読切小説
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パーティバランスどうですか?
宗教国家レスカティエが、魔界国家レスカティエへとあっさり変貌してしまった要因。
その理由を道行く人々に訊いたとしたなら、大抵の人は口をそろえてこう言うだろう。
『デルエラ様とその部下たちの力が強大だったから』と。

確かにそれは間違いない。要因の九割ぐらいはそれだろう。
ではそれを第一要因として除外したとしたら、第二要因は何であろうか。
この問いへの答えは各々によって大きく変わるだろうが、騎士団員やその関係者に訊いたとしたなら、かなりの確率で『深刻な士気不足』と答えるはずだ。

底辺とはいえ一応勇者の身分だった自分がいうのもなんだが、以前のレスカティエは本当に酷かった。大小はあれど、大勢の勇者が心の中に無気力感を抱き、熱意もなく義務として役目を果たしていた。
少しはいた熱意ある者も『友人や家族、大切な人のために戦う』といった個人レベルであって『レスカティエや人類のために戦う』という“高潔な意思”とやらを持った者がはたして存在したのかどうか。

底辺勇者だった自分は言うまでもなく無気力派であり、親しい人のために戦いはすれど熱意は皆無だった。レスカティエの敗色が濃厚と見えてきたころには、元から低かった士気は限りなくゼロに低下。
『こんな国もうどうなっても構うものか』と思い、一緒に行動していた仲間と脱出しようとした。だが、そのときにはすでに遅かったのだ。

自分と違いそれなりに腕が立つ勇者だった姉さ…レイヴとそのお伴だった騎士ナイ。
魔物の魔力によって汚染されていく街の中、徐々に体調を悪化させていった二人は自分の目の前でついに魔物と化した。
頭部から角を伸ばし、腰から翼を生やし、尻から長い尻尾をくねらせるサキュバス。
節穴な自分の目に完全に魔物と化した二人の姿が映ったとき、自分は完全に戦意を失ってしまった。彼女たちと脱出するためならまだ必死になって抗えたが、その二人が人間でなくなった以上、もはや戦う意味などどこにもないのだから。
……まあ、二人を敵に回しても十中八九勝てないので、痛い目にあう前に降参しようという思惑もあったけど。

と、そんな感じであっさり白旗をあげてしまった自分だが、当然ながら酷い目にあわされることはなかった。
もちろん二人揃って『おまえのことが好きだったんだよ!』と告白されたことには驚いたし、ナイはともかく、両親が同じレイヴと交わることにそれなりの忌避感が働いたが、それだけ。

レスカティエで勇者と認定された中でも、その力は下から数えた方が早かった自分。
同じ勇者のみならず、一般兵たちまでもが陰で笑っていたのを知っている。
だというのにそんな底辺勇者を決して軽んじることなく敬ってくれたナイ。
サラッとした長髪を頭の後ろでまとめたその姿は人間だったころから美しく、
そんな彼女が心の底から愛してくれることが嫌なわけもない。

『弟と違ってなかなか使える』と上層部が評していたレイヴ。
本人が優秀であるほど身内の恥は忌々しく感じるものだろう。
こんな不出来な弟を持って彼女は内心どんな思いで毎日を過ごしていたのか。
それこそ『姉弟の縁を切る』と絶縁宣言されても仕方ないと自分は思っていたのに、彼女は昔からずっと変わらず、自分を助けたり励ましたりしてくれた。
一人の人間として見れば、レイヴなんて自分にはもったいないほどの女性だ。
さらに実の姉であるという禁忌も、一線を越えてしまえば背徳的な魅力として彼女をより美しく感じさせる。
こんなわけで、無条件降伏した自分はそこら中に転がる男性らと同じく、二人の誘惑にすぐ堕落してしまったのである。



薄暗い空に弱々しく太陽が光る暗黒魔界の空。
もともと庶民だった自分の実家よりはるかに広いナイの屋敷。(本人いわく『もうネムレス様の屋敷』らしいが)
時刻も三時を回り、テラスの丸いテーブルでいつものようにティータイム…としゃれ込もうとすると、レイヴが床に置いたカバンから一枚の紙を取り出し、ペタリとテーブルの上に置いた。
『一体何なのか…』とナイと揃って身を乗り出して見ると、それはイベントの告知ビラだった。

「迷宮探索競技…ですか?」
ナイが紙の一番上に書かれた文字を口にすると、レイヴはツーテールを揺らして頷く。
「そう、あなたたちも聞いたことぐらいあるでしょ? 迷宮探索競技のこと。それがね、この町の近くで開催されることになったのよ」

迷宮探索競技。
それは冒険者と呼ばれる者たちの行いをモデルとした競技だ。
こう言うと夢が無くなるが、冒険者の仕事というのは犯罪のオンパレードである。無人、もしくは魔物が住む場所への不法侵入、防犯のための罠を解除・作動させての建造物破壊、宝石・貴金属などの物品を窃盗、居住者である魔物への強盗傷害……などなど。
反魔物側から見れば『魔物には一切の権利がない』から何の問題もないわけだが、親魔物側から見ると、迷惑極まりないならず者ということになる。
しかし実態はどうであれ『冒険』という単語にロマンを感じてしまうのは人間も魔物も共通だ。そこで誕生したのが『迷宮探索競技』というスポーツ。

基本的なルールは単純で、参加者はまず幾人かで集まり一つのパーティを結成する。もちろんパーティは複数存在し、自分以外のパーティは迷宮探索のライバルとなる。
競技場は天然洞窟から古びた巨大要塞までさまざまだが、どんな迷宮であれ、主催者によって探索の障害となるものがいくつも用意・設置されている。
そして数々の罠や妨害を突破し、他のライバルよりも早く最奥に到達したパーティが優勝。平和的に冒険者の気分が味わえるとのことで、親魔物国家では徐々に流行しつつあるらしい。
……で、レイヴはそんなビラを持ち出して何のつもりなのだろうか。

「何って、そりゃ参加するのに決まってるでしょ。だから貰ってきたんだし」
呆れたような口調で言うレイヴ。
しかし彼女はあまりこういったイベントに興味を示さなかったと思うのだが……。
普段の行動様式と違うことに疑問を覚える自分だったが、その謎はナイの発言によってすぐに解けた。

「ああ、レイヴ様のお目当てはこれなのですね」
紙を読み進めていたナイが指差した先。
そこには優勝賞品として『トリコロミール デザート券一年分』と書かれていた。
その文字からレイヴに目を移すと、彼女はちょっとたじろいで言った。

「い、いいじゃない…。ナイもネムレスもトリコロミールは好きでしょ?」
ただのスポーツイベントなら興味ないが、賞品があるなら参加する。
現金と言えばそうだが、別に恥じるほどのことでもないだろう。
自分がそう言うと、レイヴは羞恥の色を消して我が意を得たりとばかりの喜色を浮かべる。いや、たった一言でそんな喜ばれてもこっちが恥ずかしいのだが。

「ですがこれは優勝賞品、それも本戦のものです。経験のない私たちが予選を勝ち抜き、さらに優勝などできるでしょうか……」
レイヴからの好意に照れくささを感じていると、ナイが自信なさげな声で当然の指摘をした。人気あるトリコロミールのデザート券となれば、競技に自信のあるパーティがいくつもエントリーするだろう。それらを押し退けて自分たちが優勝できるかといったら、望みは薄い。

「まあねー。わたしも『優勝賞品を必ずこの手に!』なんて考えてないわよ。幸運に幸運が重なって、他パーティに不運が重なれば万が一…ぐらいのつもりでいるわ。でもほら、優勝できなくてもさ……」
デザート券はまず手に入らないだろうとレイヴは語りつつ、賞品一覧の下の方を指差す。
そこに書かれていたのは『参加賞 ジャムの詰め合わせ(六瓶)』の文字。その中身は自分が好きな柑橘系の果物ばかりだった。

「良いですね、ぜひとも参加しましょうレイヴ様。考えてみれば負けたところで何の不利益もないのですし、これも一つの経験になるでしょう」
イベントに参加すればジャムが手に入り、自分が嬉しい。それだけの理由で急にやる気を見せるナイ。その気持ち自体は嬉しいのだが『その程度のことで…』と自分はどうも気後れしてしまう。
そう思うあたり、まだ自分は魔物の価値観に染まり切ってないんだな…と自覚する。そして、そんな自分をよそに二人は熱意を上げていく。

「負けて元々。それは確かだけど、だからといって手を抜くつもりはないわ。少しでも上位を目指しましょう!」
「無論ですレイヴ様。あとで迷宮探索競技の資料をあたり、定跡などを検討しましょう。あ…っと、その前に詳しい参加要項を見せていただいても?」
ナイの発言に応え、レイヴがカバンから二つ折りにした紙を取り出す。
そちらは鮮やかな色使いだった告知ビラと違い、白地に黒インクで書かれていた。全員が見えるようにテーブルにそれを置くと、レイヴが語り始める。

「えーっと、まず今回の迷宮探索競技のパーティ人数は三人とあるわね」
迷宮探索競技には枠組みのルールしかなく、パーティ人数を規定する細かい共通ルールはない。
しかし競技の都合上、パーティ人数は三人から五人の間で決められることが多いそうだ。

