴隷には愛など関係は無い。俺が生まれた理由も愛などでは無い。アパラージタは、歯ぎしりをしながら否定した。
 アパラージタの母は奴隷だ。誰が父なのかは断定できない。奴隷の監督官達や奴隷達によって母は凌辱され、その結果アパラージタは生まれたのだ。監督官達は暇つぶしに母を犯し、男の奴隷達に輪姦する事を命じたそうだ。
 アパラージタは、幼い時から奴隷として虐待されてきた。過酷な労働と激しい暴力、乏しい食事と休息、そして執拗な嘲り。それがアパラージタに叩き付けられてきたものだ。虐げられるアパラージタを、生んだ女は嫌悪の目で見ていた。
 奴隷生活で学んだ事の一つは、奴隷には愛など関係ないという事だ。奴隷は、肉欲の結果生まれる。主人や監督官による凌辱の結果生まれた者、主人が奴隷を増やすために男奴隷に女奴隷を犯させた結果生まれた者達ばかりだ。あるいは自分の待遇を良くするために、女奴隷が主人や監督官を誘惑した結果生まれた者もいる。いずれにしろ愛の結果では無い。
 愛は、神官や貴族、一部の庶民には関係あるかもしれない。だが、奴隷には関係は無い。その事をアパラージタは体で学んで来た。
 アパラージタは、自分に寄り添って眠るカウサリヤーを嫌悪の眼差しで見つめる。俺は、肉欲を満たすためにこの女と交わっているのだ。この女は、気まぐれと退屈しのぎで俺と交わっているのだろう。決して愛などでは無い。
 アパラージタは、陰惨な表情で自分に寄り添う女の顔を見続けた。

 アパラージタ達は、川を下って西南へと向かっていた。川は大河へと結びつき、その大河を下ると愛の神殿の一つに出る事が出来る。その愛の神殿が有る地域は、愛の神の勢力が強い。そこへ行けば、アパラージタは愛の神の保護を得られると言うのだ。
 だが、途中で王の勢力が強い地域を通らねばならない。現王は、奴隷への取り締まりを強化している。逃亡奴隷を捕まえる為に特別予算を組んでいるくらいだ。できれば通りたくはないが、迂回すればかなりの回り道となる。その為にしかたなく通るのだ。
 カウサリヤーは、愛の神に仕えるアプサラスと言う精霊だ。この国では、アプサラスに危害を加えることは禁じられている。カウサリヤーと共にいれば、アパラージタは安全なはずだ。
 だが、不安要因が有る。現王は、権力強化のために愛の神殿を支配下に置こうとしていた。現王は梟雄として知られており、アプサラスでも殺しかねない男なのだ。そうだとすれば、アパラージタは簡単に殺される。
 不安を感じながらも、二人は大河を下り続けた。

 アパラージタは、カウサリヤーと共に走っていた。後ろからは剣を持った男達が追って来ている。男達は王の配下の役人であり、捕まればアパラージタは確実に殺される。
 二人は、逃亡奴隷狩りに引っ掛かったのだ。カウサリヤーは愛の女神に仕える信徒と連絡を取り、王の勢力地である街を抜けようとした。だが、愛の神殿には王の密偵が潜り込んでおり、愛の神殿が逃亡奴隷を組織的にかくまっている事が露見したのだ。王は、さっそく逃亡奴隷を狩る事を命じた。現在、王の勢力が強い地域では、愛の神殿がかくまった逃亡奴隷達が次々と摘発されている。
 愛の女神に仕える神鳥ガンダルヴァや、同じく愛の女神に仕える精霊アプサラスも次々と捉えられているそうだ。彼女達は、この国では歴史的に尊重されて来た者達である。その神鳥や精霊ですら、王は暴力で踏みにじろうとしているのだ。もはや異常事態だと言って良い。
 そしてアパラージタにとっては、唯一頼りとなる者から庇護を得る事が出来なくなったのだ。アパラージタは、むき出しのまま奴隷狩りに曝されているのだ。
 風を切る音と共に黒い物が飛んで来た。それは二人の側にいた男の肩に突き刺さる。矢が刺さった男は、地面に転がり悶える。また飛来してきた矢は、露店の柱に突き刺さった。店の主人は、地面に座り込んで小便を漏らし始める。二人を刈る為には、関係のない民を殺しても構わないらしい。
 アパラージタとカウサリヤーは、露店の影から蔭へと逃げ回った。矢は、次々と露店に突き刺さる。地面を這い蹲りながらアパラージタは逃げるが、すぐそばの地面に次々と矢が刺さる。
 アパラージタのすぐ耳元で矢の音がした。右肩に激痛が走る。矢が掠めて肉をえぐったのだ。地の上を転がるアパラージタは、矢を射る者達の前に飛び出てしまう。風を切る複数の音がした。アパラージタは、恐怖で体が硬直する。
 衝撃と共に、アパラージタは突き飛ばされた。アパラージタの横に複数の矢が突き刺さる。同時に女の叫び声が上がる。露店の影に転がり込むと、右肩を抑えながら声の方を見つめる。カウサリヤーの右腕に矢が刺さっていた。カウサリヤーが、アパラージタを庇って突き飛ばしたのだと悟る。
 アパラージタは小型の露店を突き倒し、カウサリヤーと射手の間に障害を作る。アパラージタは這い蹲りながら進み、カウサリヤーを抱えながら移動する。
 アパラージタは、カウサリヤーの傷を見る。命に別条はないが動く事はきつい様だ。逃げる際には命取りとなる。辺りを見回すと、用水路が右前方にある事が分かる。
「水の精霊ならば、怪我をしていても水の中は大丈夫だな」
 アパラージタは、カウサリヤーに確認する。カスサリヤーは、顔を歪めながらもうなずく。
 アパラージタは、カウサリヤーを抱えながら這い進む。右前方に矢が突き刺さる。左に迂回しながら、用水路に這い進む。アパラージタの右足のすぐ後ろに矢が突き刺さる。硬直しそうな体に鞭打ち、アパラージタは這い進む。カウサリヤーも、右腕から血を流しながら進み続ける。
 二人は、水を湛えた用水路に転がり落ちた。

