連載小説
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5.衣服の用意
朝、鳥の鳴き声で目が覚めた。

「ん……朝か…」

昨夜は青年をベットで寝かせるため、オリビアはたまに任務で使う寝袋を使っていた。
普段はあまり使わないので熟睡できなかったようだ。

「(あぁ…今日からあいつの面倒を見るのか…)」

前にもアネットに面倒な仕事を押し付けられた事があった。とある町で放送していたラジオに相談したら、「優先順位を決めれば楽だ」と教えてもらった。

むくりと起き上がって、ふと青年を見ると、彼女はある違和感に気がついた。

「…ん?」

昨夜は真っ白だったはずの青年の髪がわずかに黒っぽくなっているように見えたのだ。
髪の色は気のせいではなさそうだった。しかしそれ以上に気になる、
いや、気にするべき事のせいで、そんな事はどうでも良くなってしまった。

「とりあえず…服を用意してやらないとな…」

青年は、上半身に巻かれた包帯と、血にまみれたズボンしか身につけていなかった。
しかし、オリビアの服ではサイズが合わない。青年と身長の近い他の誰かから貰うしかないだろう。
優先順位。服の用意。

「(男物の服なんて持ってる奴居るか…?)」

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「隊長!」

砦の廊下をしばらく歩いていると、後ろから声をかけられた。

「マールか。どうした?」
「司令官からお伝えするように言われた事がありまして。昨日保護した村人達のことです」
「何だ?」
「彼らの村は壊滅状態でしたので、我々である程度修復するそうです。修復がすむまで時間がかかりそうなので、それまで彼らの面倒を北方軍の城で見るそうです」

北方軍。
魔王軍にはいくつかの大きな軍隊に別れており、その中で最も北に存在しているのが北方軍。

この砦は北方軍が、反魔物派からの侵略から新魔物派を保護したりするために北方軍が派遣し、古くなっていたこの城を補修し、戦いの拠点としている。
常に戦闘などが起こり、決して安全な場所とは言いがたい。
村人達は安全な北方軍の城下町に避難させるのが良いだろう。

「そうか…まて、例の青年はどうするんだ?奴も一緒に避難させるのか?」
「ああ…彼は避難させても言葉がわからないから、まだしばらくはここで面倒を見ると言ってました。」
「…そうか…」

それを聞き、面倒な仕事をしないですむかもしれない、と言う彼女の淡い期待は一瞬で崩れ去った。

「あと、もう一つ。『あとで良いもの上げるから司令室に来なさい』だそうです」
「わかった…ああ、ところでマール」
「はい?」
「お前、男物の服とか持ってるか?」
「いえ、私は持っていませんが、セラが確か一着持っていましたよ。前に仮装で使ったらしいです」
「(仮装?)セラが今どこに居るのかわかるか?」
「たしか、剣術の稽古に行きましたよ」
「そうか。すまんな」
「いえいえ」

そう言うと、オリビアは稽古場に向かって行った。

「(男物の服なんて…どうするんだろう?)」

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「ふんっ…!ふんっ…!」

稽古場ではセラが木剣を降っていた。

「セラ」
「あっ、隊長!」

セラは息を切らせながらオリビアのもとに駆け寄った。

「こんな時間から稽古とは、感心だな」
「隊長こそ、こんな時間にどうしたんですか?」
「いや、少し頼みたい事があってな。服を譲って欲しいのだが、良いか?」
「私の服ですか?構いませんが…隊長にはサイズが合わないのでは?」
「あぁ、着るのは私じゃないんだ。昨日保護したあいつだ」
「あ、あの例の…てことは、男物の服ですか?」
「お前が男物の服を持ってると聞いてな」
「いや、あの、確かに持ってますけど、その…」
「どうした?」
「男物の服と言っても、その…」

