連載小説
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後編
「皆、慌てないで! 訓練通りに逃げるのよ!」
紅蓮がセイレム目指して飛んでいる時、そのセイレムではキザイア主導の下で住民が避難している最中だった。
現在、反魔物勢力内では一番の勢力と武力を誇るネルカティエの近くで暮らす以上、何時襲撃を受けてもおかしくない。
その為、今回のような事態に備えて定期的に避難訓練を行っていたのだ。
「これなら大丈夫、と言えないわよねぇ……」
力の弱い子供や老人を最優先に逃がす中、キザイアは眉を顰める。

夜行性のワーバット達に夜の見回りを頼んでいた事が幸いし、森を焼く炎はセイレムにはまだ届いていない。
だが、魔物の完全殲滅を謳うネルカティエの事だ、此方の避難を見越して避難経路に兵を配置している可能性が高い。
一応、セイレムでも手練れのリザードマンやマンティスを先頭に住民を避難させているが、ネルカティエの兵の前では心許無い。

知人の話では、ネルカティエの兵達は怖いもの知らずではなく『命知らず』、と聞いている。
『腕が捥げようが、足が折れようが、頭を潰さない限り突っ込んでくる』、『その姿に夫も怖がって、暫く震えっぱなしだった』とも聞いた。
命を捨ててでも此方を殺そうとするネルカティエ兵に、不殺を本能とする魔物が勝てるかどうかが怪しいのに加え、その知人の話には俄かに信じ難い話もあった。
『鋼鉄の騎士巨人』、ちょっとした塔くらいはある巨大な騎士。
ソレが現れた時、ネルカティエ軍の襲撃を受けた村が一晩で跡形も無く壊滅したらしい。
五年前から大陸の親魔物派領各地で目撃報告が相次ぎ、アーカムの軍部はその騎士巨人の対策に追われているそうだ。
もし、正体不明の騎士巨人がセイレムに現れたら、正規軍人ですら手を焼く存在に一介の民間人である自分達に為す術は無い。

「そう言えば、サクィーアちゃんは? 誰か、サクィーアちゃんを見なかった!?」
住民を避難させている最中、キザイアは避難中の住民の中に佐久夜がいない事に気付いた。
佐久夜は火と高温に弱く、あまり動かない故に動きの鈍いアルラウネ……只でさえ男性を惹き寄せる蜜を湧かせているのだ、見つかればその場で殺されてしまうのが目に見える。
佐久夜が見えない事に気付いたキザイアは、共に避難誘導に当たっていた自警団の面々に彼女の事を聞くが誰も見ていないらしく、全員が首を横に振る。
「不味いわね……ゴメン、此処は任せたわ!」
誰も見ていない以上、キザイアは避難誘導を他の自警団に任せて佐久夜の捜索に出る。
腰の翼を広げ、橙色に照らされる夜空に向かって弾丸の如く飛び上がるキザイア。
間に合ってほしい、そう願いながらキザイアは夜空を翔ける。

×××

「げほっ、こほっ……だ、誰か……誰か、助けて……」
一方、逃げ遅れた佐久夜は周囲を炎に囲まれ、絶体絶命の危機に陥っていた。
熱が肌を焼き、煙が肺を痛めつけ、元々火と高温に弱い佐久夜は其処から動けないでいた。
助けを呼ぶ声も弱々しく、これでは誰かに届いているかどうかも怪しい。
―ガサガサッ……
「だ、誰? 助けてくれるの?」
不意に揺れる草むらに、誰か助けに来てくれたのかと思った佐久夜は声を上げるが、その希望は儚く潰える。

「ひぃ……!?」
草むらから現れたモノに、佐久夜は息を詰まらせる。
「んん? こんな所に生ゴミがいるな」
現れたのは見慣れない筒状の何かを手に、全身を隙間無く隠す奇妙な形の鎧を纏うモノ、くぐもっていて分かり難いが恐らく中身は人間の男性だろう。
もし、この鎧を紅蓮が見れば、『宇宙服と騎士鎧を混ぜたような奇妙な鎧』と評するだろう。
息を詰まらせ、恐怖でガタガタと震える佐久夜に、奇妙な鎧を着た男は兜の下で嗜虐的な笑みを浮かべる。
「汚物は消毒せねばならんなぁ?」
見慣れぬ筒状の何かの先端を向ける鎧の男に、佐久夜は恐怖で震えるばかり。
本能が悟る、あの見慣れぬ何かはヒトを殺す為の道具だと。
本能が悟る、あの奇妙な鎧纏う男は自分を殺すつもりだと。

ヒャッハー! 汚物は消毒」
鎧の男が妙にテンションの高い声を上げ、見慣れぬ筒状の何かを構え直した。
「汚物は貴様だ、この大うつけがぁぁぁ――――!!
「だぁ……アベシッ!?
その瞬間、上から聞こえた声に鎧の男は思わず上を見上げると、視界一杯に靴の裏が迫る。
迫る靴に鎧の男は為す術も無く蹴り倒され、その勢いで中身の頭ごと兜が踏み潰される。
「ふん! 消毒されるべき汚物は貴様であろうが!」
「あ……」
頭を潰され、ピクピクと痙攣する鎧の男の骸、その上に邪鬼を踏み潰した仁王の如く立つ人に佐久夜は安堵の息を漏らす。
「佐久夜殿、無事か?」
佐久夜に振り返るのは、赤尉紅蓮その人だった。

×××

「佐久夜殿、無事か?」
「あ、うん……結構、危なかった、けど……」
佐久夜に振り返った紅蓮は無事かと問うと、安堵の笑みを浮かべながら佐久夜は無事だと答え、その答えに安心した彼は頭を踏み潰された骸の上から退く。
(然し、技術的には中世の世界の者が、何故『火炎放射器』なんぞを持っておるのだ?)
上から退き、足で転がした紅蓮は骸の持つ筒状の何かと背負う物……『火炎放射器』と、火炎放射器とチューブで繋がっている『燃料タンク』に首を傾げる。
この世界に来てから一ヶ月強の間に、紅蓮は調べられるところは兎に角調べた。
結果、この世界は『魔術』で元の世界と比べて発展している部分はあっても、基本的には中世と同程度の技術力だと分かった。
然し、火炎放射器はどう考えても元の世界の代物で、宇宙服のような鎧に至っては恐らく元の世界にも無い代物だ。
何故、元の世界の物が、技術的には中世であるこの世界にあるのだろうか?

「む!?」
明らかなオーバーテクノロジーに眉間に皺を寄せる紅蓮だったが、骸がブスブス…と煙を噴き始めた事に気付き、骸を思いっきり蹴り飛ばす。
ドゴォォンッ!!
「ぬぅ……!?」
「きゃあっ!?」
蹴り飛ばした刹那、鎧の男の骸は轟音と共に爆発し、火柱が上がる。
爆風と衝撃が二人を襲い、紅蓮は咄嗟に佐久夜の前に立ち塞がる。
「けほっ、こほっ……証拠隠滅に自爆とは、何処の工作員だ」
佐久夜を庇って爆風に晒された紅蓮は燃料に引火したのか、細かな破片しか残っていない爆心地に顔を顰める。

「ぐ、紅蓮! 大丈夫なの!? 怪我は無い!?」
ぐわぁ〜はっはっはっは! 心配御無用! 見ての通り、小生はピンピンしておるわ!」
自分の盾になってくれた紅蓮に佐久夜は慌てて大丈夫かと問い、煤だらけの紅蓮は腰に手を当てて豪快に笑う。
紅蓮の言う通り、見える範囲では目立った怪我は無く、精々煤に塗れているだけだ。
「まぁ、佐久夜殿も無事で何よりだが、直ぐに此処から離れなければ」
見た限り怪我らしい怪我も無い佐久夜の姿に安堵しつつ、紅蓮は直ぐ離れようと提案する。
先の火柱でネルカティエ兵は異常に気付き、確認も兼ねて投入戦力の一部を回すだろう。
地の利あるセイレムの者達がネルカティエ兵より先に来て、紅蓮達を見つけてくれたなら御の字だが、世界はそう都合良く回ってはくれない。

「でも、周りが……」
離れる事を提案した紅蓮に、佐久夜は周囲を見回して不安そうな表情を浮かべる。
周囲は火に包まれており、佐久夜を背負って離れるにしても二人揃って薪になるのが目に見えている。
「ふっ、安心めされい。この程度の炎、小生にかかれば」
「ふぇ?」
首を傾げる佐久夜を尻目に紅蓮は一度深呼吸し、大きく息を吸った瞬間だ。
「わ、わ、わぁ!」
まるで掃除機に吸われるゴミのように周囲の火が紅蓮の口に吸い込まれ、その勢いに周囲の木々が強風に吹かれるかの如く激しく揺れる。
無論、その勢いに佐久夜は萼の根をシッカリと地面に食い込ませて踏ん張っている。

グェップ……この通り、一呼吸で鎮火よ」
「す、スゴ……」
ゲップ混じりにドヤ顔浮かべる紅蓮に、佐久夜は呆然と呟く……紅蓮の言葉通り、周囲の火は紅蓮に吸われて消えており、炎の精霊・イグニスでも彼の真似は多分出来ないだろう。
「まぁ、少々喰い過ぎた感はあるな」
「え、火が紅蓮のご飯なの!?」
「飯、というよりは『燃料』。小生の予感では、デカい戦が待っていそうなのでな」

×××

「赤尉紅蓮、貴様は我等に反旗を翻すのか?」
「……………………」
紅蓮の予感は的中した……道が火で塞がっているなら道を塞ぐ火を吸い込みつつ、佐久夜から聞いた有事の際の避難場所に向かっている途中だった。
騎士と言うには妙に軽装な者と先の宇宙服のような鎧を着た者、数は合わせて約八〇人。
SFとファンタジーが入り混じった部隊を引き連れ、如何にも騎士と言った純白の鎧を纏う若い男―恐らく、いや、確実にこの男が隊長だろう―が紅蓮と佐久夜の前に立ち塞がる。
立ち塞がる部隊に険しい顔浮かべる紅蓮は無言で睨み付け、佐久夜は紅蓮の後ろに隠れて縮こまっている。

