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第三十七話・リベンジ、リベンジ、リベンジ
魔物たちはアヌビスの提案で一先ず一番広い大教室へと移動した。
校庭で決起したものの、あまりに人数が増えてしまっていたため、目立ってしまうからである。
そこに集まったのは、人間44人に魔物85人。
実に129人の戦闘集団が集まった。
町の中にいる人間、魔物の数には足りないが、この決起に参加しなかった者、もしくは出来なかった者たちにはそれぞれの理由があった。
例えば、外出するにはあまりに目立ちすぎる種族であったり。
これはハーピーや、スライムなどが当てはまる。
例えば、怪我を負っていたりする者たち。
これはオアシス都市からの亡命者であったり、この日のクーデターによって傷付いた者が当てはまる。
例えば、戦いに不慣れであったりする者たち。
これには根っからの学者たちや、ダークプリースト、サキュバスが当てはまった。
それでも集まったのは心強い住民たち。
集まった人間はお尋ね者、飲み仲間、喧嘩友達、武人、世間的に見ればはぐれ者やならず者と言われても仕方のない面構えをした男たちである。
集まった魔物はリザードマン、ミノタウロス、アマゾネス、エルフ、同じ故郷のよしみでアカオニ、バフォメット、バフォメットに付き従う魔女などがおよそ人間に近い容姿を持つ種族が集まり、そしてこの集団に義を感じたドラゴン、ダオラが援護に加わった。
「えー、皆の衆、注目!」
壇上に上がったのはバフォメット。
アスティアが当初、奪還作戦の総大将に選ばれそうになっていたのだが、彼女がガラではないと辞退したため、バフォメットが急遽総大将として盛り立てられた。ちなみに彼女は背が低いので、壇上にさらにミカン箱を置いて、その上に立っている。
「これより、ワシらは修羅に入る!人と会えば人を斬り、鬼と会うては鬼を斬る!」
「バ、バフォ様、バフォ様!!」
「何じゃ、シタボクめ。」
「シタボクじゃなくて、魔女です!アカオニさんが微妙な顔してます!!」
バフォメットが壇上から見下ろすと、確かにアカオニたちが何だか微妙な表情をしている。
「おほん、言い方が悪かったのぅ。ではハッキリわかりやすく言ってしまうぞ!うちのお頭、ロウガの爺様を取り返すぞぉー!!!あんな鉄筋コンクリ頭のお堅いバカどもに、あんな楽しいジジイを死なせてなるものかー!!!」
「「「おーーーー!!!!」」」
大歓声が大教室に響く。
この声では目立ってしまっても仕方がないのだが、もはやここまで来ると彼らもコソコソ隠れて行動する気がなくなったらしい。
「つーわけで、作戦参謀!策を申せ!」
アヌビスが疲れ切った顔で壇上に上がる。
「大丈夫か、アヌビス…。」
バフォメットがその憔悴ぶりに心配して声をかける。
「大丈夫です…。一日に何度も世界にアクセスしたので…、少々魔力と体力の消耗が激しいようで…。」
「無理をするではない。お主あってのこの作戦じゃ。それにお主が倒れたら、学園長殿も学園長夫人も悲しむのじゃぞ。」
「ええ、では…、作戦指示が終わったら少しだけ休ませていただきます…。」
アヌビスはロウガ逮捕後、こうしてアスティアと共に人々が集まって以来、常にその魔力と能力を解放し続けていた。
ロウガがどこに連行されたのか、ロウガだけではなく、反魔物派集団がどこに集結し、どこに向かうのかなど小さなことまで世界とアクセスし続けた。その結果、彼女の体力を大幅に削り、バフォメットに支えられている。
「作戦を伝えます。一気にロウガさんを救出したいと思いますが、それだけでは彼らからこの町を取り戻すことにはなりません。まず、彼らがクーデターを起こすに当たって拠点とした建物を制圧します。戦力の分散は危険なことは重々承知しておりますが、同時展開すれば彼らの援軍が来る前に制圧出来るでしょう。本当でしたら…、私の能力を中継点に常時連絡を取り合えるように出来たら良かったのですが、ご覧の通りの有様です。ですから、各自連絡は狼煙や足の速い方を伝令として立て、連絡を取り合ってください。あくまで最終目標はロウガさんの捕らえられている牢獄です。作戦時間は夜が明けるまでに。短期決戦のつもりでお願いします…。」
