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第05話 白金の夢魔(後編)
……生き、てる。

目が覚めた。覚めることが、できた。
「あっ、起きたのね!」
「リエル……?」
「司、おはよー♥」
リエルは僕を認めると、一直線に駆けてきて抱き付いてきた。
リエルの姿は『沼地のリリム』で、あの奴隷の衣装もそのまま。
肌と肌が触れ合い、その感触で理性が危うく飛びそうになる……
「司……おいしかったわよ♥」
あの矛盾した初夜のことは、キスの前も後もハッキリと覚えている。
僕も裸だし、やっぱりリエルに食べられてしまったんだろう。
「パン種が残ってないから、昨日の果物だけなんだけど――食べる?」



「操って犯させているのに抵抗が全く無かったのは嬉しかったかな。
 快楽のルーンも多めに刻んでおいて良かった」
ベッド脇の小さなテーブルにつき、軽食を摂る。
『軽い習慣性』のせいだろうか? もう、虜の果実を拒む気が起きなかった。
「僕、まだ生きてるよね?」
「……それは、考え方による、かもしれないわね」
尋ねると、リエルは体を離し、少し考え込んだ。
ちょっと寂しいかも。
「司は私に食べられちゃって、しもべにされたのよ。人間としては終わっちゃってるわ。
 でもね、それは私も半分同じ。私も司の味を覚えちゃって、忘れられなくなった……」
これがリエルの本気の一部なのだろう。唯一存在していたドアが、寄らずとも開いた。
髪も、いつもの金色に戻る。
「はい、魅了も人間に化けてた時のレベルにまで落としました――
 貴方は自由。逃げても追わないわよ?」

僕は愕然(がくぜん)とした。
魅了される前にあった『逃げたい』という感情が消え失せている。
リエルの本性を見ていたのに、あのどうしようもない欲望が湧き上がってこなかった。
そして――

リエルと離れたくない。

欲望と融合した感情は、完全にリエルから離れることを拒んでいた。
リエルの言う通り、僕は人間としては終わってしまっているんだろう……
「ほら、貴方は人間としては終わっちゃったのよ。このままインキュバスになるしかないわ」
リエルは、笑顔を向けた。可愛い。抱き締めたい。
その通りで言い返せない――あれ?
「インキュバス? 同族になるってこと? 干物じゃなくて?」
インキュバスってのは、そういう魔物のはずだ。
「干物? インキュバスになって、私に精を捧げ続けるのよ。
 教団が人間に何を吹き込んでいるのかは知らないけど、魔物娘は夫を大事にするわよ?」
サキュバスでもリリムでもなく――魔物娘が主語、か。
どうも、『人間ではなくなる』ということを定義の中に入れなければ、
魔物娘は殺人をしない存在であるらしい。
今までの話を総合すると、多分魔物娘はみんなリエルのように、人間を『食べる』のだろう。
「あ、そうそう。司に対して私は、一回たりとも嘘をついてはいないはずよ。
 私が『沼地のリリム』本人であることは隠していたけどね。
 『最近、初めて王魔界の外に出た』って予想も、自分の事実そのものなんだから」
思えば、スライムにも、門番のオークにも、
あの仲良しの精霊たちにも、そして僕を捕食したリエルにも、
今の結果から逆算したら、罠であった物資の運搬だってそう――悪意を、全く感じない。
……僕は、魔物娘が、リエルのことが、少しわからなくなってしまった。

種族がオスを捕まえる、遺伝子レベルの戦略だー! って言われたら、
それまでなんだけどね。



次に聞きたいのは、あの、その……交わりの時のことについてだ。
急に弱気になったリエルや極悪非道になった僕、それに疑問を抱かなかったあの状況。
『操って犯させた』とは言っていたが、あれは一体なんだったんだろうか。
いや、魔法をかけられたことだけはわかってるよ?
「それはね、この本なのよ」
「それは、魔法の教科書?」
「半分、当たりかな? これはサキュバスに昔から伝わる古い古い物語の本よ。
 私は、幼い頃から魔法を扱うイメージに、この物語の似た場面を重ね合わせているわけ。
 サキュバスのお姫様が、沼地の岩山に住む征服者に降伏の貢ぎ物として奴隷にされて、
 侵略の度に増える他の種族のお姫様たちと一緒に日々慰み者にされる物語で、
 私はこの話が好きなのよ」
沼地? 岩山? お姫様? 奴隷? 慰み者?
今までリエルから聞いたり聞かなかったりした、キーワードのオンパレードだ。
超能力なんて使えないし、悟りも開いてないのに、『嫌な予感がする』んだけど……
あ、【鑑定】があったね。
「王女として生まれた以上は、囚われの身で奴隷のように犯されてみたいじゃない。
 だから、現実にお話を少しだけ混ぜて、私を『囚われの姫』に、司を『征服者』にする、
 劇場のような状況をお互いに信じ込ませる魔法を習ったのよ」
要するに、僕だけじゃなくてリエル自身も、自分に操られた状態で交わっていたのか……
それにしても、凄く嫌な予感がするキーワードがまだ未解決なんだけど、どうしよう。
「もしかして、岩山に住んでるのって……」
……怖いけど、聞こう。
「もちろん、物語の岩山をなぞらえているに決まってるじゃない。
 周りだって、魔界化と沼地は関係ないわ。日々のガーデニングの成果よ」
……僕は、予想したままの恐ろしい結論が、現実であることを認めるしかなかった。

要するに、物語のお姫様の真似をしたくて侵略してるのか!

