連載小説
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P-02
 あれからシルヴィアの家を離れたリアムは近くにあった別の街へと偶然にも辿り着くことができ、その街でリアムはまず生活するためのお金を稼ぐために前の世界にいた時と同じようにして仕事を探すことにしました。

 以前仕事を探そうとしてとても苦労し、結局のところ報われなかったリアムはまともな仕事を探すことは諦めて依頼を受けて淡々と雑用などをするギルドへ所属して生活費を得ることにしたのです....




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 シルヴィアさんの家を逃げるようにして出てきた僕は時々鈍痛の走る足を気にしながらも時には歩みを止め、鞄の中に残っていた味のしない携行食をかじって空腹を満たして休憩を挟みながら道に立ててある看板を頼りに付近の街へと確実に向かっていたんだ。

 それで街に辿り着くとその時は日がほとんど出ていて街の風景がはっきりと確認できるほどでね、僕の住んでいた世界とは違う場所だとは分かっていても建物などは前の世界とほとんど変わらないものだったから違和感は感じなかったんだけど....街の人々は聞いていたから分かってはいたものの人ではない魔物?がほとんどだったのさ。

 シルヴィアさんの話を聞いたあとだから覚悟はできていたけども....見慣れない魔物という存在は僕にとって恐ろしい存在には変わりはなかったから内心怯えてはいたけども近くの街はここだけだから勇気を出して街へと入っていたんだ。

 ....街へと入るとやっぱり感じるのは周囲からの視線だった。

 兵隊だからという理由ではなく珍しい格好をしているから見られているんだとは何となく分かってはいるけど替えの服も無いし、武器や装備を捨てるにしてもこんな未知の世界でいつ襲われるか分かったものじゃない。だからそういったことから僕は服はどうにかなるにしても装備を捨てることはできなかったんだ。

 そんなこともあって周囲の視線を浴びながら通りを歩いていると突然声をかけられたのさ....

 「....おい、あんた。」

 「ぼ、僕ですか....?」

 「そうだ。というよりもあんたしかいないだろう....」

 「....それで僕に何の用ですか。」

 「あんまりこの辺じゃ見かけない顔だし、その見たこともない武器。あんた、他所から来た傭兵かなんかだろう。」

 「い、いや、僕は傭兵なんかじゃ....」

 「どうせ所属していた傭兵団から追い出されでもしたんだろう?なら、おまえさんに丁度いい再就職先があるぜ、ギルドだ。」

 「ギルド....?」

 「あんた本当に何も知らないんだな....まあ、この先の突き当たりに弓の印がある看板の掛かった建物がある。そこにとりあえず行くんだな。」

 「行けって言ったって....」

 「頼むから早く行ってくれ....あんたのその格好、目立つからよ....」

 そう言われると軽く肩を押され、戻れなくなってしまった僕は仕方がなくそのギルドという場所に行くことにしたんだ....

 そうしてなんとかギルドと思わしき建物に辿り着いてスイングドアを開けると目の前に受付があるような形の内装になっている建物には人がほとんどいなくて、いたとしても寝ているようだった。

 まあ、見られるのも嫌だったから都合が良かったのかもしれないけどね....

 それでとりあえず申請をするために受付へ行くと女性ではあったけど案の定魔物の方が出てきて対応してくれたんだ。

 「あ、あの....ここに所属する申請をしたいんですけど...」

 「.....ああ、新規の方ですね。今用紙をお持ちしますから....はい、ここに情報の記入をお願いします。」

 「分かりました....」

 そうして出てきた用紙に目を通してみるとそこには名前と身体的特徴、もしあれば使う武器の名前を書く欄があったのでそれらを差し障りないように記入して提出したんだ。

 「ではお預かりいたしますね.....?この銃というのは何でしょうか....」

 「ああ、銃というのはこれです。」

 そう言って僕は肩にかけていた銃を下ろして受付の前に置いて説明したのさ。

 「槍....のように見えるので申請としては槍として処理しておきますね。」

 けれど魔物の方は理解してくれなかったようで銃を槍として誤認されてしまったんだ....

 「では、これで申請の方は終わりましたからこれを肩につけてください。これがあればここのギルドの所属であると瞬時にわかってくれますから。」

 そう言われたので僕は階級章を取り付けるあたりに布のバッチを取り付けた.....




