Present is...
バレンタインデー。
親魔物派領にある街では、魔王様が夫と初めて出会った日だとか、サバトがお菓子や媚薬なんかの売り上げを増やすために作った日だとか言われているようだが、実際のところは違うらしい。
昔とある反魔物派の国に愛の伝道師と呼ばれた聖職者がいた。
日々愛の大切さを説いていた彼は、ある時偶然出会った魔物と恋に落ちてしまう。
もちろん魔物を悪とする教会にとって、魔物との恋なんて以ての外。
密かに手紙のやり取りを続けていた彼も遂には教会に見つかり、捕らえられて処刑されることになってしまう。
その刑が執行されることになっていたのが2月14日。
当日になって、『裏切り者』の姿を見に集まった民衆、それに国王の前で彼がまさに首を切られようとしていたその時。
彼と恋仲にあった魔物が皆の前に現れる。
この魔物というのが実はかの魔王の娘リリスであり、彼の処刑に怒った彼女は当時まだ独り身であった国王にダークマターを『贈り』一件落着。
めでたくその国は魔界化し、二人も結ばれて思う存分愛し合う毎日を送るようになったそうな。
それ以来記念日となったこの日は、カードやダークマターを模したチョコレートといった贈り物で日頃の感謝を形にして表すようになった。
そうして愛を誓い合った男女がイチャイチャラブラブする素晴らしい日、それがバレンタインなのだ、と―――
私が聞いたところによると、大体こんな感じだった。
――――――――――
ここは私の住む街にある教会。
その中に設けられている講堂で演壇に立ち、説教をしていたダークプリースト―――レミナさんは話を終えてふぅと息をつき、聴衆へと視線を向ける。
堕落神の教えを説くここでは一般的に知られる『教会』とは違い、人だけでなく魔物も訪れる。
バレンタインデーというイベントを明日に控えているせいもあってか、今日はいつもより多くの女性、特に魔物が集まっているようだった。
一番前の席で目を輝かせているのはアリスちゃん。ふりふりと楽しげに尻尾を揺らしている姿が可愛らしい。
その何席か後ろにはリザードマンとデュラハンの二人組。意中の男性のことでも想っているのか、二人とも顔が赤くなっている。
出入口付近の席にいる私の隣には、妊婦さんなのだろう、お腹の膨らんだラミアが穏やかな表情で座っていた。
皆どこかそわそわとしていて、そしてどこか……嬉しそうだった。
そんな彼女たちを眺めて、レミナさんは満足げに頷いた後、さて、と口を開く。
「今日の説教はこれで終わりです。
明日は身近な人に感謝する大切な日。
皆さんも最も近しい隣人に感謝する気持ちを忘れないようにしましょう」
ゆっくりとした口調で言い終え、持っていた本をポンと閉じると、そこでにこやかな笑みを浮かべて続けた。
「もちろん愛もね♪」
この時周りにいた魔物たちが一気に色めき立ったことは言うまでもない。
「レミナさん！」
ありがたいお説教も終わり、楽しそうに話しながら帰る人たちをかき分けて、私はレミナさんに声をかけた。
彼女は私に気付くと、扉にかけようとしていた手を離してこちらに振り返る。
「なんでしょう、メルティさん」
先程とはまた違った優しい表情をして私の名前を呼ぶ。
私がこの教会にちょくちょく通うようになってから何度か一緒に話をしたことがあったので、互いの顔も名前もよく知っていた。
私みたいなスライム種―――レッドスライムが教会を訪れるのも珍しいので、すぐに覚えてもらえたのだ。
「あの……相談したいことがあるんだけど……いい？」
「ええ、いいですよ。何でも仰ってくださいな」
私が遠慮がちに切り出すと、レミナさんは快く承諾してくれた。
