読切小説
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アフィリエイト記事を馬鹿正直に信じた結果〜フェニックス√〜
…皆さんは、不死鳥は好きだろうか。この俺「アケミ シュウゴ」は、大の不死鳥好きである。
例えば小学校で作る家庭科のエプロンや給食袋は絶対フェニックス柄だったし、贔屓のスポーツチームは不死鳥がモチーフのマークだった。フェニックス題材の漫画はどんなに古くても全巻読破し、あるゲームでは不遇なフェニックスを救うべく単騎で裏ボスを撃破した事もある。あげく不死鳥が関係ないコンテンツさえ「フェニックス」や「不死鳥」という名前がついているだけでもそれとなく追いかけている程だ。こんな感じで、俺は不死鳥好きエピソードにこと欠く事はない。
…今日はSNSで、「フェニックス」を単語検索している。本当なら毎日検索してもいいのだが、新しい情報を確認するなら数日に一回確認すれば十分だ。

…おっ、このソシャゲ不死鳥モチーフの装備来るのか…でも聞くところガチャ渋いんだよなぁ、とりあえず後でインストールしてみよう。容量足りるかな?

…これは…不死鳥モチーフのアクセサリーだ。
個人の作家さんが作っているのか…滅茶苦茶かっこいいし、4桁後半ならギリギリ手が届きそうだ。出品されるイベントをチェックしとこう。

…おっ、このバンド新作出したのか〜、相変わらず神曲だな〜…バンド名以外不死鳥要素ないけど。


決して多くはない供給。しかし、これが俺にとっての心のオアシスなのだ。SNSを使えば、世界中から推しの供給を受ける事が出来る。俺の好きなものを作り続けてくれる人々に感謝だ。
…「最新」のトピックを遡っていき、前に見た場所…数日前の投稿まで、俺は一通り見終えた。
しかし、前見た辺りの数個下の投稿に、見覚えのない投稿があった。それもそのはず、その投稿は公開範囲を限定していたようだ。しかし、SNSのバグで偶然公開範囲外の俺にも投稿が見えてしまっていた。
タイトルは「フェニックスに会いに行く方法」。本文は無く、タイトルと同名のサイトリンクか貼られているようだ。
…何かのゲームの攻略情報だろうか、と俺は思った。幾ら何でも現実でフェニックスなんているはずはないと考えたからだ。
しかし俺は不死鳥やフェニックスと名のつくコンテンツは全て見て回る男だ。ひょっとしたら新たな推しの供給に出会えるかも知れないと、心を躍らせながらリンクをクリックした。
…そして俺は絶望する。
「ページは表示できません」のエラーメッセージ。それは、何らかの理由でサイトが消されてしまった事を意味する。俺は、知らないところで供給を逃してしまったのか…!
…しかし、俺はこんな事では諦めない。消されたページを見る方法ならある。俺はリンクをコピーし、とあるサイトを立ち上げる。
そう、ウェブアーカイブだ。SNS上で魚拓取り等に使われるアレである。これを使えば、消された過去のサイトを見る事が出来る。俺は適当に日時を1年前に指定し、リンクを検索欄にペーストする。
…長い読み込みに固唾を見守っていると、ページがゆっくりと、帯状に少しずつ表示される。どうやら成功したようだ。表示されたのはどうやらよくあるアフィリエイトサイトらしい。しかし、書かれている内容が普通ではなかった。


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★貴方は、フェニックスについてどれくらい知っていますか?不死身だったり、血液や羽根が秘薬になったりする、伝説上の存在。概ね、その理解で正しいです。

★ これからアナタが彼女達に出会う為の方法をお伝え致します。でも、もし貴方が下心から彼女達に会いに行こうとするなら、絶対に辞めてください。平穏を乱さないであげて下さい。
そうした人は、ここから下の情報には辿り着けなくなっています。心からフェニックスを愛する人、またはどうしてもフェニックスに会わなければならない人だけ、この下に進んで下さい。

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…俺は理解できなかった。まるで、あたかもフェニックスが存在するような書き方だ。「彼女達」という書き方からすると、どうやら女性であるらしい。
…もし、本当に居るのであれば。
俺は推しに会いたい。不老不死なんて望まない、ただ、少し遠くから彼女達を眺められたら良いのだ。
…それが彼女達の平穏を乱す行為になるのなら、俺は潔く身を引こう。
俺は自分がフェニックスに会うべき人間なのか、このサイトに判断して貰う事にした。
祈るような気持ちで、俺はページを下にスクロールする。

