読切小説
[TOP]
寄生住の日々
「時雨先輩、おはようございます」
「ああ、おはよう、ブリュンヒルデ」

気まずい。
彼女は同じ大学の、文芸同好会の後輩の ブリュンヒルデ・ブルーフレア。
ダークヴァルキリーである。
気まずいのは先日、自分に告白してきたのをフッたからである。

彼女と顔を合わせると何とも言えない気持ちになる最近。
フッた直後の彼女の彼女の泣き顔を見てしまったせいだろうか。
ただ、こうして彼女は恐る恐るとだが自分との接点を持ち続けるあたり、彼女『も』感情の整理がついていない様子らしい。




「先輩、奇遇ですね、今お帰りですか?」
「あぁ......」

帰り際にブリュンヒルデに捕まった。
なんでこいつはいつもいつも自分に構ってくるのか......。
まぁ、理由なんて一つしかないが。

「あーもう、なんでお前はフッた男と一緒に帰る気なんか起こすかね......」
「えへへ......もしかすると起きるかもしれない『間違い』に賭けてみようと思いまして」

ゴォォォォォ......

「......縁起でもないことを言うんじゃないよ...」

お前はちょっと重いけど、いい子なんだから。

ゴォォォォォ......

「ほら、こっから道は別々なんだから、じゃな!!」

ゴォォォォォォォ!! キキーッ!!

「先輩!!!!」

ドゴンッ!!!

俺は青だった歩行者信号を渡った瞬間。
信号を無視して突っ込んできたワゴン車に正面から衝突されたのだ!!

「先輩ッ!! 先輩ッ!! しっかりしてください!! 君仁先輩!!」

...こっ、こいつ、こんな時にさりげなく名前呼びなんかしてんじゃないよ......

薄れていく意識の中、最期にそんなことを思ったのだった。







どれくらい経ったのだろう。
永い眠りから覚めたような感覚から、抜け出したような感覚を覚える。
なんだか体の調子が変だ、いやそれもそうか。
交通事故に遭ったんだからな......。
でも、全身粉々っていうよりは、なんか違う感覚......。

「先輩っ!! 気づいたんですね、よかった...っ」
「ああ、ブリュンヒルデ......心配してくれ...て.........

なんじゃこりゃー!!!」

目の前にいるブリュンヒルデは、巨人のような大きさになっていた。
慌てて飛びのこうとするとそれは叶わなかった。
それもそのはず......

「なんで!? なんで俺がブリュンヒルデの左手から先になってんの!?」

週刊少年日曜の『美烏の日々』のような状態になっていた!!

ようは、後輩・ブリュンヒルデの左手首から先が自分の上半身になっているのだ!!
まるでパペットとしてブリュンヒルデに填められているような絵面である。

「おっ、目覚めたんですね」

俺がパニくっている間にブリュンヒルデがナースコールボタンでも押していたのか、ダークメイジの医者とダークプリーストの看護師たちがやってくる。

「運がよかったんですよ、本来なら即死レベルでも、今回は奇跡的に息があったりね。たまたま搬送先のこの病院に超魔術『生体融合法』の使い手がいたこと、それにお嬢さん......ブリュンヒルデ嬢があなたの肉体と魂の同居先として名乗りを上げてくれたことで一命をとりとめることできたんですよ」

生体融合って......たしかキマイラを作るときの技術を解析して得られた魔法ですよね。
講義で習いました。

「っていうか『間違い』が起きるかもって言った直後に本当に間違いが起きてんじゃねえか!! 神様もお前にばっかり味方しすぎだルルォ!!」
「先輩......私が仕組んだとは思わないんですか......?」

自分の発言にビクビクしながら返しを入れるブリュンヒルデ。

「当たり前じゃ、ダークとつく魔物娘は暗黒面に落ちてるわけじゃないし、第一、お前はそんなことをする悪い子じゃないのは、それなりの付き合いがあるから知っている」
「先輩...!」ぱぁぁっ
「おっ、やっと笑ったな」