それだけ言い終わるとアヌビスは膝を突いた。
限界である。
「よくやってくれた。これより具体的な方針を発表する!」
「お待ちください。」
人々の前に姿を現したのは、双子のエルフだった。
「お主たちは…。」
「はい、砂漠の民、砂漠の亡命者にございます。具体的な策を発表なさる前に一つやっておきたいことがございまして、無礼とは思いましたが、こうして参上させていただきました。」
「やっておきたいこととな?」
「はっ。それは…、こういうことでございます!」
双子のエルフは神速で弓を構え、矢を引き絞る。
そして振り向き様に、集まった人々に向けて矢を放った。
矢は、まさに神業と言わんばかりに人々の隙間を縫って疾る。
そして二本の矢はそれぞれ別の人間の喉に、心臓に、深々と突き刺さった。
即死である。
「おい、あんたら!?」
「心配無用。我ら姉妹、決してあなた方を天地神明に誓い裏切ることは致しません。これだけの人数です。間者が混ざっていたようで…。」
「ええ、同じ人間に混ざってうまく入り込んだようですけど…、彼らの臭いは鼻が曲がりますからね。」
傍にいた者たちが死んだ男の身体を改めると、衣服の下から教団関係者の紋章入りの服や、象徴とも言える小物が出てくる。
そしてそれと同時に大教室から数人が逃げ出そうとする。
「神妙になさいませ…。我が矢は復讐の刃。如何なる標的も逃すことはない。」
「神の慈悲とやらにお縋りなさい…。そして神様に会えたらお伝えくださいな。…ほっとけ、って!!」
正確に、無慈悲に二人の矢が猟犬のようにスパイを追う。
その最後は見ずしてわかるものである。
最後の一人が入り口の扉まで近付く。
男は助かったと心の底から安堵した。
扉に手を伸ばす。
だが、扉に手が届かない。
それでも伸ばす。
身体が前に進まない。
男の顔は汗と涙、恐怖と不安と安堵に染められている。
「助けて…、助けて…、神よ…。」
「…そうやって助けを請う者たちを、貴様は助けたことがあるのか?」
男の身体には巨大な鉄板と言える刃が突き刺し、床に突き刺さっている。
跳躍で男の上から降りかかったように大剣を突き刺したアスティアは、大剣の柄の上に立ち、男を見下ろす。
やがて男はゆっくりと呼吸が止まり、絶望的な笑いを浮かべたまま動かなくなった。
「…見事、である。さすがは歴戦の勇よな。」
ダオラがアスティアの元へ歩み寄る。
「…ご存知でしたか。そうでしたね、あなたは…、あの村の近くにいたのでしたね。」
「もしかしたら、子供の頃に我と出会うたこともあったやもしれぬな。」
ダオラとアスティアが笑う。
それに釣られる様に歓声が上がった。
一つは双子のエルフの見事な腕に、一つはアスティアの強さに。
否応なしに彼ら、彼女たちの士気は上がった。
「さぁ、皆の者、静まるのじゃ。これよりアヌビスが心血注いで作成した組割を発表するぞ。各自、これに従い組を作り、指示された策通りに町を奪い返すぞ。やつらに教えてやれ…、自分たちが誰に喧嘩を売ったのか!!!」
バフォメットの大号令。
後世にアヌビスの記した歴史書には、この時のバフォメットの姿と集結した人々の姿を残されている。


――――――――――――


「クックック…、大の大人がたった一人のジジイに五人がかりとは情けない。」
町に唯一の教会の地下牢にロウガは囚われている。
それもただの牢ではなく、魔導師たちが五人がかりで封印の魔方陣を形成する実に堅固な下法の牢である。
また鉄格子もただの鉄ではなく、儀式めいた文様と、特殊な金属によって作られた牢は彼にも破りえないものであった。
「まさか地下にこんなもんを作っていたとはな。」
魔導師たちは答えない。
むしろ答える余裕などない。
本来、この魔方陣を以ってすれば、対象者は口を利くことも、物を聞くことも、指一つ動かせない最悪な拘束魔方陣なのだが、ロウガにはあまり効いていない。手錠は当たり前として、足枷も付け、さらに一人ではまったく効果がなかったため、この町に潜入していた魔導師全員でかかって、やっとロウガを身動き出来ない状況まで漕ぎ着けたのだ。
やはり、平行世界から来た彼には効果のある物の体系が違うのかもしれない。
「ふん、貴様のような男がワシと同年代だとは…、何とも恥ずかしい。」