「人を殺し、喰らい、滅ぼそうとする魔物、ソレを庇う事は我等に反旗を翻すと同じだ」
「では、小生は汝等に問う。人を愛し、共に暮らす事を望む魔物は滅ぼすべき存在か?」
純白の鎧の男の言葉に紅蓮は問う、魔物は滅びねばならない存在なのかと。
「我等は滅ぼす、一匹残さず」
「小生は護る、一人でも多く」
半ば分かりきっていた答えに激しい怒りを感じながら、紅蓮は決意を告げる。
「魔に堕ちたか」
「獣が粋がるな」
会話とは言い難い短いやり取り、そのやり取りで両者の道は決定的に違えた。

「ふん……一匹でも多く護ると言ったが、我等を相手に貴様が護れるのか?」
腰に提げていた剣を抜き、その切っ先を紅蓮に向ける純白の鎧の男。
その言葉に軽装な者達はあからさまな嘲笑を浮かべ、宇宙服じみた鎧の者達も兜で隠れて分からないが嘲笑を浮かべているだろう。
紅蓮達がこの世界に召喚された翌日、ネルカティエは彼等がどの程度戦えるのか、どんな力を持っているかを確かめる為の模擬戦を行った。
その結果、一心と勇一は目を見張るモノだったが紅蓮と夜斗には失望した。
素人よりはマシだが、到底玄人とは言えない散々な結果だったのである。

「素人とも玄人とも言えぬ中途半端な男が一匹でも多く護るとは、片腹痛い」
「その言葉、そのままそっくり返させてもらう」
冷笑を浮かべる純白の鎧の男に、紅蓮は不敵な笑みを浮かべる。
「『実力を出せなかった事』も分からぬ汝等が魔物を滅ぼそうなぞ、片腹痛い」
「何、だと……?」
紅蓮の言葉に純白の鎧の男は勿論、背後に控える者達全員が疑問で眉を顰めた瞬間だった。
ボッ、ボッ…と紅蓮と純白の鎧の男達の間に握り拳程の大きさの火球が次々と現れる。
現れた火球の数は四〇、その全てが粘土を捏ねるように容を変えていく様に、純白の鎧の男達は驚愕で目を見開く。

「実は小生、『多勢に囲まれておった方が全力を出せる』性質でなぁ」
不敵な笑み浮かべる紅蓮の前方には、引金の前に弾倉のあるクラシカルなオートマチック。
炎の如く真っ赤なオートマチックの銃口は、全て純白の鎧の男達に向けられている。
「『鬼火銃 焼箸(ヤケバシ)』……いざ、逝けい!
紅蓮が兵に命を下す将のように右腕を突き出すと、無数の銃声と共に弾丸が放たれる。
銃声に銃声が重なり、耳を劈く轟音に佐久夜は耳を押さえ、純白の鎧の男達は弾丸の雨に晒される。

な、何だとぉぉ!?
想像していなかった猛攻に叫ぶ純白の鎧の男を、何発もの弾丸が撃ち抜く。
身体の至る所を撃ち抜かれて倒れる純白の鎧の男、見れば前に立っていた者から順に弾丸の餌食となり、四肢を、眉間を、胴を撃ち抜かれて次々と倒れていく。
ドドドドドドドドドドドン!!
「ひゃあっ!」
放たれた弾丸の一発が燃料タンクに直撃したのだろう、轟と花開く大輪の爆炎。
爆発が爆発を招き、連鎖爆発で辛うじて生き残っていた兵が宙を舞い、鼓膜を破りそうな爆音に佐久夜は一層縮こまる。

「四〇も必要無かったか……この程度の阿呆共が相手なら、一〇で充分だったな」
燃料タンクへの引火もあって八〇人近かった部隊は瞬く間に全滅、弾痕が穿たれ、爆発で黒焦げになった死体の山に紅蓮は冷笑を浮かべる。
「す、凄かったねぇ……そういえば、紅蓮は何で囲まれてる方が良いの?」
そぉっと紅蓮の背後から顔を出した佐久夜は先の言葉……大勢の人間に囲まれていた方が全力を出せる、という言葉の意味を紅蓮に問う。
「結論から言えば、小僧の時のトラウマ。小生が小僧だった頃の話は以前、佐久夜殿には話したであろう?」
「あ、うん……」
頬を掻きながら紅蓮は苦笑し、佐久夜は以前聞いた彼の子供の頃の話を思い出す。

元の世界には存在せず、佐久夜の住む世界にのみ存在する『魔術』を行使する素質を紅蓮は何故か備えていた。
気付かなければ死ぬまで目覚めなかった魔術の才は、紅蓮が四歳の時に目覚めた。
人気の少なくなる夕刻、暗くなりつつあった公園の滑り台の上で両親の帰りを待っていた紅蓮に危機が訪れた。
危機と言っても酒の入った酔っ払いに絡まれた程度だが、幼かった紅蓮には顔を赤くして呂律の回らない口調で迫る酔っ払いは充分過ぎる危機だ。
時間帯的に居てもおかしくない酔っ払いに紅蓮は恐怖で逃げ惑い、アルコールでまともな思考が出来ない酔っ払いは面白がって逃げる彼を追う。

『ぎ、ぎゃああぁぁあぁああぁあああぁぁああぁぁ!?
公園と道路を遮る柵に追い詰められ、涙を浮かべる紅蓮に酔っ払いが手を伸ばした瞬間、突然酔っ払いの全身が燃え始め、断末魔の絶叫が響き渡る。
『あ、熱い、熱いぃぃ! だ、誰か、助けてくれぇぇ!!』
炎に包まれた酔っ払いは悶えながら助けを乞うが、怯えと困惑でガタガタ震える紅蓮には何も出来なかった。
その後、燃える酔っ払いの姿を見た付近の住民の通報もあって、酔っ払いは病院へ即座に搬送されたが病院に着く前に死亡した。
酔っ払いの突然の炎上は当時の新聞を騒がせ、押し寄せるマスコミに紅蓮の両親は疲弊し、同時に両親は彼を気味悪がった。

その日以降、紅蓮の周囲で突然何かが発火する事が頻繁に起きるようになったのだ。
今は草木やゴミが燃えるだけだが、何時か自分が燃えるかもしれない。
その恐怖が両親の不安を駆り立て、両親は紅蓮を捨てたのだ。
両親に捨てられ、養護施設では幼いが故に残酷な同年代の子供に虐められ、周囲の大人も紅蓮を気味悪がって助けようともしない。
そんな重く、辛い幼少期を義父に引き取られるまで紅蓮は過ごしてきた。
義父に引き取られた後、この謎の発火現象は魔術と呼ばれる力と紅蓮は知り、何故か魔術を知っていた義父は彼に力を制御する術を教えた。
一心達と出会ったのもこの頃であり、似たような境遇―元の世界には存在しない筈である魔術で両親に捨てられた―もあって直ぐに仲良くなった。

共に魔術を義父から学び、切磋琢磨する紅蓮だったが、彼の魔術には一つ問題があった。
魔術に目覚めた時の状況がトラウマになり、一対一の状況では実力を発揮出来ないのだ。
一対一で対峙すると魔術に目覚めた時の状況が脳裏に甦り、その時の恐怖で火力調整等がかなり雑になる。
故に、紅蓮の魔術は自然と一対多を前提とした魔術になったのだ。
以前の模擬戦が散々だったのも、その模擬戦が一対一で行われた為―無闇に魔術を使うな、という義父の教えもあったが―である。

「小生、トラウマが未だに克服出来ておらん。故に多勢に無勢の状況でなければ、小生は全力を一割も出せんのだ。さて、さっさと此処から」
離れよう、苦笑交じりにそう言おうとした瞬間、紅蓮の背筋に悪寒が走る。
本能が五月蠅い程に警鐘を鳴らし、凄まじい威圧感で全身に鳥肌が立つ。
全力疾走直後の如く心臓が激しく脈打ち、口の中が唾も出ない程にカラカラに乾いている。
振り返ってみれば、顔を青褪めさせた佐久夜が恐怖でガチガチと歯を鳴らしている。
「…………何ぞ、アレは」
上から感じる威圧感に紅蓮はゆっくりと上を向き、夜空に浮かぶモノに呆然と呟く。

「鋼の、天使……?」
佐久夜の感想は、的確に『ソレ』を表現している……目算でも一五メートルはありそうな巨躯を包むのは、縁を金色であしらった染み一つ無い純白の騎士鎧。
その背中には鋼で出来た純白の翼が広がっており、兜のスリットの奥で輝く単眼は紅蓮と佐久夜をジッ…と見つめている。
大小合わせて一二個の突起が付いた円盤に乗って、ゆっくり降りてくる姿は不可侵性と神々しさを感じさせ、その姿はまさに天使と言える。
だが、逆にソレが悍ましい……綺麗過ぎる水には魚が住まないように、度を越した綺麗さは逆に見る者の嫌悪感を掻き立てる。

《全く、城からでも見える爆発に急いで来てみれば、部隊が全滅しているとは、ね》
地上から五、六メートル程の高さで滞空した円盤から降りる鋼の天使。
着地と同時に地響きと風圧が呆然と立ち尽くす二人を揺らし、聞き覚えのある鋼の天使の声に紅蓮は目を見開く。
「その声、グリバー・ライトか!?」
「えっ、グリバーって誰?」
《黙れ、劣等とゴミに呼ばれる名前を僕は持っていない》
グリバーと呼ばれた鋼の天使は二人に己の名前を呼ばれた事が気に食わないのか、怒りの籠もった声で名前を呼ぶなと静かに告げる。

