連載小説
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そのにじゅうろく
〜〜〜あいまい人物紹介〜〜〜
堕落の乙女達=『逆に考えるんだ。堕落ではなく進化しちゃったのさと考えるんだ』

デルエラ=「さあどんどんすくっちゃおうね〜」

あなた=「本当は、平穏で平凡な日常を過ごしたいんだお……。
でも、教団から命を狙われたり、多種多様な厄介事が舞い込んだりするんだお……。
……………………だから、酒に逃げるお!!」

サプリエート・スピリカ=「はやく素敵な男性と番になりた〜い……」
〜〜〜〜〜〜


ここは魔界国家レスカティエ。

上の造りだすしわ寄せを下がもろに受けていたのも過去の話。
今ではどこもかしこも活気に溢れ、物陰に目をやれば、
片方あるいは双方が興奮している男女が手足や尻尾や触手を絡み合わせ
交わっているのが日常だ。慎み深い種族もいないことはないが
それは天性の誘い受け気質なだけで、男を欲する魔物娘としての本質は変わらない。
『襲う』が『襲わせる』にすり変わっただけだ。
ときどき『信じて教団が送り出した兵士達が
アヘ顔ピースモンスターの餌食となってしまうなんて』という出来事も起きたりするが
それは恒例行事のようなものなので気にするだけ無駄である。
教団は虎の巣に統率された狼の群れを派遣していると思っているようだが
こちらから見れば狼どころか子豚以下だ。収穫されたばかりの果実を送っているのと大差ない。
独身の魔物たちは未来の夫候補が来るのを胸躍らせて待ち望み
番のいる魔物たちは愛と快楽に満ちた日々を過ごす。

レスカティエはまあまあ平和であった。


ポローヴェは荒れていた。

なぜそんなことがわかるのかというと
別に千里眼を持っているのではなく、現地にいるからだ。
理由というか元凶は目前の建物に閉じ込められている。ポローヴェの行き遅れ才媛こと
サプリエート・スピリカというとぼけた眼鏡ダークマターが
とんでもなくアバウトな実験を行った結果、最悪の形で事故がおきたらしい。
何をしたかというと、まず、きわめて高濃度の球形魔力塊を真っ二つに切り、上半分には
女性的な属性を、下半分には男性的な属性を付与することで
擬似ダークマターといえる状態にセッティングしておいて、その間に
ドワーフや人間の機械技師が使う工具を適当に挟む。
挟んでおかないと完全に結合してあっという間に膨大な魔力を放出してしまうからだそうだ。
後はその工具を動かして、隙間を広げたり縮めたりすることで、
不完全な結合による魔力の放出度合いの変化を計測するというのが本人の弁だ。
当然、手が滑れば大惨事となる。放出された魔力が
周囲にどのような影響を与えるかは予測不能だ。

そして実験三日目でスピリカの手が滑って事故発生。
あろうことか擬似ダークマターはスピリカ女史の自前の魔力塊と反応して
そのまま融合してしまい、その中に彼女は為すすべなく取り込まれてしまう。

研究施設はすぐに閉鎖。魔女やバフォメットたちによる
強固な封印魔法が建物そのものにかけられて急場はしのいだものの
それからうまい対策が出てこない。なので一刻も早い解決のため、助力を乞われて
俺とデルエラが引っ張り出されたのだ。実力も暇もあるという理由で。
なお、サポート役という名目の監視役でマリナと今宵が同行しているので
フラフラと飲んだくれることはできない。ちくしょう。ちくしょおおおおお。


〜〜〜〜〜〜


建物内部。
俺が住むレスカティエの王城並みに魔力が充満しているのが肌でわかる。
ただし、ここの魔力は渇望じみた要素が強く感じられる。城内に満ちる魔力のような
落ち着いた要素とは似て非なるものだ。独身がコアになっているせいだろう。