 用水路の中に落ちると、カウサリヤーは動きを取り戻した。水を操り二人を運び、追手の眼を暗ます。痕跡も手早く隠蔽する。怪我を負いながらも、水の精霊の力を存分に発揮して逃げる事に成功したのだ。
 用水路沿いに逃げて、二人は一つの民家に隠れ込む。この家は、愛の女神を崇める者の家だ。表向きは愛の女神と無関係を装っている為に、王の臣下には露見していない。二人は、その家でかくまわれながら傷を治す。
 傷が治ると、二人は愛の女神を崇める者の導きで地下通路に入る。地下には古い下水道が有り、この下水道沿いに通路が有る。そこを通れば街の外に出られるのだ。街の外には別の信徒が待っており、二人を愛の神殿まで運んでくれるそうだ。
 二人は脱出に成功し、愛の神殿へと向かった。

 アパラージタは外を眺めていた。夕日が大河を照らしている。愛の神殿も、橙色に染まっていた。
 アパラージタは、自分の着ている服を見る。白色の服に紫色の紋章が付いている。愛の神殿に仕える者が着る服だ。アパラージタは、カウサリヤーの口添えにより愛の神殿の一員となったのだ。奴隷である自分が受け入れられるとは思っていなかったアパラージタは、困惑した顔で愛の女神の紋章を見つめる。
 アパラージタの背には、柔らかく温かい感触が有る。カウサリヤーが抱きしめているのだ。アパラージタは、カウサリヤーにも困惑している。奴隷狩りの役人に矢を射かけられた時、カウサリヤーは自分の身を犠牲にしてアパラージタを助けたのだ。身を犠牲にして奴隷を助ける。理解に苦しむ事だ。
 この女は何を考えているのだ?アパラージタは、混乱と困惑が強まるばかりだ。俺は、これからどうすれば良いのだ?俺の成すべき事は何だ?
 柔らかい感触は、アパラージタを穏やかに包んでいる。カウサリヤーは、アパラージタを抱きしめながらゆっくりと愛撫していた。温かさと柔らかい感触、そして穏やかな乳の匂いが染み込んでくる。揺れ動くアパラージタの心を宥めていく。
 アパラージタは、愛の精霊に抱きしめられながら夕日に照らされる大河を眺め続けた。

 アパラージタとカウサリヤーは、川を遡る船に乗っていた。大河を上った後、かつて二人が出会った川を遡っていた。アパラージタが生まれた地に戻ろうとしているのだ。
 アパラージタが生まれた地に、愛の神殿は支部を作る事に決めた。その事業に、アパラージタとカウサリヤーも加わる事となったのだ。その地には少ないながらも愛の女神を信じる者達がおり、彼らと協力しながら支部作りをするのだ。
 王は、愛の神殿に対する干渉を弱めている。王の覇権を危険視する王族や大貴族が、愛の神殿と手を組むことにしたのだ。王族や大貴族も富と権力に溺れる者達だが、王と対抗するためには手を組む必要がある。王による逃亡奴隷狩りも、現在は頓挫している。
 この隙に、愛の神殿は根拠地を拡大する事にした。その一つがアパラージタの生まれた地だ。アパラージタを支配していた貴族は、王の廷臣の一人だ。その地に愛の神殿の根拠地を作る事は、アパラージタにとってはかつての主人と王への反抗になる。だから危険を承知で、アパラージタは参加したのだ。
 俺は、愛で動く事は無い。憎しみで動き、反抗の為に命を賭ける。逃亡奴隷にはふさわしい行動だ。アパラージタは、川を見つめながら唇を歪めて笑う。
 乳の匂いがアパラージタを包み込んだ。柔らかい感触がアパラージタに寄り添う。カウサリヤーが、アパラージタに身を寄せて来ている。
 俺がこの女に感じるものは肉欲だ。それ以外のものは無い。アパラージタは、心の中で呟く。
 カウサリヤーの柔らかさと温かさ、穏やかな匂いがアパラージタに染み込んでくる。かつてと違い、何かが自分の中に満ちていく様な感じがする。それが何であるのか、アパラージタは認めたくは無かった。
15/02/23 20:05更新 / 鬼畜軍曹

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