連載小説
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前編
あたしは早く大人になりたかった。
何時かは大人になるといわれても、あたしはすぐにでもなりたかった。

大人になれば、子供じゃできない事もできるからだ。

お母さんが出す大人の魅力ってのに憧れてた。
大人になって、いろんな恋をしてみたかった。
そして、大好きなアイツと、早く愛し合いたかった。



でも、それは無理だった。



あたしは、大人になれなかった。


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ジリジリジリジリジリジリジリジリ…………………

チンッ!!


「ふわぁ〜」

朝、目覚まし時計の音であたしは目が覚めた。

「うー寒い…」

この時期の朝はとても寒く、なるべく布団から出たくはないのだが…

「エリカー、そろそろ起きて準備しないと遅刻するわよー!!」
「わかってるよー!!」

お母さんの声が飛んできた。
遅刻はしたくないので、温い布団の誘惑を振り払い、返事をしながらあたしは起き上がり顔を洗いに洗面所に向かった。



パシャッ

「う〜〜〜つめたい〜〜」

顔を洗って、その水の冷たさで完全に目が覚めた。


ごしごし…

「ふぅ〜…」

顔を拭いて水分をとった後、洗面所の鏡を見た。
そこには藍色の瞳に金色の髪、少し可愛らしくデフォルメされた蝙蝠が描かれているパジャマ。
それに頭に角を生やし、背中に蝙蝠のような翼、さらに先端がハートのようになっている尻尾が付いている、小学校低学年位のあからさまに人ではない女の子が映っていた。

「はぁー…」
その姿を見て、あたしはため息をついた。
角やら翼やら尻尾が付いてるのは別に何も問題ない。
なぜなら、あたし―藤木 愛里花(ふじき えりか)―は生まれた時からサキュバス『種』の魔物だからだ。
問題があるのは……小学校低学年位の見た目のほうである。



「おはよーお母さん」
「やっと来たわね。朝ご飯はもう机の上に置いてあるから早く食べなさいよー」
「はーい。では、いただきます!」

パジャマから着替えたあたしは早速朝食を食べる事にした。

「あ、そうだエリカ。今日はお母さんもお父さんも帰りがもの凄く遅くなっちゃうから先に夕飯食べといてね♪」

ご飯を食べていると、お母さんがそうあたしに話してきた。

「もぐもぐ…ん、わかった。夕飯って用意してある?」
「用意出来そうに無いからスーパーとかで何か買って食べて。これ夕飯代ね」
「ん、わかった。1000円か…結構買えるな…」

両親とも夜遅くまで働いているので夕飯が一人になるのはよくあることだ。
別にあたしは『見た目と違い』幼い子供じゃないので問題はない。
…まあ、一人で食べるのは少し寂しくはあるけどね。


「もぐもぐ……ごくんっ…ごちそうさま!」
「はーい。ずいぶんゆっくりと食べてたけどエリカ、時間大丈夫なの?」

そう言われ、時間を確認してみたが…まだ余裕はあった。
まあ何かトラブルが起こるかもしれないのでもう行きますか。

「あ〜大丈夫そう。でももう行くね。じゃあいってきまーす!」
「いってらっしゃい。気を付けるのよ〜」


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「うーなんで制服ってスカートなのよ〜。さすがにこの寒い時期にスカートはキツいって!」

あたしが寒さにやられ、制服がスカートな事に文句(独り言)を言いつつ登校していると………

「おーいエリカ〜!!」
「あっ!おはよースバル!!」

後ろから幼馴染みの黒髪黒目の男―有吉 昴(ありよし すばる)―が走ってきた。

「珍しいじゃない。何時もはもっと遅刻ギリギリなのに」
「いやぁ、今日はまだ課題終わってなくて……」
「………うつさせてあげないからね」
「ええっ!!お願いしますよエリカ様!!」
「エリカ様言うな…別人に聞こえる。しょうがないからあたしのお願いを聞いてくれるならうつさせてあげよう」
「さっすがエリカ!!お願いぐらい聞くさ!課題やってないペナルティくらうよりよっぽどマシだよ!」

スバルは昔からこう、少し残念で調子の良いところがある面白いやつだ。

「そうだなぁ…今日の夕飯一人で寂しいから付き合ってくれない?」
「おう!それくらいなら全く問題ないぜ!」
やった♪これで今日の夕飯は寂しく食べなくてすむ!
一人で食べるより誰かと食べたほうが美味しいもんね。
それがスバルならなおさら良い!