「三人ですか。私とレイヴ様、ネムレス様でちょうどピッタリですね」
というより、パーティ人数三人だから参加しようと考えたんだろうレイヴは。
「当たり前じゃない。ただでさえ経験ないのに、パーティ人数にハンデつけるなんて無謀すぎよ」
ごもっともな御言葉。そりゃそうだ。
「足りない人数をどうにかして補うというのも……難しいでしょうしね」
そうだった場合のことを考えたのか、ナイはポツリと零す。

迷宮探索競技のパーティは親交のある夫婦同士が互いを誘って組むか、全員が共通の夫を持つ、ハーレムメンバーによって構成される事が多いらしい。
もしそうでないと……。
 
「独身の魔物なんかパーティに入れたら、絶対ネムレスにちょっかい出すだろうしね!」
存在もしない魔物が、目の前にいるかのように吐き捨てるレイヴ。
ナイは勇者時代から共にいて、すでに受け入れているからいいのだが、自分がそれ以外の独身の魔物と交流しようとすると、彼女はとても不機嫌になるのだ。
別に下心なんて何もないのに。

「かといって、伴侶がいる方に加わっていただくのも不安が大きいですしね…」
相方がいる相手に単独でパーティに入ってもらっても、やる気はあまり出ないだろう。
場合によっては、いちゃつく自分たちに耐え切れず、競技など放って夫(か妻)の元へ帰ってしまうかもしれない。

「うん、それだと―――って、そんな“もしも”の話はおしまい! 次いこう、次!」
レイヴは気を取りなおすように話を打ち切る。
実際こんなこと考えても何の意味もないわけだし、そうしよう。

「次の項目は…特殊技能は不要とありますね」
「ええ、わたしたちってバランスは取れてるけど、鍵開けや罠解除なんてできないわよね。だから最悪力づくでも進めるこの条件は悪くないと思ったの」
迷うことなく『バランスが取れている』と口にするレイヴだが、それは誤りだと自分は思う。
魔界騎士のナイが物理担当、魔界勇者のレイヴが物理・魔法を両立、ここまでは問題ない。だが魔法担当になる自分は底辺魔界勇者だ。
物理はからきしで、魔法寄りの能力適正はあるがそれもロクな腕前じゃない。これだとただの足手まといになるんじゃなかろうか……。
そんな風に自分一人で勝手に気分を沈ませていると、二人がそろってこちらを向いた。

「なに勝手に落ち込んでるのよネムレス。あなただって前より成長してるんだから、少しくらい自信を持ちなさい」
そう言って『やれやれ…』とレイヴは息を吐く。
確かにサキュバスと化した二人と交わることで魔力は強くなったが、成長したという実感はあまりない。

「そうですよネムレス様。あなた様の腕が上がっているのは私が保証します。
それでも不安だというなら、ネムレス様が納得できるまで私がお相手を……」
ナイはそう言うと胸元と腰にそろっ…と手を伸ばし、服を脱ごうと「待った」
魔力の強化という名目で自分と交わろうとしたナイ。しかしレイヴはその両腕を掴んで止めさせる。

「ちょっとちょっと、なにサラッとネムレスを専有しようとしてるのよ。
 魔力強化をダシにして、ずっと二人でヤリまくろうってわけ?」
ギリギリ…という音が聞こえてきそうなほど強く腕を握るレイヴ。
その顔には笑顔が浮かんでいるが、内心は全く別物だろう。

「いいえ、そのようなことは決して。
 私の思いはネムレス様の不安を取り除きたいという一心それのみで―――」
顔色一つ変えずにナイは反論する。だがそれは自分が聞いても嘘だと分かる白々しさだ。

「だったら、わたしに任せなさいよ。ネムレスとは姉弟なんだもの、わたしの方が魔力の馴染みが良いはずよ…!」
ナイの考えは否定せず、その役目を奪おうとするレイヴ。
普段はとても仲が良い二人なのに、自分との交わりになるとこうなることがある。

憎しみ合っているわけでもない、猫がじゃれつくような二人の諍い。その原因はどちらが自分とまぐわうかという、しょうもないものだ。喧嘩はよくないと思うが、彼女らのその姿に自分は愛され必要とされているのだと実感できる。二人が落ち着くころには、胸にあった暗い気持ちはどこかへ消え去っていた。

参加要項をすべて確認し、参加の意思を確認し合ったころには、もう太陽が沈みかけていた。それに代わって姿を現すのは紅い半月で、空気中の魔力がポツポツと光を灯していく。もう夜。夕食を摂って腹を充足させた次は、性欲を充足させる番だ。



湯船からもうもうと上がる水蒸気。
髪を下ろしたナイは湯を浴びて、全身をしっとり濡らしている。
そんな彼女の乳房を自分は背後から鷲掴みにし、思うままにこねくり回す。

「んっ……あ、ネムレス…様。私の胸は…そんなに、良いものですか…?」
息を詰まらせながら訊いてくるナイ。自分はそれに肯定の意を返す。
レイヴも大きいほうだと思うが、ナイの乳房はそれより一回りは大きい。
手で感じるその重みと柔らかさは、ずっといじり続けたいとさえ思ってしまう。
そう伝えられたナイは目を細めて微笑み、口を開く。

「ふふっ、嬉しいですネムレス様。私は全てをあなた様に捧げる身。
 この胸があなたに好まれ使われるというなら、光栄の至りというものです」
元々彼女が忠誠を捧げていたのは、底辺勇者の自分ではなくレイヴの方だったのだが、魔物になったときに彼女は改めて自分に忠誠を捧げたという経緯がある。
……いやまあ、忠誠だけでなくそれ以外のものも差し出して来たのであるが。

「あの、ネムレス様…。はしたないのですが、そろそろ、次へ……」
胸を弄られるだけでは足りなくなってきたのか、入れてほしいとお願いしてくるナイ。
自分はそれに応え、四つん這いになるように言う。
すると彼女はよくしつけられた犬のようにスッと屈み、石造りの床に両手と膝を突いた。
そして顔を振り向かせると、期待に満ちた目と声でこちらの意向を訊ねる。

「ネムレス様、今日はどちらの穴でなさいますか? まんこ? 肛門? 私の穴は全てあなた様に捧げられたもの。思いのままにちんぽを突っ込んでくださいませ」
……いまさら変態だなんだと言うつもりは毛頭ないが、彼女は交わりにあたって女性器も肛門も口も同格のように扱う性癖がある。それらの穴はレイヴも使っているが、あちらは女性器の使用頻度が最も高く、口は肩慣らし程度で、肛門はいつもとムードを変えて交わりたいときに稀に使うくらい。
しかしナイには『捧げたものは、満遍なく使ってほしい』という欲求があるらしいのだ。
まあ、理屈として分からなくもないし、女性器以外の穴を使うことにももう忌避感はない。なのでどの穴を使うかはその時の気分次第で決めている。今日は普通に交わりたい気分なので女性器の方だ。

四つん這いのナイに合わせるように床に両ひざをつく自分。丸くて柔らかい尻をそっ…と右手で撫でるとナイは「んっ…」と小さく声を漏らした。
自分は左手も伸ばして彼女の腰を両手で掴み、十分に硬くなっている男性器の先端でチョンンチョンと穴をつつく。
それでこちらの意思を察したナイは左手だけで上半身を支えるようにすると、空いた右手を股間へ移動させ、指を使って『くぱぁ…』と膣口を広げてみせた。
人間だったころの彼女なら恥辱に顔を歪めるであろう姿だが、今のナイは欲情に頬を染め、嬉しそうに言葉を放つ。

「んふ…まんこをお使いになるということは、今日のネムレス様は私を孕ませたい気分なのですね? ええ、私も早く身籠りたいと思っています。それでようやく血を捧げられるのですから」
今彼女が口にした血とは純潔のことではない。彼女の処女は魔物化したその日にすでに捧げられている。全てを捧げると誓った彼女がまだ捧げていない血とは血統のこと。
ナイは自分の子供を妊娠することで、先祖代々続いてきた貴族の血を捧げられるのだと考えているのだ。レイヴとの近親相姦ほどではないが、ナイの高貴な血を汚すというのもまた背徳感を感じる。その後ろ暗さが混ざった欲情に背を押され、自分は粘液を滴らせる肉穴に男性器を潜り込ませた。

「んっ…! ネムレス様のっ、ちんぽっ…! あ、あ、入って…きて、るぅっ…!」
人間の女性なら、少しは具合が落ちるのではと思うほどに使い込んだナイの女性器。
しかし魔物である彼女の膣は劣化しないどころか、自分に馴染むようにより具合を良くしていくのだ。男性器が潜り込んでいくはしから、膣壁が張り付くように締めつけ滑らせ、快感を与えてくる。彼女は男性器を根元まで受け入れると、股間に当てていた右手を床に戻して、熱い吐息を吐いた。

「はぁ……っ、やはり、あなた様と繋がるのはこの上ない心持ちです…。
 さあ、ネムレス様、私のまんこ穴を存分にかき回して、堪能してください…」
陶酔しポーッ…とした顔と声で言うナイ。しかし自分は知っている。男性器でかき回せば彼女はすぐさま表情を歪め、淫らな声をあげるのだと。

