連載小説
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はじまり
俺の名前はガーレイ・ロック、身長175センチくらい、青い短髪の19歳。
剣士だ…あんまり腕は立たないけど。
そして、ドラゴン夫婦が国王を務めるこの大国、ドラゴニアの出身。
…ではなく、その近くのとある村からの来訪者と言ったところである。
その目的は一つ、ズバリ竜騎士になること。
理由は…過去、国境沿いにあるが故に襲われた俺の村での出来事にある。
その時俺の村を救ってくれたのは、ここの国王だったのだ。
焔を掻き分けて敵を倒す雄大な背中は、幼かった俺の脳裏にもしっかり刻みついていた。
そして成長してもそれは消えず…いつしか俺は、
「俺も!立派な竜騎士になりたい!」
と夢見るようになり。
そういうわけで俺は、この国に来たわけである。

そして。
時間帯の通りにお昼を食べた後の今、俺は何をしているのかというと。

「はぁ…参ったなぁ…」

城門に背を向け、頭を掻いて困っていた。
とても、困っていた。

「まさか、竜騎士が兵科に入ってないなんて…」

理由は簡単、竜騎士、というものが団体として存在していなかったからである。
個々にあちらこちら竜騎士はいるものの、『隊』というような集まりは無かったのだ。
正直、大誤算も大誤算である。
国王が竜騎士をやっている国の事、そのくらいあるだろう、とタカをくくっていた。
が、無かった。

「…ばあちゃんが苦笑いしていたのはこのことだったのかぁ…」
思い出しつつ、ペンダントを軽く触る。
それの中央、首の下に来るそこには、艶のある黒色の小さい宝石がぶら下がっていた。
これは一緒に暮らしているばあちゃんが、見送ってくれた時にくれたものだ。
今思い返せば、ばあちゃんはその時に苦笑いをしていた。
意味深なその笑顔、その時は浮かれていて何も思わなかったが…
こういうこと、だったらしい。

「…はぁ…」

それを知らないまま俺は、ここの隊に問い合わせて。
そして途方に暮れていたという訳である。
正直、馬鹿という他はない。
村の皆がいるとはいえ、ばあちゃんをほっぽってこんなくんだりまで来て。
そして、このざまである。

「帰るかなぁ…」
しかし、恥ずかしいなぁ…


「あ、おーい君!」

そう思いつつ、吊り橋を渡ろうとした時。
突如俺は、後ろから呼びかけられた。
「ん?…!?」
振り向いてみて…驚く。
そこにいたのが、問い合わせた時に偶々居合わせて色々答えてくれた隊長の竜騎士、ラスティさんだったからだ。
え…何?俺、呼び止められるようなことしたかな…?
などと考える間にも、ラスティさんは近づいて来て。

「君、確か竜騎士になりたいんだよね?」

そして、直球にそんなことを聞いてきた。
隠すことではなかったので、はい、と答える。

「ふふ、丁度良かった…一人だけ、居るんだよ。
騎竜ではないけれど、その候補生のワイバーンがね。
それでもよければ紹介するよ?」

するとラスティさんは笑って、そんなことを言った。
願ってもないことだった。
一人だけ、というのや、候補生、であるということが気にかかるが…
それでも、このまま帰るよりは余程ましだ。

「あ…えっと…お願いします!」

そう思った俺は良く考えもせず、返事をしたのだった。








しばらくして。
俺は、騎竜候補生を紹介してくれるというラスティさんの後について、街を歩いていた。
賑やかな大通りを抜けて、そして宿の傍の小道を抜けていく。
その途中俺はつい、こんなことを聞いていた。

「あの…その騎竜って、本当に騎竜候補生なんですか?」

妙な質問かもしれない。
しかし、俺にとっては至極まともな質問だった。
何せ、今歩いている場所が、城から結構離れていたからだ。
候補生というくらいなら城の中ないしは管理の行き届く近場に居るのが普通じゃないだろうか。
そう思っての質問である、うん、なんらおかしいところはない筈だ。

