連載小説
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No.03 寄生
 闇夜を照らすランプの光。

 屋敷内は少し不気味な明るさを保っている。

 そんな屋敷の廊下を一人のメイドが歩いていた。彼女はサキュバスより小柄な角や羽、尻尾を持つ“インプ”という小悪魔のような魔物娘。彼女が真っ直ぐ廊下を歩いていると、行く先の方向であるものを目にした。

「?」

 それはこの屋敷の主であるレンジェの護衛騎士セシウだった。彼女は頭だけ顔の表情が見えないほど俯き、こちらへ向かって来る。そして、メイドのインプの前で彼女は立ち止まった。

「セシウ様、どうされましたか?」
「・・・・・・」
「セシウ様?」
「・・・・・・こっちへ・・・」
「?」

 セシウに手招きされて、インプのメイドは彼女に付いて行く。彼女が連れてきた場所は誰もいない個室だった。セシウが彼女を部屋に入るよう指示する。

「・・・中・・・・・・」
「中?」

 彼女の妙な行動に、メイドは不信に思いながらも部屋の中へと入っていった。そこですかさず、セシウは彼女を突き飛ばして、部屋のドアを乱暴に閉める。部屋の中から何かの呻き声と卑猥な水音が響いた。

「・・・!・・・ぅ!・・・っ!・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・」





 一方、屋敷の厨房へとやって来たレンジェは、そこで料理を作る稲荷の紺と出会う。

「あら、レンジェ殿。まだ、晩御飯は出来ておりませんが・・・」
「今晩は何かしら?」
「今日は肉じゃがとほうれん草のおひたしです。怪我人の方もいらっしゃるので・・・」
「それは助かります・・・あっ、そうだ。紺さん、お水を貰えないでしょうか?」
「お水ですか? 少々お待ちください」

 彼女は金属トレーに氷水の入った透明な水差しとガラスコップを乗せて、レンジェに手渡した。

「シンヤさんが咳き込んでいたので・・・」
「ほぉ、シンヤ殿という殿方ですか。では、虜の果実でも差し出しましょうか?」
「い、いえ! 結構です・・・あの方は色々事情があるようで・・・」
「ニヤニヤ♪」
「もう・・・お水ありがとうございます・・・」

 紺に茶化されたレンジェは厨房から出ようとした時、ある不審なことに気が付く。

「そういえば・・・紺さん、メイドたちは?」
「それがおかしなことに、時間になっても誰も来ないのですよ。どこで油を売っているのでしょうね?」
「見かけたら言っておきます」
「すみませんねぇ・・・・・・全く、私一人で支度することに・・・」

 彼女が愚痴を言っている間に、レンジェは厨房からそそくさと出て行った。一人取り残された紺はぶつぶつと呟きながら包丁で材料を刻んでいく。その時、彼女は厨房の入口から別の気配を感じてそちらに目を向けた。

「おっ?」
「・・・・・・」
「はぁ・・・大遅刻ですよ?」

 そこに居たのは、乳牛の角と尻尾を生やした“ホルスタウロス”言われる魔物娘のメイド。彼女は顔を俯かせながらゆったりと厨房の中へ入って来る。

「他の人はどうしたのですか? 早く晩御飯を作らないといけないのに・・・」
「・・・・・・」
「・・・?・・・どうしたの? シーナ?」
「・・・・・・ニヤッ・・・」
「っ!?」
ガシャァァァァァァン・・・・・・





「それで、ジパングというのは東にある大陸のことなのか?」
「そうです。某もそこで生まれたジパング人であり、立派な侍なのです!」

 ベットで横たわるシンヤは、夢乃からジパングについて説明を受けていた。これにより、彼はジパングというものが、自身の世界にあった戦国時代の日本文化と似ていることを知る。