あっそうだ。

「ああ、それと…これから先なるべく一緒に学校から帰ってくれない?」
「ん?別にいいけど…またなんで?」
「いや、最近さあ…」
あたしは最近のニュースを思い出し、ため息をつきながら話を続けた。

「ほら、最近幼い魔物を狙った変質者がこの近辺でうろついてるってニュースがあったでしょ?」
「ああ…護衛役として一緒にいてほしいってことか」
「そういうこと。スバルは話がすぐわかって楽だわー」

…………実はそれだけじゃないけどね。

「まあ、エリカは種族的にも危ないしなぁ…」
「ほんと、何であたし『アリス』なんだろ…はぁー…」

そう、あたしはサキュバスの突然変異種のアリスである。



小学校高学年になるにつれて周りの同学年のサキュバスは成長していったのに、あたしだけ成長しなかった。
不思議に思い検査しに行ったら、あたしはアリスだと言われた。
つまり、これ以上大人にならない、大人になれないと言われた。

昔から早く大人になりたいと願っていたあたしにとって、これは酷い仕打ちだった。
お母さんは「永遠の少女なんて羨ましいわ〜」って言ってたけど、あたしはそう思うことはなかった。
あたしは悲しくなった。なんて残酷な運命なんだと。



更に言うと、アリスであるからこその悩み事が幾つかある。

一つめは、アリスであるが故にあたしから常に微量だが誘惑の魔力がでている。
その為、その手の趣味の人にたまに襲われる事があること。
今のところは何とか振り払ったり、スバルに助けてもらっているので大丈夫だと思う。
………変に記憶が抜けてたりしないから大丈夫なはず。


二つめは、サバトに入れとしつこく勧誘されること。
あたしはロリを武器なんかに使う気はない。
むしろこのロリ体型は嫌いだ。成長したい。
それに「お兄ちゃん♪」なんて知らない人に絶対に言いたくない。


三つめは、いろんな場所で小学生扱いされること。
あたし17歳の高校2年よ?「子供料金でいいよ」とか言われたくないんだけど。
本屋で「まだ小学生なのに数学の参考書なんか読むの?お姉ちゃんのお使い?」とか言われて店員に殺意が湧いた事もある。


そして四つめ、最大の悩みは…




「……リカ、おーいエリカってばー」
「……はっ!」
「どうしたぼーっとして?もう学校だぞ?」
「えっ!?いつの間に!?」
「………大丈夫か?」
「うん!ちょっと考え事してただけ!」
「そうか……まあ危ないから考え事もほどほどにな」

いろいろ考えていたらあっという間に学校に着いてしまった。
あたしとスバルは同じクラスなので、そのまま一緒に教室に向かった。


====================


キーン、コーン、カーン、コーン…

昼休みのチャイムが鳴った。
授業が終わり、スバルはトイレに行った。

そして、待ちに待った昼食タイムなのだが…




「ねえ藤木さん!わたしのサb……」
ことわる!!
「……まだ最後まで言ってないのに…」
「八木さんの事だからどうせ自分のサバトへの勧誘でしょ?」
「………そうだけどさぁ…」
ここのところ毎日昼食タイムに悩み事その二がくるのだ。

誘ってくるのは同じクラスの八木 晶子(やぎ しょうこ)。
口調は普通の女子のものだが、手足もふもふで山羊角生やしたバフォメットだ。

「何度も言ってるけど、あたしはロリ体型であることが嫌なの。だからサバトには入らないわよ」
「そんなこと言わずにさー、ちょっと体験してみるとかさー」
「だーかーらー入らないって言ってるでしょ?しつこいわよ」
「そー言ってもさー…アリスなんて滅多にいないのよ!?永遠に純粋なロリサキュバスよ!?素晴らしいじゃない!!」

…八木さんは褒めてるつもりだろうけど、あたしはそう言われると腹がたってくる。

「ねーねーお願いだからわたしのサバトに入って…」
うるさい!!
「ビクッ!」




シーン……………




…しまった、ついイライラして叫んでしまった。
そのせいでクラス中が静かになるし、目の前のバフォメットにいたっては…

「ぁ……ぅ………ご、ごめんなしゃいぃ………」

目がうるうるしている。今にも泣き出しそうだ。

「ぁ………こ、こっちこそ急に大声出してごめんね!」
「ぅ……だいじょうぶ…」

同級生なのに、相手が小さな身体だからか、幼い子供を泣かせてしまった気分だ。

…いや、あたしも見た目は大差ないか。
しかし、この空気はキツい…スバル早く戻って来ないかなぁ………

「おーいエリカ〜、何かあったのかー?」
「あっスバル!」
助け船が(トイレから戻って)きたー!!

