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リザードマンとリザードマン

特訓をしても強くなるとは限らない。
強くなっても勝てるとは限らない。
でも少年は強くなろうとしている。
目的は一つ。

ドラゴンとお話をして、大人しくしてもらうため。

子供が夢見るような優しい夢。
子供にしか見る事の出来ない途方もない夢。
絵本のようなお話。
少年はそれを信じて、剣を振っている。

私には理解の出来ない話。
ラージマウスはなんとなくわかっているのかな。
元人間だから。

「いいか。私たちリザードマンと言えど、人を超える力を持っている。だが武器を壊さない。なぜかわかるか?」
首をかしげる。
「武器で叩くのではなく、武器を使っているからだ」
首をかしげる。
「おまえは力任せすぎる。お前の詰むべき修行は、正しい力の入れ方だ」

力を入れすぎないように慎重に剣を振る。
「力強くではなく、速く、だ!」
力はあまり込めず、腕を早く振る。
剣がすっぽ抜けた。
「おわぁっ」
リザードマンはショートソードをかわした。

今日は山間の小屋でお茶会。
通りすがりのハーピーが用意したハニービーの蜜をパンに塗る。
焼いたパンの芳ばしさに蜂蜜の甘さが混ざる。
ラージマウスも食べればよかったのに。
いつの間にかいなくなっていた。

紅茶の葉は町で買った。
紅茶の淹れ方は通りすがりの眼鏡ラージマウスが知っていた。
同じく通りすがりの金槌リザードマンも一緒にお茶会に参加している。

「いいか! 剣とは振るものだ!」
「若いね。私にもそういう時があったよ」
「お茶のお代わりはいるかな?」
「うん、ありがとー」
賑やか。

リザードマンの二人は剣の事で話し合っているみたい。
片や剣を振る、片や剣を打つ。
ケンカしているように見えるけど、二人とも楽しそう。
「両刃の両断力は譲れないぞ」
「いやいや。ジパングの刀はすごいよ。あんなに細いのに強靭なんだからさ」

眼鏡ラージマウスは物知り。
少年に色々な話をしている。
「女性という物は不思議な物だよ。時に不機嫌、時に上機嫌。その境がわからないのだよ」
「そうなんだー。おねえさんもそういうことってあるの?」
「わからないな。感情とは複雑であり、ゆえに学ぶべき所は多い」
「そうなんだー。すごいねー」

「……ふむ。やはり、私も魔物か」
眼鏡ラージマウスが眼鏡をかけなおす。
少年が気づいていないみたい。
お茶のお代わりを催促。
お茶を注ぐの。
早く。

「わかったわかった」
どちらの意味か。
或いは両方の意味か。
眼鏡ラージマウスが笑ってお茶を注いでくれる。
私がケンタロスなら蹴っ飛ばしている。
「御免こうむるよ」
少年はやっぱりわかっていない。

「しかし。恋路、なのかな?」
首をかしげる。
コイン?
「いや。……ふむ。ふむ?」
首をかしげる。

「叩ききるだけなら斧でいいだろう。刀はいいよ。技の冴えがそのまま現れる」
「刀は受けるに向かないだろう。それに折れやすい。切れ味がなくなればただの鉄の棒だろう」
「真正直に受けるから悪い。斧を剣で受ければ折れるでしょ? そういうもんだよ」
「防御に使える分、西洋剣の方がいいだろう」
「で、すぐ折れると」
「折らなければいい!」

「向こうはさて置いて。君は中々興味深いな」
眼鏡ラージマウスは私を見ている。
「勇者か、或いは……どちらにせよ、興味深い」
よくわからないけどパンが美味しい。

「ならば試してみるか?」
「いいねぇ。たまには体を動かさないと」
二人のリザードマンが席を立つ。
でも片方は武器がない。

「剣はどうした」
「要らないよ。私は鉄を打つもんだからね」
手の中のハンマーを回す金槌リザードマン。
「いい度胸だ。剣のないリザードマン等恐れるに値しない」
「私もそんな風に思っていたよ。さ、かかってきなさい」

二人が構えて距離をとる。
慌てている少年。
眼鏡をかけなおして笑っているラージマウス。
私はパンを齧って、紅茶を飲む。

「いくぞ」
「さぁこい!」
ショートソードを手に取る。

そして二人の間に入って、ショートソードを振る。
二人の鼻先をショートソードが掠める。
リザードマンが二人とも止まる。

「む」
「びっくりしたなぁ」
ショートソードを仕舞って椅子に座りなおす。
「力が強すぎる欠点は、当てなければいいという結論か」
うなずく。
「いや、当てなければいけないだろう」
リザードマンが呆れている。

そのリザードマンの首に、抜いたショートソードを突きつける。
「なっ」
脅すならこれで十分。
「すごいね。動きも速いの?」
首を横に振る。

今日も少年を抱いて横になる。
「君も特訓していたんだ」
首をかしげる。

特訓というより、あれは思い出していただけ。
父様につけてもらった稽古。
父様が行っていた剣の稽古。
それを思い出して、真似てみただけ。

今でも力の加減が上手くいかないけど。
真似るだけならきっと大丈夫。
少年にだけそっと伝えると、少年は嬉しそうに笑った。

「君が家族の話をするのって、これが初めてじゃないかな」
……首をかしげる。
そうだったかな。
「うん、そうだよ」
嬉しそうに笑う少年を見て。

そういえば、少年の家族のことを全く知らない事に気付いた。



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13/01/24 01:17 るーじ

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