連載小説
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ヒトと魔物が入り混じる街(下)
しばらくティルが落ち着くまでそっとしてあげたいのは山々だったが、状況はあまり良くない。この部屋に入る時に殴り倒した教会の人間は、恐らくティルの処刑の時刻になったことを告げに来たのだろう。
その人物が帰って来ない、となるとまた別の人間がすぐにでも様子を見に来きてしまう。それに見張りの兵士も何人か気絶させてきた。もうすでに他の見張りがそれに気がついたかもしれない。
ティルには酷だが、すぐにでもここを脱出しないと。緊張感を伝えるため、少し声のトーンを下げて話す。

「・・・すぐにここを脱出しよう。早く逃げないと、また捕まってしまう」
「・・・は、はい・・・そう、ですね。でもアキト様、どうやってここに?」
「細かい話はあとだ。とにかく、教会の外へ。部屋の魔法陣は壊した、走れるか?」

ティルは少し戸惑うが、すぐに真剣な表情になり、魔法の詠唱を始める。
彼女の足ヒレが無くなり、ヒトの足に変わっていくのを眺めながら、その間に持ってきたティル用の服を取り出す。
魔法による変化が終わるのを確認して、ティルに服を差し出す。くすっ、と彼女の忍び笑いが聞こえ、思わず顔色をうかがう。

「こんなときでも服は用意するんですね、そのあたり、やっぱりヒトの考えなんでしょうか」
「んー、そうだな服でも着ててもらわないと、俺が発情したら困るだろ?」
「くすっ・・・それも・・・そうですね・・・よし、大丈夫です、行きましょう」

軽い冗談を話しながら着替えを終えたティルの手を取り立ち上がらせ、地下牢の階段へと向かう。
気絶している貴族の太ったの腹を、恨みを込めてわざと思いっきり踏みつけてから出たものだから、階段を上っている最中ティルは苦笑気味だった。

さっきハーピーにもらった地図を片手に、教会からの出口を探す。
最初に地下へ下りてきた階段は途中にいた見張りは気絶させてきてはいるものの、気がついているともう使えないだろうので、急いで次に近い階段へと向かう。
その階段の先の近くに、裏口があるはずだ。全く、どこかの城かと思うほどに無駄に広い教会だ。
その時、突如背後から

「いたぞ!捕まえろ!!」

「!?チッ、見つかったか・・・」

兵士が後ろから叫ぶ声、それとその後に続いて何人分かの足音が聞こえてきた。
走るスピードを上げようとするが、手をつないだティルは、ヒトの足で走るなんてことは慣れていないらしく、少し遅れてしまう。
このままでは追いつかれてしまう、かと言ってティルを抱きかかえて走るなんてことも出来ない。
仕方なく足を止め、ティルを下がらせると、後ろから追いかけてくる兵士と向かい合う。

「少し離れてろ!」

両手を前に突き出し、力を集中させる。
ハーピーに教えてもらった通り、炎の玉のイメージをしっかりと脳に焼きつける。
すると手のひらに小さいながらも火球が現れた。それを追ってくる兵士の頭上目がけて、

「どぉりゃぁっ!!」

投げつける。ドゴッ、と音を立てて石造りの天上が砕け、瓦礫が兵士たちの目の前に降り注いだ。
兵士たちの驚き足を止めたが、瓦礫の向うから別の通路を使え、などと言う指示の声が聞こえる。
これで少しは時間稼ぎにはなるだろう。ティルの手を取りなおすと、再び階段へと向かって走り出した。

「あ、アキト様、今のって・・・魔法、ですよね?」
「ああ!まだ今日覚えたばっかだが、それがどうかしたか!?」
「・・・あんな強い魔法、魔法を覚えて初めての人なんかじゃ使えませんよ!もしかして・・・アキト様、魔法を使うために!」
「・・・そうだ!ヒトの力じゃあお前を助けられないかも知れない!だから・・・!」
「【サキュバスの秘薬】・・・飲んじゃったんですか!!」

【サキュバスの秘薬】、飲めばヒトの男性は魔物であるインキュバス化し、高い魔力と長い寿命を得ることが出来る。
正直、迷いはあった。ヒトでなくなってしまう、という未知の恐怖は大きい。
だがしかし、そんなことに構っていられない、ティルを助ける、そのためなら自分なんてどうなってもいい。

