連載小説
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Bee war #4
「第二、第三小隊沈黙。損耗率35%です」
「ふむ、流石に私が見初めただけはあるな」
 部下の報告を聞いたラメトク――ラーメは、冒険者ギルドが特別に用意した上等な椅子に座ったまま不敵な笑みを浮かべた。
「自分の部下が倒されているというのに随分と余裕ですね」
「まぁ、私の部下は考え無しの突撃で大被害を被ったどこぞの役立たずどもとはわけが違うからなぁ。いや、我々の役には立ってくれたのだから、感謝しなければバチがあたるか?」
 私の言葉に対するラーメの答えに周囲の空気がビキリ、と音を立てて凍りついた。原因は言わずもがな。
「…ふん。粗暴な貴女達と違って私達は戦に慣れていませんもの」
 ハニービーの女王ピリカである。
 頬を膨らませて憮然とした表情をしているのにもかかわらず、どこか可愛さが引き立つ感じすらするのは…これが彼女の魔性なのだろう。
 そもそも、何故敵対しているはずのハニービーとホーネットの女王が同じ場に居合わせているのか。それは勿論この私、この街に支部を置く冒険者ギルドの筆頭仲介人、アールが方々に色々と働きかけたりトロンを上手く使ったりしてお膳立てしたからなのだが…。
「失敗したかもしれませんね…」
 今後の友好関係のためになればと思ってセッティングしたのだが、かえって逆効果になってしまった感も否めない。
「とは言っても少しばかり被害が大きすぎるな。一度部隊を下がらせて再編成しろ」
「はっ!」
 ラーメの指示を受けて連絡役のホーネットが物見台からから飛び立ってゆく。
 あの小さな羽でよく飛べるものだ。今日も世界は不思議で満ちている。
「それにしてもトロン様はお強いのですね…とてもただの人間とは思えませんわ」
 次々と運ばれてくる負傷したホーネットやハニービーを見てピリカが呟く。
 この街を囲む城壁は非常に厚く、堅牢だ。その上には私達が戦場である北西の森を望んでいる物見台(住民からは展望台と呼ばれている)や、自治軍の兵隊が訓練するための練兵場が設けられているのだが…そこには今普段では考えられないような人や魔物がひしめいていた。
 今の城壁の上はさながら観客席兼野戦病院である。人、魔物問わず森で起こる爆発の度に歓声をあげ、そこかしこに食べ物や飲み物を売り歩く売り子が歩き、運ばれてきたハニービーやホーネットが街側が用意した救護要員に傷を癒してもらっている。
「それはそうと…随分と混沌としてきたな」
「こんなに沢山いるんですねー」
 あまりにも多すぎる人、人、魔物。ラーメはその様子に辟易とし、ピリカはただ物珍しげにそれを観察する。やはり魔物とは言っても個性は様々だ。
「野戦病院も今のところ正常に機能しているようでなによりです」
「そうだな。よくあんな無茶な注文を見事実現させたものだ」
 そう言ってラーメはピリカをチラリと見る。
「だって負傷者が出るのは目に見えていましたもの」
 今回のイベントを実行するにあたってハニービーとホーネットはそれぞれ条件をつけてきた。ハニービーからの条件は負傷者の救護体制を人間側が整えること。ホーネットが出した条件は不正の監視と戦場を把握できるスペースを提供することである。
 その両方をたった二日で用意するのには本当に骨が折れた。このイベントをちょっとした祭りに仕立て上げる事によって経済効果をでっち上げ、頭の固い自治軍を説得し、回復魔法を扱える魔法使いや冒険者をかき集めてなんとかこぎつけたのだ。
「それにしても、この街では人と魔物が共存しているのですね」
「私も最初に訪れたときは面食らったな。この街に訪れるまで、人間は私たちを嫌悪していると思っていた」
「この街の領主は共存派ですからね。まぁ、人間の中で少数派なのは間違いないです」
 これは幸福なことだ、少なくとも魔物と呼ばれる彼女らと愛し合う者達にとっては。人間至上主義者とか魔物討伐派とか呼ばれる者達にとっては目の上のたんこぶでしかない。
 住人の大半は知らないことだが、この街は政治的に非常に微妙な立場にある。こういった本来自治軍が解決すべき事案を冒険者ギルドに任さねばらないほどに。
 他にも魔物を受け容れている領はいくつかあるのだが、他領の領主に比べて我が領の領主の力は悲しくなるほどに小さい。下手に軍を動かせばそれを咎められて取り潰しにされてもおかしくない位に。
 実際、今までそういった情勢になったことは何度かあったらしい。しかし、最終的には何事もなく終わる。
 領主の世渡りスキルが高いのか、それとも他の要因があるのか…私はチラリと森に上がった火柱を見た。
「まさか、ねぇ」
 あの魔術師は私がこの街に赴任してくるよりずっと前からこの街に住み着いているらしい。人づてに聞いた話だが、どうもそういう情勢になると家を空けることが多くなるようだ。
「今考えることでもないか」
 そう断じて私は彼の戦っている戦場へと視線を移した。

 ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――

「魔弾(タスラム)っ!」
「ぴっ!?」
「いたいいたいー!?」
 魔術師が手の平から放った魔力弾が彼を投石で狙っていたハニービーを叩き落とす。
「はぁっ!」
 その隙を突くように突き出された仲間のホーネットの槍をかわし、魔術師は紫電で構成された魔力刃で彼女の腕に斬りつけて昏倒させた。
「ええい! 貴様らは敵同士だろうが!? いつも通りにせんか!」
「遺憾ながら我々だけでお前を倒すのは難しいのでな!」
「敵の敵は味方という言葉もありますよー」
 ハニービーとホーネットが連携して魔術師を追い詰める。魔術師に広範囲を攻撃できる魔法を詠唱させず、攻撃し続けて弱らせようという共同作戦だ。
「どけどけぇっ!」
「ひーん、こっち来たー」
「こ、こら!? 逃げるな腰抜け! 包囲網に穴が…っ!」
 逃げ出したハニービーを叱咤しようとしたホーネットを斬りつけ、魔術師が包囲網を突破する。
「くっ、引き離されるな! 追え! 魔法を詠唱させる暇を与えーー」
「魔弾(タスラム)っ!」
「ーーひんっ!?」
 上空から魔術師を監視して現場を仕切っていた小隊長が魔術師の放った魔法に直撃して墜落した。統率を失って現場が混乱し始める。
「怪我した子を助けないとー」
「バカ! そんなもの後にしなっ!」
 フラフラと負傷者の救護に向かおうとするハニー ビーの腕を掴み、それを押しとどめた。
 私に腕を掴まれたハニービーが困惑の表情を浮かべる。
「えー? でもいたそうだよー?」
「あ"ーっ! もうっ! いいから追うんだよっ!」

  ――――。

 響き渡る笛のような音。今日、何度も聞いた音。
「まずいっ! 総員散開しなっ!」
「わわっ」
 トロくさいハニービーの腕を掴んだまま出来るだけ高度を上げ、その場から遠ざかる。

 ドゴォォンッ!

 必死に飛ぶ私達の背後で爆発が起こる。背後を確認した瞬間、私は思わず目を見開いた。
「うわわわっ!?」
「ひっ、ひぃぃん」
 私達のように上空へ逃げる者を予想していたのか、炸裂した魔力は再度大量の魔弾へと姿を変え、私達へと迫ってきた。
「間に合えっ!」
「きゃあぁー」
 いまいち本当に慌てているのかわからないハニービーの手を引いたまま、今度は急激に高度を下げて森に突っ込む。枝が身体を叩き、細かい傷を作るが魔弾に当たるよりは随分マシだ。
「なんとかなったかい…?」
 木の枝に引っかかるように停止し、暫く待つが何も起こらない。なんとかやり過ごしたらしい。
「あ、あのぅ…」
 私に抱きすくめられるような格好になっているハニービーが顔を微妙に赤くして蚊のなくような小さな声をあげる。無意識に枝から守るために抱きしめていたらしい。
「ふん…まったく面倒かけさせるんじゃないよ」
「あっ…はい」
 ハニービーを解放し、木から降りる。ハニービーも 降りてこようとするが、足を踏み外して私の上に落ちてきた。
「きゃっ…あれ?」
「だから面倒かけさせるんじゃないよ、って言ってるだろ」
「ご、ごめんなさい…」
 半ば予想していた私は落ちてきた彼女を受け止め、そのまま地面に降ろしてやった。
「ほら、何をボサっとしてんだい。行くよ」
「え、えっ?」
「部隊は壊滅、今更残存勢力だけで追っても返り討ちにされるのがオチだ。なら負傷者を助けて戦力を整えなおすしかないだろ」
「あ、はい! がんばります!」
 ハニービーがやたらと元気の良い返事を返した。なんだか目が異様に輝いている気がする。
「いつもそれくらい気合いを入れときなよ。あんたらハニービーはそこんところが足りない」
「は、はい!」
 私は気合いを入れ直したハニービーを伴って爆心地へと移動を開始した。

 ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――

「もう少し、か…」
 傾き始めた太陽に眼を細める。もうあと二時間足らずで太陽は地平線に没するだろう。
 間違いなく次の攻撃か蜂どものラストアタックになる。出し惜しみなしの総力戦だ。
「集まり始めたか」
 魔力探査で蜂達が集結しつつあるのを察知する。
 どうやら負傷者の合流を優先して街に近い場所を集結場所に選んだようだ。

  ――――!

 高速詠唱を始める。
 今回の詠唱は攻撃のための詠唱ではなく、もっと別なモノのための詠唱だ
 
 ピュイイイイィィ…

 俺様の高速詠唱に応えるかのように甲高い風の音がなる。最初は穏やかだった風は、いつの間にか周りの樹木を揺さぶるほどに吹き荒れていた。収束した大気が俺様の周りを取り囲み、強靭な風の障壁を形成する。
「飛ばせ」
 ドンッ!という爆発音のような音をその場に残して俺様の身体は空へと舞い上がった。
 身体の向きが目まぐるしく変わり集中が乱れそうになるが、混乱しようとする心を意思の力で押さえつける。
「よぉし、いい子だ」
 暴れていた風の精霊を宥める事に成功した俺様は空の人となっていた。上空の空気は鬱蒼とした森の中とは違い、気持ち良い。
「さて、ダンスの時間だ」
 両手で空中に秘印を刻み簡易な防御障壁を形成、蜂どもの集結地点へと一気に加速する。
「なっ!?」
「えっ?」
 まさか飛んでくるとは夢にも思わなかったのか、集結しかけていた蜂の集団に戦慄が走る。

 ――顕現せよ。其は竪琴、其は弓、狙った物を打ち抜く光。我が魔力を糧に顕現せよ。

 俺様の詠唱が終わると同時に光で構成された弦を複数持つ巨大な光の弓が構成される。

 ――複数目標捕捉、捕捉数最大。一射一殺――訂正、威力制限七割。同一目標捕捉制限、二。

 引き絞られた光の弓から凄まじい量の光条が放たれ、複雑な軌道を描きながら浮き足立っている蜂の集団へと殺到した。第一射で前面に展開していた蜂の半数以上が脱落し、すぐさま放たれた第二射で全体の四割ほどが墜落。
「止まるな! 突撃だ! これ以上撃たせるな!」
 突然の攻撃に動揺し、散り散りになりかけていた蜂達がよく通る一喝で統制を取り戻す。
「…来たか」
 呟きながら第三射を放つ。いくら統制を取り戻してもこの撃墜魔弓を阻む手段がなければ結局同じこと。これで蜂どもの八割以上が脱落、勝負は決まる。

 ジヂィッ!
 しかし、放たれた光条は蜂達の集団へと届くことなくその前に何かに阻まれた。
「前面に防壁を展開します。皆さん、光の矢に怯える必要はもうありませんよ」
「…そう言えば一応擬態もやってのける魔術師だったな」
 光条を阻んだ魔術防壁を見て思わず舌打ちする。俺様の視線の先には擬態を解き、ホーネットとハニービーの女王としての真の姿を晒したラメトクとピリカがいた。
 他の蜂どもとは羽の大きさも臀部から突き出ている蜂のパーツの大きさも明らか違う二匹がいた。そのうち片方は激しく輝く杖のようなものを手にしている。
 それなりに力の有る魔杖、聖杖の類なのだろうが生憎遠い上に激しく輝いているので正体が見えない。どういうものだかわかりさえすれば防御術式の穴を突いてやることもできるのだが。
「っ? 速い!」
 数は多くないが、凄まじい速度で白銀の鎧を身につけた一団が迫ってきていた。恐らく奴らはホーネットの兵隊蜂、キラービーと呼ばれるエリート部隊だ。
 予想を遥かに超えたキラービー達の速度に驚愕しつつ、牽制と言うには少々威力が高めの魔弾を乱射して迎撃する。しかし、キラービー達は魔弾に構わずそのまま突っ込み、一斉に槍を振り抜いた。