「侍というより、神社の巫女に見えるが・・・」
「この方が動きやすいのです!」

 服装について疑問に思うも夢乃に弁解される。

「まぁ、否定はせん。他人の趣向なぞ、気にする暇もない」
「それは同意できます。姫様のジパングかぶれは某も呆れるほどですから・・・」
「西洋の物の怪は、変わった趣向を持っているようだ」
「そういうシンヤ殿も少し変わった人に見えます」
「服のことか?」
「着物は別の世界から来たとおっしゃいましたから納得できます。某が気になっているのは、大人びた口調です」

 少女が口にしたことに、彼は黙って天井へ目を向けた。

「それも否定はしない」
「理由は・・・」
「好きに創造しろ。どう思おうが、誰も困りはせん」
「も、申し訳ない」
「謝罪しなくてもいい」

 そんなやりとりをしている時、両開きのドアからノックの音が響く。

コンッ、コンッ
「姫様?」

 夢乃は音の主がレンジェだと思い、ドアの方へ歩いて行く。扉を少し開けると、そこには顔を俯かせたセシウが立っていた。

「セシウ殿?」
「・・・・・・夢乃・・・来て・・・」
「は?」

 彼女の誘いに少女は扉を閉めながら部屋から出て行く。

「セシウ殿、顔色が悪そうですが・・・どうされ・・・」
「・・・ニヤッ・・・」
「!?」





 厨房から水差しとコップをトレーで運ぶレンジェ。彼女は少し薄暗い廊下を歩き、角を曲がって右側がガラス張りの廊下へとやって来た。ガラスの向こうは中庭が見えていて、月明かりが屋敷の廊下を少し明るく照らしている。

「ふん♪ ふふん♪ ふん♪ ふん♪・・・ん?」

 鼻歌を歌っていたレンジェは向こうからやって来る存在に気付いた。それは顔を俯かせたインプのメイドである。彼女はレンジェより、少し離れた地点で立ち尽くしていた。

「・・・・・・」
「チャル? そんなところで何をし・・・」
コツッ、コツッ、コツッ・・・

 インプの少女に歩き寄ろうとするが、レンジェの後ろからさらに足音が響いてくる。彼女が振り返ると、そこには褐色肌で耳がとがり、銀色の長髪をしたメイドが歩いて来た。彼女も顔を俯かせながらレンジェと一定距離を保って立ち止まる。

「クロナ?」
「・・・・・・」
(何・・・この娘たち・・・何かおかしい・・・・・・)

 レンジェは交互に二人を見つめた。彼女たちの様子はどう見ても明らかに不自然だ。見つめ合う数秒後、彼女たちは動き出す。

「「・・・ニヤッ・・・」」
「っ!?」
ざわっ!!

 突如、メイドの二人がニヤリと笑い、それと同時に彼女たちの背後から紫色の触手が複数現れた。それは弧を描いてレンジェに襲い掛かる。

「ふっ!」
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアン!!

 レンジェは手元のトレーを手放し、右側のガラス張りの窓を突き破って回避した。落ちて粉々になった水差しとコップを気にせず、彼女は中庭へと着地する。ガラス窓の突き破られた穴から、触手を生やした二人のメイドが遅れて出てきた。その目は意志を持たない曇った目をしている。

「チャル! クロナ! どうしたの!?」
「「・・・・・・」」
(正気じゃない! それにあの触手は一体・・・)





「ぐぶぅぅ!?」
「・・・あはぁ♪・・・」

 セシウの背後から出現した触手によって、夢乃の口は塞がれ、身体は大の字で縛られて宙吊りにされてしまう。彼女の目には意志がなく、狂喜の表情をしている。

「はぁぁぁぁ♪」
「ぐ!?」
ブシュ、ズルゥゥ・・・

 喘ぎ声とともにセシウの股下から触手が飛び出して来た。それはゆらりと遅い動きで夢乃の股へと向かう。

「むぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「あ・・・はぁぁ・・・」
ドガアアアアン!!