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★貴方は、フェニックスを心から愛しているようですね。それでは、彼女達と会う方法をご説明します。
初めにお伝えしなければなりませんが、彼女達と会うには危険なリスクを冒す必要があります。最悪命を落とすかもしれません。
結論から言うと、フェニックスは火山地帯の奥で暮らしているので、貴方には活火山を登頂して貰う必要があります。そこで、高度な登山技術や、そこで危険を避ける方法を熟知している事を前提に話を進めます。

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…どうやら、俺はサイトに認められたらしい。
しかし、その内容の方が問題だった。俺は山登りは素人だし、活火山なんか危なっかしすぎる。幾らフェニックスの為でも、命を捨てるような真似はできない。
…しかし、それは今の俺だったらの話だ。今が素人なら鍛えれば良い。推しの為とは言え命を懸けるのは躊躇われるが、人生を懸けるのは微塵も惜しいとは思わない…そういえば、最近登山サークルが新メンバーを募集していたな。早速応募してみよう。
…このページの続きを見るのは、俺が登山をマスターしてからだ。

そこから数年間、俺は鍛えに鍛えまくった。
スタミナと筋肉をつける為に、毎日ランニング5キロとお寺の境内までの階段を欠かさず登り降りした。
本を読んで山や登山の知識について調べ、道具の使い方や緊急時の行動に関する講習会を繰り返し受けた。
実際の登山では、低い山から少しずつ挑戦し、習った事を少しずつ実践に移した。まずは道のりが整備された山に繰り返し登って経験を積もうとしたが、それでも何度か危険な目に遭った。
このままではダメだと思い有名な登山家に弟子入りを志願し、色んな山に連れて行って貰いながらあらゆる知識を吸収した。天気の見方、ルートの選び方、危険の避け方…師匠が徐々に俺を認めてくれるようになった頃には、俺はかなり山登りの経験を積む事が出来た。
師匠は他の登山家に俺を弟子として紹介してくれるようになった。
幸運な事に、登山家達からはとある活火山で火の鳥みたいなものを見かけたという情報を聞く事ができた。その山は数年前、有名な登山家が行方不明になったとニュースになった場所だ。
やがて俺は師匠の助力無しで登山に挑むようになり、そんな俺を師匠は一人前と認めてくれた。
俺は何度か死にかけながら危険な山で実績を積み、界隈ではまずまずの有名人になった。

…俺は遂に、フェニックスがいると言う噂の火山の単独登山を決行する事にした。


…………

当日の天気やルートの確認等を数ヶ月かけて繰り返しチェックし、いよいよ決行前夜というところまで来ていた。
…俺はここ数年間、御守りのように保管していたアーカイブのページを開く。ページのあの先は、数年間で一度も見ていない。登山の技量が充分になったと感じた時、もう一度そのサイトの先を見ようと決めていたからだ。
…しかし、アーカイブのページには何も表示されなかった。どうやらアーカイブからページが古くなりすぎて消えてしまったようだ。
どうしたものか。これでは、肝心のフェニックスに出逢えた時に何をして良いか分からないままだ。
…不安な気持ちを抱えたまま、当日の朝を迎えた。


…………

幸い当日は雲一つない快晴だった。火山活動も、今は落ち着いている。数ヶ月間タイミングを測った甲斐があった。
火山の中腹に開けた場所があったので、途中まではヘリコプターで移動する事にした。その代わり、降りる場所の付近は殆ど岩壁のようになっている為、迂回して比較的登りやすい斜面を行く予定だ。
予定地点に降り立ち、俺を下ろすとヘリは去っていった…ここから先は一人だ。俺は気を引き締める。
…幸いな事に、俺が行く予定のルートには先人が残した金具付きのロープが打ちつけられていた…有り難く使わせて貰おう。かと言って過信すると金具が抜けたり折れたりするので過信は禁物だ。俺は自分で新たなロープを打ちつけながら、古いロープをルートの頼りにに道なき道を行く。比較的登りやすいと言っても断崖絶壁でないだけで、急斜面には変わりない。油断すれば足場が崩れたり滑落する恐れもある。最新の注意を払って進んだ。
…やがて傾斜も緩くなり、遠くに火口が見えてきた。あの火口の側がゴールだ。空気計は正常だ、どうやら毒ガスの心配はないらしい。天気もまだ変化の心配はなさそうだ。天気予報でも問題ないと言っている。安全を確認した俺は全身する事にした。
…先に進むごとに、崩落している箇所が増えてきている。足元に気を付けないとヤバいだろう。…そう思ったとき、数メートル先の地面がバラバラと崩落した。規模は小さいが、体重をかけると危ないかも知れない。俺はその地点を迂回するように進んだ。
そうして進んでいるうちに、火口が近くなってきた。…幾ら火山活動が安定してると言っても、火口に近づくのは自殺行為だ。この辺りが限界だろう。長く留まるのも推奨されない、山の状況は刻一刻と変化する。今安全な場所がずっと安全とは限らない。
つまり、フェニックスとの邂逅のチャンスは、せいぜいここから数十分が限度だ。状況によっては、更に短い時間での退避もありうる。
…人事は尽くした。後は天命を待つのみだ。