「飲んだら悪いのか!元は俺の金で買わされたんだぞ!!」
「いやそういう問題じゃなくってぇ!!!あれ飲んだら、もうヒトじゃ無くなっ」

言いかけたティルの言葉をさえぎるように、突然通路から剣を持った兵士が飛びだす。
咄嗟に急ブレーキをかけ、ティルを後ろに下がらせると右手に意識を集中させる。
「邪魔だっ!どけっ!」
さっきと同じように火球を作りだし、相手の剣目がけて投げつけて爆発させた。
剣を吹き飛ばされ戸惑う兵士の脇をすり抜けて、目の前まで来ていた階段を駆け上がった。

「・・・そんなこと、承知の上だ!お前を助けることが第一だったんだよ!」
「は・・・はぁ・・・よくそんなくさいセリフが言えますねアキトさmって痛ぁっ!!!」

階段を上がりながらティルの頭をどつく。全力で走りながらだったので力の加減が出来ず、少々力が入りすぎたが、むしろ良い薬だろう。
階段を上りきると、すぐに裏口の扉が目に入る、幸いまだこっちには兵士は来ていないようだ。
恐らく鍵がかかっているだろう。近づいてみると、案の定鍵はかかっていた。

「また少し離れててくれ!・・・う・・・らぁっ!!」

魔法弾を扉に向けて放つと、轟音とともに砂煙をあげて粉砕した。砂煙の間から外の光が差し込んだ。広場へ出てしまえばあとは何とか逃げ切れる。
目で合図し、再びティルの手を取ると、教会の外へと飛び出した―――



―――「お疲れ様です、アキト=リアシス様。」
「なっ!?」

外へと飛び出すと、広場はすでに何十人もの兵士が半円状に広がり、自分たちを包囲する形で待機していた。
さも当然のように待ち構えていた集団の隊長は、今朝港にいた男、カルロだ。
相変わらずの嫌味な笑みで微笑み、手だけで部下に合図を送る。
周りにいた兵士が矢や槍を構え、少しでも動けば攻撃するぞ、という状態だった。

「いやはや、まさかあの状況からどうやって家から抜けだしたのですかね。それに報告に来た兵士によると、教会の展望台から忍び込んだとか。まさか空を飛ぶことでも出来るんですかね?あなたは」

不敵に笑うカルロは全く驚いた様子も無く、むしろ逃げ出すのを知っていたかのような言い方だった。
やはり、ハーピーの飛び膝蹴りの一部始終を見られていたのだろうか。まぁあれだけやってバレない方が不思議だったのかもしれないが・・・。
とりあえずこの状況を何とかしないと・・・とは言え、八方ふさがりだ、教会の中に逃げ込んでも、すでに追手が来ているだろう、かといってこの大人数を突破するのもさすがに無理だ。

「おやおや、その顔はまだ逃げることを考えていますか?あなたはもう十分に頑張りましたよ・・・。もうこの教会の歴史にその名前は刻まれることでしょう、ただの一人の漁師が、ここまで教会を振りまわしたのですからね!」

怒りをあらわにしたカルロの剣幕に思わず一歩引いてしまう、だがティルは逆に身を乗り出してカルロを見つめた。
その顔は、何かを言い返そうとしたのではなく、非常に驚いた顔だった。

「い・・・今なんて・・・?」
「だから、こんな一般人の『漁師』に教会を振りまわされたのは屈辱ですよと!」
「『漁師』・・・アキト・・・様が・・・?」
「おや、自分を拾った人間の職すら知らなかったんですか。てっきり居候をするなら仕事を手伝ったりするものかと思ってましたよ。そこの人は、この街に突如移住してきた天才漁師、アキト=リアシス、って割りと有名な方だと思うのですがねぇ。魔物がヒトの情報に疎いと言うのは初耳ですね」

ティルの表情が驚きの表情で固まる。瞳の奥から、今までの出来事ややりとりが思い出されているのが感じられた。

「じゃ・・・じゃあ・・・アキト様・・・もしかして・・・私の・・・私が探していた・・・『彼』は・・・!!」
「っ・・・・・・」
「おしゃべりはもういいですかね・・・?お別れの言葉があるならお早めに。・・・全員構え!!!魔物は見せしめにするために生きたまま捕獲しろ!!男は殺してよい!!」

