連載小説
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転機
抱きしめられながら、俺は少しだけ泣いた。
泣いている間、ユーリアは何も言わずに優しく抱きしめてくれていた。

「いきなり泣いて悪かった……」

「気にしないでいいのよ」

「それにしても、これからどうしようか。ずっと満喫にいるのも変だし……」

「そう? 私はヒカルと一緒ならどこでも楽しいし、ずっとここに居てもいいのよ?」

「う……お、俺……」

ここで素直に「俺もだよ」と言えない俺、まだまだ照れがあるんだろうな……

「あら、『俺もだよ』とは言ってくれないのね?」

「……そうやってクサいことを言えるユーリアは嫌いだ」

「そんな顔を紅くしながら言っても意味はないわよ、意地悪さん♪」

苦し紛れに反撃するも、ツンと頬を突かれると何も言えなくなった。

「でも、確かにここにずっといるのもね。今は特に見たい漫画もないし……あっ、そうだ。
 今ここで一回セックスしましょ♥」

「……は? ここで!?」

何を言っているんだユーリアは!?

「ちょっ、本気か!? いくら個室とは言え外から部屋の中は見えるんだぞ!
 それにそんな事をして部屋を汚しでもしたら、清掃代とか追加料金を取られるかもしれないぞ!?」

「大丈夫よ、ここは魔物娘が経営してるからそういう事には理解があるの。
 さすがに本を汚したら弁償しないといけないけど、部屋ぐらいだったら大丈夫なのよ」
 
「本当かよ……清掃代とられる事になっても、俺は出せないぞ?」

「大丈夫よ、もしそうなったら私が出すから……ね?」

唇を軽く濡らし、妖しく微笑みながらユーリアは俺をゆっくりと押し倒した。

「わ、わかったよ……そこまでいうなら」

「嬉しいわ……実は、これ以上待ちきれなかったの……♥」

息を荒げ、顔を紅くしながらスカートを持ち上げながら軽く咥え中身を曝け出すユーリア。
薄紫色のショーツは愛液をぐっしょりと吸い込んでおり、むわりと淫靡な匂いが辺りに広がった。
目はトロンと蕩けており、興奮しきっているのは誰が見ても明らかだった。

「家でするのとは違って、誰かにこっそりと覗かれるかもしれないと思うと……すごく、興奮しちゃうの。
 ヒカルはこんな私をイヤらしい女だと思う?」

「いや、ユーリアはサキュバスだし俺はそうは思わないよ。
 でも、一つだけ言うなら……」

俺はユーリアの上半身を抱き寄せ、耳元で軽くこう囁いた。

「イヤらしいと思うなら、もっとイヤらしい所を見せてほしい……」

「うん……♥」

この後、俺達は時間一杯に愛し合った。
詳しいことは恥ずかしいので言わないが、互いが互いを心の底から求めあい、愛し合うセックスは今までの中で最高クラスに気持ちよかった事だけは確かだった。
本当のセックスは肉体じゃなくて、精神が繋がることを重視するってどこかで聞いたことがあるけど、まさにそんな感じだった。
……なんか、俺の中で何かが変わったような気がする。

「ふふ、気持ちよかったわね」

「あ、ああ」

「そういえば、ヒカルはお腹空いてるんじゃない?
 私は魔物娘だから、ヒカルの精を食料として食べられるけど……ヒカルは人間だから、そういうわけにもいかないでしょう?」

「……言われてみれば」

そういえば、朝から何も食べていない。
太陽は真上に昇っており、既に真昼となっていることを示している。
飲食店もそろそろランチタイムを始めており、飯を食うには良い時間帯だ。

