連載小説
[TOP][目次]
禁欲と騎士
 ルメリが正気を取り戻したのは、校門の前にたどり着いた後だった。
「あ、あの……すみません。テツヤ様……」
 ルメリはこれまで以上に顔を真っ赤にして、もじもじした。
「いいよ、別に。気にしてない。あれはこの土地の魔力のせいだから」
 僕は何度も繰り返し謝り続けるルメリをなだめ、彼女の手を握り締めた。
「あのことは、興奮していたからという理由で都合良く忘れられることじゃない。でも、原因ははっきりしてるし、そんなに気にしなくていいよ」
 僕はこうなる可能性があることは知っていた。だから、僕は彼女の様子を見て的確な対処をした。彼女が望む快楽を、指で与え、彼女の欲望を交わること以外で満たしてあげたのだ。それゆえに結果的にあれ以上ルメリが暴走することも無かった。
 的確な対処、というのはフェリーナ様に教えてもらったものだ。
 ゴーレムのミーアを相手に彼女の股に手を伸ばし、胸を握るつぶすかのように激しく揉みしだき、くちゅくちゅと水音を立てながら、膣の中にあるミーアの気持ちのいいところを探り当て、絶頂まで導く。
 こんな訓練を毎日、人を変えて何度も行ったのだ。
 
 僕は記憶を失ってからの3か月の間に、この国を支える事となる時期女王、エルメリアを支えるために、この国や魔物の習性、そして魔力について、ずっと王城で勉強をしてきた。
 だから、魔物たちの魔力が男の精液から作られることや、精液を獲得するために魔物たちは女性的魅力を備えた体つきになっていることもすでに織り込み済みだ。
 彼女との行為に及ばなかったのは、それらのな勉強の賜物だったと言える。
 終わり良ければ総てよし。そんな言葉があるくらいだ。もうこれでいい。……なにより、僕は普段から淑女と喩えられるルメリのあんな姿なんか、思い出したくなかった。
「でも、テツヤ様。私は、まだこんなに未熟ですが、一国の騎士ですから……」
 だけど、ルメリは『私に責任を取らせてください』と、雄弁な瞳で訴えかけてくる。
 ……責任ねぇ。
 永代騎士である彼女にとって、彼女のした行為は由緒正しい家柄に泥を塗る行為だ。そんなことは誰でも理解できる。ルメリのしたことは謀反だ。
 騎士として責任を負うのは当然だけど、彼女に罰を与える上での問題は2つある。
 ひとつは、僕がルメリに与えるべき罰が何なのかを知らないということだ。
 魔物については一通り勉強してきたが、裁判の判例については一切勉強をしなかったため、王族特権として恩赦や特例私刑を発動できることは知っていても、どの程度がふさわしい罰なのか分からない。
 さらにルメリのまじめな性格から、恩赦として赦すよりも、きっと彼女は罰を望んでいるのだろう。
 その場合、この地を治める貴族に申告をして裁判実施通知が届くまで待てばいいのだが、ここでもう一つの問題が絡んでくる。
 この件を考える上で重要なのは、この地が女王の直轄管理する領地ではなく、初代フェリエ家女王の夫の親族家系にある、クェイン公爵家の領地であるということだ。
 クェイン公爵家は初代女王の義兄がその身をデーモンの下に捧げる――つまり婿入りしたことによって、建国の戦いに参戦した、由緒正しき武勲の家系だ。
 だからクェイン公家は形式上爵位を世襲する王族同等公爵なのだが、彼女たちは本来魔王領で魔王に仕えていたデーモンの家系で、過激思想を持っているとも聞く。
 要するに彼女たちクェイン公家は啓蒙よりも快楽を優先し、男を欲と快楽漬けにして、本能のままに交わることを是としていると言うのだ。
 そして、この国での裁判は、貴族領での裁判が可能ならばその領地で裁判を行い、判決を下すと言うシステムだ。つまり、貴族領での裁判が行われることになれば、彼女たち、クェイン公家の行う裁判によって、ルメリのしたことは黙殺される。
 この地は王城から山2つ越えた場所にあるのだ。ばれることはないし、王立学院で僕が襲われたって、助けてくれるのはエルメリア姉さんしかいないだろう。
 要するに、どう転んでもルメリの望む責任を背負うことはできないのだ。
 だから僕はルメリに罰を与える代わりに、こう命令した。
「これから、僕を守ってくれないか。いろんなものから」
 それを聞いたルメリはきょとんとした顔をしていたが、物分かりのいい彼女は、すぐに理解してくれたみたいだった。
「はい! 分かりました!」
 元気よく返事をする彼女は、満面の笑みで僕に敬礼する。
「おおげさだなぁ、ルメリ」
「だってテツヤ様から直々の命令なんて、……これって近衛騎士ってことですよ? そんなの嬉しいに決まってるじゃないですか!」
 ああそっか、と思いながら、ルメリにつられて僕も微笑む。
 僕は彼女の笑顔を見ながら、一緒に校門をくぐる。
 この学院に僕以外の男はいない。だから襲われないか不安だったが、純情で純粋なルメリが居るならやっていけそうだと思った。
  
19/03/18 05:56更新 / (処女廚)
戻る 次へ

■作者メッセージ
票ほしい

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33