連載小説
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温泉街での休息 Rest at a hot spring town 前編
破壊の剣を取り戻して…
「さて、山あいの街クルスに行くかな。」
『なぜ親魔物領に?』

「教団を滅ぼすにしろ、滅ぼさないにしろこの世界をもっと知っておく必要があるからな。」

『そう、貴方が滅ぼす方向に行かない事を願っているわ…。』

「さて、どう転ぶかな。」

ノワールと会話もそこそこに、俺はクルスに向かうことにした。

「じゃあな。」

『またどこかで会いましょう。』

「合えたらな。」

『えぇ。』

ノワールと別れ、俺はクルスに向かった。

「地図によると、7時間も歩けば着くな。」

俺は地図をしまい、クルスに向かって歩き始めた。







4時間くらい歩いて、少し休憩することにした。

「少し休憩しよう。」

「んっ、んっ、んっ、ブチッ、ブチッ。」

俺は水筒から水を飲み、買った干し魚をかじった。

「よし、行こう。」

俺はまた歩き始めた。

「なにか飛んでるなぁ…。」

ふと空を見ると、何かが飛んでいるのを見た。

「まあいいや、行こう。」

さらに3時間くらい歩いて、街の門が見えて来た。

「街の門だな。」

『あら?』

「なんでここにブランが居るんだよ…。」

『貴方も温泉旅行?』

「いや、とりあえずこの世界のいろいろなところを回って考えたいと思った。」

『ふ〜ん。』

「教団に対する憎しみは消えない、だけどただ滅ぼすのは奴らと同じだと思った。」

『少し考え方が変わった?』

「あんたの姉さんに会った。」

『姉さんに?』

「ああ、ぶつかり合った。そして今すぐに教団を滅ぼすのは保留することにした。」

『そう、これからどうするの?』

「とりあえず宿を探す。」

『ならいい宿を紹介するわよ♪』

「…」

(罠かな、それともただの善意かな…、全くわからん。)

