連載小説
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リリム 危険度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 あとがき


 深き森を駆け、薄暗い洞窟を抜け、揺らめく水面を巡り、燃えさかる山を越えたあなた。
 
 振り返って見た景色は、全てあなたが乗り越えてきたもの。
 その達成感たるや、筆舌に尽くしがたいものでありましょう。

 ですが、決しておごることなかれ。
 あなたがどれほど道を極めようとも、決してたどり着けない境地がある。
 
 あなたの目の前にそびえ立つ荘厳な城塞は幻覚などではありません。
 そこにはこの領域一帯を治める魔物の王女、リリムが住んでいるのです。

 全ての男を惑わすほどの美貌を持つと言われ、生まれ持って備わる王としての才覚を存分に発揮し、理想郷を作り上げるべく日々魔物達を統率しています。

 彼女たちに勝てる人間など、おそらくはいないでしょう。
 いたとしたら、それは旧代の勇者と呼ばれる者達。
 この本を読んでいる方には無縁の話です。
 野生の魔物と違い、向こうから突然襲いかかってくる訳でもありません。
 このサバイバル読本で掲載する必要のない魔物なのですが、まあ折角なので、彼女たちとこの魔界の関係性について述べていきましょうか。

 
 魔物娘の中でも一際めずらしい存在で、一つの大陸に一体程しかいないそうです。
 そのせいで、魔王の娘であるリリムの膨大な魔力が大陸を作りあげた、なんて俗説もあります。
 真相は不明ですが、リリムの総個体数は未だ把握できておらず、無限に広がる魔界には未開の土地がまだ存在するのは事実です。

 彼女たちは大陸に国を作り、理想の世界に変えるべく日夜努力を重ねています。
 しかし、その方法は個体によって十人十色。各々の趣向によって大陸の風景を万色に変化させる様は、さながら人間界の国々のようです。

 魔物や親魔派の人間は自分に合った国に住むため、国民達の幸福度も人間界に比べて遙かに高いと言われています。

 数ある国家の中でも特徴的なものをいくつか、ここで紹介させていただきます。





 
 1 性別を越えた国「アルジェンド」

 アルプの事が大好きなリリムが国を生み出した結果、この国には性差別という概念がなくなってしまいました。
 
 ジパングの半分ほどの面積であるこの国に足を踏み入れた男性は、強制的にアルプになってしまいます。
 どれほど屈強な肉体を備えていようとも、この国に入ってしまえばはかなげな少女に早変わり。
 それだけで済まないのがこの国最大の特徴。
 なんと、女性化する人間とは対照的に、サキュパスは男性化するというのです。
 正確には男性になっているわけではないらしいのですが、豊満な肉体は筋肉質に変化し、股間には立派な男性器が生えています。
 なんでも、かわいいアルプの処女を手ずから奪ってあげたい。というサキュバス達の執念が彼女たちの肉体に作用した結果なんだとか。
 
 さらに面白いのが、この性別変化は自由に変えられる、というところ。
 つまり、昨日女性だった者が今日は男性になっていたりするのです。
 そんな国だから大衆浴場は全て混浴ですし、どっちの性別でも楽しめるユニセックスファッションが大流行しています。

 この国に古くから住むものは、もう自分の性別がどちらか分からなくなっているそう。
 





2 闘争と祭典の国「ドリッセウム」

 戦闘を得意とする種族や好戦的な魔物達、あるいは腕に自信のある人間が集まる国、ドリッセウム。
 点在する大小100に渡る闘技場では毎日のように魔物や人間による闘技会が開かれる。
 人間界の4年に一度の祭典が連日行われるわけだから、その活気たるや凄まじいの一言につきる。

 勝てば官軍、負ければ賊軍。
 敗者は勝者に対し無抵抗で襲われなければならず、その見せ物のような光景を見るために足を運ぶ観客達も多い。
 しかし、闘技会で優秀な成績を上げた者は、その種族に問わず栄光を手にすることが出来る。
 その為、リスクを承知で身分の低い人間が立身出世の為に戦いに出るのも珍しいはなしではない。
 
 肉体派が多いため誤解去れがちだが、国の治安は驚くほど安定している。
 「喧嘩をするなら闘技場で」「試合が終われば敵はなし」の精神が国民達の奥底に根付いているおかげで、闘技場外での乱闘は滅多に起きないそうだ。