さっきまで泣き出しそうだったかんな、こいつ。

「で、退院のほうですけど、今日にでも退院できます、くっついたまんまですけど」
「うん、みりゃ分かる」
「それで、今後の治療法ですけど、魔法的再生医療で肉体を再建できます。一年かそこらでとはいきませんけど」
「うん、だいたい予想はつきます、ねっ先輩?」
「うむ......」

ブリュンヒルデが自分の頭(左手首?)を撫でてくる。
母親と触れ合ってる子供か俺は。

「詳しくはパンフレット一式お渡ししますので、それをご参考に」

医者から受け取ったパンフレットをブリュンヒルデが片手に病院を後にした。


「......時間が過ぎて冷静になるとわかるが......えらいことになったしまった」
「私は大丈夫ですよ? 先輩と四六時中一緒にいられるんですから......♥」
「まぁ、体を共有してるからね......」

冷静に考え続けて気づいたことがもう一つ。

「お前さ、いくら自分をフッたとはいどまだ好き相手とはいえ、よく自分の体に寄生させる決心なんてついたな」
「愚問ですよ先輩、先輩が思っている以上に魔物娘は往生際が悪いですから」

そう笑いながら彼女は俺のほっぺをつついてくる。
母親にあやされる子供か!

「さぁ、これから忙しくなりますよー、いろいろと手続きしないといけませんから」

そう言って四枚の翼を広げて空へと舞い上がるブリュンヒルデ。

「えっ、飛んで帰るの?」
「地上を歩いていくより安全ですよ? はい、しっかりつかまってくださいねー」
「いや、俺お前の手首だから!!」






「さて、パンフレットによると、俺はお前の体に寄生している状態のようだ」
「パンフレットに書いてある通りに試してみて、普通の手首フォームにも戻れるみたいですね」
「寄〇獣のミギーだな.....。左手だからヒダリーか」

そう言って俺は彼女の左手へと変身する。
変身した状態でブリュンヒルデは手をグーパーグーパーと開いて閉じる。
手になっているときは俺は会話できない......かと思いきや。

【 この状態ではテレパシーで会話できるようだな...... 】
【 よく練られて造られてる魔法です...... 】

俺は手を俺フォームに戻そうとした。

「あっ、あれ?」
「......これは驚いた...」

なんと『右手』が俺フォームになってしまった。

「どうなってんだ...?」
「意外とどこからでも出れるのではないでしょうか、これ...?」

両手を見比べているブリュンヒルデ。

「よし、試してみるか」
「えっ?」

そう言って俺は右手から引っ込む。
次に変身したのは......

「キャアッ!!! なんでおっぱい!?」
「フゴゴゴゴ.......」

俺は彼女の左乳房から変身しようと試みた。
すると、左乳房から俺の頭部前半が浮き出たではないか。
(後頭部が彼女の胸部とつながっている)

慌てて上半身裸になるブリュンヒルデ。

「そこ行くなら一言言ってくださいよわぁぁぁーん!!!」
「ごめん。じゃあ次に行くぜ」
「へっ!?」

俺は左乳房から引っ込むと、次に出たのは......

「なんでお尻に行くんですかー!!」

今度はブリュンヒルデの右の尻たぶに。
右の尻たぶが自分の顔が浮き出ている。

あわあわしながら下着とスカートを下ろしたブリュンヒルデは、とうとうわんわんと泣き出した。

「ひどいですひどすぎます、こんなに恥ずかしい目にあったら本当にお嫁にいけなくなっちゃうじゃないですかー!!」
「ごっ、ごめんよ、好奇心には勝てなくて......」

全裸で泣きわめくブリュンヒルデの左手首に戻ってなだめる。

「ただじゃ許しません!! 先輩がセ・キ・ニ・ン、責任取ってお嫁にもらってくれないと許しません!!」

わかってますよ、自分の命のために体を提供してくれたんですもの。

「わかってるって、今約束する、この私、時雨君仁は。命の恩人であり、愛すべき後輩であるブリュンヒルデ=ブルーフレアと生涯添い遂げることをここに誓います!」
「ぶー......ならいいんですけど......」