グリバー・ライト、この世界に呼ばれた翌日に行われた紅蓮の模擬戦の相手だ。
過去のトラウマで紅蓮は一対一の状況では実力を発揮出来ない事を知らずに勝って以来、顔を合わせる度にグリバーは彼を『劣等』と嘲笑い、見下していた。
そして、紅蓮と共に行動する一心達は勿論、志の同じネルカティエの兵ですらグリバーは『劣等』と呼んでいた。
その傲慢な態度が許されているのは、グリバーがネルカティエの有する勇者部隊の中でも滅多に前線へ投入される事の無い、エリート中のエリートだからだ。
紅蓮の聞いた話では、ゴールディが常に横に控えさせる学者風の女性・ネフレン=カが直々に勇者としての教育を施したとか。

《劣等がゴミと一緒……ふん、満足にゴミ掃除も出来ない劣等が裏切りか》
氷の如く冷たい声で見下しながら、グリバーは腰に提げていたライフルを掴む。
《神聖なる役目を満足に果たせず、挙句に裏切る劣等。そんな劣等には地獄の最下層が、未来永劫業火に焼かれ続けるのがお似合いだ》
人間が使う物をそのまま巨大化させたような、本来この世界に存在しない筈のライフルの銃口が二人に向けられる。
銃口から放たれるのが何であれ、直撃すれば跡形も無く消し飛ぶのが目に見えている。
(此処までなのか、一人でも多く護ると誓った矢先に誓いを果たせずに小生は死ぬのか)
悔しい、誓いを果たせずに死ぬのが悔しい。
死にたくない、誰も護れずに死にたくない。

―諦めるのかい?

「…………っ」
死にたくない、そう思った瞬間、紅蓮の頭の中に声が響く。
聞き慣れた、温もりと優しさを兼備した貫録ある低い声。

―君は気付いていないだけだ
―既に君は誰かを護る為の力を持っている
―何時、如何なる時も、その力は君と共にある

《地獄に墜ちろ、劣等!》
絶対的優位に勝ち誇るグリバーの声が、やけに遠くから聞こえる。
「紅蓮……」
逃れようのない死に、佐久夜が紅蓮の服の裾をギュッと掴む。

―さぁ、叫ぼうか
―力強く、遍く三千世界に響かせるように

《そして、僕達のゴミ掃除を地獄で見ているがいい!》
ライフルの引金が引かれ、銃口から破滅の閃光が迸る。

―その力の名を轟かせよう
―ずっと君の隣で眠り続けていた力の名を!

「…………え?」
《な、何ぃ!?
迸る破滅の閃光は突然紅蓮から噴き出た膨大な、それでいて暖かな魔力に防がれる。
必殺の一撃が防がれた事にグリバーは驚愕し、佐久夜は呆然と紅蓮の背中を見つめる。
そんな二人を尻目に紅蓮は静かに目を瞑り、ゆるゆると右手を天に掲げる。

嘆きの大地を耕し
切なる祈りを胸に
我等は明日という名の種を蒔く!


「汝、明日護る大樹、紅蓮桜(グレンザクラ)ぁぁ――――!!」
ゴゴゴゴ…と腹に響く重低音と共に炎の竜巻と化した膨大な魔力が紅蓮の周囲で渦巻き、その中心で目を見開いた紅蓮は内に眠っていた力の名を高々と叫ぶ!

ゴォン!!

《そ、そんな、馬鹿な……》
その瞬間、炎の竜巻は轟音と共に『内側から迸る圧倒的なエネルギー』に消し飛ばされ、炎の竜巻の中から現れたモノの威容にグリバーは思わず後退る。
《何故、何故何故何故、何故だ!? 何故、劣等がソレを……『機神召喚(サモン・マキナ)』を使えるんだ!? ソレは僕達、選ばれた勇者にしか使えない筈だ!!》
炎の竜巻の中から現れたモノ、ソレは鋼の天使と同程度はありそうな鋼鉄のアルラウネ。
燃える炎を想起させる真紅の硝子のような花弁、金属製の裸婦像を思わせる真っ赤な身体、その身体に巻き付く鋼鉄の葉を付けた深紅のワイヤー。
その姿は紅く、鋼鉄製である事を除けば、佐久夜をそのまま巨大化させたような姿であり、突然現れた鋼鉄の佐久夜にグリバーは動揺を隠せない。

「お、をおぉ!? な、何故小生は泡に包まれ、妙チキリンな籠手を着けておるのだ!?」
「な、何!? 何処なの、此処!? って、いうか、何でボク植木鉢に収まってるの!?」
が、ソレは紅蓮と佐久夜も同じで、見知らぬ場所にいる事に二人は混乱する。
見回してみれば球体の中にでも居るのか、丸みを帯びた壁に囲まれており、その中央には同年代と比べればかなり大柄の紅蓮が余裕で収まる大きさの泡が浮かんでいる。
その泡の中に紅蓮は包まれており、彼を包む泡と真っ赤なワイヤーで繋がれた真紅の籠手が彼の両手に着いている。
紅蓮を包む泡の斜め下、其処には前輪の取れたバイクの前半分と一体化した植木鉢があり、何時の間にかバイザーを着けた佐久夜が鉢植えの花宜しく収まっている。

《認めない、認めないぞ! ソレは選ばれた僕達だけに許された力なんだ、その選ばれた力を劣等とゴミが使うなんて認めない!》
混乱する二人の正面にブン…と映像が浮かび上がり、その映像にはライフルの銃口を向け、激昂するグリバーの姿が映し出されている。
「わ、わ、わ!」
何故こんな場所に居るのか、どうすればいいかも分からぬまま佐久夜はハンドルを掴んで右レバーを握るのと、グリバーがライフルの引金を引いたのは同時だった。
《死ねぇぇぇ!!》
銃口から閃光が迸り、人間で言えば心臓のある胸部へと一直線に迫る。
閃光が迸った刹那、五枚の花弁がヒト部分を包み込み、花弁の裏側に閃光が直撃する。
花弁に直撃し、粒子と化して霧散する閃光……閃光の当たった部分を見てみれば、微かな焦げ跡が付いているだけで、見ただけでダメージが無いのが分かる。

《くっ、何て硬さだ! ビームライフルが直撃して、小さな焦げ跡だけなんて!》
「び、びぃむらいふる? 本当に中世なのか、この世界は?」
全くダメージが無い事に苛立った声を上げるグリバーだが、その言葉に紅蓮は形容し難い変な顔を浮かべるしかない。
火炎放射器は兎も角、ビームライフルは完全にロボットアニメの産物だ……元の世界にも存在しない物が、技術的には中世であるこの世界に在るのは完全におかしい。
《くそっ、くそっ、くそっ!》
「だが、まぁ……」
「うん……」
何度撃っても無駄だと分かっていてもグリバーは只管ビームライフルを連射し、その尽くが蕾のように閉じられた花弁に防がれる。
そんなグリバーを花弁越しに移すモニターを見ながら、紅蓮と佐久夜は同時に頷く。

「『分かる』、分かるぞ」
「『分からないけど分かるよ』……コレの動かし方が、ボクには分かる」
左手を前に出し、右手を引いた構えを取る紅蓮、バイクのハンドルをギュッと握る佐久夜。
すると、紅蓮の動きに合わせて、鋼鉄の佐久夜のヒト部分が紅蓮と同じ構えを取る。
「紅蓮桜、か。うむ、良き名だ! 気に入った!」
「行こう、紅蓮!」
闘志に溢れる二人の声に応えるように花弁が開き、二人が見たのはずっと撃ち続けていた為か、弾切れを起こしたビームライフルを捨てるグリバー。
鋼鉄の佐久夜……紅蓮桜の周囲に四〇の火球が現れ、四〇の火球は紅蓮が使っていた物をそのまま巨大化させたようなオートマチックに容を変える。
「覚悟は出来たか? なぁに、カロンへの渡し賃はサービスでくれるわ!」

×××

《く、そぉ……調子に乗るなよ、劣等! 僕の『エレフセリア』の力を見せてやる!》
四〇の銃口を突きつけられたグリバーは銃口から目を逸らさず後ろへ跳び、滞空していた円盤に飛び乗ると、グリバーを乗せた円盤は垂直に上昇する。
上昇が止まると同時に鋼の天使……エレフセリアの翼が広がり、翼から羽のような金属製の何かが幾つも飛び出す。
翼から飛び出した鋼鉄の羽の先端には小さな穴が開いており、己の意志を持っているかの如くグリバーの周囲を飛んでいる。
《まだ、まだだ! 絶対的な力の差を思い知らせてやる!》
八つの鋼鉄の羽を出したグリバーは自身の乗る円盤を足で小突くと、その縁に付いていた突起が外れ、鋼鉄の羽と同じように空を舞う。

《念動式遠隔飛行砲台アゲロス・フテラ……劣等如きに使うのは気に入らないが、コレで貴様等劣等を殺してやる!》
「遠隔操作の砲台とは、最早何でもありよなぁ!」
グリバーの叫びに呼応した羽と突起、計二〇の飛行砲台が紅蓮の周囲を囲むように動き、その動きに応じて紅蓮も火球を動かす。
だが、
「ぐっ……」
「ぐ、紅蓮!? こ、のぉ!」
火球を動かそうとした瞬間、脳裏に甦ったトラウマで火球の動きが止まり、突然止まった火球に佐久夜は慌てながらも両方のレバーを強く握る。