 突如、セシウの右側にあった両開きの扉の右片方だけが凄い勢いで飛んで来た。それは触手を伸ばすセシウに直撃し、拘束されていた夢乃が解放される。自由になった夢乃は嘔吐きながら、ドアの下敷きになったセシウを見つめた。

「げほっ! げほっ!・・・一体・・・」
「無事か!?」
「シンヤ殿!?」

 ドアを吹き飛ばしたのは、左手で右脇を押さえるシンヤだった。彼は夢乃の傍へ向かい、倒したセシウに目を向ける。彼女は両手を使ってドアを横へ退かし、鈍い動きで立ち上がった。

「セシウ殿! どうしたのだ!?」
「はあああ・・・はっ!」
「シンヤ殿!?」

 彼は右手に青い光を集めて一枚の札を創り上げる。それをすかさずセシウに向けて飛ばし、彼女を青い光で包み込んだ。

「あ゛がががががが!!」
「はああああ!!」
キィィィィン

 彼の掛け声でセシウの足元に青い光の五芒星の魔法陣が出来上がる。完成後、すぐにそれは円柱の光で彼女を包み込んだ。

「浄化結界! はぁぁぁ!!」
バシュウウウウウウウウ!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 眩しい光の後、セシウは床へ力尽きるように倒れた。背中にあった触手は消失し、服が破けて背中の肌が見えている。今までの光景を見ていた夢乃は、何が起きたのか解らず、彼に問いかけた。

「シンヤ殿・・・これは一体・・・」
「操人・・・」
「あやつり、びと?」
「妖によって穢され意識を支配された者だ。これが存在するということは・・・」
「まさか!?」
(奴が此処に居る!?)





 翼を使って上空へ飛び、メイド達の様子を伺うレンジェ。彼女も目の前の出来事に少し混乱しかけている。

(この辺りに触手の森はないはず・・・それにあの触手・・・もっと別な何か?・・・)
「「・・・ぁぁ・・・」」
(いけない!・・・落ち着くのよ! レンジェ! あの子たちを止めないと!)

 彼女は左手に魔刀:斬悦を出現させて抜刀した。飛んでいるレンジェに向かってメイドたちは触手を伸ばしていく。レンジェは臆することなく、捕らえようとする触手を切り刻んでいった。

「はああああああああ!!」

 二人の内、インプのメイドへ向かって、彼女は一気に間を詰める。右手に持った魔刀を回転させ、刃のない背面で峰打ちを狙う。メイドの首に当てようとした瞬間、彼女は目の前の少女の口から飛び出した触手で腹を突き飛ばされた。

「あぐぅ!?」

 弾き飛ばされたレンジェは芝生へ転がり落ちた。彼女はすぐに体勢を整えようとするが、四方から迫る触手を感じ取る。

(間に合わない!)
「炎車(えんぐるま)」

 不意に小さく響いた声の直後、二つの青い炎の車輪がレンジェの周りを回り飛び、触手を切り焦がした。レンジェが声の聞こえた方向へ目をやると、そこには淡い青色の光を纏う紺の姿があった。

「紺さん!?」
「いけませんね。従者ともあろう者が、魔王のご息女であるリリム様を穢すなど・・・」
「紺さん! 彼女たちは・・・」
「分かっております。少し、仕置きで眠って貰いましょう・・・前狐(ぜんこ)、後狐(こうこ)」

 彼女がそう呟くと、レンジェを守った二つの青い炎が狐の少女の姿へと形作る。それは稲荷の魔力によって誕生した“狐火”という精霊のような魔物である。彼女たちはそれぞれ触手を生やしたメイドたちに立ちはだかった。

「その無粋なものだけ燃やし尽くしなさい」
「「コンッ♪」」

 襲い掛かる触手を狐火の少女たちは次々と触って燃やし尽くしていく。その間に紺はレンジェの元へ行き、彼女の手を取って立ち上がらせた。

「お怪我はありませんか?」
「ええ、でも・・・あの子たちに何が・・・」
「誰かは解りませんが、その誰かによって穢されたようです」
「穢された? まさか・・・」
「気の毒です・・・まだ、想い人すら見つけてないのに・・・」

 レンジェはメイドたちが処女を奪われたことに激しい怒りを覚える。そんな彼女を見て紺はやさしく頭を撫でた。

「怒りに身を任せてはなりませんよ、レンジェ殿」
「紺さん・・・」
「此処は私にお任せください。レンジェ殿は他に無事な娘たちを助けに行ってください」
「はい!」

 彼女は元気よく返事をして屋敷の方へ向かう。残された紺は狐火と戦うメイドたちを悲しげな表情で見つめた。

「シーナだけでなく、この娘たちまで・・・それに・・・」
(この穢れ・・・どこかで見たような・・・)





 屋敷の廊下を素早く飛行するレンジェ。彼女は書斎のある部屋へと向かって行った。

(まずはヴィーラが居る場所へ!)

