読切小説
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小説家 郊外の魔境に行く
僕の名前は岸谷弘彦、小説家だ。今回は、またいつもの喫茶店で担当とくだらない打ち合わせをすることになった。勿論、僕のアシスタントである『キマイラ』・・・リヴィ、リオ、プシー、ネーラも一緒だが。

「ん? なんだ、矢部君。君、ずいぶんと身なりが良くなっているようだがどうしたんだ?」

「いやー先生、おかげさまで、私先日から『奇怪! 都市伝説を追えッ』っていうコーナーのチーフリーダーに抜擢されましてねー! それもこれも、リヴィさんたちに取材しに行ってくれた先生の賜物って訳ですよ!」

おべっか使いやがって、実際はこれっぽっちも感謝なんてしちゃあいないくせに・・・大体、そのコーナー、本当に成功するのか? 大体、名前でもう三号雑誌のコーナーですよーって匂いがプンプンするんだが・・・。

「全く。君は相変わらずすぐ本題に入らないヤツだな君は、あれだろ? 『彼女たち』の時みたいに僕に取材して来いって言うんだろう?」

「い、いやだなぁ〜〜ッ、そんな訳ないじゃあないですか! あくまで僕は先生の『リアリティー』の追求のお手伝いができればな〜〜と」

「目を逸らさずに言えーーーッ!」

<包帯屋>

・・・・結局、あのくそったれな担当に言われるがまま、来てしまった・・・確か噂は『夜眠っている間に家族内の女性が忽然と姿を消す』というものらしい、確か、郊外の一軒家が怪しいとか言われてたっけな・・・ま、この取材の『経験』が作品にリアリティーを生むのなら、案外悪くないと思って準備のために来たんだ・・・・決して! あの担当のためだとか、三号雑誌が潰されたくないからとかの理由では決してない! あくまで『作品のリアリティー』のため! 読んでもらうためなのだッ!

「それで・・・・弘彦。何で包帯屋なんかに来たんだ」

今はリヴィの人格であるキマイラが、そう聞いてきた。

「僕は取材の時万事に対応できるように準備してから行くことをモットーにしていてね。君の時のお香やバイブもそうさ・・・・今回の噂の切り口から察するに・・・魔物娘の仕業だな、それも『ヴァンパイア』の」

その言葉に、リヴィも合点が行ったように深く頷いた。

「ここの包帯屋・・・医療用の包帯とは別に、『マミー』のものと同様の包帯も売られていてね、『マミー』の包帯は、快楽を抑制する作用が非常に強いと聞く。まさに、ヴァンパイアにはうってつけという訳だ」

「・・・・・さすが、お前は聡明だな」

「おだてたってなにもではしないよ? これはただ小説の『リアリティー』のためだからな・・・店主、『マミーの包帯』を二人分貰えないか?」

「はぁいっと・・・二人分ですね。はい、どうぞ」

「ありがとう。しかし、買う側のこちらから言うのも申し訳ないが・・・この包帯、効果はあるんだろうな?」

その言葉に、青年はにっと笑う。

「そりゃ勿論。うちの『シロ』さんの包帯はそんじゃそこらのマミーのものとは段違いですから、それに、私も試してますから副作用もナシ! 効果も実証済みです」

「はぁあ〜〜ッ? マミーの包帯を自分で試すなんて、物好きもいたもんだな」

「その物好きのおかげで、私はこうやって儲かっているし、あんたはこうやって助かってる。『ギブアンドテイク』ってヤツですよ」

「なるほどな、その『シロ』さん・・・今度、取材させてもらってもいいかな?」

「ええ・・・ネロさんもいますし、結構アンタ好みの『キャラクター』だとおもいますよ」

「ふっ・・・是非させてもらうよ。包帯ありがとう」

「う〜ぃ。毎度あり」

<郊外・草原地帯>

「つ〜か・・・なんでこんなところまで来たんだよ? 『包帯』はもう貰ったんだから、取材に行けばいいんじゃねーの?」

「いや。まだ足りない、『全員』が『無事に』帰ってくることが大切なんだ・・・だから『ボディーガード』を雇う」

「『ボディーガード』? おい、私たちじゃあ不安か?」

「いや、そんなことはないが、まだ押しが弱い、ここは無事に帰るために『プロ』のボディーガードが必要なんだ・・・・おおっと、ここだ。おーい、仕事を頼みたいんだが」

家屋から二つ返事で出てきたのは、へらりとした笑みを浮かべている青年と、人虎だった。どうやら彼らは何度が弘彦のボディーガードを依頼されたことがあるらしく。顔見知りだった。

