読切小説
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花の蟷螂
「花恋ちゃーん! どこ〜!」
 辺り一面の白い花の海。散る花びらの中で少年青葉はある少女の名前を呼ぶ。
「花恋ちゃーん!」
 花は青葉の胸の高さまで伸び、探し人の姿を完全に隠してしまっていた。屈まれていたらまず見つからないだろう。そうでなくとも彼女は──
「──青葉くん」
「花恋ちゃん!」
 囁きに近いか細い声が青葉の袖をつかむ。驚いて振り向くとそこには探し人であるマンティス、花恋がいた。
「もう! 心配したよ! 花恋ちゃん白いんだから紛れちゃうんだよ!」
 そう、花恋の髪の色、外骨格の色はやや薄い桃色がわずかに混じる白色だった。肌の色もやはり白い。目立つのは目の赤色だけ。
 今も、花恋を目の前にしている青葉は花に紛れて彼女を見失いそうになっている。
「ごめん、なさい」
 ぺこりと花恋は頭を下げる。瞳の赤すらも青葉の目には届かなくなった。
「ほら、戻ろ? 迷子になっちゃう前にさ」
 青葉は手を引いて花畑から出ようとする、が。
「ちょっと、待って」
 花恋は踏みとどまった。
「どうしたの?」
「渡したい物があるの」
 先ほどから背中に隠していた物を青葉の頭の上に載せた。
「いい匂い……花冠? 作ってくれたの?」
「……」
 無言で頷く花恋。その白い頬に赤みがかかる。
「ここの白い花が青葉くんに似合うと思って……でも、長すぎるからちょうどいい大きさに切ってたら夢中になっちゃって……ごめんなさい」
 消え入るような声で言う。微かに腕の鎌には緑色の汁が付いていた。
「……ありがとう! 花恋ちゃん! すっごく嬉しい!」
 青葉は満面の笑みを花恋に向ける。花恋はなおさら頬を赤くする。
「……ね、ねぇ、もう一つプレゼントがあるの……目、瞑ってて?」
「わかった」
 言われたとおりに青葉が目を閉じると花恋は──
「──ちゅ」
 優しく彼の唇にキスをした。
「え、か、花恋ちゃん!?」
「私、青葉くんのこと好き。大好き。みんなには秘密にしてね」
 指を口に当て言う花恋に、青葉の心臓は鼓動を早める。
「わ、わかった」
 二人はしばし見つめ合う。
 祝福の花びらが舞う秘密の花園で。





 そして、時が経ち。
「青葉くん……どこ?」
 また同じ花園で、花恋は青葉を探す。探しながら思い出す、自分たちの馴れ初めを。
(今思えば大胆なことしちゃったな……)
 顔が熱くなる。思わず花恋は俯いてしまう。
(いくら子供とはいえ……うぅ)
 青葉を探すのを忘れて花恋はその場で悶える。
 すると。
「わっ!」
「きゃっ!?」
 目の前の茂みから青葉が飛び出てくる。
「あ、青葉くん──び、びっくりしたぁ」
「ごめんごめん。なんか急に立ち止まるから気になっちゃって」
「もう……」
 少し怒りながらも、花恋は微笑む。
(でも、あの決断ができたからこそ、私はこうして青葉くんと向き合っていられるんだよね──)
 静かに幸せを噛みしめながら花恋は青葉の手を引こうとする。すると彼はその左手を取った。
「? どうしたの青葉くん? 戻らないの?」
「いや、ちょっとね。昔を思い出しちゃってさ。あの時、僕はここで花冠をもらったよね……君から」
「そう、だね」
「そこから始まった──だから、ここでもう一度始めようと思って」
 そう言って彼は隠していた物を彼女の薬指にはめる。
 それは、白い花でできた指輪だった。
「──青葉くん」
「ごめんね。今はこれしか用意できないんだ。だけども、いつかは本物も──ね」
 青葉は息を吸って、そして言う。
「結婚、してください。花恋ちゃん」
「──喜んで。青葉くん」



 再びの始まり。
 やはり辺りには花吹雪が。
18/01/07 23:08更新 / 鯖の味噌煮

■作者メッセージ
以前、Twitterでの会話でアルビノが出てきたのでそれを含めつつ書きました。
やっぱり、ロリショタカップルの始まりは軽めのキスからやな、って。

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