…………

…10分が経過した。フェニックスは現れない。
上空に、僅かだが雲が見える。雲が増えてきたら、天気が怪しくなる前に下山を開始しなければならない。


…………

…15分が経過した。依然何者かが現れる気配はない。やはり雲が増えてきている、このまま雨が降れば、足場が悪くなって死活問題だ。それでも、俺はあと5分だけ粘る事にした。

…………

…20分。もう諦めて帰ろうとした瞬間、火口付近の空を飛ぶオレンジ色のものが見えた。
……あれが…!!

…俺は思わず見惚れてしまう。フェニックスは本当に存在したのだ…!遠すぎてはっきりした姿は視認できないが、燃える翼を広げ飛ぶ姿は、この世のどんな存在より美しいと感じた。
…よく見ると、フェニックスはこちらに近づいて来るようだ。

「お〜い!!!」

俺は手を振る。空を見上げたまま、思わず数歩踏み出す。しかし頭上に気を取られていた俺は、足元への警戒を疎かにしていた。

ガラガラガラッ!!!

足元が音を立てて崩れる。体勢を立て直そうとしたが、間に合わない。
俺は急斜面を滑落していく。途中、硬い岩に何度も身体中をぶつけた。
…滑落、行方不明、死亡。
そんな単語が頭をよぎる。俺は意識を失った。



…………

意識を取り戻す。
俺は平らな地面に戻ってきた事に気づいた。
どうやら、最初にヘリで降りた場所に戻って来たようだ。

「…あ、目は覚めた?」
「よかった!君が滑落したと聞いた時は、本当に肝を冷やしたよ…!」

女性と男性の声。
振り返ると、そこには驚きの人物がいた。
一人は、腕が燃え盛る翼になっている半人半鳥の女性。脚が髪の色や毛の色も彼女から迸る炎の色を映したかのようで、太ももより先の膝上くらい、鳥のような脚の付け根からも同じ炎が出ている。そして、この目の覚めるような生命力に溢れたオレンジ色の体色。間違いなく先程滑落する前に遠くで飛んでいたフェニックスだろう。まさか目の前で見れるとは思わなかった。
…そしてもう一人だが、なんとあの行方不明になっていたはずの有名登山家だった。確か彼はこの山で行方不明になっていた筈だが、一体なぜ…!?

「私の事は知っているようだね。そして彼女は…」
「ロワナエ。あなたの姑になる予定、よろしくね。」
「おいロワナエ、話をすっ飛ばしすぎだ。そんな事いきなり言われても、彼は困るだろう。」
「…え?えっ?」

混乱する俺に、二人は説明してくれた。
有名登山家…彼をAさんと呼ぼう。Aさんは数年前、とあるアフィリエイトサイトを見てフェニックスが実在する事を知った。フェニックスの大ファンだった彼はこの山の単独登山に挑むも、途中で滑落してしまう。俺が道中辿ったロープは彼が残してくれたものらしい。
…その後、偶然フェニックスに助けられて二人は恋に落ち、二人はつがい…要するに夫婦になった。その後すぐ、ロワナエさんは子供を授かった。懐妊までに時間がかかる魔物の中でもフェニックスは輪をかけて長いらしく、これは異例中の異例だったそうだ。二人は喜んだが、問題になったのはお腹の子の結婚相手だ。本当なら魔物の存在がもう少し一般的になる頃に子を授かるつもりだったらしい。だが今の世界では魔物である事がバレたら大騒ぎになるし、それだと婿探しが難しくなってしまう。このままでは娘が行き遅れてしまう…と子煩悩な二人は考えた。そこで、前にAさんがロワナエさんと出会うきっかけになったサイトを利用する事にしたそうだ。あのサイトを見た人にこの山に来て貰い、まだお腹に居る娘の許婚になって貰おうとしたようだ。そこであのサイトのリンクを匿名アカウントで、信頼できる登山家仲間にだけ送信したそうだ。

「…後から気づいたんだけど、あのサイトは僕がロワナエとくっ付いた時点で削除されたみたいなんだ。どうやら最初の一人しか、あのサイトは見れないらしい。…それにしても、SNSのバグで偶然リンクを見つけた君が、ウェブアーカイブで中身を確認した上に登山家になってまでこの山を訪れるとはね…君のフェニックス愛には畏れ入った。」
「うん、あなたにならこの子を任せられる。」