「あ……あ、あ、あっ! ちんぽっ、動いてっ…!! いい…です! ネムレス様っ…!」
腰を前後に動かし始めると彼女は体を緊張させ、嬌声を発した。それにより自分の欲情も高まり、動きはだんだんと加速していく。
「んぁぁ…! 硬いですっ、あなた様のちんぽっ…! もっと、もっと突いてくださいっ…! あなた様にピッタリ合うようにっ、まんこを整形してくださいっ…!」
卑猥な単語を飛ばしながら『自分が望むように肉体を改造してほしい』と言うナイ。しかし彼女の膣は今の段階でも隙間がないほど男性器に食
いつき、圧搾してくる。もしナイが満足するように女性器が整形されてしまったなら、一体どうなってしまうのか。一抹の怖さと期待を抱きながら動いていると、射精感がこみ上げてくる。

「ひっ…ひっ…、分かり…ます、ネムレス様…っ! もう、射精、するのですねっ! どうぞ、あなた様のまんこ穴に出してくださいっ…! 私をっ…! 孕ませてくださいっ!」
バンッ! と一際強く腰を打ち付ける自分。
その瞬間ナイの膣内がいっせいに蠢き、最大限の快感を脳に叩きつけてきた。頭が眩むほどの快楽に射精を我慢などできるはずもなく、彼女の胎内へと白濁液が放たれる。

「きっ、来てますっ! あなた様の精液っ! ちんぽからビュクビュク注がれてますっ! これならっ…! これならきっと妊娠できますっ! ネムレス様の子供っ、産めるぅぅっっ!」
精液を受け止める彼女は、遠吠えする犬のように背を張り、妊娠が確定したかのような言葉を口走る。彼女は懐妊を期待するあまり、膣内射精されるたびに興奮してそういった言葉を発するのだ。
……もっとも身籠った兆候がまるで来ないと知って、いつも残念がるのだが。

「ああ…ネムレス様の射精、終わってしまいました……」
上半身を床に伏せて快感の残滓に浸るナイ。
彼女は残念そうに呟くが、インキュバスといえど流れ落ちる滝のごとく無尽蔵に射精できるわけではない。ナイの膣内を存分に味わった自分は腰を引いて、彼女の穴から男性器を抜こうとする。弛緩して締め付けが弱くなった肉穴は、未練がましさを感じさせながらも男性器を解放。開いた膣口はボタボタと精液を逆流させ、床に白い水溜りを作る。

……改めて考えてみれば、本当にすごい精液の量だ。記憶にある人間時代の自慰行為とは比べ物にならない。なにしろ文字通りに白い水溜り”ができるほどなのだから。これほどの量が注ぎ込まれるのなら、確実に妊娠すると思うのも仕方ないかもしれない。

「ん、ネムレス様……」
快感の残滓も薄れてしまったのか、ナイは伏せていた身を起こした。
そしてクルリと身をひるがえし、四つん這いから尻もちをついた体勢になる。膝を立て、股を開き、まだ精液があふれてくる女性器を見せつけてくる彼女。その意味が分からないわけもないが、彼女はあえて口にする。

「もっと、していただけますか……?」
とろけた顔でそう訊いてくるナイ。語尾は疑問形だが、自分が拒否するだなんて彼女は思っていないだろう。
そして自分も一回だけで終わりにするつもりなんてない。もっとナイの肉体を味わいたいと、彼女を正面から抱くように覆い被さった。



迷宮探索競技に参加するからといって、別に特訓などするつもりはない。元々、審判が張り付いて厳格なルール裁定を下すものでもないし、競技の定跡などの『迷宮の歩き方』を知っていればそれで充分なのだ。
まあ、優勝狙いのベテランチームなら違うのだろうが、素人参加者である自分たちはその程度で問題ないという、おおらかなスポーツなのである。

そして待ちに待った…というほどでもないが開催日当日。
ブロックごとに異なる予選会場前の広場で、自分たちは最終チェックをしていた。必要になりそうな道具を詰めた小さめのザック。それを開いて忘れ物がないか確認しているのである。

「ロープ、折り畳み棒、くさび、石ころ―――うん、ちゃんと揃ってるわね」
レイヴと二人で呼称しながらの確認。それを終えた自分はザックを閉じて背負う。男は自分だけだし、もし物理的に障害を排除するなら働くのはレイヴとナイだろうから、自分が荷物持ちをするのが最適だとの結論に至ったのである。

さて、太陽が顔を出して魔力光も薄くなってきたことだし、そろそろ入場時刻かな?
そんなことを考えながら入場口の方を向くと、今まさに運営委員が簡易ポータルを準備し終わったところだった。
自分たちは他のパーティに先だって競技場へ向かう。

「おはようございます、参加者の方ですね? 参加証を…はい、ありがとうございます」
自分たちは正規の参加者なので運営委員はすんなりとポータルを開いてくれる。
地面に敷かれた魔法陣の描かれた布。運営委員の短い呪文でその魔法陣の上に黒い穴が開いた。
そこにひょいっと飛び込めば、その先は競技場たるどこかの建物の一室。
三面が頑丈そうな石造り、残り一面が鉄格子という四角い部屋で、窓はなく、壁の松明を差す場所には魔力による光が灯っていた。地下牢っぽい造りを見るに、ここはどこかの城だろうか? そう考えながら室内を観察していると、鉄格子近くに立っているナイが口を開いた。

「入ったのは私たちが一番ですが、スタートまでまだ時間がありそうですね」
「そうねえ。でも参加人数を見るに、全員が位置につくまで五分ぐらいでしょ」
室内に放置されている木箱に腰かけ『すぐに始まるわよ』と返すレイヴ。こうしている間にも、他のパーティが次々と開始位置に送り込まれているのだろう。
……どうしよう、何か緊張してきた。

これはただのスポーツイベント。
ヘマしたところで大怪我するわけではないし、叱責されることもない。
それは分かっているのだが、どうにも落ち着かない。内心が穏やかでなくなっていき、自分は狭い室内をウロウロ歩き出してしまう。
右へ行って、左へ行って、また右へ行って、また左―――っと危ない。
右の壁際でターンしたら、離れていたナイがいつの間にかすぐ前にいた。
『落ち着かないのですか』と物憂げにいう彼女に『ちょっとね…』と曖昧に答える。すると彼女はこちらの股間に手を伸ばして、服の上からサスッ…と撫でてきた。散々交わった彼女が相手では、それだけの行いでも男性器は反応しズボンを膨らませてしまう。

「落ち着かないなら、私が気を紛らわしましょう。片手で少しするだけですから、スタートには間に合うはずです」
「ちょっ!? 何してるのよナイっ!」
自分をリラックスさせるためといって、ナイは吐精させようとしてきた。
だがその行いをレイヴが黙って見過ごすわけもなく、木箱を蹴るように立つと、素早く自分とナイの間に割り込む。

「またあなたってばそんなコトして! 緊張をほぐすなら、もっと別の手があるでしょ! なにかとこじつけて、ネムレスとヤろうとするのはやめてよね!」
「申し訳ないですが、私にはこれしか思い付かなかったのです。レイヴ様はより良い別の手段をご存じなのですか? でしたらそのように」
抜け駆け…というか盗み食いしようとしたナイにレイヴは詰め寄る。しかしナイは視線をそらして、白々しく言い逃れ。さらに『他に良い手があるのか?』と反論までしてきた。とっさに返せず、レイヴは『うっ…』と言葉に詰まる。

「ええっと…それは……」
「はい、それは?」
言い返せないなら、ナイの行いをこれ以上責めることはできない。
これはレイヴも矛を収めるしかないか…と思ったら。

「それは……こうすればいいのよっ!」
ナイと正対していたレイヴは素早く反転し、自分と向き合った。
そしてこちらの頭を両手で掴み、グイッと下げて胸に抱え込む。

「なっ!? レイヴ様、何をしているのですかっ!」
先ほどのレイヴと立場が逆転し、文句を言うナイの声が聞こえる。
しかしレイヴはそれを無視し、こちらの髪を撫でながら猫なで声を出す。

「はーい、お姉ちゃんが一緒にいるから大丈夫だよー。怖くない怖くない、安心していいんだよネムレスー」
その言葉に、小さい頃姉さんの胸に抱かれあやされた記憶が脳裏を走る。
だが、あの頃から十年以上も経っていてこれはないだろう。
それに今の姉さ…レイヴは魔物ならではの露出が激しい服を着ているので、頭を抱え込まれると生の乳房が直接顔に当たり、欲情がかき立てられてしまう。これではナイの手法とさして変わらないのでは……。

「ネムレスは昔っから、こうすると落ち着いてくれたのよ。だから緊張してる時はこうしてあげればいいの。この話はこれでおしまいね!」
背後にいるナイに顔を振り向かせて、勝ち誇ったように言うレイヴ。
ナイは『分かりました……』と不服そう声でそれを認める。
魔物になったとき『これからは一人の女性として扱え』と自分に告げ、姉扱いされることに良い顔をしなくなったレイヴだが、ナイをやり込められたおかげか、上目で見たその顔は笑っていた。