そう言って口を開いた騎士風の男、コーネリア=マストーラは鞘に収めた剣で肩を叩きながら毒付いた。
コーネリア=マストーラ、45歳。
教会騎士団においてもっとも屈強な男。
無類の戦好きで、自称一騎当千の教団騎士団において本物の実力者。
しかし、その性格に問題がありすぎたために、それなりの身分しか与えられず、教団本部に詰める騎士団員と違い常にどこかに派遣、もしくは左遷されている平和な時期にはもっとも用がない男である。
「前々から人間の女や魔物たちがどこかに売られている、なんて都市伝説があったが…、まさかその現場がこの町にあったとはな…。」
「あんな穢れた者どもでも教団の良い資金源となったわ。」
「クックック…、違うだろ?教団じゃない、お前の懐にだいぶ入ったんだろ?」
静かにロウガは怒っている。
だが、ここでキレて大暴れするのは構わないが、それではアスティアたちに不利になるとジッとロウガは耐えていた。彼の聞いた都市伝説の最後は売られた女たちは最後はどこぞの金持ちの奴隷になるか、屈折した性の嗜虐目的での拷問を受け死んでいくという彼にとって反吐が出る内容。おそらく、いくらかの嘘が混ざっているだろうが、ほとんどが真実だろう。
「だが、例え真実を知ろうと所詮貴様は明日までの命よ。」
「知りたくないがね。なるほど裁判にかけるなどと言っておったが、予想通り過剰処罰か。俺の妻の方が実に公平に裁いてくれるね。」
牢の中を動かせるだけの目でロウガは見渡す。
薄暗い牢の中には爪で引っかいた跡と思える傷や、血が滲んでいる。
捕らえられた彼女たちは必死で脱出しようとしたのだろう。
ロウガはそれに気付かなかったことに胸を痛めた。
「すまんが、年寄りの最後の願いだ。どうせ、裁判の後はすぐに首を刎ねられるんだろう?妻や娘に遺言を残したい…。悪いが近くまで寄って書き残してくれないか…。見ての通り身動きが出来ないんでね…。」
「ふん、まぁ良かろう。」
どうせ伝えはしないのだ、とコーネリアは腹で思いながら牢に近付く。
「コ、コーネリア殿。牢に触れるのは危険です!鉄格子に触れれば忽ちあなたもこの拘束魔方陣の餌食となりますぞ!」
「…なるほどな。ではここで聞いてやろう。何を言い残す。」
「それはな…。」
そう言い掛けてロウガの身体が跳ね上がる。
脚で跳んだのか、腕で跳んだのか、よくわからない方法でロウガの身体が跳ねる。
拘束魔方陣の中で動けないと安心し切っていたコーネリアはただ何が起こったのかわからないまま、呆然としていた。
「これだ!!!」
足枷の付いていない右足が鉄格子を擦り抜け、コーネリアの顔面を直撃する。
「ぶへあっ!!!」
「コ、コーネリア殿!?」
さすがに魔方陣の影響か、ロウガの蹴りはコーネリアの命を奪うまでには至らなかったが、それでも彼の顔面には彼の足の形そのままの痣が屈辱的に張り付いていた。
「クックック…、その顔を晒せば妻も娘も俺の言いたいことがわかるぜ!」
獄中のロウガの反抗もこれが最後。
動ける体力を彼は使い果たしてしまった。
「こ、殺してやる!!!!」
コーネリアは剣を引き抜き、牢に入ろうとする。
「い、いけません!これだけの魔方陣に入ればあなたが死んでしまいます!」
「ほらほら、かかって来いよ、玉なし!魔方陣が怖くて、ママのおっぱいが恋しいか?」
「き、貴様ぁぁぁぁぁーっ!!!!」
「い、いけません!いけません!!」
結局コーネリアは引き下がった。
しかし、明日の斬首は自分がやると息巻いて帰っていく。
そして魔導師の眠れぬ夜はまだ続くのである。

この時、ロウガは知らなかった。
まさか町中が彼を助けようと動いていたことなど…。
10/11/04 23:53更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
奪還作戦序章です。
長かったですが、如何だったでしょうか?
リクエストキャラもドシドシ出していきますので
楽しみにしていてください。

まだまだリクエスト募集中。
最後になりましたが、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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