「あ、有吉くん!」
「ん?どうした八木さん?」
「有吉くんからも藤木さんにわたしのサバトに入るように勧めてほしいな〜って!」

ちょっとまて!!何を言ってるんだこのバフォメットは!?
スバルにそれを頼むのか!?

「えーそれは嫌だなー」
「なっなんで!?」
「だってエリカは入る気無いって言ってるんだろ?本人の意見は尊重しないと」

普通こうなるに決まっている。
自分が関わらないものを勧める奴がどこに居るというのか。
ていうかさっきまで泣きかけてたのにもう元に戻ってる…これはバフォメットの技巧なのか?




「じゃあさー、有吉くんがわたしのサバトに入ってよ!!」
ことわる!!
「…なんで二人して同じ様に断るのよ!」
「幼馴染みだからじゃない?」

……そう、あたしとスバルはただの『幼馴染み』。

「なんで有吉くんはわたしのサバトに入ってくれないの!?」
「だって俺…」

そして、あたしの四つめの悩み事、それは…

「大人の女性が好きだもん!!」
「なにぃ!?」

…これだ。

「ウソだ!?藤木さんとずっと一緒にいるぐらいだから有吉くんは絶対ロリコンだと思ったのに!?」
「俺はエリカをそういう感じに見てないからな!」

そう、あたしの幼馴染みのスバルは……
いや、あたしの好きな人であるスバルは、大人の女性が好きなのである。



あたしとスバルは、あたし達が本当に小さい頃からずっと一緒にいた。
一緒に遊び、一緒にご飯を食べ、一緒にお風呂に入り、一緒に寝た事もある。


ある時に、お互い大人になったら結婚しようと約束した。
もちろん子供ならではのものだ。スバルは覚えていないだろう。
もちろん、あたしもその時はその場のノリみたいなものだった。
けれども、あたしは本気でスバルを好きになった。

だから、あたしは早く大人になりたかった。
いつも大人みたいにしっかりした態度をとったりしていた。
でも、大人にはなれなかった。
早い早くないではなく、大人になることが無理だった。

それだけでなく、あたしの好きな人は大人の女性が好きだった。
つまり、永遠に大人になれないあたしの恋は実らないのだ。


====================


キーン、コーン、カーン、コーン…

最後の授業が終わり、下校の時間になった。

「ふぁあ〜…やっと授業が終わった〜…んじゃエリカ、帰ろうぜ!」
「うん!でもちょっと待って、今片付けてるから!」

朝約束した通りにあたし達は一緒に家に帰る。
でもその前に…

「おまたせ!!でも家に帰る前にスーパーよって行きたいんだけど。夕飯調達のために!」
「そうか!じゃあ早速スーパーに行こうぜ!今なら安売りが始まってるはずだ!」

そう、夕飯の調達に行かなければならないのだ!
今日はスバルと一緒に食べるんだし、いろいろ考えて買わなきゃね♪




「うっわー、やっぱり凄く混んでんなー…」

スーパーに来たのはいいが、流石夕方。夕飯準備の為に人や魔物が沢山いた。

「こりゃ油断するとはぐれちまいそうだな……手でも繋ぐか?」
「………………………うん」
スバルに子供扱いされた気がするので正直悲しみと怒りが込み上げてきたが、手を繋げるのは嬉しいからその提案を承諾した。



「そんで夕飯どうするんだ?」
「うーん…そうだなー…」
スバルと一緒に食べるんだから、弁当や惣菜で済ませたく無いな…
あたしの作った料理を食べて貰いたいな〜なんてね♪
でも、そんなに凝った料理は作れないしな…

「………スバルは何か食べたいものある?」
「えっ!?何で俺に聞くの?」
「一緒に食べてくれるし、それに何も思いつかないし、スバルの希望があればそれにしようかな〜と思って」

スバルが食べたいものを作るというのも楽しいしね♪
それが作れるものならいいけど…

「うーん…今日は特に寒いから鍋とか……おでんがいいかな?」
「おでんか〜…うん、いいね!そうしよう!」
それなら簡単だし、身体も温まるからね!