もしかしたら聖職者としては当然だと言われるかもしれないけれど、その心遣いが嬉しかった。
それでも、言い出すのが恥ずかしくて結局言葉がとぎれとぎれになってしまう。
「えっと……その、私、あの人に何を贈ればいいか……迷ってるの。
いつもありがとう、って気持ちを伝えたいんだけど……」
「旦那様への贈り物ですね。それでしたら……
シンプルに手紙やカードなんていうのはいかがですか？
ただ文字に表すだけでもちゃんと気持ちは伝わると思いますよ」
その手のことは心得ているとばかりに教えてくれるレミナさん。
確かに簡単でよい方法だが、ひとつ問題があった。
「それも考えたんだけど……私、字書けないのよね」
私の身体を見てみる。
液状で軟らかい私の手ではペンを掴めても文字を書くのが難しいのだ。
必要な時は夫に代筆してもらうので書き方を覚えようともしなかったけど、まさかこんなところで困るとは思ってもみなかった。
「そうでしたか……
では、大体こんなものを渡したいというものはありますか？」
「うーんと、お菓子ならきっとあの人も喜ぶと思うんだけど……私、料理もできないしなぁ……それにあの人の方が料理がとっても上手だし」
彼はこの街のとある小さなレストランで働いている。
下働きとは言え時には厨房を任されることもあるくらいだ、そもそも料理を作る必要のない私に出る幕なんてなかった。
「えぇっと……そうですね、となると……」
さすがのレミナさんでも頬に手を当ててすっかり考え込んでしまっている。
カードもチョコも駄目となると渡せるものも限られてくるに違いない。
やっぱり私には無理か、と思うと少し悲しくなってくる。
折角の記念日なので何か特別なものを贈りたかったけれど、しょうがない。
諦めて市販品でも買おうかと思ったその時、唸り声を出していたレミナさんが何か思い付いたようにふっと顔を上げた。
「メルティさん、明日の日中は旦那様は家にいらっしゃいますか？」
「いいえ。お仕事に行くから多分夕方まで帰らないと思うけど……」
「そうですか。それは好都合です。ふふふ……」
私が答えると、レミナさんはいつか見たようなにこやかな笑みを浮かべた。
恐らく他の人が見たら口を揃えてこう言うだろう。
『悪そうな笑み』と。
＜次の日＞
夕方の時間帯も少し過ぎて、茜色をしていた空が紫に染まってきた頃。
レンガ造りの道に家が立ち並ぶ景色の中を、俺は一人家路についていた。
日が暮れるのも早いためか通りには人は少なく、夜の魔物がたちがちらほらと見えるばかり。
とはいってもそちらの数も普段よりずっと少ない。
それはきっと、今日があの祝日だからだろう。
バレンタインデー。
今日はそんな言葉を嫌でも思い付くような日だった。
俺が働いている店には普段以上に多くのカップルが訪れ、こっちが恥ずかしくなるくらい仲睦まじげな様子を惜しげもなく見せつけていた。
そうでなくとも朝から街中にどこからか甘い匂いが立ち込めていて、嗅いでいるだけでもクラクラしそうだった。
男女が愛を誓い合うというこの日。
どうやら魔物たちにとってもビッグイベントになっているようだ。
そういえば、とふと思い出す。
うちでも朝から彼女が上機嫌だった。
もしかすると俺のために何か用意してくれているのかもしれない。
となると何を作ったんだろう。どんなものだろう。
お返しは何がいいだろう。
そんなことを考えていると思わず頬が緩んでしまう。
自然と帰る足取りも軽くなり、それなりに長い道のりのはずが、気が付くと我が家の前へとたどり着いていた。
期待に胸を高鳴らせながらも恐る恐る扉へと手をかける。
ただいま、と言いながら開けると、途端に外以上に甘い香りが鼻腔をくすぐった。
いや、甘酸っぱいと言った方が正しいだろう。