Aさんは感心したように、ロワナエさんはお腹の子を撫でながら言う。
…どうやら俺は、フェニックスのお腹の子の許婚になったようだ。いや、俺の親は関わってないから許婚とは違うのかもしれないが。
他でもないフェニックスと登山家の大先輩からのお願いな上、フェニックスの嫁になるチャンスな以上、俺に断る理由はない。ただ、お腹の子が俺との結婚を嫌がったり、別の人を好きになったりしたら、その時は彼女の意思を尊重して欲しい、と二人にお願いした。
…住所と連絡先を交換し、絶対公開しない約束の元3人で写真を撮らせて頂いた後、ロワナエさんにふもとまで送って貰える事になった。
去り際に、Aさんに一つ質問をした。あのサイトの後半、俺が読み損ねた部分には、一体何が書いてあったのか。
…Aさんは言った。
一つ目は、フェニックスが居る火山の位置。
二つ目は、礼節を尽くす事。礼儀などに詳しくなければ、尊敬する気持ちが伝わるように振る舞う事。
そして三つ目は…

「…愛を、伝えることさ。」


…………

登山家を辞めて十数年。
…フェニックスに会う目的を果たした俺は、登山より自身の身の安全を優先した。夫婦との許婚の約束の為、お腹の子より先に死ぬ訳にはいかなくなったのだ。今は街の外れで小さなアウトドアショップを営んでいる。店のマークは勿論不死鳥である、何歳になってもこれは譲れない。
…夫婦とは数年に一度連絡を取っている。彼らは生活スパンが極めて長いので、彼らにしてみれば数日のつもりが数年経過しているそうだから、やはり生物としてのスケールが違う。
そんな夫婦が、今日たった一年ぶりにわざわざ連絡をくれた。
…どうやら、彼らの娘がウチに来るらしい。彼女の名前はパルヴラ、今年で18になる。
彼女は、写真でしか俺の事を知らない。だから直接会って、結婚するかどうか決めるらしい。
…中年にして訪れた人生最大の岐路に、俺は浮き足立っていた。しかし全く予想してなかった訳ではない。いずれ訪れる日に彼女に失望されないよう、なるべく心身ともに若く保ってきたつもりだ。

「あの…すみません。アケミシュウゴさん…でしょうか?」
「!ああいらっしゃい…すまない、少しぼんやりしていたようだ。」
「えっと…私、パルブラっていいます。父と母からシュウゴさんのお話は聞いています…よ、よろしくお願いしますっ!」
「ああ、君が二人が言ってた娘だね。始めましてパルブラさん。」

初対面の男性を前にして、彼女は緊張しているようだ。緊張を和らげて欲しくて、俺は彼女の手を取った。

「ぴよっ?!///」
「…安心して、君を怖がらせるような事は何もしないし、嫌な所があったらすぐに直す。俺に失望したなら、君のお父さんとお母さんにその事を伝えて貰って構わないよ、君は俺を見定める権利がある。…もし、俺が君のお眼鏡に適うのなら、その時は…」
「ぴ…ぴ…///」
「僕を、結婚相手に選んで欲しい。」
「ぴ…………」

…彼は自身の魅力に全く気づいていない。山と大自然の危険によって鍛えられた肉体と精神力は引退して尚健在。そこに加齢による深みが加わった事で、彼は40代にして人間としての全盛期を迎えていた…つまるところダンディなイケおじになっていたのである。
そんな男に求婚され、多感なお年頃の魔物が耐えられる筈もない。

「ぴよ〜〜〜〜〜〜っ!!!///」

少女は顔を真っ赤にして卒倒する。
その後、彼が少女を慌てて介抱したところを押し倒され、即婚姻成立となったのは言うまでもない。
だが、例え生物の理から外れ永遠の時を生きる事になろうと、彼にとってフェニックスの為に人生を懸ける事は微塵も惜しいと思わないのだ。

人生全てを推しに捧げた彼は、心底幸福だった。
23/07/31 11:53更新 / 飢餓

■作者メッセージ
一日で(ほぼ)全部書いたシリーズパート3。
本当はサキュバス√よりこちらのネタが先に出来てました。
ストーリーがシリアスに偏りがちなので、シリアスからの脱却を目指し頭を極力空っぽにして書きました。登山パートは想像とノリと勢いで書いているので細かいことは気にせず、フレーバー程度にお読み頂けたなら幸いです。

ifルートは、あの時点では彼がサイトに嫌われる確率がゼロである以上、必ず情報に辿りついてしまうので存在しません。

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