 彼女は魔法で位置を把握して、その場所へ急いで向かう。到着して両扉を開けると、大きな部屋の闇の中にヴィーラの人影を見つけた。

「ヴィーラ! 大変よ! 屋敷にしんにゅ・・・!」
「はぁ、はぁ・・・領・・・主さ、ま・・・」
「ヴィー・・・ラ?」

 そこに居たのは紫色の触手に巻きつかれる秘書の姿だった。一歩ずつ近寄るレンジェへ吸血鬼は必至に叫ぶ。

「お逃げ・・・はぐぅ!?」
「逃さぬ」
バタンッ!!
「えっ!?」

 レンジェの後ろの扉が乱暴に閉まった。もう一度拘束されたヴィーラの様子を見ると、彼女の背後に何者かが現れる。白い長袖のセーターに赤いロングスカート、腰まで伸びた黒髪の妖美な女性の姿が見えた。彼女は左手で秘書の顎を掴み持ち上げる。

「初めまして・・・白雪の姫君よ」
「・・・あなたね・・・メイドたちを襲った触手の主は・・・」
「いかにも・・・・・・最初に喰らった首の取れる女子や娘子たちは信じがたいほど美味であった」
(首の取れた? セシウまで!?)
「無論、この女子も・・・」
「ぐ、ああっ!!」

 ヴィーラは手足だけでなく、背中のマント羽も巻き付かれていた。そして、彼女の股にも一本の触手が突き刺さり、鮮血と透明の液体を滴らせている。

「なんてことをしてくれたの・・・」
「所詮女なら避けて通れぬ道。むさ苦しい男より、我に捧げる方が幸せよ・・・」
「断りもせず、問答無用で奪う奴の正論なんて聞きたくありません」
「流石、目を付けただけのことはある。気丈であり、淑やかな心を忘れず、振る舞う。そして・・・」
「・・・」

 触手の女性がレンジェへ見せつけるようにヴィーラの首筋を舌で舐めた。それに合わせてヴィーラの秘裂を突き刺していた触手が痙攣し、彼女の胎内へ白濁液を多量に注ぎ込む。

「うあっ! あっ! あぁ・・・」
「類まれない力を感じる・・・ここの女子やこやつと似た・・・いや、それ以上の・・・」
「あなた・・・何が言いたいの?」
「そなた自身が欲しい・・・残らず・・・全てを!!」

 拘束していた秘書を解き放つと同時に、女の無数の触手がレンジェに襲い掛かった。彼女は魔刀を取り出し、居合の構えで待ち構える。剣自体に魔力を溜め込み、それを引き抜くと同時に複数の桃色の光刃を飛ばした。

「はあああああ!!」
「!」

 飛来した光刃は、襲い掛かる全ての触手を切り刻んでいく。細切れにされた肉塊が床へと落ちて、煙を上げて溶けていった。そんな状況にも関わらず、触手の女は恍惚の表情でレンジェを見つめている。

「素晴らしい・・・これほどの力は初めて見る・・・」
「はっ!!」

 レンジェは飛行で一気に相手へ詰め寄り、今度は刃を向けて斬り付けた。しかし、相手は素早く真上の天井へ飛び上がり、張り付いたそこから扉の左側にある大きなガラス張りの窓の付近へ飛んで着地した。