『もう落ち着いた』とレイヴに伝え、その胸から解放されて一分足らず。
フワッ…と部屋の中に緑色の光球が現れた。
そしてその光球からは運営委員の声が発される。

『皆さんお待たせしました、間もなく競技開始となります。準備はよろしいですか?』
その言葉に自分たちは顔を見合わせてうなずく。

『ではカウントします。―――3』
光球が青色に変わった。

『―――2』
光球が黄色に変わった。

『―――1』
光球が赤色に変わった。

『―――スタートッ!』
光球がはじけて消え去る。
それと同時に、ゴゴゴ…と音をたてて鉄格子が上へと収納されていった。

「始まったわね。行くわよ!」
レイヴの号令を受けて自分たちは室内から廊下へ踏み出す。
足を踏み出してすぐ右は突き当りの壁となっており、左側には鉄格子が降りたままの無人の牢屋が三つ並んでいた。

「……まずあの曲がり角の向こうに何があるかですね」
牢屋を横目に歩きながら言うナイ。
自分たちが進んでいる廊下は三つの牢屋を過ぎると、すぐ右に曲がるようになっている。
曲がった途端にトラップ発動! なんてことはないと思うが用心はしておこう。

「ふん、階段ねえ」
「ネムレス様、レイヴ様。何か飛び出てくるかもしれませんので、私が先頭を行きます」
「まだ何もないと思うけど……まあいいわ」
曲がった先は上へ登る短い階段になっていて、その突き当りには木製らしきノブ付きの扉。
そこを盾を構えたナイ、剣を抜いたレイヴ、短杖を握る自分の並びで進んでいく。
トン、トンと階段を上がる音が廊下に反響し、やけに耳についた。

「やっぱり何もなかったわね」
「ありませんでしたね。ですが、扉には何か仕掛けがあるかもしれません」
何事もなく扉の前までたどり着いた自分たち。
レイヴは緊張せず、かといって拍子抜けというわけでもなく、普段通りの様子だ。
しかしナイは慎重深く罠の可能性を指摘する。
実際、扉というのはかなり罠が仕掛けやすいのだと資料にはあった。

「二人とも罠を気にしてばっかだと、全然先に進めないわよ? 素人参加の最序盤で、致命的な罠なんて仕掛けないって」
レイヴのその言葉に自分とナイは顔を見合わせて『うーむ』と唸る。
確かに資料では、幅広く参加者を募るイベントの場合、引っかかったら即リタイアするような凶悪罠は少ないとのことだった。
それよりは分かりやすい罠や解きやすい仕掛けを多数用意して、罠を発見したり解除したりする楽しみを味わってもらうことの方が多いのだとか。それなら…この扉ぐらいは普通に開けてもいいかもしれない。

「それじゃ、開けるわよ。あ、何もないだろうけど、一応ナイはネムレスのこと気にしといて」
自分に何かあっても即座にカバーできるようにナイに伝えると、レイヴは扉のノブを掴んで外側へ開いた。

「……うん、やっぱり大丈夫ね。二人とも来て」
安全を確かめたレイヴに促され、自分とナイは扉をくぐる。
扉を抜けたその先は、地下牢通路と似たような装いの通路だったが、その幅は違った。
今までの通路は三人が横に並べば肩がぶつかりかねない幅だったが、扉の先は自分が五人並んでも楽に歩けるほどの広さ。天井の高さも自分の身長を五割増ししたくらいで、圧迫感が薄くなった。

「ずいぶんと広くなりましたが、注意すべき範囲も広がりましたね。ここから本格的に罠が設置されていくということでしょうか」
「たぶんね。ネムレス、ザックからいくつか石を出して、ポケットに入れといて」
自分はレイヴの指示に従い、罠探知用の石ころを二、三取り出してポケットに入れる。怪しそうな場所があったらこれを投げつけて様子を見るのだ。

なお地下牢通路と違い広いからということで、縦一列の隊形は無しとなった。
むしろ縦でも横でも、一直線は良くないのではないかということになり、

   進行方向

    ↑

レイヴ ナイ
    自分

という形の、やや崩れた隊形で進むことにした。

松明替わりの魔力光が照らす石造りの通路。
緩やかにカーブを描くその道を進み、地下の扉が見えなくなったころ、ついに最初の罠が現れた。

「……罠ね」
「罠ですね」
罠だな。

迷うことなく一致する自分たちの意見。
通路の中央に自分の肩幅三人分ほどの長さで、四角い切れ込みが床に入っていた。
これどう見ても落とし穴だろ……。

「いくら素人とはいえ、こんな罠に引っかかる人がいるんでしょうか?」
「いるとしたら、よっぽどボケーッとしているか、お喋りに夢中で足元がお留守だったかのどちらかでしょうね」
素人歓迎とはいえ、競技を舐めている相手にはお仕置きということだろうか。

「まあ、罠があるのは真ん中なんだし、通路の端っこを通れば問題ないでしょ」
レイヴはそう言うと左端をスタスタと歩いて抜けた。
ナイもその後を続き、同じ経路で罠を回避。
当然自分も左を通り、無事に罠の向こう側へ―――っと、アレなんだ?

罠を避けられるルートの右側。自分たちが通らなかった方の壁。自分の胸ぐらいの高さに、レンガ一個分くらいの微妙に色の違う部分がある。
それが気になり、自分は二人にその発見を告げた。

「あら本当、よく見つけたわね」
「何でしょうね。隠し部屋でもあるのでしょうか?」
何だろうか…と気になる自分は、それに触れてみようと近寄―――ろうとしたところで、レイヴにザックを掴まれて足を止めた。

「ちょっと待った。わたしが行くから、あなたはここにいなさい」
『見つけたのは自分なのに…』と思ったが、レイヴは罠の可能性を気にしているのだろう。もし罠が発動した場合、自分より彼女の方が対応力がある。

「いえ、私が行きます。私には盾がありますから」
と、そこに左手の盾を掲げてナイが口をはさんできた。
元々ナイが忠誠を捧げていたのはレイヴの方。性的なことが絡まなければ、元主人として彼女はレイヴの身を案じるのである。しかしレイヴは首を振ってその意見を却下した。

「罠があったとして、盾で防げるものかどうか分からないでしょ? 防ぐあなたよりも避けるわたしの方が適任なのよ」
これはレイヴの言う通りだ。
迷宮の罠というのは、頑丈な鎧と盾があれば防げるというものではない。もしそうなら、盗賊たちは全員が重装騎士ような装いをしているだろう。
罠に対しては堅固な防御よりも、素早い回避のほうが重要なのだ。それならば、最も身軽な彼女が行くのが最適ということになる。

「それにもし引っかかっても、大したことないだろうしね!」
……まあ、これはただの競技なので、お気楽に仕掛けをいじりたいというのもあったようだが。

結局レイヴが行くということで話は決まり、彼女はさっさと壁に近づいた。
レイヴは色違いの部分を少し眺めていたが、すぐに手を触れてカチッと押し込む。するとズズズ…と壁が動く音がして、色違いのすぐ右の部分に、戸棚ほどのスペースが現れた。その空間に右手を突っ込んで彼女が取り出すのは……ガラス瓶に入った一個のジャム。

「希少なお宝ってわけじゃないけど、悪くはないわね」
「ええ。このジャムはあまり手に入らない物ですし」
レイヴが持ってきたジャムは品薄であることが多く、少し高価なものだった。『競技中に入手した宝は発見者の物にしてよい』というのもルールの一つなので、このジャムを発見できたことは素直に嬉しい。自分はザックに収納するためにジャムを受け取ろうと手を差し出したが、そこで二人が微笑みを浮かべていることに気付いた。

「初めての宝でこんな物を手に入れるとは、ネムレス様は幸運に恵まれていますね」
高価な品物でもないのに、その入手を称えてくれるナイ。
「仕掛けを見逃さなかったのも偉いわね。こういうことに目端が利くのは、良いことだと思うわよ」
『よくやった』と褒めてジャムを渡してくるレイヴ。
別に大したことでもないが、今回の発見は間違いなく自分の手柄だ。そう思うと、二人の称賛に笑って返すこともできる。

「うん、いい顔ね! じゃ、先に進みましょ!」
「ええ、行きましょうレイヴ様。次こそは私が宝を見つけてみせます」
自分の笑みで気力が充実したのか、二人の声は実に明るかった。

スタートから二時間ほど経過。
自分たちは凶悪トラップには出くわさず、道中いくつかの宝を入手し進んでいた。
あまりに順調すぎて『予選突破できるかも…』と都合の良い考えが浮かんでくるほどだ。ナイも慣れてきたのか、罠に緊張しすぎることはなくなった。しかし好事魔多し、そう上手くはいかなかった。

「なんかもう、これだけで元が取れちゃった! って感じね」
「はい。あれは実に良い宝でした」
つい先ほど入手した『トリコロミール デザート券三人分』のことを話しながら歩く二人。自分もトリコロミールは好きなのでその意見には同意だ。