店でも嗅いだことのあるこれは恐らくイチゴ、つまりはストロベリーチョコだ。
貰えるとしたらカカオチョコレートだと思っていただけに、少し意外な気がした。
その香りに、誘われるようにしてふらふらと居間へと入っていく。
その時、俺は知らなかった。
そこに予想外の光景が広がっていようとは。
「お……おかえりなさい、あなた」
そこにいたのは紛れもなく彼女だった。
照れ屋な彼女は時おり視線を逸らしながら話す。
そう、たしかに彼女だが……
「あの……バレンタインのプレゼントなんだけど……」
恥ずかしがっているのだろうか。
彼女の顔は真っ赤に、否、ピンクに染まっていた。
何故なら……
「私が……プレゼントなの」
全身をストロベリーチョコレートに 覆われていたからだ。
「…………」
「あ……嫌い、だったかな……？」
「いや、そんなことない。むしろ垂涎もの」
スライムだからこそ成せる技とでも言うのだろうか。
全身をチョコレートでコーティングしたその姿はきっと他の魔物には真似できないに違いない。
思いも寄らなかったことだけに驚きも、そして嬉しさもひとしおだった。
そんな俺に気付いて、彼女はもじもじと俯かせ気味だった顔をふっと綻ばせた。
「えへへ……よかった。
気に入ってくれたんだね」
「あぁ、もちろんだ。
俺が一番好きなものを贈られて喜ばない訳がないだろ？」
「一番好きなもの……？」
一瞬きょとんと疑問符を浮かべたが、
すぐに意味を理解したようでまた照れくさそうに微笑む。
こんな風に表情豊かなのが可愛らしい。
「それじゃあ折角だし、さっそく味を見てもいいかな？」
そう口に出して聞いてみる。
味を見るとは言ってはいるが結局は我慢しきれない、そういうことだ。
彼女の方もそれを察していて、うんと一つ頷くと身体を床に横たえ、こちらに手を広げて言った。
「召し上がれ♥」
その言葉に、グッときた
次の瞬間には彼女を押し倒していた。
「ふふ……あなたぁ……♪」
恍惚として上目づかいに見上げてくる彼女は、僅かに朱が差していて瞳を潤ませている。
発情しているのは言うまでもなかった。
街全体に溢れる魔力のようなもののせいもあるのだろうか。
俺の方も頭がぼんやりとして思考が定まらない。
くっきりとした目鼻立ち。
少し大きめな胸。
柔らかさを感じさせる四肢。
毎日見慣れているはずの彼女がこの上なく愛おしく思えてくる。
全身が桃色をしているのも、なんだか彼女が淫乱なスライムになってしまったようにも思えて欲情をそそった。
「ねぇ、はやくぅ……！」
そう懇願する姿に堪らず顔を近づけ彼女の頬に舌を這わせると、ひゃん、と可愛らしい声を上げる。
それと同時にストロベリーチョコの甘酸っぱさが口の中に広がる。
おいしい。
そう口に出すと彼女はちょっとはにかんで心底嬉しそうに笑顔を見せる。
また彼女を味わおうと二度、三度となく、何度も繰り返し舐め上げる。
その度に感じているのか、ビクビクとうち震えているのが分かる。
そのうちに頬だけでは飽きたらなくなり、震えるのに合わせてぷるぷると揺れていた胸元の果実へとむしゃぶりつく。
いやらしく勃起している先端を舐りながら
空いている手でもう片方を揉みしだくと、手に吸い付くような柔らかな感触と共に先程よりもほのかに甘味の増した汁が口の中に溢れてくる。
「ん……！む、胸ばっかり……弄らないでよぉ……！」
少しむくれた顔でそう抗議する。
俺は一旦口を離してごめんごめんと言いつつも手を休めることはしない。
しかし、ここまでしていると当然俺の下の方も苦しくなってくる。
それに気付いていたのか、彼女は身体の液体部分を器用に使ってズボン、そして下着を脱がし、既に固くなっていた逸物を取り出した。