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 ....こうしてギルドへと所属したリアムは最初こそ簡単な依頼ばかりでしたが次第に難しい依頼も一応はこなせるようになり、そこそこの生活を送れるようにはなりましたが路地裏で生活を続けていました。

 理由は色々とありましたが、そのなかでも大きな理由としては稼いだお金のほとんどを近場にあった街の教会の孤児院に寄付していたからでした。

 最初は単純にも小さい子供というのはリアムにとって怖がることが何もない存在であり、自分を苦しめない者だとそのようにして考えて接することで自らの気持ちを楽にしていました。

 けれどその子供であってもリアムと同じように親を失っていたり、親に捨てられてしまったりした状況は違えども自らと同じ境遇の子達が居るこの街の孤児院について、リアムは孤児院が資金不足で運営が困難なことを知ったのです。

 そのためリアムは子供たちが親がいないことで既に辛いというのにそこからさらに苦しくて厳しい生活を送らなければならないのはとても辛いことだと思って、仕事で貰うお金の8割以上を孤児院へ毎日のように寄付していたのでした。




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 .....つい最近までは自分が生きるということだけを考えて、毎日のように依頼を受けて仕事をこなしたらお金をもらって....それで時々食べ物を買って、ただ暮らしていただけだったんだ。

 だけどある時、普段通りの買い物をした帰りにボロ切れのような服を着た子供に出会って....その子は僕の食べる物が入った麻袋をしきりに見つめていたんだ。

 「....君、もしかして食べ物が欲しいのかい?」

 だからさ、僕は小さい子でも食べられそうな甘めなビスケットを差し出してあげたんだ。まあ、僕には味なんてわかりはしないんだけどね....

 「はい、これ....甘くて美味しいよ。」

 「....食べていいの?」

 「構わないさ....ほら、遠慮はいらないから....」

 そう僕が言うと最初こそは少し警戒しながらもビスケットを手にとって、ほんの少しずつ食べていたけども....ひと齧りするたびに食べるのが早くなっていったんだ。それで気付いた時にはあっという間になくなってしまったのさ。

 「....どうだい、口にあったかな?」

 「うん....とっても美味しかった。お兄さん、優しい人なんだね....」

 そう言われた時、いくつもの光景が脳裏を巡って....

 「....僕は優しくなんて、ないよ。」

 「だけどお兄さん、食べ物くれたから....」

 素直にその優しいという言葉を受け取ることはできなかった。

 そうしてその後すぐに心を許してくれた彼が自らの口から孤児院に住んでいることを言ってくれて、それで初めて知ったのさ....

 「....じゃあ、君には友達が沢山いるんだね。」

 「うん、みんなと教会のシスターさんで一緒に暮らしてるんだ。」

 「そのさ....みんなにも食べ物をあげたいから、教会まで連れて行ってくれないかい?」

 「わかったよ。じゃあ、こっちに来て!」

 そういうと彼に手を引かれて道を進んでいくとひらけた場所に出て、教会のような建物が見えてきた。けれどその建物はあちこちの壁や屋根の木材が剥がれ落ちていたり上から塗ったであろう塗装も剥げていて、とても人が住んでいるような建物ではないように見えてしまったんだ。

 だけど彼が教会に近づくと5、6人の同じぐらいの年頃の子供たちと一緒に1人だけ成人した女性、シスターなのであろう人物が正面の扉から出てきたんだ。

 それで彼に近づいてきた子達にもビスケットをしっかりと約束通り全員にわたしてあげて、小さい子たちが食べることに集中している間にシスターに気になっていることを聞こうと思って話しかけてみたんだ....女の人だから怖かったけどね。

 「あの....ここのシスターは貴方でしょうか....」

 「はい....そうですが、何の用でしょうか....」

 そうして良く良く彼女のことをよくみてみると僕を前に治療してくれたシスターさんと似たような格好をしていたので魔物だということもわかったんだ。

 だけど、その修道服は所々擦り切れていたり煤で黒く汚れてしまっていて、とても酷かったのさ....

 「いや、もし良ければこの教会に寄付をしたくて....子供たちも満足に食事ができていないようですし、その、シスターさんも....」

 そう言って僕は溜まりに溜まっていたお金の入った袋を差し出してあげたんだ。

 「これを使って、満足とまではいかないとは思うけど普通の暮らしをして欲しいんです。」

 「そんな....こんな量のお金、受け取れませんよ。それに、貴方にも生活というものがあるでしょうから....」

 ....確かに僕にもお金は必要だ。だけど、だからと言って困っている人を、困っている子供たちを助けずに苦しんでいるところを傍観しているだなんて、僕には到底できないよ....

