連載小説
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1章 『乙女な奴ら』
「正拳突き!」
「………(サッ)」
「足払い!」
「………(ピョン)」
「ドラゴンテイル!!」
「………(ガシッ)」
「「「「おお〜〜〜!!!」」」」

メイVSエルザの真剣勝負を観戦中。

「と、止めた…だと!?」
「………(グイッ)」
「んな!?」

ブン…ブン…ブン!!

「よ、止せ〜〜! 目が回る〜〜〜@@;」
「………(グルングルン)」
「まるでマ○オがク○パをジャイアントスイングしているかのようです」
「その例えは良くわからないけど、確かに凄いなメイのやつ」
「いけーーい! そのまま雌トカゲを葬ってしまうのじゃーーー!!」
「ちょ、ちょっとアイちゃん;」

ブン…ブン……スカッ

「………あ」
「「ふぎゃっ!?」」

誤って手を離してしまったメイ。
投げ飛ばされたエルザは観戦していたアイリにクリーンヒット。

「アイちゃん!? エルザ!?」
「お、おいおい大丈夫か!?」
「「………」」
「2人とも気絶していますね。 心配いりません、命に別状はありません」
「よ、良かった〜;;」
「………(勝利)」
「確かにメイの勝ちだけど…というか、サハギンってこんなに強かったっけ?」
「ここまで陸上性能の高いサハギンはメイさんだけですよ」
「まぁドラゴンを投げ飛ばすくらいだしなぁ。 メイは特別ってことか」
「………?」
「自覚のないところも実にメイさんらしいですね」
「ほんとだな」
「ちょっと2人とも〜! アイちゃんとエルザ運ぶの手伝ってよ〜!」












学校終わりのバイト先にて。

「お疲れさまです。 後は俺が引き継ぎます」
「ようやく来たか新入り。 後のことは任せたぞ」
「ふふっ♪ じゃぁお言葉に甘えて、後はよろしくお願いするわね?」
「はい、任せてください!」

レオナさん(リザードマン)とスミレさん(妖狐)は早朝組のためここでバトンタッチ。

「お、フレンじゃないか!」
「やぁメオ。 君も今から?」
「おう! つーか、フレンはオレと時間被ってんのか?」
「いや、そういうわけでもないよ。 学校が始まったから日ごとに変わると思う」
「そうか! よーし、そんじゃいっちょ働きますか!」

俺と同時にメオ(ゴブリン)がIN。
今厨房にいるのは俺にメオ、レティ(マンティス)に加えセラとソラ(両者インプ)の5名。
今日イサラさん(ホルスタウロス)はお休みらしい。

「フレンくんおは〜♪」
「セラ違〜う! 今はこんばんはでしょ〜?」
「あ、そうだった!」
「え、えっと……」
「「フレンくんこんばんわは〜♪」」
「こ、こんばんは、2人とも」

この2人は双子らしく、まったく見分けがつかない。
今挨拶を注意されたのがセラだから、その逆がソラってことか。
……だめだ、一瞬目を離すとすぐわからなくなる。

「………」
「レティ、お疲れ」
「……君か」

厨房の奥で黙々と作業をするレティにも声を掛ける。
一見無愛想な印象を受ける彼女だけど、実際そんな事はない。
真面目で誠実、それに話しかければきちんと受け応えしてくれる。
これは数週間一緒に働いていたからこそ言えること。

「……来ないと、思った」
「え? あぁ、学校始まったから、これからは日によって時間が変わるかもって、チーフに言っておいたはずだけど……皆に伝えてくれなかったのかなぁ?」
「……チーフ、たまに抜けてる」
「そ、そうなんだ」

新人教育が終わった後も、レティと俺は良く会話をするようになった。
まぁ彼女から声を掛けられたことはないけど、以前より打ち解けられたと自分では思っている。

「……イサラ、いない。 平気?」
「え、どうして?」
「……君、イサラ好き。 違う?」
「いや、まぁ確かに好きだけど……俺はこの店の人達皆が好きだよ?」
「……そう」

意外だなぁ?
レティがこんな話をふってくるなんて。

「あ、もちろんレティの事も好きだよ」
「…っ……///」

この後、レティは俺と顔を合わせてくれなかった。
はぁ……なにかマズイこと言ったかなぁ?












「3番テーブル、『ぱいずりハンバーグ』と『らぶジュース』オーダー入りま〜す♪」
「11番テーブル、『白濁ソースぶっかけスパゲッティ』オーダー入りま〜す♪」
「6番テーブルと9番テーブルに『じゅせいバニラ』と『レイプルシロップ入りワッフル』をそれぞれ2つずつオーダー入るのじゃーー!!」

やたら忙しくなる閉店間際の喫茶店。
魔女達に混じってアイリの声が聞こえてくると、思わず笑いが込み上げてくる。

「ひ〜ん…忙しいよぉ〜」
「ソラ! 休んでる暇はないわよ!?」
「おいフレン! 肉のストックが切れそうだ!」
「わかった!3分待ってくれ! レティ、この皿にドレッシングとバジルを頼む」
「……了解」

比較的年齢の近い厨房組が最大限の連携プレーを発揮する。
そういえばこの面子、全員タメだからなんとなく働きやすい。

「最終オーダー入りま〜す♪」
「よっしゃラストだ! ラストスパートかけるぞ!」
「「「おおーー!!」」」「……ぉぉ」

メオの掛け声を合図に、最後の仕上げに取り掛かる俺達だった。












「ふぅ…さすがに疲れた」
「「もうクタクタ……」」
「だらしない奴らだなー! オレは今のが5時間続いても余裕だぞ!」
「……体力馬鹿」

なんとか乗り切った。
終盤であんなに忙しかったのは今回が初めてだ。

「みんなお疲れ様〜! いやぁさっきは凄かったね〜」
「あ、チーフ」

どこからともなくチーフのファンネルさん(アルプ)がひょっこりと顔を出す。
数時間前挨拶したっきり姿を見せなかったけど、どこ行ってたんだろ?