『?』

「どんな宿なんだ?」

『値段はそれなりだけど温泉が外にあるのよ〜♪』

「露天風呂か。」

『知ってるの?』

「この世界に来る前に入った事がある、あまり回数は多くないけど。」

『ご飯も美味しいのよ、ジパング料理よ♪』

「本格的だな。」

『えぇ。』

「ならそこにしよう。」

『こっちよ。』

善意を無下にするのも悪いと思ったので、ついて行くことにした。







『ここよ。』

「立派だな。」

『だけど値段は安めなのよ。』

「ありがたい話だ。」

『受付してくるわね。』

引き止めようとしたときには彼女が部屋の手続きを済ませていた。

『終わったわよ。』

「あ、あぁ。」

恐らく同じ部屋にされたのだと思うと、いろいろ不安になった…。

『この部屋よ♪』

「綺麗な景色だな。」

『えぇ、そうね。』

「さて、酒場で情報集めないと。」

『ここには着替えがあるわよ、着替えて行ったら?』

「着替えなんてあるのか。」

『浴衣って言うんだけど、知ってる?』

「だいたい知ってる。」

『なら帯締めてあげるわね。』

俺の意志も聞かず、ブランは俺の浴衣に帯を巻き始めた。

『貴方、旅を急ぐのもいいけど温泉街を楽しむのもいいわよ。』

「…だな、急ぐ旅でもない。」

『なら行きましょう。』

「ちょい待ち」

『?』

「これが無いと落ち着かない。」

俺は遺産の剣と自分の剣を腰に差した。

『旧時代の遺産よね、それ?』

「らしいな、普通の人間なら剣に殺されるか意識を乗っ取られるらしい。」

『それを普通に扱えるの?』

「少なくとも封印の方は使える。」

『ふふふ…。』

「?」

『なら行きましょう。』

「だな。」

温泉街では、人間も魔物も普通に混ざっていて改めて親魔物領であることを理解した。

「これは、蒸し饅頭だよな…。」

『知ってるの?』

「知ってるかはわからないけど似たようなものは食べたことがある。」

『ならこれ2つ。』

ブランは買うとも言ってないのに蒸し饅頭を2つ買った。

「ほら。」

『?』

「奢ってもらうと後が怖いからな。」

『そう、あつつ、あつっ。』

「そんなに頬張るからだ。」

『ふふ、美味しいわね。』

「だな、予想とは違うけど美味しいのは確かだ。」

『そうね。』

「買い取りの店知らないか?」

『それならこっちよ。』

ブランに手を引っ張られながら店に向かった。

「これ全部でどのくらいになりますか?」

「金貨50枚、即払いできる。」

『ちょうど良い金額ね。』

「ならお願いします。」

「ありがとう。」

店から出てしばらく歩いていると、ブランが話し掛けてきた。

『あれ、どこで手に入れたの?』

「グリネ村の事件で村を襲った教団の奴らのものだ。」

『あ、なるほど…。』
「そろそろ遅い、戻ろう。」

『そうね。』

宿に戻り、ブランとしばらく会話した。

『そういえば貴方にいくつか聞きたいことがあるんだけど。』

「内容によるな。」

『とりあえず聞いていい?答えたくないなら答えなくていいから。』

「わかった。」

『なら1つ目、貴方は今すぐ教団を滅ぼすわけじゃないって言っていたけど、どういう意味?』
「さっき言った通りの答え以外には、まず一人だと間違いなく無駄死にになるから同じ境遇の仲間を集める。」