《死ね、劣等!》
佐久夜の操作で花弁が閉じるのと、周囲を囲む砲台がビームを放ったのは同時。
周囲から迫るビームは閉じられた花弁で全て防がれるが、直撃の衝撃が操縦席と思われる場所を激しく揺らす。
「紅蓮、しっかりして!」
「う、うむ……」
激しく揺れる中、振り向いて叱責する佐久夜に紅蓮は歯切れの悪い返事をする。
義父から魔術を学び始めてから一〇年近く経つが、魔術に目覚めた時のトラウマは紅蓮の心を今も強固に縛り付ける。
脳裏にちらつく悶え苦しむ姿、耳に残る生々しい断末魔の絶叫、その二つが敵と一対一で対峙する度に甦る。

(落ち着け、落ち着くのだ。アレは一人に非ず、アレは子分を従えた猿山の頭と考えろ)
アレは群れで攻めてきた獣だ、と暗示を掛けるように何度も己に言い聞かせる紅蓮。
然し、未だに紅蓮の心を苛ませるトラウマは根強く、
《ふはははは! どうした、劣等? 動きが鈍いし、狙いも適当じゃないか!》
火球の動きは鈍く、弾丸の狙いは逸れ続け、歯を食い縛る紅蓮の額には脂汗が垂れている。
絶不調の紅蓮に対してグリバーは絶好調そのもので、紅蓮の周囲を飛び交う砲台は位置を変えながら次々とビームを放つ。
《選ばれた者だけが使える『機神召喚』を使った事には驚いたが、所詮は劣等の魔術か。選ばれた僕が使う、このエレフセリアこそが真のマキナだ! あはははははははは!!》
葛藤も知らずに優越感に浸るグリバー、トラウマに苛まされながら紅蓮は火球を動かすが、火球の動きは精彩に欠け、放たれる弾丸も蠅が止まりそうな程に遅い。

幾つもの火球を生成し、生成した火球を銃火器へと変え、その銃火器を操るのが、紅蓮の魔術・『鬼火銃』だ。
紅蓮の闘志を炎に変え、その炎を弾丸とする鬼火銃は彼の精神状態に依存し、精神状態がプラス方向へ傾く程に炎は熱く、弾丸は速く、貫通力も増すが、その逆も然り。
紅蓮の精神状態がマイナス方向へと傾けば、弾丸がほぼ無制限である事以外は温い、遅い、通らない、の三拍子の揃った弾丸しか撃てないヘッポコ銃になってしまう。
無論、紅蓮の精神状態は遠隔操作にも影響し、プラス方向なら精密な狙いで複雑な動きが可能だが、マイナス方向なら今のような状態に陥る。

「ぐぬぬ、調子に乗りおってぇ……」
グリバーの哄笑に紅蓮は憤るが、頑固な油汚れの如く染みついたトラウマは彼の心を固く縛り付ける。
今は頑丈な花弁でダメージは微々たるモノだが、防戦一方では埒が明かぬ上にその花弁も何時まで持つかも分からない。
「落ち着け、落ち着け……」
何度脳裏に浮かぶ光景を振り払っても、火球を少しでも動かそうとすれば甦るトラウマ。
紅蓮がトラウマに悩まされている一方でグリバーの飛行砲台はより速く動き、より激しくビームを撃ち、ジリジリと追い込まれていく。

「大丈夫だよ」
焦る紅蓮の耳に、佐久夜の優しげな声が届く……気が付けば佐久夜は自分の席から離れて紅蓮に寄り添っており、彼女の頭に咲く花と彼女自身の香りは心を落ち着かせる。
「紅蓮は怖いんでしょ? 一人だとソレを思い出しちゃう、だから一人で戦えない」
その言葉に紅蓮は頷く……あの時、魔術に目覚めた時の恐怖が原因で、紅蓮は一対一では戦えないというトラウマを抱えた。
「だけど、大丈夫だよ……んっ」
「んんっ!?」
春の日差しのような笑みを浮かべた佐久夜は少しだけ背伸びして、紅蓮の唇と自分の唇を触れ合わせる。

「サ、サクヤドノ!? イ、イッタイナニヲ!?」
軽く触れ合うだけとはいえ突然のキスに紅蓮は禿頭の天辺まで真っ赤にして慌て、慌てる彼の姿に佐久夜は微笑みを浮かべる。
「今はボクが居るよ。何も出来ないけど、ね」
頬を仄かに染めた佐久夜の、申し訳無さそうな表情を浮かべながらの言葉で紅蓮は気付く。
「ボクは何にも出来ないけど、ボクはずっと紅蓮と一緒に居るから」
そう、今は隣に佐久夜が居る。
その事実が紅蓮の萎えかけていた闘志に火を点ける。
焦りで忘れていた事実に紅蓮の炎は熱く、勢いよく燃え上がる。

「それに、ね……ボクは紅蓮の事が、男の人として大好き」
「……………………にゃんと?」
場違いで突然な佐久夜の告白に紅蓮の思考回路は一瞬でフリーズ、折角燃え上がった炎も瞬く間に鎮火する。
「だから、ボクは紅蓮とずっと一緒に居たい、紅蓮と一緒にこれからを生きていきたい」
「……………………」
頬を真っ赤に染め、潤んだ瞳で見上げる佐久夜。
その姿は人ではない事を忘れてしまう程の破壊力、突然の告白もあって彫像―開いた口が塞がっておらず、容姿を考えれば『阿』の方の仁王像か―の如く固まる紅蓮。

「えへへ、言っちゃった」
頬を真っ赤にして恥ずかしそうな表情を浮かべる佐久夜だが、突然紅蓮は俯いてプルプル身体を小刻みに震わせる。
「紅蓮? えっと、大丈夫?」
いきなり俯いてプルプル震える紅蓮に佐久夜は不安そうな声を漏らすが、当の本人は何の反応も返さない。
「……………………
「も?」
「燃 え て き たぁぁ――――――――!!」
すると、俯いていた顔を上げて大声で叫ぶ紅蓮に佐久夜は驚く。

「小生は今、燃えに燃えている! そう、例えるなら己の尾を噛んだ蛇もコンガリ上手に焼け、釈迦も舌鼓を打つ美味しいグリルが出来る程に小生は燃えておる!!」
突然の告白で鎮火していた炎は、『告白』という重油が注がれた事で爆発的に燃え上がる。
闘志に満ち溢れた紅蓮の瞳には、一昔前の漫画なら轟々と燃える炎が描かれているだろう。
そう表現出来る程に、今の紅蓮は燃え滾っていた。
「えっと、その……戦える?」
「無論! 燃えに燃えておる小生に、梅干とキムチ以外に怖いモノなぞ無いわ! ぬは、ぬはは、ぬわはははははははははは!!
急にハイテンションになった紅蓮に戦えるのかと尋ねる佐久夜に、瞳に炎を描いた紅蓮は豪快な笑い声を上げながら答える。
そのあまりの豹変に、そそくさと佐久夜は自分の席に戻ったのは言うまでもない。

「感謝するぞ、佐久夜殿! 小生、大事な事を思い出したわ!」
「大事な事?」
自分の席である植木鉢に収まった佐久夜に紅蓮は声を掛け、その声で振り返った佐久夜は『何か言ったっけ?』と言いたげな表情を浮かべる。
「隣に、背後に、誰かがいるから人は戦える。小生、ソレをすっかり忘れておった」
佐久夜の告白は、紅蓮に大事な事を……護りたい者がいる、背中を守ってくれる者がいる、だから自分は戦えるという事を思い出させてくれた。
「大事な事を思い出した以上、此処で足踏みしている暇は無い!」
自分の隣には佐久夜がいる、自分の後ろには護ると誓った人達がいる。
だからこそ、トラウマに囚われ、足踏みしている暇は無い。

《どうした、劣等? さっきから全然動いてないじゃないか!》
一方、突然動きを止めた紅蓮桜にビームの集中砲火を浴びせ、悦に浸るグリバー。
ビームの直撃を受けても微かな焦げ跡しか付かなかった花弁の裏側は、元の真紅の部分を探す方が面倒な程に黒ずみ、微かな罅が入り始めている。
紅蓮桜を守る火球もピクリとも動かず、この調子でいけば花弁が砕けて、無防備な本体を集中砲火に晒せるだろう。
そう考えていただけに、グリバーは
「鬼火銃、『焼箸』が崩し」
響くような低い声と共に、火球がブルリ…と震えた事に怪訝な表情を浮かべるだけだった。

「『閃箸(ヒラメキバシ)』!」
《なぁ!?》
突然火球が先程とはまるで違う速さで動き出し、その銃口からビームの閃光が放たれた事にグリバーは驚愕を隠せない。
動きが急変した火球から放たれるビームは、自分の操る飛行砲台に狙いを定めている。
突然の事態に反応が遅れたグリバーに飛行砲台を動かす事は出来ず、火球に狙われた羽型飛行砲台は全てビームに貫かれて爆散する。
《ちぃ!》
爆音で我に返ったグリバーは慌てて予備の羽型飛行砲台を射出、先程とは全く違う動きの火球に自分の飛行砲台をぶつけるようとする。

「鬼火銃『閃箸』、『連焔(ツラネホムラ)』、『山噴(ヤマブキ)』、『爆礫(ハゼリツブテ)』、『狙凰(ネライオオトリ)』! 全銃種解放!」
だが、目前で広がった光景にグリバーは言葉を失った。
五つの火球を残し、機敏に動き回っていた火球がオートマチックから更に容を変える。
サブマシンガン、ショットガン、リボルビンググレネード、スナイパーライフル……其々五つずつ、オートマチックを含めれば五種類の銃がグリバーの前に現れる。
「遠隔操作なら、小生に一日の長があるわ!」
《黙れ、劣等!》
不敵に笑う紅蓮、激昂するグリバー、二人の遠隔操作兵器対決の幕が開く。