 「....良いんですよ、僕の生活にはお金なんて必要もありませんし、有意義に使ってくれた方が僕も嬉しいですから....」

 「....そう、ですか。」

 そうしてようやく受け取ってくれたんだ....

 ....それでその日を境に僕は報酬として貰ったお金を寄付しながらも教会の子供たちの遊び相手をしていたりもしたのさ。

 その頃には子供たちも綺麗な服を着ることができて、食べ物も安定して食べることができているようでその辺の普通の子供と変わらないぐらいになって....内心ちょっと嬉しかった。

 それに小さい子っていうのは遊んでいると気分が楽になってね....幻聴や幻覚、悪夢でうなされることが最近また酷くなってきていた僕の心の拠り所にもなっていったんだ.....




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 こうして寄付をしながらも平穏に暮らしてリアムでしたが教会のダークプリーストには彼から確実に生気が薄れてきていることに気がつかれていました。

 それで、どうにかして自分たちに恵んでくれた彼にも幸せになってほしい、そう思った彼女でしたがどうしたら良いのかが分かりませんでした....なので知り合いのダークプリーストに助言を求めることにしたのです。

 しかしそのダークプリーストは偶然にもリアムの治療をしたシスターだったのでした....




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 ....彼が居なくなってからのこと、シルヴィアさんも塞ぎ込んでしまうようになってしまいました。

 理由は色々とあったんですけどね....やはり突然居なくなってしまったことが彼女とってとてもきついことだったみたいで....

 恐らくシルヴィアさんは彼のことが好きになってしまったんだと思います、でなければ居なくなった次の日にあんなに血眼になって探したりはしませんから....

 それで今はお仕事にも行けていないらしくて....時々家には行ってますがどんどん元気が無くなっていているのが伝わってきてきました....

 ....そんな時でした、彼が知り合いのダークプリーストの教会に通っているということを知ったのは。

 そのことをシルヴィアさんに伝えると彼女は静かにそうですか、と呟いたあと、荷物もまともに持たずに家からゆっくりと出てきてその教会がある街へと行ってしまいました。

 ...その時の彼女は顔に隈ができていて、目は充血していて.....

 止めようとも思いましたがただならぬ雰囲気から私にはそれができませんでした....




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 ....あの日、彼にとっては1日だけのことだったのかもしれませんが私にとってあの日は特別な日でした。

 どこから来たのかも分からない彼を一目見た時から守ってあげたい、幸せにしてあげたいと心から思ったんです。

 ....私が彼を、リアムさんを好きになる理由はそれだけでも十分でした。

 けれど、リアムさんは怪我が治ってもいないのにも関わらず私の家から出て行ってしまいました。

 その時からずっと考えていたんです....何がいけなかったんだろうって。

 接し方?話し方?それとも、この鎧?....色々考えてはみましたが結局行きつくのは私が魔物だということでした....

 ....確かに違う世界から来たリアムさんにとって魔物というのは初めて遭遇するものでしたでしょうから、抵抗があるのはごく普通のことです。それにアンデッドであるなら尚更....生まれながらにして死んでいるのですから、気味悪がられるのは当然ですよね...

 でも、うなされていた彼を抱きしめた時に見せてくれた安心したような表情を思い出すと諦めきれなくて....だからもう一度彼に会いたくて探しましたけど、簡単には見つからなくて、そんな風にずっと悩んでいたんですけどね....知り合いのダークプリーストさんが彼のいる場所を教えてくれて、彼がどこにいるのかを知ることができたんです。

 だから、今すぐにでも行ってあげて、あの時のように抱きしめてあげるんです。

 それで彼を幸せにしてあげて、できれば一緒に暮らして....そんなことを考えていると私の体は既にリアムさんの元へと進んでいました....

 「リアムさん....絶対に幸せにしてあげますから.....絶対に...絶対に....絶対に....」




20/03/22 20:20更新 / はぐれデュラハン
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■作者メッセージ
更新が遅れてしまいすみませんでした。内容としては折り返しに入り始めているのでこれからスムーズに進められればと思っています。これからもお暇であれば見ていただけるとありがたいです。

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