「弘彦。またボディーガードの依頼か?」

「ああ、ルヴァ、頼めるかい? 詩貴君も」

「勿論ですよ。私らは報酬を払っていただけるんなら快く仕事いたしますよ。ねぇルヴァさん?」

「ああ」

「決まりだ。四人も、それでいいかい?」

「・・・・他の人格からはOKが出てるぜ・・・・ってか、オマエNOって言っても絶対に意見を曲げないだろ?」

「・・・・・よーくわかってるじゃあないか」

<郊外>

彼らは、件の怪しい一軒家の前にいた。そこは最後に少年が入ったっきり、ぱたりと音沙汰がないという。

「ここか・・・行くぞ?」

「はーい」

「ふ、足を引っ張るなよ? 龍」


「そちらこそだ。虎」

扉を開き、四人は闇がうごめく暗闇へと足を踏み入れた・・・。

闇に目が慣れてきたころ、音、次に、攻撃。その意思を感じ取ったのか、いち早く人虎が反応し、迎撃に移った。

「っ?!」

「どうした? ルヴァさん?」

「こ、これは・・・『インキュバス』ッ?!」

弘彦以外の表情が驚愕のそれに変わる。

「なるほどな。君、母親を探しにやけになってここに来たって言う夜霧想だな? 経緯は知らんが、インキュバスとなった君を見るに、ヴァンパイアの仕業なのは一目瞭然だな。身体能力が上昇しているが、彼女たちには到底及ばないな。・・・っと、そんなことより・・・おいおいおいおいおいおいおいおいおい、何勝手に攻撃してくれてんだ? 僕たちはただ取材に来ただけなんだ。通してくれ」

「・・・・わかった。けど、家族には手を出さないでね」

「そんなことはしない。小説家じゃなく、一人の男として、約束する」

そして四人は想に連れられ居間に連れて行かれた。その瞬間に察知する。圧倒的な負の気配を。

「どうした・・・? 想、今日は客人が多いじゃあないか」

「はい・・・彼らが取材をしたいと申し出てきて・・・」

「全く。君の母親が戻ってきて幸せの絶頂だというのに、難儀な客だな」

「難儀な客で悪かったな。だがヴァンパイア、お前に取材しない限り、僕は帰らないし連れ出されない。まあ噂の正体はもうわかったことだし、ちょっと話を聞いたらお暇するがね」

それを聞いたヴァンパイア・・・シヴァの表情が怒りを孕んだものに変わる。

「ほう・・・・貴様、私の主人をコケにした上、不躾に取材を申し出るとは、身の程をわきまえろッ!」

「いや・・・残念ながら僕は『戦えない』戦うのは彼さ・・・な? 詩貴君」

詩貴はやれやれとげんなりした表情で出てくると、

「はぁ・・・私と少し戦ったら、気が収まるんなら、どうぞ」

「おもしろい・・・やってみろ、人間。このシヴァに対してッ!」

そこからは、半分人間を超えたんじゃあないかと思うほど速い詩貴とシヴァの激闘が繰り広げられた。凶悪な彼女の強力を彼は柔の拳でいなし続けた結果、双方負傷ゼロという驚異的な成果を挙げたのだ。そして、何故か彼女はさらに激怒するどころか弘彦たちを気に入り、談笑し、彼らは一軒家を後にした。

彼女たちから聞いた話によると、最初はただ『貴族』として同属を増やしたかっただけだったのが、想のように悲しみを抱えているものがいると知ったとたん、強い罪悪感に襲われ、彼女たちを呼び戻し、ここで生活するようになったそうだ。当然彼の母親は帰ってきた。どうやら母子家庭で、彼女が長く家を空けていたのは、世界中を回っていろんなことを想に伝えて喜んで欲しかったからだという。なので悲しんでいる彼を見た時は自分を責めたらしい。今は他の『貴族』たちと自由気ままに一緒に暮らしているらしい、彼も幸せなようだ。彼は始めてあの屋敷に入ってから数日でシヴァの夫となったらしい、だから気が立っていたのかもしれないな、少し失礼なことをしてしまったかもしれないな。

数日後、彼はまたいつもの喫茶店で担当を待っていた。アシスタントである彼女たちは家にいる。時間ちょうどにニコニコしながらやってきた担当に、こう告げる。

「いや〜堂でした今回の取材! いいリアリティーが感じられたでしょう?」

「ああ、凄く充実したものだったよ・・・それより今度取材したい人物なんだが・・・『シロ』と『ネロ』って名前でね・・・」

変人な小説家は、今回お留守番だったプシーとネーラになんの土産を買って帰ろう・・・とりあえず漢方でも飲んでおこうかななどと考えながら、彼は言葉をつむぎだした。
15/03/14 00:18更新 / クロゴマ

■作者メッセージ
6作目です。結構詰め込みすぎちゃったかもしれませんが、ご容赦ください。
あらすじの通り、どこかで見たことがある人たちがちょくちょく出ています。

いやーやっぱりバトルシーンって難しいですね、うまく書ける人がうらやましいです。

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