「まぁ、良いから良いから。」

しかしそんな俺の質問をラスティさんは笑ってはぐらかした。
いや、そう言えるかも怪しいごり押しだ。
逆に、正直ここまで清々しいともう何も言う気がなくなってしまう。

「そ、そうですか…」

俺は何がそうなのかも分からないままに返事をして、黙ってついていく。
足はもう、木々の繁るようなところまで来ていた。

…大丈夫、かな…

それを見てふと、そんな思いがよぎる。
城下町の中であるならばまだしも、こんなところまで来てしまった。
振り返れば城下が見える分、一応城下と言えるのかも知れないが…
「…」
周りには苔むした木が繁っていて、人の住んでいるような色は薄い。
…ここから、まだ進むんだろうか。
「お、見えてきたな。」
と不安に思っていると、ラスティさんはそう言って立ち止まった。
つられて止まる。
見ればそこには、大木が二本、門のようにそびえ立っていた。
歓迎するとも威圧するとも取れる、様相だ。
もしかして…

「ラスティさん、ここは…?」
「うん、あれだ。」

訊いてみる。
するとラスティさんは、奥の方を指さした。
その方向を良く見てみると…何やら、四角い灰色のものが見えた。
木々の間にあって良く見えないが、家を形作る土台のようだった。

「もしかして…」
期待が高まり、つい呟く。
「そ、あれが君に紹介しようとしてるワイバーンの、家だ。」
それを予想していたかのように、ラスティさんはそう告げた。




そして。

「おーい、シェール!居るかいー?」

ドアの前に立ったラスティさんは、ノックもせずに中へそう呼びかけた。
シェールというのは、多分ワイバーンの名前だ。
…にしても、いきなり呼ぶのはどうなんだろう。
ノックもしない呼び方は、失礼なんじゃないだろうか。
しかし、候補生といったくらいだしこの人の方が上なのかも知れない。
なら…この呼び方に文句を言うべきでは、ないんだろうけど…

「なんだ、ラスティー…」

と、考えていると何やら声が中から聞こえてきた。
やや低いが女性のそれとはっきり分かる声だ。
その声から俺は、身長の高いかっこいい姿を勝手に想像する。
そして呼び捨てにした言葉遣いからこれまた勝手に、トゲのありそうな性格も付け加え…同時に、緊張も覚えていた。

「お、あのさシェール。
君に紹介したい人がいるんだけどー」
一方のラスティさんは、そう呼びかける。
緊張など全くしていない様子だ。

「んー…分かった、そこで待ってろー…」

と、再び聞こえた中からのそんな言葉。
さっきは高低に気を取られていて気づかなかったが…
この声は、良く聞くととても間延びしている。
とてもじゃないが想像したような人物が放つものとは思えない。
どちらかというと適当で…だらしない者の声だ。
少しだけ、緊張がほぐれる。

「んー、早くしなよー!」

ラスティさんはというと、にこやかにそう投げかけていた。
一々反応しないのは慣れているからだろうか。
…あの呼び方、そして候補生、紹介する、という事からしてもそれっぽい。
などと考えていると。

ジャーッ

突如家の中から、水の音が聞こえ始めた。
何をしてるんだろう…と考えた直後、それはジャバジャバという響きへと移り変わる。
ジャーッ…ジャバジャッジャブ、ジャー、ジャバジャバジャッ…
音から察するに…何かを洗っているようだ。
すくって溜め、そして叩きつけるように洗い流している。
でも…何を?

「お昼過ぎなのに、まだやってなかったのかぁ…」

と、隣でラスティさんが苦笑しつつそう言う。
えっ、とつい声を出してしまいつつそちらを見る。
すると俺に気づいたラスティさんは、その唇に人差し指を当ててウィンクし…
「ふふ、秘密。」
と言って来た。
…先読みされたらしかった。
あのはぐらかし方といい、この人は妙に人付き合いが巧い。
隊長として必要なことだったりするのだろうか。

「…お、終わったらしい。」

そんな俺の思考を断ち切るように、ラスティさんがそう言う。
確かに、あの水音は止んでいた。
ということは…ついに対面か。

「っ…」

唾を飲む。
少しはほぐれたとはいえ、やはり緊張していた。
肩に力が入り、無意識にドアを注視してしまう。

「今開ける、待ってろ。」

ガチャ、というドアノブを捻る音とともに聞こえたそんな声。
それを聞いて俺は、おや、と思った。
さっきまでのそれにあった、間延びした感じが一切消えていたからだ。
え…?
瞬間、最初に想像した輪郭が想起された。
緊張が再び体に走る。