「だから、私の知ってる美味しい店に行きましょ♪」

「そうだなぁ、それじゃあ行ってみるか」

ユーリアに手を引かれて路地裏へと入る。
太陽は真上に昇っているが、路地裏ということもありそこはちょっと薄暗く人通りの少なかった。
そんな路地裏を少し歩くと、小ぢんまりとしたレストランの姿があった。
店の外見は路地裏に似合わず洒落た雰囲気だ、隠れた名店といったところか。
ドアの横にはスタンドボードが置かれており、それには本日のおススメメニューが書かれている。
ユーリアがドアを開くと、ちりんとベルが鳴った。

「いらっしゃいませ〜……あっ、ユーリアさん」

「こんにちは、お久しぶり♪」

俺達を出迎えた店員らしき人物はユーリアに負けず劣らずの超美人、会話を聞くにユーリアと知り合いのようだ。

「本当にお久しぶりですね! 隣の人は旦那様ですか?」

「うふふ……そうね、そうなるわね♪」

「ついに旦那様ゲットですか、おめでとうございます!
 お祝いに今日はタダでいいですよ! ささ、こちらでどうぞ!」

個室へと通された俺達は、向かい合って座った。
部屋の中は店の外観とは似つかわず、黒い木造のチェアとテーブルはシックな佇まいを感じさせ、テーブルマットや壁紙はワインレッドを基調とした色合いで纏められており、大人な雰囲気である。

「さ、座って」

ユーリアに促されて椅子に座る、俺が上座でユーリアが下座なんだが……まぁ、どうでもいいことだろう。

「さっきの店員とは知り合いなのか? 横から聞いている限りはそう思ったんだけど」

「そうよ、あの子も魔物娘でここに来てから知り合ったの。
 この付近じゃ魔界産の食材を使った料理店なんてここしかないから、この町の魔物娘はみんなここに食べに来るわよ。
 まぁ、普通の人間向けに普通の食材を使うこともあるけど、大体は魔界産の食材を使ってるわ。
 今から食べる料理も、多分魔界産の料理を使うはずよ」

「魔界産の材料を使った料理……大丈夫か、人間が食って食あたりを起こしたりしないか?」

「大丈夫よ、お義母さまが食べてるフルーツと同じで、食べても問題はないわよ。
 流石に食べ過ぎたら健康には悪いけど、それはどれも同じ。 気にするほどのものじゃないわ」

「それならよかった……そういやさ、魔物娘って日本にはどれぐらい来ているんだ?」

前から思っていた疑問を、俺は率直にぶつけてみた。

「そうねぇ、かなりの数は入ってきているんじゃないかしら。
 魔物娘関連の法律はまだ出来ていないし、戸籍はまだ手に入れてないけど、恐らく二つともすぐに出来るはずよ」

「何でそう言い切れるんだ? 移民とか、そういった法整備なんてすごい遅いはずだろ」

「その理屈は簡単よ、魔王様の娘である『リリム』を筆頭とした魔物娘達が、首相や政治家達の愛人になって私たち住みやすくなるように呼び掛けたり、私たちの魔法技術を医療や科学技術の発展に役立てているの。
 この国の問題は、私たち魔物娘が解決できる問題がとても多いから、それを解決する見返りと言ったところかしらね」

どうやら、魔物娘達は俺が思っている以上に深いところまで踏み込んでいるようだ。
それにしても、政治家達はハニートラップだって疑わなかったんだろうか。

「他にも、法整備を円滑にするために、モデルやタレントとして活動してイメージアップを図ったりする子が多いんだけど……
 逆ナンから恋愛結婚をしたり、私たちが男性専用の結婚相談所を立ち上げて、そこに来た男性の好みの魔物娘を紹介したり、出会い系サイトを作ったりしてるわ。
 ヒカルの場合は、ちょっと強引な逆ナンってところかしら♪」

くすりと楽しそうに笑うユーリア……あれとちょっと強引で済ませるのはどうかと思う。 
こうして会えたのだから結果オーライというべきなのかもしれないけど。
この後も俺はこうやって料理が来るまでユーリアと会話を続けた。
18/12/24 21:38更新 /
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