「らぁめぇ〜〜〜〜。らぁああぁあぁめええぇぇええ〜〜〜〜〜〜」

ひときわ硬く閉ざされた扉をへだてた実験室内部から、低音の浮かれた声が聞こえてくる。
この、叫びなのか喘ぎなのかわからん声を由縁に、独身学者の成れの果ては
関係者から『ラーメーさん』という名称で呼ばれていた。
「だ、旦那さま、ウチこういうのアカン……」
毛並みのいい何本ものモフモフ尻尾を震わせて今宵がおびえている。
「大丈夫よ。どうせ着ぐるみみたいな姿でウロウロしてるだけに決まってるわ。
昔の魔物みたいに不気味な形態じゃないって…………きっと」
豪気そうに思えるが最後の三文字がマリナの弱気を如実に現している。
根拠のない希望をもつとアテが外れた時に衝撃がでかいからやめておけばいいのに。
「……じゃあ、封印を解くわよ……いいわね?」
どこかわくわくしているデルエラが俺達三人を急かす。
「今宵の心の準備が完璧になるのを待ってたらいつになるかわからん。
もう解除してくれて結構だ」
ここは突き放す。やむを得ない。
「うぅ、そんな殺生なぁ」
「はいはい、そろそろ覚悟を決めなさい。
優秀な退魔師だったんでしょ?このくらいで脅えてたら天之宮の名が泣くわよ?」
「べつに、そないな名なんてもうどうでもええんやけど…」
などと問答している間にもデルエラは淡々と解除の合言葉を唱えていく。
「……己の尾から牙を離せ、蛇よ。無限に近き戒めを無に返せ……」
…………シュィィィィィィィィィィィ……………………ン
「あっ、ほんまに解いてもうた!気が早すぎやぁ!」
かくして封印は解かれた。

バタアァンッ!

扉が向こうから開かれた。つまり、向こうにいる彼女が開けたのだ。
ということは、彼女が、謎に包まれていたそのボディをこちらにさらした訳で。
「ららららぁああぁぁぁあぁめえぇえええええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜」

「うほわぁぁああああ!!?」
人生で驚いた出来事ランキングぶっちぎり堂々の栄えある一位が
目の前にって何だこれきめええええぇ!!
巨体の真っ黒デブの左肩あたりから恍惚の表情の眼鏡美人が生えてて
ひときわ巨大なノコギリ状の右腕と牙だらけの口が危険すぎる!
こんなの旧魔王時代でもいないだろ!
「ひいいいいいいいいぃぃぃぃ!!?」「はにゃああああああああ!!?」
叫ぶだけの存在と化した今宵とマリナを脇に抱え俺は脱兎のごとく逃げ出す!
相手の力量も行動パターンも何もかも不明なうえに
足手まといが二人もいては攻めようがない!
後ろを振り返ると一拍おいてデルエラが絶叫してから
こっちへ猛ダッシュしてきた!優美さとかかなぐり捨ててひたすら全力疾走だ!
黒デブも見た目に反してなかなかのスピードで追ってくるが
こちらの足のほうが早い!
「だぁきしぃめてええぇぇえぇぇえええええぇ〜〜〜〜」
遠慮します!!

……とりあえず距離を稼いで、二人が冷静さを取り戻すのを待つ。
「ねえ、貴方の『呪詛』で押さえつけられなかったの?」
デルエラがもっともな意見を口にする。
「いや、無理だな。『呪詛』は、善悪に属さない――教団でいうところの
『無原罪』の存在には効果がない。ただの物体や精霊ならまだ力押しでどうにかできるが
あんな強力な魔力塊相手では、さすがに通じないよ」
「となると、削っていくしかないようね」
「地道にやるのが早道ってことだな」
「うう……な、なんやったのアレ……」「こ、怖すぎだよ……」
やっと戦場復帰したか。
「………………?
はて……もう追いついてきてもおかしくないはずだが?」
あの間延びした声が一向に聞こえてこない。
「そうね、あの足の速さなら、この階まで上がって来るのも…………まさか!」
俺とデルエラは顔を見合わせると、窓から外に飛び出した。