「こっちも……おねがい……！」
にちゃぁと淫靡な音を立てて脚を開き、彼女は俺のモノを求めてくる。
その要求に、答えないわけにはいかなかった。
俺は胸を揉みしだくのを続けたまま、ゆっくりと彼女の股ぐらへと挿入していく。
先っぽが入っただけでも奥へ奥へとうごめいていたスライムは、根本まで入りきってしまうと今度はねちっこく陰茎へと絡み付いてくる。
「あはぁ……ぜんぶ……入ったぁ♪」
うっとりと呟く彼女に対し、入れたばかりだというのに俺は余裕が無くなっていた。
既にいきり立っていた逸物を受け入れた彼女の女性器はぐちゅぐちゅとモノを責め立て、形を変え、絶え間なく快楽を送り続けてくる。
竿を撫で上げるような動きがあったかと思えば亀頭を刺激し、
カリを擦りながらも全体を強く締め付ける。
まさに魔性と言える快楽の波は彼をすぐさま限界へと押し上げるのに十分だった。
「もう……出る……！」
「いいよぉ……！ナカで出してぇ！！」
離さないとでもいうように液体部分が下半身に絡み付いたと同時に、溜め込んでいた快楽を一気に放出した。
「んはぁ……あついのがいっぱい……♪」
ドクドクと音を立てて放った精を、一滴も逃さないようにスライムがじゅるじゅると吸収していく。
やがてそれも終わると、ふぅとひとつ息を吐いた。
軽い倦怠感を覚えながらも彼女の方を見ると、蕩けた表情を浮かべていたがまだどこか上気したまま。
俺の身体を包む液体部分も離れる気配がない。
「もっと味わってくれるよね？」
にこやかな笑みでそう言うと、また陰茎への愛撫が開始される。
俺としては少し休ませてほしいところだったが、彼女のためだからと少し苦笑すると、再び襲ってくる快楽に身を委ねていった。
結局、俺は翌日の朝日が昇るまでの間、ずっと『贈り物』を堪能することになったのだった。
親魔物派領にある街では、魔王様が夫と初めて出会った日だとか、サバトがお菓子や媚薬なんかの売り上げを増やすために作った日だとか言われているようだが、実際のところは違うらしい。
昔とある反魔物派の国に愛の伝道師と呼ばれた聖職者がいた。
日々愛の大切さを説いていた彼は、ある時偶然出会った魔物と恋に落ちてしまう。
もちろん魔物を悪とする教会にとって、魔物との恋なんて以ての外。
密かに手紙のやり取りを続けていた彼も遂には教会に見つかり、捕らえられて処刑されることになってしまう。
その刑が執行されることになっていたのが2月14日。
当日になって、『裏切り者』の姿を見に集まった民衆、それに国王の前で彼がまさに首を切られようとしていたその時。
彼と恋仲にあった魔物が皆の前に現れる。
この魔物というのが実はかの魔王の娘リリスであり、彼の処刑に怒った彼女は当時まだ独り身であった国王にダークマターを『贈り』一件落着。
めでたくその国は魔界化し、二人も結ばれて思う存分愛し合う毎日を送るようになったそうな。
それ以来記念日となったこの日は、カードやダークマターを模したチョコレートといった贈り物で日頃の感謝を形にして表すようになった。
そうして愛を誓い合った男女がイチャイチャラブラブする素晴らしい日、それがバレンタインなのだ、と―――
私が聞いたところによると、大体こんな感じだった。
――――――――――
ここは私の住む街にある教会。
その中に設けられている講堂で演壇に立ち、説教をしていたダークプリースト―――レミナさんは話を終えてふぅと息をつき、聴衆へと視線を向ける。
堕落神の教えを説くここでは一般的に知られる『教会』とは違い、人だけでなく魔物も訪れる。
バレンタインデーというイベントを明日に控えているせいもあってか、今日はいつもより多くの女性、特に魔物が集まっているようだった。