「ふふふふ・・・」
「ヴィーラ、大丈夫?」
「・・・ぁ・・・」
「待っていて、あの女を・・・」
ざわっ!!
「えっ!?」

 倒れていたヴィーラの背中からいきなり複数の触手が飛び出す。それは驚くレンジェの手足、羽、尻尾に絡みついて動きを封じた。触手を出すヴィーラがゆらりと立ち上がる。

「なっ!? ヴィーラ!?」
「・・・あはっ・・・あははは♪」
「よくやった・・・しもべよ・・・」
「あ、あなた・・・ヴィーラに何を・・・ぐぅ!?」

 触手の一本が彼女の首をきつく締め上げた。あまりの息苦しさに魔刀が四散するように消失してしまう。ガラス窓から差し込む月明かりに照らされた触手の女は、拘束された彼女へ一歩ずつ近づいて行く。レンジェから3歩離れた位置で立ち止まり、不気味な赤い目を光らせながらしゃべり出す。

「我の手で犯された者は、しもべの種を植え付けたも同然・・・宿した種は瞬く間に芽を出す」
「!?」
「そう・・・その女子は最早我の指示無しでは動かぬ従順な蔓よ」
(触手を生やしたのは・・・体内に・・・・・・息が・・・)
「手早く済ませるとしようか・・・その真珠のような雪肌を味わわせてくれ・・・」

 女の赤いロングスカートの下から少し太めの触手がぬらりと現れた。それはレンジェの股下へ確実に向かって行く。

「がぁ・・・あ・・・やぁ・・・」
「案ずるな。そなたは我のしもべではなく・・・我の一部として扱おうぞ」
「め・・・ぐぅ!・・・」

 呼吸困難になり、尚且つ貞操と命の危機に晒されるレンジェ。

(いや・・・こんな・・・ことで・・・・・・絶対・・・いやよ!)
「ふふふふ・・・」
ドゴォォン!!
「ぬ?」
「!」

 轟音とともに書斎の両扉のドアが大きくめり込んだ。それに気を取られた女がそちらへ顔を向けた瞬間、ドアから鉄の錫杖が複数突き破ってくる。

ズガガガガガ!!
「むぅ!?」

 飛来した複数の錫杖は女に向かって行き、彼女は慌てて後方へ飛び退いた。ドアが突き破られ、今度は一枚の青く光る札がレンジェを拘束するヴィーラへ飛んで行く。張り付いた札がヴィーラに当たると、彼女の身体に電撃が走ったかのような衝撃が起きた。

「あがががががが!?」
「浄化結界!」
キィィィィィ、バシュウウウウウウウ!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 魔法陣の青い光に包まれたヴィーラが絶叫し、背中から生えていた触手が消滅する。拘束されていたレンジェが自由になり、片膝をついて着地した。彼女がドアのあった方に目を向ける。そこに居たのは右脇を左手で抱えるシンヤと刀を抜いた夢乃の姿だった。

「姫様! ご無事ですか!?」
「はぁ、はぁ、館が広すぎて疲れる・・・」
「夢乃! シンヤさん!」

 二人はレンジェの傍まで走り、彼女を守るように女へ立ちはだかる。レンジェは気を失ったヴィーラの様子を伺った。

「ヴィーラ! 大丈夫!? ヴィーラ!!」
「心配ない。奴の陰の気だけを祓った。身体に支障はない」
「よかった・・・」
「さて・・・数時間ぶりだな」
「確かに・・・お前が居ることは知っていた。こうまで早く来られるとは予想外だ・・・」
「言ったはずだ。俺に出会った時点で貴様はもう終わっていると・・・」

 歪み笑う表情を変えず、女は背後から触手を多数出現させる。レンジェも再度魔刀を手に取って構えた。

「貴様・・・短時間でどれだけ喰い散らかした?」
「十にも満たないが、腹が膨れそうなほど美味だった・・・」
「悪いけど、私の大切な友人達を勝手に食べないでください」
「よくもセシウ殿を・・・許さん!」
「覚悟は出来ているな? 妖・・・」
「お前こそ、そんな状態で我に勝てるとでも?」

 三人と一人が睨み合い、周りに威圧感を撒き散らす。
12/04/28 10:54更新 / 『エックス』
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