ぬわははははは! 鈍い、鈍いぞ! 欠伸が出る程に鈍いわ!」
地上の紅蓮桜、空中のエレフセリア。
紅蓮の世界では空想、この世界では現実の存在である巨大ロボットの遠隔操作兵器対決。
先程までの優勢は何処に行ったのか、グリバーは終始紅蓮に押されていた。
蜻蛉の如く機敏、訓練された軍隊の如く効率的な動きで紅蓮は火球を動かし、正確無比な狙いで飛行砲台を墜とし、隙あらばグリバーを狙ってくる。
サブマシンガンとショットガンの牽制で動きが鈍ればスナイパーライフルで狙撃、一ヶ所に固まればリボルビンググレネードでまとめて爆砕、と火球の連携に無駄が無い。

《ぐ、くぅ、劣等風情が調子に乗るなぁぁ!!》
その一方でグリバーの飛行砲台の動きは、紅蓮の火球と比べれば雑としか言いようがない。
火球を狙って放たれたビームは尽く避けられ、逆に墜とされる始末。
火球操る紅蓮を狙っても何時の間にか罅の消えた花弁に防がれ、背後からの攻撃も背中に目があるのでは? と言わんばかりに的確に防いでくる。
苦境が焦りを生み、焦りが雑な動きとして現れ、動きが雑な飛行砲台を墜とされ更に焦る、という悪循環にグリバーは陥っていた。
羽型の飛行砲台は魔力がある限り予備を用意出来るが、円盤に付いていた方の飛行砲台は替えが効かない為、突起の方は墜とされないようにするが撃墜も時間の問題だ。

《認めない、認めない認めない認めないぞ! ボクは勇者、勇者なんだ、選ばれた勇者が劣等とゴミ如きにぃぃ!》
経験した事の無い苦戦―而も、相手は劣等と見下す紅蓮―にグリバーは憤りを隠せない。
何故選ばれた者である自分が、選ばれた者の為に働くだけの劣等に苦戦するのか。
何故選ばれた者である自分が、劣等相手に押されているのか。
その二つの疑問がグルグルと頭の中を回り続け、その答えは一向に出てこない。
「ろくな研鑽も積まず、己より弱き者しか相手にせぬ張りぼてに小生は負けぬ!」
《黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れぇぇ――――!!》
紅蓮の言葉に神経を逆撫でされたグリバーは残っている魔力をエレフセリアに注ぎ込み、翼から無数の飛行砲台を射出する。

《撃ち落としてみろ! 劣等! 撃ち落としてみせろぉ!!》
焦燥と憤怒が混じる怒涛の一斉砲火、グリバーの思念で動く飛行砲台は慣性の法則を無視した尋常ではない動きでビームを連射する。
網目の如く無数に閃く緑色の閃光、生身で触れれば蒸発必至の光の檻。
その中央で一歩も動かぬ紅蓮は光の網目の間を縫って火球を動かし、飛び交う飛行砲台を一つずつ確実に撃ち落とす。
一つ、また一つ、僅かに動きを止めた瞬間に飛行砲台は爆散する。
《ふ、ふざけるなぁぁ――――!!》
目前に広がる、信じたくない光景でグリバーは決めた。
全身全霊、己が全力で紅蓮を殺すと。

フシャアァァァ――――ッ!!
威嚇する猫のような叫びで撃墜を免れた飛行砲台の動きが変わる。
飛行砲台は紅蓮を中心に円を描くように並び、銃口を下に向けて最大出力のビームを放つ。
地面に向かって継続して放たれる極太のビームは宛ら光のカーテンで、その隙間は人一人通れるかどうかも怪しい。
紅蓮の真上にも包囲に加わらなかった飛行砲台が配置され、獲物を狙う猛禽類が如く彼に銃口を向けている。
光のカーテンで包囲し、唯一の逃げ場塞ぐ真上の飛行砲台からの一斉集中砲火。
未だ嘗て破られた事のない奥義、『アゲロス・フィラキ』。
奥義の前に紅蓮も敗れ去る、とグリバーは信じていた。

「哀れよのぉ」
信じていただけに、紅蓮の憐憫混じり嘲笑に
「この程度の児戯で小生を討とうとはのぉ」
紅蓮桜の頭の花から濛々と噴き出る紅い靄に
「貴様は、弱い」
ドドドドドドドドドドドン!!
紅い靄に包まれた飛行砲台が残さず爆発した事に、グリバーは何の反応も起こせなかった。
《え、あ、は……?》
爆発に包まれる紅蓮にグリバーは呆然と呟く、自爆するとは思っていなかったからだ。

《何だ、僕の奥義が破れないからって自爆したのか! 当然だ、選ばれた勇者である僕に劣等が勝てる筈が無いんだ! あは、あはは、あははははははははははは!!
紅蓮の呆気無い終わりに、壊れたような高笑いを上げるグリバー。
ズシャンッ
《…………は?》
勝利に浸るグリバーの耳に、巨大な何かを振り下ろして叩き付けたような音が届く。
ズズッ
次いで届くは重たい何かを引き摺るような音。
ズシャンッ、ズズッ、ズシャンッ、ズズッ……
振り下ろして叩き付けたような音、重たい物を引き摺るような音が交互に繰り返される。

《あ、あぁ、あぁ…………》
交互に繰り返される音に首を傾げ、轟々と燃え盛る炎に目を向けたグリバーは恐怖で顔を青褪めさせる。
ユラユラと揺らめき、燃え盛る炎を掻き分けて真っ赤な影が現れる。
「小生の二つ名は『炎従紅僧』、炎を戦友とする小生が爆死なぞ笑えぬ冗談よ」
ソレは赤尉紅蓮が駆りし紅蓮桜、その身に微かな焦げ跡以外に一切損傷無し。
鋼鉄の萼に生えた刃金の根を振り上げては振り下ろし、その先端を地面に食い込ませては根で萼を牽いてゆっくりと近付いてくる。
揺らめく業火を背に、機械仕掛けの紅い瞳を輝かせて近付く紅蓮桜は、グリバーの目にはどう映っただろうか。

グリバーは知らない。
紅蓮桜の頭の花から噴き出た紅い靄は可燃性の高い火薬だと。
炎を従え、炎を鍛え、炎を戦友とする紅蓮に火は効かない事を。
そんな紅蓮から生まれた鋼鉄のアルラウネに爆発は無意味だと。
なにより、自身と紅蓮の間には絶対に埋まる事のない実力差が……断崖絶壁の谷底に居るグリバーに、その崖の上に立つ紅蓮に幾等足掻いても届かない事を。
その事実をグリバーは知る術は無く、ソレを知る事も無い。

《ひっ、ひいぃぃ――――!!》
本能が敗北を悟り、傲慢な誇りを圧し折られたからか……勇者とは到底思えない情けない声を上げ、背中を無防備に晒したグリバーは尻尾を巻いて一目散に上空へと逃げ出す。
「逃がさぬ! 佐久夜殿、暫し目を瞑っていてくだされ」
「え、あ、うん」
無論、紅蓮にグリバーを逃す気は無く、佐久夜が目を瞑ったのを確認した紅蓮は首に巻く数珠を手に取る。

人是宙、宙是人、人宙是同類深淵無辺也!
数珠持つ右手に前に突き出し、剣指を組んだ左手を顔前に構え、念仏を唱えるような態勢を取る紅蓮。
終是始、始是終、旧宙終焉是新宙開闢也!
その一節一節を唱える度に紅蓮の内に魔力が漲り、漲る魔力は全身を駆け巡る。
「紅蓮!」
満ち溢れ、駆け巡る魔力は器(紅蓮)から漏れ出し、紅蓮(器)の下顎から上が炎に包まれる。
漏れ出る膨大な魔力に目を開き、紅蓮の方に振り返った佐久夜は彼の姿に悲鳴を上げる。
だが、紅蓮に絶対の信頼と愛を寄せる佐久夜は彼を信じ、正面モニターに目を向ける。

《な、何だ!?》
逃げるグリバーは背後から沸き立つ膨大な魔力に足を止めて振り返り、振り返る彼の目に映るのは胸に自ら手を突き刺す紅蓮桜。
胸に手を突き刺した紅蓮桜は装甲を剥がし……いや、『元々そういう構造だった』のだろう、装甲は城門の如く開き、扉の向こう側に鮮やかな真紅の虚空が覗く。
真紅の虚空覗かせる扉からズルリ…と大地を突き破る芽の如く何かが現れ、現れた何かにグリバーは目を奪われる。
《蕾……?》
現れたのは蕾、燃え盛る業火の如き真っ赤な蕾。
この世のモノとは思えぬ鮮やかな紅に目を奪われるグリバーの前で、蕾がゆっくりと開く。

《ひぃ……!》
胸に大輪の紅い花を咲かせた姿は至高の芸術品のように美しかったが、グリバーには今の紅蓮桜の姿は死神にしか見えない。
何故なら真紅の花の中央、本来なら雄蕊と雌蕊がある部分には巨大な砲口があったからだ。
縮めていた砲身を伸ばし、砲口から大砲に変わり、その筒先に純白の光球が複雑な文様を描く魔法陣と共に現れる。
炎は温度が高まれば高まる程、橙から赤へ、赤から蒼へ変わる。
そして、極限まで温度が高まった炎は蒼から『白』へと変じる。

我、旧宙壊者也! 汝、新宙除者也!
内から漏れ出る炎に包まれた紅蓮の瞳が、恐怖で立ち竦むグリバーを見据える。
今此処で我は旧き宙(ソラ)を終わらせ、新たな宙を開闢せん!
そして―――

『新宙開闢焦熱祝砲(ハジマリヲイワウホムラ)

赤尉紅蓮の切り札、宇宙の始まり(ビックバン)に匹敵する白き業火が放たれる!