この世界の人類の敵は、侵略と物語をごっちゃにしてる、ただの色惚けた文学少女だった……
沼地もガーデニングの成果だって、一体何をやっているんだろうか?

ただ、物語そのものについては、あらすじを聞いたら少し印象が変わった。
読者がサキュバスということを考慮すれば、男性を悦ばせる方法を教える教科書であるし、
異種族間での協力の必要性とか、人間視点ですら感心させられる主張も多く存在していた。



「司、これ……」
リエルは、ピンク色をした金属製のアクセサリーを僕に渡してきた。
「何、これ?」
ただ受け取って【鑑定】すればいいのに、思わずこんな言葉を口にしてしまった。
中央に紅い宝石のようなものがはめ込まれたそれは、女性物にしか見えないほど優美で――
リエル用にしか見えなかったからだ。
「首輪よ。首枷かも」
……コメントに困る物だった。やっぱり。
「見た感じ、自分で着けられないような構造じゃない……よね?」
リエルは真っ赤になってうつむいた。
「最初の一回は、司に着けてもらう必要があるのよ。
 そうすれば、司が思うだけで私を魔力の鎖で縛ることができるようになるわ……♥」
その、恐ろしいまでに非常識な道具を僕に押し付けて。
「それ持たせて散歩しろとか言わないよね?」
「えっ、そう言うのが趣味なの?」
「そんなこと言ってない!」
必死の抗議も、どこ吹く風。
リエルは完全にサキュバスの世界に入り込んでいる。いや、元々サキュバスだけど。
モジモジと指に尻尾を絡めて、僕から目を反らす。
「私ね、司のこと貰っちゃったから、私のことも司にあげたい。
 私が司を魔法で弄ぶだけじゃなく、司が私を好きなように犯して欲しいの……♥」
リエルを、犯す。
さっきまでの交わりの記憶が浮かぶ。
「司のものに、して……」
そこまで言うと、リエルは僕に対して跪(ひざまず)いた。
指を絡めて祈るように手を組み、瞳を閉じる。
「リエル……」
つい、その名前を呼ぶ。
このチョーカーをはめたら、リエルは本当に僕の奴隷になってしまう。

僕の好きにできる。

その言葉が浮かんだ時、獣の慾が膨れ上がる。
留め金を外し、首輪を展開した。

リエルが欲しい。

僕は立ち上がり、リエルの側へ寄った。
白く細い首へ、チョーカーを近付けていく。
リエルは逃れようとはしない。
金色の髪をかき上げ、枷を首にかける。
カチッと音が鳴り、留め金も施錠された。

宝石が光り、金属部分と揃いのピンク色をした魔力の鎖が、その中から溢れ出る。
腰に、胸の上下に、手首足首に、リエルの要所要所に光の鎖が巻き付く。
鎖、といってもかなり細く、カギや財布用のチェーン程度の幅しかない。
それが、リエルを苛(さいなみ)み始める。
「んんっ……♥」
リエルは、艶を含んだ声でうめいた。
何かを感じるのか、オスを誘うように淫らに身体をくねらせる。
「はぁぅん……♥」
本性があらわになった。髪が白金に変わり、黒い角や翼や尾が現れる。
その、リエルの魔物たる部分にも鎖は絡み付く。
「くうっ……♥」
光の鎖は、夢魔をハムのように締め上げた。
生贄の肢体は絞られ、女性の曲線が強調される。
「あっ、あああぁぁぁぁぁんっ……♥」
限界まで締め上げられ、リエルは大きな快楽の声を上げる。
その声に応えるような輝きを放ち、魔力の鎖は霧散した。

「司ぁ……♥」
声で終わったことを確信し、リエルを抱き起こした。
そのままベッドまで運び、横にする。
「ありがとう……♥ 私、司のものにされちゃったんだね……♥」
……我慢できない。
あの痴態を、あの嬌声(きょうせい)を、あの芳香(ほうこう)を、自分のものにしたい。
「リエル……」
それだけを口にした。
次の瞬間、リエルに再び鎖が巻き付いた。
胸の上下と二の腕、そして手首を絡め取る。
「きゃん……!」
リエルは驚いて悲鳴を上げたが、状況を理解すると笑みを浮かべた。
「司、もう、襲っちゃうの……♥」
その声を受けながら服を脱ぎ、リエルの奴隷衣装も奪っていく。衣装は鎖をすり抜けた。
当たり前のことだが、鎖は僕が命じて出したものだ。