一番前の席で目を輝かせているのはアリスちゃん。ふりふりと楽しげに尻尾を揺らしている姿が可愛らしい。
その何席か後ろにはリザードマンとデュラハンの二人組。意中の男性のことでも想っているのか、二人とも顔が赤くなっている。
出入口付近の席にいる私の隣には、妊婦さんなのだろう、お腹の膨らんだラミアが穏やかな表情で座っていた。
皆どこかそわそわとしていて、そしてどこか……嬉しそうだった。
そんな彼女たちを眺めて、レミナさんは満足げに頷いた後、さて、と口を開く。
「今日の説教はこれで終わりです。
明日は身近な人に感謝する大切な日。
皆さんも最も近しい隣人に感謝する気持ちを忘れないようにしましょう」
ゆっくりとした口調で言い終え、持っていた本をポンと閉じると、そこでにこやかな笑みを浮かべて続けた。
「もちろん愛もね♪」
この時周りにいた魔物たちが一気に色めき立ったことは言うまでもない。
「レミナさん！」
ありがたいお説教も終わり、楽しそうに話しながら帰る人たちをかき分けて、私はレミナさんに声をかけた。
彼女は私に気付くと、扉にかけようとしていた手を離してこちらに振り返る。
「なんでしょう、メルティさん」
先程とはまた違った優しい表情をして私の名前を呼ぶ。
私がこの教会にちょくちょく通うようになってから何度か一緒に話をしたことがあったので、互いの顔も名前もよく知っていた。
私みたいなスライム種―――レッドスライムが教会を訪れるのも珍しいので、すぐに覚えてもらえたのだ。
「あの……相談したいことがあるんだけど……いい？」
「ええ、いいですよ。何でも仰ってくださいな」
私が遠慮がちに切り出すと、レミナさんは快く承諾してくれた。
もしかしたら聖職者としては当然だと言われるかもしれないけれど、その心遣いが嬉しかった。
それでも、言い出すのが恥ずかしくて結局言葉がとぎれとぎれになってしまう。
「えっと……その、私、あの人に何を贈ればいいか……迷ってるの。
いつもありがとう、って気持ちを伝えたいんだけど……」
「旦那様への贈り物ですね。それでしたら……
シンプルに手紙やカードなんていうのはいかがですか？
ただ文字に表すだけでもちゃんと気持ちは伝わると思いますよ」
その手のことは心得ているとばかりに教えてくれるレミナさん。
確かに簡単でよい方法だが、ひとつ問題があった。
「それも考えたんだけど……私、字書けないのよね」
私の身体を見てみる。
液状で軟らかい私の手ではペンを掴めても文字を書くのが難しいのだ。
必要な時は夫に代筆してもらうので書き方を覚えようともしなかったけど、まさかこんなところで困るとは思ってもみなかった。
「そうでしたか……
では、大体こんなものを渡したいというものはありますか？」
「うーんと、お菓子ならきっとあの人も喜ぶと思うんだけど……私、料理もできないしなぁ……それにあの人の方が料理がとっても上手だし」
彼はこの街のとある小さなレストランで働いている。
下働きとは言え時には厨房を任されることもあるくらいだ、そもそも料理を作る必要のない私に出る幕なんてなかった。
「えぇっと……そうですね、となると……」
さすがのレミナさんでも頬に手を当ててすっかり考え込んでしまっている。
カードもチョコも駄目となると渡せるものも限られてくるに違いない。
やっぱり私には無理か、と思うと少し悲しくなってくる。
折角の記念日なので何か特別なものを贈りたかったけれど、しょうがない。
諦めて市販品でも買おうかと思ったその時、唸り声を出していたレミナさんが何か思い付いたようにふっと顔を上げた。
「メルティさん、明日の日中は旦那様は家にいらっしゃいますか？」