  バシィンッ!
「な…っ!?」
 快音と共に魔弾が俺様へと跳ね返ってくる。跳ね返ってきた魔弾を咄嗟に外套を翻して防ぐが、その一瞬が命取りとなった。
「やはり、殺せないのか」
 外套の向こうからそんな声が聞こえた次の瞬間、激しい痛みと衝撃が俺様を襲った。
 凄まじい落下感に全身が強張る。まずい、立て直さなければ潰れたトマトの出来上がりだ。
「がふっ!?」
 更に衝撃。今度は叩き上げられたらしい。
 痛みと目まぐるしく変わる上下感覚に混乱して正確に状況を把握できない。
「ラメトク様の言ったとおりだな。お前は私達を殺す気が無い…いや、殺せないんだろう」
 落下していく。為す術も無く落下していく。
「殺す気だったら皆殺しにできたはずだ。殺す気で放った魔術なら私達は跳ね返す以前に塵となっていたんだろう?」
 落下していく。身体だけでなく、意識が落下していく。
「だが…これはきっと私たちの負けになるんだろうな」
 その言葉を最後に、俺様の意識は途絶えた。

 ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――

 くちゃ…ぺちゃ…ぺちゃ…

 何も見えない。身体も動かない。

 ふっ…うん…はぁ…

 誰かの、何人かの熱い吐息か肌にかかる。ただ、温かくて気持ち良い。頭がぼーっとして働こうとしてくれない。
 足の先から太腿の内側、既にいきり立っている剛直はもちろんのこと、お腹、へそ、わき腹、乳首、首筋…身体のいたるところが温かい何かに嬲られている。
「んぉっ…ふおぉ」
 意識が徐々に覚醒してくるとそれらの愛撫はすぐに快感の嵐となった。猿轡をはめられた口からくぐもった声が出る。
「ん…やっと気がついたようだぞ」
 聞き覚えのある凛々しい声が聞こえる。目が見えないので確証は無いが恐らくホーネットの女王、ラメトク――ラーメの声だろう。
「ふふ、途端にビクビクと震えだしたな…可愛いぞ」
 剛直が柔らかくて温かいものに包まれ、一気に吸い上げられた。
「むぉっ!? んぐぅ…おぉぉっ…」
 呆気なく俺様の剛直が絶頂に達した。その最中も激しくしごかれ、吸い上げられたせいで腰が自分の意思とは関係なくガクガクと震える。快感のあまりに意識が飛びそうだ。
「んんっ! んぁぁっ!?」
 熱を吐き出し終わってもなおラーメ(と思われる声の主)は容赦なく俺様の剛直を嬲り続けた。先ほどまでのように強烈に吸い上げるのではなく、今度は絡みつくようにゆるゆると、執拗に。
「ふぉぁ…ふぅぅんっ…」
「ふふふ、まるで女の子のような情けない声だぞ?」
 体勢を無理矢理変えられる。仰向けに、尻を高く掲げるような体勢――所謂まんぐり返しのような。男としては…この上なく屈辱的な格好だ。
「んんっ! むーっ!」
 尻の穴を温かくて柔らかいものがつつき、ねぶりまわす。暴れて抵抗しようにも、何故か身体には全く力が入らない。それどころか外部に対して一切魔力を放出することすらできない。何か魔術的な力で身体機能と魔力を封じられているらしい。
「ふふ…そうやって抵抗しようとする健気な姿が堪らなく可愛いな。だが、いつまでもつかな?」
「んんっ!? おぁぁっ!」
 にゅるり、と肛門になにか異物が侵入してきた。それはそのまま腸内を掻き回し、少しずつ奥へと入ってくる。
「はぁ…はぁ…可愛いぞ」
 ゆっくりと抽挿が始まる。
「ぐっ…んっ…ふぐぅっ…」
「ふふふ…可愛いぞトロン…ほら、まただらしなく洩らすが良い…」
「んっ!? んんーっ!?」
 腸内を掻き回していた異物が狙い済ましたようにその奥にあるモノを刺激した。
「ふぉぉぁっ! ふぅん…むーっ!?」
 唐突に起こった激しい快感にまるでひきつけでも起こしたかのように身体全体が痙攣し、剛直から先ほどとは比べ物にならない勢いで熱が噴出した。
「んっぐ…んふぅ…」
 激しい虚脱感に襲われ、抵抗しようという意思に反して身体がぐったりと動かなくなる。魔術的な拘束も相まって、指先をピクリとも動かせそうもない。