初夜の時の感覚を思い出し、リエルに口付けをする。
「ちゅう、むぅん……♥」
リエルも舌を伸ばし、初夜のそれより長く、長く絡む。
「ふはぁ……♥ 次は? 次は?」
上下に鎖で巻かれた胸が目に入る。
強調されたそれに目が釘付けになり、次をどうしようか、自分の慾と相談をしてみる。
「あはぁ……♥ でもね、犯される前に試したいことがあるんだぁ……♥」

次の瞬間、リエルの瞳が光を放った。

魔法だ!
反射的に鎖に力が入る。
「ああんっ!」
そのまま締め上げる。
「や、やめてぇ……」
鎖は光を放ち、リエルの肢体を淫靡に照らす。
「こ、降参! 魔法、使わないから、もうやめてぇ……」
苦しむリエルも色っぽい。
……もう少し締め上げて、立場をわからせよう。
「ほら、私、逆らえなく、なっちゃった…… もう、いいでしょ? 犯してよぉ……」
もがくたびにリエルの胸が波打ち、震える。
黒い翼を羽ばたかせようにも、鎖はそれにも絡み付いている。
「きつぅい……」
リエルは諦め、抵抗をやめて、締め上げられるままに、肢体をくねらせる。
その艶(なま)めかしさに、嗜虐心が煽られる。
「あうっ、あああっ、あああぁぁぁぁぁっ!!!」
リエルは一際(ひときわ)大きな悲鳴を上げると、尻尾を力無く垂らした。
そのさまを眺め、鎖をわずかに緩めてやる。

「はぅん……♥」
拷問は終わったものの、リエルはぐったりと脱力してしまい、肩で息をしている。
そんな夢魔を裏返し、後ろを向ける。鎖で縛められた翼や手首が目に入った。
手首は堅く固定され動かせない。何もできないその指も堅く握られていた。
「ふわぁぁん……♥」
視線を下に移す。丸くボリュームのある尻があった。恐怖にわずかに震えている。
その姿は、昨夜の磔とはまた違った無力さを醸(かも)し出している。
「くぅん……♥」
リエルはうつ伏せに横たわったまま、こちらに尻を突き出した。
尻尾をゆっくりと振り、艶めかしく交合を誘っている。
「好きにして、ください……♥」
それはまるで、本当に退治され、囚われの身となった『沼地のリリム』が、
全身に縛めを受けたまま、淫らな命乞いをしているかのようだった。
「あぅぅ……♥」
二の腕に鎖が回され、細さを強調している肩を掴んだ。
そのまま、背を向けた状態で、身体を起こさせる。
膝立ちにさせ、腰を腕で抱いて、自分の腰へ引き寄せる。
尻が僕の身体に触れる。へその下の辺りが、深く入り込みそうな柔らかさに包まれる。
そのまま、密壺に逸物を挿入する。
「んんぅ……♥」
腰を前後に動かす。夢魔に刺激される逸物を突いたり抜いたりして、自身の快感を高める。
今度は劇場じゃない。自分の手で囚われのお姫様を、リエルを犯すのだ。
「司ぁ……♥」
僕は明らかに、人間ではなくなってきている。
初夜では、挿れるのを忘れたり、挿れた瞬間に噴出したりして、
リエルが持つ夢魔の力に圧されていただけだった。
それなのに、今では少しは交合(まぐわい)が形になって成立している。
「また鎖、締めてるぅ……♥」
鎖を締め上げ、リエルに声を上げさせた。
……拷問めいたことすら、喜悦のために平気で行っている。
リエルは鎖に締められながら、腰を動かしている。
その刺激に応えるため、強く、更に強く、腰を突き入れた。

そうこうしているうちに、慾が逸物の先端まで上り、
「っ、ふううっ……!」
リエルの中に、欲望を放つ。
「あぁん! くぅっ……! あっ、あああぁぁぁぁぁっ……♥」
悲鳴と嬌声を耳にしながら、昂奮(こうふん)と快楽を夢魔に与える。
獣の慾は休む間を僕に与えず、代わる代わる攻撃を繰り返している。



それを何回繰り返しせるのだろうか?
初夜とは、何もかもが違った。
このまま何時間、いや何日でも、リエルのことを犯していられる。
犯したい。



時間の感覚が、消えていった。
12/12/27 20:00更新 / 鉄枷神官
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■作者メッセージ
3000Viewありがとうございます!
前回のエロでは魔物娘の魔物たる部分を活かせなかったので、今回チャレンジしてみました。
少しは魔物娘である意味が増し……て欲しいです。

リエルはリリムとして、角と髪と瞳は標準、翼と尻尾は色違いです。
性格は『好色、意地悪』……のはずでしたが、随分と変わった性格になっちゃいました。

それにしても、前回の状況を再現する魔法、普通に設定であるんですね!
急遽、「自分で研究した→(ゴーストに)習った」に変更しましたw

一応の説明は、終わりました――と言いたいのですが、全然終わっていません……
どのくらい終わってないのかというと、どのくらい終わってるのかもわからない状態です……

こんな状況なのに、次は多分最終回です……
魔力も溜まりましたし、後はゴリ押しでもこの異界の制圧は可能でしょう。
なんとかこのままエターならんように完結させたいと思います。

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