読切小説
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泣く虫
巷には、多くの妖怪が溢れ返っている、
ここジパング、トヤマにも、そりゃあたくさんおる、
そんなかでもなあ、まあ泣ける話があるがいけど...
ちょっとばかし、聞いていかれよ、あんた、


なぜなのか、なぜ刀を突き付けられねばならぬのか、
私はなぜ切られねばならぬのか、それもいたぶるように、
悪事をはたらいたわけでもない、なぜなのか、
なぜなの..か...........

その男、薬売りのジロ助は急いでいた、
その日は、いつもより忙しかったので、もう日が暮れかけていた、
ここらの獣道には、よく人を取って食う「大百足」という
化け物が出る、と言われていたから、早いこと宿に入らねば、
..実のところ、見たい、という気持ちが山々だった、
恐ろしい姿で、猛毒を持つといわれているが、
本当にそうなのか?それにもし、その毒を手にできれば、
解毒剤を作って、より金儲けできるだろうな...
そんなことをぼんやーりと考えていた、そのときだった、

道端に、小さな地蔵が祀ってあったのだ、

「商売繁盛でも祈っておこうか」と、その地蔵に近付くと、

「...う、うう...」

「おわあ!だっ 誰じゃ?」
地蔵から女の呻く声が聞こえた、小さく、綺麗な声、
無縁仏の類を一切信じとらんだジロ助、
辺りを見渡す、、、
「..空耳かや..」
そう思って腰を下ろす、本当に仰天したんはその時、
「うっ!...女か?」
あまりに近く、気付かなかったのだろう、
地蔵のすぐ横に、年若い女がへたり込んでいた、



綺麗な顔をしている....ぬっ!?
ジロ助は女に近付き、よくよくその肢体を覗いた、
途端に、目を丸くし、一度少し飛びのいた、
「お、お前その体は..!..その傷は....?」
まず目についたのは女のおかしな体、
頭のてっぺんから2本、しなやかな角が伸びており、腰あたりから下は、

百足の体をしているではないかー..

これが噂の大百足か...だが、それより、鼻を突く生臭い臭い、
その大百足は、肩から腹にかけ、長く、赤黒い傷を作っていた、

ーー刀で切られたのかーー

ジロ助は何も考えておらんだ、勝手に体が動いた、
女の傷を丁寧に拭ってやり、傷塞ぎの薬草をあて、さらしを巻いた、
「っくく..ああっ!」
女が痛みに耐えかね、叫ぶ、
もう少しの辛抱だ、耐えてくれ、頑張ってくれ、
口まで勝手に動き、言葉を吐いていく、
やがて、手当を終え、女に問うた、

歩けるか? 立てるか??

女は、長い髪のかかる瞳をこちらに向け、喋った、
「....なぜです?」
「え?..なんと?」
ジロ助の問いには答えず、ゆっくりと体を起こす女、
立てたか、よかった、、行くぞ、
ジロ助は、肩を貸し、女を支えた、


宿の主人になんと言われようが構わん!
覚悟を決めて、宿の戸をたたき、泊めてくれるよう、頭を下げた、
宿の年若い眼鏡を掛けた主人は、そりゃあたいそう驚いたさ、
しかし、主人はジロ助に借りがあった、
自分の家内がサナダにやられたとき、ジロ助が偶然訪ねてきて、
虫下しを飲ませてくれたのだ、
それにこんな恐ろしい姿をしていようとも、女である、
顔をちらりと覗いて、すぐに了承してしまった、
「なんかあったら、俺が食われておくよ」
縁起でもないことを口にし、ジロ助はその百足を抱え、
のっしのっしと部屋へ入っていった、
その後ろでは、主人が自分の妻に
「あたしを置いといてあの人の顔ばかりみて!」
と、ひっぱたかれていた、


湯をたたえた桶を枕元に置いて、薬売りはため息をついた、
なんと美しいおなごであろうか、
昏々と眠るその顔を見ていると、
百足の体を綺麗に拭いてやり、{宿の主人も震えながら手伝った}
大きな肢体を収めるために、布団を5,6枚運んできて
繋げた時の疲れも吹っ飛んでしまう、
このまま嫁にでもしたいくらい.......おお?

女がうっすらと目を開け、ジロ助の方に視線を向ける、

「..起きたか?」そうっと呼びかける、
「........」女が布団から這い出てきた、

ずる ずる...きちきちきち...じゃみじゃみ

ぞっとする音を出しながらこちらに向かってくる、
しかし薬屋は動かなかった
女に、はっきりと問うた

「お前は、何故刀で切られ、あのような場所に打ち捨てられていたのだ?」

動きを止め、じいっとこちらを見つめる切れ長の瞳、

「..街の人達が、私をいたぶりに来たのです、」
ジロ助は顔を強張らせた、 なんだと!?
はらわたが、血で茹でられ、弾けそうだった、
「..それは、本当か?」
ふう、ふう、と肩で息をして、何とか己を鎮める、
顔から怒りによる汗が噴いてきた、涙がこぼれた、
人と違うからというだけでか、たったそれだけでか、
瓦版には、これまで人が妖怪に殺されたという話は、一度も載っていない、
それこそ子供のように、軽薄に刀を振る輩の仕業なのだ、
罪のない者を、ただいたずらに切る、、輩の...............

「私は、生きてはいけないのでしょうか?」

はっと、彼女のこえで自我を引き戻す、
今度も自然と口が動いた、叫んだ、彼女に向かって、

「ばかやろおおお!!」

身を震わせ、涙を流す大百足、
なぜこのように、心に伴い、涙を流せる者を切るのか、

人と同じではないか、馬鹿野郎!!

「負けるな!生きろ!ぜっったいに!!生きろ!!!!

 俺が傍に付いてやる!刀から!矢から!槍から!大砲から!!!

 お前を!守ってやる!!だから!いきろおおおおおお!!!!!」


はあ...はあ..はあ、、、、

俺も泣いていた、彼女も、涙を流していた、

「明日から共に生きるぞ...!」

「...はい! ..あり..がとうございま..うう、あ、ああ..」

「もう泣くな..泣くな...お前、名はなんという?」

「私..露奈と申します..」

「俺はジロ助...宜しくな....」

「はい..ジロ助様...」



「気い付けていかれよおー!」
宿の主人の女房が手を振っている、
「おうよ!さあ、行こうか露奈!今日はイシカワに売りに行かねば」
「はい!...イシカワとはどんな所で?」
「ふむ..海が綺麗だぞー!見せてやる!!」
「海..一度眺めてみたかった..! はい!!」

「たっぷり見せてやる!さあ出発しよう!」

「はい!」


              おしまい





13/01/03 11:40更新 / 酢飯

■作者メッセージ
皆様こんにちは、酢飯でございます、
今回は大百足さんのお話です、
「泣く」ということが今回のお話のキーになっています、
相変わらず拙い文、絵でございますが、
最後までお読みいただき、ありがとうございました、

それでは皆様、体にお気をつけて

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