今自分たちが進んでいる通路は造りこそ変わっていないものの、窓から外が覗けるようになっていた。その景色を見るに、現在地は建物の三階ほどの高さらしい。
窓からの奇襲に気を払いながら進んでいくと、やがて両開きの木の扉が道を塞いだ。施錠はされていないようで、キィ…と微かな音をたてて扉は開く。
そうして現れたのは、小さいダンスホールのような円形の部屋。
東西南北なのかは知らないが、自分たちが入ってきた以外にも三つの扉があり、まるでタイミングを合わせたかのように、相向かいの扉が開いた。
そしてその扉から入ってきたのは――――。

「あっ」
「お?」
「……遭遇」
魔物三人組の他パーティだった。

迷宮探索競技において、他パーティをどうこうというルールはない。協力して障害を乗り越えてもいいし、戦ってライバルを排除してもいい。
傾向としてはリードしている(と思っている)パーティは戦闘でライバルを蹴落とし、遅れ気味(と思っている)パーティは協力して先を急ぐことが多いそうだ。
今のところ自分たちのパーティは順調だ。だがわざわざ戦闘までして、ライバルを排除したいとは思わない。ここは協力、あるいは不干渉で済ませられないか…と思ったら。

「また敵だよ! 準備!」
一番後ろにいる軽装の魔物が腰に下げた銃を引き抜く。
「これで三つめか! この勢いで優勝するぜ!」
『既に二パーティ倒した』と口にした魔物が気炎をあげ、背負っていた斧を手にする。
「…………」
魔物としては露出が少ない重装鎧を纏う魔物は無言で槍を構えた。
……どうも向こうは完全にやる気らしい。仕掛ける機をうかがうように、ジリジリと距離を詰めてくる。

「ナイ! ネムレスはわたしの横に!」
剣を抜き、臨戦態勢に入ったレイヴが鋭い声を飛ばす。
名を呼ばれたナイは剣と盾を構えて一番前へ。
自分は少し前へ進み、その隣にレイヴという隊形だ。
レイヴは油断ない瞳で相手を睨み、素早く戦力分析をする。

「戦士1、銃士1、ガチヨロ1…魔法系はいないけど遠距離戦は可。バランス取れてて厄介なパーティね」
「……ガチヨロ言うな」
レイヴの呟きが耳に入ったのか、黙っていた重装騎士が文句を言った。
ガチヨロというのは重装騎士を表すスラングで『ガチガチの重装鎧』の略である。侮蔑的というほどでもないが、ネタ的な意味が強いので嫌な顔をする重装騎士も多い。
……しかし全員魔物のパーティということは、彼女たちは共通の旦那さんがいるのだろうか。そう口にするとレイヴは鼻をスンスンと鳴らし、首を振った。

「違うわね。あいつら全員独り身の魔物よ」
あれ、違ったのか。独身のパーティは少数派らしいのに。
「なんか事情でもあるんでしょ。わたしたちには関係ないことだけど」
確かによそ様の事情など戦うにあたっては関係ない。ただ打ち倒すだけだ。

「―――行って、リア!」
「おうよっ!」
銃使いの発した声を受けて、リアという名らしき斧使いがガチヨロの背後から飛び出す。
その向かう先は最前列のナイ。まずは小手試し…といった程度の力と速さで斧が振るわれ、それをナイが盾で受け流し戦闘は始まった。

「おまえ、なかなか硬いな!」
「それはどうも。そういう貴女の方こそタフですねっ…!」
斧使いとナイの腕前はほぼ互角らしく、一進一退の攻防が行われている。
両手持ちの斧を持ちながらも軽いフットワークで動き回り、威力と速さの両立した一撃を放ってくる斧使い。
ナイは片手に持った盾を巧みな技術で扱ってその攻撃を流し、隙あらばもう片方に握られている剣で反撃する。
しかし身軽な斧使いは素早く動いてその剣を躱してしまい、なかなか命中しない。斧を受け流しそこねて重い一撃を受けるのが先か、スタミナ切れで剣を躱せなくなって切り裂かれるのが先か。一対一なら勝負の結末は分からないだろう。しかし三対三である以上、横槍は入るのである。

「――――っと、させないよ!」
「っ…! うっとおしい!」
斧使いに大きめの隙ができたのか、深く踏み込んだナイ。
しかし銃使いが援護射撃をし、それを防ぐために彼女は剣を別方向へ振るう。
二人が上手く連携を取る限り、彼女に勝機はないだろう。

「―――ほら、よそ見してていいのかな?」
はっ、と気づいた時にはもう遅い。
ナイと斧使いの戦いに気を取られていた自分の眼前には迫る銃弾。
やられる! と思い身を固くするが、横から割り込んできた魔力弾によって銃弾は相殺された。

「ナイのことは心配しないで! あなたは銃士の方を気にしなさい!」
ガチヨロに相対しながらも、レイヴは魔力弾を放って自分を守ってくれた。
それで気を入れ直し『お返しだ』と握った短杖を銃使いに向けて、非殺傷の魔力弾を発射。しかし銃弾より速度が遅い自分の弾は、簡単に見切られ避けられてしまった。銃使いは『フフン』と小バカにした笑みを浮かべ、自分はそれにイラッとくる。その挑発に乗って何発か連射するが、避けられたり銃弾で相殺されたりでヒットはゼロ。結局魔力を無駄遣いしただけだった。

「……あなたたちの後衛より、マスケの方が優秀」
マスケとやらに当てられず歯噛みする自分の姿を認めたのか、ガチヨロが優位者の微笑を浮かべる。
腹が立っていた自分は、ガチヨロなら躱せないだろうと一発だけ弾を放った。ちょうどレイヴに攻撃するところだったので、牽制になるのではとも思ったのだ。しかしガチヨロは視線を向けることすらせず、着弾した弾を鎧ではじき霧散させてしまった。

「……気にする必要もないと分かってた」
精神的にグサリとくる一言。それを発してくれたガチヨロは横薙ぎに槍を振るい、レイヴは身を低くしてそれを避ける。
ガチヨロということを考慮しても大振りに過ぎる一撃。レイヴはその隙をついて懐に潜り込み剣を振るうが、銃使いがナイを狙っていると察知し、力のこもった斬撃を放てない。そんな軽い攻撃は当然のごとく鎧で防がれ、突きによる反撃がくる。
レイヴはまた魔力弾を放って狙撃からナイを守り、さらに自身も身を捻って刺突を躱した。そしてまたお互い仕掛ける機を探っての対峙とくる。

……このままではマズイ。レイヴに負担がかかり過ぎている。
彼女は自身を守り、ナイを守り、さらに役立たずにまで気を回して守らなければならない。その上、片手間に戦える相手でないガチヨロと立ち合い、攻撃する必要もあるのだ。そしてその攻撃も銃使いの援護射撃によって有効打を打ち込めない。
個々の戦闘能力はともかく、集団としての戦闘能力はあちらが格段に上だ。戦い方を変えなければ敗北は濃厚だろう。やむを得ない、魔力をバカ食いするのだが……。

自分は短杖を媒体にして、急ぎ魔力を集めた。
そして戦っているナイと斧使い、レイヴとガチヨロの間に意識を合わせ解き放つ。

「えっ!?」
「おわっ!」
「………!」
三者三様に驚く敵パーティ。
そりゃそうだろう。相対する相手との間にいきなり魔力障壁が現れたのだから。
逆にナイとレイヴはすぐに状況を理解し反応する。

「ナイ! いったん引いて! 仕切り直すわ!」
「了解しました! レイヴ様!」
二人はすぐさま離脱し、自分と合流。互いに守りやすいように密集した隊形を取る。

「リア! アムに合流!」
銃使いも声を張り上げて指示を出し、アムという名らしいガチヨロの元に三人が集まった。戦闘が始まる前と似たような位置関係となり、敵も味方も戦術を練り直す。

「なあ、今さっきのって、戦ってたアタシの前にいきなり壁ができたよな?」
斧使いが背後で俯瞰していた銃使いにそう確認する。
「その通りだ。術を使ったのはあの後衛だけど、
 あんなに離れた位置から魔力障壁を張るだなんて、ボクは初めて見た」
銃使いは肯定し、侮っていたであろう自分にようやく警戒の目を向ける。
「……でも、壁自体は特別な感じじゃなさそうだった。すぐ消えたから、時間もあまりもたないと思う」
ガチヨロは防御のプロだけあって、壁の性質をすぐ見抜いたようだ。ただの魔力障壁と分かってしまえば、彼女らはどうとでも対応するだろう。もう同じ手は通用しない。

「ありがとうネムレス。あのまま戦ってたらきっと負けてた」
第一声で感謝を口にするレイヴ。やはり彼女も自分と同じことを考えたらしい。
「…負けるかはともかく、消耗しすぎてこの先進むのが困難になったでしょうね」
ナイは敗北の可能性を口にしたくないのか、競技が大変になるとだけ言った。そして目元をほころばせてこっちを見る。
「しかし、的確な支援でした。あのようなことができるのはネムレス様だけ。やはりあなた様には勇者としての才能があります」
「うん、あれは本当に助かったわ。ネムレスはもっと自信もっていいと思うよ?」
レイヴはふふっと笑い、チュッ…と右頬に軽いキスをする。
「その通りです。ネムレス様がその気になれば、絶対に負けたりなどしません。んっ…」
いつも通り過剰な評価を下してくれるナイは、レイヴに負けじと左頬に口づけ。流石にそれ以上のことをする余裕はないので、あとはヒソヒソ声で作戦タイムだ。
もちろんむこう側を意識しておくことは忘れないが。