「はぁっ…すごい精だ…身体が若いせいかな? 物凄く青臭くて…熱くて、美味しい」
「んぐっ…うぅ…」
 再び肛門ににゅるりと異物が侵入し、先ほどとは違ってねっとりと、嬲るように抽挿を開始する。
「くくく…今のお前をあのピリカや、アールとか言う人間が見たらどんな反応を…ああ、良い事を思いついたぞ。あの男を攫ってきて、お前を犯させるのも面白いな。淫毒で発情させて今のお前のように目隠しをさせて、そして犯させるんだ。ああ…想像するだけで溢れてきそうだ!」
 俺様が淫毒に侵されたアールに犯される様を想像してか、どんどん異物――多分指だ――の抽挿が激しくなる。
「んぐっ、ぐぐ…」
 男同士の絡み云々ではなく、俺様の尊厳を踏み躙り、破壊することに興奮を覚えているのだろう。コイツは生粋のサディストだ。
「ふふふ…感じるぞ、お前の殺気を。流石私の見込んだ男だ。こんなにされてもまだ私がゾクゾクするほどの殺気を発する…かっ!」
「ふぅんっ!? …ぐっ!」
 突然肛門から勢いよく指が引き抜かれた。不覚にもその快感で情けない声が出る。
「今のお前は私に尻穴を嬲られてだらしなく精液を洩らし、萎えるまえにすぐまた勃起させるペットだ」
 言葉通り、萎えることなく勃起し続けている俺様の剛直。その先端が酷く熱いぬかるみに包まれた。
「お前は私に子種と精を提供し続けるためのモノだ、ペットだ。少しばかり反抗的なようだが、今に従順にしてやる」
 ぬかるみはそのまま俺様の剛直を包み込み、最後に先端がコツンとその奥を叩いた。その瞬間、ぬかるみ全体が歓喜に打ち震えるかのようにぞわぞわと蠢く。
「んむぅっ…んっく…!」
「はっ…あぁ――悪くない。だらしのないペットだが、コレだけは立派だな」
 ずりずりと酷く熱く、狭いぬかるみが俺様の剛直をしごき始める。時折コツン、と先端が当たるのはラーメの子宮口だろうか。ラーメはそこに剛直が当たるのがお気に入りらしく、ぐりぐりとそれを押し付けるように動き始めた。
「ふぅんっ…んんっ…!」
「ふ、ふふ…もうビクビクと震え始めたぞ? 節操のないヤツだ」
 そう良いながらラーメがぎゅうっと強く締め付けてくる。この感覚からすると、そう言っている自分自身も相当堪らないらしい。決して態度に出そうとしないのは彼女のプライドによるものなのだろう。
 これは、チャンスだ。
「ふっ…くっ!」
 快楽に負けそうになる身体を意思で押さえつけ、体内で魔力を練り、意識を集中する。
「ぐっ…くっ…うぅ…!」
「はぁっ、はぁっ…可愛い、可愛いトロン。私のモノ…」
 ラーメが熱に浮かされたように呟きながら俺様の首筋や頬、鎖骨のあたりにキスの雨を降らせる。俺様が少しずつ剛直を通してその胎内に魔力を送っているとも気付かずに。
 もう少し、この術はタイミングが重要だ。
「ふっ…ふっ…」
「あぁぁっ! すごいっ! 奥まで熱いいっっ!」
 冷静になっていく俺様とは対照的にラーメの快感はは加速度的に増加する。支配完了までもう少し。
「ひっ! ひぃぃっ!? な、なんで!? と、止まらないいぃぃぃっ!?」
 やっと何かおかしいことに気付いたのか、ラーメが疑問を口にし始める。しかし、もう遅い。半ば俺様に身体の支配権を乗っ取られたラーメの身体は快感を求めて更に動きを激しくする。
「ひっ!? ぎぃっ!?」
 ビクビクと痙攣しっぱなしのラーメの股間から熱いものが噴き出しはじめる。しかし、それでもラーメの身体は止まらない。
「いっ!? イ…っでるのにぃ!? と、止まら…っぁ! あ゛ぁ゛ぁっ!?」
 どぷり、と俺様の剛直から高濃度の魔力を帯びた精液が吐き出された。
「ひぃっ!? ぎゃっ…ああ゛ぁ゛ぁっ!?」
 ラーメの膣が俺様の剛直を万力のようにぎゅうっと締め付け、そして弛緩した。同時にラーメの身体が俺様に覆い被さり、股間が温かくなる。どうやら洩らしてしまったらしい。

