連載小説
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彼女の思い・感謝の気持ち
なあ、カイト

お前が中学生の時、志望校に合格した直後のことを覚えているか?私に今までの感謝のお礼がしたいといった時、私はとても嬉しかった。いままでにも似たようなことを言われたことはあったが、みな美しく優秀な女性に好かれたいという下心があった。でもお前は純粋に感謝の心から私に言った。本当にうれしかったんだぞ。中学生が年上の大学生に出来ることなんて限られているのにお前は何でもやってやると言わんばかりの大きな態度で申し出たんだからな。だから半分冷やかし半分本気でお前の血がほしいと言った。
お前の反応は予想できた。注射が嫌いだったからな。でもお前は精一杯強がって八重歯を見せ正体を明かした私に首筋を差し出した。だから私は容赦なくお前の血を吸った。私はお前の従順さにつけこんだともいえるな。そしてお前に従順さにさらにつけこんで、使用人になれといった。いかにもヴァンパイアらしいな。それから口論になって私は調子にのりすぎたと後悔した。お前の気持ちを利用したことに罪悪感が生まれ始めた。
はじめからこんな調子では将来カイトがインキュバスになって扱いが変わっても良好な関係が築けない、恋愛という形から入ればお前と良好な関係になれるのだろうが、ヴァンパイアのパートナーは恋愛ではなく人攫いで得るものだからな。私にはどうしたらいいのか分からなかった。
だからお母様が恋愛の勉強にと大量の恋愛ドラマを見せてくれて私は救われた。どうすればもっとお前と親しくなれるかとても参考になった。実は今でも時々見て参考にしているんだぞ。この間映画を見に行った時、キスシーンに合わせて私たちもキスしただろう。あれもドラマを参考にしたんだ。恥ずかしがっていたカイトの反応はドラマと同じで心の中で笑ってしまった。
付き合い始めた頃は2人とも恋愛初心者どうしだからぎこちなかったな。ドラマのようにうまくいかないものだと当時は悩んだ。手を握るのも、抱擁を交わすのも、キスだって随分時間が経ってからだったな。


私はお前にとって魅力的だろうか?まだヴァンパイアの無駄に高いプライドのせいでを無意識に見下したり、素直に気持ちが伝えられないことがまだ時々ある。そのたびに嫌われるんじゃないかと不安に思う。実際見た目が良くても性格が悪い女性はモテないと言われているからな。それに私のことをどう思っているのかいつも恥ずかしがって言ってくれないじゃないか。私はお前に褒められたいんだ。
コンビニでお前を見つけた時、抑えていたつもりだがきつくあたってしまった。お前は怒って当然だというかもしれないしあの場面は一般的にも怒って当然なのだろう。しかし私が怒りすぎて罪悪感から別れ話に発展する可能性だってある。一度怒ってしまった以上引っ込みがつかないから車内でもお前に小言を言ってしまったが、申し訳ない気持ちも少しあった。そして少し失望した。お前は気付かないのかと…
お前は私に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだと思う。そして何か償いたいと考えているはずだ。でもその必要はない。学生のお前に出来ることなど限られている。ましてや高級品のプレゼントなどいらない。お前は学生だ。学生は勉強が仕事だ。だから勉強していろんなことを経験して立派な大人になってほしい。それが私に対するプレゼントだ。そんなことを言われてもとお前はどうすればいいのか分からないかもしれない。その時は私を頼れ、年上には甘えとくものだ。どんな些細なことでもかまわない、お前に頼られるのは嬉しいからな。それに会うたびにお前は成長している。出会ったころより身長も伸びたし、注射も苦手ではなくなった。出会った頃のお前とは全然違う。何より男として魅力が増してきているんだ。学校を卒業し、成人したらどんな風になっているんだろうな。たぶん、いや絶対今よりお前を好きになっているだろう。
それからインキュバスになるのがいつになるのか残念ながら私にもわからない。だから先のことで実感がわかないかもしれないが、夫として私の隣に来るとことを楽しみにしているんだからな。

だからカイト、私をがっかりさせるなよ。




「朝だぞ、起きろ」
声のした方を向く
「……おはようございます、ご主人様」
「何を寝ぼけたことを言っているカイト、それとも昨晩のプレイが気にってしまったのか」
残虐的な笑みで俺を見下ろすご主人様。ではなくリーシャ。
「すみません。寝ボケてました」
「言葉使いが直っていないぞ」
目をこすって上体を起こす。
リーシャを見る。既にシャツにスカートとラフな格好。サイズが小さいのか体のラインがはっきりとわかる。見蕩れる
「大丈夫か?」
「・・・何が?」
「体」
「ああ、大丈夫だ」
「昨日はすまなかったな。あんなことをして」
「・・・うん。びっくりした、でも俺が悪いんだし」
「・・・そうだな」
寂しそうな顔をするリーシャ
「なんでSM風にしたんだ」
「ああでもしないとカイトが本気になって私を押し倒そうとするだろう。私が力でねじ伏せるから問題ないが、そうしたら後味悪くなるからな。最初から上下関係を作り襲えない状況にしたのだ。」
「それじゃなんで、道具を使わなかったんだ」
「あれはお前をビビらせるための演出だ。それに道具より私の体でお前に気持ち良くなってほしいんだ。オナホールの方が気持ちいいとか言われたら傷つく……そう傷つくんだ。」
最後の方はうつむいて言ったリーシャ。
「・・・いつになったら気づくんだお前は」
話題が急に変わり戸惑う。
「えっと」
「私の優しさになぜ気付かない?」
泣きそうな声で俺に言う。


思い出せ俺 リーシャの優しさ・・・リーシャは俺に何をしてくれた?