キィー…

しかし現実は俺を気遣うようには出来ていない。
無慈悲なドアの開く音が、それを淡々と語っていた。

「すまない、待たせたな。」

しかして、その人は出てきた。
ドアノブを翼の爪で捻りながら。

「ああいやいや、急に訪ねたのはこっちだしね。」

ラスティさんがそう返す。
今度は俺の番、礼儀を示す仕草の一つでもしなければ…と考える。

「…」

が、俺は行動するどころか言葉を失っていた。
緊張、というのもあるだろう。
でも一番は…見とれてしまった。
現れたシェールさんが、とても美人だったからだ。
細かいところは見られなかったが…
それでも、綺麗、というそれが最初の感想だった。
身長も最初に思い描いた通り高く、スラッとしている。
もしずっと見ていられたとしたら、それだけで溜息が出てしまいそうだ。

「そうそう…こっちは、竜騎士志望のガーレイ。」

そんな俺を現実に引き戻してくれたのはラスティさん。
こちらに手を向けて、俺が喋る流れを作ってくれている。
…ありがたく、乗らせてもらおう。
何も喋らないと、失礼だ。
よし、と内心気合いを入れた後口を開く。

「あ、えっと…ガーレイ…ガーレイ・ロックです。
よろしくお願いします。」

やや緊張したが、しかしちゃんと言い終われた。
最初ちょっと詰まったが、おかしくはない範囲だろう。
シェールさんを見る。
…良かった、変な顔はされてない。

「ん、私はシェール・ガラン。
とりあえず、よろしく、だな。」

と、シェールさんが返してくる。
シェール・ガラン。
格好いい名前だ、とまず思った。
シャープな…剣のような感じの名前だと。
堂々とした真っ直ぐな声と合わさって、さながらクレイモア…騎士剣。
そしてすらすらと淀みなく言い切ったところから、性格も堂々としていて自信がある。
そんな風に感じたものだから…

「あ、は…はいっ。」

気圧されてつい、変な返事をしてしまう。
…正直顔が熱い。
どもり、最後など跳ね上がっていた。
妙に思われなかったかな…

「はは、そんなに緊張しなくても大丈夫だって。
ね?シェール。」

と考え始めたとほぼ同時、横から暖かいラスティさんの声が割って入ってくる。
お陰で注意力が逸れて、続きを考えずに済んだ。

「ん?うん、大丈夫だと思うぞ。」

そのことに感謝していると、シェールさんはそう返す。
やはり堂々としている。
思うぞと付け加えて断定しなかったことから、理知的な面も併せ持っているようだ。
はっきり物を言えて、それでいて頭も回るとは。

「はは、だってさ。」
「…はい、ありがとうございます…」
「ん、まぁ気にするな。」

驚きつつ礼を言う。
帰ってきた言葉の中には、今度は暖かい優しさすらもがあった。
とても、立派だ…

「しかし、ラスティ。
…話したのか?」
「ん?何を?」
「…分かっているだろうに…」
「はは、まぁ、それはそれさ。」

と、感じていると、二人は会話を始める。
その内容に疑問を感じたものの…
テンポの良さ、そして言葉の短さが合わさって、そこに俺の入る隙は無かった。
差し込むどころか何もできず、むしろ暇と言ってしまえるくらいだ。

…こんなに、なんていうか、完璧な人を紹介してもらっていいのかな。

だったからかそんなことを考え始めていた。
これまで感じた中で、あの間延びした声以外、シェール・ガランというワイバーンは完璧そのものだった。
強い意志、考える力、気遣う優しさ。
どこをとっても、隙がない。

「…まぁ、それはいいとするよ。」
「うん、そうしてくれるとありがたいかな。」
「全く、口ではお前には敵わないな…」
「まぁそれくらいしか無いからね、僕には。」

と、考える間にもラスティさんとシェールさんは言葉を交わしていく。
先程と同じく、そこには俺が入っていく隙はない。
またまた置いてけぼりだったが…二回目ともなると図太くなるもので。