カルロが兵士に命令すると、兵士たちが徐々に距離を詰め始める。これが最期ならば、ティルに伝えないといけないことがあるはず、だが、驚愕の表情で固まってしまったティルの瞳に見つめられ、言葉が出なくなってしまった。

ティルの視線を振り払い、前に向き直って兵士たちを睨みつける。せめて、ティルだけでも逃がせないか、魔法で道を作って、ティルだけでもこの包囲網の外へ。
そう考え、ティルから少しだけ距離を取ると、戦闘態勢を取る。自分の身などどうなっても構わない、コイツだけは、ティルだけは助けないと!
覚悟を決めた、その時、

「旦那ぁ!!ティルさん!!捕まりっ!!」

突然の空からの声。驚き指をさす兵士、弓を構える兵士の視線の先には、

「ハーピーか!!・・・なるほど、これまでの行動はコイツの助けがありましたか!!」
「お前は!っ!!頼むっ!」

未だ放心状態のティルに駆け寄り左手で抱きかかえると、ハーピーの右足にしがみつき、左足で首根っこをつかまれる。
同時にハーピーは強く羽ばたき、小柄な身体のどこに力があるのかと言う程の勢いで、急降下から急上昇へと転じた。

「ボサっとするな!逃がすな!撃ち落とせ!!」

カルロが命令をすると兵士たちは弓を構え始める。このままでは落とされてしまう、と思ったが、様子がおかしい、弓を構えたままざわめき、矢を放つことをためらっているようだ。

「あっしが透明魔法使ったんや!今あっしらの姿は視覚では捉えられへん!このまま逃げんで!」
「あ、ああ!」

兵士たちが当てずっぽうに放つ矢をかわしながら、さらに上空へと上昇し集団から距離を離す。
ハーピーはある程度安全な範囲に来たところで振り返り、地上のカルロたちに向って叫んだ。

「残念やったなぁ!今日はお前らにとって記念すべき初めて魔物を逃がした日になったな!これは良い記事になりますわ!!ほな、さいなら!」

たっぷりの皮肉をこめて叫んだあと、べーっ、と舌を出してから集団に背を向け、広場を離れようとした―――



―――その時、何かが頭上で煌き、ドスっと嫌な音を立てた。

「つぁっ!?」
「何だ!?ってうわぁっ!」

矢だ。一本の矢がハーピーのふとももに深々と突き刺さっていた。
痛みでバランスを崩したハーピーはきりもみ状になって落下を始めた。

「っー!!このっ!どんでん返し返しってかっ!?あかん!落ち・・・る!!」

そのまま地面に激突してしまう。咄嗟にティルをかばい自分をクッションにする。

「がはっ!!」
「きゃあっ!!」
「くうっ!!」

地面に勢いよく叩きつけられると、体中に痛みが走り、心臓が止まりそうになる。
遠のきかける意識、だが気力を振り絞り、目を開けると、腕の中できつく目をつむるティルと、少し離れた位置でうつ伏せで気を失っているハーピー、そして遠くから満面の笑みを浮かべたカルロと、その部下が近づいてくるのが見えた。

「こんなこともあろうかとこちらも魔法弓使いを用意していたんですよ。いやぁ、いざという時のために呼んでおくものですね、本当に、危なく取り逃してしまうところでしたね・・・ですが結局、一匹だった魔物が二匹に増えたんですし、結果オーライとしますか」
「くっ・・・そぉ・・・」

地面に落ちた衝撃で身動きが取れない自分に、一人の剣を持った兵士たちが近づく。
ここまで何とか逃げてきたが、もはやこれまでか、と諦め目を閉じる。
わずかにティルが動いたので視線を送ると、うっすらと瞳を開き、小さく口を開けて落ち着いた口調で呟いた。

「アキト様、腕、どけてくれますか?」
「・・・?・・・あ、ああ。そうだ、お前はまだ動けるか・・・?なら・・・早く逃げろ、今なら包囲はされていない・・・、街へ逃げ込めば、まだ何とか・・・」