 種目は闘技場によって様々であるが、今もっとも熱いのは半裸の男女が肉体を打ち合わせて戦うプロフェッショナルレスリング。
 日夜新しい技を生み出していく選手達に、観客達は熱い声援を送っている。
 注目選手は正体不明のサキュバス闘士「マスクド・リリー」

 尻上がりで技が冴えていくスタイルはまさにプロレス向き。
 空中戦が得意で、相手を飛翔させ、間接技から流れるように犯していく「サキュバ・スパーク」は一見の価値アリ。

 リリーの正体はこの国を統べるリリムという噂が飛び交っているが、誰もマスクの裏に隠れた素顔を知るものはいないという。

 ちなみに医療機関も充実しており、どんな怪我をしても絶対に死ぬことはない。

 不慮の事故で細かいサイコロ状になってしまったが、三日後にはピンピンして闘技場に復活したという不死鳥伝説を持つ男性闘士もいる。







3 懐かしさが香る国「ショーワニア」

 とある時代のとある発展途上国、その一風景を切り取ったかのような町並みが広がる小さな国です。
 
 なんでも、この国を統べるリリムとその夫が、過去住んでいた場所が近代化によってなくなってしまったのを悲しみ、その面影を頼りにこの国をつくりあげたのだとか。

 発展途上国をモデルにしたせいか、文明レベルは低いように思える。
 交通整備も整っておらず、電波受信機は白黒の画面しか写さない。
 
 しかし、何故か落ち着く。という国民達。
 
 親魔国家としては非常に先進しており、空き地では魔物の少女と人間の少年が仲良く遊ぶ姿が見られる。
 この独特な文化に興味をもつ魔物娘達は思いの外いるようで、ショーワニアは着々と国土と領民を増やしつつある。

 良い方面にばかり目を向けていますが、もちろん問題も抱えています。

 現在この国では住民の需要に対し、お店や施設などの供給がいささか足りていない状況なのです。
 国は急務として、この特異な文化を知る人間を率先して招致する政策をとっています。
 
 特に“ダガシ”とよばれるジャンクスイーツや、子供達が遊ぶオモチャについて詳しい方には博物館のキュレーターの様な仕事が用意され、手厚いサポートを受けることが出来ます。
  
 自信のある方、興味のある方は是非一度赴くことをオススメします。
 





 

 いかがだったでしょう。

 この他にも多数の国家があり、そのどれもが独自の魅力を醸し出しています。
 人は生まれる場所を選ぶことはできません。
 そのかわり、生きていく場所は自由です。
 元の場所に帰るのも正しいといえるかもしれません。
 しかし、折角魔界と人間界が手をとったのです。
 旅行気分で様々な国家を渡り歩き、第二のふるさとを見つけてみるのも面白いのではないでしょうか。







 あとがきのあとがき

 ここまで読んで下さったという事は、さぞ魔物娘に対して興味を抱かれているのでしょうね。

 そんなあなたへ、最後の最後で身も蓋もない話をさせていただきます。
 この本を読んだ内容を、あまり間に受けないでいただきたい。

 正確に言えば、本を読んだだけで魔物娘を知った気にならないでほしい。
 
 
 冒頭で“コボルドは大人しい”なんて書きましたが、男の尻を噛むような滅茶苦茶暴れん坊のやつもいます。
 ドラゴンだって想い人にデレデレしたい娘もいるんです。
 男性よりもお菓子が好きなサキュバスも、いるかもしれない。


 それは異常ではなく、ただの個性です。 
 
 人間だって同じ人は一人もいない、ならばその道理は魔物娘にも通じること。
 そういう彼女たちに出会ったら、ここに書いてある事は全く意味を成さないでしょう。
 
 ではどうするか?
 
 簡単簡単。
 
 彼女達をじっくり観察すればいいだけです。
 目を見て、癖を見つけて、何ならおしゃべりするのもオッケー。
 決して、杓子定規に当てはめて彼女達を見ないでください。

 そこにいるのはどのページにも載っていない、世界でただ一人しかいない、我々の良き隣人なのですから。



18/04/06 00:06更新 / 牛みかん
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■作者メッセージ
本編はこれにて一度終了となります。
 思いつきで書き始めたものがここまでたまったことに正直、自分自身驚いています。
 皆様からのたくさんの感想があったから、ここまで続ける事ができました。感謝につきません。
 まだまだ出せていない魔物娘も多数いらっしゃるので、ネタがたまったらまた新作として書きたいな、なんて思っています。
 
 それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。 

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