「夫婦で迷宮探索競技かあ……。羨ましいなあ」
二人の愛情表現を前に銃使いが心底から羨むように言った。
だが結婚などしていない自分たちは伴侶ではあっても夫婦ではない。
ナイは主に忠誠を捧げる騎士だし、レイヴとはただの…ではないが姉弟関係だ。
「……わたしも早く旦那さまが欲しい。いい加減我慢もそろそろ限界」
独身のガチヨロはひたすら性欲をため込まねばならないと聞く。
ナイとレイヴのキスを目にして、男性を求める衝動が活性化したのだろうか。
「っていうか、あの男勇者だったのかよ。ただのモヤシ魔法使いだと思ったのに」
斧使いは自分が勇者呼ばわりされたことに驚きを隠さないでいる。まあそれも仕方ないと思うが。

自分は底辺勇者だが、一つだけ芸がある。
それは自身からある程度離れた位置に魔法を発生させられるというものだ。例えば魔力障壁なら、通常は術者が腕を伸ばした程度の位置にしか作れないが、自分はそれを身長の何倍も離れた位置に作れるというわけである。

もっとも魔法を発生させるだけで、操作はできないという融通のなさがある。作った後は動かない壁ならいいが、作った魔力弾をそこから撃つのは不可能ということ。敵の眼前に突然攻撃魔法を発生させ、密着距離から回避不能の攻撃…などはできないのだ。
さらに距離が離れるほどに、消費魔力が激増していくという欠点もある。自分から離れた位置で戦っていた二人の前に二枚同時に壁を作れたのは、何かにつけて交わる彼女らとの日々で魔力が強化されたからだ。
陥落前の自分は『奴が勇者になったのは神の手違いではないのか』と言われるほどショボかった。

「それで…どうしましょうレイヴ様。連携の巧みさはあちらの方が上です。戦術を変えねばまた厳しい状況になると思いますが」
「そうね。むこうが余裕かましてるのも、また同じ状況に持ち込めるって確信してるからだろうし……」
レイヴの言う通り、あちらは余裕の雰囲気を漂わせながらこちらをうかがっている。自分が隠し札を使ったことで多少警戒はしたようだが、それでも自パーティが大幅有利だとの自負があるのだろう。

「散開して一対一になったら勝てない。かといって密集していても、隊形を崩す算段はあっちもあるでしょうね。だとすると……最初の一撃で全部決めるしかないわね」
「一撃で、ですか。ではあの技を使うと?」
「ええ。アレを使えばガチヨロがいようと、三人まとめて倒せる。ネムレスに頑張ってもらえばできるはずだわ。お願いしてもいい?」
やらねば敗北濃厚な状況なのに『やれ』と命令するのではなく『お願い』してくるレイヴ。そういった言葉の端々にも彼女の気づかいを感じられる。レイヴへの愛しさが胸に湧きあがり『まかせろ』と自分は力強く返答した。

「さーて、そろそろ行くよ。そっちは覚悟できたかな?」
『負ける準備はできたか』と言い換え可能な銃使いの言葉。
自分たちはそれに答えず隊形を変える。

具体的には、

    ナイ レイヴ
      自分

      ↓

     レイヴ
    ナイ 自分

といった感じにだ。

「お? なんかいい作戦でも思いついたのか?」
「……無駄。わたしたちの連携には勝てない」
勝利を疑わない笑みを浮かべる斧使い。
無表情ながらも口調に『やれやれ…』といった雰囲気を滲ませるガチヨロ。
こちらに何も策がなかったら、ただ腹が立つだけだったろうが、その顔に敗北の泥を塗ってやれると思えば受け流せる。

策を行うにあたってまず自分は魔力障壁を張った。大きさは壁から壁、天井まで届き、部屋を完全に仕切ってしまうほどのもの。横から回り込むことも、上を飛び越えることもできない。そんな巨大な壁を相手パーティの目の前に発生させたのだ。

「また魔力障壁? 何のマネだ?」
「……こんな壁作られても、もう驚かない」
『簡単に破れる壁を作ってどうするのか』と怪訝そうにする斧使いとガチヨロ。
しかし、続いて動いたレイヴに銃使いは己のミスを悟ったようで、素早く指示を出した。

「リア! アム! 早く壁を壊して!」
声が飛んだ時はわけが分からないといった顔の二人だったが、彼女らはすぐさまその意味を理解し、急いで壁を破ろうとする。

壁を挟んだこちら側には、儀礼のように剣を横に寝かせて構えているレイヴ。その全身は紫色をした魔力のオーラに包まれ、その光は両手で握られた魔界銀製の剣に集束していく。誰が見ても大技を使おうとしているのが分かるその姿。敵ならば何としても溜めている間に叩かねばならないと判断するだろう。だがそうは問屋が卸さない。

「クッソ、意外と硬いじゃねえかこの壁!」
「……侮りすぎた」
二人はパリンと簡単に割ることができると思っていたようだが、実際はガシガシと何度も武器を叩きつけて突破することになった。
ナイとレイヴを助けるために手早く作ったあの時の壁と、気合と魔力を込めて作った今の壁が同じ強度なわけがない。
そして、大盾程度のサイズだったあの時の壁と、部屋を仕切れるほどのサイズである今の壁の魔力消費が同じわけもない。ガリガリと魔力が削られて頭が痛い……。

「よし、壁は壊し―――ってまた壁かよ!?」
「……こんな使い方もできるのね。驚いた」
「くっ、これじゃあ撃てない……!」
壁を破壊したら、すぐさまレイヴを攻撃して溜めを妨害し、前と同じ勝利パターンに持ち込もうとしたのだろうが、壁を抜けた先も壁だ。
魔力が続く限り、何枚でも張り直してやる。

「……ごめんね、ネムレス。わたしの腕がもっと良かったら、あなたに時間稼ぎなんてさせないのに」
剣に魔力を溜めているレイヴはそう謝るが、彼女は何も悪くない。誰かが責められるというのならば、無能な自分が真っ先にそうされるべきだろう。ナイもそれは分かっているのか、レイヴに優しく話しかける。

「溜めずに放てるのは勇者の中でもほんの一握りと聞きます。レイヴ様が自身を責めることなどありません」
レイヴが使おうとしている技は、勇者であっても溜めが必要なほどの大技だ。溜めずに連発できるのは最上位の勇者くらいで、そんな相手と比べる方が間違っている。

「うん、ありがとうナイ。じゃあネムレス、もう十分だから魔力障壁を消してくれる?」
魔力を消費しすぎていい加減頭痛が酷くなってきたところで『もういいよ』との声。
待ち望んでいたその声に、自分は三人を押し止めていた壁を解除し霧散させた。
彼女らは消失した壁の意味を瞬時に理解し防御に入る。

「縦一列! アムは全力防御!」
「おまえに任せた! 頼むぜアム!」
「……難しい。けど頑張る」
ガチヨロ、斧使い、銃使いと縦一列にならぶ敵パーティ。
最前列に立つガチヨロは槍をしっかり握り、受けの姿勢を取る。
……まあ、そんなことしても無駄だが。

紫色の魔力が満ち満ちたレイヴの剣。
彼女はその剣で前方角度200度を横薙ぎにする。

「吹っっ飛べぇぇっ!」
気合とともに振るわれた剣からは、三日月状の巨大な魔力大斬撃が発生。
どこにも逃げ場のないその攻撃がガチヨロに直撃する。
しかし驚くべきことに彼女はそれに持ちこたえ…ることもなく、後ろの二人を巻き込んで吹っ飛び、壁際にまで転がっていった。倒れた三人は動く様子をまるで見せず、全員とも気絶してしまったようだ。

剣を振りぬいたレイヴは緊張を解くように『フゥ…』と息を吐く。
そしてクルリとこちらに振り向くと、笑いながら口を開いた。

「勝ったわ!」
「はい、私たちの勝利ですレイヴ様。見事な一撃でした」
厳しい戦いであったが勝利した。その事実にナイも自分も笑みが浮かび、三人そろってパシッと手を合わせる。

「あー…でも疲れたわね。ちょっと休みましょう。二人もいいでしょ?」
「私はさほどでもないですが、レイヴ様とネムレス様は休憩が必要かと」
「そうねー、特にネムレスにはあんなに頑張ってもらったんだし、絶対休ませないとよね。むこうの壁際あたりでちょっと座ろっか」
レイヴはそう言うとこちらの右手をとって、壁の近くへ引っ張っていく。
今はまだ競技中であり、先が気になるが、疲れて頭痛がするのも事実。自分はおとなしく彼女に連れられて、壁の近くで座り込んだ。

ザックから取り出した水やナッツを口にしながら休むこと十数分。
意識を取り戻したのか、床に倒れていたガチヨロが身を起こした。
彼女は気怠そうに頭を振り、多少ふら付きながら立ち上がる。
そして転がっていた槍を拾い上げると、こちらに向かって歩いてきた。

「まだやるつもり……じゃなさそうね」
「はい、あれではとても勝負にならないでしょう。何なのでしょうね?」
座っていたナイは立ち上がり、接近してきたガチヨロに声をかける。

