連載小説
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ハプニング
 
〜時の運〜

うむ、今日も素晴らしい一日であった。向こうの世界とは違い、こちらの世界はなかなか見所があるやつが多いな。しかし・・、まいったな。こちらでは魔法がほとんど使えないのが辛い。だが!これも主神から与えられた試練と思えばなんてことはない。こんな環境だからこそ地力が発揮され実力が上がっていくというものだ。うむうむ。だが・・・。

「今まであまり気にしなかったが・・こちらでは腹が減るのだな」

こちらの世界に来てからというもの・・食べ物が美味しくて美味しくて・・。ハッ!?いかんいかん、このままでは大罪を犯してしまう。いくら食べ物が美味いからといって暴飲暴食など神に仕える身にはあってはならな・・・。ぁ、・・・あのパウンドケーキとモンブラン・・美味しそう・・。な、なんだと・・!?今の時間は飲み物と一緒に頼むとケーキが半額になるだと・・・!?

「・・・ひ、一口だけなら・・」

あの甘い誘惑に勝てない・・・、特にパウンドケーキ・・それもたっぷりとブランデーが染み込んだケーキ。ああ、あの甘美な誘惑が私を狂わせる。


「ありがとうございました〜♪」


「・・・・・・・・・」

食べてしまった・・・。何故私は食べてしまったんだ・・。こちらに来てからというもの、・・何度誘惑に負けているのやら。

「ふぅ・・・・、食べてしまったものはしょうがない!でも・・」

最近気になり始めた問題がある。それは・・。

「お腹周りが・・・」

甘い物を食べ過ぎたせいか微妙に脂肪が付いてるような感じがする。このままでは大罪を犯し堕落してしまう。なんとかしなくては。

「・・・そうだ!確かサウナとやらに入れば痩せれると聞いたな!今晩行ってみるか」



ふむ、・・・ここが金玉の湯か。なんだか妙な気配がするが。まぁ、良い。入ればわかる事。ほう・・これが暖簾というものか・・なかなか風情があるな。

「いらっしゃ〜い、・・あら?」

「・・・む!」

何故このような場所に妖狐が居るのだ。だが・・この程度の妖狐なんぞ!

「成敗ッ!・・・あだっ!?」

「はぁ・・、せっかちな御客様ねぇ・・。そんな程度の腕じゃアタシに指一本触れる事なんて出来ないわよ?」

「な・・、なにを!・・・ウッ!?」

尾・・尾が・・8本だと・・。こ、これほどの妖狐が何故こんな所で・・。

「わかったら・・・黙ってお風呂に入りなさい」

「クッ・・・」

仕方あるまい。明らかに力に差がありすぎる。魔法が使えない今、8尾の妖狐に勝てる要素が見つからない。ここは黙って言う事を聞いておくしか。

「あ、そうそう。お風呂場で問題起こしたら・・どうなるかわかってるわね♪」

「・・・・」

悔しいが反論出来ん。しょうがない・・今日は別に争いに来た訳ではないのだ。まずはこの・・よ・・余分な・・贅肉を・・。ん?・・・この妖狐、・・よく見ると無駄な肉が無い・・。

「・・・やだ、何おっぱい見てるのよ。アタシにはそんな趣味無いわよ」

「誰が見るか!」

なんという悔しさ。あれほどの体型を維持しているとは・・決して羨ましいという訳ではない。そう、断じて!

「早くサウナとやらに入らなければ・・・」

「あら?サウナに入りたいの?それじゃこれを持っていきなさいな」

大きめのタオルを手渡される。これは一体何に使うんだ。

「サウナに入ったらそれを体に巻いてね」

「巻く・・のか?」

まあいい、私はサウナに入れればいいのだ。それでは入ってみるか。


<カラララララ・・・・>

「うっ!?」

な、なんだこの魔物の巣窟は!だ、だが・・ここで問題を起こす訳には・・。

-ピチャッ-

「ん?何か足に?」

「ヒゥッ!・・・ご・・ごめんなさい・・・」

あああああああああああ、ちょっと待て!泣こうとするな!泣くな泣くな!ほらほら、私は怒ってなんかいないぞー。たかいたかーい。

「わぁ〜〜〜♪たか〜〜〜〜い♪」

足にボディソープが掛かったぐらいで幼子を泣かせたとあっては天界の恥というもの。・・ふぅ・・なんとか治まってくれたか。まあ、ボディソープなんぞ洗い流せば済む。

「ママー、あのお姉ちゃんがたかいたかーいしてくれたのー♪」

「あら、良かったわね〜♪」

なっ、サキュバスだと・・と、いう事はあの少女はアリスだったのか・・。クッ、・・なんという事だ、宿敵である魔物の子をあやしてしまったとは。・・なんだか疲れてきた・・早くサウナに入ろう・・。

「ほう・・これが銭湯というものか・・。なかなか広いではないか。しかし・・」

周囲全てが魔物だらけというのもどうしたものか。この際無視だ無視。今は黙って耐え忍ぶのだ。さて、まずは当初の目的であるサウナに入ってみるか。ふむ、サウナとは密室空間の事なのか。ええと、確かタオルを体に巻いてだな・・。