今までのことを思い返す。コンビニでリーシャに会って、車に乗って家に戻って、買い物して、リーシャの家でご飯を食べて、お風呂に入って、捕まって、搾り取られて・・・。
いや、そうじゃないもっと具体的に・・・
連絡のない俺を探してくれたり、インキュバスでない俺に精力剤を渡したり、動けない俺をお姫様抱っこで運んだり、立とうとする俺に手を貸してくれたり、調教と言いながら痛い事は1つもなかったし・・・合間、合間のこの行動は優しさを感じるじゃないか。
彼女の俺に対する愛情の深さに目頭が熱くなる。そして改めて昨日のことの重大さを痛感する。彼女がどれだけ不安な気持ちで車を運転していたのか。やっと見つけたと思ったら知らない女子とアイスを分け合って食べようとしていた。裏切られたと思ってもっと激しくそれこそヴァンパイアらしく怒り狂ってもよかったはずだ。
でもその怒りは調教で昇華されたわけで。




優しさ・・・・




「ところで謝罪の言葉以外に私に何かかける言葉はないのか?」




リーシャの言いたいことが分かった。彼女は自分の優しさに気付かず反応が無いことに怒っていたのだ。彼女が俺に本当に言ってほしかったことは服や香水、髪のことではなく、約束を忘れたとこの謝罪に加え、彼女の不安にさせたと野への謝罪と探し回った苦労へのねぎらい言葉。

「約束を破ってごめん、それから不安な気持ちにさせてごめん、心配して迎えに来てくれたんだね、ありがとう」


重苦しい空気を変えようとして信号待ちの時にした不意打ちキスは意味が無かったのだ。それでも彼女は俺の意図を読み気を遣って
「このくらいで許されると思うな」と言ったのだ。
この発言は照れ隠しの意味以上に言葉通り怒りの意味を持っていたのだ。顔が赤くなっていたのは純粋にキスされたことへの照れだろう。


彼女の隠れた気遣い、優しさに気付けない自分の鈍感さに腹が立つ遅くなってしまったが彼女の期待にこたえるべくベッドから寝け出し彼女を抱きしめる。

「気づいたようだな」
彼女を抱きしめ今まで言えなかった分を込めて一言
「ごめんなさい」
そして
「ありがとう」
今までに無いくらい感謝の気持ちを込めったと思う
リーシャも腕を背中に回し抱き返す。
しばらくそうやって抱きあう。











グー


俺の腹からこの雰囲気をぶち壊す音が鳴った。
「フフフ」
リーシャが小さく笑う
「そろそろダイニングにいこうか」

グー

タイミングよく再び腹が鳴る
「お前は腹で返事をするのか」
ニヤニヤ笑うリーシャ
俺は恥ずかしくなって
「笑うな、行くぞ」
リーシャをおいて寝室を出ていく。

1人取り残されたリーシャがつぶやく。

「まったく、かわいいやつめ、ますます好きになってしまう」

2人で向かい合って朝食を食べる。
なんというか・・・
「同棲しているみたいだな」
「私は新婚夫婦だと思ったが」
「まあ、将来そうなるからな」
「楽しみだ」
そんなことを言われると照れ臭くなる。俺に期待してくれることが嬉しい。
「次、いつ会える?」
「来週の土日は大丈夫だ」
「そっか、じゃあ・・・泊っていいかな」
「いいぞ、というかもう住め」
突然の同棲宣言
「いや、うん、うれしいけど、通学手段が」
「毎朝私が送ってやる。帰りは電車とバスを乗り継げばいい」
「・・・・。」
「それに同棲すれば毎日お前に・・・してやれるからな」
目そらしリーシャが言う
「えっ、何」
食い付く俺
「私の料理が振舞えるからな」
(そっちかい)
「お前は何を期待していたんだ?」
いじわるく笑う
「なんでもない、いいよ同棲は」
朝ごはんをかきこむ。
「エロいことしてくれないからか?」
「ぶっ」
噴き出す俺 そしてむせる
「図星か」
「期待しちゃ悪いかよ」
「期待していいぞ」
あっさり言う。
「本番以外ならな」
「わかった。そういえば、昨日俺が脱いだ服は?」
「服・・・、ああ、あれか、あれは洗濯に回した。」
あわてるリーシャ
「そう・・・ありがとう」
「今度会った時に渡すな」
(言えない、カイトが寝た後にオカズに使ったなんて言えない)

朝食の後、リーシャに自宅まで送ってもらった。
玄関前
「カイト」
「ん?」
「なるべく頻繁に会えるよう私も努力する。だからお前も忘れるな」
抱きしめられ首筋にキスされる。
「忘れないよ」

俺は忘れない。会う約束のことだけじゃない、リーシャから愛されていること、リーシャに感謝の気持ちを伝えること、そしてリーシャの恋人(もの)であることを
14/03/11 20:11更新 / 明後日の女神
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■作者メッセージ
嫉妬心をこういう形で相手にぶつけて解消していく。調教といっても痛みを与えることはしない。常に相手への優しさを出している。リーシャをツンデレのつもりで書いたのですが。表面上ツンはあるけど中身は全てデレになってしまいました。次回はカイトの方が嫉妬する話なんですが書けるのはいつになるか分かりません。ここまで読んでいた炊きありがとうございました。

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