《ひ、ひぃやあぁぁああぁあああぁぁぁあぁぁあぁあぁぁぁ!!
空間を歪ませながら迫る白き業火に、グリバーは悲鳴を上げながら逃げる事しか出来ない。
白き業火は執拗にグリバーを追い詰め、背後から迫る恐怖にグリバーは涙を流し、鼻水を垂らし、尿を漏らしながら逃げ続ける。
《ひぎぃっ!?》
恥も、プライドも、全てを投げ捨てて逃げ惑うグリバー。
己以外を見下す、名ばかりで実の無い勇者の動きが縫い止められたように突然止まる。

「東が貴様を見たらこう言うだろうな。花は桜木、人は武士、散り際こそ潔くあれ、と」
もし、グリバーに周囲を注意深く見る余裕を残していたのなら、四肢を拘束する不可視の炎を彼は見ただろう。
ソレは紅蓮の魔術が一つ、四肢を封じて動きを封ずる『封焔(シバリホムラ)』。
「せめてもの手向けに、辞世の句を用意してやったぞ。『桜舞う 夜空の下で 我は散る』」
―――――――――――――
紅蓮が辞世の句を手向けるのと、グリバーが白き業火に包まれたのは同時。
白き業火はグリバーと彼の断末魔の絶叫諸共に空間を焼き尽くしながら縮小を始め、目に見えぬ領域にまで小さくなった瞬間、夜空に上がる花火のように弾け散る。
舞い散る無数の火の粉は桜の花の如く夜空を彩り、炎の桜が舞う夜空は絵画の如き幻想的な美しさを見せている。
「我ながら良い句だが、貴様もそう思うだろう? 尤も、もう聞こえておらんだろうがな」

×××

「紅蓮、凄かったねぇ。カッコ良過ぎて、惚れ直しちゃった」
頬を赤く染め、紅蓮の胸板にグリグリと頭を押し付ける佐久夜の言葉は、極度の緊張状態にある彼の耳に届いていない。
グリバーを滅ぼし、目前の幻想的な光景を眺めていた時、下の席に収まっていた佐久夜の手招きに紅蓮は応じた。
そしたら、この状況である……あっという間に蔦で器用に服を全て脱がされ、一糸纏わぬ生まれたままの姿で佐久夜の花の中にダイブしていた。

(お、おおお、落ち着け紅蓮、こういう時は素数を数えるのだ。1、3、5、7、11、13、17、19……はて、素数とは何だったか?)
互いに裸―元々、佐久夜は裸に近かったが―で密着している状態に、紅蓮は戦闘時よりも緊張している。
義父に引き取られてからの紅蓮の生活は研鑽に次ぐ研鑽、たまに義父が用意した『バイト』をこなしてまた研鑽、という修行僧顔負けの女っ気の無さ
同い歳で似た境遇の義妹が紅蓮にはいるが某地上最強の生物並の身体能力を誇り、性格も『漢』勝りの為、その長い付き合いもあって彼女を紅蓮は『女性』として見ていない。
故に、紅蓮にとって今の状況は人生初の状況であり、緊張するなと言う方が無理だ。

「ねぇ、紅蓮」
「は、はひっ!?
胸板に埋める佐久夜の呼びかけに、紅蓮は緊張で裏返った声で答える。
「教えてくれる?」
何を? と一瞬思った紅蓮だが、直ぐに佐久夜が教えてほしい事に思い至る。
『ボクは紅蓮の事が、男の人として大好き』
『ボクは紅蓮とずっと一緒に居たい、紅蓮と一緒にこれからを生きていきたい』
佐久夜が聞きたいのは紅蓮を爆発的に燃やした、先程の告白の返事だ。
あの告白が、紅蓮の闘志を燃やす為だけの方便とは思えない……それだけ佐久夜の本気が伝わる告白であり、本気でなければアソコまで闘志は燃えない。
ソレが分かっている以上、紅蓮の答えは決まっている。

「小生も好きだ」
短くも本気なのが伝わる紅蓮の答えに、歓喜で言葉を失った佐久夜は目を潤ませる。
「初めは良き女友達だったが、あの告白で小生は漸く悟った」
「…………」
「小生は佐久夜殿が好きなのだ、と。何時の間に恋に落ちたのか、小生にも分からんよ」
「…………」
「だが、コレだけは絶対と断言しよう。小生は木花佐久夜を、心から愛しておる」
ゆっくりと、噛みしめるように言葉を紡ぐ紅蓮に、佐久夜は無言を貫く。

「嬉しい、なぁ……」
どれ程の時間、抱きしめあっていたのだろうか。
胸板に埋めていた顔を上げ、聞いただけで心から嬉しそうな声を漏らす佐久夜。
その目は嬉しさで潤んでおり、頬も林檎の如く真っ赤に染まっている。
「ボクの初恋、実ってよかったよ……」
「う、うむ、実は小生もコレが初恋なのだ」
「初めて同士、かぁ……えへへ、もっと嬉しい」
喜びで佐久夜は紅蓮をギュッと抱きしめるが、恥ずかしそうに視線を逸らす紅蓮にとってその行為は堪ったモノではない。
裸で抱きしめあい、魅惑のエアバッグが押し付けられているという状況に、股間の愚息が立ち上がらないよう抑えるので必死なのだ。

「……あっ」
「をおぉ……」
だが、その自制空しく、張り切る愚息が佐久夜の腹を叩いた事で彼女に気付かれ、紅蓮は節操無しの愚息に頭を抱えるしかない。
恥ずかしさで穴があったら入りたい心境の紅蓮だが、彼の愚息をジッと凝視する佐久夜の視線で恥ずかしさはリニアモーターカー並のスピードで加速する。
「お、大きい……ソレに凄くピクピクしてるし、血管も浮き出てる……」
「実況中継は勘弁願いたい」
艶を帯び始めた佐久夜の言葉に、穴は穴でも墓穴に入りたくなった紅蓮。

「くぅ……!?」
すると、股間から快感が走り、紅蓮は己の股間に目を下ろす。
「ふわぁ……凄く熱い、火傷しちゃいそう」
見れば顔を真っ赤にした佐久夜が優しく竿を掴み、掴んだ手を拙く上下させていた。
赤尉紅蓮、エロ本を読むどころか自慰をした事も無い正真正銘の童貞である。
そんな紅蓮にとって、好きな女の子が自分の肉竿を扱くという状況は刺激が強過ぎる。
「紅蓮、気持ち良さそうな顔してる……ボクの手、気持ち良い?」
竿を扱く手を休めずに、情欲に溢れた目で見上げる佐久夜の問いに、強過ぎる快感に歯を食い縛りながら紅蓮はぎこちなく頷く。

「あはっ❤ それじゃ、もっと気持ち良くしてあげる」
何を思ったのか、竿から手を離した佐久夜は花の内側に溜まっている琥珀色の蜜を掬い、掬った蜜を紅蓮の股間に垂らし、蜜を掬っては垂らすのを繰り返す。
「ほら、紅蓮。コレ、舐めて」
股間を蜜塗れにしつつ佐久夜は別の手で掬った蜜を紅蓮の口元に運び、差し出された蜜を紅蓮は口に含む。
「ぬ、おぉ……!?」
すると、只でさえギンギンに勃起していた愚息が更に固く、大きくなる。

「良かったぁ……耐性が付いてたら、どうしようかと思ったよ」
「い、一応聞いておくが、この蜜はやはり……」
「うん。少しなら大丈夫だけど、一気に舐めるとエッチな気分になるの」
やはりそうか、と紅蓮は天を仰ぐ……会う度に貰っていた佐久夜の蜜、舐め終わる頃には愚息が臨戦態勢に入っており、その度に座禅を組んで宥めていた。
身を以て知っていた蜜の効果、改めて聞かされると己の無知に涙が出てくる。
「それじゃぁ、もっと気持ち良くなってね❤」
「ぬ、お……」
小悪魔チックな笑みを浮かべた佐久夜は蜜塗れになった竿を再び扱き始め、紅蓮は竿から伝わる快感に呻きを上げる。

ローション代わりの蜜でニュルニュルと滑らかに動く佐久夜の手。
ニチャニチャと卑猥な水音が耳に届き、ジンワリと熱を持った竿を上下する温もり。
始めは拙かった技も慣れてきたのか、緩急を付けて竿を扱いたり、敏感な先端を人差し指でグリグリと刺激したり、と徐々にバリエーションを増やしていく。
その全てが童貞の紅蓮には刺激が強過ぎるモノであり、彼の理性は嵐に巻き込まれた小舟宛らにもみくちゃにされている。
そんな沈没寸前の理性を総動員させ、紅蓮は暴発しないように堪えるので精一杯だ。

「紅蓮、気持ち良いんだ……それなら」
堪える紅蓮の顔に嗜虐心をそそられたのか、佐久夜は竿から手を離す。
不意に途絶えた快感に『物足りないぞ』と訴える愚息に、佐久夜はニンマリと笑いながら紅蓮を花の縁に座らせ、彼の足の間に身体を割り込ませる。
紅蓮は紅蓮で暴発寸前だった為、安堵と物足りなさの混ざった複雑な気分だった。
「ん、しょっ……と」
「お、おぉぉ!?」
すると、佐久夜は胸を揺らして紅蓮の股間に乳房を乗せ、両手を使って胸を寄せるとその谷間に竿を挟んだ。
たわわに実った乳房に竿を挟まれた紅蓮は、その甘美な感触に思わず感嘆の声を漏らす。

「えへへ、動かしちゃうよ〜❤ んっ、はぁ、ん、んんっ……」
竿を胸の間に挟んだ佐久夜は、小さく胸を揺すって竿の側面を擦る。
タップリと垂らされた蜜で元々滑らかな肌が、更にヌルヌルと滑る。
くすぐったく、そしてもどかしい、ソレが紅蓮には気持ち良かった。
「んっ……ん、はぁ……ふぁ、ん、くぅ……」
「う、く……ぐ、うぅ……」
形の良い佐久夜の美巨乳が、彼女自身の手でギュッと潰されている。
その絶妙な『包まれている感』は紅蓮を更に追い詰め、そんな彼の姿は佐久夜に満足感と幸福感を与える。

