読切小説
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SWAP SWAMP

月に青く照らされたしじま。

どことも知れぬ森の中の、小さな沼。



沼のほとりにいるのは、人間の少年と少女。

そして一組のトリトニア。

ふたりの人間は、互いにトリトニアとからみあい、きれぎれに声を上げている。

あいまに泡のはじけるような、トリトニアの声が聞こえる。



― あっ  あっ  あ  あ  あ ・ ・ ・


・ ・ ・ る  るん るる るぷ ぷるる ―



赤いトリトニアは、少年を立った姿勢で抱きしめていた。

トリトニアの体は人よりもひとまわり大きい。

少年の体は、頭と手足の先くらいしか外に出ていなかった。



あ 、 あ 、 あ 。  す、すいこまれるっ・・・!


・・・るるるるる りるるるるる・・・・!



トリトニアと少年は、腰とおぼしきあたりをお互いすりよせあっている。

大きく、深く。 深く、大きく…  ときおり大きくその身をそらす。

少年は奥の奥まですべりこもうとしているかのように。

トリトニアは奥の奥まで飲みこもうとしているかのように。



い、いいよう、すごいよう。 こんな、こんなの、はじめてっ・・・


ぴ ぴ ぴっ ! ぴゅ、ぴゅ、ぴゅう・・・



青いリトアニアは、少女に組み伏せられていた。

小柄な少女は、トリトニアの乳房のような突起をわしづかみにし、はげしく腰を打ち付けている。

リトアニアはその青い体をたくみに動かし、少女をの体と動きを支えていた。



い、いっくう! いっちゃう 、でちゃう! でちゃうようっ!!

る、ぷる、る! るる、るるるん! るるるるるん!



