連載小説
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薄暗い裏路地から始まる絶対絶命!?
「昨夜未明福岡県中央区の雑居ビルで火災が発生、幸い怪我人はなく警察と消防は事故の原因を…」
いつもと変わらない朝、テレビのニュースキャスターが流れるように原稿を読む。
休日なのに予定等なく、ただひたすら惰眠を貪っていた。
突然腹の虫が鳴る。
泣きたいことに小銭しかない。
コンビニは近いが今は給料日前だ。
冷蔵庫も空だしへそくりも底をついた。
貧乏ってつらい…。
言うことを聞かなくなった腹の虫を黙らせるためにコンビニへ。
足取りは重い。
昨日の晩からなにも食べていない。
コンビニへはいつも裏路地を通っている。
裏路地を通ると徒歩2分と短縮できるからだ。
しかし、治安が悪いので有名である。
ひったくりやカツ揚げ常習犯が魍魎跋扈する不気味な裏路地。
そんな所にも住人はいる。
いつもの日課のようにゴミ箱を漁る野良猫。
生ごみの中から生肉をせしめるカラス。
建物の隙間から見える青空をぼんやりと眺めるホームレス。
しかし、今日にかぎって見かけない。
不気味な裏路地を早足で抜けて目的のコンビニへたどり着いた。
〜数分後〜
しょんぼりした顔でコンビニからでる。
当然弁当など買えなかった。
ギリギリおにぎり一個だけ…。
なんとも虚しい買い物だった。
数歩歩いたところで辺りが静かすぎる事に気がついた。
おかしい…今は昼間で人通りもあるはずなのに…。
「人が…いない!?」
人だけでなく車や動物、カラスすらいない。
まるで自分以外の時が止まったかのようだ。
いや、考え過ぎた。
腹の虫が原因で頭がおかしくなっているのだ。
またあの不気味な雰囲気の裏路地に突入した。
そろりそろりと足音がやけに大きく聞こえる。
心臓はさっきよりもうるさい。
嫌な汗が流れる。
その時足下から水の音がした。
「血?!」
魚の死骸であった。
ほっとした次の瞬間心臓がはねあがった!
人がいた。
うずくまって身体を小さくさせながら、何かに怯えるように声もなく泣いている。
その身体から血が流れて辺り一面に血溜まりができその人の命はもう幾許もないだろう…。
息が止まり、気が動転しながら僕が取った行動は…。
「手当てしなきゃ!!」
滑り込むように担ぎ上げ有象無象を蹴り飛ばし階段を駆け上がり乱暴にドアを開けた!!
救急箱を無茶苦茶にして包帯を取りだしてその人をぐるぐる巻きにする!
しかし、血が止まらない!!
慌てふためく僕はようやく携帯を取り出した。
ガタガタ震える手で必死に119を押そうとするがうまくいかない。
その時…。
「…ごめんなさい…」
そう聞こえた気がした。
それから先はあまり詳しく覚えていない。
ふわっとした柔らかな羽根みたいな物に包まれたかと思ったら次に感じたのは人の温もり…。
一瞬の事だったので反応もできなかったが抱きつかれたのだ思う。
意識が遠のくその瞬間、甘い香りがした。
〜数分後〜
静まり返った部屋に白衣の男が一人たたずむ。
部屋には住人はなく数分前まで人がいた跡だけが虚しく残っていた。
「行ったか…」
ぶつぶつと独り言を言いながら考えこむ白衣の男。
その男の手には禍々しい装飾の本が握られている。
その時男は何かに気づいた素振りを見せて窓をじっと眺めていた。
「やはり来たか…」
振り向きもせず彼の後ろの人物に話しかける。
彼の後ろには銀色に光る細剣を携えた女が立っていた。
「一足遅かった様だな。もう私の仕事は終わったよ」
返事もしない相手に淡々と語りかける。
「救うも滅ぼすも彼と彼女次第だ。あの二人にとってあの世界はどちらなのだろうな?」
不気味に嗤う彼は普通の人には見えない真っ黒いオーラを漂わせている。
もはや人ではないのだろう。
「言いたいことはそれだけか?」
さもどうでもいいと彼が話すことを聞き流していた女がはじめて口を開いた。
「彼らは私の最高傑作になるだろう。君に彼らを止められるかね?」
くつくつと嗤う男を真っ二つにすると女はこう言った。
「止めてみせるさ」
真っ二つになった男は赤黒い炎をあげて一瞬のうちに灰になった。
地面には焼け跡もなく灰は少しだけあいた窓から空へと消えていく。
男の最後を見送った女は風のように消え、部屋はもとの静寂を取り戻した。
15/01/27 12:40更新 / 裏庭の猫
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