「ん、ふぅ……はぁ、んっ……」
左右の胸をずらすようにプルプルと揺すり、胸を揺する度に硬くなった乳首が腹に擦れる感触も心地良い。
「……硬くなっておるな」
「うん、紅蓮の気持ち良さそうな顔、見てたら……はぁっ、ボクも興奮してきちゃった」
紅蓮の指摘に佐久夜は胸を揺する事で答え、竿を扱くのと同時に自分で胸を揉みしだく。
「んっ、はぁ……あ、ふぅ、ん……んっ、あぁ、くふっ……」
乳房に指が沈み込み、グニグニと形を変える。
何もせずに視覚と触覚で快感を味わうのは夢のようであり、天にも昇る心地とはこの事か、と紅蓮は納得する。

「ふぁ、あぁ……んっ、はぁ……初めてなのに、んっ、凄く、感じちゃう……」
佐久夜からしてみれば、紅蓮に奉仕しつつ自慰しているようなモノだ。
佐久夜の声のテンションは上がり、艶を帯びていた声は更に艶を帯びる。
「ねぇ、んっ、紅蓮……気持ち、良い……?」
「あ、あぁ……」
細波のようなまったりとした快感でも紅蓮にとっては荒波同然で、気持ち良いかと尋ねる佐久夜に紅蓮は余裕を失った顔で頷く。
その顔を見た佐久夜は乳房に挟まれ、先端を覗かせる紅蓮の逸物に顔を近付け、
「あむっ……」
「ぬふぅ!?」
カプッ…と飛び出していた先端を甘噛みし、唐突な刺激に紅蓮はブルリと震える。

「ぬ、あ……」
「ん、んんっ!?」
敏感な先端に訪れた強い刺激に愚息は降参の白旗を上げ、佐久夜の口内に精液を吐き出す。
突然吐き出された精液に佐久夜は目を白黒させるが、直ぐに喉を鳴らして精液を嚥下する。
「あはっ❤ 紅蓮の精液、凄く美味しい……」
射精が終わり、精液を飲み干した佐久夜は妖艶な笑みを浮かべ、ペロ…と唇を舌で舐める。
その艶やかな仕草に、紅蓮の理性は完全に沈没した。
「佐久夜殿……」
「ふぇ……って、きゃん!?」
紅蓮が足の間に陣取る佐久夜の肩を掴んで引き剥がすと、そのまま彼女を押し倒す。

「ぐ、紅蓮? 何か、目が恐いのを通り越して凄く危険なんだけど……」
尻を突き出すような形で押し倒された佐久夜が首を紅蓮に向けると、視線の先には極限の飢餓に晒された野獣宛らの目をした紅蓮。
野獣の如し目にはギラギラと、情欲の炎が燃え盛っている。
「ふ、ふふ……小生、もう抑えが効かん」
「あ、あはは……」
佐久夜の尻に愚息を擦り付け、大人も逃げ出しかねない悪鬼の如き笑みを浮かべる紅蓮に、佐久夜は乾いた笑い声を上げる。
「先に申しておく……小生は女子の扱いは不慣れ、愛しみ方もろくに知らぬ」
押し倒した佐久夜に覆い被さるように紅蓮は身体を寄せ、佐久夜の耳元で告げる。
「故に、乱暴にいかせてもらう」
自分は乱暴な愛しみ方しか出来ない、と。

「ひ、ぐ……!?」
そう告げた瞬間、佐久夜の尻を掴んだ紅蓮は逸物を彼女の秘所に挿し入れる。
萎えて尚大蛇の如き紅蓮の逸物……限界まで勃起し、膨れ上がった肉の槍は性交に長けた魔物でもキツいのだろう。
未だ男を受け入れた事の無い聖域を肉の剛槍に貫かれた佐久夜は息を詰まらせ、ブツ…と処女膜が破けた音を幻聴する。
「ひぃ、ぐっ、あぁ……」
紅蓮の逸物がそのまま奥の子宮口をノックしたと思った瞬間、ゴリゴリと削られるように引き抜かれていく。
「か、はぁ!?」
再び逸物が勢いよく最奥を叩き、バチンッ…と肉同士がぶつかり合う音が操縦席に響く。
勢いよく最奥を叩かれた事で佐久夜は短い悲鳴を上げるが、彼女の悲鳴を気にせず紅蓮は腰を激しく動かし始める。

「ひ、ぐ、あ、あぁ! ぐ、紅蓮、は、激し……!!」
つい先程まで処女であった佐久夜を労わらない、獣じみた交わり。
肉同士がぶつかり合う音、淫らな水音、悲痛さを感じさせる佐久夜の喘ぎが操縦席に響く。
「す、こし、だけ……少し、だけで、いいから……優しく、してぇ……」
『愛する』と言うより、『犯す』と表現した方が正しい乱暴な性交。
稚拙で乱暴な動きに佐久夜は優しくして、と懇願するが、紅蓮はより激しく、より鋭く、揺さぶるように破瓜の血が流れる佐久夜の秘所を貫き続ける。
「優しくして、と言うがな……」
その懇願に一度動きを止めた紅蓮は佐久夜の髪を掴んで花弁に押し付け、嗜虐的な笑みを浮かべながら彼女の耳元で囁く。
「佐久夜殿のココは、嬉し涙を流しておるではないか」
「ひぅ……」
嗜虐性を帯びた紅蓮の囁きに、佐久夜の秘所はキュゥ…と彼の逸物を締め付ける。

「だ、だってぇ……紅蓮のが、ボクの中に、いるんだもん……」
今の魔物は己の欲求に素直な快楽主義者だが、その一方で己の愛する者には一途な愛情を注ぐ健気な一面を見せる。
愛する者に与え、与えられる快感は魔物達にとって強力な依存性を持った麻薬と同じだ。
愛する紅蓮と交わっている……その想いは乱暴な交わりでも佐久夜に喜びを与え、本能がもっと、もっととソレを望む。
「大好きな、紅蓮なら……どんな事、されても、気持ち良いのぉ……」
傍から見れば強姦されているように見える佐久夜の艶めかしい声、その声に応えるように秘所が紅蓮の逸物を甘く締め付ける。

「ならば、期待に応えてやらんと、なっ」
「あひゅっ!?」
その締め付けに紅蓮は腰を深く突き入れ、突然の一突きに佐久夜は目を白黒させる。
「そ、そんなっ、いきなり、激しっ……」
「激しいのが好きなのだろう? 佐久夜殿のココは、正直に答えておるぞ?」
そのまま先程以上に激しく突いてくる紅蓮に、佐久夜は途切れ途切れに艶混じりの抗議を上げるが、彼の囁きで抗議は止まる。
事実、佐久夜の秘所は紅蓮の逸物を甘く、それでいてキツく締め付け、彼女が感じている事を如実に示している。

「話を聞いただけだが、こうも淫乱とは……なぁ?」
「ん、んぁ、はぁ……んんっ、あぁ❤」
佐久夜の髪を掴んで押さえ、腰を激しく動かす紅蓮。
その耳元で嗜虐性を帯びた言葉を囁きながら、紅蓮は彼女の横顔を眺める。
耳まで真っ赤に染まった佐久夜の横顔……笑みを作る口端からは涎が垂れ、目尻は喜びの涙で濡れ、その目の焦点は定まっていない。
はしたなく、それでいて淫らな笑みを浮かべる佐久夜に紅蓮は嗜虐心を擽られる。
「労わりも無く、物のように扱われ、それでいて上からも下からも嬉し涙を流すとは、な。もしや、佐久夜殿はそういう趣味か?」
「ち、違……」
被虐趣味なのか? と囁かれた佐久夜は弱々しく、艶を帯びた声で反論する。

「ち、違……わない、のぉ……」
「ほぅ?」
だが、その反論は反論した本人が直ぐ覆し、その肯定に紅蓮はニヤリと笑みを浮かべる。
「ボク、ボクはぁ……紅蓮、専用のぉ……」
「小生専用の、何だ? はっきり言わねば伝わらんぞ?」
「ぼ、ボク、ボクはぁ……」
言葉紡ごうにも快感で途切れ途切れになる佐久夜だが、最後まで紡がれるのを待つ余裕は紅蓮には無い。
正直な話、紅蓮も限界が近い……一度射精した後とはいえ後先考えなかった行為のツケか、少しでも気を緩めれば射精しかねない。
少しでも堪えたい、気を逸らしたい、その為の言葉責めであり、今の紅蓮に余裕は無い。

「ボクはぁ、紅蓮、専用のぉ」
艶やかで甘い声は脳髄を侵し、
「エッチで、」
濃厚な甘い香りは理性を融かし、
「マゾな、女の子なのぉ……❤」
初恋の相手で愛しい佐久夜の言葉で紅蓮は心身共に陥落した。
その言葉を切欠に我慢に亀裂が入り、亀裂は急速に大きくなる。
もう限界だと訴える逸物は一回り程大きく膨れ、ビクビクと激しく脈動する。
「ふぁ、あぁ……出して、出してぇ❤ 紅蓮の精液、ボクの中に出してぇ❤」
射精の予兆を胎内で感じ取った佐久夜の甘く、蕩けるような懇願に、紅蓮は逸物の先端を奥に押し付ける事で答え、
「く、ぐぅ……」
「ふあぁぁぁ―――――❤」
その瞬間、逸物が爆ぜるように精液を吐き出し、最奥に叩き付けられる熱い迸りに佐久夜も絶頂を迎える。
逸物はドクドク…と精液を吐き出し続け、佐久夜の心身を甘く蝕み続ける。