少女の腰が、小鹿のように震える。

リトアニアの軟らかい肌が波打ち、その震えを受け止める。

少女はひときわ高く声を上げ、体を大きくそらし、果てた。

倒れかかる細い体を、無数のひだがやさしく受け止めた。


・・・ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅん。

くちゅ、くちゅ、くちゅっ・・・



冷たく柔らかい肉と、熱い骨の通った肉。

水と互いの分泌液にまみれたそれらを打ち付ける音が、葉ずれの音とともに響く。

月が昇っている間、いつまでも―



――――――――――――



「さあ、用意して!今すぐ出発っ!」

「むちゃ言わないでよ、明け方だよ、まだ・・・」



僕の名前はジル。王立アカデミー二年生、特殊生物部所属。



「明け方しかチャンスはないんだよ?! さあ着替えてっ!」

「ちょ、待ってよ・・・! 脱がしちゃ、やだあ・・・」



こっちのうるさいのはエイミー。 おなじアカデミーの三年生。

僕と同じ、特殊生物部所属。



「じゃあ自分でやりなさいっ!」

「わ、わかったよ、もう・・・」

「まったくもう!」



年はひと月しか違わないのに、すぐこうやって姉さん風を吹かす。

小さいころからずっとこう。あのころから本当に変わってない。

ちっちゃくて細い体もくせっ毛もそばかすも、男勝りの行動力も。



「単位が足りないっていってたの、あんたでしょ?!」

「エイミーのほうが足りてないじゃないか・・・」

「近くの沼で淡水性のトリトニアを見つけたのよ!」

「見間違いじゃないの?」

「あたしの目はたしかなの!」



そういうやいなや、エイミーは重たいザックを投げつけてきた。

僕はうけとめきれずにひっくり返ってしまう。



「もう、だらしないわね!」

「乱暴なんだよ、君が」

「女みたいになよなよして!」



エイミーは僕の手をひっつかんで、思いっきり引き起こした。

いつのまにか、不釣り合いなほど大きいザックを背負っている。



「記録だけだって楽部賞はまちがいなし。 捕獲できたら学会で発表できるわ!」

「ダメだよ、相手は動物じゃないんだから・・・」

「いつまでウジウジしてるの、さあっ!」

「あてっ!」



おしりをおもいっきり蹴っ飛ばされた。

いつものこととはいえ、まったくもう・・・




――――――――――――



それが確か、2時間くらい前の話。

そして、いま。



「あっ、はっ、はあっ・・・」


「う、うあっ、くうっ・・・」



僕らは、たぶん沼の底にいるんだと思う。

上の方にかすかに、かすんで波打つ太陽が見える。



「ぴる、りる、る」

「ぷるる、るるっ」



トリトニアは、確かにいた。 しかも二匹。

捕まえられれば、新聞に載れたかもしれない。



くちゅ、ちゅる、ぷちゅっ。

じゅるじゅる、じゅるっ、くにゅ。



でも、捕まえられたのは、どうやらこっちみたい。

トリトニアに麻痺性の毒があるなんて聞いてないよ・・・



赤いトリトニアはエイミーを。

青いトリトニアは僕の体をしっかり押さえこんでる。

フリルのついたスカートみたいに見える「足」をいっぱいに拡げて。



「あっ、あ、あー・・・ ふあっ」

「う、う、くう・・・ だ、だめ・・・」



なにをするつもりなのかは、だいたい察しがついてる。

トリトニアはいま繁殖期。 しかも人間も生殖行動の対象。

そして、単一生殖が可能な生き物・・・



「くぴ、くる。るる、る」

「ぷちゅる、ぷぷっ」



さっきから二匹とも、下半身・・・

足と胴体のあいだあたりから、交接器をいっぱいに伸ばしてる!

体色よりなお真っ白な管で、先からはさらに細い管がしゅるしゅると伸び縮みして・・・



ちゅるちゅるちゅる。 ぷちゅっ。

くにゅ、くに、れろ。



どっちのトリトニアも、交接器が入りそうな、僕らの「穴」をずっとほぐしてる・・・!

あふれるような粘液を口から流し出してぬりつけて、

長い歯舌をのばしてさしこんで、丹念に穴をひきのばしてく・・・!



僕にのしかかってるやつなんてご丁寧に、漏斗をのばして差しこんできて。

水をいっぱい僕のおなかの中にそそぎこんで、ぐりぐりしごいて・・・

もう、やだ・・・



「う る る る る」

「 ・・・ ぶ る 。 」



交接器がのびてきた。 ほぐしてた穴にまっすぐに・・・

いよいよだ。 いよいよだ!


「やめてくれ! いやだようっ!!」

「だ、だめ! それだけは!」



やめてくれない、よね。



― に ゅ る る る る る ん



「だめぇーっ!! うあっ・・・!」

「いやだああああ! あ、あうっ?!」



お、おなかのなか、かきまわされる・・・

さきっぽが、おなか、なぜまわして・・・



― こ り っ 。



「あふっ!?」「うあっ?!」



― こり こり こり 。



「あ、あ、あっ」「う・・・ う、うっ」

「 る る 」「 ぷ ぷっ 」



な、なに、これ。 きもち・・・ いい?

だ、だめだよ、だめっ・・・ こんなところで・・・

これじゃ、僕、ヘンタイだよ・・・



「ああ、ああっ、いっ・・・」「だめ、だめ。 やめっ・・・」

「 るるる るるる 」「 ぷぷぷ ぷっぷ ぷるっ 」



― こりこりこりこりこり。



あ、だめ。 どうにかなっちゃう。

エイミーの前で、おしりでいっちゃう。

やだ、よう・・・



― く り っ 。



「い、いいっ! いいのおっ! いっくうううう!!」

「やっ、やだ! いやだあ! あああああっ!!」

「るるるるるぅっ!」「りるるるるるるっ!!」



トリトニア、びくんびくんしてる。

白いからだが、黄色い触角が、ふるえてる・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・



――――――――――――






「ちゅ、ちゅる。 むちゅる」

「ぷちゅる ぷちゅ ちゅる」



あれからずっと、二匹のトリトニアが、目の前でからみあってる。

赤と青の体がをいっぱいにのばしてねじりよせて・・・

二匹で一匹の、ふしぎな生き物みたいになってる・・・


「じゅるう。 ぷぷっ、ぶるる」

「うぷ。うるる。るるるる・・・」



交接器をいっぱいにのばして、お互いの生殖孔にさしこみあって。

お互いの交接器自体をからめあって・・・



「ジル。起きてる?」

「・・・なあに?」

「ごめん、ごめんね、ジル・・・」


エイミーが、泣いてる?


「どうしたの?」

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

「いいよ、いつものことじゃん」

「ちがう、ちがうの・・・ あたし・・・」


              と
あたし・・・ 汚れちゃった・・・ 奪られちゃったよ・・・

あなたに、あなたに、あげたかったのに・・・



「え、エイミー」

「う、ううっ、うええええ・・・んっ・・・」



 ぐ に ゅ う 。



「きゃあ?!」

「お、おまえっ!!」



いつのまにか青いトリトニアが、エイミーを後ろから捕まえてる!