眉間にしわを寄せて左手の自分を睨む彼女。

「結婚するならこれ、やっとかないとダメですよね」
「『これ』?」

そう言ってブリュンヒルデはキスをしてきた!!
俺が手首サイズしかないために、彼女の唇は俺の顔半分に密着する。

「ぶはっ、ぜぇっぜぇっ......」
「お返しも兼ねてます♥ これでおあいこってことで」
「今後はやりませんよ、さっきみたいなことは......」

そういって彼女の顔に手を伸ばす。
こうして奇妙な同居......寄生生活が始まった。





大学に行くと既に噂になっており、
『噂の体格差ありすぎるカップル』として、キャンパス新聞まで作られていた。

彼女の左手にいながら新聞を読んで苦笑した。
これに限らず、どこかへ行くときは彼女の左手が自分の定位置であり、大学もそのフォームで通学していた。
彼女が両手を使う作業時は左手から引っ込み、腹部から浮き出ながら服の外の様子を伺っていた。

自宅の方は自分が住んでいたアパートを引き払い、彼女の住んでいるマンションへと荷物を引っ越してきた。
こんな状態なのでだいたいのものが使えないため、ほとんどが売られたり譲ったり処分したりしたが。

寄生主の彼女はというとこんなのでも結構充実しているらしい。
男女が一体となったことで、自分のパーツが生成する精が彼女の養分となり、彼女の魔力が自分の養分となり、以前より少食になったらしいが。







「せーんぱーい♥ 今日もシましょう?」
「はいはい......」

ブリュンヒルデは後背位のたいせいでベッドへ四つん這いになる。
その状態で、左手に陣取っている俺を、腹側から左腕ごと女陰に向ける。
俺は左手状態のまま、元の体の股間にあたる部分を意識する......。
すると、左手フォームの俺の股間にあたる部分から、元の体のサイズでのペニス(玉付き)が発生した。
いろいろ試しているうちに会得した能力である。

「挿れるよ......」
「いや、俺は手首から先だから挿れるのはお前じゃん」

一応、動くことはできるけど。

「くっふう......っ」

ゆっくりと女陰に沈み込んでいく......
ペニスは等身大でも、体は手首サイズなので、尻の谷間に体が埋まる。

ぺろっぺろっ...

腰(?)を振り出すと同時に、ブリュンヒルデのアナルの皺を一本一本丁寧に舐めて愛撫する。

パンッパンッパンッパンッ

腰?を振っていると早くも催してきた。

「イクぞ......お前もイケよっ!?」
「イキますイキます......イックゥ!!!!」

寄生主の体に大量の精液を吐き出す......
こんな体でも性行為は問題なくできる(ようになった)あたり、魔物娘の技術には底がないと思い知らされるのだった......。






ある日病院に定期健診に行くと。

「そろそろ分離ができる時期になってきましたねー」

医者がそう言った。

「分離......ですか」
「はい、寄生主の全身と融合している部分を子宮に結集させて、新生児状態で体外へ出すっていう方法を用います。それからは一年で事故前の状態にゆっくりと戻っていくことになるんですが......」
「「が?」」

医者は一息ついて口を開いた。

「分離することを望まない患者さんと寄生主もいるにはいますから......」
「あぁ、なるほど......」

一部の魔物娘が反応しそうな話である。
『アンデッド界の火の玉女』ウィル・オ・ウィスプさんとか、
『魔物娘界のヤンデレ筆頭』白蛇さんとか。

「2〜3日後にもう一回来てください、そんで次にくる時までゆっくり話し合ってみてください、それからでも分離措置を取るのは遅くはないですから」

そういわれて、俺たちは病院を後にした......




病院からの帰り道。いや、帰り飛行中。

「先輩は、また自分の足で歩きたいですか?」
「まだわからん......分離できるまで回復するとは思わなかったからね。そういうお前はどうなんだよ」
「..........」

ブリュンヒルデは無言で、近くの公園へ着地した。

「本当にぶっちゃけてもいいですか?」
「いいよ、いいなよ」
「本当に怒らないですか」
「いいよ、いっちゃいなよ」
「私は......