-カチャ-

「うっ・・なんという熱気。だが・・耐えれない暑さではない」

ほほう・・この石椅子に座るのか。なるほど・・石椅子が熱せられて熱いから体にタオルを巻いて座るのか。ふむ・・ん?おお♪サウナ部屋にTVが設置されてるではないか。なかなか気が利く。おぉ・・、今日はデザート特集なのか♥

「うむうむ♪なかなか美味そうじゃないか。よし、余分な贅肉を落としたら一度だけ食べに行ってみるか」

じわじわと汗が滲み出る。いい感じに発汗しているな。汗を出す事によって新陳代謝を促す訳か。いいぞ、身が引き締まる感じだ。ん・・?

「なになに?サウナの目安は5〜10分。これを数回繰り返す事によって効果を高める・・ふむ。ようするに一気に落とさずに体に負担を与えないよう適度に汗を流せということだな」

なるほどなるほど。確かに一朝一夕で勇者が出来るわけがない。いくつもの試練を超えてこそ真に鍛えられるのだからな。では、そろそろ10分経ったし一度出て身体を冷やそうか。

「・・・・・」

忘れていた・・、ここは魔物達の巣窟だったんだ。仕方ないな・・シャワーだけ浴びてサウナに入ろう。

「ぁ、さっきのおねーちゃーん♪体洗いっこしよー♪」

「・・・ッ!?い、いや・・私は・・」

「・・・ダメ・・?」



・・・・私は何をしているのだ?何故アリスの娘に背中を洗ってもらっているのだ。ま、・・まあ良い。アリスは何もしなければ純真無垢な娘のはずだ。下手すれば人間の子よりも心が綺麗だというしな。

「んっしょ・・んしょ・・、おねーちゃん気持ちいいー?」

「ああ・・気持ちいいぞ。それでは・・次は私が洗ってやろう」

「わーい♪」

ふむ・・幼子とはこのような身体つきであったか。このような時期が私にもあったんだな。

「おねーちゃんくすぐったい〜♪」

「こらこら、あんまり騒ぐもんじゃないぞ」

私にも・・娘が出来たらこんな風に・・、ハッ!?私は何を考えてしまったんだ。

「それでは流すぞ」

「はーい」

・・・・・。

つ、疲れた。早くサウナに入ろう。はぁ・・サウナとは良いものだな。無駄な水分を飛ばし身を引き締める。これこそ私に与えられた娯楽・・・では無い。試練というものだ。

「さて、そろそろ出るとするか」

軽くシャワーを浴びて浴室を出る。そして本日最後にして最大の試練に立ち向かう・・・。

「・・・良し!●●●●g減っているぞ♪」

うむ、これであのデザートを食べても大丈夫だ。じゃない!何を考えてるのだ、私は・・。

「んぅ?なんだかいい匂いがするな?」

まあいい、今日の所は早く帰ろう。


<カラララララ・・・>


「あら?ちょうど良かったわ」

「・・何だ?」

魔法さえ使えれば・・こんな狐なんぞ。

「今ね、この人から新作のケーキを頂いたのよ〜♪皆に配ってるみたいだから貴女もどう?」

新作ケーキだと!?だ、駄目だ!誘惑に乗るんじゃない。このような甘言に惑わされる私では無い!

「・・・ひ、一つ頂こう・・」

「ありがとうございます。近所に店を持つ事になりましたので良ければどなたかお誘い合わせのうえ当店に足をお運び頂けるとありがたいです」

うむ・・うむ・・、美味い。素晴らしい出来だ。むっ!?

「ど、・・どうかしましたか?」

こ、この男・・。よく見れば素晴らしい魂の持ち主だ。胸の奥に何か輝くものを持っている。まさか、このような場所でこれほどの逸材を見つけてしまうとは。

「素晴らしいな・・」

「え?は、はぁ・・ありがとうございます」

「本当に素晴らしい魂の輝きだ・・」

「へ?」

「うむ、気に入ったぞ!お主、我の伴侶となるのだ!」

これほどの逸材、このような場所に長居させてはいかん。魔物どもの標的にされる前に私が一生涯護らなくては。

「あ、あの・・ちょっと・・どこに引っ張っていくんですか?」

「何を言ってる?お主ほどの高潔な魂・・私が生涯管理するに決まっておるだろう。さあ早く店に案内するのだ」

今日はなんという良き日なのだ。これほどの魂を見つける事が出来るとは。神よ、感謝します。このような私にこれほどの逸材を巡り合わせてくれた事に。

「さあ、次の新作を私に味見させるのだ」

「は、・・ははは・・」

さて、次はどれほどのケーキが出てくるのやら。










        『アッーーーーー!また贅肉がーーーーーっ!?』



14/09/06 22:11更新 / ぷいぷい
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■作者メッセージ
なんとなくネタを投下。今回のテーマは『ヴァルキリー』『サウナ』『ハプニング』でした。

ヴァルキリーさんだって乙女ですから甘い物の誘惑には勝てないと思うのです・・。

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