「や、やめてっ!」

「このっ!」


 ぐ に ゅ 。


・・・僕も捕まった?! ち、ちくしょうっ!


「はなせ、はなせっ!!」

「・・・る」

「え、ええっ? エイミー?!」

「い、いやああ?!」



しっかりエイミーを抱えこんだ青いトリトニア。

エイミーの両足を、自分の足で抱えて・・・



 が ば 。



「い、いや! 見ないで、ジル!」

「うわ・・・」



エイミーが、両手で顔をおおってる。

いっぱいにのばされた、白くて細い足。

足のつけねの、じん帯がぴっと張りつめてる。 そしてその先・・・



「見ないでぇ・・・」

「・・・・・・・・・・・」



ピンク色のちいちゃな入口。セピア色のつぼんだ出口。

足といっしょに花びらがひろげられて。

そのまんなかに・・・



「・・・エイミー」

「えっ? い、いやっ!」

「きみは汚れてない」

「・・・ぷる」


あ。 トリトニア、僕のこと放してくれた。

わかってくれたんだ。



「・・・え?」

「汚れてなんかない、僕のものだ!」



 ず っ !



「痛あぁぁぁいっ?!」

「エイミー、きみは、奪られてなんかなかったんだよ!」

「えっ、えっ・・・」



エイミーの入り口が、ぼくのをせいいっぱい受け止めてくれてる!

血までにじませて・・・!



「もらったのは僕だ! 僕のものだ!」

「・・・ジル! ああっ!」



すごい! エイミーの中、トリトニアの液がいっぱいつまってる!

くちゅ、くちゅ、ぱちゅん!



「ごめん、エイミー、ごめん! とまらないっ!」

「いいの、もっと! きもちよくなって、ジル!」



腰がとけて、なくなっちゃいそう・・・

ぱちゅんぱちゅんぱちゅん・・・



「るるるるるっ」

「ふるるるるっ」



ああ、トリトニアが、わらってる・・・

つがってるぼくたちを見て、うれしそうに・・・

くちからたくさん、つめたい液を、ぼくたちがつながってるところに・・・



「ああ、ああっ! いい、いいよおっ!きもちいいっ!」

「・・・あたしも! あたしも、いいのっ! きもちいいのぉーっ!」




「「あああああ、いっくうぅぅぅぅっ!!」」





・・・いい、きもち。

ああ、ぼく、しあわせ・・・



 ぎ ゅ う っ !



・・・えっ?



 ぐ い っ !!



トリトニア?! 僕の、足を、開いて・・・



「うわあ・・・」



エイミー?! じっと見てる!! やだあっ!!



「エイミー、見ないでっ!」

「・・・・・・・・・」



えっ?



「・・・・・・・・・」



エイミー、なに、それ・・・?

エイミーの、おまたから・・・



「この子が、くれたの」

「るるっ」



ふっとい、交接器が・・



「エ、エイミー・・・」

「ジル」


 じ り っ 。



「エイミー?!」

「ジル・・・」


 じり じり


「こ、こないで! はなせっ!」

「・・・ジル。 ごめん」


 が ば っ !!


「責任、とる! 一生、大事にするっ!!」

「わああああああああああっ?!」 






ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ。


「き、きもちいい! これ、すごいっ!」

「う、うあっ・・・!」


ぱちゅんぱちゅんぱちゅん。


「おとこのこ、ずるい、ずるいっ・・・ こんなの、きもち、よすぎっ・・・!」

「え、エイミー、っ・・・」


ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ・・・


「で、でちゃう!でちゃうようっ!ガマンできないのーっ!」

「だっ・・・だして! エイミーの、いっぱい、だしてぇぇぇっ!」

「るるるる」「りりるる」





繁殖期の間、トリトニアの交尾はずっと続く。

互いの粘膜から栄養をとりあい、老廃物をなめとりあい、ずっと、ずっと。

おなかのなかから、最初の幼生が生まれ落ちるまで、ずっと・・・

17/09/22 23:47更新 / 一太郎

■作者メッセージ
新種族を使って一本。
淡水種にしたのはタイトルだけが理由です。

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