......このままがいい、です」

割と予想いていた範囲の回答だった。

「そうかー、そっかー」
「......やっぱりそういう反応なんですね」
「んっ? ダメ?」
「ダメとは言ってません!!」

公園内をぐるぐる歩き回っているブリュンヒルデ。

「一晩くれないか? そして明日、もう一回病院に行こう」
「......わかりました」

そう言って彼女は再び空へと舞い上がった。

たぶん、悪い方に捉えてるかも。
こうなるまでの経緯を考えると。





「決断はできましたか?」
「できました。

 このままで」

この言葉にブリュンヒルデは信じられないと言わんばかりの表情をする。

「......やっぱりそうなりますよね」

医者はある程度予想できていたようだった。

「まぁ、そうなればあとは病院の世話になることもないでしょう。末永く仲良くやってくださいませ〜」

そう言われて診察室を出る。

「本当にいいんですか? 私に寄生しっぱなしで」
「いいったらいいの! お前の意志を尊重して、これまでの恩とかもろもろを考慮して、そこに俺自身の考えを加味して出した結論だからね」
「本当にいいんですね? 私にお婿に来るってことですよ?」
「いいったらいいの、お婿にだっていっちゃいます!! 三度は言わないぞ〜」

感極まったのか、左手に陣取っている自分を抱きしめるブリュンヒルデ......
苦しい、おっきいおっぱいに顔が埋まって苦しいです。
......自分で呼吸できなくとも、彼女から酸素とかを血液を通してもらってるから死にはしないけどね。

自分のハグから解放すると、スキップして病院を後にしたブリュンヒルデ。

「正式にお婿に来てくれるならこれからは遠慮しなくていいですね♥ 今晩は寝かせませんよ〜♥」
「そう言ってこれまでだって毎晩寝かせてくれたことないじゃない」

天高く舞い上がった衝撃で最後まで言えなかったが、これはこれでいい。

神をも味方につけた乙女には、男は勝てないのだからね。















8か月後

「妊娠8か月、順調に育ってますねー」
「もうちょっとで俺もパパかー、『なんでパパはママの手首から生えてるのー?』って聞かれたときの解答を用意しておかないとなー」
「まだ大丈夫じゃない?」

ある日の産婦人科。
そこには長かった銀髪をバッサリショートボブにしてしまったブリュンヒルデと、相も変わらず左手に陣取っている自分がいた。

ちなみにデキてしまった後で、手首にチンコが生えたような状態でもしっかり機能していると産婦人科医に呼び出された自分の担当医に説明された。
もっと早く言え。

ブリュンヒルデが逆らわない限り、腕ごと動かせるようになっており。
動かした腕を全部使い、『全身』で子供が宿り膨れた腹を抱きしめる。

「早く産まれてきてねー♥ そうしたらパパとママが仲良しなところを見せてあげられるからね♥」

一度フッた男を助けるために自分の体へと寄生させ。
その寄生男の子供を孕んだこの愛すべき後輩の母性はとんでもないものがある。

あぁ、これからの人生、どれだけ子供ができちゃうのかしら。
そう思っていると、腹の中の子供が動いた。

はーい、パパはここですよーとお腹を軽ーくノックした。
そうすると中からトントントンっとノックが返ってきたのだった。
18/04/28 00:40更新 / 妖怪人間ボム

■作者メッセージ
ドーモ、いつもより変態度マシマシの妖怪人間ボムです。

古本屋に行ったら、懐かしの『美鳥の日々』と『寄生獣』が並べて置いてあったせいでこの話が産まれました。
あれですか、吉良吉影でも召喚するつもりですか。
ボンバーのサーヴァントとかで(ほかにだれか該当するんだ)。

ヒモってレベルじゃねーぞーって寄生男ですが、どうなんでしょうね魔物娘的には。
劇中でも触れている通り、白蛇さんは泣いて喜びそうなイメージがあります......。
逆にキキーモラさんはいい顔しなさそう、怠け者を食べちゃう(比喩)し。

次回はどうなるかはわかりませんが、少なくともこれよりは変態度は低いはずでしょう。
それでは〜。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33