『拘束を解除しろ』

「ふぁ…ぃ」
 蕩けたような声で俺様の命令に応えたラーメは緩慢な動きで俺様の目隠しと猿轡、そして魔力の放出と身体能力を制御していたらしい首輪を外した。
「…っはぁ。やれやれ、危ないところだったな」
 覆い被さっているラーメを脇に押しのけ、その身体の下から脱出する。周りに居たはずの他の気配はいつの間にかいなくなっていた。どうやら女王であるラーメが加熱し始めたのでこの場から去ったらしい。
「ら…らりをしらの…?」
「何をしたの? か?」
 ラーメの首に俺様が先ほどまで嵌められていた首輪を嵌め、その魔術効果を発動させた。これで暫くは大丈夫だろう。
「お前は性魔術、というものを知っているか?」
「せいまじゅつ…?」
「そうだ。性交によって互いの魔力を増幅したり、一方から一方へと魔力を渡したり、奪ったり、今の俺様とお前のように相手を支配したりする魔術だ」
 サキュバスが得意とする魔術だが、無論人間にも習得は可能だ。
「この魔術の発展系が魅惑の魔術や精…あるいは魂を吸収する魔術だ。その他様々な魔術の礎ともなっている、恐ろしく原始的な魔術だ。起源は定かじゃないが、もしかしたら最も古いかもな」
 古代より性交というのは相手を自分のものにするための、あるいは快楽を共に得るための、あるいは――取引のための儀式だったという。
「それにしてもここはどこだ…? 少なくとも、ホーネットの巣ではないようだが」
 辺りを見回してみるが、どう見てもここは人間の造った建造物の内部だ。石造りのそこそこに広い部屋で、カーテンは閉められているがちゃんと窓がある。俺様たちが交わっていたのはその中央に置かれた大きなベッドの上だ。
「まちのなかにあるりょうしゅのはなれのひろるらっていっれら…」
「ふむ…領主の離れとな」
 まだ俺様の魔力に当てられて呂律がいまいち怪しいラーメの言葉を吟味する。確か俺様はキラービーにしてやられて意識を失ったはずだ。それが何故まだ街にいるのだろうか? 約定どおりなら俺様はホーネットの巣に連れ去られているはずである。
「んっ…はむっ…」
「っ…ちょっとやりすぎたか」
 蕩けた表情に焦点を失った瞳のままラーメが俺様の剛直に吸い付き、そのまま音を立ててしゃぶり始める。どうも支配するために魔力を注ぎすぎたらしく、ラーメは発情しっぱなし、俺様のマジカルステッキも元気いっぱいだ。
「あー…まぁいい。今は考えるのも面倒だ」
「んっ!? ぶっ!」
 俺様の剛直をゆるゆるとしゃぶっていたラーメの頭を抑え付け、喉の奥を突くように乱暴に上下に揺すり始める。
「それよりもさっきはよくもやってくれたな? 尻の穴までヤられたのは実に久しぶりだったぞ」
「んっ…ぷぁっ! ら、らんぼうなのは…きゃっ!」
 ラーメの口から剛直を引き抜き、口答えしようとしたラーメをそのままベッドの上に突き飛ばした。
「や、やめっ…んぐぅ!? うぶっ…おぇ…っ!?」
 仰向けに倒れこんだラーメの口に再び剛直を突っ込み、そのまま激しく腰を使って喉の奥を突く。ラーメが苦しげな声を上げるが、勿論無視だ。
「ぉ…ぅっ! ぅぇっ…ごぶっ!? んぶぅぅっ!?」
 思い切り喉の奥に剛直を突きこみ、そのまま激しく射精してやった。ラーメが突然の射精に目を白黒させ、溺れそうになりながらも精液を呑みこむ。
「げほっ! うっ…げふっ!?」
「伸びるなよ、まだまだ始まったばかりだ。次は俺様がされたように尻だな」
 ラーメの身体をうつ伏せになるように転がし、腰を抱えて尻を上げさせた。自らの蜜と俺様の精液でぐしゃぐしゃになった秘所から両方が交じり合ったものを掬い、ラーメの尻穴に塗りこむ。
「ひっ…や、やだっ! やめて…」
「そう言いながら随分とヒクついてるじゃないか、前も後ろも。そういえば、サディストは潜在的なマゾヒストである場合もあるそうだな?」
「い、いやぁぁぁぁっ…」

 ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――

 ドガァンッ!

 酒場兼宿屋兼冒険者ギルド支部の入り口の扉が突然弾けるように開いた…というか文字通り弾けた。凄まじい勢いで店内に破片が飛散し、中に居た冒険者だのゴロツキだのが悲鳴を上げる。
「おや、随分と早かったですね」
「ほぉぅ…随分と余裕じゃないか、ええ?」
 全身から魔力を立ち昇らせた見た目は子供、頭脳は大人の魔術師が私の居るカウンターへと歩いてくる。おお、足を置いた場所があまりの魔力に焦げている。これは恐ろしい。
「やだなぁ、この数日色々な後処理に追われて大変だったんですよ? 余裕なんてありませんって」
 内心冷や汗を垂らしながら憤怒の表情をしているトロンに冗談を言って宥めようとする。
「今度という今度は腹に据えかねた。さぁ選べ、消し炭になるのと原子崩壊起こして爆散するのと精神を破壊されて生き人形になるの、どれがいい?」
「いやだなぁ、何を怒って…」
「わざわざ場所まで用意してラーメに俺を売ったな?」
 いつもは黒いトロンの瞳が魔力を高めているせいか、悪魔のように真っ赤に輝いている。所謂攻撃色というやつだろうか。
「場所を用意したのは私なりの配慮ですよ? 巣に連れ帰られたら厄介でしょう」
「そもそも連れ帰らせるな! 結局日没までに俺様はどちらの巣にも連れ帰られなかったんだろうが!?」
 そう、トロンの言っていることは事実である。あの時トロンはホーネットの精鋭であるキラービーに倒されたが、ホーネットが巣へと彼を連れ去る前にハニービーが彼を奪おうとホーネットに挑みかかったのだ。結果的に日は沈み、どちらの巣にもトロンは連れ去られなかった。
『私達ではどう逆立ちしてもトロン様を無力化して捕まえられませんもの。それだったら野蛮なホーネットを利用してトロン様を沈黙させ、その上で奪うほうが上策でしょう?』
 それに、ホーネットに奪われてしまってはハニービーは確実にこの地を追われる。だが、人間の勝ちということにすれば共存を前提として留まる事ができる可能性がある。そういう打算もあってのハニービーの女王の決断だった。なかなか強かな女性だ。
「でもまぁ、ホーネットにトロン自身が敗北したのは事実でしょう? 試合では勝ちましたが、勝負には負けたわけです。それにホーネットはハニービーと人間が結託したのではないかという疑いを持ちましてね、信用してもらうために貴方を期限付きで引き渡したわけですよ」
「待てコラ、何故引き渡す」
「常日頃貴方が言っているじゃないですか。『自分で自分の身も守れない間抜けにかける情けは無い』って」
「ぬ…ぐっ」
 私の言葉にトロンが苦虫を噛み潰したような表情になる。こうかはばつぐんだ!
「でもよく二日で戻ってきましたねぇ…予定では一週間だったんですが」
「…あの拘束具はお前が用意したのか?」
「あっはっは、いやだなぁ何の話だかわかりませんねぇ。ホーネットがどこかのキャラバンとか行商人とか冒険者から略奪した品じゃないですか?」
 私の言葉にトロンはしばしジロジロと疑いの眼差しを向けてきたが、私はニコニコと笑顔を崩さずシラを切った。ここで認めればふりだしに戻ってしまう。
「ふん…で、結局話は上手くついたんだろうな?」
「ええ、つきましたよ。人間も、ホーネットも、ハニービーも皆ハッピーになれる方向でね」
「なら良い、詳細な報告と報酬は後日俺様の店に届けろ。俺様は疲れた、帰って寝る」
 そう言うとトロンは詳細を聞かずに踵を返し、扉の無くなった出入り口をくぐって出て行った。扉の修理代金は報酬から天引きしようと心に決める。
「すまん、何か仕事は無いか?」
「あー、はいはい。何かしらはありますよ、先ずは貴方のスキルを聞かせていただいてよろしいですか?」
 暫くはギルドが彼に回すほどの仕事は来ないだろう。来るとすれば、今目の前に居る駆け出し冒険者がこなすような雑事ばかりに違いない。少なくとも、そう願いたい。
 彼が動くと床板を消し飛ばされたり扉を吹き飛ばされたりと良いことが無いのだ。

 ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――    ――

 ――古今一般的に使われている魔術とは別に、余りにも強力すぎて扱えなかったり、危険すぎて封印されたり、行使できるものが居なくて失伝してしまった魔術・魔法も数え切れぬほどある。
 それらは失伝魔法や消失魔術、遺失呪文――様々な呼び名が呼び名があるが、大体はロスト・マジックだとかロスト・スペルと呼ばれる。伝承される必要も無いようなしょうもないモノから対象を即座に死に至らしめる大変危険なモノまで様々あるが、その大半は後者のような大変危険、もしくは大変強力なモノばかりだ。
「トロン様」
 ――それらの魔術は基本的に今となっては習得が難しいものが多いが、中には失伝扱いになっているだけで密かに受け継がれていることがある。また、古代の遺跡や廃墟などで習得法が記されている魔導書を発見できることがある。
 また、古代の神や一部の魔族から伝授されるケースも稀にあるようだ。ただし神にしろ魔族にしろ、強大な力を与えることの代償を求めてくる場合が多いので注意が必要である。
「トロン」
 ――どのような形にせよ、これらの失われた魔法に手を出すのは基本的にやめたほうが良いと言える。失われたのには失われるだけの理由があり、またその理由の殆どは過分な力を手にした習得者がその力で自らを滅ぼしてしまったというものばかりだからである。
 それでもなお、それらの魔法を手にしたいと考えるのであればページを捲って更に深き魔術の深淵を覗くと…

  バンッ!

 激しくテーブルを叩く音が大きく響き、テーブルの上に置かれていたカップが一瞬浮き上がる。幸いなことに中身は零れ――てしまっていた。不幸だ。
「お前達…何故ここに居る」

「トロン様をお誘いに」
「トロンを誘いに来たに決まっている」

 声の主達が互いに顔を突き合わせてしばし無言で睨みあう。そんな様子を視界の端に捉えた俺様は溜め息を吐きながら本をパタリと閉じた。
「お前らは女王だろうが。女王が巣を空けて単身遊びに来るな、仕事をしろ仕事を」
「あら、ちゃんとしてますよ?」
 クスクスと笑いながらピリカが俺様にしなだれかかってくる。ふわりと甘い匂いがした。
「子を作るのが女王の仕事だからな」
「きゃっ!」
 俺様にしなだれかかっていたピリカを片手で持ち上げて後方へと放り投げ、今度はラーメが俺様にぴったりとくっついてきた。
「この前お前にあんなに激しくされたせいで身体が疼いて仕方が無いんだ…責任を取るのが男ってモノじゃないか?」
「いたた…腕力に訴えるなんてズルいですよ!」
 ピリカが突進してきて俺様の座っている椅子もろとも三人とも倒れる。正直痛い、凄く痛い。というか重い。
「いいかげんにせんかこのメス犬どもがあぁっ!」

 今日もトロン魔法店は平和…とは言い難いのであった。
09/12/23 04:52更新 / R
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■作者メッセージ
これにて蜂戦争は終結。
人間の仲介によってハニービーとホーネットの間に休戦協定が締結され、限定的にですが交流が開始されるのでした。
ハニービーは蜜や蜜蝋を、ホーネットは武力を人間に提供し、人間は一定の制限を設けて男を差し出すことになります。
まぁ、色々と有り余っている男性も多いことですからね! 私も差し出されたい!

そろそろお気づきかもしれませんが、トロンさんは戦闘能力が高い代わりに智略に弱かったりします。
だからアールの口車に乗せられていつもホイホイ面倒を背負い込むのです。
でも一番の策略家は多分ピリカさん。

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