「じゃあ早速材料を集めるか!行くぞエリカ!!」



「結構買ったね…」
「安売りしてたからな…」
買い物かごの中には大根、ちくわ、がんもどき、こんにゃく、もち巾着、etc…とおでんの材料が大量に入っていた。
夕飯代としてもらったぶんに加え、スバルも同じぐらいだしたのでいろいろ買ってたら2人分以上の量になっていた。

「まあいっか。とりあえず全部袋に詰め込もうか」
「あ、ごめん。俺トイレ行ってくる」
「……寒くなるとスバルってすぐトイレ行くよね…」
「まーな。じゃあ行ってくる。すぐ戻ってくるから!」

じゃあその間に詰め込みますか。






「……ねえそこのお嬢ちゃん、一人でお使いかい?」

…なんか知らないおじさんが話し掛けてきた。
帽子を深々と被り、ロングコートで口元まで覆っている。

「いいえ、違います。急に何ですか?」
「そうか。いや、おじさんと楽しいこと一緒にしないかい?」

…これは…あれか?

「楽しいことって何です?」
「とっても気持ちいいことだよ。おじさんに付いてきてくれたらお嬢ちゃんを気持ちよくしてあげよう」

…うん、あれだ。
変態だ。

「ホント!?じゃあ行くー!!……とか言うと思う?この変態オヤジが!!」
「なっ!?」

更には、例の変質者だろう。
……ちょうどスバルがいない嫌なタイミングで来たな。

「そもそもあたしこれでも高2よ。お嬢ちゃんって言われたく無いんだけど」
「……」

ああ…早くスバル戻ってこないかなぁ…

「……から」
「…はい?」
何か言った?良く聞こえなかったけど………!!

いいからこっちに来い!!
「えっ!?ちょっとやめて!!いや!」

変態に急に腕を掴まれた!!
そのまま何処かへ連れ去られそう…!!

「なに!?やめてよ!触らないで変態!!」
「黙れ!!今すぐここで犯してやってもいいんだぞ!!どうせ誰も気付かないからな!!」
「なっ!?そんな!?」
そういえばさっきから騒いでいるのに誰もこっちを見ていない!?なんで!?

「訳がわからなそうだな!教えてやろう!」
「くっ!なによ!?」
「この前魔女から奪った結界水晶というものがあるのさ!!これがあれば他の人はおじさん達が何をしてようが気付く事は無いのさ!!」

そんな!?最悪…!!

「では早速だがおじさんの息子を口で相手してもらおうか!!」
「やめっ!!離して!!」

頭を掴まれて変態の股間に押し付けて…!

「くっ!抵抗するnぐはっ!!
「!?」

急に変態が「ぐはっ」とか言ったと思ったら頭をつかんでいた腕の力が弱くなったので、抜け出して変態のほうを見てみると…

「おいおっさん…人の連れに何してんだ!?」
「ぐおお…」

少し怒った顔をしたスバルが変態の頭にパンチを繰り出していた!
手にはケータイを持って…

「な、なんだね君は!?急に人を殴ったr…」
ピッ、ピッ、ポッ……あっもしもし警察ですか?」
「チィッ!!」
「あっ!まて!!」

スバルが警察に通報したら変態がものすごい速さで逃げていった。


「チッ、まあいいや…それより大丈夫だったかエリカ!?」
「うん、怖かったけどギリギリセーフ」
「わりいな、怖い思いさせちまって…護衛役失格だな…」
「ううん、そんなこと無いよ!実際スバルのお陰で助かったんだし!」
「そうか…そんじゃあ一応警察のほうに報告してから帰るか!」

そのままあたし達は、一緒に手をつないでスーパーを出た。

12/01/06 09:09更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
入れるタイミングを見失った台詞↓

「エリカってアリスにしてはいろいろ知ってるよなぁ?」
「この情報社会の世の中、調べようと思えばすぐ調べられるよ!」

後編に続く!

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