言いながら腕をどけてティルを離す。一度も目をあわさずにゆっくりと身体を起こしたティルは、気がつけばいつの間にか元のネレイスの姿に戻っていた。
自分もまたティルから視線をそらすと、兵士が自分のすぐそばで立ち止まり、剣を構える。少し距離を置いて様子を眺めていたカルロが、兵士に向かって短く命令をした。

「殺せ」

命令を聞いて剣を振りかざした兵士は、何のためらいもなく自分の心臓目がけて剣を振り下ろそうとした。
目を閉じてその時を待ったが、一向に自分の意識が途切れる感覚が来ない。
不思議に思って目を開けると、予想だにしていなかった光景が目に飛び込んだ。

「アキト様は・・・私の・・・私の大事な人は!殺させたりなんかしないっ!!!」

身を乗り出したティルが、兵士の振りかざした剣を止めている。
魔法なのだろうか、両手で水の膜のような盾を作り、懸命に振り下ろされようとする剣に抗っている。

「お前っ・・・!早く・・・逃げろって!!」
「嫌ですっ!せっかく・・・見つかったのに!私の・・・『想い人』が!!」
「・・・・・・」
「私・・・本当は怖かったんです、アキト様が・・・あんなにやさしく接してくれて。私は『彼』を探しに来ていたはずなのに・・・いつの間にか、アキト様を好きになっていて・・・。でも!私が探していた『彼』が見つかれば、アキト様とはそこでお別れのはずだったから、好きになったらダメだって・・・離れられなくなっちゃうって・・・!私の『彼』がアキト様だったらよかったのにな、って・・・そう考えると苦しくなって!」
「何をしている!!そんな防御壁など叩き割れ!!」

カルロは最初は突然のティルの行動に驚きを見せたが、すぐに表情を憤怒の表情に変えると、兵士に命令を下す。
カルロの言葉を聞いた兵士は、今度は剣を魔法で強化すると、何度も振り下ろし、ティルの作る水の盾を壊そうと攻撃を始める。
さっきよりも重たくなった兵士の剣の攻撃を全て水の盾で受けとめると、水飛沫と強い衝撃が生まれる。
必死にその衝撃に耐えながらも、ティルはそのまま話を続けた。

「だけど!アキト様は・・・本当の『彼』だった!!ううん、それももしかしたら大切な事じゃないかもしれない・・・。アキト様を好きになるのが恐くて、私が勝手にもっと大切な『彼』の存在を作って逃げてたのかもしれない・・・私の・・・本当に大切な人は・・・!アキト様と・・・、二人で生きていきたいんです!!だから全力でアキト様を守ります!!!」
「お前・・・」
「っく・・・っああ!」

兵士の剣が鋭く振りおろされ、ついに水の盾が破壊され、小さな水滴になって飛び散る。
魔力を使い果たしたのか、その衝撃と同時にそのまま自分の身体の上にぐったりと倒れ込んでしまった。
しかし、また彼女の手に水が集まりだし、新しい盾を作ろうと形作りだす。

「殺させない・・・アキト様だけは!」

再び兵士が剣を振りかざす。ティルがこんな状態では、到底防ぎきれない。そう思った、その瞬間



「良い子じゃないの、こういう子を見てると、やっぱ放っておけないのよね」

妖艶な声が聞こえ、直後目の前の兵士が何かしらの魔法弾のようなものを受けて吹き飛ばされる。
空を見上げると、いつの間にかそこには女性が浮いていた。
女性、と言っても普通のヒトでは無かった。悪魔のような翼や尻尾、頭にはツノが生えている。魔界の上級悪魔と言われる、サキュバスだ。

「サキュバス!?どうしてまた新しい魔物が!!総員矢を撃て!あのサキュバスも撃ち落とせ!!」

カルロが叫ぶと何人もの兵士たちが一斉に矢を放ったが、今度は自分たちの背後から放たれた矢より多くの魔法弾が放たれる。
その魔法弾は矢を蹴散らしながら、弓を持った兵士たちに向かって飛び、そしてそのまま兵士たちをもなぎ倒した。