「一体何の用ですか。勝負はすでについたと思いますが」
「……負けは認める。もう戦うつもりはない。わたしが来たのは勝負と別件」
ガチヨロはそう言うとナイの横を通り過ぎ、自分の前に両膝をついてしゃがみこむ。
するとすぐ右に座っているレイヴがピクリと身じろぎした。

「……あなたの名前はネムレス、で合ってる?」
自分の名前を確認してくるガチヨロ。
理由は分からないが、嘘をつく必要もないので『そのとおりだ』と頷いておく。
すると隣のレイヴが尖った左耳をピクピク動かすのが視界の隅に映った。
彼女がああするのはたいてい不機嫌な時だ。ガチヨロは独身のようだが、少し話すぐらいでそこまで機嫌を悪くしなくたっていいのにと思う。

「……ネムレスさん、わたしの名前はアムといいます。わたしを負かしたあなたに身と心を捧げます。わたしの旦那さまに「いきなり何いってんの!」
突然の愛の告白…を遮って響くレイヴの声。彼女はバッ! と勢いよく立ち上がると、腰に手を当てて上からアムを睨みつけた。

「ネムレスはわたしとナイの物! 赤の他人が後から来て、なに取ろうとしてんのよ! だいたい、あんたってば戦ってる最中にネムレスのことバカにしてたじゃない!」
「……馬鹿にはしてない。ただ事実を口にしただけ。
 それにわたしたちに勝利したのは、間違いなくこの人の功績」
「あんたたちを倒したのはわたしでしょうが! もう一回斬撃食らわせないと分かんない!?」
「……その斬撃を撃てたのは、この人の尽力あってこそ。ネムレスさんがいなければ、あなたたちの方が負けてた」
……どうやらアムは自分をパーティ打倒の立役者だと思って好意を抱いたらしい。しかしそれは大きな勘違いだ。

本人が言ったように、実際に三人を切り伏せたのはレイヴだ。本当の自分は彼女らのうち、誰一人にも傷を負わせられない底辺の無能。そもそもの前提として、自分がまともに後衛をできていれば、こんな大技を放つ必要もなかった。
レイヴはアムを短時間で降し、軽装の銃使いを速やかに切り伏せ、ナイと共に斧使いを倒し、ずっと楽に戦闘は終わっていたはずなのだ。
自分はそれらの事情をアムに話し、その好意は誤解と勘違いの賜物だと説得を試みる。

「……そうですか。全部勘違いだと」
「そーよ。ネムレスは大したことない…わけじゃないけど、あなたが思ったのとは、まるで違う人間よ」
幻滅して去っていくと思ったのか、レイヴも気を落ち着かせ言葉をやわらげた。自分もこれでレイヴが機嫌を直してくれると、内心でホッと息を吐いたが……。

「……でも、あれほどの魔力障壁を、遠距離に何枚も作れるのは事実。やはりネムレスさんはすごい。防御役として、とても尊敬できる」
ふりだしに戻る。いつかやったボードゲームのマスが脳裏に浮かんだ。

結局、レイヴが迷宮探索に興じていられるような精神状態でなくなってしまい、自分たちはリタイアすることになった。
後から目覚めてきた銃使いのマスケが取りなすことでアムはいったん引いてくれたが、きっと近いうちにこの屋敷を探し出してやってくることだろう。

「あーもう、本当にムカつくっ!」
屋敷に帰り、夕食をすませ、湯浴みをした後も、レイヴは昼のことを思い出しては腹を立てた。今もバスローブ一枚のホカホカ姿で自分の部屋にやってきて、グチグチと不平不満をこぼしている。魔物の生態的にもうどうしようもないのでは…と諦めるよう言ってみるも火に油だった。
さらにナイが強く反対しなかったことも、彼女の不満の一助になっているようである。

「『お決めになるのはネムレス様ですから』ってなによ! 忠誠捧げるのはいいけど、譲っちゃいけないモノもあるでしょ!?」
ナイはレイヴと違って自分が他の魔物と交流しても咎めたりはしない。彼女にとってこの屋敷の住人が増えることは、表立って忌避するものではないのだろう。例えるなら、盗み食いはするが、一人占めはしないという感じか。いや違うか?

「こうなったら、ネムレスがはっきり言っちゃいなさいよ!
 『お前なんかに興味はない。とっとと消え失せろ』ってさ!」
何とも酷いセリフを口にしろと言うレイヴだが、アムの説得などもう不可能だと心の底では分かっているのだろう。だからこそ、プンスカと怒りを発散させなければやっていられないのだ。
それにもし本当にそんなことを言ったら、自分はアムに押し倒されて『……なら興味を持ってもらえるまで頑張る』と性的な奉仕を受けることになるだろう。

「あー…やだなあ……。ぽっと出の女にネムレスを取られたくなんかないよ…」
今度は鬱が入ってきたのか、荒立てていた声が急速に呟き声になった。髪を洗う時と一人で眠るときぐらいしか解かない彼女のツーテール。それが細い両肩と同じく、ガックリしているように見える。

「……ネムレスはさ、アムがやってきても、ちゃんとわたしを好きでいてくれる?
 『姉さんなんかもういらない』とか言ったりしない?」
どこまで落ち込んだのか、彼女の脳内ではレイヴ不要論まで唱えられているようだ。
それは杞憂だと伝えて安心させてあげないといけないだろう。姉が暗い顔をしていて喜ぶ弟などいないのだから。

「本当? ずっとわたしと一緒にいてくれる?」
『もちろんだ。約束する』と自分は言い切る。
愛する女性であり、姉でもある彼女と別れるなど考えられない。

「これ以上他の女に手を出したりしない?
 一人っきりで独身の魔物に会ったり話したりしない?」
そもそもアムの件は自分から手を出したわけではないし、日常的な用事で外出するときは、たいていレイヴかナイのどちらかがついてくる。
たまたま道ですれ違った魔物に一目惚れされるとか、一人でいるときに何らかの用件で独身の魔物とやり取りするだとか、そういう可能性は排除できないが、なるべく努力はしよう。

「わたしを一番に愛してくれる? ナイやアムと交わったら、同じことをその五倍はしてくれる?」
それは無理。
レイヴとナイはどちらの方が好きというものではないし、一緒に暮らしていれば、アムも同じことになるだろう。ましてや交わりにおいてそんな格差をつけることなど不可能だ。絶対に他の二人も五倍にしろと言ってくる。

「やっぱ無理かあ……残念」
『分かってはいたけど』といった風に言うレイヴ。
その顔には苦笑いが浮かんでいて、彼女が纏っていた暗い雰囲気はもう消えている。

「他の二人と同じくらい愛してくれるっていうなら、まあいいや。ごめんね、愚痴っちゃって。でもとっても安心した。それじゃあ…しよっか」
普段通りの調子に戻ったレイヴはバスローブの前をはだけ、シュルッ…と床に落とした。同じようにローブを脱いだ自分に歩み寄り、窓から差し込む紅い月光に彼女はその身をさらけ出す。

童顔とも呼べる顔立ちと、それに似合わぬ豊かな乳房。
きゅっと引き締まった腰と、綺麗にへこんでいるへその窪み。
股間からは体液を垂れ流し、柔らかい太ももをベタベタに濡らしている。

自分と同じ両親からなぜこんな女性が産まれたのかと思える美しさだ。
そんな美しい彼女は自分とあと一歩の距離まで近寄るとベッドを指差し『そこに寝て』と欲情の熱がこもる声で言う。
それに従い白いシーツの上に横たわると、彼女もベッドに上がり、自分の腰の上を跨いで膝立ちになった。女性器からこぼれ続ける体液が勃起した男性器の上に滴り、先端から濡らしていく。

「最初はわたしが上ね。ネムレスのおちんぽよーく搾ってあげるから、たくさん赤ちゃん汁を出すんだよ?」
普段は姉扱いを嫌うレイ…姉さんだが、交わりの時だけはその逆になる。姉弟の背徳感がより感じられるとの理由で『姉さん』と呼ばれたがるのだ。

「それじゃ、お姉ちゃんのビチャビチャおまんこでネムレスのおちんぽ、食べちゃうからねー」
姉さんはそう言うと腰を下げ、自身の体液に塗れた男性器を膣穴で飲み込んだ。

「んんっ! ネムレスのおちんぽ、入ってるっ…! ああ、やっぱ弟のおちんぽ良いわぁ……。ね、わたしのおまんこは良いかな?」
姉さんは男性器を根元まで受け入れると、幾度も繰り返した問いを口にした。気持ち良くなかったことなんて一度もないが、彼女は必ずそう訊くのだ。そして自分もいつもと同じように頷いて肯定すると、彼女は嬉しそうに微笑む。

「そう、ならよかった。じゃあ動いてあげるね」
姉さんはそう言うと、下がっていた腰を上げて落とす動作を始めた。
熱くぬめった膣壁が男性器をゴシゴシとこすり、快感が脳へと送り込まれる。
仰向けに横たわる自分の視界に映るのは、快楽に顔をとろかせ、髪を振り乱し、肌に汗を滲ませながらよがる姉。ナイほどではないが十分に大きい乳房が腰の動きに合わせてはずみ、自分は両手を伸ばしてそれを手の内に収める。