「いいえ。お仕事に行くから多分夕方まで帰らないと思うけど……」
「そうですか。それは好都合です。ふふふ……」
私が答えると、レミナさんはいつか見たようなにこやかな笑みを浮かべた。
恐らく他の人が見たら口を揃えてこう言うだろう。
『悪そうな笑み』と。
＜次の日＞
夕方の時間帯も少し過ぎて、茜色をしていた空が紫に染まってきた頃。
レンガ造りの道に家が立ち並ぶ景色の中を、俺は一人家路についていた。
日が暮れるのも早いためか通りには人は少なく、夜の魔物がたちがちらほらと見えるばかり。
とはいってもそちらの数も普段よりずっと少ない。
それはきっと、今日があの祝日だからだろう。
バレンタインデー。
今日はそんな言葉を嫌でも思い付くような日だった。
俺が働いている店には普段以上に多くのカップルが訪れ、こっちが恥ずかしくなるくらい仲睦まじげな様子を惜しげもなく見せつけていた。
そうでなくとも朝から街中にどこからか甘い匂いが立ち込めていて、嗅いでいるだけでもクラクラしそうだった。
男女が愛を誓い合うというこの日。
どうやら魔物たちにとってもビッグイベントになっているようだ。
そういえば、とふと思い出す。
うちでも朝から彼女が上機嫌だった。
もしかすると俺のために何か用意してくれているのかもしれない。
となると何を作ったんだろう。どんなものだろう。
お返しは何がいいだろう。
そんなことを考えていると思わず頬が緩んでしまう。
自然と帰る足取りも軽くなり、それなりに長い道のりのはずが、気が付くと我が家の前へとたどり着いていた。
期待に胸を高鳴らせながらも恐る恐る扉へと手をかける。
ただいま、と言いながら開けると、途端に外以上に甘い香りが鼻腔をくすぐった。
いや、甘酸っぱいと言った方が正しいだろう。
店でも嗅いだことのあるこれは恐らくイチゴ、つまりはストロベリーチョコだ。
貰えるとしたらカカオチョコレートだと思っていただけに、少し意外な気がした。
その香りに、誘われるようにしてふらふらと居間へと入っていく。
その時、俺は知らなかった。
そこに予想外の光景が広がっていようとは。
「お……おかえりなさい、あなた」
そこにいたのは紛れもなく彼女だった。
照れ屋な彼女は時おり視線を逸らしながら話す。
そう、たしかに彼女だが……
「あの……バレンタインのプレゼントなんだけど……」
恥ずかしがっているのだろうか。
彼女の顔は真っ赤に、否、ピンクに染まっていた。
何故なら……
「私が……プレゼントなの」
全身をストロベリーチョコレートに 覆われていたからだ。
「…………」
「あ……嫌い、だったかな……？」
「いや、そんなことない。むしろ垂涎もの」
スライムだからこそ成せる技とでも言うのだろうか。
全身をチョコレートでコーティングしたその姿はきっと他の魔物には真似できないに違いない。
思いも寄らなかったことだけに驚きも、そして嬉しさもひとしおだった。
そんな俺に気付いて、彼女はもじもじと俯かせ気味だった顔をふっと綻ばせた。
「えへへ……よかった。
気に入ってくれたんだね」
「あぁ、もちろんだ。
俺が一番好きなものを贈られて喜ばない訳がないだろ？」
「一番好きなもの……？」
一瞬きょとんと疑問符を浮かべたが、
すぐに意味を理解したようでまた照れくさそうに微笑む。
こんな風に表情豊かなのが可愛らしい。
「それじゃあ折角だし、さっそく味を見てもいいかな？」
そう口に出して聞いてみる。
味を見るとは言ってはいるが結局は我慢しきれない、そういうことだ。
彼女の方もそれを察していて、うんと一つ頷くと身体を床に横たえ、こちらに手を広げて言った。
「召し上がれ♥」
その言葉に、グッときた