『復讐者の集団を作る訳ね。』

「まずこの地点で教団に対する憎しみを持つ奴らがどのくらい居るのかが分かる。」

『確かにね、だけど場合によっては私達が持ち帰って美味しく頂いちゃってるわよ。』

「そこだ、魔物に出会い憎しみを捨てる奴らがどのくらい居るのかを更に調べて考える。」

『なるほど。』

「人数が少ないなら、教団のトップを殺すだけにする。」

『?』

「トップを殺したら崩れ始めた教団をあんた達が持ち帰ってもいい。」

『貴方、なかなか魔物を理解してるわね、犠牲が出るのはよくないけど。』

「自分は手を汚さず、私腹を肥やす奴が命乞いをしている所を躊躇いなく殺すのは楽しいだろうさ。」

『…。』

「残った奴らはあんた達が好きにしていいんだから、悪くはないと思うが。」

『犠牲は0にしたいのよ。』

「お高く止まった奴らにも慈悲を与えるのか、情け深いことだ。」

『なら次の質問ね、貴方は姉さんと話したって言っていたけど、私の気持ちを知っているの?』

「ああ、一応は。」

『そう、ならなぜ私が宿を案内するときに断らなかったの?』

「あんたがそういう籠め手を使うとは思えない、魔王の娘なら、真っ向から来ると思った。」

『そういう事だったのね。』

「最上位の妖魔ともなれば、普通なら即落ちるらしいからな。」

『貴方は落ちないけど。』

「村長が言うには魔力や魅了に対する耐性が異様に高いらしい、一般人の数百倍だとか。」

『難攻不落ね、それだからこそ面白いけど。』

「まあ俺としてもブランと居るのは苦ではないけど。」

『本当?』

「まあいきなり獲物を見るような目で見ないしな。」

『そうね、将来の旦那様にそんなはしたない目で見ないのは当然よ。』

「勝手に決めてくれるなよ…。」

直後、夕食が来たので食べることにした。







「うまそうだ。」

『そうね、食べましょう。』

「だな。」
しばらく食べていて、俺は好物を見つけた。

「海老真薯だ。」

『どうかしたの?』

「好物だ。」

『そう、良かったわね。』

「この世界で食えるとは思わなかった。」

『私も連れてきた甲斐があったわ〜♪』

「ありがとう。」

『えぇ。』

食事を終えてしばらく経った時、ブランが切り出してきた。

『そういえば、露天風呂入って来たら?』

「そうだな、せっかく温泉に来たんだ、入らないと損だ。」

『そうよそうよ♪』

俺は温泉に向かった。

「ここか、どんな湯かな。」

カラカラカラ。

「なかなかいい三日月だな、しかも貸し切りか。」

『そうね。』

「ん?」

そこには何も着けず、生まれたままの姿のブランが居た。

「!?」

『ここは男女混浴よ。』

「そ、そうなのか。」

『別に目を背けなくてもいいじゃない、私達しかいないみたいだし。』

「いやいやそういう問題じゃないって…」

『他の客は、もう済ませたみたいよ。』

「す、少し時間が遅くなってしまったからなぁ。」

『?』

「頼むからタオル巻いてくれ、刺激が強過ぎるんだよ…。」

『意外と初心なのね♪』

「この世界に来る前は出会いがなかったからな。」

『そう、だとしたらそれも運命なのかもしれないわね。』

「はよタオル巻け!」

『真っ赤じゃない、顔♪』

その後とりあえず湯船に浸かった。

「…。」

『まだ顔が赤いわよ♪』

「湯が少し熱めだからだろう。」

(ちらっとしか見なかったけどブランの身体、すごく綺麗だったな…。出るところはしっかり出て、それ以外は締まってる、しかも肌もすべすべして柔らかそうだ、本当にブランに全てを委ねてもいいと思いかけるほどだ…、それもいいかもしれないな。)

『それだけじゃなさそうだけどね♪』

「否定はしない。」

『意外と素直ね。』

「俺にも欲望はある、そもそも人間にない方がおかしい。」

『確かにね。』

「それに隣にこんないい女が居るんだ、赤くならない方がおかしい。」

『魅力的には思ってくれてるのね♪』

「否定はしない。」

『そう、もっとこっちに来てもいいのよ♪』

「下手をすればこのまま堕ちる、俺はまだ堕ちる訳にはいかない。」

『信念硬いわね〜♪』

「それに俺はこんな風にのんびりする事も許されないはずなんだよ。」

『?』

「俺はあの村を守らなきゃいけなかったんだ、あの時に相討ちになってでも守り切らなきゃいけなかった。」

『…』

「契約主を守れなかった奴に幸せになる権利があるはずがない。」

『…。』

「長話をし過ぎたな、先に上がるよ。」

『え、えぇ…。』

湯船から上がり、俺はそのまま眠ってしまった。







「や…、め…。」

『?』

「た…の…。」

『…うなされてるわね。』

「俺は…また…。」

『大丈夫…、大丈夫だから…。』

「!朝か。」

『…。』

何故かはわからないが、俺はブランに抱き抱えられていた。

「…。」

『あら?起きたみたいね。』

「一体何が?」

『うなされてたのよ、だから私が抱き抱えたのよ。しばらくしたら安心した寝顔になったからこのまま私も寝たわ♪』

「なんか、済まん。」

『いいのよ、私も貴方が悲しみを背負ってるのがわかったしそれにいい体験だったわよ♪』

「そらそうだよな…。」

『いつもうなされてるの?』

「いや、これで5回目だ。」

『意外と少ないのね。』

「そうなのか?」

『そうよ、貴方はなかなかに強い心を持っているわよ。』

「だけどそれはまだ憎しみといい支えが俺にあるからこそ、そうなっているだけかもしれないけどな。」

『憎しみがなくなった時には、私が居るから大丈夫よ♪』

「俺の人生は俺が決める、結果がブランの夫になってもそれは俺が選んだ道だ。」

『それはそうね、だけどそうなるのよ。』

「それはわからないぞ?」

『?』

「教団を殲滅したはいいが俺が死ぬかもしれない。」

『可能性としてはあるわね。』

「そうなったらブランの筋書通りにはならないんじゃないか?」

『貴方は死にたいの?』

「死にたいとは思わない、ただ可能性があるという話だ。」

『その時は、私達が何とかするわよ♪』

「頼もしい、なうん…。」

『任せて。』

「で、もう離してくれないか?」

『まだこうしていていいのよ?』

「俺が恥ずかしいんだよ…。」

『ふふふ…♪』

結局解放されたのは、宿の中居が朝食を持って来てからだった…。

15/03/12 22:33更新 / サボテン
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■作者メッセージ
どうもサボテンです、第5話です。
今回からジュンが話していることを「」、魔物娘が話していることを『』にしましたがどうでしょうか?
分かりにくいなら戻します。
次回の話や出てきて欲しい娘のリクエストがありましたらどしどしお願いします。

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