「どうフレン君? ここの仕事にはもう慣れたかな?」
「えーと、まだ何とも……」
「そうかな? 僕は他の人達と遜色なく働けてると思うよ?」
「そ、そうですか?」

いつの間にか観察されていた。
さすがチーフ、希少種アルプの名は伊達じゃない。

「あたしも良くやってると思うよ〜♪」
「あたしも〜♪」
「そうだな! スタミナはまだまだだけど、将来性はあるぞ!」
「ほら、僕の言ったとおり♪」
「は、はぁ」
「レティはどう思う?」
「……成長段階」
「レティに褒められるなんて、フレン君やるね〜?」
「え、今の褒め言葉なんですか?」

スタッフルームで雑談した後、それぞれが更衣室で着替えを済ませる。

「じゃーなフレン!」
「「ばいば〜い♪」」
「あぁ、お疲れー」

メオと双子は早々に帰宅していく。

「……帰ります」
「あ、レティちょっと待って。 あとフレン君も」
「はい?」

続いて帰ろうとした俺達を止めるチーフ。

「シフトの事なんだけど、レティは今のままでいいのかな?」
「……うん」
「フレン君はさっき確認した感じでオーケー?」
「はい、大丈夫です」
「わかった。 引き止めてゴメンね」
「いえ。 それじゃぁお疲れさまです!」
「お疲れ様! 2人とも気をつけて帰ってね♪」

チーフはまだ仕事が残っていると言い、そのまま店に泊り込むらしい。
いやそんな事より、チーフってどんな仕事してるんだ?
あの人が働いている所を1度も見たことがない。
まさか…チーフは名前だけで、実はただのプー太郎なのか?

「……どうしたの?」
「あぁいや、何でもない」

レティと2人、満天の星空の下を歩く(アイリは夕方に帰宅)。
そういえば、こうして一緒に帰るのは初めてかもしれない。
長期休暇中、俺は夕方に仕事を終えていたから時間が合わなかったんだと思う。

「………」
「………」

会話はない。
でもだからといって気まずくもない。
彼女といると、なぜか不思議と心が落ち着く。

「……星、綺麗」
「え?」

レティがポツリと呟き、俺も空を見上げる。
あぁ…確かに綺麗だ。
こうやって誰かと星空を見るなんて、ここ数年なかったかもしれない。
なんだかレティといると、今まで忘れていた事を思い出させてくれる…そんな気がする。
視線をふと彼女に向けた。

「………」
「あっ……」

星空へ向け優しく微笑む彼女に……思わず見惚れてしまった。
………。
目が、離せない。

「……? なに?」
「っ!? い、いや! ごめん、なんでもない!」
「……?」

不思議そうに首を傾げるレティ。
あ〜…俺のバカ!
なに柄にもないことしてるんだよ……。

「……私、こっち」
「あ…そっか」

レティとはここで別れることに。
助かった…今はまともに彼女の顔が見れない。

「……また、明日」
「あぁ、また」

そしてレティに背を向けた瞬間、

「……フ、フレン」
「え?」

俺は呼ばれて振り返る。

「……時間、合えば…また……」

そう言いかけて、

「……なんでも、ない」

恐ろしい速度で走り去っていった。

「な、なんだ?」

レティが去った後も、俺は少しの間道の真ん中で突っ立っていた。

「あ、名前……」

フレンって、初めて呼ばれた。
仲間としてようやく認めてくれたのかなぁ?
だとしたら嬉しいな。



なんだか疲れが心地良い。
今夜はぐっすり眠れそうだ。
レティにも、イイ夢見てほしいな………












〜おまけ〜

「え…ちょっと! 夕食俺の分は!?」
「……てへ♪」
「こらティータ!! 『てへ♪』じゃねーよ!?」
「諦めろフレン。 お前のものは私のもの、私のものは私のものだ」
「いやそんなジャ○アニズムはどうでもイイから!」
「ごめんねフレン…アタシすっかり忘れてて……」
「あぁいや…フィロは悪気があってやったわけじゃないよな」
「お主! あきらかにフィロには優しいではないか!?」
「そんなことはない! いや待てよ…アイリ、確かお前に残しておけと言っておいたよな?」
「ギクッ」
「どうやらこの1件……全部お前に責任があるみたいだなぁ?」
「ま、待たぬか! お、落ち着いてワシの話を聞くのじゃ!」
「問答無用! アイリ、お前には『宙吊りの刑』を言い渡す!!」
「アレか……」
「アレですね……」
「数十話ぶりのアレだね……」
「………(合掌)」
「ご、後生じゃ! それだけは勘弁を……うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――」


11/03/25 09:22更新 / HERO
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■作者メッセージ
第3部の連載開始となります!
タイトルが微妙なのはご勘弁をorz

ちなみに私の中でレティの順位が上がりつつあります。

感想いただけたら嬉しいです^^

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