「あっ、おっぱい揉んでくれるの? もっとお姉ちゃんを気持ち良くしてくれるの?
 あはっ! こんな弟がいるだなんて、わたしは幸せね!」
姉さんは自分がいて幸福だと言うが、それはこっちも同じことだ。こんなに美しい女性が自分を愛し、求めてくれることが幸せでないわけがない。さらにその女性は血のつながった姉なのだ。実の姉と子作りをしているという禁忌。その背徳感は何よりも強いもので、姉さんのことがどんどん好きになっていってしまう。

「そうよね! 同じ血を引いてるから、こんなにも相性が良くて愛し合えるんだわ!
 こんなのナイやアムには絶対真似できない! やっぱり近親相姦は最高よっ!」
二人に対する優位性を認識し、嬉しそうな声をあげる姉さん。さらにテンションが上がったのか、男性器を溶かしそうなほどに熱い膣肉が締め付けを増してくる。自分はより強まった快感に、乳首をピンと勃起させている姉さんの乳房を強く握りしめてしまう。

「んっ…! おっぱい強くつかみ過ぎっ! お姉ちゃんまだミルク出せないよっ!
 飲みたいなら、ちゃんと孕ませてくれないとっ…!」
別にそういった意図で握ったわけではないのだが、姉さんは母乳の催促と受け取ったらしい。そしてその言葉に、いつかくる姉さんの姿が想起された。

ナイと同じくらい乳房が大きくなり、その両乳首に白い液体を滲ませた姉さん。
その腹は胎児を宿して見事に膨らみ、いつ産まれてもおかしくなさそうだ。
そんな身重の体でも姉さんは自分の上で腰を振り、母乳を飛び散らせながら嬌声をあげる。
『ネムレスのおかげで、こんなにおっぱいが出るようになったよっ!
 まだお腹にいるこの子の代わりに、お父さんが飲んであげてねっ!』
『あ…れ…? お腹……あ、あ、あっ! 破水、破水してるっ!
 あなたのおちんぽで子宮口開いちゃったんだ! もう産まれちゃうよっ!』
『ひっ…ひぃっ! 赤ちゃん…出ちゃってるっ! ねえっ、ネムレス見えてる!?
 お姉ちゃんのおまんこから、あなたの赤ちゃん出てきてるよっ!
 くぅっ…! 出る…っ! 弟の赤ちゃん、産んじゃうぅっっ!』

「ネムレス! なにボケっとしてるの!? わたしを気にしなさいよ!」 
姉さんの叱りつける声で、ハッと妄想の世界から帰還する自分。見上げた姉さんの顔は交わりによって火照りながらも、不満の眼差しを向けていた。

「今はわたしとヤってる最中でしょ!? 他のこと考えないで!
 それとも何? 急にお姉ちゃんのおまんこが気に入らなくなったっていうの?」
すぐ前の姉さんを放置して妄想に没頭したせいで、彼女はへそを曲げてしまった。普段なら機嫌を戻してもらうのに手間がかかるが今は大丈夫。自分が思ったことをそのまま話せばいいのだ。

「え、そうなの? 妊娠したわたしのこと考えてたの?
 ……ごっ、ごめんネムレス! お姉ちゃんの方が悪かったよ!」
慌てて謝る姉さんだが、もちろん自分は責めたりなんかしない。悪いのは気をそらしていたこっちだ。その代わりに『もっと気持ち良くしてくれ』と伝える。

「う、うん! そうしてあげるね!
 早くあなたの妄想みたいになれるよう頑張るから!」
そう応え姉さんは射精を促すための行為を続ける。
妄想している間は感覚が薄かったが、我にかえってみると、もうかなり限界が近づいてきていた。自分は姉さんの穴を突き上げる動きを大きく早くし、その時がやってくるのを心待ちにする。

「ああっ、ネムレスのおちんぽ、ビクビクしてるっ…! 赤ちゃん汁がもう出そうなのねっ! いいよっ! お姉ちゃんのおまんこに、たっくさん注ぎ込んでちょうだい!」
ひときわ強く押し付けられた姉さんの腰。その衝撃についに我慢がきかなくなり、自分は男性器の先端から精液を放出する。

「ひゃぁっ! 出てるっ! あっつい赤ちゃん汁、おちんぽからビュービュー出てるよぉっ! 弟に種付けされるのっ…気持ち良すぎぃっ! もっと出して孕ませてっ! お姉ちゃんのお腹、膨らませてぇっ!」
射精されている姉さんは色狂いそのものの様相で嬌声をあげる。そのさまを愛おしいと感じる自分もすでに色狂いだ。
だが魔物とその伴侶としてはそれが正しいこと。姉さんとナイとこれから来るアムと共にどこまでも堕落していきたい。自分はそんなことを考えながら、勢いがなくなるまで精液を姉さんに注ぎ続けた。



迷宮探索競技から二日ほど経った、天気の良い午後。
いつもいつもレイヴとナイに任せっきりはどうなんだと思った自分は、久々に自前で茶の準備をし、テラスへ向かう廊下を歩いていた。
すると不意に屋敷への来客を告げるベルが鳴り、自分はテラスに行くのを中断して玄関へ足を向ける。迷宮と違い、罠などない普通の扉を開き『どちらさま…』と顔を出すと、そこには鎧を纏っていないアムとその仲間二人がいた。

「……ようやく見つけましたネムレスさん。会いたかったです」
アムはそう言うと、表情の薄い顔に喜びを浮かべる。
「住所ぐらい別れる前に教えてくれれば、探し回らなくてもよかったのにさあ」
『疲れたー』と言いたげにジト目を向けてくるリア。
彼女の文句は正当だが、あの場面で住所を伝えようものなら『ネムレスの方から手を出した』と受け取られ、レイヴはますます怒ったはずだ。
それにあの時点でアムはもう自分を『旦那さま』として認識しているので、何も言わずとも匂いを嗅ぎつけてやってくるのは分かっていた。
「彼にも事情があるんだ。そんなこと言っちゃダメだよリア」
自分は特に気にしていないが、こちらの気に障ると思ったのかマスケはリアをたしなめる。さすがあの場面でアムを説得し引かせてくれただけのことはあって、彼女は気が利き頭も回る。
それで、三人そろって我が家に来たのはなんなのだろう。アムの付き添いかな?

「あー、そのことなんだけど……」
視線をそらしたリアが恥ずかしそうに口を開くが、言い辛いことなのか言葉を止めてしまう。
「ネムレスさんとはちょっとしか話をしなかったのに、アムが一方的な妄想ですごいノロケちゃって……」
マスケも困っているのか、言葉を濁して申し訳なさそうに顔を赤くする。
「アタシもマスケも…ほら、男とは全然縁がないし?」
「『いいなー、憧れちゃうなー』とはよく思っていたけど、すぐ身近であんなに幸せそうにされたら、ボクたちもそうしたいな…と」
ええと、それはつまり。
「……二人もネムレスさんのことが気になったそうです。友人としてでいいから、仲良くしたいと」
要領を得ない二人に代わって、その意思を代弁するアム。自分は玄関の天井を見上げて『困った…』と息を吐く。

リアもマスケも悪人ではないだろうし、これから家族となるアムの親友でもあるようだ。異性の友人として彼女らと親交を結ぶのは、自分もやぶさかではない。
しかし『アムが羨ましい』と口にするあたり、別の男に求婚でもされなければ、いずれ二人は友人以上の関係を求めてくるだろう。ここは申し訳ないと思うが、二人が夫を見つけるまで自分は接触を控えた方がいい。
だが、いったい何と言えば彼女らは大人しく帰ってくれるだろうか……。

うまい説得の言葉が見つからず考え込む自分の耳に、廊下を歩く誰かの足音が入り込んできた。自分が話し込んでいるので先に茶を取りに来たのだろう。
しかし足音はピタリと立ち止まると、テラスの方へ引き返さずそのまま玄関の方へ向かってきた。

「あ、来たのねアム。いらっしゃい」
足音の主はレイヴだった。彼女は心の中で折り合いをつけたようで、アムの姿を見ても取り乱しはしなかった。アムのことは弟を奪おうとする憎き女から、この屋敷の新しい住人という認識に変わったのだろう。

「……こんにちはレイヴ。これからお世話になります」
特殊な事情がない限り、魔物とその伴侶は同居するもの。
アムの住居がこちらより広いのでない限り、彼女の方がこの屋敷へ引っ越すことになるだろう。

「ん…まあ、気にしなくていいわよ。これから長い付き合いになるんだしね。
 それと、そちらの二人はパーティの仲間だったかしら。今日はアムの付き添い?」
「……パーティの仲間だったのは合ってるけど、目的は別。
 二人ともネムレスさんと仲良くなりたいからわたしに付いてきた」
「……………………は?」
まるで慮ることなく口から飛び出たアムの言葉。
その理解を拒否するかのごとくレイヴは硬直した。

……ああ、レイヴがまた荒れる。今度はどうやって彼女の機嫌を直したらいいものか。
18/02/03 15:40更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
書籍のステータスと技に従えば魔界勇者一人で三人に圧勝できそうな気がします。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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