…やっぱり、綺麗な人だよなぁ…

俺は、自分が話に参加する必要がないのを良いことに、シェールさんを観察し始めていた。
先程の見とれの続きである。

まず見たのは、脚。

鋭い深緑の鱗が甲冑のように覆うそこは、ワイバーンの獰猛さをよく表している。
だがそれは膝辺りから下までのこと。
そこから上は、白っぽい柔らかそうな、それでいて引き締まった健康的な肌色があった。
また、甲冑のよう、とは言ったが、本物のように重さを感じさせる仰々しい作りという訳でもなかった。
むしろ、身につける者の一部として…いや彼女そのものなのだから当然といえばそうだが…
その体を彩るワンポイントであるかのような、目立ちすぎない程度の存在感に留まっている。
そのおかげもあってか、女性らしい柔らかな肌色とワイバーンらしい尖った緑色は、
融合した一つの美しさとして、脚の中に見事に収まっていた。
と、見た感想に区切りをつけたその時。

「ああ、それでさ…」

ラスティさんの言葉の端が耳に入ってきた。
どうやら、次の話題に移るらしい。
だが、彼女の観察に夢中になっていた俺が思ったのはそれまで。
それ自体に詳しく耳を傾けようという考えは、持てなかった。

「ん、別に構いは…」
「そう?だったら…」
「ああ…」

…それにまだまだ俺は入れなさそうだし。
そう思い、ラスティさんを横目にその話し相手を見る。

脚から見ていっていたため、目線は腰辺りへ。

…腰辺り。
さっきもだったが、やはりその肌に惹かれてしまう。
引き締まってはいる、がやはりしかししっかりと程良い肉付きでもあったからだ。
美しいというだけでなく…なんというのだろう…
触りたいだとか、むしゃぶりつきたい、というと変態じみてしまうけれど、
とにかく、そういった類の欲望を抱かせる魅力的なふとももだった。

「…っ」

…何を考えてるんだ、自分は。
そこまで纏めてからそんなことを思い、顔を逸らす。
変な返事をしたときと同じくらい顔が熱い。

「さて…じゃあ、頼む…って、どうしたんだい、ガーレイ君?」

そんなことをしていたからだろう、話し終わったらしいラスティさんが声を掛けて来た。
見れば、シェールさんもこちらを見ている。
…端正な、顔だ…

「…あっ、いえ、なんでもないです。」

また考え始めようとする頭を、自分で止める。
…危ない危ない、また見とれるところだった。

「…ま、いいや。
とりあえずガーレイ君の事、頼んだよ。」
「ああ、任せておけ。」
「ん、じゃあねー、ガーレイ君もしっかりー」

と反省していると、ラスティさんはそう言って背を向け城下町へ歩いていく。

「あ…ありがとうございました、ラスティーさん!」
慌てて背中にそう言う。
礼の途中で聞こえた、んー、という言葉に顔を上げると、手が振られているのが見えた。
頑張りなーとかそういう事だろう。
ああ…頑張らなければ。
決意を固める。

「…さて、立ち話もあれだしな。
とりあえず私の家の中に入るか。」

と、後ろの方からそう言われる。
そうだ、シェールさんと話さなければ。
「あ…はい、じゃあ、お邪魔します。」
そう思い振り返って返事をする。
するとシェールさんは大人びた笑みを浮かべ。
「ああ、では行こうか。」
と言い、ドアへと爪をかけた。




…うわぁ。

家の中に入って、俺はまず驚いたことがあった。
酒だ。
至るところに、酒があったのだ。
棚、地面、瓶、樽問わず置かれたそれはかなりの数である。
幸い、足の踏み場がないというほどではないが。

…酒豪、なのかな、シェールさんって。

そう考える。
と、その間にシェールさんは、部屋の中央、大きい四角い机の周りにある椅子に座った。
慌てて、同じように俺も座る。
向かい合うような形になってしまったが、
幸いなことにシェールさんの格好は胸が鱗と皮で覆われ、上からは見えにくいものだ。
何が言いたいかというと、両肘をついた彼女のそれに注目を奪われないですむということだ。
…代わりに、皮をはっきりと押し出しそれでいて下の方からはみ出るように顔を出す、
形の良い二つの果実には、つい目を奪われるが。