セラは顔を真っ赤にして言った。

「(ごにょごにょ)……なんです」
「は…?」
「でも、それしか無いですよ…」
「…じゃあ…とりあえず見せてくれるか?」
「はい…」

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「これなんですけど…」

二人はセラの部屋に来ていた。

「これはアウトだな…こんなもん着れん」
「ええ…そうですね」
「…早々に服を用意してやらんとな…」
「ですよねー…」

彼女はセラの服を受け取ると、セラに礼を言った。

「じゃ…これは一応、貰って行くぞ。指令には私からきつく言っておくから、安心しろ」
「あ、お願いします」

オリビアはセラの部屋を出て、司令室へと向かって行った。

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コンコン

「どうぞー」

オリビアが司令室の扉をノックすると中からアネットの声が返ってきた。
扉を開けて中に入ると、アネットが新聞を読んでいた。

「あら、オリビア。どうしたの?」
「…お前が渡したい物があると言ったんだろう…」
「あぁ、そうだったけ?」

悪びれずに言う彼女にオリビアはため息をついた。

「と言うか、アネット!」
「なぁに?」
「お前、セラになんてもの着せてるんだ!」
「?何だっけそれ?」
「これだ!このTシャツ!」

そう言うと、オリビアはセラから受け取ったTシャツを広げてみせた。
そのtシャツの中央には大きく
『俺が億万長者』
と書かれていた。

「何なんだ!この意味が分からない、恥ずかしいシャツ!」
「あー、あのときあげたやつね。そのままじゃつまんないからちょっと工夫したんだけど」
「いや、これは工夫とは言わない」
「そう?」
「…もういい…」

話していると、向こうは普通に話しているだけなのになぜか非常に疲れる。

「…それで、渡したい物って何なんだ?」
「あぁ、そうだったわね。ちょっと待ってて」

そう言うとアネットは後ろにあった戸棚をゴソゴソと探り出した。

「あったあった、これこれ!」

アネットが取り出したのは、中には赤い色の液体が入っている小さな瓶だった。

「なんだ?それは…」
「説明しよう!これはなんと…」
「普通に頼む」
「何よ、ノリが悪いわねぇ…ま、いいわ。これは本部に居た頃にバフォ様から貰ったのよ。」

アネットが言うには、この薬を飲んだ後数時間は、学習能力などが大幅に上がるらしい。
これを飲ませれば、早々に言葉を覚えられるだろうと持ってきたらしい。

「名付けて『受験生にも大人気!スーパーチート薬』らしいわ」
「…そうか。バフォ様はネーミングセンスが無いんだな」
「ま、そこは突っ込まないであげなさいよ。言葉を教える時は私も呼んでね。手伝うから」
「そうか。ありがt…ちょっと待て、お前忙しいからって私に世話を任せたんじゃなかったか!?」
「え?そうだったっけ?」
「……」

別にからかっている訳ではない。素でこれだから困るのだ。
彼女の司令官の素質、情報集主能力、知識などは目を見張る物があるが、性格がに少々問題があるのだった。

「まぁ、いいじゃない。あなたあんまりそう言うの得意じゃなさそうだし」
「たしかにそうだが…」
「ある程度言葉を覚えたら、貴方は剣術とか教えてあげたら良いんじゃない?」
「む、そうだな。そっちの方が私は得意だ。」
「それで、他に必要な物ってある?」

それを言われて気がついた。青年に今一番必要な物。

「そうだ、あいつが着れる男物の服ってあるか?こんなTシャツじゃなくて、まともなやつ」
「そうねぇ、たぶんこの辺に…」

そう言うとアネットは薬が入っていた戸棚を探り出した。

「(何故そんな所に…)」
「あったあった!これなんてどうかしら?」

彼女が取り出したのは落ち着いた色のズボンとシャツ、、穴をあけて通気性を良くした革のブーツ、そして黒っぽい色のローブ。

「こんな感じでどうかしら?」
「…お前の戸棚はどういう仕組みになってるんだ…まぁ、ありがとう」
「良いわよ、これくらい」

アネットから服を受け取ると、オリビアは彼女に礼を言って司令室を後にした。
13/09/29 14:37更新 / ホフク
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■作者メッセージ
やっと書けた…お待たせしました。

アネットは私の中ではギャグの人です。

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