「な、なんだ・・・?誰が・・・?」

魔法弾が飛んできた方向を見ると、さらに驚くべき光景が広がっていた。

魔物。それも一人や二人では無い、10、20、いや、もっと大人数か。
サキュバスを先頭に、ハーピーやスライム、リザードマン、アルラウネ0やドラゴンまで、実に多種多様な魔物たちが集まっていた。
その中には自分の知っている顔、自分の出身である街の西地区の漁師仲間や、街の娘たちも見受けられた。

「あ、アキト様・・・?これって・・・どういう・・・?」

呆気にとられる自分たちの横に、サキュバスがそっと着地する。よく顔を見れば、得意先の酒場の娘だった。

「黙っていて悪かったな、アキト。まさか街の外からやってきた者にすぐ素性を明かすわけにもいかなくてな」
「え・・・お前が・・・サキュバスで・・・!?」
「ああ、後ろのみんなも、この街に隠れ住んでいた魔物たちさ」

部下である兵士の多数が負傷し、戦力を失ったカルロはただ茫然と立ち尽くしていた。今度は怒りよりも、驚きの方が強い顔で。

「なぜ・・・どうしてこんなにも魔物が一斉に・・・」
「おや、この教会の騎士団長カルロ様、どうして、か・・・。それが知りたいならそこのハーピーを見れば分かるんじゃないか?」
「どういう・・・ことです・・・?」
「このハーピーが先ほど私たちに連絡をしてくれてな、「教会にネレイスの少女が捕まった。助けて欲しい」、とな。それで私も街の魔物を集められるだけ集めて、ここへやってきたというわけだが」
「・・・ふ・・・ふふふふふふ。そうですか、そういうことですか!何とありがたいことでしょう!これほどの数の魔物を一斉に捕まえられるじゃないですか!まさかあなた、ここにいる兵士が全員だとお思いですか!?まだまだ教会内に、何百人もの兵士が!!」
「・・・悪いな、その兵士たち、無事かどうかの保証は出来んぞ?」
「何ですって?」
「んむ・・・何とも言いづらいんだが、何せ魔物ばっか集めたもんでな・・・血の気の多い活気な男どもを見て我慢出来なくなった奴らがいてな・・・その、多分今頃教会内は地獄絵図・・・、乱交パーティと言うかなんというか・・・ああ本当は私も混ざりたいのに・・・」

話を聞いて茫然と膝をつくカルロ。そんな様子に少し気の毒そうな顔すらしたサキュバスは、ゆっくりと少し先で倒れているハーピーに目をやり、その後自分たちへと視線を向けてきた。

「助けた礼ならあのハーピーに言うんだな。お前たちを助けるため、真っ先に私に連絡をよこして、その後すぐ教会へ向かったようだ」
「そうだったんですか・・・けど、こんなにたくさんの魔物が街に潜んでたんですか・・・?私みたいに、人に化けて・・・?」
「ああ、前々から少しずつ街の中に魔物を増やしていた。全て、この街の教会をどうにかするために。今日は正午に魔物の処刑が始まると聞いていたからな、それに合わせて、助けるのも兼ねて一斉攻撃をしかけようとしていたところだったのさ。おかげで数百という単位の魔物がすでにここに向かっていたんだ」

思わずティルと顔を見合わせて、二人そろって苦笑する。もしかして、自分が助けに来なくてもどうにかなってたんじゃ・・・。

「しかし、この街は反魔物思想だと聞いていたが・・・まさか?」
「教会の連中に付き合ってただけさ、実際街の人間の大多数は魔物肯定派らしい。けどこれで、やっと魔物とヒトが共存できる街が作れるんだ・・・!」―――



―――その後、駆けつけた人達の治癒魔法を受け、体も動くようになった。ハーピーも命に関わるような怪我はしていなかったらしく、しばらくすると気を取り戻した。
カルロ引きいる騎士たちは助けに来てくれた魔物たちによって教会の中へと連れて行かれ(サキュバスいわく、外では出来ない、街の子供に悪影響を及ぼしてしまう可能性があることをするため、とのこと)この騒動にもひと段落がついた。
ハーピーはこのことを「こんなええ新聞のネタそうそう無いわ!ちょっと取材行ってくるで!」と言って教会内に入って行ってしまった。
教会の扉には【取り込み中(はぁと)関係者以外立ち入り禁止】と書かれた張り紙が貼られ、時より中から悲鳴(?)が聞こえた。
広場残こされた自分たちは、しばらくお互いに気まずそうにしていたが、やがてティルの方から声をかけてきた。