「…さて、何から話したものか。」

等と下らないことを考えていると、シェールさんがそう言った。
話を始めるためのきっかけを作ってくれているのかも、と感じる。
…お世話になる以上俺から話を振ったほうがいい、よね。

「じゃああの、一つ良いですか?」

そう思い、確認を取ってみる。
ダメだったならその時はそのとき、と考えながら。

「うん?ああ、いいぞ。」

幸運なことに、シェールさんは笑顔で返してくれた。
よかった、この分ならスムーズに話せそうだ。
内心ほっとしながら、俺は続きを口にする。

「えっと…シェールさんって、お酒好きなんですか?」
「?…あぁ…」

俺の質問に一瞬疑問符を浮かべた彼女だったが、
一拍の後、そういうことか、と頷く。

「まぁ、好きな方だな。
だからこんなに取っておいてしまっているのだが…お前は、苦手か?」

そして、そう返してきた。
俺としても、村の祭りでよく嗅ぐ匂いであるため嫌ということはない。
…がしかし。

「いえ…だけどその、あんまり強くなくて。」

そうなのだ。
いい匂いだし、嗅いでいて不快になるということもないのだが。
…嗅いだだけで昏倒するほどじゃないが、あまり飲めない。

「ん…そうか、すまんな。」

謝るシェールさん、しかしその顔に浮かぶは笑み。
まぁ、諦めてくれ。
そう、言っていた。

「いえ、良いですよ。
ここに来るのは騎竜訓練の時だけだと思うので。
騎竜候補生の所に毎日いるのも悪いでしょうしね。」

こちらとしても、高い頻度ではあっても毎日ではないのなら大丈夫だろう。
と、考えながらそう言うと。

「…え?いや、お前はここに住むのではないのか?」

シェールさんは、いきなりそんなことを言った。
珍しい、驚いた表情である。

「え?」

無論、俺も驚きだ。
てっきり、度々訪れては共に過ごす。
それの繰り返しで竜騎士になるものと思っていたのだが…

「先程の話の中でも…ああ成程、ラスティに嵌められたか。」

と、シェールさんがそう口にする。
何かを悟った、困り顔だ。

「え、嵌められた?それに先程の話って…」

どうやら、俺がシェールさんを眺めている間に大事な話があったらしい。
…バカだなぁ俺…

「ああ、まぁ、その辺は気にするな。
ラスティは…あれでいて、いたずらっぽいところがあるからな。
君が聞いていないのを分かっていてやったんだろう。」
「はぁ…でも、ということは…シェールさんと一緒に…」

…え?…シェールさんと一緒に住む?

「い、いや!ダメですよそれ!
男女ですし、それに、俺は宿を取るだけの金は…!」

流石に、まずいだろう。
男女が一つ屋根の下、これは…色々と、アレだ。

「あー…常識的な意見の所すまないんだが。」

しかし、そんな正論を浮かべる俺に、シェールさんはやや厳しい目を向ける。

「…お前は、そんなに長い間、泊まれる金は持っていないんじゃないか?」

そして、長い間、という部分を強調してそう言った。
…反論しようとするが…

「…う…はい…」

事実、その通りだった。
泊まれると言っても、2、3日。
食費を考えなければもっと行けるが…それでも、一週間が限度だろう。

…考えなしだなぁ、俺…
今更ながら痛感する。

「まぁ、それも気にするな。
物置と化している部屋を片付ければどうにかなるのだから、一人増えたところでこちらも気にはしない。
…ああ、それとこちらの方がお前にはショックか…」

と、考えているとシェールさんはさらに付け加える。
優しい心遣いに感謝が湧くと同時に、最後の言葉に唾を飲んでしまう。
そうしていると、彼女はふぅ、と息を吐く。



「私は…騎竜候補では無いんだ、すまないがな。」
15/12/01 22:46更新 / GARU
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チャットでネタを出してくれた、ぷいぷいさん、ありがとー!(チャ〇研風)

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