そのまさかだった。
「らぁあぁぁぁあぁめえええぇ〜〜〜。らぁあめめめめぇえええぇ〜〜」
「うわあああぁ!?な、なんだこの化け物は!?」
「スピリカ、目を覚まして!!」「こいつ、早いぞ!みんな気を抜くなぁ!」
俺たちを追って上階にくると思ったが計算違いだったか。
白日の下にさらされた『ラーメーさん』を目の当たりにした、外で待機していた
魔物たちのどよめきと悲鳴が無数にあがっている。
とっくに一戦交えているらしい。女史を巻き添えにできないため
本気の攻撃をかますこともできず、加減して黒デブのほうを斬りつけてるようだが
防御力はそれほどないのか、攻撃が命中するたびに魔力塊の破片が飛び散る。
「きゃああああぁ!」「ひっ、なにこれぇ!?」
なんと破片が黒い人型になって、その異様に長い腕をしならせ
魔物娘たちに飛びかかっていくではないか!
「だ、駄目ぇ、私の身体はフェリオのモノなのぉ!」「やだ、離してえぇ!!」
「あひっ、ひいいぃ!やめて、夫以外のオチンポで感じさせないで!あっひいいいいぃ!!」
欲に飢えた濃密な魔力塊から形成されているだけあって、纏わりつかれた者たちは
最初こそ抵抗していたものの魔力にあてられてじきに脱力していき、
そのいきり立った肉棒をねじこまれて体内をかき回され、処女はシックスナインの体勢で
陰唇や淫核を好き放題にむしゃぶられていた。
さすが夫専用まんこと言われる魔物娘だけあって番がいる者はマジイキしないが
それでも軽く絶頂してしまうようで、嘆き悲しみながら愛液をこぼしている。
これが人間の女ならとっくに自分から足を絡め正気を失っているだろう。
「うぅううぅらやましひぃぃぃぃなぁああああぁぁぁ〜〜〜〜〜」
凶悪な外見にそぐわないその声が逆に気色悪い。
「うかつに攻撃できんな……。
ちっ、ここまで厄介な相手だとは思わなかったぜ」
『ラーメーさん』恐るべし。
「だけど、手がないこともないわよ」
おや、皇女さまにはなにやら名案があるようだ。
「ぜひ聞かせてもらおう」
「そうね、まず、あの分離体どもをマリナたちが相手して、
私と貴方の用意がととのうまで、今宵が本体のほうを足止めするの」
「ウ、ウチですかぁ!?」
正しい人選だ。不可能ではないだろう。
稲荷は魔力の制御に長けた魔物だ。暴走しているとはいえ
他者の支配を受けていない魔力塊なら一時的に動きを鈍らせることもできるはずだ。
「お前ならやれる、頑張れ」
と言って激励で尻を撫でる。
「……も、もう、旦那様は狐使いが荒いんやからぁ……」

そして『わたしも』と言わんばかりに
こちらにグイっと腰を突き出してきたマリナの尻も撫で、作戦開始となった。


〜〜〜〜〜〜


「あと何体ですかっ!?」
マリナが叫ぶ。
ザシュッ!
「4体だったが、これで3体になった!」
地面に横たわる手長に突き刺していた剣を抜いたデュラハンが、そう答える。
何度も攻撃を受けて魔力を消耗し、実体化してるだけの容量がなくなったその手長は
仲間がそうなっていったように、弱々しく蠢きながら地面のシミになっていった。
「今度は2体増えたぞぉ!!」
トゲ鉄球のついた鎖を振り回しながらミノタウロスが声を張り上げる。
今宵の呪縛から逃れるためにあがく黒デブが
たまに腹部をボコボコ膨らませて手長を生み出しているのだ。きりがない。
「お二人とも、まだですかぁ!?ウチそろそろしんどいわぁ!」
今宵も額に玉のような汗を浮かべている。
「もうちょい……よし、俺はOKだ!」
魔力を霧散させるたぐいの魔術を何重にもかけた右腕を上げ、俺はデルエラに合図する。
「……こちらも完了したわ!」
『ラーメーさん』を挟んで反対方向にいるデルエラも
合わせ鏡のように同じく右腕を上げ、こちらに返答した。
「いくわよ!」「おうよ!」
ズダダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!
ワームの突進を上回る猛烈な勢いで俺とデルエラは駆ける!


「見敵!」「必殺!」
「「クロスブラスタァァァァアアアアアアアアアッ!!!」」

ドッグワッシャアアアアアアァァァァァンンンッ!!


俺たちの黄金の豪腕が黒デブの頭部を前後から挟み潰す。直後、その胴体が
まるで砂上の楼閣であったかのように、あっけなく散った。
前後から同時に与えられた激烈な一撃は相乗効果を発生させ、
刹那、黒デブの内部を縦横無尽に駆け巡ってこの世から亡き者にしたのだ。
ただの二回攻撃なら当たった箇所がそれぞれ消し飛ぶだけだが、
これならその威力を大幅に広げることができる。
魔界第四皇女の作戦勝ちというところか。


……いや、待てよ。落ち着いて考えてみると……そうでもないな。
陶酔しているスピリカさんのほうに『呪詛』をかけて
強制的に分離させ、残った黒デブをオーバーキル。多分これが一番早いと思います。

しかしこの祝勝ムードに釘を刺すのも大人気ないので黙っておく。
機嫌がいいままにしておけば、俺が多少飲み歩いてもフォローしてくれるだろう。
虚ろな目で宙を見たままぼんやりしてる女史の回復やその責任追及は
俺の関与するところではない。後はポローヴェの者がやる仕事だ。
「お疲れさま」「はー……しんどかったわぁ」
右からマリナが、左から今宵が、何かを期待するようにしなだれかかってきた。
何か、というか魔物が夫に期待することなど、ほぼ一択だが。


――飲み歩きは明日においといて、今日はこいつらを可愛がるとしよう。
13/05/22 00:29更新 / だれか
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■作者メッセージ
どうにか未然に防がれたバイオハザードならぬスピリカハザード。
これには四魔精霊も苦笑い。

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