「あ・・アキト様、ちょっとお話良いですか?教会の周りでも・・・歩きながら」
「お、おう・・・」

何とも言えない空気のまま二人並んで歩きだす。とてもティルに目を合わせることが出来ず、教会を眺めて誤魔化した。
もはや教会と言う規模では無く、城と言った方がいいような規模のこの教会の中では、今頃兵士たちが魔物肯定派なるまで快感を叩き込まれているだろう。何とも気の毒な話だ・・・。

「あ、あの・・・その・・・助けに来て下さって、ありがとうございます・・・。アキト様に命を救われたのは、これが何回目ですかね・・・」
「ん・・・まぁ何回って、ほとんどお前が勝手に干からびてたことが多かった気がするんだがな・・・」
「そ、それもそうですが・・・」
「・・・・・・」

会話が途切れてしまう。ティルはやっぱり怒っているのだろうか、ずっと俯いていて、表情が読みとれない。
そのまま更に少しの間無言のままで歩き続けたが、丁度広場の反対側、少し開けた中庭のような所に来たところでティルが立ち止まった。

「なんで・・・なんで今まで嘘ついてたんですか・・・?その・・・『彼』のこと」
「・・・・・・それは・・・」

ティルと出会った夜のことを思い出す。ネレイスとしての魔物の習性、想い人を海の底に引きずり込み無理心中、とか話していたことを思い出すが、今考えればそれもティルにとってほんの冗談だったであろう。
その時は真に受けて言い出せず、その後も言うタイミングも無く引ずって来てしまっていたのだ。しかし、それだけでも無い気がしてきた。

「ん・・・言われてみたらなんでだろうな。こんなこと言うのもまた馬鹿にされそうだが・・・必死に『彼』を探しているお前が、ちょっと可愛かったのかもな」

冗談めかして言ったつもりだったのだが、その言葉を聞いた途端にティルは俯けていた顔を上げた。
驚いたような、表情をしばらくしていたが、やがてまた悲しそうな顔になり、俯いてしまった。

「お・・・おい、どうしたんだよ?気にさわるようなこと言っちまったか・・・?」
「そうじゃないんですが・・・。本当に・・・?本当にそれだけなんですか?」
「どうしてだ?」
「だって!・・・嘘ついていたのは、やっぱり私が迷惑だったのかなって・・・。突然家に上がり込んで、それで好きです、って言われたら誰だって迷惑がりますよね・・・。私なんかに付きまとわれるのなんか嫌ですよね・・・?」
「は・・・?」
「ごめんなさい!私・・・『彼』とは常に両想いなんだって思いこんでて・・・、今まで黙ってたのは、やっぱり私のこと好きじゃないんですよねっ!馬鹿ですよね私・・・ほんとっ・・・」

ティルは嗚咽混じりにそう言うと、その場にしゃがみ込んで声を上げて泣き始めてしまった。

「・・・お前、さっきからずっとそんなこと考えてたのか?」
「うぐっ・・・は、はいっ・・・」

一つ盛大にため息をつき、ティル元へ歩いて行く。目の前まで来てしゃがみ込むと、泣き崩れるティルをそっと抱き寄せた。

「ああ、馬鹿だよお前、馬鹿にも程がある。一体どこにそんな嫌いな女のために命をかけてまでして助けに来る馬鹿がいるんだよ。俺が今までしてきた行動を考えろ、お前が好きじゃないわけがないだろう?お前も鈍すぎるだろ・・・」
「えっ・・・?じゃ、じゃあ・・・」
「ああ、俺だってお前のことが大好きだよ、ティル」
「っ・・・!」

泣きじゃくるティルの瞳から、大粒の涙が次々と溢れ出る。何かを話そうと口をぱくぱくさせているが言葉が出ないらしく、結局また声を上げて泣き始めてしまった―――



―――ティルが泣きやんでからも、しばらく二人抱き合ったままだった。
そのままティルは少し顔を上げると、今度は今までになく嬉しそうに照れた表情をしていた。

「そろそろ帰りましょうか、アキト様。私今日一日でどっと疲れちゃいました。早くあの家の樽に戻りたいです」
「ああ、そうだな。俺も腹減ったな・・・なんか帰りに食いもん買って帰るか」
「肉がいいですっ!出来れば高級な牛のっ!」
「・・・はぁ。お前いつも通りに戻るの早すぎるだろ・・・」