次の瞬間には彼女を押し倒していた。
「ふふ……あなたぁ……♪」
恍惚として上目づかいに見上げてくる彼女は、僅かに朱が差していて瞳を潤ませている。
発情しているのは言うまでもなかった。
街全体に溢れる魔力のようなもののせいもあるのだろうか。
俺の方も頭がぼんやりとして思考が定まらない。
くっきりとした目鼻立ち。
少し大きめな胸。
柔らかさを感じさせる四肢。
毎日見慣れているはずの彼女がこの上なく愛おしく思えてくる。
全身が桃色をしているのも、なんだか彼女が淫乱なスライムになってしまったようにも思えて欲情をそそった。
「ねぇ、はやくぅ……！」
そう懇願する姿に堪らず顔を近づけ彼女の頬に舌を這わせると、ひゃん、と可愛らしい声を上げる。
それと同時にストロベリーチョコの甘酸っぱさが口の中に広がる。
おいしい。
そう口に出すと彼女はちょっとはにかんで心底嬉しそうに笑顔を見せる。
また彼女を味わおうと二度、三度となく、何度も繰り返し舐め上げる。
その度に感じているのか、ビクビクとうち震えているのが分かる。
そのうちに頬だけでは飽きたらなくなり、震えるのに合わせてぷるぷると揺れていた胸元の果実へとむしゃぶりつく。
いやらしく勃起している先端を舐りながら
空いている手でもう片方を揉みしだくと、手に吸い付くような柔らかな感触と共に先程よりもほのかに甘味の増した汁が口の中に溢れてくる。
「ん……！む、胸ばっかり……弄らないでよぉ……！」
少しむくれた顔でそう抗議する。
俺は一旦口を離してごめんごめんと言いつつも手を休めることはしない。
しかし、ここまでしていると当然俺の下の方も苦しくなってくる。
それに気付いていたのか、彼女は身体の液体部分を器用に使ってズボン、そして下着を脱がし、既に固くなっていた逸物を取り出した。
「こっちも……おねがい……！」
にちゃぁと淫靡な音を立てて脚を開き、彼女は俺のモノを求めてくる。
その要求に、答えないわけにはいかなかった。
俺は胸を揉みしだくのを続けたまま、ゆっくりと彼女の股ぐらへと挿入していく。
先っぽが入っただけでも奥へ奥へとうごめいていたスライムは、根本まで入りきってしまうと今度はねちっこく陰茎へと絡み付いてくる。
「あはぁ……ぜんぶ……入ったぁ♪」
うっとりと呟く彼女に対し、入れたばかりだというのに俺は余裕が無くなっていた。
既にいきり立っていた逸物を受け入れた彼女の女性器はぐちゅぐちゅとモノを責め立て、形を変え、絶え間なく快楽を送り続けてくる。
竿を撫で上げるような動きがあったかと思えば亀頭を刺激し、
カリを擦りながらも全体を強く締め付ける。
まさに魔性と言える快楽の波は彼をすぐさま限界へと押し上げるのに十分だった。
「もう……出る……！」
「いいよぉ……！ナカで出してぇ！！」
離さないとでもいうように液体部分が下半身に絡み付いたと同時に、溜め込んでいた快楽を一気に放出した。
「んはぁ……あついのがいっぱい……♪」
ドクドクと音を立てて放った精を、一滴も逃さないようにスライムがじゅるじゅると吸収していく。
やがてそれも終わると、ふぅとひとつ息を吐いた。
軽い倦怠感を覚えながらも彼女の方を見ると、蕩けた表情を浮かべていたがまだどこか上気したまま。
俺の身体を包む液体部分も離れる気配がない。
「もっと味わってくれるよね？」
にこやかな笑みでそう言うと、また陰茎への愛撫が開始される。
俺としては少し休ませてほしいところだったが、彼女のためだからと少し苦笑すると、再び襲ってくる快楽に身を委ねていった。
結局、俺は翌日の朝日が昇るまでの間、ずっと『贈り物』を堪能することになったのだった。
12/02/16 02:41更新 / リテラル