「ふにゃぁ……紅蓮、ボク……凄く、幸せぇ……」
長いようで短い射精が終わった後、絶頂の余韻で蕩けた顔で呟く佐久夜に、紅蓮の獣性が鎌首を擡げる。
「まだ終わらぬよ」
「ふぇ……?」
鎌首を擡げる獣性に従い、紅蓮は掴んでいた佐久夜の髪から手を離し、離した手を彼女の尻に添える。
「小生、まだまだ物足りんのでな」
ニヤリと笑う紅蓮に、佐久夜は恐怖半分歓喜半分の乾いた笑みを浮かべるしかなかった。



「ケダモノ」
「……………………」
その後。
「ケダモノ、ケダモノ、ケダモノ!」
「…………済まぬ」
抜かずの八発、獰猛で乱暴な性交で内股を大量の精液と愛液で濡らし、顔を真っ赤にして頬を膨らます佐久夜に怒られたのは言うまでもない。

×××

「すぅ……すぅ……」
獣じみた性交の後、疲れがピークに達した佐久夜は紅蓮に寄り添うように眠りに就いた。
まぁ、ソレも当然だろう……突然の夜襲、二人にとって未知の存在である巨大ロボットを用いた戦闘、その直後にケダモノじみた性交、コレで寝落ちしない猛者は早々いない。
紅蓮も同様で、夢の国へと旅立ちそうな意識を辛うじて繋ぎ止めている状態だ。
可愛らしい寝息を立てる佐久夜の髪を梳きながら、紅蓮は蜜の中に沈む彼女の両足を見る。
佐久夜のヒト部分は若草色の肌と頭の花、身体に絡む蔦以外は至極普通の人間と同じだ。
その踝には花の内壁から生えた蔓が融合しており、佐久夜が花と離れられないのも分かる。

(まるで虜囚よな……っと、小生も虜囚か)
その足を見て、牢獄に鎖で繋がれた囚人のようだと感じた紅蓮はフッ…と笑う。
自分も『佐久夜』という牢獄に『愛』という鎖で繋がれた虜囚……こんな甘美な牢獄では、脱獄する気も鎖を引き千切る気も起きない。
―コンコンッ
「む?」
自分は佐久夜が大好きなのだと改めて自覚した直後、外から装甲を叩く音が聞こえる。
寄り添うように眠る佐久夜を起こさぬように退かし、花の外に出た紅蓮は急いで服を纏い―下半身にへばりつく蜜は炎で蒸発させた―、音源を確かめるべく外に出る。
操縦席の構造は何となくだが分かる……戦闘中はモニターが現れる部分に近付くと長方形の切れ込みが壁に入り、ゴゥン…と腹に響く音と共に切れ込みの入った壁が前に倒れる。

「あら、其処が開くのね」
「おぉ、キザイア殿、無事だったか!」
操縦席の外―どうやら操縦席は人間で言えば腹にあるようだ―に出た紅蓮がキョロキョロと明るくなってきた周囲を見渡すと真上、胸部装甲の部分から聞き慣れた声。
すると、キザイアがゆっくりと降りてきて、彼女の無事に紅蓮は安堵の溜息を漏らす。
「てっきり、胸の部分が開くのかなぁって思ってたけど」
「胸も開く事は開くが、其処にあるのは操縦席ではなく大砲よ」
確かに人が乗る巨大人型ロボット―尤も、紅蓮桜は『ロボット』と言えるか不明だが―の操縦席は、一部例外はあるが胸にある事が多い。
何故ソレを中世の者が知っているのかは疑問だが、キザイアの言葉に紅蓮は苦笑する。

「サクィーアちゃんも無事みたいだし、本当に良かったわ」
情報交換を終えた後、佐久夜を本気で心配していたキザイアは安堵の溜息を漏らす。
避難誘導中、姿の見えぬ佐久夜を探しに出て火柱を見つけたキザイアは火柱の立った場所目指して飛んだが、その途中でグリバーのエレフセリアを遠目に見つけてしまった。
どう転んでも勝てない事が明白では挑む気も失せる……故に、キザイアは佐久夜の無事を祈りながらセイレムに戻り、避難誘導組に合流したそうだ。
焼き討ちを早期に察知出来た事、駆け付けた紅蓮がネルカティエを引き付けてくれた事で、セイレムの住民は全員無事に避難出来たそうだ。
「善哉、善哉、全員が無事で何より」
「貴方のお陰で助かったんだし、本当にありがとう」
住民が全員生きている事に紅蓮は顔を綻ばせ、キザイアは紅蓮のお陰だと彼に礼を言う。

「そ・れ・で? サクィーアちゃんとヤっちゃった?」
どぅふぉっ!?
キザイアの次の一言に紅蓮は唾を噴き、その様にキザイアはニヤリと笑う。
「な、な、何の事であるかなぁ?」
「嫌でも分かるわよ。だって、貴方からサクィーアちゃんの魔力がプンプン感じられるし、後ろの……操縦席? 其処から濃ゆぅい精の香りもするし、ね♪」
「ぬぐぐ……そ、その通りぞ」
目をあらぬ方向に向けて紅蓮はすっとぼけるが、キザイアの的確な指摘に観念したように両手を上げる。
そうだった、魔物は『こういう事』には目敏い事を紅蓮はすっかり忘れていた。

「魔物は一度心に決めた相手に一途だし、サクィーアちゃん……『妹』の事、これからもよろしくね♪」
「い、妹!?」
二人が『そういう関係』になったと分かったキザイアは紅蓮に佐久夜をよろしくと言うが、彼女の『妹』という言葉に紅蓮は驚きを隠せない。
「正しくは妹分。サクィーアちゃんが小さかった頃から私が面倒を見てきたから、彼女は妹みたいな存在なの」
「そ、そうか……まぁ、佐久夜殿は小生の可愛く大事な嫁。キザイア殿に言われずとも、全身全霊を賭してでも護り、この身果てる時まで愛するぞ」
「もぉ、惚気? はいはい、御馳走様」
その説明で納得し、真面目な表情で惚気る紅蓮に呆れるキザイアだが、その目には妹分が良い恋人に巡り会えた事を喜ぶ光があった。

「して、これからどうするつもりなのだ?」
「此処から徒歩で二ヶ月くらい。ちょっとした旅になるけど、アーカムに行くつもりよ」
投入した部隊が全滅、グリバーも倒れた上に紅蓮が魔物側に付いた以上、ネルカティエは今まで以上にセイレムを狙うだろう。
これからどうするのかと問う紅蓮に、キザイアは住民総出でアーカムに向かう事を告げる。
アーカムにはキザイアの友人が住んでおり、親魔物派領の中でも軍備・国力も最大規模のアーカムなら道中は不安だが到着すれば当面は安心だ、と。
「勿論、貴方も一緒に来てくれるのでしょう?」
「当然。佐久夜殿を置いて孤高の英雄気取りなぞ、小生には無理というもの」
キザイアの問いに、分かっている事を聞くなと言わんばかりに即答する紅蓮。
もう自分は佐久夜から離れられない身、恋人を置いて一人戦う真似は紅蓮には出来ない。

「それに、東達の事もアーカムに行けば何か分かるかも知れん」
それに、紅蓮にはこの世界に来ているらしいが行方の分からない義兄弟達の事もある。
アーカムに行けば、行方知れずの義兄弟達の手掛かりが掴めるかもしれない。
「それじゃ、決まりね。私達の命、貴方に預けるわ」
「委細承知。命を賭してでも、小生はお主等を護ろう」
「死んでも護る、は駄目。サクィーアちゃんの為にも、必ず生きる事」
「ソレも元より承知、佐久夜殿を未亡人にする気も無い」
再び真面目な表情で惚気る紅蓮に、キザイアは呆れつつも別の場所に避難したセイレムの住民と合流すべく翼を広げて空を翔ける。

「さて、長き旅路の始まりか」
キザイアを見送り、操縦席に戻った紅蓮は操縦桿である籠手を着け、紅蓮桜を動かす。
光の消えていた機械仕掛けの紅い双眸に再び光が灯り、重低音と共に紅蓮桜はゆっくりと動き出す。
「一心、夜斗、勇一……小生は己が信念に従い、己が道を歩む。お主等も早く己が信念の道を歩む事を、小生は信じておるぞ」
ネルカティエへ残す義弟達に自分の道を歩む事をテレパシーで伝え、紅蓮は自分が選んだ道を今は疲れて眠る愛しい佐久夜と共に進む。

紅蓮は知らない。
己の反逆がこの世界と元の世界の命運を賭けた、長く苛烈な戦いの狼煙である事を。
13/12/03 07:59更新 / 斬魔大聖
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■作者メッセージ
初めましての方は初めまして、お久し振りの方はお久し振り。
『萌え』より『燃え』を取る、ニトロプラス脳の斬魔大聖が新作引っ提げて戻ってきました。
え? 連載中の小説はどうしたって? ぶっちゃけますと、展開どん詰まり(汗)。
展開をどうするかで詰まった為、こうして温めてた新作を投稿という次第です。

さて、筆者の新作・『異界戦記 マキナ』は男なら好きであろう巨大ロボットもの。
まぁ、『中世+図鑑世界+巨大ロボット』という異色な色物なのは認めます。
この『異界戦記 マキナ』は主人公が八人おりまして、主人公毎の個別ストーリー+全員集合の完結編という構成なのですが、一つの作品としてまとめると容量がトンデモナイ事(恐らく、連載中の『お人好しの勝鬨』以上)になりそうなので、前半部分である主人公毎の個別ストーリーは別個に投稿という流れになります。
残り七人は執筆・校正作業が終わり次第、投稿していきますので皆様気を長くして次回をお待ちください。
今後とも『異界戦記 マキナ』をよろしくお願いします。

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