いつも通り嬉しそうに尻尾がびちびちと動きまわり、まるで子供のような瞳の輝きで見つめる・・・って。

「尻尾!!またかっ!てかもう全身戻ってんじゃねぇか!」
「はっ!いつの間に!・・・ってそれもそうですよーさっきあれだけ頑張って魔法使ったんですから、もう魔力切れで姿が保てなくて・・・。さて、どうせこんな場所なら、人目にもつきませんよね!」
「待ておいこれいつかのパターンだぞおい待てなぜ服を脱ぐおい聞けよ!おい!!おい!!」
「魔力補充ですっ!!覚悟ぉぉっ!!」
「今までの雰囲気とか考えろよお前もーっ!!」―――













―――おわり。
新聞の一つの新コーナー、「魔物とヒトが結ばれるまでの実話に基づくお話」などと称されたものを読み終えると同時に、一つため息をついて悪態をつく。

「あのハーピーめ・・・どれだけストーカーしてたんだ・・・。ノンフィクションには間違いないから文句が言えないのがまた悔しいな・・・」

新聞を丁寧に折り畳み、机の上に戻すと、漁に向かうために2階の寝室から1階へと降りる。
すると足元に小さな影が二つ、勢いよく突進をしてきた。

「おはようお父さん!!!」
「今日はお父さんが起きる時間に起きたよ!!えらい!?」
「あーあーおはよう分かった分かった・・・朝からそんな大声出さないでくれ、頭がくらくらする・・・お母さんは・・・?って聞くまでも無いか」

いつも通り、部屋の片隅、人すら入りそうな大きな樽から小さく寝息が聞こえてくる。この樽ももう少し自由に身動きが出来るくらいのものを用意してもいいのだが、中に入ってる本人がこれがいいと意地をはって変えたがらない。
だが自分にとっても、彼女にとっても思い入れの深いものだった。気持ちは分かっているので、今日に至るまでずっと使い続けている。
しかし子供が起きているのに寝ている親とはどういうつもりなのか。だが漁師の朝は早い。朝が弱い彼女が起きられないのも無理はないだろう、と諦めて玄関へと向かう。

「まぁいいや、お父さんもう出ないと。お前たち、母さんが起きたら、また家事をサボらないように注意してやってくれよ?」
「「わかったよお父さん!!」」

玄関の扉に手をかけ家を出ようとすると、視野の端っこで何やらひらひらと動いてるのが見える。
見れば樽の中から手だけが出ていて、「行ってらっしゃい」と言わんばかりに左右に手を振っていた。

「ははは・・・行ってくるよ、ティル」

今日もたっぷり稼がなければ、と気合を入れる。
二人の間に生まれた、元気にすくすくと育つ子供たちと、
今も樽の中で暮らす、ネレイス妻のために。
11/07/05 04:09更新 / 如月 玲央
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■作者メッセージ
「お疲れでした!最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!」
「半年前に第一話を書き、その後忙しくて中々続きが書けませんでしたが、なんとか完結させることが出来ました。皆さんの評価やコメントが非常に励みになり、完成にこぎつけることが出来たと思います。言葉ではこの感謝の気持ちを表すことができません!」
「じゃあ金出せ、感謝は時に金で表現できる」
「汚い、このフェアリー汚い。せっかく良いこと言おうとしてるんだし、横槍入れるなよー」
「うるさい!!半年とかかけてこの程度なんですか!?書くの遅いにもほどがあるでしょうが!!」
「それ関係なくない!?しかし回を増すごとに性格悪くなるね君!マスターの気持ちも考えてあげてよ!!!
・・・えー、コホン。これからもまだまだ書きたい魔物が沢山います。この魅力的(性的な意味で)な魔物の良さを少しでも表現できるように精進したいであります!どうか、これからもよろしくお願いします!」
「本当にどうにもならないマスターですが、私からもお願いします!」

「・・・どうしよう。まだこの二人で話書きたいや(´・ω・`)」
「未練タラタラですよマスター・・・」

    To Be Continued...?

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